Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

今ある「日常」と過ぎゆく「日常」と愛のゴリアテ人形

2011/04/29 13:30:34
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※この物語は春のマリアリ連作の4作目で、前作「飲む」私と「飲まれる」私と春の夜桜の続きとなります。また、微量の新作のネタバレを含みます。

 

















 ある春の幻想郷のお話である。薄暗い夜明け前の命蓮寺の裏のお墓を後にして、私は家への帰路に付いていた。

「腹減ったぜー・・・」

 異変の原因がどうも、このお墓にある霊廟にある事までは分かったのだが、強烈な結界に阻まれて進入できなかった。空腹の加減もあったので、今日の捜索はここで断念。
夜明け前の人里には、朝の匂い・・・ご飯が炊ける匂いに味噌汁の芳醇な香りと、朝市の競りの喧騒が、夜明け前の里を賑やかな物にしている。

「アリス、まだ寝てるかな・・・」

 星蓮船を追っかけてた時は、家に待つ人は居なかった。でも、今は私の帰りを待ってくれる愛しの人が居る、帰る場所があるのだ。私は、里の喧騒に穏やかな視線を落としてから、魔法の森の我が家の方へ進路を取った。

「ただいまー」

 魔力施錠を慣れた手つきで開けて、家のドアをくぐる。厨房から立ち込める朝の匂いが私の鼻をくすぐり、お腹を鳴らした。

「あっ、お帰り!魔理沙!!」
「ただいま、アリス。起きてたんだな。」
「ええ、お嫁さんが頑張ってるのに、私一人で寝ていられないわ。」
「そうか。ありがとな、アリス。」
「うん、無事で良かった・・・魔理沙。」

 エプロン姿のアリスに思いっきり抱きつかれた。私もアリスを迎え入れて抱きしめ返す。今回はスペルカードルールとは言えど、死の危険が付きまとうルールであり、緊急事態においては自分から一時的に霊界に飛び込んだりしなくてはならない、危険と隣り合わせな戦い・・・
 アリスの温もりを感じて改めて、自分が今、この世界で生きている事を強く実感させてくれる。大切な人と、この世界で生きている事を。

「大丈夫だ、アリスより先に死ぬつもりは微塵も無いからな。」
「・・・うん。」

 おはようのキスに変えて、ここでただいまのキスをした。離れるのが勿体なくって、しばらくそのまま何回かキスをして、アリスを抱きしめる。静かな時間が流れていって、夢を見ているような気分になる。でも、今私が見ている物は現実なんだ。魚の焼ける香りが追加された辺りで、私はアリスと離れて見つめ合う。

「あ、そうだ、魔理沙。言ってみたかった事があるの。」
「ん?それは何だ?」

 私の問いかけに顔を赤らめて、少しもじもじしながらアリスは私に言ったセリフがこれだ。

「お風呂にする?それともご飯?・・・・それとも、私?」

 なんて威力だ。さっきの戦闘でくぐり抜けてきた弾幕なんて比較にならないくらいの威力ではないか!チチチチチチと理性がグレイズ音と共に、すり減って行くのを感じるんだぜ。でも、それに任せて行動してはいけない事は百も承知だ。だから私は、いつもの笑顔を見せる。

「ご飯にしよう、次はお風呂、それからアリス。その方が合理的だぜ。・・・最後はそのまま寝るだけでいいし、起きて二度手間にならなくて良い。」
「もう、それじゃ・・・お風呂は・・・・・」
「良いじゃないか、それの二度手間は・・・・・」
「魔理沙ったら・・・」

 私は恥ずかしそうに俯くアリスと一緒に朝食の準備が整いつつある居間に入った。炊きたてのご飯の香りと味噌汁の匂いに彩られた私の朝。その横にいる、私の世界で一番大切な人の笑顔。



 ・・・ここが私の帰る場所、私が夢見た、家庭と言う名の宝物だ。



ミ☆



「病状はどうですか?旦那様。」
「あぁ・・・霖之助か。一日に数時間、突然意識を失ったり失いかけたりする以外は別に・・・問題は無い。」
「眠るのとは違って、ですか。」
「そうだ、自分自身が「何か」に引っ張られるような感じがするんだが・・・八意先生の診断では、魂に関する問題らしいのだ。」
「魂、ですか。」
「そう。まだ現段階では、明確な回答は出ていないけど・・・な。ただ、今日は調子がいいみたいでな。まだ、一度も意識を落としていない。」
「そうですか・・・」

「ところで、魔理沙に手紙は渡してくれたのか?」
「はい、お渡ししておきました。」
「・・・娘は何と?」
「命に別条は無いから、心配はいらないって言ってましたが・・・ね。」
「そう言いながら・・・娘は泣いていなかったか?」
「・・・・」
「言わなくてもいい。あの子はそういう子だ。口ではああは言っていても、本心には嘘を付けるほど器用な娘では無い。それはお前も解るだろう。」
「ええ。」
「あいつは、私の頑固さとか不器用さも受け継いでいるみたいだ。妻は聡明で優しくて美しかったのに・・・そこだけ、似てくれたら嬉しかったのにな。」
「・・・魔法使いである事についてはどうですか?魔理沙は、既に人の域を超え始めています・・・それこそ、今は亡き、奥様のように。」
「・・・そうだな。妻が居たら、魔理沙はどんな人生を送っていたんだろうな・・・・・・」
「少なくとも、家族仲睦まじく暮らしているでしょうね。」
「そうだな。少なくとも妻が居れば、魔法の品を処分しなかっただろうからな。今こんな状態だったら、ずっと横で看病してくれるんじゃないか・・・希望的観測だが。」
「きっとそうして下さいますよ。あの子はああ見えて優しいんで。」
「そうだな・・・今際の際にでも、謝れば赦してくれるだろうか?」
「それはー」

「言わずとも良い。魔法が原因で、妻を失ったためにあんな事をしてしまったのだ・・・きっとどこかでほくそ笑んでくれるだろう・・・・その方が・・・・・いい。」
「・・・・」
「さぁ、霖之助君。こんな場所で油を売っていてはいけないぞ。早く、仕事に戻りたまえ。」
「・・・・・はい。」

ミ☆

「アリス・・・今日こそは、私・・・・・」
「魔理沙、大丈夫なの?本当に入れてもいいのね・・・」
「ああ、今日の私なら大丈夫だ。始めるぜ・・・」

くちゃ、ねちゃねちゃ。

「あ、そこはいつも通りなんだ」
「ああ、下準備は重要だからな。まずはしっかり、な。」
「かき混ぜる所が大切なのね。」

ねちょねちょ。ぐちゅっ。

「流石に手慣れてるわね・・・魔理沙。」
「よし、準備完了なんだぜ・・・アリス、それを・・・入れてくれないか?」
「本当に良いのね?」
「ああ、女に二言は無い!さぁ、入れてくれ・・・」
「分かった、行くわよ。」

ぷちゅっ。

「あぁ・・・入った。」
「どれくらい入れる?」
「そんなの・・・全部に決まってるだろ!」
「後でどうなっても知らないわよ?」

にゅるにゅる。

「うん・・・良い感じ。」
「・・・ホントに大丈夫?」
「大丈夫だ、問題無い。それじゃあ・・・」

じゅるっ。

「はぅっ、あ、くうっ!ダメだ、来る!」
「魔、魔理沙?」
「あぁあ!アリス、駄目だ!!やっぱり・・・無理だった!くぁっ!!あぁ・・・」


















―だから言ったでしょ!辛いの弱いのに、納豆にからしなんて入れるから~

―うおーぅ、涙が止まらないんだぜー!!

 





 


 つーんと来たんだろう。右手で鼻を押さえた魔理沙が左手の納豆の入った容器をゴトッと置いた。その表情が何とも言えない可愛らしさを秘めていたが、食事中であった事が非常に悔やまれる。そんな魔理沙は暫く辛さで悶絶していたが、ある程度辛さが引いてきたんだろうかケロリとした顔に戻って。

「だがな、ご飯で中和すれば辛さもどってことない。」
「それもそっか。」
「ああ、うめー。なんでも美味しくて幸せだー」

 魔理沙はそう言うと二杯目のご飯を納豆で美味しそうに平らげた。幸せそうに頬張る顔は、私のココロも幸せにしていく。異変を解決しに頑張った魔理沙の好みに合わせて、慣れない和食を作ってみたが、こんなに美味しそうに食べてくれると作った甲斐がある。それに、大事な人の朝食を作って一緒に食べて笑いあえる事が嬉しい。

「アリスのご飯は美味しいなぁ。アリスが作ってくれただけで、100点あげるんだぜ。」
「あら、ありがとう。お腹空いてたんでしょ、沢山食べてね。」
「おう、お代わりー」
 
 魔理沙は良く食べる。特に魔法を使った後はホントに良く食べる。これでご飯は三杯目。ここでようやく用意していた卵を使って、卵かけご飯をするあたりも魔理沙のこだわり。 
味覚が子供のそれなので、ハンバーグだとか、パスタ等の人里で長く愛されている家族向けの食堂で出て来る子供向きのメニューが大好きで、そんなのを嬉しそうに食べる姿がよく目撃されている位である。
その割に得意料理は和食ばっかりで、一番の得意料理が煮物だったりするのが魔理沙である。
 男性的な力強い側面を持つ一方で女性的な美しさと愛らしさを持ち、子供のような無邪気で無鉄砲な一面があるかと思えば、大人のようなおしとやかさや優雅さを持つ。
 魔理沙とは、二面性だらけの女の子である。自身を彩る白と黒のように、相反する事を融和させて生きているのだ。

「アリス、美味しいよ!」

 そして、この屈託の無い愛らしい笑顔。これを朝から独占できるのはまさに至福である。

「アリス。今日のお前の予定は?」
「うーん、ゴリアテのテストをしようと思ってるんだけど・・・魔理沙、疲れてるよね?」
「いや、嫁さんの頼みなら疲れなんて一瞬でぶっ飛ばせる。」
「ありがとう、でも、魔理沙が休憩してからで良いわよ。沢山魔力使うしねー」
「おお、そうだったな。途中で倒れて心配かけたらアリスに悪いんだぜ。」

 そんな事を言いながら、御茶碗を置いてお茶を飲み干す。これでお腹一杯かな?

「あぁー、美味しかった。アリス、ありがとう。ご馳走様。」
「お粗末さまでした。」

 ご馳走様の挨拶を合図に、私は人形を動員して後片付けを始めた。綺麗に平らげた朝食のお皿を洗って、拭いて、元の場所に戻す作業。

「さぁて、寝るかぁ。アリス・・・」
「あれ、お風呂は。」

「予定変更だ、食べたら眠くなってきたし・・・それに、デザートを、な。」

 魔理沙がパチンとウインク、私の顔が一気に赤くなる。今日は、魔理沙にペースを握られているようだ。だが、どっちかがリードする展開はあまり好きではない。
あくまでも、一緒に同じペースで生きるのだ。

「食べてすぐに寝たら、身体に障るし、デザートは別に用意してあるわ。」
「サンキューだぜ、アリス!!でも・・・横に来て欲しいんだぜ・・・居間のソファーで肩組みたい。」
「それなら良いわよ。」

 苺を人形に持ってこさせた私は、魔理沙と肩を組んで、苺を食べたり食べさせたりしながら、のんびりとした朝の時間を過ごす。小鳥のさえずり、窓から差す木々の木漏れ日。 
そして、口に広がる甘酸っぱい苺の味を楽しんでいると、不意に唇と唇が触れた。

「もぅ、不意打ちはダメって言ったじゃないの・・・」
「だって・・・アリスが可愛すぎて、つい。」
「魔理沙のばか・・・」

 照れくささのあまり私が頬を赤らめてモジモジしていると、魔理沙が私を抱きかかえた。
ほっそりとした体躯だが、ちゃんと鍛える所は鍛えられている。独りで生きていくために鍛えていたんだと、身体を見せあった時に教えてくれたその腕に抱かれて、私はお姫様になったような気分になった。

「さぁ、寝るか。独りじゃ寂しいんだぜ。」
「そうね、じゃ、そのまま連れてって・・・私のお姫様。」
「言われなくても、お姫様。」

 そんな風に言ってから私達は笑いあって、口づけをして、一緒に寝室に入った。

ミ☆

 懐かしいロボットアニメの曲を口ずさみながら、幻想郷の空を飛んでいた時に起きました。昼下がりの幻想の空を、私は自分の帰るべき場所・・・守矢神社に向けて飛んでいたのですが・・・魔法の森から、一体の大きな人形が立ちあがろうとしているではありませんか!これは、巨大ロボット好きな私としては、見ない訳には参りません!早速私はその巨大人形に近づく事にしました。

「いいか・・・アリス。魔力はコントロールするから、上手く頼むぜ。」
「うん。コントロール、上手に出来てるわ、魔理沙。」

 魔理沙さんとアリスさんの実験だったようですね。手を繋ぐどころか白昼堂々抱き合って魔法を詠唱するその姿は傍から見ていてもアツアツなのがよーく分かります。二人の左手の薬指の指輪が9色に輝いていますねー。

「あら、早苗じゃない。」
「こんにちはー。アリスさん、魔理沙さん。」
「・・・・・」
「魔理沙さん?」
「ああ、魔理沙は今集中してるのよ。起動時の魔力のコントロールは精神統一が不可欠なの。」
「ほうほう。」

 目を閉じて、何かをぶつぶつ呟いています。魔法の事は詳しく分かりませんが、詠唱するのに雑念とかがあると影響が出てしまうのでしょう。

「しかし、巨大な人形ですね・・・目からビームとか出るんですか?」
「早苗らしい質問ねぇ、出せるわよ。ねぇ、魔理沙?」
「おう!魔力を送るぜ。」

 もう集中を解いても良いのでしょうか、魔理沙さんが元気な声を上げたと思った矢先に、ズバッと言う空気を切るような音がして、蒼空に二条の閃光が踊りました。そう、これがロボットのお約束!!目からビームですね。それでもう、私の興奮は最初からクライマックスに突入しちゃいました。

「凄いです!他に武器はないのか・・・じゃなくて、無いんですか?」
「通常の弾幕の他に、身体の各所からマジックミサイル、お腹からイリュージョンレーザー、他にも小型の人形を大量に召喚したり、腕を飛ばしたり、両手に剣も装備出来るわね。」
「もう!アリスさんったら、見てくれは人形ですが、装備は外の世界のアニメに出て来るロボットその物じゃありませんか!」
「魔理沙が以前早苗の所で見たロボットを参考にしたって言ってる。うろ覚えで恐縮だけど、イデ・・・とか、ガン・・・とか、ジンガーとか・・・だっけ、それらと似ていても不思議じゃないわ。」
「間が抜けてますねー」

 成程、私の家のアレを読んだんですね。この技はどんなんだ?とか、やたらと聞きまくっていたのはこのためだったのですか・・・自分の弾幕のヒントにしたいって言ってましたけど、まさかこんな形で実践に移して来るとは想いも寄りませんでした。

「っ・・・と、一回止めるわ。魔理沙、良いわよ。」
「ほいほい、と・・・早苗の教えてくれた事がこのゴリアテには生かされているんだぜ。」
「ゴリアテって言うんですか?」
「ゴリアテ人形って私が試験中のスペルに付けたの。だからゴリアテ。」
「試験中・・・とは思えない攻撃力のような気がしますけど。」
「ああ、試験中の時は、魔力が足りなくてチルノに逃げ切られるばかりか、稼働限界を超えて爆発しちゃったのよ。」
「稼働限界を振り切って爆発・・・と、いいますとアレですね・・・軌道上の。」
 
 昔見ていたフルCGのアニメに稼働限界を振り切って、空中分解した例のロボットの事を思い出した私。どんだけ胸熱・・・って、すっごく危ないじゃないですか。もし何かの加減で爆発でもしたら、どうするつもりなんでしょうか?

「でも、今は違うわ。魔理沙との魔力のリンクを発動させると、爆発的な魔力が出るから、それを利用したら稼働が安定しただけじゃなくて、剣以外にも豊富な弾幕を扱えるようになったのよ。」
「その際に、何処に何を搭載して攻撃するかは、早苗の所で読んだ本を参考にさせてもらったんだぜ。」
「ふむふむ。」

 見た目こそは人形ですが、装備は恐らく外の世界のロボットアニメのロボット数機分の武装が仕込まれている。そんなロボットを前にしちゃうと、私、もう興奮が収まりません。その興奮は、声となって現れました。

「見せて貰らいましょうか、ゴリアテ人形の性能とやらを・・・」

 ああ、いけない。興奮のあまり、そのままセリフを言ってしまいました。でも性能は見てみたいものです。お願いオーラを出して、魔理沙さんとアリスさんを見つめる私、すると魔理沙さんが白い歯を見せて笑ってくれました。

「私は良いぜ。アリス、早苗が相手なら実戦のテストの相手になるんじゃないか?」
「えっ?でも、ぶっつけ本番で大丈夫かしら。」
「大丈夫だ、問題無い。ホワイトデーの時だってぶっつけ本番だったじゃないか。」
「まぁ、それもそっか。じゃあ、一回テストしてみましょう。」
「やった!」
「万が一に備えてディゾルブスペルは渡しておくわ。」
「何です、これ?」
「緊急停止のスペルよ、被弾したら作動するわ。早苗はあまり知らないんだっけ、スペルの練習について。」
「そうですね、話には聞いていましたけども。」
「耐久弾幕で、逃げ切りタイプのスペルにする予定だから、とにかく回避に専念してくれたら良いわ。稼働時間は5分よ。」
「分かりました、もし私から見て改善点とかありましたら終了後にお教えいたします。」
「ありがたいね、じゃあ、始めようか。早苗、準備が出来たら手を上げて教えてくれ。」
「了解であります!」

 私は地を蹴って舞いあがり、そびえ立つゴリアテ人形から少し離れて停止、貰ったディゾルブスペルを服のポケットにしまって深呼吸。流石に相手は尋常ならざる火力を持っているので、訓練とは言え緊張します。緊張が張り詰め、集中力が高まった所ですっと手を上げました。

「さぁ、準備はいい?魔理沙!」
「オーケー、何時でもどうぞ!」

 両手を繋いで、昔見たロボットアニメの最終回のような姿勢を取る魔理沙さんとアリスさん。まぁ、この二人も絆と愛で結ばれているのですから、形は変わるけど趣旨は一緒と言う所なんですかね。二人の回りが凄まじい魔力で満たされ、空間が9色に輝いているのが分かります。

「「愛符・ゴリアテ人形!!」」

 宣言と共に、ゴリアテ人形の目に光りが灯り何処かで聞いたような音が脳内再生されましたが、そんな余裕も一瞬だけで、両手の指から大量の弾が放たれて、すぐに目の前は一面の凄まじい弾幕の嵐。私は、その中にある空間を縫うように回避を始めました。9色のカラフルな弾幕で星型弾が大量に飛んでくるあたりに魔理沙さんの影響を感じました。

「見える!私にも弾が見える!!」

 調子も上々のようで、飛んでくる弾の先読みも上手くいっているみたいです。余裕綽々と言うまでは残念ながら無理でしたが、決して無理ではない弾幕の密度なため、確実に読んで冷静にいなしていきます。

「魔理沙、マジックミサイル、全方位発射!」
「よし来た、魔力をそちらに送る。」

 ゴリアテ人形のあちこちから大量のマジックミサイルが発射される。マジックミサイルを高速反転や宙返りでよけたり、ショットで破壊したりしつつゴリアテの様子を窺う。だいたいこうした広範囲攻撃をした後は・・・だいたい次の手は読める。

「ついでだ、イリュージョンレーザーもだ!魔力の準備は出来てる!!」
「良いわよ、魔理沙。」

 刹那、腹部からレーザーが射出されたのに反応した私は、距離を取りながらマジックミサイルの爆風を交わしてレーザーの射出範囲から逃れる、予想通りだ。ニヤリとして、次の手を想像しながら様子を窺っていましたが・・・

「いけっ!ファン・・・じゃなかった!人形達!!」
「魔理沙、ノリノリね。集中出来てる?」
「ああ、こういうのはイメージを想い浮かべるほうがやりやすいんだ。」

 ゴリアテ人形のスカートの中から大量の人形が出て来ました。多分、私の周囲でオールレンジ攻撃をしてくるのでしょう。となれば、答えは簡単で、アリスさんには申し訳ありませんでしたが人形に火力を集めて、一つ、また一つ人形を落としていきました。私も今起きている異変に合わせて自分の攻撃を見直し、広範囲に攻撃できるようにしたのですが、早速こんな所で役に立つとは・・・

「倍返しです!!」

 見た目はハデかも知れませんが、あの人のやったような牽制射撃じゃないんですよね。広範囲に飛ばした風の弾は人形達を次々と射ぬいて、気が付けばオールレンジ攻撃も止んでいました。

「120体の人形が3分持たなかったですって!?」
「流石だな、早苗!じゃあ、こいつはどうだ!!」

 人形を蹴散らした私に向けてゴリアテの大きな腕がこちら目がけて飛んできました。かつて対戦した一輪と雲山のペアのような攻撃ですね。ただし、こちらは飛んだ後にゴリアテが再度飛ばした腕を回収して再発射してくるため単純じゃありません。先程からのマジックミサイルとイリュージョンレーザーの波状攻撃もあるので瞬きすら出来ない状況。

「まだです、まだ終わりませんよ!!当たらなければ、どうと言う事はありません!!」

 スペルが使用できないためガッツだけでそれらをくぐり抜ける私。諦めなければなんでも出来るんですよ!?諦めたらそこで試合終了ですしね。私を掠めて飛んでいく弾幕に対応して飛行姿勢を変えたりしながら回避を続ける私。何度か私狙いの命中弾と、腕が飛んできましたが、それを紙一重で交わす度背中に冷や汗がタラリ。
 口の中もカラカラになってきましたが、制限時間ももうすぐの筈です!

「魔理沙、そろそろ制限時間が・・・」
「流石は早苗だな!ようし、アレを使ってみよう。」
「そうか、あれなら・・・!」

 先ほどからゴリアテ人形の攻撃が、逃げるコースを制限するようになってます。こういう時は誘い出された先に本命が居て、不意打ちをされて、いい友達だったけどお父さんがいけなかったと言われてしまう展開になります。しかし、逃げないと被弾するのも事実であるため、攻撃に備えつつ回避を繰り返す私。突然、キラッとゴリアテ人形の目が輝くのを私は見逃しませんでした。

「うろたえ弾なんてっ!」

 目から放たれた光線をすんでの所で交わした私は、勝利を確信しました。しかし、その光線も私の注意を引くための作戦だと気が付くのは・・・すぐの事でした。

「まさか!!そんなっ!!!」

 世界が凍りつき、スローモーションになるような錯覚・・・!ゴリアテの胸部が開きそこから射出された巨大なマジックミサイルがこちら目がけて飛んでくるではありませんか。これが本命だったのです!
 呆気にとられ、反応が遅れた私はマジックミサイルと激突、ディゾルブスペルが発動し、スペルが解除されました。幸い無傷で済みましたが、タイムリミット直前の被弾に悔しさが残りました。
 悔しいけど、若さゆえの過ちも認めていきませんとね。次、回避できるようにまた対策を練る事にしましょう。

「大丈夫か?」
「ええ・・・最後、あんな所からミサイルが出るなんて。まさかのおっぱいミサイルとは恐れ入りました・・・・・」
「ああ、あれは腹部にレーザーを仕込んだんで他の装備との干渉を避ける苦肉の策だったんだが・・・なぁ、アリス?」
「ええ、ま、まぁ、ミサイルを仕込む位置としては十分なスペースを確保できるしね。ちょっと・・・恥ずかしいけど。」

 まぁねぇ。私だってアレを漫画で見た時は軽いショックを受けましたよ。しかもアレで敵が倒せるんですから。頭部のバルカン砲並に知らないと虚を突かれる武器ですよねー。
・・・余談ですけども。

「しかし、早苗も腕をあげたなぁ。初見のスペルでアレだけ動けるなんて。」
「いやー、ロボットの癖が分かっているので、何となく行動の先読みができたと言いますのか。これも奇跡なのでしょうか?」
「奇跡なんて起きるのを待つんじゃなくて起こすものなんだぜ。早苗は自分の実力で、ここまで回避できたんだと思うぜ。」
「ありがとうございます。」

 疲れてその場にペタンと座りこむ私、昼下がりの穏やかな太陽が私達を照らしています。太陽を見上げながら、あのゴリアテの問題点を頭の中で整理していると、太陽に人型の陰りが生じ、それが私の方に近づいてくるではありませんか。赤と白の服、豪快に露出させた腋、人の事は言えませんが、巫女とは違うんですよ、巫女とは。私は風祝なのです。
 とまぁ、霊夢さんが私達を見つけて降りて来たんですね。

「なんだ、アンタ達か。何か凄い光線が魔法の森から見えたと思ったんで来てみたら・・・」
「よう霊夢、神社からでも見えてたのか?」
「見えてたわ、それはもう見事な光線が何本も。痴話喧嘩のもつれかと思ったわ。」
「いやー、今の私とアリスはそんな周囲を巻き込むような派手な喧嘩はしないんだぜ。」
「そうね、付き合う事にしてから久しく派手な喧嘩はしてないわよ。ね、魔理沙。」
「おう。」
「おー、流石流石。チルノでも連れてこようかしら。」
「いやー、チルノちゃんでも溶けるんじゃないですか?余りのアツさに。」
「かもしれないわねー。そん時は早苗が奇跡の力で治してあげたら?」
「出来るかは不明ですけどね。」

 霊夢さんと笑いあう私。幻想郷で似て非なる立場にある彼女とも、今ではすっかりこんな調子です。魔理沙さんとアリスさんがこうなるのにも時間がかかったと聞きましたが・・・時間と言うのは、凄い物なんですね。流れた時間が人を理解させていくものなのでしょうか・・・そんな事を考えていると、魔理沙さんが元気な声を上げて。

「霊夢も挑戦するか、私達の弾幕に。」

 その一言を聞いた霊夢さんはちょっとだけ考える仕草を取ってから、何時もののんびりとした表情に戻ってから、こう言いました。

「何も無しじゃ燃えないから、そうねぇ・・・魔理沙達が良ければ、もし私が回避しきったら一つお願いを聞いてくれたら・・・いいかなーなんて。」
「おっ、それでもいいぜ。アリスはどうだ?」
「そうね、私は別に構わないけど・・・魔理沙、体力の方はどう?」
「んにゃ、まだいけるんだぜ。ただ、疲れたら夜はそのまま寝ちゃうかも・・・だけど。」
「もぅ、魔理沙ったら・・・」

 その言葉の意味を察した私は顔を赤くしてしまいました。やっぱり結婚を控えているカップルはアツアツですね。しばらくそんな風にお互いに見やっていると、私にした説明を霊夢さんに行った後、真剣な面持ちで霊夢さんに警告をしました。
 
「霊夢、言っておくが楽じゃないぜ?」
「上等よ。」

 そう言うと霊夢さんはゴリアテの前に躍り出ました。さぁ、霊夢さんがあの弾幕にどう立ち向かうか楽しみです。

「早苗、見てなさい・・・弾幕の回避の仕方を見せてあげる。」
「はい。頑張ってください。」

 霊夢さんが手を上げると、再びゴリアテが凄まじい弾幕を放ち始めました。私の横で仲良く寄り添いながら魔法を詠唱する魔理沙さんとアリスさんの姿を見ながら、あの高難易度の弾幕をどう交わしていくのか、見守る事にしました。
 
―魔理沙さんじゃありませんが、人の技術を盗んで学ぶ事も、成長の為にかかせませんもんね!


ミ☆


「霊夢さんも惜しかったですねぇー。」
「まさか最後に、飛ばした腕の根元からマスパが出るなんてねぇ・・・」
「切り札ってのは最後まで隠しておくもんなんだぜ。」

 東に傾いた太陽を眺めながら全員一列に座って、お菓子を乗せたバスケットと紅茶で屋外のティータイム。先ほどまでの疲れも程々に出て来た私は、アリスに寄りかかってお菓子を食べていた。たまに口を大きく開けて、アリスに食べさせて貰うのも忘れない。
 魔法のコントロールってこんなに体力を使うんだな、という実感を身をもって知る事が出来た。また一つ、魔法について詳しくなれた事がとってもうれしかった。
 
 でももっと嬉しかったのは・・・アリスのゴリアテが二人の力で動かせた事。

 大切な人が欲していた成果を得る事が出来た事が、何よりの幸せだった。

「霊夢さんの時に使ったのはまだ良いですよ。私、あれなら多分回避出来てます、女の子同士とはいえ、アレは流石に恥ずかしいんじゃないかと思ってノーマークだったのです。」
「早苗~、意外性と言うのは、形成逆転の大切なファクターなんだぜ。これもアリスの提唱するブレインってことで。」
「それは間違って無いけど、やっぱり恥ずかしいわ。あんまり人前で使いたくないわね。」
「まぁまあそう言うなよ。喜んでた部分もあるじゃないか。」

 何をおっしゃるんだアリス。ゴリアテのスタイルが良くなったよ!って喜んでいたじゃないか。そのままだとストンとしすぎて、のっぺりとした人形になるからって喜んでたのも知っているぞ。ホントは何か名称を付ける予定だったけど、アリスに却下されちゃったもんな。

「まぁ、確かに色々と可愛くなったから良かった部分はあるけどね・・・」
「そうそう。何でもポジティブに考えなきゃだめだぜ。」

 アリスの現実的な思考と言うのは、最初は好きじゃ無かったが今では、冷静に見落としがちな事をいつも見ていて、ちゃんと適切な助言をくれるアリスの姿を見るうちに、好きになっていった考え方である。アリスは逆に私のこの前向きな発想を無鉄砲だとか机上の空論だとこきおろしていた時期があったが、今ではこの通り。お互いの思想を尊重しながら、一つの答えを出せるようになった。それも、私にとって嬉しい事だ。
 幸せに浸る私であったが、霊夢が何故賭けを持ち出したのかは少し気になった。と言う訳で、質問質問っと。

「霊夢は回避しきった場合、私達に何をお願いしようとしてたんだ?」
「結婚式をウチでと。競争相手も多そうだから先に、と思ったんだけど。」

 なるほど、花見前のあの件か。もう皆には知られているし、ちゃんと身を固めなくちゃとは思っていたので、実に丁度良いタイミング・・・かと思った。しかし同じ事を言ってくれている人が目の前に居る訳で・・・

「霊夢さん、それはずるいです。私だって色々考えてるんですよ~」
「幻想郷の由緒正しき神社で、この二人の結婚式はするべきよ!」
「いいえ、霊夢さんの神社だと、金運的な意味で二人が不幸になるやも知れません!」
「早苗、白黒つけましょうか?」
「望む所です!」

 そう言うなり霊夢と早苗が上空に舞い上がり、弾幕を始めた。どっちか決めるのは私たちなのではあるが、本人達にそれを言えそうに無かったので敢えてスルー。禍根を残さないように負けた方の神社でも、何か結婚式関係の催し物をすると言えばいいかなぁ。そんな事を考えながら、私はアリスの膝に頭を乗せた。

「あら、魔理沙。お疲れ様・・・しばらくこうしてても良いわよ。」
「言われなくてもそうするんだぜー」

 アリスの膝枕と撫でる手がとっても心地よい、激しい弾幕戦が見えなければもっと嬉しかったが文句は言えまい。暖かい春の太陽の光が撫でるアリスの手の隙間から零れて私を照らす。弾幕を展開する霊夢と早苗と、優しい瞳で私を見つめるアリスを見ていると、ふとある事を思いついたので、話をしてみた。

「なぁ、アリス。」
「どうしたの、魔理沙。」
「私とアリスもそうだけどさ、霊夢と早苗も最初は険悪な仲だったんだぜ。でも今は、弾幕したりするけど、基本的には仲良いじゃん。」
「そうねぇ、時間が埋めるココロの距離ってのもあるんじゃないかしら。」

 異変が終わって、時間が立って、宴会をするうちに、いがみ合ってきた人や妖怪とも、私達は仲良くなる事が出来た、それには例外なんて無い筈なのに。ココロのもやを吐き出すように、私はアリスに。

「異変があって、時間が立って・・・それでも、お互いにいがみ合っている親父とも・・・また、仲良くなれるかな?」

 穏やかな眼差しはその言葉でも変わる事は無く、優しい光で私を照らす。そして、微笑んで、答えてくれた。

「どうなるかは分からないけど、魔理沙がそうしたいなら協力するよ?宴会の日に言ったわよね、どんな事があっても、私は魔理沙の味方よ。奥さんだもの。」
「ありがとう・・・アリス。」

 そう言うと私は膝に頭を埋めて、腹を括った。いっぱい迷ったし、無視してもいいかなって思ってたけど、ちゃんと結婚して、一人の大人の女性として生きるために・・・

 自分の親との事は、ちゃんとしておこうって。

 出来るかどうかは分からないけど、いつも私は、自分でやるって決めた事はちゃんとやってきたし、やってこれた。それに、今は全てを分かち合えるパートナーも居る。
 一筋縄ではいかないかもしれないけど、アリスと一緒なら、この長期に渡る親父との確執を、少しでも良い方向に持っていける・・・いや、持って行くんだ!

 霊夢と早苗が相討ちになって落ちて行く姿と、木漏れ日とアリスの優しさに照らされた私は、そう、ココロに誓ったんだ。

 

 To be continue…
はっちゃけ過ぎました。早苗さんはロボオタと信じて疑わない、ガノタのSS書き・タナバン=ダルサラームです。
 
今4作目では、弾幕の表現と弾幕戦をメインの課題にして、春の連作のストーリーを進めつつ、好きな人にはとことんニヤリとして頂ける作品に仕上げてみました。
 魔理沙とアリスの協力スペルの発想がまとまったのは、親父とイデオンを見ていた時。二人でなら、時間制限のあるゴリアテも長時間動かせる上に、色々出来るんじゃないかと思った次第です。最後のミサイルに関してですが・・・某ゲームで一回だけ乗った某三号機の胸部ミサイルがやたら強い・・・と言うのは私事ですが、アフロ○イミサイルは、女性型ロボットの夢であるとの謎のささやきを受けたため、ネタ的にもいいかなぁと思いゴリアテに搭載してみました。反省はしてません!

 肝心の今連作のテーマですが、触れてみると非常に難しいですねー。ストンとした終わり方でもいけないし、だからと言って消化不良でもよくない。一つの流れをどうやって、皆様に面白く、そして鮮明にお伝えするかはまだまだ修行しないといけません。

 次回は(多分)例大祭後の更新となります。2カ月遅れましたが、例大祭で既に活躍しているSS書きの皆様にお会いして、文章の書き方や表現技法に付いて色々と意見が交換できればなぁと思っています。他にも書いてみたいテーマもふつふつと出て来ていますが、欲張ると良くないので、この連作をきっちり書いていきたいですね。

 ではでは、また次回でお会いしましょう。

早速追記・指摘のあった誤字を修正しました。奇声さん、いつもありがとうございます!
タナバン=ダルサラーム
http://twitter.com/#!/tanaban0831
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
>薄暗い夜明け前の命蓮字
命蓮寺
>霖之介
霖之助
早苗さんのヲタクっぷりに吹いたww
2.名前が無い程度の能力削除
ロボおたの早苗さんに萌えましたw
3.名前が無い程度の能力削除
頑張れ魔理沙
4.名前が無い程度の能力削除
最強の奥さんきたこれ!
5.名前が無い程度の能力削除
Niceおっぱい…!
Niceミサイルおっぱい…ッ!!
ゴリアテさんをミサイルおっぱいに作り上げた作者様に最敬礼。

何度でも繰り返します。
Niceおっぱいッ!!
6.糸目削除
前半の会話が甘すぎて思わず親指を噛むという奇行をしてしまった。昔のマンガで胸囲からマシンガンを撃つ女性を思い出しました。続きを楽しみに待ってます~