「飛んでったなあ」
裏口から一本の灯火が森へと薄く線を引くように伸びていく。それはただの人間では引けない、空を裂くようにして描かれるものだった。
その光景を縁側で見ていた男がぼそり、と呟く。誰に聞かせるつもりでもなかったその言葉は、しかし人ならぬモノに拾われた。
「随分と寂しくなりますね」
「はっ!」
いつの間にやら隣に腰掛けた妖怪のセリフに、しかし男は嘲笑一つで返事とした。
「馬鹿馬鹿しい。アレはテメエのやりたいことをテメエのやりたいようにやるために出てったんだぜ。それは他人がどうこういう筋合いじゃねえだろうよ」
「あら、それでも遠くに行ってしまうんだし寂しいことじゃありませんか」
これにもまた、先ほど同様に男は嘲笑一つで返事とする。
「第一、魔法使いになろうって言うだけで勘当だなんて少々やり過ぎなのではありませんか?」
男の嘲笑にも優雅に薄くほほえんだままの妖怪に、男は強張ったような強い笑いを浮かべる。
「アレにゃ魔法はやるな、って言ってあったんだ。それを破ってまでやろうってんなら、それ相応の代償が必要だろう。なあ、賢者様よ」
「そんなに魔法を使うことがいけないことだとは思いませんが? わざわざ店の棚からも魔法の導具を排除までしてしまって」
「魔法をやることを禁じたんじゃねえよ。魔法をやることで気がつくことがあるからそれを禁じたかったんだよ。俺はな」
男のぼやきに似た言葉に賢者と呼ばれた妖怪は可笑しそうに喉を震わせる。
「そう、やっぱりそのために、わざわざ店の品物から魔法具を遠ざけていたのね。無ければ知らずに済むだろう、なんていうのは親の理屈でしかありませんわ」
「忌々しいことに言う通り、効きゃあしなかったな。どこでか知らねえけど、魔法の知識を仕入れて来やがって。かえるの子はかえる、ってのはこういうことを言うだろうなあ」
男のその言葉に、妖怪は震わせていた喉をゆっくりと止めると、何かをさぐるように薄く目を細めた。
「そう言うのは、瓢箪から駒、と呼ぶのよ。里一番の店主が物知らずじゃバカ呼ばわりされて恥をかくだけですわ」
「そうかい。俺あてっきり、バカ呼ばわりされるよりも間抜け呼ばわりされるもんだとばっかり思ってたんだがなあ」
「無知でバカ呼ばわりされるとしても、無知で間抜け呼ばわりされるとは思いませんわ。その位の分別は付けた方がいいですわ」
「そうかねえ。何も知らずに育てるホオジロやモズなんかを間抜け呼ばわりするんだ、俺のことも間抜け呼ばわりして可笑しくねえだろ」
その言葉に妖怪ははっきりと男の顔を見る。
「ご要望通り、確かに魔法使い、まあガキだがよ、納品したぜ。後は似るなり焼くなり巫女の相手をさせるなり、好きにしね」
「どういう風の吹き回しでそんな結論になったのかしら?」
「おめえさんが無知過ぎっから、そんな結論になるんだよ。他所ん家の女房に手え出してガキ仕込もうって考えんだったら、十月十日の勘定位しろや。大方処女受胎だ、星の巡りだなんだで、仕込んじまったんだろうが、そこらは甘えな。スキマ妖怪様よ」
「貴方は」
そこで男は始めて妖怪の言葉を遮るように、遠くを指さした。うっすらと月に照らされたその顔はまるで泣いているよう笑い顔だった。
「見ろよ、無事にカッコウが次の巣にたどり着いたぜ。あばよクソガキ、二度と娘ヅラして敷居跨ぐんじゃねえぞ」
裏口から一本の灯火が森へと薄く線を引くように伸びていく。それはただの人間では引けない、空を裂くようにして描かれるものだった。
その光景を縁側で見ていた男がぼそり、と呟く。誰に聞かせるつもりでもなかったその言葉は、しかし人ならぬモノに拾われた。
「随分と寂しくなりますね」
「はっ!」
いつの間にやら隣に腰掛けた妖怪のセリフに、しかし男は嘲笑一つで返事とした。
「馬鹿馬鹿しい。アレはテメエのやりたいことをテメエのやりたいようにやるために出てったんだぜ。それは他人がどうこういう筋合いじゃねえだろうよ」
「あら、それでも遠くに行ってしまうんだし寂しいことじゃありませんか」
これにもまた、先ほど同様に男は嘲笑一つで返事とする。
「第一、魔法使いになろうって言うだけで勘当だなんて少々やり過ぎなのではありませんか?」
男の嘲笑にも優雅に薄くほほえんだままの妖怪に、男は強張ったような強い笑いを浮かべる。
「アレにゃ魔法はやるな、って言ってあったんだ。それを破ってまでやろうってんなら、それ相応の代償が必要だろう。なあ、賢者様よ」
「そんなに魔法を使うことがいけないことだとは思いませんが? わざわざ店の棚からも魔法の導具を排除までしてしまって」
「魔法をやることを禁じたんじゃねえよ。魔法をやることで気がつくことがあるからそれを禁じたかったんだよ。俺はな」
男のぼやきに似た言葉に賢者と呼ばれた妖怪は可笑しそうに喉を震わせる。
「そう、やっぱりそのために、わざわざ店の品物から魔法具を遠ざけていたのね。無ければ知らずに済むだろう、なんていうのは親の理屈でしかありませんわ」
「忌々しいことに言う通り、効きゃあしなかったな。どこでか知らねえけど、魔法の知識を仕入れて来やがって。かえるの子はかえる、ってのはこういうことを言うだろうなあ」
男のその言葉に、妖怪は震わせていた喉をゆっくりと止めると、何かをさぐるように薄く目を細めた。
「そう言うのは、瓢箪から駒、と呼ぶのよ。里一番の店主が物知らずじゃバカ呼ばわりされて恥をかくだけですわ」
「そうかい。俺あてっきり、バカ呼ばわりされるよりも間抜け呼ばわりされるもんだとばっかり思ってたんだがなあ」
「無知でバカ呼ばわりされるとしても、無知で間抜け呼ばわりされるとは思いませんわ。その位の分別は付けた方がいいですわ」
「そうかねえ。何も知らずに育てるホオジロやモズなんかを間抜け呼ばわりするんだ、俺のことも間抜け呼ばわりして可笑しくねえだろ」
その言葉に妖怪ははっきりと男の顔を見る。
「ご要望通り、確かに魔法使い、まあガキだがよ、納品したぜ。後は似るなり焼くなり巫女の相手をさせるなり、好きにしね」
「どういう風の吹き回しでそんな結論になったのかしら?」
「おめえさんが無知過ぎっから、そんな結論になるんだよ。他所ん家の女房に手え出してガキ仕込もうって考えんだったら、十月十日の勘定位しろや。大方処女受胎だ、星の巡りだなんだで、仕込んじまったんだろうが、そこらは甘えな。スキマ妖怪様よ」
「貴方は」
そこで男は始めて妖怪の言葉を遮るように、遠くを指さした。うっすらと月に照らされたその顔はまるで泣いているよう笑い顔だった。
「見ろよ、無事にカッコウが次の巣にたどり着いたぜ。あばよクソガキ、二度と娘ヅラして敷居跨ぐんじゃねえぞ」
はじまった...!!
その分もうちょっと続きが欲しいと思った
>好きにしね
誤字?