水橋パルスィの朝は早い。
「ん……」
別に橋の番人の仕事は朝が早いわけでもないし、そもそも”渡る者の途絶えた橋”なんて言われてるのだから仕事をやる意味すらあってないようなものである。前にこの事をさとりに話したら「あら、そうなったら地霊殿で私が面倒を見ますよ。三食付きでパルスィは何にもしなくていいんです。あ、でも外に勝手に行かないように部屋に鍵を付けないといけないわね。首輪も必要かしら、ペットだから躾もしないといけないわね。うふふふふふ…」と言ってたのを思い出してしまった。割と目がマジだったのでしばらく、地霊殿に近付くのはやめておこう。さて、朝から現実逃避をするのをやめ、目の前の現実に目を向ける。
「なんでまたあんたがここにいるのよ……」
彼女の布団の中にはもう一人、銀色の髪を肩まで伸ばした幼い少女、古明地こいしがこれまたずいぶん幸せそうな顔で眠っていた。
何を隠そう彼女こそがここ最近の彼女の安眠を妨害している張本人なのだ。
「ちょっと、ねえ、起きなさいってば。」
「うーん、むにゃむにゃ。もうおはかいっぱい。」
「なにそれこわい。」
いったいどんな夢を見ているというのか。大変興味深いところだが今はスルーしておく。
「あ、おはようパルスィ。よく眠れた?」
「おかげさまでね。とりあえず人の家に毎回勝手に忍び込んでいる理由を聞かせてもらおうかしら?」
「恋するこいしちゃんは切なくてパルスィを思うとすぐ忍び込んじゃうの。」
「そんな爛れた考えは灼熱地獄にでも捨ててくれないかしら。」
「あ、ひどーい。謝罪として今日はパルスィの家で朝ごはんをいただくことを要求するー。」
「何でそうなるのよ……」
そんなやりとりをここ最近ずっと繰り返している気がする。だいたい1週間くらいまえだっただろうか。朝、目が覚めたらこいしが私のお腹の上に跨っていたのだ。勝手に家に入られたのにも驚いたのだが、上にいるこいしが獲物を狩るような目で息を荒げながら私の顔を見下ろしていたことの方が正直怖かった。たぶんあのタイミングで起きなかったら私の純潔は寝ている間に散っていたことだろう。姉妹揃ってどうかしていると思う。そんなことを考えながら布団をたたんで押し入れに入れる。こいしは何が楽しいのかニコニコしながら私の後ろをついてきている。そういえばこいしはどうやって私の家に入っているのだろう。ふと気になって質問してみた。
「ねえ。」
「なーに?」
「あんたどうやって私の家に入ってきてるのよ。戸締りもちゃんとしてる、鍵も掛けてる、無理やり開けようものなら普通気付くはずなんだけど。」
「ああ、それね。パルスィは寝てるとき寝返りするよね?」
「まあ、自分じゃ気付かない内にやってるわね。」
「つまり、それって自分じゃ意識してないってことよね?」
「そうだけど、あ。」
「種がわかったみたいね。つまり、私は寝ているときにパルスィの無意識を操ってたの。」
「それで、私が勝手に無意識に家の鍵を開けてたってわけね。」
「大正解!!初めて成功したときはもう興奮しちゃって。ついパルスィを襲っちゃう所だったわ。」
まさに、鬼に金棒、神主に酒、こいしに無意識。どうしようも無いじゃない。てか神主って何よ。
「今度からは普通に呼び鈴を鳴らして入ってきてくれるとうれしいわね。」
「それじゃパルスィの寝顔見られないじゃない。」
「別に泊まりたいならいつでも来なさいよ。人ひとりぐらい泊めるスペースはあるんだから。」
「え、いいの!?やった!パルスィ公認だ!お姉ちゃんに自慢してやろうっと。」
「好きにしなさいよ。それでさっき言ってたけどご飯食べてくの?」
「うん!食べる。」
そういいながらこいしは嬉しそうにニコリと笑う。それにしても私みたいな嫌われ者の所にわざわざ泊まりに来ようだの、朝ご飯を食べようだなんて変な娘。そんなことを考えながら
朝食の準備に取り掛かるため台所へと向かう。その途中ちりん、と玄関の呼び鈴が鳴る音が聞こえた。こんな朝早くに2度目の来客なんてわざわざこんな辺鄙なところにやって来るなんてこいしの他にも変わったやつがいるんだなあ、と思いつつ適当に生返事を返し玄関を開ける。
「はい、どちらさm「パルスィーーーーーーーーーー!!!!久しぶりーーーーーー!!!」
玄関開けたと思ったらマシュマロが突っ込んできた。いや、まあ冗談なんだけど。実際は玄関開けたら抱きつかれて、抱きついてきた方の身長が頭一つ分高かったから私の顔面にそれはそれ豊かな二つの山が押しつけられているといったほうが正しい。私が男なら非常にいい思いをしているだろうがあいにくにも私は嫉妬の妖怪で女だ。その私からすれば妬ましいことこの上ない。柔らかいし、何かいい匂いしるし、ちくしょうめ。
「ねえお空、これは朝から私に対する嫌がらせと受け取っていいのかしら。」
「あのね、久しぶりにさとり様からお休み貰ったの!だから今日はずうっと一緒ね!」
「話聞きなさいよ。後、いい加減胸から解放させてくれるとありがたいんだけど。」
「うにゅ?」
そういいながらお空は視線を下に向ける。そうすれば身長差から下から彼女の顔を見上げながら話す私と目が合うことになる。じーっと互いに目を合わせること数秒、お空は何が楽しいのか顔いっぱいに満面の笑みを作りながら
「だめー。今日はずっと一緒なの。だからずっとぎゅーってしてるね。」
「えー……」
そういう彼女はそれはそれは嬉しそうに、地獄の人工太陽の名に恥じないくらい明るい笑顔で答え、さっきよりも強く抱きしめる。とてもじゃないけど断れそうにない。断ろうにもすごい勢いで良心が咎める。
「だめよお空。パルスィ困ってるじゃない。」
救いの女神は思わぬところにいた。やっぱり持つべきものは友達よね。感謝の意を込めこいしに礼を言おうと振り返ると。
「うふふふ……飼い主のものに勝手に手を出すなんていけないわね。お仕置きしてあげるわ……」
女神じゃなくて悪魔でした。え、何あれ目死んでるし、小声ですごい物騒なこと言ってるんだけど。
「む、ダメですよ。こいし様でもパルスィは渡しません!!」
「そう。なら、パルスィは誰のものか解らせてあげる!!勝負よ!!」
「望むところですよ!核エネルギーの力見せてあげます!!」
「こっちこそ!無意識の弾幕を味わいなさい!!」
「人の家で暴れんな。」
とりあえず手近にあった丑の刻参り用の釘を投げておいた。
「何するのよ!?危ないじゃん!!」
「そうよ!!飼い主に刃向かうなんていけない娘ね!!」
いつ私はこいしのペットになったのだろう。まあ私の横槍のおかげでとりあえずは二人とも頭にのぼった熱は冷めたようだ。
「朝からうるさいのよあんた達は。こいし、あんたご飯食べてくんでしょ、先に準備しといてくれない?それとお空あんたも食べていきなさいよ。今さら一人も二人も変わらないんだし。」
「ホント!?じゃあいただきます!」
「なんか釈然としないなあ……」
そんなこんなで三人揃ってご飯とみそ汁、それにたくあんだけの我ながら質素だと思う朝ごはんに手を付ける。食べながらこいつら私のことが好きなのかな、との考えが頭をよぎったが、気のせいということにしておいた。ついでに、いつもよりみそ汁があったかく感じたのもきっと気のせいだろう。うん。
「ん……」
別に橋の番人の仕事は朝が早いわけでもないし、そもそも”渡る者の途絶えた橋”なんて言われてるのだから仕事をやる意味すらあってないようなものである。前にこの事をさとりに話したら「あら、そうなったら地霊殿で私が面倒を見ますよ。三食付きでパルスィは何にもしなくていいんです。あ、でも外に勝手に行かないように部屋に鍵を付けないといけないわね。首輪も必要かしら、ペットだから躾もしないといけないわね。うふふふふふ…」と言ってたのを思い出してしまった。割と目がマジだったのでしばらく、地霊殿に近付くのはやめておこう。さて、朝から現実逃避をするのをやめ、目の前の現実に目を向ける。
「なんでまたあんたがここにいるのよ……」
彼女の布団の中にはもう一人、銀色の髪を肩まで伸ばした幼い少女、古明地こいしがこれまたずいぶん幸せそうな顔で眠っていた。
何を隠そう彼女こそがここ最近の彼女の安眠を妨害している張本人なのだ。
「ちょっと、ねえ、起きなさいってば。」
「うーん、むにゃむにゃ。もうおはかいっぱい。」
「なにそれこわい。」
いったいどんな夢を見ているというのか。大変興味深いところだが今はスルーしておく。
「あ、おはようパルスィ。よく眠れた?」
「おかげさまでね。とりあえず人の家に毎回勝手に忍び込んでいる理由を聞かせてもらおうかしら?」
「恋するこいしちゃんは切なくてパルスィを思うとすぐ忍び込んじゃうの。」
「そんな爛れた考えは灼熱地獄にでも捨ててくれないかしら。」
「あ、ひどーい。謝罪として今日はパルスィの家で朝ごはんをいただくことを要求するー。」
「何でそうなるのよ……」
そんなやりとりをここ最近ずっと繰り返している気がする。だいたい1週間くらいまえだっただろうか。朝、目が覚めたらこいしが私のお腹の上に跨っていたのだ。勝手に家に入られたのにも驚いたのだが、上にいるこいしが獲物を狩るような目で息を荒げながら私の顔を見下ろしていたことの方が正直怖かった。たぶんあのタイミングで起きなかったら私の純潔は寝ている間に散っていたことだろう。姉妹揃ってどうかしていると思う。そんなことを考えながら布団をたたんで押し入れに入れる。こいしは何が楽しいのかニコニコしながら私の後ろをついてきている。そういえばこいしはどうやって私の家に入っているのだろう。ふと気になって質問してみた。
「ねえ。」
「なーに?」
「あんたどうやって私の家に入ってきてるのよ。戸締りもちゃんとしてる、鍵も掛けてる、無理やり開けようものなら普通気付くはずなんだけど。」
「ああ、それね。パルスィは寝てるとき寝返りするよね?」
「まあ、自分じゃ気付かない内にやってるわね。」
「つまり、それって自分じゃ意識してないってことよね?」
「そうだけど、あ。」
「種がわかったみたいね。つまり、私は寝ているときにパルスィの無意識を操ってたの。」
「それで、私が勝手に無意識に家の鍵を開けてたってわけね。」
「大正解!!初めて成功したときはもう興奮しちゃって。ついパルスィを襲っちゃう所だったわ。」
まさに、鬼に金棒、神主に酒、こいしに無意識。どうしようも無いじゃない。てか神主って何よ。
「今度からは普通に呼び鈴を鳴らして入ってきてくれるとうれしいわね。」
「それじゃパルスィの寝顔見られないじゃない。」
「別に泊まりたいならいつでも来なさいよ。人ひとりぐらい泊めるスペースはあるんだから。」
「え、いいの!?やった!パルスィ公認だ!お姉ちゃんに自慢してやろうっと。」
「好きにしなさいよ。それでさっき言ってたけどご飯食べてくの?」
「うん!食べる。」
そういいながらこいしは嬉しそうにニコリと笑う。それにしても私みたいな嫌われ者の所にわざわざ泊まりに来ようだの、朝ご飯を食べようだなんて変な娘。そんなことを考えながら
朝食の準備に取り掛かるため台所へと向かう。その途中ちりん、と玄関の呼び鈴が鳴る音が聞こえた。こんな朝早くに2度目の来客なんてわざわざこんな辺鄙なところにやって来るなんてこいしの他にも変わったやつがいるんだなあ、と思いつつ適当に生返事を返し玄関を開ける。
「はい、どちらさm「パルスィーーーーーーーーーー!!!!久しぶりーーーーーー!!!」
玄関開けたと思ったらマシュマロが突っ込んできた。いや、まあ冗談なんだけど。実際は玄関開けたら抱きつかれて、抱きついてきた方の身長が頭一つ分高かったから私の顔面にそれはそれ豊かな二つの山が押しつけられているといったほうが正しい。私が男なら非常にいい思いをしているだろうがあいにくにも私は嫉妬の妖怪で女だ。その私からすれば妬ましいことこの上ない。柔らかいし、何かいい匂いしるし、ちくしょうめ。
「ねえお空、これは朝から私に対する嫌がらせと受け取っていいのかしら。」
「あのね、久しぶりにさとり様からお休み貰ったの!だから今日はずうっと一緒ね!」
「話聞きなさいよ。後、いい加減胸から解放させてくれるとありがたいんだけど。」
「うにゅ?」
そういいながらお空は視線を下に向ける。そうすれば身長差から下から彼女の顔を見上げながら話す私と目が合うことになる。じーっと互いに目を合わせること数秒、お空は何が楽しいのか顔いっぱいに満面の笑みを作りながら
「だめー。今日はずっと一緒なの。だからずっとぎゅーってしてるね。」
「えー……」
そういう彼女はそれはそれは嬉しそうに、地獄の人工太陽の名に恥じないくらい明るい笑顔で答え、さっきよりも強く抱きしめる。とてもじゃないけど断れそうにない。断ろうにもすごい勢いで良心が咎める。
「だめよお空。パルスィ困ってるじゃない。」
救いの女神は思わぬところにいた。やっぱり持つべきものは友達よね。感謝の意を込めこいしに礼を言おうと振り返ると。
「うふふふ……飼い主のものに勝手に手を出すなんていけないわね。お仕置きしてあげるわ……」
女神じゃなくて悪魔でした。え、何あれ目死んでるし、小声ですごい物騒なこと言ってるんだけど。
「む、ダメですよ。こいし様でもパルスィは渡しません!!」
「そう。なら、パルスィは誰のものか解らせてあげる!!勝負よ!!」
「望むところですよ!核エネルギーの力見せてあげます!!」
「こっちこそ!無意識の弾幕を味わいなさい!!」
「人の家で暴れんな。」
とりあえず手近にあった丑の刻参り用の釘を投げておいた。
「何するのよ!?危ないじゃん!!」
「そうよ!!飼い主に刃向かうなんていけない娘ね!!」
いつ私はこいしのペットになったのだろう。まあ私の横槍のおかげでとりあえずは二人とも頭にのぼった熱は冷めたようだ。
「朝からうるさいのよあんた達は。こいし、あんたご飯食べてくんでしょ、先に準備しといてくれない?それとお空あんたも食べていきなさいよ。今さら一人も二人も変わらないんだし。」
「ホント!?じゃあいただきます!」
「なんか釈然としないなあ……」
そんなこんなで三人揃ってご飯とみそ汁、それにたくあんだけの我ながら質素だと思う朝ごはんに手を付ける。食べながらこいつら私のことが好きなのかな、との考えが頭をよぎったが、気のせいということにしておいた。ついでに、いつもよりみそ汁があったかく感じたのもきっと気のせいだろう。うん。
総受けはありですとも。ってコーヒーのお方じゃないですか。