咲夜さんの様子がおかしい。そのことに気付いたのは、ほんの数日前だった。春の訪れが遅れたあの異変を解決しに行って、帰ってきてから何やら考え込んでいたようだったが、まさか、あんなことになろうとは……
季節は巡り、異変も過去のものとなり、また新たな異変が起こりつつある。そんな中、紅魔館はいつも通りの日常を迎える。……少なくとも、外見上は。
その時、咲夜さんは調理場にいた。夕食の準備をするでもない。紅茶に合うお菓子を作るでもない。ただ……
回転式泡立器を手に佇んでいた。
「咲夜さん…… 一体、何を……?」
震える声で問いかける私。一方の咲夜さんは普段通りの口調で話し始める。
「あら、美鈴じゃない。門番の仕事はどうしたの?」
「いや、その…… 咲夜さんのことが、気になりまして……」
「私のことが気になる?」
「なんというか、最近、咲夜さんのナイフさばきが見られないなぁって……」
「……それは、刺されたいって事かしら?」
「いやいやいやいやそんなことじゃなくって、最近その…… ナイフを使っている咲夜さんを見ていないような気がしまして……」
咲夜さんが異変の解決にかかわったのは、私が知る限り、夜が明けない異変の時が最後だ。その後も、妖怪の山に神様が来たとか、地霊が湧きだしたとか、空飛ぶ船が現れたとか、いろんな異変が起きたはずなのに、咲夜さんが解決しに行った様子は見られなかった。
今更ながら、地霊の時にはパチュリー様が協力していたんだから、行ってもよかったんじゃないかなぁとか思い返してみたりする。……もしかして、腕が鈍ってしまったとか? いや、まさか…… そんなことを考えていると、咲夜さんは軽くため息をついた。
「あぁ…… それには深い理由があるのよ。」
深い理由。はたして聞いていいものか。戸惑っているところに、咲夜さんが呟いた。
「……剣って、いいわよね。」
固まる私。りぴーとあふたみー? え? 剣?
「リーチも長いし、武士道って感じもするし。……いや、そんなことどうだっていいわ。あの二刀流の剣士。今度の異変解決にやる気満々みたいじゃない。同じ銀髪の従者属性の刃物使いとして、なんだか悔しいじゃないの!」
すみません。言っていることが理解しきれません。いえ、言葉は通じています。なぜそのようなことを言っているのかということが理解できないのです。
「きっと、これは剣のせいよ。巫女が二人。赤と緑で配管工のシスターズ。これはもう諦めるしかないの。一方の、魔法使いとの組み合わせといったら何かと問われれば、それはもう剣でしょう? 剣と魔法の世界。これぞファンタジー。言いかえれば幻想。そうよ、幻想郷は剣と魔法の世界なのよ!」
だれかこの咲夜さんを止めてください。きらきらと目を輝かせながら語る咲夜さんを止めることなど、今の私にはできません。とりあえず、何も返事をしないわけにはいかない。私は絞り出すようにして質問の言葉をかける。
「……なぜ、回転式泡立器なんですか?」
うん、我ながら情けない。着眼点は他にもたくさんあるはずだろうに。この問いかけに、咲夜さんは再び問いかけを返してきた。
「……私の職業は何? 言って御覧なさい?」
なんだか高飛車な態度をみせている。いや、それくらいのことができる立場なんだろうけど、これまでの瀟洒な咲夜さんを知る私には、今の目の前の咲夜さんが咲夜さんだとは思えない。とりあえず、私は質問に答える。
「……紅魔館のメイド長、ですよね?」
間違ってはいないはず。なのに、咲夜さんの顔がみるみるうちに怒りに染まっていく。え、なんで? どうして?
「お嬢様の従者よ!」
そっちだったか…… そうですよね。そういう見方もありますよね。心の中でごめんなさい。
「ともかく、サムライでない私に刀は似合わない。かといって、西洋の騎士が扱うような長剣を振り回すのも、美しくないわ。」
剣の話に戻った。どうしよう。もう頭の中には後悔の二文字しか浮かんでこない。それでも、やめとけばいいのに、必死で頭を回転させて導き出した相槌が……
「……でも、剣を使いたいんですよね?」
……私のバカ。私のバカ! どうして、そうですか、って言ってその場を立ち去らなかった。ほら、咲夜さんの顔がみるみるうちに笑顔になっていく。
「パチュリー様の図書館で、世界の剣について調べたわ。そして見つけたの! カシナートの剣を! 調理器具を転用した剣…… まさに、メイドたる私のために創られた剣だと思わない?」
さっきお嬢様の従者って言っていたじゃないですか。肩書を使い分けるなんて小技、こんなのやっぱり咲夜さんじゃない。それに、咲夜さんは剣と言い張っているけど、泡立器って、剣というよりはドリルのような気が…… で、さっきからギュインギュインという音が響いているのですが、これは、どういうことでしょうか?
「美鈴?」
「はい。」
「あなた、今は休憩時間だったかしら?」
「いえ、休憩時間は終わりました。今すぐ、勤務に戻りますので。」
「へぇ…… もう休憩時間は過ぎていたのねぇ……」
「いえ、もうすぐ、もうすぐ過ぎるということです。だから、それまでに門の前に戻らないと―――」
「じゃあ、その時間、ちょっとだけ私にちょうだい。ね? 美鈴?」
「咲夜さん…… 目が…… 怖いで―――」
「た・め・し・ぎ・り…… うふふ!」
霧の湖に響く、笑い声と悲鳴が奏でるハーモニー。
お嬢様、紅魔館は、今日も平和です。
季節は巡り、異変も過去のものとなり、また新たな異変が起こりつつある。そんな中、紅魔館はいつも通りの日常を迎える。……少なくとも、外見上は。
その時、咲夜さんは調理場にいた。夕食の準備をするでもない。紅茶に合うお菓子を作るでもない。ただ……
回転式泡立器を手に佇んでいた。
「咲夜さん…… 一体、何を……?」
震える声で問いかける私。一方の咲夜さんは普段通りの口調で話し始める。
「あら、美鈴じゃない。門番の仕事はどうしたの?」
「いや、その…… 咲夜さんのことが、気になりまして……」
「私のことが気になる?」
「なんというか、最近、咲夜さんのナイフさばきが見られないなぁって……」
「……それは、刺されたいって事かしら?」
「いやいやいやいやそんなことじゃなくって、最近その…… ナイフを使っている咲夜さんを見ていないような気がしまして……」
咲夜さんが異変の解決にかかわったのは、私が知る限り、夜が明けない異変の時が最後だ。その後も、妖怪の山に神様が来たとか、地霊が湧きだしたとか、空飛ぶ船が現れたとか、いろんな異変が起きたはずなのに、咲夜さんが解決しに行った様子は見られなかった。
今更ながら、地霊の時にはパチュリー様が協力していたんだから、行ってもよかったんじゃないかなぁとか思い返してみたりする。……もしかして、腕が鈍ってしまったとか? いや、まさか…… そんなことを考えていると、咲夜さんは軽くため息をついた。
「あぁ…… それには深い理由があるのよ。」
深い理由。はたして聞いていいものか。戸惑っているところに、咲夜さんが呟いた。
「……剣って、いいわよね。」
固まる私。りぴーとあふたみー? え? 剣?
「リーチも長いし、武士道って感じもするし。……いや、そんなことどうだっていいわ。あの二刀流の剣士。今度の異変解決にやる気満々みたいじゃない。同じ銀髪の従者属性の刃物使いとして、なんだか悔しいじゃないの!」
すみません。言っていることが理解しきれません。いえ、言葉は通じています。なぜそのようなことを言っているのかということが理解できないのです。
「きっと、これは剣のせいよ。巫女が二人。赤と緑で配管工のシスターズ。これはもう諦めるしかないの。一方の、魔法使いとの組み合わせといったら何かと問われれば、それはもう剣でしょう? 剣と魔法の世界。これぞファンタジー。言いかえれば幻想。そうよ、幻想郷は剣と魔法の世界なのよ!」
だれかこの咲夜さんを止めてください。きらきらと目を輝かせながら語る咲夜さんを止めることなど、今の私にはできません。とりあえず、何も返事をしないわけにはいかない。私は絞り出すようにして質問の言葉をかける。
「……なぜ、回転式泡立器なんですか?」
うん、我ながら情けない。着眼点は他にもたくさんあるはずだろうに。この問いかけに、咲夜さんは再び問いかけを返してきた。
「……私の職業は何? 言って御覧なさい?」
なんだか高飛車な態度をみせている。いや、それくらいのことができる立場なんだろうけど、これまでの瀟洒な咲夜さんを知る私には、今の目の前の咲夜さんが咲夜さんだとは思えない。とりあえず、私は質問に答える。
「……紅魔館のメイド長、ですよね?」
間違ってはいないはず。なのに、咲夜さんの顔がみるみるうちに怒りに染まっていく。え、なんで? どうして?
「お嬢様の従者よ!」
そっちだったか…… そうですよね。そういう見方もありますよね。心の中でごめんなさい。
「ともかく、サムライでない私に刀は似合わない。かといって、西洋の騎士が扱うような長剣を振り回すのも、美しくないわ。」
剣の話に戻った。どうしよう。もう頭の中には後悔の二文字しか浮かんでこない。それでも、やめとけばいいのに、必死で頭を回転させて導き出した相槌が……
「……でも、剣を使いたいんですよね?」
……私のバカ。私のバカ! どうして、そうですか、って言ってその場を立ち去らなかった。ほら、咲夜さんの顔がみるみるうちに笑顔になっていく。
「パチュリー様の図書館で、世界の剣について調べたわ。そして見つけたの! カシナートの剣を! 調理器具を転用した剣…… まさに、メイドたる私のために創られた剣だと思わない?」
さっきお嬢様の従者って言っていたじゃないですか。肩書を使い分けるなんて小技、こんなのやっぱり咲夜さんじゃない。それに、咲夜さんは剣と言い張っているけど、泡立器って、剣というよりはドリルのような気が…… で、さっきからギュインギュインという音が響いているのですが、これは、どういうことでしょうか?
「美鈴?」
「はい。」
「あなた、今は休憩時間だったかしら?」
「いえ、休憩時間は終わりました。今すぐ、勤務に戻りますので。」
「へぇ…… もう休憩時間は過ぎていたのねぇ……」
「いえ、もうすぐ、もうすぐ過ぎるということです。だから、それまでに門の前に戻らないと―――」
「じゃあ、その時間、ちょっとだけ私にちょうだい。ね? 美鈴?」
「咲夜さん…… 目が…… 怖いで―――」
「た・め・し・ぎ・り…… うふふ!」
霧の湖に響く、笑い声と悲鳴が奏でるハーモニー。
お嬢様、紅魔館は、今日も平和です。
いや、むしろカスタムメイドか。
流石咲夜さん、やりおる……!
関係ないですよね、そうでした
しかし、長剣メイドとか燃えるじゃないですか!
いやなんでもない
でも縦スクロールSTGに出れないような?
二年も前から予見してたとはお見事ですわ……