いやはや、参った。
まさか、この私が食料難に陥るとは……思いもよらなかったぜ。
どうしようかなぁ。神社に遊びに行って、ついでにご飯をご馳走になるか……。
いや。いつもは霊夢の奴を「ひもじい」などとネタにしてるから、まさか助けを求めるわけにはいくまい。
霊夢のやつ、賽銭は少なくても奉納のおかげで食べ物だのに困ったことはないからなぁ。ご飯を食べさせてもらったりしたら、ここぞとばかりに立場を逆転してくるだろう。これは却下だ。
くそー。それもこれも、数ヶ月前に紅魔館の連中が引き起こした異変のせいで、きのこが採れなくなったせいなんだ。
責任をとって欲しいぜ。
というわけで、私は悪魔の館へご飯をたかりにきたのであった。
「おい、メイド。何か食べるものをくれないか」
「最近、泥棒をやめたと思ったら乞食にでもなったの? そんなことより、あなた“人狼”やってたわよね。今度、うちが主催するゲームに参加しない? ご飯も出るわよ」
「ほう、人狼か」
確かに私は“汝は人狼なりや?”というゲームをたしなんでいる。
それにご飯がついてくるとなれば、参加しない理由がない。
私は二つ返事で承諾した。
「その話、乗ったぜ。――それにしても、参加者にご飯を出すなんて太っ腹だな」
「ええ、前にお嬢様が開催したときに人が集まらなくってね。今度はなんとしても成功させろって、厳命されちゃったのよ。それで館中が準備で大忙し」
食べ物で人を釣ろうっていうのか。なんて奴らだ。
よし、大いに釣られてやろうじゃないか。
「いい情報をくれた礼だ。そのパーティ、いろんなところで宣伝してやろう」
「助かるわ。開催は明日、夜18時から。参加者は16人までだから、お早目にね」
「了解だ」
私は紅魔館を離れ、それから約束どおりに、里やら山やらで宣伝してやった。
ああ、こうして人を集めているとアレを思い出すな。紫が主催したゲーム。あれからもう半年か……。
あの時は確か、私は勝ったんだっけかな。……よし、今度も勝てるように頑張ろう。
まぁ、勝敗は二の次。私の目的はご飯代を浮かすことだがね。
◇ ◇ ◇
ホールに集まったのは参加者16名。そして主催者のレミリア。ついでに給仕をしている咲夜の18人だった。
長いテーブルには豪華な食事が並べられ、各々が談笑しながら、それらを口に運ぶ。ゲーム開始前の団欒である。
時計の針が18時半を回った。それと同時、レミリアが咳払いひとつと共に、全員へと語り始める。
「――さて、ご歓談のさなかに申し訳ないが、そろそろ本題へ移ろうか?」
「私はこの食事が本題だぜ」
「そこ、黙りなさい」
咲夜に睨まれた。黙る。
「今夜、お前たちの運命を決めるカードが配られる。自室に戻り、机の上にある封筒を開けなさい。そこに己が演じる役目が書いてあるでしょう」
なんだか芝居がかった、面白い喋り方で、小さいのが何か言ってる。
一方で私はチキンを丁寧にナイフで切り取り、肉汁と一緒に喉の奥へと送り込むのに忙しかった。
「招待状に基本的なルールは書いてあったでしょう? ただし肝心なものは教えられていなかったはず」
「あら、まだ何かあったかしら?」
参加者その1、霊夢がスープに口をつけながら尋ねる。
「ふふ……賞品よ」
ああ、なるほど。
確かに勝ったときにもらえるご褒美について、何も教えられていなかったな。
まぁ、私は腹ごしらえが出来たから、もう勝っても負けてもいいんだが。
「さて、それでは発表しましょう。今回の“汝は人狼なりや?”で勝利したチームには……なんと……この食事の料金をタダにしてあげます!」
「……え??」
テーブルの一同、ぽかーん。
私も全くの無関心から一転、レミリアの言葉に耳を傾けた。
参加者その2、にとりが恐る恐る口を開いた。
「ってことは、つまり……あのさ。負けたチームは?」
咲夜はさらりと。
「もちろん。敗北陣営のみなさんには、料金を人数分で割ったものを均等に支払っていただきます」
「はぁっぁぁぁああああ!?」
16人の絶叫(とりわけ私と霊夢の声は大きかった)がホールを包む。
さらに、咲夜の提示した料金によって、私たち参加者は軽く卒倒しかけた。
私は、生まれて初めて「借金地獄」という言葉を意識するのであった……。
◇ ◇ ◇
「ったく。タダ飯だっていうから来てやったのにさぁ。……紫もびっくりの詐欺っぷりじゃないか」
私は愚痴をこぼしながら、趣味の悪いまっ赤な廊下を歩いていた。
手には部屋番号の書かれたプレート、その先端には銀色の鍵。
これから、主催者側によって割り当てられた寝室にいき、そこで一日目の夜を過ごすのだ。
恐らく「初日犠牲者役」はレミリアか……いや、咲夜が担当するんだろう。
よっていきなり呪殺される恐れのある【妖狐】になった者以外に限り、今夜は安心して眠れるということだ。
「えーっと。とりあえず基本ルールと」
私はあらかじめ配られたルールブックを懐から取り出した。
今回の内訳、そして基本的なルールは紫が主催したゲームの時と同じだ。
「村人7人 占い師1人 霊能者1人 狩人1人 共有者2人 : 人狼3人 狂人1人 : 妖狐1人」
ふーむ。
負けたときの支払いを考えるなら、村人陣営が一番安心かね。払う金は12分の1だし。
逆に自分が人外陣営で村が勝ちになったら、それはもう最悪じゃないか? 支払いは5分の1、この差はでかい……。
えーと。ちなみに引き分けもあるみたいだな。投票が4回連続引き分けになったとき引き分け扱いとなり……。食事の支払いは16人で割りカンになるのか。
って、負けたときの事を今から考えてちゃ駄目だよな。
勝てば何の問題もないんだから……。
そう、勝てばいいんだ。勝てば。
えっと、次に重要なのは参加者リストだ。
あまり見ない顔が多いのは、餌に釣られてきたのが多いからか?
私もまさに、そのクチではあるが。
参加者一覧
魔理沙 | 幽々子 | ナズーリン | 大妖精 |
小町 | さとり | こいし | 幽香 |
天子 | 衣玖 | にとり | 椛 |
霊夢 | 紫 | 映姫 | 神奈子 |
って
待て待て待て待て待て。
覚り妖怪が参加してんのか!?
そういえばあいつ晩餐にもしれっと参加してたけど、あんなのが参加したらゲーム崩壊だろ!
心の読める妖怪が村人陣営にいたら人外が丸分かりだし、人狼陣営にいても占いの真狂や共有・狩人・妖狐が誰か分かるのは大きすぎるぞ!
「ああ、大丈夫です。特別な“目隠し”を作ってもらいまして。それで読心ができないように工夫されてるんです」
「おわぁっ!?」
いつの間にか、さとりに背後を取られていた。
そして心を読まれていたようだ……。
私は心臓が飛び出しそうなほど驚いたのを隠しつつ、ゆっくりと振り返って平静を装う。
ゲーム前から舐められるわけにはいかないからな。
「そそ、そうなのか。でも、そんなチープなもんだったか? お前の能力は」
「気の持ちようです。私が読みたくないと思えば、ただの目隠しでも読めなくなるもんなんです」
「ま、まぁそういうことにしておいてやるか……。色々と都合もあるんだろう」
「ただ、部屋に帰るときには目隠しを外しますので。……投票後に部屋に戻る際はそれぞれ時間差をつけて、余計な情報が入らないようにするそうですが、戻った後で下手に廊下に出たりして私に遭遇しないようにしてくださいね。私もゲームを壊してしまうのは嫌ですから」
「あぁ、そうするよ。しかしゲーム中に一人だけ目隠ししてるのも、不気味だぜ」
「わざわざ口に出してくれて、ありがとうございます。それでは、おやすみなさい」
「んじゃ、いいゲームにしよう」
ひぇ~。覚り妖怪は相変わらず苦手だぜ。
私は足早にその場を去ると、自分の部屋へとやってきた。
鍵を回すと静かに扉が開く。すると目に飛び込んできたのは、多少なりとも紅が押さえられた装飾。
だが一般人の私から言わせてもらえば、美的感覚の著しい欠如を感じる部屋だ。
「うへぇ。こんな部屋じゃ、眠れそうにないなぁ……」
思わず独り言を呟くと。
「あら、寝る時間はたっぷりあるわよ。相談した後、たっぷりね」
な!?
なんで私の部屋に、風見幽香が!?
「あらまぁ、随分と驚いて」
えぇ! なんで衣玖までいるんだ!?
幽香と衣玖が、2人仲良く、私の部屋で待ち構えていた。
もしかして、相部屋!? 紅魔館の部屋数が足りなかったとか!? おいおい、それは勘弁だぜ。 私は一人じゃなきゃ寝れない派なんだが……。
「ちょっと、察しが悪いわねぇ。……もしかして、初心者なの?」
「いえ、魔理沙さんは結構、参加してるはずですよ。何度かご一緒しました」
……あぁ、そうか。やれやれ、さとりにいきなり話しかけられたせいで、なんだか気が動転してたみたいだ。
「あー……。ごほん。問題ない、安心してくれ」
ゲームでいう“夜”。基本的にプレイヤーは一人で過ごすはずの時間。
その時間を過ごす部屋に“3人”が集っているという意味。仲間がいるという意味。それはひとつしかないじゃないか。
幽香と衣玖が、それぞれ胸の前にカードをかざした。己の身分を、役割を、そして正体を著す配役カードを。
そう。――私は、人狼だ。
「ふぅ、リスクの大きな役回りになってしまったな」
「勝てば良いのよ。全員騙してね」
「その通り。代金のお支払いは、村人と狐の皆さんにお任せしましょう」
私はテーブルの上に置かれたカードを手に取る。月に向かい吠える狼が描かれた、その最後のひとつを懐にしまった。
「それじゃ、2人とも。よろしくな」
「ええ、よろしく」
「人狼に勝利を、ふふ」
◇ ◇ ◇
咲夜の仕業だろうか。朝を迎えると同時、私たちはいつの間にかホールへと勢ぞろいしていた。
思わず幽香と衣玖へと視線を送りそうになり、それを止め、だが不自然にならないように全員に向かって「おはよう」とだけ挨拶する。
……ちなみに、さとりは本当に黒いアイマスクを顔に装着し、“ホース”につながってる目ん玉は黒い袋で覆われていた。はっきりいって異様である。
……しかし、本当にあれで心が読めなくなってるんだろうなぁ?
目の前に横たわる巨大なテーブルの上には、美味しそうな朝餉。
焼きたてのパンが並ぶ食卓には、しかし食欲を一切沸かせない装飾品が置かれていた。
まぁ、案の定。死体役は咲夜が請け負ったようだ。
テーブルの真ん中で血糊を派手にぶちまけ、倒れている。……ヤツも大変だな。
「さぁて、それじゃ。始めようか」
神奈子が音頭を取り、そしてゲームが始まろうとしている。
私はスープ皿の前に置かれたディスプレイを見つめ、そして固唾を呑んだ。
さぁ、ここから長い戦いが始まる。
推理をするのが仕事である村人、その敵が人狼。
つまり私たちは騙すのが仕事だ。騙し欺き出し抜いて、見つかる前に全員噛み殺す。そして勝利をもぎ取るのだ。
紫 :「それなら占いCOするわ。衣玖さんは○(村人)だった」
衣玖 :「占い師です。さとりさんを占い、結果は○でした」
神奈子 :「占いCO、ナズーリン○」
ほぼ同時に飛び出した3つのカミングアウトに、村人たちは静かに議論を始めた。
まだ牽制と探りあいの、ゆるやかな言葉の流し合い。
ナズーリン :「ふむ。占い3人か」
小町 :「この中に偽者が2人もいるって事だねぇ。本物と人狼と、あとは狂人かな」
天子 :「ふーん、○進行ね。内訳は真狂狼と見ていいのかしら」
にとり :「占い3なら、真はいるだろうな。そこは安心できるよ」
こいし :「なーんかフツーね。真狂狼? 狐混じりはなさそうかな」
村人たちが推理と議論を始めるなか、私は。――そして恐らく幽香と衣玖も。
笑いを堪えるのに必死だった。
なんという幸運だ。
幸先の良いスタート。
理想的な展開。
恐らく占いの内訳は、村人たちが口にする大方の意見と同じ、「真狂狼」だろう。
そのうち「狼による騙り」は自分たちで出しているから明解、衣玖だ。ならば残る『紫』と『神奈子』のどちらが真占い師なのか、どちらが狂人の騙りなのか、というのが人狼の判断が求められるところである――
のだが、いきなりだ。この初日の占いCOで、私たち人狼目線で真偽が確定してしまった。
人狼である衣玖に○を出した紫は偽者、つまり狂人。自動的に神奈子が真の占い師だと確定する。
この内訳を知っているということは、人狼陣営としてはかなり有利。どちらが味方でどちらが敵かというのが早期に分かれば、戦略の幅がかなり広くなるのだ。
だが、そんな嬉しさを間違っても表に出してはならない。
私と幽香はあくまでも何も知らない村人。迷える子羊を演じなければならないのだから。
魔理沙 :「紫視点、内訳が見えているな」
紫 :「そうね。衣玖が狂人、神奈子がおそらく人狼でしょう」
椛 :「おそらく、って。それしかないじゃないですか? あなたの視点だと」
紫 :「十中八九そうでしょうけど、もしかしたら人狼ではなく狐が混じっているかもしれない。そんな可能性もあるからね。決め付けはしないわ」
幽香 :「椛さん。いきなり噛み付くのはいいけど、今の段階で占いに難癖つけるのは無理があるんじゃない?」
さとり :「……発言から判断材料を得るのは有用です。特に、真占いならもっと自信を持って発言して欲しいと、私も思いますね」
幽々子 :「ふぅん。そんなもんかしらねぇ」
霊夢 :「占いの内訳は真狂狼が本線。一応、真狂狐や狂狐狼なんかも考えたいわね」
にとり :「ん? ここで占いに狐混じりを警戒する必要があるかな?」
椛 :「……不自然。まるで村人の不安を煽っているみたいです。ましてや初日真占いなど」
霊夢 :「可能性、としてよ。そんなに噛み付く必要があるかしら?」
衣玖 :「いけませんねぇ。椛さん。推理することを萎縮させるような発言は。それこそ狼臭いですよ?」
映姫 :「とりあえず○進行になった以上、今日の投票はグレランになるでしょうね。他にCOはありますか?」
大妖精 :「えーっと、グレーは11人。対抗占いがあったのでグレーは僅か広いですね。共有さんには片方出てきて欲しいかも、しれないです」
幽香 :「私は共有に潜伏して欲しいかな。占い3だし、●ぽんぽん出されちゃ敵わない」
魔理沙 :「そうかな? 霊能が潜伏するなら●は出しづらいはず。逆に共有に出てもらって真の占う先を狭めた方が良い。呪殺の可能性も少しでも上げるべきだ」
小町 :「うーん。共有さんが吊られちゃ大変だよねぇ。出てきた方がいいんじゃないのかい? これ」
ナズーリン :「占いに人狼が出てきたということは、霊能には騙りを出さないかもしれないな。ラインを組んで信用勝負に持っていこうとしない限り」
天子 :「人狼は3-1ラインで進行しようという感じかしらね」
こいし :「3-2になるんなら大歓迎よ。人外露出3は美味しいわ」
私たちは昨日の夜、それぞれの役割を決めた。
結果。潜伏があまり得意でないということで衣玖が“占い騙り”を。私と幽香は“潜伏”を担当するという事になった。
ここで私か幽香、どちらかが霊能も騙るとなると、潜伏する人狼はたった一人になる。これはリスクもそれなりに高い戦術だ。
今回は早々に真偽がついたこともあるし、信用勝負をするよりもさっさと真占いを噛み、グレランで勝負することになりそうだな。
幽々子 :「まぁ、それぞれの役職にお任せすればいいんじゃないの~。色々と考えがあるんでしょうしね。人生色々よ」
さとり :「そうですね。私もそれで良いと思います」
にとり :「あんまりCO多くてもさぁ。狩人が大変になるしねぇ」
映姫 :「ふむ。では……他にCOはありませんか?」
霊夢 :「……しょうがない。○進行で共有も出ないなら霊能COするわ」
魔理沙 :「おっ、霊夢が霊能か。対抗はあるか?」
大妖精 :「霊能さん出ましたね」
椛 :「えぇ、出ちゃうんだ」
小町 :「お、いいねぇ。出てもらうと分かりやすくっていいよ」
衣玖 :「霊能COは賛成ですね。COが明日になれば、今日のグレランで票が集まって吊られそうになった人狼や、明日に私が●を引いた人狼が、吊り逃れる為に霊能騙りでCCOしてくる可能性がありますからね。現段階で一人だけというのなら、霊夢さんは真とみて良いでしょう」
天子 :「ふん。初日が霊能を持っていってなければね」
神奈子 :「さて、グレーから投票か」
こいし :「(占い)3-(霊能)1-(共有)0でCOは終わりかな? こうなると霊能軸で考えていきたいわね~」
椛 :「まぁ、盲信は禁物ですよ」
幽香 :「ここで霊能を疑っててもねぇ。まぁ、明日からの占い結果と照らし合わせて考えていきましょう」
魔理沙 :「じゃあ、グレランでいいな」
紫 :「はいはい。私は自分の仕事をしますよ」
映姫 :「結局、共有は両方潜伏ですかね」
衣玖 :「共有を無駄占いするのは怖いですが、潜伏状態で早期に●を引ければ信用が得られるのは大きいですね。頑張りますよ」
霊夢 :「グレーは、魔理沙・幽々子・大妖精・小町・こいし・幽香・天子・にとり・椛・映姫の10人よ」
幽々子 :「は~い。ここから怪しい人に投票するのよねぇ」
小町 :「あー、あたいも投票されるのか。いきなり吊られたら悲しいねぇ」
椛 :「何を暢気な。吊られたいんですか」
幽香 :「まぁまぁ、そんなに必死だと、逆にどうしても吊られたくない人に見えるわよ? 椛さん」
天子 :「ふふ、そういう貴方も、随分と余裕のあるところから物を言うわね。噛まれる心配がないのかしら」
幽香 :「後から便乗してくる人ほど、人外のように見えるわね」
ナズーリン :「ここで殴り合いをしている中に一人は人外がいるかな? この段階では相手が白か黒かほとんど分からないのに、吊りに持っていこうとするのは村人ではない」
さとり :「……安全圏からのさりげない誘導。それも気になりますけどね」
なるほど。ここも打ち合わせ通り。
幽香は他のプレイヤーを攻撃する役割。そして私は鳴りを潜めて生き残る役割。二つの役割をそれぞれが受け持つことに成功している。
一口に潜伏人狼といっても、その立ち回りや発言によって、いくつかの種類に分けられる。
例えば口数を少なく、あくまでも目立たない、いわばステルス。
他の村人を攻撃して吊ろうとしたり、場を荒らしていく口達者。
いかにもな推理を披露し、完璧に村人を演じようとする役者。
トリッキーなのでは、初心者っぽく見せるなんてのもあるらしい、が今回はあいにくと顔を合わせる以上、初心者を装うのは無理だが。
それぞれの立ち回りで、どれが票をもらうのか、占われるのか。それは決まっているわけじゃない。そんなのが決まっていたら、必勝パターンになってしまう。このゲームは勝ちやすいパターンはあっても、必勝パターン、つまり正解はないのだから。
つまり所詮は相手の心理次第ということなのだ。そんな中でも、私は上手い具合に役割を持って“散る”のが潜伏のコツだと思っている。
よって幽香の攻撃、殴りはありがたい。そちらで争っているのに目がいって、私のようなステルス気味の人狼が発する些細な獣臭さが、いくぶんか誤魔化されるからだ。
このゲーム。熱くなった者に勝ちはこない。
最後まで冷め切る。それも私の考えるコツの一つだ。
だから私たちは熱い議論を交わしているつもりでも、心の底は冷え切っていなければならない。
そして村人の中にも冷えた目で、獣臭さを嗅ぎ分けてくる者がいるに違いないのだ。
だが、そういった冷えた村人は噛み殺すことができる。人狼にはそのアドバンテージがある。
時計の針が、昼の時間が終わるのを知らせる。椛、幽香、天子あたりの軽い言い合いで時間は使い果たされた。
正直な話、初日である二日目昼に話すことは、そんなに多くはない。よほど稀有なパターンが起きない限り、なにか人外が致命的なミス発言をしない限り、話すことは大体決まっているのだ。
だから初日の投票で重要なのは印象。その印象の操作を彼女たちは行なっていた。
不思議なもので、幽香が椛に因縁をつけていると、大して椛のことを気にしていなかった人も、なんだか椛が怪しいと思ったりするのだ。それは逆の効果を生むこともあり、諸刃の刃ではあるのだが。
とにかく、昼の時間は終わった。
っと、気づけばいつの間にか、私の手には一枚の紙片が握らされている。
そこには「処刑投票用紙」と明記されていた。
咲夜によるアナウンスを聞き終えると同時、テーブルの上に箱が置いてあることに気づく。さっきまでは無かったはずの投票箱だ。
これもまた、時間停止による事務作業なのだろう。能力の無駄遣いにもほどがある。
箱の頭上にあいた小さな口は、投票用紙がやってくるのを静かに待っていた。
参加者も互いに覗き見をするつもりはないのだろうが、並べられた食器によって誰が誰の名前を書いているだのは、分からないようになっている。
私は用意された羽ペンで、さらりと名前を書き、そして用紙を半分に折り、ゆっくりと投票する。
少し賭けになってしまうが、私の投票先は……ここだ。
さぁ、初日に吊られるのは……誰だ?
……いきなり、私か幽香が吊られるのは厳しすぎる。
吊られるのが、人狼ではないことを……祈って。
◇ ◇ ◇
紅魔館村 2日目投票結果
魔理沙 (1票)→幽香 | 幽々子 (4票)→椛 | ナズーリン (0票)→幽香 | 大妖精 (0票)→椛 |
小町 (1票)→幽々子 | さとり (0票)→にとり | こいし (0票)→魔理沙 | 幽香 (2票)→椛 |
天子 (1票)→幽々子 | 衣玖 (0票)→天子 | にとり (1票)→椛 | 椛 (5票)→小町 |
霊夢 (0票)→幽々子 | 紫 (0票)→椛 | 映姫 (1票)→幽々子 | 神奈子 (0票)→映姫 |
◇ ◇ ◇
「いわゆる、噛みすぎって奴ね。彼女の場合、吠えすぎかしら?」
「とりあえずは、無事に乗り越えたな。初日のグレラン」
「票のもらい方も悪くないと思います」
部屋に戻ってきた私たちは、全員が欠けることなく夜を迎えたことを喜ぶ。
そして時間を惜しむように、意見交換を始めた。
「思ったよりも票がバラけたな。初心者臭い幽々子か小町あたりが吊れると思ったんだが」
「まぁ、椛さんは幽香さんと紫さんの人外2人から票をもらってますから、しょうがないですね。……それにしても、“あの演出”はびっくりするので止めて欲しいです」
衣玖は胸に手をあてて溜息をついた。
“あの演出”とはつまり、投票結果が発表されると同時に、いつの間にか椛を模った人形が天井からぶら下がっているという、悪趣味極まりないマジックのことだろう。
いちいち時を止めて何か仕掛けてくるのは、心臓に悪いので控えてもらいたい。それは私も同じである。
「さて、と。……いきなり真偽がついたわけだが、どうする?」
2日目の夜。人狼が決定するのは、人狼最大の武器である噛み先と、占い騙りがCOする結果の2点だろう。
占いをいきなり噛みにいくのか。それとも狩人や共有を狙ってグレーを噛むのか。――そこが悩みどころなのだが……せっかく占いの真偽がはっきりしたのだ。今回は前者でいきたい。
「まぁ、占いの内訳はバレるでしょうが。どうせ占いを抜いたらローラーされるんですから、私はかまいませんよ。神奈子さん噛みでも」
「神奈子を噛んだ場合。真偽が判明する位置は【紫の衣玖○(衣玖が人狼)】か、【衣玖のさとり○(さとりが人狼)】のパターンしかない。人狼が真偽のついていない占いを噛んできた、というのも十分にあるから、すぐにはローラーされないでしょうけど。まっ、いずれ処理されるのは仕方がないわよね」
「よーし。それじゃあ神奈子を噛もうぜ。霊能も出てきたし、占いが狩人に守られている確率は、ちょっと少ないからな」
「まぁ、狂人は破綻しちゃうけど、それも仕方がないわよね」
「真偽を最速でつけて、上手くいけば吊りも消費してくれるんだ。狂人としては最高の仕事じゃないか?」
そう。真である神奈子を噛むということは、衣玖○を出した紫の破綻を意味する。
紫目線では衣玖が狂人なのだから、噛まれた神奈子は狂人ではない。ということで辻褄が合わなくなるのだ。
だが紫のことだ。恐らくは咄嗟に占い結果を神奈子○とし、狐呪殺+護衛or狐噛みという主張をするのだろうが……それはあまりにも無理がある。どちらにせよ偽物と判断され、吊られてしまうだろう。
仲間である狂人を切り捨てることになるのは心苦しいが、吊りを消費するのも狂人という役職の役割なのだ。
「それでは、私の占いはどうしましょうか? 幽香さんに囲い要りますか?」
「いや、大丈夫よ。票もらっちゃったけど、ひとつは身内票だしね。大丈夫だと思う」
「あ、ああ、そうだった。思い切って身内票を入れてみたんだよ。少しひやりとしたぜ。悪いな」
「構わないわよ。今夜、神奈子が私を占ったりしていたら、あの身内票が生きてくるしね。まぁ、実際のところ、神奈子は結果を発表できずに死んでしまうわけだけど」
「それでは、私は適当なところに○を出しておきますね。どうせならスケープゴートになりそうな人を選んでおきましょう。神奈子さん噛みで、どうせ偽物扱いされますからね」
「共有は潜伏しているし、簡単に●は出せない。狂人がサクッと共有トラップを踏んで、両方引き釣り出してくれるとありがたいんだが」
「真を抜けば、多分●を出してくれると思うわ。あの狂人、察しが良さそうだもの」
「共有者は誰でしょうね。大妖精、天子、映姫あたり役持ち臭いですが」
「閻魔は仕切りに出てきたからなぁ、いかにも共有っぽいんだが。んー、それだとあからさまかな。票が入っていないところだと大妖精か、ここは狐だと怖いかな」
「共有ねぇ。片方はナズーリンじゃないかしら。両方グレーにいてCOしないっていうのも結構な思い切りだし。片方が○をもらっているなら潜伏するのも分かるしね。相方は四季映姫、こいし辺りと感じたわ。ただ閻魔様っていうのを考えると、存在そのものが共有者みたいなもんじゃない。だからねぇ、あれが素だから……」
「それは言えてるぜ。時々、なんで私がこいつに説教されなくちゃいけないんだ? って思うからな。共有者みたいな決定権持ってるよな、閻魔って」
「それを言うなら、共有者が閻魔みたいな決定権を持っている、というべきでは……。っと、そろそろ時間ですね。それでは、私が噛みをやりますので」
「了解よ。噛み先は神奈子、占いは?」
「小町さんに○の予定です」
「それじゃ、また明日も頑張ろう。この調子だぜ」
「ええ、おやすみなさい……といっても、まだお昼だけど」
あ、そうだった。ゲームの中では夜中といっても、現実世界はまだお昼なんだよな。
余談になるが。
ゲーム内での「2日目朝」は、現実世界の朝7時からスタートした。そしてゲーム内の今、「2日目夜」は昼の11時まで。「3日目の朝」は昼の12時からという具合。朝~昼と昼~夜の2部構成により、現実世界での1日でゲーム内は2日進む。
よって私の食費が浮くのは、おおよそ4日程度、になる予定というわけだ。
「……ふぅ」
相談を終えた私は、明日に向けて“準備”をする。
まず神奈子の人形が食卓の上に転がるのを見て、驚き慄く顔の練習。
どんな反応をするのか? 冷静な村人か、焦る村人か。神奈子を真と見るのか、はたまた人狼からも真偽がついていない、狂人噛みかもしれないと見るのか。自分の立ち位置を考え、私は狼から人への擬態を始める。
どうやって村人を食い殺すかの算段をしていた顔は、憎き人狼をあぶりだす為に勇気を振り絞る村人のものへと変質するのだ。
占いを抜けば(噛めば)、あとは狐をいかに早く把握および始末し、自分たちが生き残るかの勝負だ。つまり勝敗は潜伏人狼である自分と幽香の腕にかかっている。肩の力を抜き、気合を入れて、私は夜明けを待った。
こうして村人・魔理沙は、3日目の舞台へと上がる。
続きを楽しみにしていますッ!
前回は霊夢で共有者 今回は魔理沙で人狼側期待しています!
ゲーム自体はやったことがなのですが、推理物は好きなので続きを楽しみにしています。
今回は人狼側ですか!
続き楽しみにしています。
人外陣が判明してるって、古畑任三郎みたいな楽しみもありそうですね。
続きを楽しみにしてます。頑張ってください。
サードシーズンは狂人視点?
続き期待しております