※この作品にはオリキャラが出てきます。大体オリキャラでできています。そういったものが苦手な方はブラウザの戻るをクリックしてください。
幻想郷の地底、そこには旧地獄街道とも呼ばれる通りがある。
地底の入り口に屋台を構える人間、頭巾はその通りを一人歩いていた。するとその後ろから――
「おやおや、昼間から堂々と人間がこんな所を平気で歩いているなんて地底も平和になっちまったもんだねえ。」
鬼、星熊勇儀はそう声を掛けた。
「ああ、勇儀さんこんにちは。こうして歩けるのも勇儀さんのおかげです。本当に感謝してますよ。」
そう言うと頭巾は軽く頭を下げた。
「おいおいそんなつもりで言った訳じゃあないんだが・・・感謝なら・・・そうだな。後で一杯やらないか。何か作っとくれ」
勇儀はそう言って手をくいっとさせた。
「ああ、いいですね。何か食べたい物はありますか?」
「なんでもいいよ。今日はとにかく飲みたいんだ。」
「わかりました。うちで飲むって事でいいですよね」
「ああ、けどいいのかい?まだ休んでる時間だろうに。」
勇儀は少しだけ申し訳なさそうに頭巾に尋ねた。
「いやいや、大概暇してたので気にする事はありませんよ。」
笑顔で返す。
「そうかい。ところで何をやってたんだい?こんなところでさ。」
「いえ、本当に暇だったので散歩をね。今日はパルスィさんもどこかへ行かれていたので・・・」
「おや、パルスィがねえ。そりゃ珍しい」
勇儀はあごに手を当てる仕草をした。
「ですよねえ。それじゃあ移動しましょうか。」
場所は変わって旧都、そして地底と地上、それぞれの出入り口。いつも屋台を出している場所。頭巾が用意したテーブルに椅子が二つ置かれた。
「そういやあんたとサシ飲みなんて初めてだっけな。」
その片方に座り勇儀は自分の杯と頭巾が用意した杯に酒を注ぐ。
「ああ、ありがとうございます。これどうぞ。豚の塩漬けを茹でただけですが。」
頭巾は屋台から皿を持ってきてテーブルの真ん中に置いた。
「おや?初めて見る奴だね。さあさあ、乾杯だ。ほれ」
コツンと杯が当たる。大きさの違う杯は少し変わった音を立てる。
「おおっとっと、零すところでしたっと・・・んぐっ・・・・・・・・くひぃっ」
そのまま二人とも杯の酒をあおる。杯は勇儀の物の方が圧倒的に大きいのだが、頭巾が自分の杯を空にしたのは勇儀よりも後だった。
「いやー、良い飲みっぷりだね相変わらず。」
頭巾が飲み干したのを見て勇儀は言う。
「それ、とりようによっては嫌味に聞こえますよ。」
頭巾は勇儀の杯を見ながら、その言葉とは逆に笑いながら言う。
「いやいや!心から思ってるさ。あたしらの酒に付き合ってくれる人間なんてほとんどいないからさ。」
お互いに酒を注ぐ。少しの間無言の時間が流れた。
「・・・うんうん、よく出来てる。これなら出しても問題ないな。」
頭巾は自分の用意したつまみを食べてそう言った。
「問題ある時があるのかい?」
「ええまあ、たまに失敗する事もあるんですよ。これでも」
「ふーん。失敗したらどうしてるんだい?」
勇儀の杯の酒はもう半分近くなくなっていた。
「大体は自分で食べてますねえ。あとはおにぎりとかにしてパルスィさんに持っていったり・・・」
「ああ、あたしも時々食べてたアレか。」
勇儀は思い出したように言う。
「えぇ、アレです。」
にっこりと頭巾。
「とても失敗してできたような物にも思えなかったがねえ。」
「まあ、自分が納得できなかったりするだけですから。」
「ふーん?ねえ・・・あんたはさ、なんで地底なんかに来たんだい?来た時の事やらその辺は大体聞いてるけどさ。」
「ん?こっちに来た理由ですか・・・?うーん・・・」
頭巾は腕を組んで少し考える。
「ま、言いたくなけりゃ言わなきゃいいだけさ。あたしゃ嘘は嫌いだけど隠し事が悪いとは思っちゃいないからね」
「ああいえ、言いたくないわけではないんですが・・・また今度機会があればって事にします。」
そう言って頭巾は手元の酒を飲み干す。勇儀が空になった杯に酒を注ぎ、頭巾は「ありがとうございます。」と軽くお礼を言う。
「しかしよく飲むよ、普通の人間にゃ毒かもしれないのに。この酒」
「あはは、こう見えても結構きてるんですがね。」
頭巾は笑いながら言う。
「よく言うよ、宴会の度に少なくとも2~3升は飲んでるだろう。もっと飲んでる時もちょいちょいあるし」
「でも宴会で飲んでる時は幾度となくリバースしてますけどね。」
頭巾は苦笑いを浮かべる。
「ああ、時々厠に行ってたのはそういう事かい。」
「人間の内臓には限界って物がありますからね。」
今度はにっこりという頭巾。
「はっは!そこまでして付き合わなくても潰れた振りしてりゃいいのに」
何時ものように豪快に勇儀は笑う。
「そんな勿体無い事はできませんよ。なんだかんだで宴会は大好きですからね」
「そうかい・・・はっは!うんうん、宴会は大好きか!そうかそうか・・・」
勇儀は笑いながらうんうんと頷く。
「・・・さあ、自分はそろそろ仕込みをしないと。どうします?アレならずっとカウンターにいてもらっても構いませんが」
そう言って頭巾は椅子から立ち上がり、勇儀にそう言い、自分の屋台を指し示す。
「それじゃあお言葉に甘えさせていただくとするかね。」
勇儀も立ち上がり、二人は屋台に向かって歩き始めた
その後暫くして、旧都の方から戻ってきたパルスィをカウンターに加え屋台は少しだけ賑やかになった。
「パルスィ~~ん!」
勇儀はパルスィに抱きつく。
「うるさい、うっとおしい。あと酒臭い。」
パルスィは眉間にしわをよせながら勇儀を引き剥がす。
「ははは!容赦ないですねえ。・・・ぷはぁ。」
頭巾は仕込みをしながら酒を飲んでいるようだ。
「はぁ、あんたも飲みすぎでしょう。」
「・・・パルスィさんもいかがですか?」
頭巾は言いながら一升瓶をぷらぷらさせる。
「当然、あんたのおごりよね。」
頬杖を付きながら頭巾の方を見る。
「ん~、こないだの宴会の片づけを手伝ってもらいましたからねえ。おごりでも構いませんよ。」
言いながら頭巾は徳利とお猪口を用意する。
「流石ね、つまみは任せるわ。」
「それじゃあパルスィさんにも味を見てもらおう。少し待ってくださいね。」
「ああ、私にも頂戴な。」
勇儀は自分の酒を飲みながら言う。
「はーい。」
頭巾は豚肉の塊を取り出してそれを薄く切りはじめた。
「・・・にしてもあんたら、よくこんな昼間っから酒飲んでられるわね。」
「ん~、基本キッチンドランカーなんで一人で仕込みしてる時も結構飲んでたりするんですよね。」
「はっはっは!生粋の酒飲みだねえ。やっぱり人間にしとくにゃ惜しい」
ここで勇儀達の後ろに空から降り立つ影が一つ。
「あれー?勇儀さんにパルスィだ。何してるの?」
現れたのは霊烏路空。
「おお、お空じゃないか。あんたも飲んでくかい?」
と、空の方を見て勇儀は言う。
「うん~!」
お空はにっこり返事を返す。
「あれ?あんた一人?・・・まあいいけど。」
パルスィは空の方を見て少し不思議そうな顔をした。
「はい、できましたよー。お空さんもどうぞ」
頭巾は塩豚を茹でた物を小皿に盛り付け三つに分けてそれぞれに渡す。
「え?私もいいの?」
「ええ、かまいませんよ。お酒にしますか?お茶も出せますよ。」
「ん~・・・?ケーキじゃあないの?」
お空の中ではそうなっているらしい。空は呼び方も頭巾でなくケーキの人である。
「いや・・・ほら。飲み物はいらないんですか?あとケーキは今日はありません。」
「えー、ないの?ちょっとがっかり・・・」
空は羽をシュンとたたみあからさまにしょんぼりとする。
「あっはっは!お空の中じゃあケーキの人なんだねえ。」
勇儀は笑いながらカウンターをバシバシ叩く。
「普通に食べて行った事も何度かありましたよね・・・。まあケーキの人でもなんでもかまわないんですが。」
そういうと頭巾は少しため息をついた後空にお猪口と徳利を出す。
「ん~?お酒なんて頼んだっけ?」
「ああいえ、そういえばお祭りを手伝ってもらった時のお礼がまだだったので。いらないなら別にしますが・・・」
「ん~ん!ありがとうケーキの人!」
そう言って空はようやくカウンター席に座る。
「ケーキねえ。あー・・・私はアレが好きだったわねえ。杏仁豆腐。宴会のシメによく出てくる奴。」
パルスィは指を一本立てて何かを指し示す。
「あー、あれはいいねえ。」
勇儀も思い出すように言う。
「え!あれもケーキの人が作ってたの!?」
空は驚いた様子を浮かべる。
「ええ、甘味系は実は、結構作るの好きなんですよ。」
そういって頭巾は笑顔。
「そういうの聞いてると食べたくなって来るわねえ。何かないの?」
パルスィが頬杖をつきながら頭巾に声を掛ける。
「ふっふっふ。実は今日は少し大人なスイーツを用意してるんですよ。」
「あらあら、ガキが大人ぶってもロクな事はないわよ?」
パルスィはいやらしく笑う。
「早速ロクでもない気分に・・・」
頭巾はがっくりと肩を落とす。
「ねね!どんなの?」
その様子を気にする事なく空は頭巾に詰め寄った
「ふぅ・・・えーと、これです。珈琲のゼリーですね。」
そう言ってティーカップを3つ取り出し、それぞれに張ってあるラップを取った。透明のティーカップで、中には黒のゼリーの上にミルクがかけられている。三人から「おおー!」と歓声が上がる。
「またきれいに作ったもんだね。しかし、珈琲なんてあったんだねえ。この店」
「勇儀さんはお酒しか頼まれませんからねえ。朝とか昼間に遊びに来てくれる方や食材を持ってきてくれる方には結構出したりしてるんですよ。」
「ねね!これももらっていいの!?」
お空はうれしそうだ。
「えぇ、かまいませんよ。どうせ今日食べて行ってくれた方へのサービスなので。」
「毎度毎度気前の良い事で・・・どれどれ?あら、思ったような味ね、甘くもなく苦くもなく・・・相変わらず美味しいのは妬ましいわね。」
早速パルスィは一口。
「うんうん。うまいねこりゃ」
パルスィに続いて勇儀も一口。
「うわー!きれい~」
空はスプーンですくってゼリーを眺めている。
「でしょう?料理は見た目も大事って言いますからね。その辺も気にしてますよ」
「あら本当、きれいねえ。ねえ勇・・・なんでもないわ。」
パルスィも一すくいしてそれを眺める。その後勇儀の方を見たが
「ん?どうしたパルスィ?」
勇儀はすでにゼリーを食べ終えて酒と茹で豚に戻っていた。
「ふっふふ・・・まあ美味しそうに一気に食べてもらうのもまた一興ですからね」
頭巾は笑いながらそう言った。
「お空はまだみとれてるし・・・ああ。光り物に見えるからかしら?」
パルスィは空の方を見て言う。
「うにゅ?何?パルスィ」
それに気づいてお空はパルスィの方を見る。
「何でもないわ。ああ、本当にきれいね。」
そういうとパルスィもゼリーをすくってそれを眺める。
「暗い背景に黒ってのも意外と映える物ですねえ」
それを見て頭巾は言う。
「あんたもよくこんなに色々作るわねえ。前にも言った気がするけど」
パルスィはゼリーを一旦置いておいて塩豚から食べるようだ。スプーンを置いて箸を持った。
「趣味と仕事が一致したらこうなるんですよ。」
そう言ってまた酒を飲む。その後「あやべ、空にしちった。」と、ぼそっと呟いた。
「おー、賑やかだと思ったらみんないるじゃあないか。・・・早くない?」
ここで現れたのは黒谷ヤマメ、今日も地上へ続く洞窟から出てきた。
「いつものお店の時間じゃないよねっ!」
その後ろにいたようだ。キスメも顔を出す。
「ああいらっしゃい。なんだかもう開店したような空気になってますよねえ、どうしましょう。」
そう言って頭巾は笑う。
「もう開店すりゃいーじゃないか!はっはっは!」
勇儀も笑う。かなり酔っているようだ
「あー、それいいですねえ。ああ、お二人とももう食べて行きます?」
そう言いながら一旦屋台の表に出て屋台提灯に灯をつける。
「当然~♪ねえ。あんたこれ料理できる?地上からの入り口に色々生えててさ」
ヤマメは座ったあと、袋を取り出す。キスメもその隣に桶ごと座った。座ったと表現するのが正しいかはわからないが・・・
「キノコ・・・また面倒な物を・・・」
頭巾はそれを受け取り中を見る。
「あ、やっぱ面倒なのかい?」
と、ヤマメ。
「ん~・・・まあある程度の知識はありますけど知識があっても見分けが付かないものもありますからねえ。」
そう言いながら袋をあさる頭巾。周りからは「ふむふむ」と相槌がいくらか聞こえてくる。
「これなんかは・・・確か・・・普通に食べるには問題ないけれど、酒と一緒だと何かあったような・・・」
そう言って一つ、取り出して言う。
「そう言われると気になるねえ。焼いてみてよ。」
と、勇儀。
「まあ、貴女方に効くかどうかはわからないですが・・・お店側としてはそういう事はできないので、今回は我慢してください。」
真面目に切り返す頭巾。
「えー、つまんない事言うなよ。」
・・・と、ヤマメ。口でぶーぶー、と軽くブーイングをする。空とキスメも真似をしてぶーぶー言っている。
「いいんじゃない?こいつらがそう言うんだし。第一毒で倒れてくれるなら私は遠くの昔に盛ってるわ」
パルスィがさらっと怖いことを言う。勇儀は「えっ」とパルスィの方を見る。
「ん~・・・まあ、よくわからないのはとっておいて魔理沙にあげればいいか。」
頭巾は言いながらいくつか取り出す。
「ふむふむ、ぜんぜんわかんない!一緒にとってたけど」
取り出されていくキノコを見ながらキスメは叫ぶ。
「うーむ・・・これは・・・・・・駄目な奴だな。」
頭巾は、眺めたり、齧ったりしながら確かめていく。齧った後口を濯いだりもしている。
その後暫くして頭巾は選別を終えたようで、いくつかのキノコがまな板の上に置かれている。
「舌がピリピリする・・・」
「ご苦労さん。結構あったね」
ヤマメはお猪口で酒を飲みながら言う。
「これ全部食べれるの?」
キスメも少し身を乗り出して言う。
「えぇ、まあよくわからないのやら食べれない奴の方が多いんですけど。」
手元の袋にはまだまだたくさんキノコが残っているようだ。
「無駄に博識ねえ。妬ましいわ。」
と、パルスィ。
「さて・・・焼きますかあ。」
頭巾はそう言って茸を切り始めた。
「まあ多少の毒ならあたしにゃ効かないけどねえ。人間にとっての毒があたしらにとっての毒とは限らないからね」
「でしょうけども、一応ですよ、一応。」
箸で茸をひっくり返しながら言う。
「お~、いい香りだ。」
ヤマメは少し嬉しそうな顔をする。
「ですねえ。自分も食べたいけれど舌が・・・後で残ってたらにします。」
「大丈夫?」
キスメは少し心配そうに頭巾を見る。
「ああ、まあ毒はすぐ口を濯いだから問題ないんですけど・・・まあ中途半端な知識なので味で判断しなきゃならないのが多いから・・・」
「ふーん、毒の味がわかるって事?」
パルスィはお猪口で酒をあおりながら言う。
「ああいえ、形状と味からどの種類かをですね・・・形だけだとそっくりなものもあるので。」
そう言い終える頃、いい色に焼きあがった茸を皿に盛って出す。
「おー、こりゃうまそうだ。・・・んむ。酒にも合いそうだ」
勇儀はそういいながら早速つまむ。
「ですねー、まああった中から美味しいのやら酒に合うのを選びましたからね。」
「おお、流石だねえ。んむ、うまいね。」
ヤマメも同じくつまむ。続いてパルスィやキスメ、空も食べ始めた。
「それはよかった。・・・むう。舌がまだピリピリするや・・・魔理沙にもっと詳しく教えてもらっておけばよかったかなあ。」
言うと頭巾は軽く舌を出す。
「・・・あら。まだ舌が痛むのかい?」
ヤマメはその様子を見て尋ねた。
「いえ、痛いというほどでは・・・軽く痺れる程度ですかね。」
頭巾がそう言った後再び口を濯ぐ。先ほどから何度かやっている。
「あたしが舐め取ってやろうか?案外・・・」
ヤマメが言いながらカウンターに乗り上がろうとするが
「やめてください!大丈夫ですからっ・・・!!」
頭巾はヤマメを押し戻した、顔は赤い。
「はっは!あんたどんだけ飲んでも顔の色変わらないくせにそれだけで真っ赤になるんじゃないよ!」
勇儀がその様子を見て爆笑する。
「キスメ、これ美味しいよ~」
そんな様子を気にする事なく空はキスメに勧める。
「あっほんとだー。あ、これも美味しいよ。はい、あーん」
どうやら食べさせっこになっている様子だ。
「はぁ・・・どいつもこいつも仲良しこよしで妬ましいったら・・・」
パルスィはその様子を眺め、頬杖をつきながら言う。この直後勇儀に「あたしらも仲良しだろぉ~?」とか言われながら抱き付かれるのだが。
幻想郷の地底、そこには旧地獄街道とも呼ばれる通りがある。
地底の入り口に屋台を構える人間、頭巾はその通りを一人歩いていた。するとその後ろから――
「おやおや、昼間から堂々と人間がこんな所を平気で歩いているなんて地底も平和になっちまったもんだねえ。」
鬼、星熊勇儀はそう声を掛けた。
「ああ、勇儀さんこんにちは。こうして歩けるのも勇儀さんのおかげです。本当に感謝してますよ。」
そう言うと頭巾は軽く頭を下げた。
「おいおいそんなつもりで言った訳じゃあないんだが・・・感謝なら・・・そうだな。後で一杯やらないか。何か作っとくれ」
勇儀はそう言って手をくいっとさせた。
「ああ、いいですね。何か食べたい物はありますか?」
「なんでもいいよ。今日はとにかく飲みたいんだ。」
「わかりました。うちで飲むって事でいいですよね」
「ああ、けどいいのかい?まだ休んでる時間だろうに。」
勇儀は少しだけ申し訳なさそうに頭巾に尋ねた。
「いやいや、大概暇してたので気にする事はありませんよ。」
笑顔で返す。
「そうかい。ところで何をやってたんだい?こんなところでさ。」
「いえ、本当に暇だったので散歩をね。今日はパルスィさんもどこかへ行かれていたので・・・」
「おや、パルスィがねえ。そりゃ珍しい」
勇儀はあごに手を当てる仕草をした。
「ですよねえ。それじゃあ移動しましょうか。」
場所は変わって旧都、そして地底と地上、それぞれの出入り口。いつも屋台を出している場所。頭巾が用意したテーブルに椅子が二つ置かれた。
「そういやあんたとサシ飲みなんて初めてだっけな。」
その片方に座り勇儀は自分の杯と頭巾が用意した杯に酒を注ぐ。
「ああ、ありがとうございます。これどうぞ。豚の塩漬けを茹でただけですが。」
頭巾は屋台から皿を持ってきてテーブルの真ん中に置いた。
「おや?初めて見る奴だね。さあさあ、乾杯だ。ほれ」
コツンと杯が当たる。大きさの違う杯は少し変わった音を立てる。
「おおっとっと、零すところでしたっと・・・んぐっ・・・・・・・・くひぃっ」
そのまま二人とも杯の酒をあおる。杯は勇儀の物の方が圧倒的に大きいのだが、頭巾が自分の杯を空にしたのは勇儀よりも後だった。
「いやー、良い飲みっぷりだね相変わらず。」
頭巾が飲み干したのを見て勇儀は言う。
「それ、とりようによっては嫌味に聞こえますよ。」
頭巾は勇儀の杯を見ながら、その言葉とは逆に笑いながら言う。
「いやいや!心から思ってるさ。あたしらの酒に付き合ってくれる人間なんてほとんどいないからさ。」
お互いに酒を注ぐ。少しの間無言の時間が流れた。
「・・・うんうん、よく出来てる。これなら出しても問題ないな。」
頭巾は自分の用意したつまみを食べてそう言った。
「問題ある時があるのかい?」
「ええまあ、たまに失敗する事もあるんですよ。これでも」
「ふーん。失敗したらどうしてるんだい?」
勇儀の杯の酒はもう半分近くなくなっていた。
「大体は自分で食べてますねえ。あとはおにぎりとかにしてパルスィさんに持っていったり・・・」
「ああ、あたしも時々食べてたアレか。」
勇儀は思い出したように言う。
「えぇ、アレです。」
にっこりと頭巾。
「とても失敗してできたような物にも思えなかったがねえ。」
「まあ、自分が納得できなかったりするだけですから。」
「ふーん?ねえ・・・あんたはさ、なんで地底なんかに来たんだい?来た時の事やらその辺は大体聞いてるけどさ。」
「ん?こっちに来た理由ですか・・・?うーん・・・」
頭巾は腕を組んで少し考える。
「ま、言いたくなけりゃ言わなきゃいいだけさ。あたしゃ嘘は嫌いだけど隠し事が悪いとは思っちゃいないからね」
「ああいえ、言いたくないわけではないんですが・・・また今度機会があればって事にします。」
そう言って頭巾は手元の酒を飲み干す。勇儀が空になった杯に酒を注ぎ、頭巾は「ありがとうございます。」と軽くお礼を言う。
「しかしよく飲むよ、普通の人間にゃ毒かもしれないのに。この酒」
「あはは、こう見えても結構きてるんですがね。」
頭巾は笑いながら言う。
「よく言うよ、宴会の度に少なくとも2~3升は飲んでるだろう。もっと飲んでる時もちょいちょいあるし」
「でも宴会で飲んでる時は幾度となくリバースしてますけどね。」
頭巾は苦笑いを浮かべる。
「ああ、時々厠に行ってたのはそういう事かい。」
「人間の内臓には限界って物がありますからね。」
今度はにっこりという頭巾。
「はっは!そこまでして付き合わなくても潰れた振りしてりゃいいのに」
何時ものように豪快に勇儀は笑う。
「そんな勿体無い事はできませんよ。なんだかんだで宴会は大好きですからね」
「そうかい・・・はっは!うんうん、宴会は大好きか!そうかそうか・・・」
勇儀は笑いながらうんうんと頷く。
「・・・さあ、自分はそろそろ仕込みをしないと。どうします?アレならずっとカウンターにいてもらっても構いませんが」
そう言って頭巾は椅子から立ち上がり、勇儀にそう言い、自分の屋台を指し示す。
「それじゃあお言葉に甘えさせていただくとするかね。」
勇儀も立ち上がり、二人は屋台に向かって歩き始めた
その後暫くして、旧都の方から戻ってきたパルスィをカウンターに加え屋台は少しだけ賑やかになった。
「パルスィ~~ん!」
勇儀はパルスィに抱きつく。
「うるさい、うっとおしい。あと酒臭い。」
パルスィは眉間にしわをよせながら勇儀を引き剥がす。
「ははは!容赦ないですねえ。・・・ぷはぁ。」
頭巾は仕込みをしながら酒を飲んでいるようだ。
「はぁ、あんたも飲みすぎでしょう。」
「・・・パルスィさんもいかがですか?」
頭巾は言いながら一升瓶をぷらぷらさせる。
「当然、あんたのおごりよね。」
頬杖を付きながら頭巾の方を見る。
「ん~、こないだの宴会の片づけを手伝ってもらいましたからねえ。おごりでも構いませんよ。」
言いながら頭巾は徳利とお猪口を用意する。
「流石ね、つまみは任せるわ。」
「それじゃあパルスィさんにも味を見てもらおう。少し待ってくださいね。」
「ああ、私にも頂戴な。」
勇儀は自分の酒を飲みながら言う。
「はーい。」
頭巾は豚肉の塊を取り出してそれを薄く切りはじめた。
「・・・にしてもあんたら、よくこんな昼間っから酒飲んでられるわね。」
「ん~、基本キッチンドランカーなんで一人で仕込みしてる時も結構飲んでたりするんですよね。」
「はっはっは!生粋の酒飲みだねえ。やっぱり人間にしとくにゃ惜しい」
ここで勇儀達の後ろに空から降り立つ影が一つ。
「あれー?勇儀さんにパルスィだ。何してるの?」
現れたのは霊烏路空。
「おお、お空じゃないか。あんたも飲んでくかい?」
と、空の方を見て勇儀は言う。
「うん~!」
お空はにっこり返事を返す。
「あれ?あんた一人?・・・まあいいけど。」
パルスィは空の方を見て少し不思議そうな顔をした。
「はい、できましたよー。お空さんもどうぞ」
頭巾は塩豚を茹でた物を小皿に盛り付け三つに分けてそれぞれに渡す。
「え?私もいいの?」
「ええ、かまいませんよ。お酒にしますか?お茶も出せますよ。」
「ん~・・・?ケーキじゃあないの?」
お空の中ではそうなっているらしい。空は呼び方も頭巾でなくケーキの人である。
「いや・・・ほら。飲み物はいらないんですか?あとケーキは今日はありません。」
「えー、ないの?ちょっとがっかり・・・」
空は羽をシュンとたたみあからさまにしょんぼりとする。
「あっはっは!お空の中じゃあケーキの人なんだねえ。」
勇儀は笑いながらカウンターをバシバシ叩く。
「普通に食べて行った事も何度かありましたよね・・・。まあケーキの人でもなんでもかまわないんですが。」
そういうと頭巾は少しため息をついた後空にお猪口と徳利を出す。
「ん~?お酒なんて頼んだっけ?」
「ああいえ、そういえばお祭りを手伝ってもらった時のお礼がまだだったので。いらないなら別にしますが・・・」
「ん~ん!ありがとうケーキの人!」
そう言って空はようやくカウンター席に座る。
「ケーキねえ。あー・・・私はアレが好きだったわねえ。杏仁豆腐。宴会のシメによく出てくる奴。」
パルスィは指を一本立てて何かを指し示す。
「あー、あれはいいねえ。」
勇儀も思い出すように言う。
「え!あれもケーキの人が作ってたの!?」
空は驚いた様子を浮かべる。
「ええ、甘味系は実は、結構作るの好きなんですよ。」
そういって頭巾は笑顔。
「そういうの聞いてると食べたくなって来るわねえ。何かないの?」
パルスィが頬杖をつきながら頭巾に声を掛ける。
「ふっふっふ。実は今日は少し大人なスイーツを用意してるんですよ。」
「あらあら、ガキが大人ぶってもロクな事はないわよ?」
パルスィはいやらしく笑う。
「早速ロクでもない気分に・・・」
頭巾はがっくりと肩を落とす。
「ねね!どんなの?」
その様子を気にする事なく空は頭巾に詰め寄った
「ふぅ・・・えーと、これです。珈琲のゼリーですね。」
そう言ってティーカップを3つ取り出し、それぞれに張ってあるラップを取った。透明のティーカップで、中には黒のゼリーの上にミルクがかけられている。三人から「おおー!」と歓声が上がる。
「またきれいに作ったもんだね。しかし、珈琲なんてあったんだねえ。この店」
「勇儀さんはお酒しか頼まれませんからねえ。朝とか昼間に遊びに来てくれる方や食材を持ってきてくれる方には結構出したりしてるんですよ。」
「ねね!これももらっていいの!?」
お空はうれしそうだ。
「えぇ、かまいませんよ。どうせ今日食べて行ってくれた方へのサービスなので。」
「毎度毎度気前の良い事で・・・どれどれ?あら、思ったような味ね、甘くもなく苦くもなく・・・相変わらず美味しいのは妬ましいわね。」
早速パルスィは一口。
「うんうん。うまいねこりゃ」
パルスィに続いて勇儀も一口。
「うわー!きれい~」
空はスプーンですくってゼリーを眺めている。
「でしょう?料理は見た目も大事って言いますからね。その辺も気にしてますよ」
「あら本当、きれいねえ。ねえ勇・・・なんでもないわ。」
パルスィも一すくいしてそれを眺める。その後勇儀の方を見たが
「ん?どうしたパルスィ?」
勇儀はすでにゼリーを食べ終えて酒と茹で豚に戻っていた。
「ふっふふ・・・まあ美味しそうに一気に食べてもらうのもまた一興ですからね」
頭巾は笑いながらそう言った。
「お空はまだみとれてるし・・・ああ。光り物に見えるからかしら?」
パルスィは空の方を見て言う。
「うにゅ?何?パルスィ」
それに気づいてお空はパルスィの方を見る。
「何でもないわ。ああ、本当にきれいね。」
そういうとパルスィもゼリーをすくってそれを眺める。
「暗い背景に黒ってのも意外と映える物ですねえ」
それを見て頭巾は言う。
「あんたもよくこんなに色々作るわねえ。前にも言った気がするけど」
パルスィはゼリーを一旦置いておいて塩豚から食べるようだ。スプーンを置いて箸を持った。
「趣味と仕事が一致したらこうなるんですよ。」
そう言ってまた酒を飲む。その後「あやべ、空にしちった。」と、ぼそっと呟いた。
「おー、賑やかだと思ったらみんないるじゃあないか。・・・早くない?」
ここで現れたのは黒谷ヤマメ、今日も地上へ続く洞窟から出てきた。
「いつものお店の時間じゃないよねっ!」
その後ろにいたようだ。キスメも顔を出す。
「ああいらっしゃい。なんだかもう開店したような空気になってますよねえ、どうしましょう。」
そう言って頭巾は笑う。
「もう開店すりゃいーじゃないか!はっはっは!」
勇儀も笑う。かなり酔っているようだ
「あー、それいいですねえ。ああ、お二人とももう食べて行きます?」
そう言いながら一旦屋台の表に出て屋台提灯に灯をつける。
「当然~♪ねえ。あんたこれ料理できる?地上からの入り口に色々生えててさ」
ヤマメは座ったあと、袋を取り出す。キスメもその隣に桶ごと座った。座ったと表現するのが正しいかはわからないが・・・
「キノコ・・・また面倒な物を・・・」
頭巾はそれを受け取り中を見る。
「あ、やっぱ面倒なのかい?」
と、ヤマメ。
「ん~・・・まあある程度の知識はありますけど知識があっても見分けが付かないものもありますからねえ。」
そう言いながら袋をあさる頭巾。周りからは「ふむふむ」と相槌がいくらか聞こえてくる。
「これなんかは・・・確か・・・普通に食べるには問題ないけれど、酒と一緒だと何かあったような・・・」
そう言って一つ、取り出して言う。
「そう言われると気になるねえ。焼いてみてよ。」
と、勇儀。
「まあ、貴女方に効くかどうかはわからないですが・・・お店側としてはそういう事はできないので、今回は我慢してください。」
真面目に切り返す頭巾。
「えー、つまんない事言うなよ。」
・・・と、ヤマメ。口でぶーぶー、と軽くブーイングをする。空とキスメも真似をしてぶーぶー言っている。
「いいんじゃない?こいつらがそう言うんだし。第一毒で倒れてくれるなら私は遠くの昔に盛ってるわ」
パルスィがさらっと怖いことを言う。勇儀は「えっ」とパルスィの方を見る。
「ん~・・・まあ、よくわからないのはとっておいて魔理沙にあげればいいか。」
頭巾は言いながらいくつか取り出す。
「ふむふむ、ぜんぜんわかんない!一緒にとってたけど」
取り出されていくキノコを見ながらキスメは叫ぶ。
「うーむ・・・これは・・・・・・駄目な奴だな。」
頭巾は、眺めたり、齧ったりしながら確かめていく。齧った後口を濯いだりもしている。
その後暫くして頭巾は選別を終えたようで、いくつかのキノコがまな板の上に置かれている。
「舌がピリピリする・・・」
「ご苦労さん。結構あったね」
ヤマメはお猪口で酒を飲みながら言う。
「これ全部食べれるの?」
キスメも少し身を乗り出して言う。
「えぇ、まあよくわからないのやら食べれない奴の方が多いんですけど。」
手元の袋にはまだまだたくさんキノコが残っているようだ。
「無駄に博識ねえ。妬ましいわ。」
と、パルスィ。
「さて・・・焼きますかあ。」
頭巾はそう言って茸を切り始めた。
「まあ多少の毒ならあたしにゃ効かないけどねえ。人間にとっての毒があたしらにとっての毒とは限らないからね」
「でしょうけども、一応ですよ、一応。」
箸で茸をひっくり返しながら言う。
「お~、いい香りだ。」
ヤマメは少し嬉しそうな顔をする。
「ですねえ。自分も食べたいけれど舌が・・・後で残ってたらにします。」
「大丈夫?」
キスメは少し心配そうに頭巾を見る。
「ああ、まあ毒はすぐ口を濯いだから問題ないんですけど・・・まあ中途半端な知識なので味で判断しなきゃならないのが多いから・・・」
「ふーん、毒の味がわかるって事?」
パルスィはお猪口で酒をあおりながら言う。
「ああいえ、形状と味からどの種類かをですね・・・形だけだとそっくりなものもあるので。」
そう言い終える頃、いい色に焼きあがった茸を皿に盛って出す。
「おー、こりゃうまそうだ。・・・んむ。酒にも合いそうだ」
勇儀はそういいながら早速つまむ。
「ですねー、まああった中から美味しいのやら酒に合うのを選びましたからね。」
「おお、流石だねえ。んむ、うまいね。」
ヤマメも同じくつまむ。続いてパルスィやキスメ、空も食べ始めた。
「それはよかった。・・・むう。舌がまだピリピリするや・・・魔理沙にもっと詳しく教えてもらっておけばよかったかなあ。」
言うと頭巾は軽く舌を出す。
「・・・あら。まだ舌が痛むのかい?」
ヤマメはその様子を見て尋ねた。
「いえ、痛いというほどでは・・・軽く痺れる程度ですかね。」
頭巾がそう言った後再び口を濯ぐ。先ほどから何度かやっている。
「あたしが舐め取ってやろうか?案外・・・」
ヤマメが言いながらカウンターに乗り上がろうとするが
「やめてください!大丈夫ですからっ・・・!!」
頭巾はヤマメを押し戻した、顔は赤い。
「はっは!あんたどんだけ飲んでも顔の色変わらないくせにそれだけで真っ赤になるんじゃないよ!」
勇儀がその様子を見て爆笑する。
「キスメ、これ美味しいよ~」
そんな様子を気にする事なく空はキスメに勧める。
「あっほんとだー。あ、これも美味しいよ。はい、あーん」
どうやら食べさせっこになっている様子だ。
「はぁ・・・どいつもこいつも仲良しこよしで妬ましいったら・・・」
パルスィはその様子を眺め、頬杖をつきながら言う。この直後勇儀に「あたしらも仲良しだろぉ~?」とか言われながら抱き付かれるのだが。
いや、腹が鳴る。まったく腹が鳴る。
池波正太郎の「剣客商売」シリーズを是非読んでみていただきたい。あれは食べ物の描写が非常にうまい。参考になると思います。
締めの文章は難しいですよね。自分も苦手です。 ご馳走様でした。