◆
愛用している刀を鞘から抜き出し、打ち粉を軽く乗せ、拭い紙でふき取る。
思えば、この官給品を良く使って来たものだ。最初支給された時は刀身が艶消しされ黒ずんでいたのに、今では立派な銀色に光り輝いている。
『貴方の刀は綺麗ですね、銀色でとっても綺麗』
『ありがとうございます』
そして刀の柄部分に結わえつけられた根付けを見る。私の昇進祝いにあの方が下さったものだ。
『はい、これ』
『…なんです?これ』
『お守りです、貴方が必ず無事お役目を果たせるよう祈ってます』
『………ありがとうございます』
私の刀を見て上官から幾度も幾度も新品と交換しろと催促されるが、どうにもそんな気は起こらない。
彼女の笑顔の為なら、整備点検の減点なんて気にならない。
最後に鞘に収め、深く御辞儀をする。
「何時もお世話になってます」
■
思えば、この手帳も草臥れたものだ。
駆け出しの頃から使っている。大事な大事な私の仕事道具。
『新聞大会頑張ってください』
これを私にくれたのは私に何時もついて来てくれた白狼天狗。なけなしの彼女の給料で買ってもらった手帳。
『…良いんですか?』
『はい!』
結局、その年の新聞大会は入選止まり、でも真っ先に慰めてくれたのも彼女だった。
『……今年も、駄目でした、せっかく買ってもらった手帳でネタを集めたのに』
『気を落とさないで下さい、入選出来たなら次はきっと優勝できますよ』
そんな彼女の優しい言葉に何度救われたろうか。
静かに手帳を閉じ、丁寧に置いて頭を下げる。
「何時もお世話になってます」
▲
目を覚まして、何時も立つ門前では無い事を知った。
「あぁ門番長、起きられましたか」
声の下を見やれば私の部下。頭に包帯を巻いて腕を吊っている。
そして痛む自らの体にまたもや気付いた。侵入者の攻撃を防げなかった事に。
「……またやられましたか」
「お気を落とさないで下さい」
またふと気付く、私がいない間の門は誰が守っているのかと。
「メイド長です」
その言葉に私は愕然とした、非戦闘員を立たせている事に。
起きあがろうとする私を部下は片手で押さえる。
「離して下さい!」
「駄目です、メイド長から門番長を今日一日医務室から出すなと言われているんです!」
だからと言って正規兵以外を駆り出すのは良くない、そう言ってベレー帽を取ろうとすると部下はまたもや素早く取り上げる。
「門番長、メイド長以外にも戦闘継続可能の門番隊が固めています、ご心配なさらず、お休み下さい」
「……分かりました」
そして医務長から退室許可が降りた私は真っ先に自室へ向かった。
すると扉の向こうには門番隊の制服に身を包んで眠っている彼女。
慣れない事をして疲れたのだろう、安らかに眠っている。
しかし、やはり彼女に門番隊の制服は似合わない。
彼女にはずっとメイド服を着ていて欲しい、だからこそ頬を撫で一言呟く。
「…お世話になりました」
▼
目を覚まして、着ている服が違う事に気づき、先程まで私が慣れない仕事を終え、眠っていた事を思い出した。
「………寝ていたのね」
既に外は夜になり、主を起こしに行かなければならない時間は近づいている。
しかしそれよりも目を奪われたのは執務卓に突っ伏して眠っている傷だらけの彼女。
目を擦りながら近づき、見つめる。
綺麗な肌と紅い髪、そして目に付くのは無数の傷。
門番以外にも妹様の相手やお嬢様の名代、様々な仕事が彼女には課せられている。
所詮炊事洗濯家事全般をこなすだけの私には到底真似できない芸当。
そんな彼女に私は、甘え過ぎだったのかもしれない。
「……お疲れ様」
静かに呟き、その綺麗な紅い髪をひと撫ですると、指に引っかかる事無くさらさら流れる。
でも、傷だらけの彼女は見たくない。呑気に涎垂らして昼寝している彼女の方が私は好き。
だから彼女の出来ない事は私が全力で支えたい。
最後に彼女の柔らかい頬に指を埋め、呟く。
「…お世話になってます」
愛用している刀を鞘から抜き出し、打ち粉を軽く乗せ、拭い紙でふき取る。
思えば、この官給品を良く使って来たものだ。最初支給された時は刀身が艶消しされ黒ずんでいたのに、今では立派な銀色に光り輝いている。
『貴方の刀は綺麗ですね、銀色でとっても綺麗』
『ありがとうございます』
そして刀の柄部分に結わえつけられた根付けを見る。私の昇進祝いにあの方が下さったものだ。
『はい、これ』
『…なんです?これ』
『お守りです、貴方が必ず無事お役目を果たせるよう祈ってます』
『………ありがとうございます』
私の刀を見て上官から幾度も幾度も新品と交換しろと催促されるが、どうにもそんな気は起こらない。
彼女の笑顔の為なら、整備点検の減点なんて気にならない。
最後に鞘に収め、深く御辞儀をする。
「何時もお世話になってます」
■
思えば、この手帳も草臥れたものだ。
駆け出しの頃から使っている。大事な大事な私の仕事道具。
『新聞大会頑張ってください』
これを私にくれたのは私に何時もついて来てくれた白狼天狗。なけなしの彼女の給料で買ってもらった手帳。
『…良いんですか?』
『はい!』
結局、その年の新聞大会は入選止まり、でも真っ先に慰めてくれたのも彼女だった。
『……今年も、駄目でした、せっかく買ってもらった手帳でネタを集めたのに』
『気を落とさないで下さい、入選出来たなら次はきっと優勝できますよ』
そんな彼女の優しい言葉に何度救われたろうか。
静かに手帳を閉じ、丁寧に置いて頭を下げる。
「何時もお世話になってます」
▲
目を覚まして、何時も立つ門前では無い事を知った。
「あぁ門番長、起きられましたか」
声の下を見やれば私の部下。頭に包帯を巻いて腕を吊っている。
そして痛む自らの体にまたもや気付いた。侵入者の攻撃を防げなかった事に。
「……またやられましたか」
「お気を落とさないで下さい」
またふと気付く、私がいない間の門は誰が守っているのかと。
「メイド長です」
その言葉に私は愕然とした、非戦闘員を立たせている事に。
起きあがろうとする私を部下は片手で押さえる。
「離して下さい!」
「駄目です、メイド長から門番長を今日一日医務室から出すなと言われているんです!」
だからと言って正規兵以外を駆り出すのは良くない、そう言ってベレー帽を取ろうとすると部下はまたもや素早く取り上げる。
「門番長、メイド長以外にも戦闘継続可能の門番隊が固めています、ご心配なさらず、お休み下さい」
「……分かりました」
そして医務長から退室許可が降りた私は真っ先に自室へ向かった。
すると扉の向こうには門番隊の制服に身を包んで眠っている彼女。
慣れない事をして疲れたのだろう、安らかに眠っている。
しかし、やはり彼女に門番隊の制服は似合わない。
彼女にはずっとメイド服を着ていて欲しい、だからこそ頬を撫で一言呟く。
「…お世話になりました」
▼
目を覚まして、着ている服が違う事に気づき、先程まで私が慣れない仕事を終え、眠っていた事を思い出した。
「………寝ていたのね」
既に外は夜になり、主を起こしに行かなければならない時間は近づいている。
しかしそれよりも目を奪われたのは執務卓に突っ伏して眠っている傷だらけの彼女。
目を擦りながら近づき、見つめる。
綺麗な肌と紅い髪、そして目に付くのは無数の傷。
門番以外にも妹様の相手やお嬢様の名代、様々な仕事が彼女には課せられている。
所詮炊事洗濯家事全般をこなすだけの私には到底真似できない芸当。
そんな彼女に私は、甘え過ぎだったのかもしれない。
「……お疲れ様」
静かに呟き、その綺麗な紅い髪をひと撫ですると、指に引っかかる事無くさらさら流れる。
でも、傷だらけの彼女は見たくない。呑気に涎垂らして昼寝している彼女の方が私は好き。
だから彼女の出来ない事は私が全力で支えたい。
最後に彼女の柔らかい頬に指を埋め、呟く。
「…お世話になってます」
そそわと、それを見るため五年くらい働きっぱなしのモバイルに。お世話になってます。
その気持ちを持ち続ける、「有」るのが「難」しいから有難うなんですかね。
何時も作品を形にしてくれるPCとキーボード、そして出来上がった作品を投稿する此処。
何時も何時も有難う御座います。