花が咲き乱れた異変――人、妖怪、幽霊、妖精。様々な者がこの異変に気づき、はしゃぎ、原因を求め、幻想郷を駆け巡った。
かくいう私もその一人だった。以前永遠亭の方々が起こした異変以来これといった事件も起きず、文々。新聞も暇を持て余していたところにこの 「異変」 である。
今となってはこの幻想郷の決闘法となったスペルカードルールで私も戦い情報という名のネタを文化帖に書き綴っていった。
「それがあんな説教を受けるなんて......」
今まで自分は記事を面白おかしく書くことが一番だったが閻魔様――四季映姫の一言。
「貴方は、事件を誘発する覚悟で記事を書かなければいけない!」
その一言で今の私は真っ白な文化帖を眺めながら自分の記者としての在り方を考えていた。
「うが――――ッ!らしくないですよ私!!」
横にしてた体を起こす。
「そもそもこんな物思いにふけってるから駄目なんです。こうしている間にも発刊は滞っているというのに......」
机には文化帖に負けじと劣らずまっさらな文々。新聞。
「気分転換に出かけるとしましょうかねぇ...」
何千年生きている天狗だって煮詰まる時はあるのだ。そういったときは外出するに限る。
思い立ったら吉日という言葉もあることだし、以前ネタという意味でお世話になった氷精のいる湖にでも行こうと家を後にした。
――――――――---――――――――--――――――――――――
「いつ来てもここは賑やかですねぇ♪」
森の中にある湖というと静寂、神秘的なイメージを持つと思うがここはそうではなかった。
たくさんの妖精たちが遊びまわっている。喧騒...とまではいかないが静寂とは程遠い場所であるのは確かだ。塞ぎ込みがちな今の私にとってはちょうどいい。
いつぞやの氷精を探し辺りを見回す。
「チルノさんは今日は違う場所で遊んでいるのでしょうか?」
いかに交友関係の広い自分でも妖精の知り合いとなるとかなり限られてしまう。
チルノはそんな数少ない知り合いのひとりであった。近くにいる妖精に聞けばいい話でもあるが、今日の目的は気分転換である。彼女たちのほのぼのとした雰囲気を自ら壊す必要はない。こう見えて空気は読めるほうだ。
「居ないのであれば仕方ありません」
探すといってもあてがあるわけでもないので妖精に見つからないよう適当な木の上に姿勢を崩し、ぼんやり眺めていた。
ふと――妖精という種族のことを考えた。
思いつきで行動し、人間よりも後先を考えず、これといった目的も悩みもなく無邪気に日々を過ごしている。それが一般的な妖精に対する考えだろう。
しかし実際はどうなのだろうか?
こうみえて天狗という地位を最大限に利用し、見聞を広め、そこらの妖怪よりは人生経験も豊富だ。
そんな私を面白いと思わせるあの氷精。他のものは妖精を下に見ている節があるが私はそうは思わない。自然の権化ともいわれている彼女たち。色々謎に包まれていることは多い。
――気が付くと私は飛び立っていた。
冷めていた心には何か夢中になれるものが欲しかったのかもしれない...。
――――――――---――――――――--――――――――――――
妖精のことを知るには何はともあれ情報がいる。自分の考察だけではわからないことも多いし、真実を語る記者としての矜持にも反する。
知識を得るため紅魔館の図書館にお邪魔しようかと思ったが、その館の主に、「今日は調べ物があってお邪魔しました」、なんて言っても胡散臭がられるだけのような気もしたので永遠亭の薬師を頼ることにした。八意永琳ならば医学全般に精通しており妖精の生態についてもなにか知っていると思ったからだ。
あれこれ取材内容を考えて竹林を飛んでいるところに突如、声が掛かった。
「迷いの竹林に天狗が何かようかな?」
「これはこれは、妹紅さんじゃないですか」
声の主は不老不死の秘薬を飲み蓬莱人となった藤原妹紅。
「私は永遠亭に用があるので...妹紅さんこそ何をしてるんです?」
「その永遠亭に急患を送っていった帰りだよ。けっこう重症らしくてね...人里のところの医者ではお手上げだったらしい」
「そうですか......」
患者が訪れているとはタイミングが悪い。
――日を改めるしかないか...。
「そっちも急用なのかい?」
いやいや、たいした用では...と言おうと思ったがこのまま戻ったところで他に当てもない。
せっかくなので妹紅に尋ねてみることにした。不老不死とはいえ人でありながら千年以上も生きているのである。
「......妹紅さんは妖精についてどう思いですか?」
「どう思うっていわれてもね...別に妖精に知り合いがいるわけでもないし......」
質問の仕方が悪かったか。
確かにあれでは質問の意図がわからない。
そもそも自分が妖精について何を知りたいのかわからないのだ。
「失礼しました、今の質問は忘れてください」
やはり今日はもう帰ろうと引き返そうとしたところに一言。
「まぁ、何を知りたいのかしらないけど私や永遠亭のやつらに聞くよりまずは妖精に聞くのがいいんじゃないか?」
確かに真っ先に聞くべき相手は妖精である。
「ええ、そうしますね」
久しくつけていなかった予定を手帳に記し、明日は再度湖に行こうと帰路についた。
――――――――---――――――――--――――――――――――
「こんな天候では妖精さんたちも家に引き篭もってますかね...」
生憎、外は雨である。
「まぁ、行くだけいってみましょう」
昨日見当たらなかった氷精に会うために。
湖に着くと意外にもあっさり見つかった。しかしチルノ以外の妖精がいない。いつもは仲のいい他の妖精とはしゃいでいるはずだ。
雨の中、何やらぼんやりと湖を眺め、時折小さい氷の塊を湖に投げている。
――ポチャン...―――ポチャン......――――
雨音に混ざりその音だけが響きわたる。
「こんにちわ、チルノさん」
「............文?」
「ええ、清く正しい射命丸です」
「あたいは今考え事してるんだから他行ってよ...」
――珍しい。
「そんなつれない事言わないで、いつものように面白いことでもして下さいよ」
「そんな気分じゃないし、いつも面白いことなんてやってるつもりはないよ...」
チルノの表情は暗い。
「とにかく、今はほっといてよ...」
あやや――本格的に深刻そうだ。
「何か悩み事ですか?」
「………」
「もしよろしければ相談に乗りますよ?」
「......他の誰にも言わない?」
「もちろんです、秘密は守ります」
「とか言って新聞のネタにするんでしょ?」
「そんなことは致しません」
「むー、信用できない」
さすがに疑い過ぎではないだろうか。
確かに新聞のネタは大事だがひとのプライベートを記事にするほど外道ではない。
「そういわずに話してみて下さい、他のひとに話すだけで案外楽になるものですよ」
「...じゃあ、文のこと信用して話すからね」
チルノの悩みは意外にも自分と同じくかつての異変のときに閻魔様から受けた説教のことだった。
――妖精なのに強い力を持っている。
――そのままでは、貴方は自然の力で元に戻れないダメージを負うかも知れない。
即ちそれは死を意味するというのだろうか。
「それとあなたは周りに迷惑を掛け過ぎてるって言われて...あたいそんなつもりないけど、みんなやっぱり迷惑なのかな...」
「迷惑だなんて、そんなことありません!」
頭で考えるより先に言葉を発していた。
「みんな元気なチルノさんが好きなんです、今みたいに落ち込んでる方が迷惑になっちゃいます」
「ほんとに?」
「清く正しい射命丸は嘘は言いませんよ」
「...嘘ばっかりだった気がするけど......」
うぅッ――日頃の行い、身から出た錆。
「んー、でも信用するよ。信用するって決めたから」
チルノの顔にはいつの間にか笑顔が戻っていた。
「そろそろ戻るね」
「はい、また何かあれば相談に乗りますよ」
「ありがとう...文」
チルノは自分の家に戻り私はひとり湖で先ほどの相談について考えていた。
閻魔様は様々な人妖に説教を説いていたと聞いていたが、まさか妖精であるチルノにまで及んでいようとは...。
四季映姫の言うことは最もだとは思う。しかしそのことに縛られ過ぎてはいけないとも思う。
結局、自分では彼女の答えは導き出せないということなのだろうか...。
「いやはや、困りました」
さすがに今回の相談は難しい。
――ふと、森の方へ目を向ける。
すると顔見知りの妖精がこちらを伺っており目が合った。
「大妖精さん、そんなにこそこそしなくてもいいですよ」
「あ......」
大妖精は文の方に駆け寄りペコリとお辞儀をした。
いつ会っても礼儀正しい妖精だと思う。
「すみません、覗くつもりはなかったんです...」
「いえいえ、気にしてませんよ、それより私に何か用ですか?」
「はい...最近チルノちゃんが見ての通りの状況で、特に何も話してくれないし、私不安だったんです」
大妖精とチルノは無二の親友である。あのように悩まれては大妖精が不安がるのも無理はない。
「でも安心しました」
「?」
「文さんと話して少し元気が出たみたいです」
「...そうでしょうか?」
「そうですよ、チルノちゃんがあんな笑顔見せたのは久しぶりだったんですから」
そんなことを言われると何か恥ずかしい。
「チルノちゃんのことお願いしますね」
大妖精はそう言いながら森へ飛び去っていき、再び湖には私ひとり残された。
「あやや、参りました」
気がつくと雨は止み、青空が広がっていた...。
続く
かくいう私もその一人だった。以前永遠亭の方々が起こした異変以来これといった事件も起きず、文々。新聞も暇を持て余していたところにこの 「異変」 である。
今となってはこの幻想郷の決闘法となったスペルカードルールで私も戦い情報という名のネタを文化帖に書き綴っていった。
「それがあんな説教を受けるなんて......」
今まで自分は記事を面白おかしく書くことが一番だったが閻魔様――四季映姫の一言。
「貴方は、事件を誘発する覚悟で記事を書かなければいけない!」
その一言で今の私は真っ白な文化帖を眺めながら自分の記者としての在り方を考えていた。
「うが――――ッ!らしくないですよ私!!」
横にしてた体を起こす。
「そもそもこんな物思いにふけってるから駄目なんです。こうしている間にも発刊は滞っているというのに......」
机には文化帖に負けじと劣らずまっさらな文々。新聞。
「気分転換に出かけるとしましょうかねぇ...」
何千年生きている天狗だって煮詰まる時はあるのだ。そういったときは外出するに限る。
思い立ったら吉日という言葉もあることだし、以前ネタという意味でお世話になった氷精のいる湖にでも行こうと家を後にした。
――――――――---――――――――--――――――――――――
「いつ来てもここは賑やかですねぇ♪」
森の中にある湖というと静寂、神秘的なイメージを持つと思うがここはそうではなかった。
たくさんの妖精たちが遊びまわっている。喧騒...とまではいかないが静寂とは程遠い場所であるのは確かだ。塞ぎ込みがちな今の私にとってはちょうどいい。
いつぞやの氷精を探し辺りを見回す。
「チルノさんは今日は違う場所で遊んでいるのでしょうか?」
いかに交友関係の広い自分でも妖精の知り合いとなるとかなり限られてしまう。
チルノはそんな数少ない知り合いのひとりであった。近くにいる妖精に聞けばいい話でもあるが、今日の目的は気分転換である。彼女たちのほのぼのとした雰囲気を自ら壊す必要はない。こう見えて空気は読めるほうだ。
「居ないのであれば仕方ありません」
探すといってもあてがあるわけでもないので妖精に見つからないよう適当な木の上に姿勢を崩し、ぼんやり眺めていた。
ふと――妖精という種族のことを考えた。
思いつきで行動し、人間よりも後先を考えず、これといった目的も悩みもなく無邪気に日々を過ごしている。それが一般的な妖精に対する考えだろう。
しかし実際はどうなのだろうか?
こうみえて天狗という地位を最大限に利用し、見聞を広め、そこらの妖怪よりは人生経験も豊富だ。
そんな私を面白いと思わせるあの氷精。他のものは妖精を下に見ている節があるが私はそうは思わない。自然の権化ともいわれている彼女たち。色々謎に包まれていることは多い。
――気が付くと私は飛び立っていた。
冷めていた心には何か夢中になれるものが欲しかったのかもしれない...。
――――――――---――――――――--――――――――――――
妖精のことを知るには何はともあれ情報がいる。自分の考察だけではわからないことも多いし、真実を語る記者としての矜持にも反する。
知識を得るため紅魔館の図書館にお邪魔しようかと思ったが、その館の主に、「今日は調べ物があってお邪魔しました」、なんて言っても胡散臭がられるだけのような気もしたので永遠亭の薬師を頼ることにした。八意永琳ならば医学全般に精通しており妖精の生態についてもなにか知っていると思ったからだ。
あれこれ取材内容を考えて竹林を飛んでいるところに突如、声が掛かった。
「迷いの竹林に天狗が何かようかな?」
「これはこれは、妹紅さんじゃないですか」
声の主は不老不死の秘薬を飲み蓬莱人となった藤原妹紅。
「私は永遠亭に用があるので...妹紅さんこそ何をしてるんです?」
「その永遠亭に急患を送っていった帰りだよ。けっこう重症らしくてね...人里のところの医者ではお手上げだったらしい」
「そうですか......」
患者が訪れているとはタイミングが悪い。
――日を改めるしかないか...。
「そっちも急用なのかい?」
いやいや、たいした用では...と言おうと思ったがこのまま戻ったところで他に当てもない。
せっかくなので妹紅に尋ねてみることにした。不老不死とはいえ人でありながら千年以上も生きているのである。
「......妹紅さんは妖精についてどう思いですか?」
「どう思うっていわれてもね...別に妖精に知り合いがいるわけでもないし......」
質問の仕方が悪かったか。
確かにあれでは質問の意図がわからない。
そもそも自分が妖精について何を知りたいのかわからないのだ。
「失礼しました、今の質問は忘れてください」
やはり今日はもう帰ろうと引き返そうとしたところに一言。
「まぁ、何を知りたいのかしらないけど私や永遠亭のやつらに聞くよりまずは妖精に聞くのがいいんじゃないか?」
確かに真っ先に聞くべき相手は妖精である。
「ええ、そうしますね」
久しくつけていなかった予定を手帳に記し、明日は再度湖に行こうと帰路についた。
――――――――---――――――――--――――――――――――
「こんな天候では妖精さんたちも家に引き篭もってますかね...」
生憎、外は雨である。
「まぁ、行くだけいってみましょう」
昨日見当たらなかった氷精に会うために。
湖に着くと意外にもあっさり見つかった。しかしチルノ以外の妖精がいない。いつもは仲のいい他の妖精とはしゃいでいるはずだ。
雨の中、何やらぼんやりと湖を眺め、時折小さい氷の塊を湖に投げている。
――ポチャン...―――ポチャン......――――
雨音に混ざりその音だけが響きわたる。
「こんにちわ、チルノさん」
「............文?」
「ええ、清く正しい射命丸です」
「あたいは今考え事してるんだから他行ってよ...」
――珍しい。
「そんなつれない事言わないで、いつものように面白いことでもして下さいよ」
「そんな気分じゃないし、いつも面白いことなんてやってるつもりはないよ...」
チルノの表情は暗い。
「とにかく、今はほっといてよ...」
あやや――本格的に深刻そうだ。
「何か悩み事ですか?」
「………」
「もしよろしければ相談に乗りますよ?」
「......他の誰にも言わない?」
「もちろんです、秘密は守ります」
「とか言って新聞のネタにするんでしょ?」
「そんなことは致しません」
「むー、信用できない」
さすがに疑い過ぎではないだろうか。
確かに新聞のネタは大事だがひとのプライベートを記事にするほど外道ではない。
「そういわずに話してみて下さい、他のひとに話すだけで案外楽になるものですよ」
「...じゃあ、文のこと信用して話すからね」
チルノの悩みは意外にも自分と同じくかつての異変のときに閻魔様から受けた説教のことだった。
――妖精なのに強い力を持っている。
――そのままでは、貴方は自然の力で元に戻れないダメージを負うかも知れない。
即ちそれは死を意味するというのだろうか。
「それとあなたは周りに迷惑を掛け過ぎてるって言われて...あたいそんなつもりないけど、みんなやっぱり迷惑なのかな...」
「迷惑だなんて、そんなことありません!」
頭で考えるより先に言葉を発していた。
「みんな元気なチルノさんが好きなんです、今みたいに落ち込んでる方が迷惑になっちゃいます」
「ほんとに?」
「清く正しい射命丸は嘘は言いませんよ」
「...嘘ばっかりだった気がするけど......」
うぅッ――日頃の行い、身から出た錆。
「んー、でも信用するよ。信用するって決めたから」
チルノの顔にはいつの間にか笑顔が戻っていた。
「そろそろ戻るね」
「はい、また何かあれば相談に乗りますよ」
「ありがとう...文」
チルノは自分の家に戻り私はひとり湖で先ほどの相談について考えていた。
閻魔様は様々な人妖に説教を説いていたと聞いていたが、まさか妖精であるチルノにまで及んでいようとは...。
四季映姫の言うことは最もだとは思う。しかしそのことに縛られ過ぎてはいけないとも思う。
結局、自分では彼女の答えは導き出せないということなのだろうか...。
「いやはや、困りました」
さすがに今回の相談は難しい。
――ふと、森の方へ目を向ける。
すると顔見知りの妖精がこちらを伺っており目が合った。
「大妖精さん、そんなにこそこそしなくてもいいですよ」
「あ......」
大妖精は文の方に駆け寄りペコリとお辞儀をした。
いつ会っても礼儀正しい妖精だと思う。
「すみません、覗くつもりはなかったんです...」
「いえいえ、気にしてませんよ、それより私に何か用ですか?」
「はい...最近チルノちゃんが見ての通りの状況で、特に何も話してくれないし、私不安だったんです」
大妖精とチルノは無二の親友である。あのように悩まれては大妖精が不安がるのも無理はない。
「でも安心しました」
「?」
「文さんと話して少し元気が出たみたいです」
「...そうでしょうか?」
「そうですよ、チルノちゃんがあんな笑顔見せたのは久しぶりだったんですから」
そんなことを言われると何か恥ずかしい。
「チルノちゃんのことお願いしますね」
大妖精はそう言いながら森へ飛び去っていき、再び湖には私ひとり残された。
「あやや、参りました」
気がつくと雨は止み、青空が広がっていた...。
続く
あ、あと三点リーダ(…)に統一したほうが読みやすいと思います。