一輪は文字を読む時に、薄いレンズの眼鏡をかけて、一つ一つの文字を丁寧に視線でなぞっていく。
自室の綺麗に整頓された部屋の中央で、薄い座布団の上に正座して、娯楽用にと渡された本を表情なく読み込んで、時折ページを捲る音だけが小さく部屋を満たしていた。
丁寧に指で摘んで、ほとんど音はないその音は、だけれど確かに空気をサラリと震わせて、彼女の周りの暖かな何かを感じさせる。
「……」
ぼうっと、その様子を寝転がりながら見つめて、心が空虚。
それは、多分、一輪が娯楽用の本を読むという行為が随分と久しぶりであり、それはいつも呼んでいる小難しい歴史書や古事記の類ではなくて、もっと気安い気晴らしの行為である事。
本を読みながら、時折一輪の瞳が柔らかく、優しく染まるのが珍しく、それが少し、複雑だったから。
一輪は、レンズ越しに見る本の中身に集中して、私の存在を見事に忘れているのが、きっと、少し嫌なのだろうと。私はふぅ、と大人気ないと何度目かの溜息。
船幽霊の不安定な心は、さわざわと、細波は次第に大きく、雲行きは光を遠ざけていく。
「……一輪」
気付けば呼んでいた。
呼んでから「ぁ」って、何呼んでるんだろうって、少しばかり焦ったけれど、一輪は無言。
一秒たっても、二秒たっても、三秒もすぎても、私の声に振り向かない。
聞こえなかった、みたいだった。
「……」
パシャリって、波が心の防波堤に少しだけぶつかった。
指がそろりと、一輪に触れようと持ち上がって、意識する前に理性は止めていた。
約束。
いつしたのかも曖昧なそれは。単純で簡単。一輪の読書の邪魔はしない。というそれ。
過去、幼い一輪に何をしているのかと覗き込んだら、唇を尖らせて集中できないわって、可愛らしく怒られた事がある。大事な知識だから、真剣に受け入れたいんだって。真面目ぶった小さな一輪ちゃんはそう言った。
だから。読書中の一輪の邪魔はしない、のが、私たちのルールであり、それを一方的にやぶろうとは思わない。
一つ、落ち着けと深呼吸。
それから、どうせ声をかけるにたる理由もないし、今は自由時間。本の感想を聞くにも早く、外を歩こうと誘うにもタイミングが悪い。結局は、一輪が読み終えるのを待つしかないかと。ごろりと寝返りを打つ。
何故だか、今日は一輪と居たいから、他を誘おうとも、一人ででかけようとも思えなかった。
「……」
ごろり。
だけれど気付けばまた、落ち着けずに寝転がっている。
んぅ、っと息がもれて、自分の落ち着けなさに少し恥じて、きっとまだ本を読み終わる気配の無い一輪を見ているから辛いし、落ち着かないのだろうと、彼女に背を向けて、更に気にしない様にと努める。
「……んー」
だけれど、視界から彼女が外れると指がたまに鳴らすページの音だけが気にかかり、それがやけに大きく、だけれどその間が異常に遅く聞こえて。
「……あー」
駄目だ、と。
数分も持たずに降参。
首だけで振り向いてしまい、結局は一輪を見つめ続けてしまう。それにようやく気付けた辺りで、自分は何をやっているのだと深い自己嫌悪。
私は、私でも意外なぐらい、まったく一輪を意識から外せない。
「……はぁ」
溜息がこれ以上なく大きく響いて、これではいずれ一輪の集中の邪魔をしかねあにと、のろのろと起き上がる。
よく見れば寝転がっていた畳が少し湿気っている。
「……またかぁ」
これに更に落ち込みそうになって、片手で顔を覆う。
思った以上に心が不規則だったらしい。反省して、その湿りを消すと、何か暇つぶしできるものはないかと、部屋を見回す。
……私も本でも読もうかな? そうすれば一輪を待つ間の時間潰しぐらいはできる。
でも、私は読み書きはできても好んで読書をしようと思う程に活字に慣れ親しんではいない。
一輪に、少しは勉強しなさいよと読書を進められても丁重に断るし、それよりも身体を動かしている方が性に合っている。
……外で、少し風にでも当たっていようか。
このままだと、この命蓮寺全体を湿気で湿らせてしまいそうだと、この寺という船に自縛している私は苦笑する。
「一輪、外にでるね」
返事は無いと分かりながらもそう断って、立ち上がる。
散歩でもしようとこきっと首を鳴らした。今は庭先の花が見ごろだし、それでも眺めて一輪が部屋から出てくるのを待つか、それとも何か雑用でも、と一歩を軽く前に出した瞬間。くん、と引っ張られる。
「?」
うん? と何か引っかかっただろうかと軽く振り返ると、意外そうな瞳とはちあった。
「え?」
そこには、眼鏡越しの一輪が、なにやら不思議そうにいぶかしそうにこちらを見上げていた。
細い指先がしっかりと私の服の裾を摘んでいて、おへそが丸見えになって風を感じた。
「……どうかしたの?」
「それはこっちの台詞よ」
「……はい?」
「どうして外にでるのよ? ここにいればいいじゃない」
「……」
えぇと、って間抜けな声が喉奥で唸った。
戸惑いがまずはあって、読書に集中していて、私の声は聞こえないんじゃなかったの? とか、いてもやる事ないのに外にでるぐらいいいじゃない、とか、思う所は色々とあったけれど。
私は一輪を待っていて、一輪がこうして声をかけてくれたのは素直に喜ばしい事で、戸惑いながらも喜びが滲んでいく。
だから、自然ににやけそうになりながらも、そっと首を傾げて会話を続けたいなと、笑いかけた。
「……そう?」
「そうよ」
「……でも、邪魔じゃない?」
「むしろどうして今日はいなくなるのよ? いつもは居てくれるのに」
そっと、拗ねた時の癖で、一輪の唇が尖る。
あ、可愛い。っていつも思う事を今日も思って、頬をかく。
「……だって、いつものは難しい本だから」
「?」
「でも今日は、娯楽用の本で、だから、かな?」
「分からないわ」
くんくんっ、と服は規則的に引っ張られる。
ここに居なさいよと、一輪はふっくらとした唇を更に尖らしそうで、少し困る。
「難しい本は邪魔しちゃいけないから、大人しく待てるけれど、娯楽用なら……むしろ邪魔しちゃいそうで」
「……」
さっきからついつい指が伸びたり声をかけてしまったり、落ち着かずにごろごろして、じっと見つめてしまったり。とてもじゃないがいつも通りに待つのは難しい。
そう素直に申し上げると、何故か一輪は更に唇を、またちょっとだけ尖らせて、軽く俯いてしまう。
上から眺めるとそれはまるっきり子供みたいな表情で、外ではなるべきこういう顔を出さないで欲しいなって、ちょっと抱きしめそうになるので、指をぴくぴく抑えながら思った。
「じゃあ、どうしたらここにいてくれるのよ?」
「……むしろ、どうして居て欲しいのか分からない」
「だって……いつもいるじゃない」
「だから、今日は居づらいんだってば」
何やら話は平行線。交わらず、私としてはここら辺でいつも折れるのだけれど。一輪の趣味の邪魔をしたい訳ではないので断りたい。
一輪は一輪で私の考えている事ぐらい分かっているだろうから、強くは引き止めないと思っているのに、今日は変に頑固で、私の方が首を傾げてしまう。
「……じゃあ」
くんっ、と一際強く。
服は伸びっぱなしのまま、一輪が正座を崩して身を寄せて、私を首を曲げて見上げてすがりつくみたいに、足首まで捕まえる。
その感触にますます目が丸くなる。
「ムラサのお願いを、何か一つ効いてあげる」
「……は?」
「だから、それで私の我侭をきいて、ここにいてよ」
「……」
ええ、と……?
本気で、困ってくる。
別に、そこまでしなくても何か私がここにいないと困る分かりやすい理由でもあったら、私は喜んでここにいるつもりだし。
何も、そんな風に一輪が身を削るみたいな要求をしなくても、私は快く力になるしなれる。それが傍にいる事ならば本当にぴったりとくっつく事だってする。
なのに、それが分かっているだろうに、何故あえてそんな要求をするのか分からない。
「えぇ、と。一輪?」
「ほら、早く言って」
「……」
今日の一輪は、なるほど。確かに我侭だ。
よく分からない我侭さんで、私は頬をかいて、どうしようかなぁって迷って。
でももうどうしようもないよなぁって観念する。
船長たるもの、婦女子で、相棒で、親友で、妹みたいな彼女のお願いだもの。
無下にする訳にはいかない。
だから、まあ。ちょっとぐらい意地悪しよう。
我侭を聞くのを前提で、負けるのも前提で、困らせるぐらいはやっていいだろうって、少しにやける。
「じゃあ、キスさせてよ」
ちょんって、一輪の唇に小指で触れる。
まるで指きりでもするみたいに。
「……ぇ」
ほら、予想通り。
一輪の瞳が見開かれて、焦りに意固地な様子がすっと消える。
変に尖らせていたから、まるで私の小指にキスしてみえて、やっぱり私より背は伸びてもまだまだ子供かもと、くすりと笑う。
「っ、ムラサ、貴方ね」
「よしよし、一輪ちゃんには刺激が強すぎたね」
「……っ、もう、ちゃん付けはやめてって言ったわよね? 水蜜お姉ちゃん?」
「あ、久しぶりだねその呼び方。……最初はお化けー! だっけ?」
「ぐっ」
「聖に泣きついて、わんわん泣いて、いやぁ、ちょっとびしょ濡れで廊下に立っていたぐらいで、あれは酷いよ一輪ちゃん」
「あ・れ・は! しょうがないわよ! 私のトラウマになってるのよあれ?!」
「はいはい」
よしよしって頭巾越しにぐしゃぐしゃすると、一輪がわずらわしげに手を払って、もう、って頭巾を脱いであらわになった髪を整える。
相変わらず綺麗な髪。
見ていて飽きないなぁって触ろうとしたら、またぺしっとやられて少し残念だった。
「それで? 居て欲しいんだっけ一輪ちゃんは?」
「性格悪いわね……水蜜お姉ちゃん」
意識して綺麗な笑顔を作ると、もっと怖い綺麗な笑顔が返ってきた。
あ、やりすぎたかな? って内心でちょっと観念しかねると、一輪は「……はぁ」って溜息。
「キス、って、どこに?」
「え?」
「だから、ムラサのどこにすればいいの?」
「……? 私がされるの?」
「あっ、む、ムラサが私にするのね!」
「いや、どっちでもいいけど」
何故かやる気? に見える一輪に、はて? っと首を傾げる。
十中八九嫌がると思ってたし、こちらとしては怒らせて、それでごめんごめんって感じに本を読む一輪にまた付き合う、って流れにしようと思っていただけに拍子抜けだった。
……まぁ、でもこれはこれで、流れ的に問題も無いし、いいのだけど。
「じゃあ、額に?」
「……額でいいの?」
「え? ……じゃあ頬」
「……」
「なんか、不満そうな顔するね。ええと、じゃあ、鼻?」
「…………」
「い、いくら何でもその顔は傷つく」
だんだんと、心底から可哀想なものをみる如き哀れな瞳とか……流石に応えるな。心がずきずきする。
「じ、じゃあ、どこならいいの!」
「ここがあるでしょう? ここが」
「ここ?」
「そうよ。……唇」
あぁ、唇ね。唇。
「って、は?」
唇って、唇?!
「ええ、お願いを聞くって言ったのは私だもの。中途半端はなしよ」
「……いや。ね、ねえ? 今日の一輪は本格的におかしくない?」
「普通よ普通。さ、早くして」
「……えー」
尻込みしかねる箇所への要求に、思考が止まる。
腰が抜けかけて、へろへろと畳にお尻をつけてしまうと、当たり前だけれど一輪の顔が目の前で。何やらその余裕じみたそっけない表情におやおや? って、優しい微笑が、驚きを通り越して浮かんでしまう。
「一輪ってば、大人ぶって」
「何よ失礼ね。私はもう、充分に大人よ」
「そう? 私には、全然子供にしか見えないんだけどね」
「……その口ぶりだと、ムラサは誰かと口付けた事、あるのね」
「うん? うん、あるよ」
「……そう」
ぬえとだけど。
ふ、っと苦い笑みが広がりそうになるのを意識して抑える。
……お互いにめちゃくちゃ不本意な事故だったけどね。
正体不明の種で、ぬえが……別人、に見えて、思わずだったのだ。……いやだって、寝起きだよ? そこに、扇情的な……って、いや思い出すな。流石に『今』それを思い出すのは駄目だって。
それにぬえだって、唇をごしごしと失礼なぐらいに拭って「し、信じられないッ!」ってめちゃくちゃ怒って、後で早苗さんにもそれ相応の処罰を……っていや。マジで思い出すのはやめよう。きついから。
……ま、まあ、どう考えても一輪の考えている様なアダルティーでロマンスなシチュエーションではないけれど。嘘ではないのでそ知らぬ顔で笑顔を作る。
「……相手は?」
「秘密」
「……ふぅん」
あ、また唇が尖った。
つん、と柔らかそうで、触れると瑞々しそうな健康的な色づく唇。
……。
しても、いいかな?
なんて、つい思ってしまった。この一瞬。
「じゃあ、するね」
「え……?」
「キス」
「……あ、うん」
私の方が、触れたくなっていて、少し強引に頬に触れれば、視線が、一輪の瞳がそっとずれて、すぐに真正面に私を見る。
頬を染めるでもなく、まるで義務の様な潔さ。
うん、このあっさりとした、理由付けのキス。
これなら、できると。
ほっとする。
これなら大丈夫だ、私の心の防波堤は無傷。さらさらと、波も穏やか。
今なら笑って、終えられる。
「じゃあ」
「……ん」
「目、瞑ってて」
「っ……、あ、待って」
「え?」
ふ、と唇に人差し指と中指がちょこんと。
余裕がふう、と主観的に途切れて。一輪は目を伏せたまま、そっと眼鏡に触れる。
思い出した様に、かけたままだった細身の眼鏡を外し、無意識にか、そっと前髪を指先で整えたりして、視線を小刻みに揺らがせてから、戸惑いを潜ませて、居住まいを正す。
そうして、顔をあげた一輪はもう、さっきまでの一輪で。
「さ。どうぞ」
でも、レンズ越しじゃない視線と、前髪を弄る際に僅かに見えた、赤い耳。
「……」
私が微笑んだまま固まっているのを勘違いしたのか、目を瞑って、簡素に唇をそっと上向きに。
その唇も、僅かに震えてる。
……。
…………あー。
唇を、押さえて、上を向いて。熱をもてあます。
ちょっと、ねえ?
この瞬間に、そういう可愛い事しちゃうわけ? 一輪ちゃん。
「……ねえ一輪」
「なに?」
「聞き忘れていたけど、一輪はキス、した事あるの?」
「……今からするわ」
「あぁ、そう」
そう、ですか。
はい。
ならば、優しく、そして溺れるぐらいには。
深く口付けよう。
多分、だって。それは一輪が悪いから。
◆ ◆ ◆
貴方が悪いわ。
仏門関係の本を読んでいる時は、集中しているけれど、ふとページを捲る瞬間に、貴方を感じ取れる。
そこに居てくれる。
だから私はいつも、安心して、それだけに集中して知識を吸収できるのに。
今日は、里の古本屋で見つけた一昔前の恋愛小説を読んでいたら、色濃く貴方の気配を感じて。
ムラサが、私の背中を見つめる視線に気付いていた。
あ、見守ってくれているのねって、嬉しかった。
何も言わずに傍にいてくれる貴方に、これ以上ない充足感を覚えて、なのに。
貴方は、急に席を立ってしまう。
どうしてって、私が慌てて引き止めると。
難しい本じゃないから、邪魔しそうだからって、そんな理由ともいえない理由。
いつも、一緒にいてくれるのに。
何だか少し、長年一緒に続けてきた習慣を、裏切られたみたいに感じて。酷いじゃないって、収まりが付かずに、我侭を言って。
そうしたら。
「じゃあ、キスさせてよ」
だもの。
……そんな台詞が簡単に出るぐらいには、貴方は経験があるのね。
そんなに得意げに笑わないでよ。
私を子ども扱いしないで。
一輪『ちゃん』は、もういないのよ?
誰と、キスしたのか。
それは凄く、気になるけれど。でも、今ムラサは私とキスをしようとしてくれている。
……でも。
前の人と比べられるのは嫌だな。
そうやって迷ってばかりだったけれど。
ムラサがようやくやる気になってくれて、でも混乱しちゃって。
待って。
って。少し待って貰った。
ドキドキする。
赤くなりそうな顔を誤魔化そうと、少し俯いて眼鏡を取って、おかしな所がないか、本当は爆発しそうな心も、赤くなりそうな頬だってその隙に制御して、ムラサを見る。
ムラサはきょとんとしていた。
そして。
息ができない、優しいキスをいきなりしてきて。
「……ん」
苦しい、激しい、でも優しい。
ムラサみたいな、キス。
「ん、んんっ……ふ、ぅん」
あぁ、これ息できないな。
鼻からですら、難しい、これが、ムラサとの、船幽霊とのキス。体の中の酸素を全て、知らずに奪われてしまう。
「………ん♪」
でも、私は、苦しいから幸せ。
息が出来ない窒息感は、ムラサを思い出すから、好き。
わざと息をとめて、その苦しさにムラサを感じる事はよくある。だから、こういうのは、嬉しい。こういうキスを、いきなり最初から貰えて、破裂しそうなぐらい幸せが一杯。
「……はい、お終い」
「……」
そして、口付けは唐突に終わる。ぁ、って思った時には、私の呼吸は酷くせわしなく。でも、ムラサは平気そう。
にこりと笑って、優しく頭を撫でてくる。
……も。
だから、やめてよ。また、子ども扱い。
「……ムラサ、これだけで、いいの?」
「うん、いいよ」
「……そう」
「うん? もしかして、一輪の方が物足りなかった?」
そんな風に、笑って意地悪。
馬鹿、って言って。
悔しくて、ムラサの頬を掴んで、今度は、私から。
――――。
また、息が続かなくなった。
多分これ、ムラサだからのキスなんだろうなって。またくらくらしながら思う。
知らずに、私の中の空気を全部、貰っちゃうキス。
他の人とした事がないから分からないけれど、これが普通じゃない事は、分かる。
あ、息が、も、ぅ。
と、その瞬間、それが分かるみたいに、ムラサは瞳を細めて笑いながら、とんとんと背中を叩いて、ひゅはっ……! と息を吸う私を優しく離す。
「ま。あれだよね、一輪」
「……?」
酸欠で、くらくらして、声がよく聞き取れない。
だけれどムラサは続ける。
「私は、私のファーストキス、一輪にささげたつもりなんだよね」
「……」
「だから、いいよね?」
……ん。
そっか。
ええ。
なら、いいよ?
ゆるりと意識が黒くなる瞬間。
ムラサが笑ってた。
頬を染めて、帽子を少し目深に被って、何だか照れてる苦笑い。
初めて見る、私が引き出せた、ムラサの艶のある困った笑顔。
それに「…♪」って酷く満足して。
頭の片隅にあった、恋愛小説の続きも。ムラサに傍にいて貰うという約束も。何だか色々とどうでも良くなって。
温度の無い唇に奪われた、冷たい唇だけが一杯で。
私は少しだけ、眠る事にした。
「おやすみ一輪。起きたら、またいつかしようね」
うん。
また、してね?
眠りにつく瞬間。それはとても素敵な嬉しい意味があって、うん、なんてつい子供っぽい返事をした自分に、遅れて気付いて、でも、子供扱いはしないでねムラサって。
そう思ったの。
眼鏡ちゅっちゅこそ至高の眼鏡
あなたのムラいちが素晴らしすぎて生きてるのが辛いw
ハッキリしない関係ってのはいいね。
夏星さんの書く一輪ちゃんはかわいすぎてキュンキュンします ジタバタ
永遠にちゅっちゅしてればいいと思います
こういう関係もよいものですな。