そよ風の心地よい昼下がり。
博麗神社の巫女、霊夢は境内の掃除を終え、縁側でいつもの様にお茶を啜っていた。
(今日もいい天気……)
青く澄んだ空を見上げ、一人思う。
最近は特に異変もなく、今日の様に神社でのんびりとする事が多くなった。
けれど毎日尽きることなく誰かが訪れる為、暇という訳ではない。
こういうのもいいかなと最近では思い始めていた。
と――ふいに気配を感じた。
(この感じは文かな)
そう思いつつ彼方を見やると、そこにはやはりこちらに向けて飛ぶ文の姿。
やっぱりね、と内心笑みを浮かべつつ到着を待つ。
彼女の称号『幻想郷最速』は伊達ではない。
幾らも経たないうちに境内へと降り立った。
その背で烏天狗特有の黒い翼が陽の光を浴びて輝く。
その様子をただ純粋に綺麗と思った。
「こんにちは。 今日もお元気そうでなによりです」
「ええ。 おかげさまで最近はゆっくりしているわ」
互いに挨拶を交わし、文は当たり前の様に霊夢の隣に腰掛けた。
そして二人の間にあるお盆に霊夢とは別の湯飲みを見つけ、文は笑みを深める。
「あややや。 これはまた随分と気が利いてますね。
まるで私が来るのが分かっていたかのよう」
「正確には『あんたの』ではなく、『お客の』だけどね。」
言って一口お茶を啜る霊夢。
文の方は特に気にした様子もない。
「ではこれは頂いてもよいわけですね」
「そうね。 今日はまだ誰も来ていないし飲みたきゃ飲めば?」
「では遠慮なく……」
言いつつ湯飲みを手に取り、口元に運ぶ文。
一口をゆっくり味わうように飲んで、ほっこりと一息。
「……いやぁ~相変わらず美味しいですねぇ」
「そう。 まあ今日は出涸らしじゃないしね」
そう言って霊夢も一口。
文としては“そういう意味”ではなかったのだが、どうやら霊夢にはきちんと届かなかったらしい。
やや落ち込んだ様にがっくりと頭を垂れる文を見て、霊夢は首を傾げた。
「なに、どうかした?」
「いえ……。 別に何も……」
疑問符を浮かべながら尋ねるがやはりよく分からない。
そのまましばし文の顔を見つめていると、唐突に何かがよぎった。
(文って……)
今まで特に気にも留めた事などなかったが、よくよく考えてみるとそんな気がする。
「あんたってさ」
「……はい? なんですか?」
「すごく可愛いわね」
「…………………はい?」
しばし呆けた様な顔をしていた文であったが、じわじわとその言葉が浸透して行くに連れ顔が紅く染まっていく。
そこにもう一度。
「いやだからさ。 文って可愛いなって」
言われるや否や今度は耳まで赤く染め上った。
それは霊夢にとって特に意味があって言った訳ではなくただ何となくであったのだが、言われた側の文にとってはそんな事は関係ない。
あまりの衝撃に気を失いそうになるのを必死にこらえている文だが、対して霊夢は全く気付く様子もない。
完全に無自覚である。
「今まではあまり意識してなかったからかもしれないけど、やっぱり綺麗よね。
顔も整っているし、体だって――」
と、言いかけて文の様子が変な事にようやく気がついた。
「文?」
「…………」
覗きこむと文は驚いた様子そのままに固まっていた。
いや――どうやら気を失っているらしかった。
顔の前で手を振る霊夢だが、気を失っている文が気づくはずもなく。
そこにまた何となく思いつきで、文の頭を膝の上に置き撫でる霊夢。
ゆったりと流れる時間。
たまにはこういうのもいいか、と思う霊夢であった。
ちなみに。
意識を取り戻した文が、膝枕されている事に気づいてまた気絶したのは二人だけの内緒のお話。
普段飄々としてるだけに直球に弱いんだな。
ど真ん中投げる霊夢さん素敵です