Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

憧れのひと

2011/05/05 03:45:18
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皆、おかしいと思うだろうがどうか気にしないで欲しい。
そこに霊夢とアリスがいて二人が幸せに笑っている。
それだけでいいだろう?
…まぁぶっちゃけロリスがあるならロリ霊夢もあってもいいと思ったんだ。


まず最初に。
このSSはとある神文士様のアイデアをアレンジし(もはや完全に改悪)し作成したものです。
「霊夢(幼少時)がもし人里に住んでいたならば」と完全にオリジナルですのでご注意ください。
説明不足感がありますが脳内変換を駆使することによって新たな世界が開けるかもしれません。
霊夢が幼いです。でもアリスはそのままです。妖怪ですし。
以上、長々と説明でした。





どこかで小鳥のさえずりが聞こえる。遠くにガヤガヤと朝市の喧騒、近くにサラサラと小川のせせらぎ。
温かくて柔らかな感触が体を、優しくて眩しい光が私を包んでいく。まどろんだ朝の匂いが漂ってきて。やがて私は―――。

「…ふぁぁ」

冬の冷たい空気が詰まった部屋の中、あくびをあげて布団から這い上がる。捲れた毛布から冷たい空気が入り込んで背中やおなかをちくちくと刺激する。ぼさぼさの頭は朝の空気に触れて段々とはっきりしていく。再び出そうになったあくびをかみ殺して、

「…おはよ」

誰もいない寝室にポツンと一言。
今日も一日、私の生活が始まる。





私の名前は博麗霊夢。歳と体重は秘密。髪の毛は純日本人らしく黒色で瞳は赤茶色。好きなものは熱いお茶と香ばしいお煎餅で嫌いなものは出がらし茶と湿気たお煎餅。職業は、巫女。それも只の巫女じゃない特別なもの。
その名もずばり博霊の巫女。…そのままだけど。普段は神社に陣取って、悪い妖怪や怪しい人間、異変を起こしたおバカさんをデコボコに…じゃなかった、ボコボコにする、つまりは異変の解決をして報酬を貰うのが私のお仕事。実際はもっと難しい仕事らしいけど、そんなもの気にしたって何がどう変わるわけじゃないし全然気にしないことにしている。博麗の巫女はとても大事な存在で皆からは崇められているそうだけど私はまだ大人とは呼べないし、先代の博麗の巫女にあった様な威厳も全然無いから里の皆からは「霊夢ちゃん」とか「お嬢ちゃん」って呼ばれてる。けど、将来は立派に「博麗の巫女様」って呼んでもらうんだ。そのためにも毎日を頑張らないとっ。

「とりあえず…かお、あらおっと」

冷たい井戸水で顔を洗ってきれいさっぱり。いつもより少しだけ早めに朝ご飯を食べる。お米とお味噌汁と小魚の焼き物。まだまだ神社には信仰がなくてお賽銭だけじゃ生活できないから、色々と周りの人たちに手伝ってもらっている。お魚は近所の魚屋のおじさんから貰ってるしお米とかお味噌も近所の農家のお爺さんから分けてもらってる。食材はほとんどが貰いものだけど、調理だけはちゃんと私がやってる。…当たり前か。
ご飯がおいしく感じるのは毎日を精一杯頑張ってるからってよく聞くけど、私は何時もご飯がおいしく感じるからきっと頑張ってるんだ。多分。とりあえずそんな風に完結させながらご飯に箸をつけて行く。今日の朝ごはんは何時もよりちょっと豪華。近所の農家のお爺さんから「霊夢ちゃん、ウチの自信作だよ!」って貰ったお野菜のサラダ付き。自信作と言うだけあってどれもこれも瑞々しい。薄い野菜だって良く噛んで飲み込む。食べ物にも八百万の神様が宿ってるんだからご飯はいつも大事に、感謝して、よく噛んで食べないといけないって私は知ってるんだ。

「ごちそうさまでした」

食器を流しに浸ける。水を通して冷たい感覚が背筋を上ってきて、くしっと小さくくしゃみを一つ。思わず一人で恥ずかしくなってしまった。

「…よしっと、お着替えして」

白い寝間着を脱いでいつもの赤い巫女服を頭から被る。続いてフリルのたくさんついた、これまた真っ赤なスカートと真っ白い袖を身につける。真っ赤と真っ白の混ざった巫女服の色は紅白って言っておめでたい色らしい。でも、肩とかお腹とか腋とかちらちらと肌色が多い気もするんだけど…。何時も思うんだけどどうしてこの博麗の巫女装束って腋の所がぱっくりと空いてるのかな。霖之助さんが言うには何代も前からこのデザインらしいけど…慣れてると言っても少し恥ずかしい。夏は風通しが良いし涼しくて楽なんだけど、秋は木枯しが吹くと腕が鳥肌ででこぼこになっちゃうし、真冬の雪が入り込んだら寒くて寒くてたまらないのに。腕を上げたら日焼けの少ない真っ白けな腋が全部丸見え。まだ産毛ですら生えてないけどなんだか落ち着かない。こんなのだから近所の子から「腋巫女ちゃん」なんて覚え方されちゃうんだ。

「勝手にふさいじゃだめかなぁ…」

何時もの流れ作業で首元を黄色いリボンで軽く閉める。
…もう服が小さくなってきたのか、少しだけ息苦しい。この間変えてからまだあんまりたっていないのに…成長期ってやつ?今度また霖之助さんに作り直して貰わないと。腋のことは…まぁその時にでも聞いてみよう。
姿見で自分の身だしなみを整えてその場でくるりと一回転。袖やスカートがふわふわと宙に舞い、長めの黒髪と大きなリボンがゆらゆらと揺れる。うん、頭のてっぺんから足の爪先、胸周りまで全く変わらない何時も通り!……はやく胸大きくならないかなぁ。

「…揉んだら大きくなるってほんとかなぁ。もしそうなら今度魔理沙にお願いしてみよっかな?」

いや、だめだめ、病は気からと言う。余計に意識するから何時までも小さいままなんだ。私のモットーは何にも囚われないことなんだしこのくらい気にすることも無いよね。うん、こんなの気づいたら大きくなってるに決まってる!…うん、決まってるよ。
玄関先で靴を履き、もう大分古くなったマフラーと手袋を着けたら準備完了。

「んぅ…今日も寒いけどいい天気!」

扉を開けると身を切るような風がぶわっと吹いてきていまだにボーっとしている頭をたたき起こしてくれる。よし、今日も一日お勤め頑張ろう!





「おう!おはようお嬢ちゃん!」
「あ、おじさんおはよ!」
「あらあら霊夢ちゃん、今日も元気ねぇ」
「元気じゃないと博麗の巫女はできないよっ」

今日もみんなは元気に挨拶してくれる。それらにきっちりと返事をしながら神社への道のりを進んでいく。
何故、私は神社じゃなくて人里に住んでるのかな。本当なら博麗の巫女は神社で寝泊りをするのが基本のはずなんだけど、私はまだ小さくて一人では無理だと判断されたから人里に住まわされてるらしい。別に身の回りの世話が私一人では無理とか、寝ていたら夜中に悪い妖怪がやって来て私のことを頭からバリバリと食べてしまうとか、そういう訳じゃない。不思議ではあるけど、そこのあたりは大人の人たちに一任してるし私は早く一人前の巫女さんになれるように頑張ればいいんだよね。
まだ朝の騒がしさに包まれてる市場をまっすぐに進んで目的地の神社に一直線…と思いきや私は途中で大きくコースを変更した。神社に一直線で行くなら市場を真っ直ぐに突っ切って雑木林をすり抜けてしばらく小山を走り抜けるだけでいい。でも、今の私はちょっと違う道を使っている。最近は神社にまっすぐ向かうことが減ったように思う。
市場の途中にある分かれ道を左に曲がり少し細くなった道を奥に進む。しばらくすると、周りの家よりも頑丈そうな建物が見えてきてたくさんの話し声が聞こえてきた。そこにはあんまり大きくはないけど、いつもたくさんの子供の声で溢れてる寺子屋がある。朝も早くからきゃいきゃいと楽しげな声が聞こえてくるけど、今日のものはいつもよりも大きく、いつもより楽しげな感じ。ワクワクと聞こえて来そうなほど嬉しげな声はこれから起こることを楽しみにしてるみたい。一体なんなのか。何があるのか私は知ってる。

私が最近いつものコースを変更するようになったのもこれのせい。

「ねぇせんせいまだー?」
「ん?時間的にもうすぐだろう。…よし、みんな外に出て行儀良く並ぼうか」
『はーい』

先生の号令に合わせて小屋の中からぞろぞろと子供たちが出てくる。見るからにおめでたい巫女服を着た私は場違いみたいで何だか恥ずかしいから、そこから少し離れたところにある大きな木の幹の近くに移動して、その影から顔をちょこんと出して観戦することにしてる。私専用のいつもの指定席。少し遠いけど、このくらいあの人を見るためなら気にならない。

「あっ!せんせい、きた!」

来た。

「あらみんな、待たせてしまったかしら?」

女の人が、来た。
赤いカチューシャと青い洋服を風に揺らして歩いてきた女の人。

「ぼくもうまちくたびれたよー」
「なら今日は疲れも吹き飛んじゃうくらいのを頑張るわね」

綺麗な金色の髪を手櫛で整えつつ蒼い目を揺らす、女の人。
大きなかばんをひょいと持ち上げて荷物を広げる、女の人。
柔かに微笑んで子供たちの頭を優しく撫でている、女の人。
初めて見たときからずっと頭から離れてくれない、女の人。

「こらこらおまえたち…」
「あら、いいのよ。私も楽しませてもらってるからね?」
「いつもすまないな、アリス」
「…っ」

私もああなりたいと願ってやまない。私の憧れる、お姉さん。

名前を正確には知らない。寺子屋の先生と喋っているときに偶然アリスとは聞いたけど、もしかしたら間違っているかもしれない。風にたなびく綺麗な金色の髪の毛を真っ白な手で掬い上げて優しくて、柔らかい笑みを浮かべるその表情を見ただけで体中が何かわからない何かに支配されたみたいで。
私はいつも息を止めてあの人を見てしまう。





初めてはただの偶然。ただいつも通り家を出て神社にまっすぐ向かっていたとき、何てことない気まぐれで道を変えて進んでいたら偶然に見つけた。ただそれだけ。

「じゃあみんなお待ちかね、お人形劇を始めるわね?」
『わーい!』

そのときもこうして人形劇を披露していたのを覚えてる。普段は見向きもしないお人形遊び。立ち止まって見たのも気まぐれみたいなもの。どうせ私たちを騙すような、文字通り子供騙しのお人形遊びを披露するんだろうって、そう思った。
でも、違った。遠くから見てもまるで生きてるみたいにうねうねくにくにとせわしなく動き回るお人形たち。そんなかわいいお人形たちが繰り広げる楽しいおとぎ話に子供たちは興味津々で食いついて。王子さまがお姫さまを助けたり、悪い魔法使いをやっつけたりするたびに大歓声を上げてはしゃぎまわる。私も最初はそうだった。かわいいお人形がまるで生きてるみたいに動いて、語り部に合わせて物語を進めていく様子はとってもすごかった。でも途中からは違ってた。かわいいお人形も、はらはらする物語も、全部蚊帳の外。
アリスと呼ばれたそのお姉さんの語る物語よりも、本人の紡ぐ話し声の方に食いついてた。
いつの間にか、くるくると動くお人形たちよりもそれを操ってる指先をじっと見つめてた。
そして、優しげに、でもお話にあわせてクルクルと楽しげに変わるその表情に見とれてた。

「…わぁ…」

気が付くとそのお姉さん自身に釘付けになっていた。
人形劇が終わって、笑顔で挨拶してお菓子を配って、人形たちを引き連れて帰った後。大体10分くらいしてからやっとはってなって、慌てて神社に行った。
その日はもうだめ。なんにも手がつかないって感じ。お掃除もうまくできないし、修行も空回りして、おやつのお煎餅は炙ってたら焦がしちゃったし。もう全然だめだった。師匠として来ていた八雲の妖怪さんにため息までつかれちゃって、軽く凹んだのを覚えてるや。

そして、次の日も気が付いたらいつものコースを外れてた。もしかしたら会えるかなって頭の隅でずっとくすぶってて。一回見ただけなのになんでこんな気持ちになるんだろう。
でもその日はお姉さん…アリスは来なかった。見た感じ人里には住んでいないみたいだったし、毎日ここに通うわけにも行かないんだろうなって納得したけど、心のどこかでそれをひどく残念がってる私がいたのを覚えてる。
気が付いたら次の日も、その次の日も私はそこに足を運んでいて。居なかったらがっくりと肩を落としてそのまま神社に。居たらいつもの木の陰に隠れて、その人をずっと見てた。
そうして何日も通う内に人形劇があるのは一週間に3回で、月、水、金の日に来ることが分かった。あと人形劇の台本はすべて自分で考えてるということも。
その内、あの人を見た後じゃないと神社に着いてもなんにも手につかないようになった。頭の中にはあのお姉さん、アリスがずっと居座って、気がつくとアリスが劇中口ずさんでいた歌を鼻歌で歌っていて、いつも浮かべている優しくて、柔らかい笑みがずっと頭から離れなくて。一体あの人は何なのか。八雲の妖怪さんに聞いても首を傾げて曖昧に苦笑いされるだけ。

「皇女さまは言いました。勇者よ、仲間を携え行くのです。と」

毎回劇の内容はほとんど覚えていなかった。

「おじいさんが呪文を唱えるとなんと押しても引いても開くことのなかった扉が開いたのです!」

別に私の覚えが悪いってわけじゃないよ?

「ドラゴンさんは手を差し伸べます。背中に乗せて向こう岸に運んであげよう」

ただ単純に頭に入ってこなかっただけで。

「ドラゴンさんにまたがり勇者さまは颯爽と飛び立ちます」

私はずっとその人を見てたから。

「王さまは跪く勇者さまに嘆きます。おお勇者よ、死んでしまうとは情けない!」

いつの間にか強く想うようになった。突拍子もないようなことだけど、何故かすごくそう思った。私もいつかって。そんなこと考えちゃってたんだ。
綺麗で、可愛くて、いっつも優しくて、柔らかい笑みを湛えてて、まるで夢でも見てるみたいにすごい人。そんな、アリスみたいに。
あんな風になりたいって、なれたらいいなって思うようになった。とっても…憧れたから。

「じゃあ始めるわ。蓬莱、みんなにご挨拶して?」
「ホラーイ!」
「はじまりー!」

その日も私は見てた。新入りの子(人形)のお披露目だかなんだか言ってたけど。お姉さんの目の前で新しい人形がクルリと回ってペコリとお辞儀をする。あの人と同じ綺麗な金髪に大きなリボンとふわっと広がる大きなスカート。可愛い見た目だけど槍と盾を構えた様子がとても様になってて、気合入れて作ったんだろうなってすぐに分かった。…人形に感情あったらあれ絶対新人いじめにあいそうだよねぇ…。
その日のお題はお姫さまの冒険活劇。お姫さまが見聞を広めるためにお付を引き連れて自国の領土を巡っていろんな問題をズバッと解決していくお話。悪い商人や山賊たちを相手にさっき挨拶をしてた人形が槍を片手に大立ち回り。本物さながらの手に汗握る(人形は汗かかないだろうけど)戦いの場面では主に男の子から声援があがっている。でも、やっぱり私の頭にはお話の内容はあんまり伝わってこない。それよりも、一生懸命になって夢中で操作しているあの人を見ていたいと思った。劇の最中はあの優しくて、柔らかい笑みはしぼんで見えなくなる。けどその代わりに違う表情が顔を覗かせてるのが私には分かる。とっても楽しそうなそれは、私がすごく楽しいときにするそれととっても似ているような気がして。理由はないけど何だか恥ずかしくなっちゃった。

「この髪飾りが目に入らぬかー!お姫さまがその頭に飾られた豪華絢爛な髪飾りを指差すと、悪い商人はたちまちに青い顔になってしまいます。 そ、その髪飾りは…ひ、姫さまー!? そうして商人は近衛兵たちに連行されていき、暗かった街に光が溢れました。お姫さま一行はより多くの見聞を集めるため次の町に繰り出すのでした。めでたしめでたし」

毎回繰り広げられるお話は全部幸せな終わりしかない。王子さまがお姫さまを助けてお城に凱旋したり、怖い魔物を倒して平和を守ったり。まぁ、寺子屋の子供たちに軽くトラウマになりそうな暗いお話なんて披露したら先生に思いっきり頭突きされそうだけどね…。
お話が終わるといつも通りスカートの端をつまんでお辞儀をして、子供たちにお手製のお菓子を配ってから去っていく。私はいつもあの人が立ち去る前に自分が立ち去るようにしてる。なんだか、いつもあの人が帰るとき寂しそうに見えて、見ていられなくなるから。たったそれだけの理由。なんてことないただの思い込みかもしれないけど、何だかね。今日も私はいそいそと神社に向かう。あの人が立ち去るよりも早く。あの人を見れなくなってなんだかちょっぴり寂しい気もするけど。

「…あっ」
「ん?どうしたんだアリス」
「え?ああなんでもないわ。それじゃ私も帰るわね」
「おや?珍しいな。いつもぴったりの数を持ってるのに今日はあまりがあるなんて」
「…そんな時もあるわよっ」





そうして何日も何週間も見続けた。私は相変わらず人里に住んでいて、神社に出勤(?)するのが当たり前で。でもその前に寺子屋の前の木の陰からあのお姉さんを見るのが日常だった。何回も通う内に、憧れのその人の色んな表情を見れた。いつもの優しくて柔らかい笑みとか、寺子屋の先生の冗談にクスクスって悪戯っぽく笑うところとか、昼間から酔っ払った近所のおじさんのお酒臭い冗談に呆れた顔したりとか。そして、どこか親近感を覚える楽しそうな笑顔とか。
会う度にもっとずっと憧れるようになっていった。…って言っても私が勝手に見てるだけなんだけどね。

「…霊夢、その笑い方無理しすぎだよ…」
「えーそうかなぁ。結構いいと思うんだけど」
「こぉら魔理沙!お友達とつるんでる暇があったら商品の名前を覚えてなさい!!」
「ふんっ!私は跡取りなんかにならないよーだ!」

試しにあの人みたいに振舞ってみたけど、農家のおじさんにも近所の遊び仲間の子供にも、魔理沙にだって受けはよくないみたいで…。私ってそんなにおしとやかなの似合わないかな。

「霊夢があの人形遣いに興味津々だなんて、一体どうしたの?」
「魔理沙も知ってるの?」

私が知らなかっただけで、その人は人里の中では結構知られているみたい。まぁあれだけ楽しそうに劇をしている人だもの、当然といえば当然かもしれない。でも、

「いやー、すごいよね。まるで生きてるみたいな人形たち。私初めて人形に感動したよ」
「…うん」
「もしかして、あの人形実は生きてたり」
「まさかー」

誰もが「人形がすごい」と言うばっかりで「操ってるアリスがすごい」とは言わない。確かにあれは一度見たらもう忘れられなくなるくらいすごい劇だけど、だからってあの人を無視してるみたいで私はなんだか嫌だ。どれだけすごくても、それを操ってるのはあのアリスなんだから。あれだけ楽しそうにお人形を動かしてるんだからちゃんとそこも見てあげるべきなんだ。誰が何て言っても、そりゃお人形だってすごいけど私はあのお姉さんが、アリスがすごいんだって分かってる。

「じゃあ始めるわ。上海、みんなにご挨拶して?」
「シャンハーイ!」
「かわいー!」

今日は新しい子のお披露目。蓬莱に引き続き上海と呼ばれたお人形がお辞儀をしている。確か今日のお題は王子さまが悪い魔法使いに攫われたお姫さまを助けるファンタジーものって言ってたっけ。
上海はどうやらお姫さまのようで、可愛く悲鳴を上げながら(実際に上げてる訳じゃないけど)魔法使いに連れ去られていく。ちらりとアリスの顔を覗き込むとやっぱりどこか楽しそうな笑顔。恥ずかしいけど、やっぱりどこか親近感が沸いてくる。
頭をぶんぶんと振って向き直る。お人形たちが垂れ幕を下げていそいそと次のシーンの準備。どうやらもうクライマックスシーンみたい。

「お姫さまは言いました。 逃げてください王子さま!あなたさまの剣では無敵と言われる鎧を打ち破ることはできません! 膝を折って歯を食いしばる王子さまに悪い魔法使いは囁きます。 無駄じゃよ。この鎧はこの世の剣では貫くことはおろか、傷ひとつつけることはできん。姫の言う通り、逃げたほうがいいんじゃないかのぅ?ふぉふぉふぉ! 」
「がんばれー!おうじさまー!」
「わるいまほうつかいなんかにまけるなー!」
「こらこらおまえ達、少しは静かにしないか」

子供たちの気分は最高潮。何で魔法使いなのに鎧を着てるんだろうとか疑問はあるけど皆ハラハラしながら物語に食い入ってる。私はアリスに、食い入ってる。

「王子さまはそれでも立ち上がります。 お姫さまをお守りするとこの剣に誓ったのだ!負けるわけには行かない! 魔法使いは声高らかに叫びます。 ならば消えるがいい!突き刺されいかずちよ! 突如王子さまの周りに雷が降り注ぎ、木や岩を削ります。それでも王子さまは怯まずに賢明に魔法使いに立ち向かい、剣を振り上げたそのとき、降ってきた雷が王子さまの剣に直撃したのです!お姫さまは悲鳴を上げて叫びます。 王子さまぁ! 魔法使いは目を見開いて勝利の宣言を放ちました。 ふぉふぉふぉ!いかに最強と言われた王子もこのいかづちの直撃には耐えられまい…! と。そのときです!王子さまは最後の力を振り絞って雷を纏ったその剣を振り下ろしました。 なっ、なんじゃとぉ!?そんな馬鹿なぁ!!? 王子さまの決死の覚悟と剣に纏った雷が魔法使いの想像を超えていたのでしょう。魔法使いは鎧ごと真っ二つに割れて崩れ行く岩の下敷きになっていしまいました。こうして王子さまはお姫さまを助け二人で末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」

静かに幕が下がり、アリスがスカートをつまんで小さくお辞儀をすると遅れて子供たちの拍手が鳴り響く。私はというと…やっぱり目を話すことができなかった。今も笑顔でみんなにお菓子を配ってる横顔をじっと見つめ続けてる。
子供たちは口々にお礼を述べているみたいだけど、やっぱりお礼の内容はお人形がすごいとか、可愛かったとか、そんなものばっかり。みんな分かってるのか知らないけど、それ以上にアリス本人のことだってすごいんだから。なんていうか…あぁ、うまくは言えないんだけどっ。
ぺったんこの胸に手を当てて目を閉じる。劇の内容は…まぁ子供たちはともかく私にとっては興奮に心躍るようなものじゃなかったと思う。でも、私の胸はどくどくと強く動いていて、興奮していることをありありと語ってる。たぶん、私は心躍っていたんだと思う。お人形にじゃなくて、あのアリスというお姉さんに。

「じゃあねおねえさん!またこんど!」
「ありがとう、アリス。お礼というわけではないが、近くの畑で取れた野菜だ」
「あら、ありがと」

いつまでもボーっと夢想してると子供たちはもう寺子屋の中に入った後で誰もいなくなっていた。早いとこ私も神社に行かないと。って言っても今日もあんまりお仕事に手がつかないんだろうなぁ。はぁ…なんとなくため息。この歳でこんなことしてるのって何かおかしいよね…。
何だか複雑な気分に浸っていると…

「…ふふっ」
「えっ…」

偶然か必然かわからないけど、お姉さんと目が合った。蒼くて透明な宝石みたいな瞳が私の胸の奥を射抜いたみたいで、まるで金縛りにあったみたいに少しも目が離せなくなった。でも威圧とか警戒とか、そんなマイナスな感情は全然見えなくて…ただ、優しくて、柔らかい笑みがそこにあったから。

「おはよう、博麗霊夢ちゃん?」
「…はわっ」

初対面なのに(私はずっと前からこっそり見ていたけど)名前を呼ばれてどぎまぎする。良く考えれば私は博麗の巫女なんだから名前を知られていて当然といえば当然だけどそこは察してほしいな。
今私とアリスを隔ててるのは目の前にある頼りない木の幹だけで、私の頭は真っ白を超えて何もわからなくなってぐるぐると回転する。中途半端に木陰からはみ出してあたふたと慌てるだけの私を見かねたのか、アリスは自分から近づいてくる。冬だっていうのに何だかすごく暑い。心臓がバクバク音を立てているのが耳の裏側から聞こえてくる。汗かいてないか少し心配で、ただ今は腋の空いた服着てて本当に良かったなと思う。

「もう、そんなに慌てないで?別に食べたりなんかしないから」
「えっと、その、あのぅ…ぅぅ」

舌がどうしても言うことを聞いてくれなくて困る。さっきから震えてるばっかりでまともに動いてくれない。せっかく憧れの人が目の前にいるっていうのに挨拶のひとつも返せないなんてそんなの嫌。でも、頭の中はもう回転どころかプスプス音を立ててるだけで働かないし、口の中と喉の奥はカラカラだし、目の前はグルグルしてそれどころじゃないことになってて、もう訳が分からなくなってしまいそう。
もう爆発しそう…と思ったとき、

「ふえ?」

不意に頭に何かひんやりと軟らかいものが乗せられてわさわさと動き出した。

「よしよし…。落ち着いて、ね?」
「…ぁ」

それが何か分かったとき、あれだけパニックになっていた私の頭はあっさりと我に返った。
優しくて、柔らかい笑み。いつも遠くから眺めていたその笑み。間近でみるそれは遠くから見るそれよりもよっぽど穏やかで、暴れていた私の心臓が落ち着くのにそう時間はかからなかった。
…なんだかなぁ。





人里から少し離れた丘にある大きな桜の木。今は冬だから葉っぱの一枚も付いてない、がさがさの肌の根元に二人して座り込む。何をするわけでもなく、ただ何となく人里を眺めてみる。早いとこ神社に行かないと行けない気もしたけど、今はこの人と一緒に居たいから後回しでいいや。
ちなみに今も相変わらず頭は白くて綺麗な手のひらで撫でられてる。恥ずかしいけど、お話がしたいから自分から切り出してみることにした。

「えっと、お姉さん」

名前は知っているつもりだけど、もし間違っていたら恥ずかしいからあえてのお姉さんで呼んでみる。

「そういえば自己紹介まだだったわね。私はアリス。アリス・マーガトロイド。見ての通り妖怪さんよ」

なんとなくそうなんじゃないかなぁとは思ってたけど、本当に妖怪だったんだ。一見、どこをどう見たって人間にしか見えないのに。実際、探してみれば姿かたちが完全に人間とおんなじ妖怪は結構居る。八雲の妖怪さんも見た目は完全に人型だったし。でもその人は見た瞬間に妖怪だって分かった。二人とも見た目は人間。でも、決定的な何かが違う。あの人は他の人を寄せ付けない何かオーラみたいな…人間とは違うんだっていう雰囲気を持っていた。だからこそ見ただけで妖怪だって分かることができた。でもこの人、アリスは違う。人を寄せ付けない雰囲気が全然ない。ううん、むしろ周りを寄せ付けるような雰囲気だって持ってると思う。
アリス・マーガトロイド…。口の中だけで反復してみると何とも言えない気分。なんかこう、ふわーってなる感じがする。

「私も、一応…博麗霊夢、です。見ての通り博麗の巫女です」
「無理にあわせなくてもいいのに」

相変わらず頭を撫でる手は緩めずにこちらを見つめてくるアリス。ふと、何かを思い出したかのようにもう片方の腕で持ってきていた鞄をがさごそと探り始めた。一体なんだろうと身を乗り出すと、ふわりと甘い匂いが漂ってきた。なんだろう、とってもいい匂い。

「これこれ」

抜き出した手には小さくてリボンの付いた綺麗な紙袋。それが何なのかも分からないのについ反射的に手が出て受け取ってしまった。うぅ、いやらしい子だと思われないかな…。

「今度こそ渡そうと思って持ってきてたの」
「…私に?」
「他に居ると思う?」

子供みたいに笑みをこぼして頭をわしゃわしゃと撫で回してくれる。…こんな顔もするんだ。やっぱり憧れるなぁ、このお姉さんには。
包みを開けると、星やハートなどの型に切り取られたおいしそうなクッキーがいっぱいで、思わずわぁって声を漏らしてしまう。また恥ずかしくなって慌てて咳払いをするとアリスはクスクスと笑いを漏らし、またまた恥ずかしくなってごまかすようにクッキーを口に放り込んだ。…ふわっと柔らかくて、とっても甘い。けど優しい。まるでこの人の笑顔みたいな味。

「おいしい…」

…ん?何か違和感。

「あれ…今度こそ?」
「ええ。霊夢、ずっと私の人形劇見に来てくれていたでしょう?」
「うん…って、ええ!?」
「大体3ヶ月ほど前からかしら。あんまり熱心に見られるものだから、気付かない訳ないわ」
「う、うあー…」
「だからずっとあなたの分のお菓子も作ってきてたんだけど…あなた終わるころにはもう居なくなってたからなかなか渡せなくて。わざわざ神社に届ける訳にもいかないしね。何時になったらあの子にお菓子を渡すことができるのかな…って。だから今日はやっとあなたに渡すことができてとっても嬉しいわ?」

そんな…ばれてた…!今まで混じるのが恥ずかしくてずっとばれない様に遠くから見ていたのに、本人におもいっきりばれてた!!
さっきまで安定していたのに、また心臓が早く鳴り始める。別に見つかったらだめって訳じゃないんだけど、それでもばれるのはとても恥ずかしい。思わず膝を抱えて丸まってしまう。

「私はこう見えてもこわ~い魔法使いさんなのよ?」

うぅ。ぜんぜん怖くもないのになんだかすごく怖い気がする。ごまかしにもならないだろうけど、必死になってクッキーを頬張る。
さくさく。さくさく。軽くて甘い味付けは寺子屋の小さい子供でも安心して食べられるようにするためなんだろうな。やっぱり、アリスの笑顔みたいに甘い気がする。
でも、アリスも人が悪いと思う(実際に人じゃないけど…)。私が熱心に見てるのが分かってたんなら呼んでくれればよかったのに。そうすれば私も恥ずかしさを我慢してあの中に入れたってもの…。

「呼んでほしかった?」
「…声出てた?」
「ううん、表情に」

私ってそんなに分かりやすいのかな。掴むほどもないけど、頬の肉をつまんで揉み解す。ポーカーフェイスって結構憧れる。

「私もね、何で声をかけなかったのかちょっと不思議」
「どうして?」

頭を撫で続ける手が止まってしまう。さっきまで優しげだった表情が少しだけ暗くなって、遠くを見つめてぼそぼそと呟た。

「…分からないけど…もしかしたら怖かったのかな」
「えっ?」

怖い?何が…人形劇が失敗すること?そんなことはないと思う。そんなもの私が居ても居なくても変わらないし。寺子屋のみんなも楽しそうに見てたし、先生も楽しそうにしてた。じゃあ一体何が怖かったっていうんだろう。首をかしげて悩む私の頭にまた手のひらが置かれ撫でが再開される。

「…難しく考えないでね?」
「う、うん」
「あなたが私を見てくれなくなるかもって。それが怖かったのかも」

私がアリスを見なくなる?そんなことはないと思う。私があの輪の中に入ったからってアリスから目をそらす訳がないし、ほかの子だってあんなに食い入るように見ていたのに…。

「ほかの子がね、見てるのは私の人形劇」
「うん」
「でもあなたは違った」

ますます分からないよ。確かに私は人形劇というよりもアリスの方ばっかり見てたけど、普通人形劇は人形を見るものじゃないの?…もしかしていつも帰るとき寂しそうにしてたことと関係があるのかな。
とにかく、よく意味が分からない。もしかして哲学なのかな?だとしたら子供の私には理解なんかできない。あれは大人の国語だって寺子屋の先生は言ってたし。はてなマークを浮かべ続ける私を横目にアリスは長い息を吐いてまた笑った。いつの間にかあの優しくて、柔らかい笑みに戻ってた。

「私ね。昔は人形魔法は使ってなかったんだけど…人形を使うようになったのって実は二つの目的があったの」
「なにそれ」
「ひとつは魔法使いの高みに上りたかったっていうこと。その極みとして自律人形を作ることも」

そういえば聞いたことがある。魔法のなかでも、属性を扱ったものや他の物…例えば人形とかを使った魔法はとっても難しいんだって。習得にはものすごい時間がかかるし、習得できたとしてもそれを磨くにはさらに長い時間が必要なんだって。でも、アリスは妖怪だし、私たち人間なんかよりも長生きできるんだから時間はたくさんあるし、頑張りさえすれば目標は必ず達成できると思う。それにあんなに生き生きと人形が扱えるのならきっとそれは遠くないんじゃないかとも思う。でも、

「じゃあもうひとつは?」
「見てほしかったのかも」
「何を?」
「…」

また少し笑みが曇った。なんとなく言いたくないんだろうなぁ。私にだって言いたくないことの一つや二つはある。体重とか、胸のサイズとか。でもアリスのその表情を見ていたら、その言いたくないことっていうのは私が持っている言いたくないことの何倍も重要なことなんじゃないかなって思える。だからこれ以上は聞いちゃダメなんだ。
お互いに会話が途切れてあたりは静かになる。なんとなく、それに耐えれなくてクッキーをわざと大きな音を立てて噛み砕く。

「捻くれてるだけよ」
「ん?」
「ねぇ、霊夢。あなた、将来はどんな女の子になりたい?」
「ふぇ?…んぅぅ!!ごほっ、ごほ!!」

いきなり予想もしていなかったことを言われたから、リスみたいに頬張っていたクッキーが喉に引っかかってしまいごほごほと大きくむせ返る。涙目になって咳き込む私にアリスは困ったような、嬉しいような表情でカップに入った紅茶を差し出してくれた。うう、すっごく恥ずかしいことした。せめてアリスの前では恥ずかしいことしたくなかったのにぃ…。
…ふぅ。落ち着いた。紅茶は魔法瓶に入れられていたものだったからか少し渋みが強かったけど、甘いクッキーにはよく合う組み合わせ。…それはともかく、

「…将来?」
「うん」

将来。
未来にどんな姿でいたいか。正直私はそんなことを深く考えたことはまだ一度もない。けど、今の私がなりたいと思えるものは一つしかない。

「私は…私はアリスみたいになりたい…かな」
「えっ?…私?」

目を大きく見開いて驚くアリス。まるで信じられないと言うみたいに口をぽかーんと開けている。…私、そんなに変なこと言ったのかなぁ。

「うん。アリスみたいな、お姉さんになりたい」

だって私の憧れだから。綺麗で、優しくて、柔らかくて、そんな笑顔が似合うような、そんな笑顔ができるような、そんな素敵な女の子になってみたい。たぶん、アリスは私の憧れの塊なんだと思う。今の私にはない色々なものを持っているだろうアリス。別にアリスのことを良く知ってるわけでもない。だってずっと見てたとは言っても話したのは今日が始めてなんだもの。まだまだ分からないことはたくさんあるよ?でも、私はやっぱりアリスに憧れてる。
可愛くて、白い肌が眩しくて、人形がすごく生き生きしてて、その中心ですっごく光ってるみたいに綺麗なアリスは、私の憧れの人だから。

「…霊夢」
「…また顔に出てた?」
「声に…」
「…あー」

恥ずかしいけど、嫌じゃない。だって全部本当のことだし。私はまだ子供で、うまく言葉にできないところも多いから目で強く訴える。アリスの目を見て、強く強く想う。
…ふと、一瞬だけどアリスの表情が緩んだ。その表情は何だか、…私のするその表情と大差ないような、そんな気がした。次の瞬間にはもう戻っていて元の優しくて、柔らかいお姉さんのような笑みになっていたけど。

「霊夢。今から言うことはもしかしたら、ううん、とってもわがままかもしれないけど」
「え?」
「霊夢は私にはなっちゃダメ」
「…え?」
「霊夢、あなたは私に似ているから」

…どういう意味、なのかな。私がアリスと似てる?こんな子供っぽい私がお姉さんみたいなアリスに?……そんなわけ無いと思うんだけどなぁ。私なんかよりアリスのほうがよっぽどいい子だと思うんだけど。私はまだ子供だし、優しい笑顔だってできないし、…胸だってぺったんこだし。

「胸はそのうち大きくなるわよ」
「え!?」
「私の胸を見すぎよ?ちょっと恥ずかしいわ」

アリスでも恥ずかしいって思うんだ。恥ずかしがるなんてだれでもすることだけども、なんとなく新しい共通点ができたような気がして嬉しくなる。

「だからね、霊夢。霊夢は霊夢のままでいて?」
「私のまま…」
「分からないならそれでもいいの。変わらないでくれたら嬉しいなってだけだから気にしないで?」

私は私のままで?それってずっと子供のままでいろってこと…?それは嫌だなぁ。もしかしてからかってるのかな?と思って覗き込んでみるけども、アリスは相変わらず優しくて、柔らかい笑みを浮かべているだけ。どうやら本気らしい。
…何でかな。よく分からないけど、それがとてもいいことのように思えてしまう私がいる。さっきまで猛烈に憧れていたのに、なりたいと思っていたのに。やっぱり子供っぽいのは嫌だけど、アリスが変わらないでって言うならそれでもいいかもって不思議と思えてしまう。まだ数えるほどしか会ってなくて、しかも今日初めて話した間柄なのに、その言葉がなんだか嬉しく感じて、気が付いたら小指を差し出していた。

「霊夢?」
「約束するよ!」

自分から言い出したくせにえって表情になるアリス。もしかして断られるとでも思ってたの?でも私はいいと思う。アリスとはこれからも会って、話して、お菓子食べて、いっぱい笑いあうことになるだろうから、ううん、そうするから。だから今のままでもいいかなって思える。確かに、アリスのようなお姉さんになりたいって、アリスに憧れてるって思う気持ちはあるけども、よくよく考えるとやっぱり私の柄じゃないと思う。たぶん、きっとそうなんだ。
私の予想外の返事にアリスはしばらくあっけに取られた表情をしていたかと思うと、急に顔を伏せて次の瞬間にはもういつもの優しくて、柔らかい笑みに戻っていた。

「霊夢…」
「ん!」
「…じゃあ、指きりげんまんね」
「うん!ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーら…」

小指を振り切ったときのアリスの表情はさっき見たものよりもとっても近く感じる、まるで私がとっても嬉しいときにするような笑みをこぼしていた…ように見えた。





どこかで小鳥のさえずりが聞こえる。遠くにガヤガヤと人里の喧騒、近くにカタカタと障子の揺れる音。
温かくて柔らかな感触が体を、優しくて眩しい光が私を包んでいく。まどろんだ朝の匂いが漂ってきて。やがて私は―――。

「…ふぁぁ」

春の暖かい空気が詰まった部屋の中、あくびをあげて布団から這い上がる。捲れた毛布から柔らかな空気が入り込んで背中やおなかをぬくぬくと刺激する。ぼさぼさの頭は春の陽気に晒されてあまりはっきりしない。再び出そうになったあくびをかみ殺して、

「…おはよ」
「ええ、おはよう」

朝の食卓の準備をしているアリスにポツンと一言。
今日も一日、私の生活が始まる。

「昨日はよく眠れた?」
「…昔の夢見たような気がするけど…忘れたわ」

私たち以外だれもいない神社の一室で一緒に食事を取る。焼き魚に小芋の煮付け、野菜のお味噌汁という朝の鉄板メニュー。いつの間に覚えたのかアリスは和食が作れるようになっていた。驚きだ。ここに住み始めた当初は和食などからっきしで卵焼きなのかスクランブルエッグなのかよくわからないものしか作れなかったものだが…。人間やれば何でもできるものだ。(人間じゃなくて妖怪だけど)
そんな下らないことを考えつつ職人顔負けの食事に舌鼓を打つ。気力充填活力充足で今日も頑張ろうという気になってくるものだ。

「ねぇ、霊夢」
「ん?」
「あなたがまだ里に住んでいたころのこと、何か思い出した?」

ごくたまにアリスはこんなことを聞いてくる。
私は昔人里に住んでいた。そしてそこから神社に通うという今となっては非常に効率の悪いことをしていたのである。どうやら私はそのときからアリスとの付き合いがあるようなのだ。
何故、あるようなのだ、という曖昧な表現になってしまうのか。それは…情けないことにその当時のことを私がほとんど覚えていないからである。どういう訳かここに住み込むようになったあたりからしか記憶がしっかりしていないのだ。その前のことなんて3時間頭を捻らせても逆立ちしても全く思い出せない。そのせいで春雪異変の際にアリスとの再会を覚えていないと言ってしまい、ずいぶんと怒らせてしまったのは今となってはいい思い出である。
かといってアリスに当時のことを問いただしても本人は涼しい顔して質問を受け流すだけ。でも、何故か決まってそのあと何かを懐かしむように優しくて、柔らかい笑みをこぼす。私はそれを見るたびに言い知れぬ懐古心に似た何かを感じてしまうのだ。

「ん~、いい加減何があったのか教えてくれたっていいじゃない」
「自分で思い出したほうが脳にもいいのよ。アパ体験ってやつ?…ふふっ」
「ほら、そうやってまた何か懐かしい顔する。ほんと一体何なのかしらね」
「それが聞ければ十分よ。ほら、今日は調伏の依頼が入ってるんでしょう?おいしいご飯作っといてあげるから行って来なさい」

…やっぱり良く分からない。けど、アリスが良く分からないことを言うのは今に始まったことでもないしそんなに気にすることでもないかな。さて、今日は結構ハードな調伏依頼だったし気合を入れなければならない。少しでも稼いでアリスを助けないと。…悲しいかな主な収入が人里からの調伏しかない私は収入資金にかなりのバラつきがある。よってこの神社の経済状況を安定の域で支えているのは実質アリスの作る服飾による収入だけと言ってもいい。人里のどの裁縫業者よりも優れた技術を持つアリスの作品は非常に人気があり飛ぶように売れるのだ。だが…買いに来る連中はアリスの作る服を見てもすごいだとかきれいだとかしか言わない。そうじゃない、そうじゃないのだ。正確にはそれを作るアリス本人がすごくてきれいなのだ。だから必然的に出来上がる作品もすごくてきれいになるのだ。そこのところをもっとわかっていただきたい。
…しかし、このままでは博麗の巫女としての立場がないというものだ。せめてお金の面だけでもアリスに楽させてあげないと。アリスが神社に同棲することが決まったとき、いかなる障害からも彼女をお守りするとこの玉串に誓ったのだ。負けるわけには行かない!ってやつだ。

「じゃ、行って来るわね!」
「うん。気をつけてね」
「ホラーイ!」
「シャンハーイ!」
「ゴリアテー!」
「オーエドー!」

人形たちからもエール(?)を受け取り、私は人里に向けて大きく飛翔した。



「シャンハーイ!」
「…まったく、あの時のことまで忘れちゃうなんて、霊夢ったらほんとばか…」
「ホラーイ!」
「でも、うそはついてないし、私のわがままを聞いてくれたし…気にしてないけど」
「ゴリアテー!」
「ん?それだけかって?それでいいんじゃない?」
「オーエドー?」
「だって霊夢は、私の…
 
 
 
 
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ほわほわいい過去話でした。

ちび霊夢が可愛かったです!

ロリっ娘はやっぱり可愛い…!

後、自分の記憶が確かならアパ体験じゃなくアハ体験だったと思うのですよ。
2.名前が無い程度の能力削除
ロリ霊夢の可愛さが異常。
さらにレイアリで俺得二重丸。
大変美味しゅうございました。
3.奇声を発する(ry in レイアリLOVE!削除
>やっぱり目を話すことができなかった
離す?
これは良い!ロリスも良いけどロリ霊夢も可愛い!
4.名前が無い程度の能力削除
結婚してた
5.名前が無い程度の能力削除
なんなんだ、この胸のときめきは!?
6.名前が無い程度の能力削除
レイアリ!
7.名前が無い程度の能力削除
どどど同棲してるがな!?
8.なるるが削除
こめんとありがとうございますー!
ネタを提供して頂いた神文士さんには本当に感謝です。

>>1さま
こんな過去があってもよかったんじゃないかなと思います。
あ、アパはわざとです。

>>2さま
幼い霊夢はきっと誰よりも純粋だったことでしょう。
…レイアリは仕様ですw

>>奇声を発する(ry in レイアリLOVE!さま
誤字報告ありがとうございます。
しかしパスが間違っていたようで修正ができない…。
ロリスとはまた違った魅力がロリ霊夢にはありますよね。

>>4さま
当然仕様です。

>>5さま
そのときめきを早く形にするのです!
できればレイアリで!

>>6さま
は、原点!

>>7さま
仕様…いや必然です。
9.こーろぎ削除
久しくレイアリを見ていなかったのでレイアリ分を補充できてよかったです! 
幼い霊夢が新鮮で可愛かったです