Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

本格的柔軟体操

2011/04/24 03:23:45
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 妖精たちのあいだで、オイルレスリングが流行っている――。
 そんな噂を聞きつけ、本誌特命記者の射命丸文は、妖精がよく集まるという湖に向かった。
 そこで目にしたのは、体中に油を塗りたくり、取っ組み合いの喧嘩をする妖精たち。

 記者はこの奇っ怪な流行について知るため、妖精たちに聞き込み調査を始めた。
 だが、予想通りに彼女たちの話は要領を得ない。
 そこで記者は独自に調査をし、原因の一人と思わしき人物を特定するに至った。

 それは、宮古芳香氏(キョンシー・年齢不詳)である。



    ◇    ◇    ◇



「先生! 私の身体が硬い原因! 分かりましたかぁー??」
「ふむ。原因は死後硬直よ」

 永遠亭の診察室。
 やたらデカい声と、それを冷静に受け止める声があった。

 宮古芳香はその真っ白な腕を、目の前の名医・永琳へと真っ直ぐに伸ばしたまま、不思議そうな顔をしている。

「死後硬直ゥー!? それは一体、どうやったら治るんだァー!?」
「私には分からないわね。人間の病気なら何でも治せるけど、死体の病気を治すのは物理的に無理よ」
「なんて事だァー!? 幻想医学の敗北だー!」
「死体のことなら、もっと適任がいるでしょう。ここを紹介するから、いってらっしゃい」

 永琳に名刺を渡され、芳香は首を傾いだ。

「地底ー? お、おう……? それは、どこにあるんだ」
「土の下よ」
「分かりました。さっそく掘るぞー!」
「神社の裏に穴があるから、そこから入りなさい」
「あ、あと!」

 まだなにか? と心底面倒くさそうな声の永琳へと、芳香は尋ねる。

「お肌のケアは、どうすればいいですか?」
「……里の葬儀屋にでも尋ねなさい」
「了解!」



    ◇    ◇    ◇



「身体が硬いのだ。治してくれ」
「身体が硬いー? ……あたいはマッサージ屋を始めた覚えはないんだけどねぇ」
「う、うん。でも、お医者さんがお前に聞けって、言ってたぞ」

 道端で呼び止められたお燐は、歩く死体を目の前にして怪訝そうな顔。

「はぁ……。死体を運んでるからって、死体の関節を柔らかくする方法を知ってるワケ、ないじゃないか。あたいだって門外漢さ」
「ん? なんで私の身体が固いことを知っている?」
「あんたが出会い頭に言ったんじゃないか……。ったく。……そーだねー。死体の保存方法なら、冷しときゃいいんじゃないかい」

 投げやり感をまるで隠さない、お燐のあしらい方である。

「冷やす。どうやったらいいのだ」
「そうだねぇ、とにかくココはマズイよ。灼熱地獄の近くで暑いからね。地上の湖あたりにいって、氷の妖精でも捕まえておけばいいんじゃないかい」

 冗談交じりの言葉に対し、芳香は感心するように頷いた。

「あ、あと。お肌のケアはどうすればいい?」
「死体の美容なんて、あたいが知るかい。あ、でも……あんたと似た格好をした人を見かけたことがあるよ。同郷かも知れないし、その人に聞いてみたらどうだい?」
「う、お、お。私と同じ格好……? まさか、私と同じ戦士……?」
「いや、そいつは生きてると思う。紅魔館ってとこの門番してるから、行ってきなよ」

 お燐の言葉が終わるやいなや、芳香は地上へとすっ飛んでいく。
 妙ちくりんな奴が、これ以上地底に増えずに済んで、お燐はホッとしていた。



    ◇    ◇    ◇



「死後硬直を治す……? お肌のケア……?」
「そうだ、同志よ。お前はどうやっているのだ?」
「あいにくと私は死んでいないので、関節が硬いのを治す方法というのは、どうにも見当がつきませんが……。お肌のケアにはオイルを使っていますよ」
「老いる?」
「オイル、油のことですよ。あいにくと、分けてあげられる程の量は持っていませんが……」

 やはり似たような格好をしていると親近感が湧くのか。彼女は芳香に対して、わりあい親切であった。
 そして門番はしばらく考えてから、奇妙な死体へとアドバイスを送る。

「関節については、山の河童に訊いてみてはいかがでしょう? 河童は昔から、効き目の良い薬を作ると聞きます。もしかしたら死体に効く薬なんて作れるかも……?」
「そうか。老いるも、持っているかな」
「↑オ→イ→ルも、彼女たちなら持ってるかもしれないですね。山に行くなら、天狗たちに殺されないように気をつけてくださいね」
「大丈夫だ。もう死んでるから」
「あと、そうですね。関節を柔らかくするには運動ですよ。太極拳、習います? 昼の12時にここに来れば、私と一緒にやれますよ」
「無理。私は夜型だ。昼12時はちょうど、お布団に入る時間なのだ。10時間たっぷり睡眠で、お肌を労るのだ」
「そう、残念です。何かスポーツを出来れば、いいと思うんですけどねぇ」
「ありがとう。運動も探す。それじゃ!」

 芳香は美鈴に手を振りつつ、妖怪の山へと向かっていった。



    ◇    ◇    ◇



「うお~~!! うお……。痛くない……けど、死ぬ……かと……思った」
「ん? 見ない顔じゃん。どうしたの、死にかけてるけど」
「天狗に襲われた。あっ、河童だ。えーっと、お前に訊くことがある」
「なんだい。ヒマだし、話だけなら聞くけど」

 にとりは気さくに、笑顔で答えた。
 この河童、人間は怖がっているが、元人間ならそんなに怖くないのかもしれない。

「えーと……お? そうだ! 関節が硬いんだけど、柔らかくする……えと、あと、オイルが欲しい」
「ん? 関節を柔らかくする油……? あー、滑りが悪くなったんだね。どれ、ちょうど持ってるから分けてあげよう」

 背中のリュックサックから、小さなビンを手渡してやった。
 芳香はそれの匂いをクンクンと嗅いでから、目をぱちくりさせる。

「ぬるぬるだ」
「そりゃそうだ。それで柔らかくするんだからさ」
「あと、そう。運動、何か知らない? 河童、いい運動」
「運動~? 河童の運動……? 相撲のことかしらね」
「相撲だとぅー!? 面白そう、どうやる?」
「こうやんの。お互いに取っ組み合ってさ」

 にとりは芳香へと相撲をレクチャーを開始し、基本的な作法を学ばせた。
 力任せのぶつかりあい、という競技を芳香も気にいったらしく、ちょっとご機嫌になる。

「相撲! 相撲! 面白いわね」
「でも君、腕がピンと伸びちゃってるからねー。ちゃんとした相撲するには、難しいかな」
「その為に関節を柔らかくするのである。それじゃ、河童。ありがとう」
「うん。どうも。……って、関節……? ……あっ!?」

 にとりが驚きの声をあげた時、芳香の姿は遙か彼方まですっ飛んでいった後だった。



    ◇    ◇    ◇



「うわー。ぬるぬるだなー。しかも臭いなー。腐敗臭とは違う臭さだなー」

 全身に油を塗りたくった芳香は、さっそく相撲の相手を探していた。
 ――油、運動。これで関節は柔らかくなるし、お肌もツヤツヤになるはず。

「あー? 何か忘れているような……? えーと、医者に行って……。それから……あっ?」

 芳香は思い出した。
 油、運動。あとは……氷。

「うおお! 忘れてた! 身体を冷やさないと……」
「お、なんだお前! 全身ぬるぬるの変な奴!」

 なんという偶然であろうか。
 芳香が油まみれで飛んでいたのは霧の湖上空、そして目の前には冷気を漂わせる一匹の妖精。

「おお! 氷! いいところに! ……で、氷で何するんだっけ?」
「ん? そうさ。あたいはチルノ!」
「あたい……? その言い方、どこかで聞いたような……? そうだ。あたいの人が言ってたぞ。氷で冷やせばいいんだ」
「ちょっとー、湖の上に油を落とさないでよ。汚いじゃない」
「油! 氷! あとは相撲! これで完璧なのだ! さぁ、いくぞ!」
「ん? あんた、ちょっと頭おかし……」
「氷! 相撲するぞぅ! はっけよーい……のこった!」
「は? わ! ひゃああ~!!」

 芳香の突進を喰らったチルノは、そのまま為す術なく組み付かれた。
 無論、身体に塗りたくった油はチルノの全身にもベッタリと付着する。

「ぎぃえ~! 汚いわね! あたいまで油まみれに……」
「うおー! 冷える~!」
「ぐぎぎ、こいつ、なんて馬鹿力……! あ、でもぬるぬるだから抜けられる!」
「うお! 氷が滑って出てきた! 待てー!」
「うわー! ついてくんな! 油臭い~! 喰らえッ」

 チルノが自然的本能で繰り出した氷柱の弾幕は、まっすぐに突っ込んでくる芳香の顔面を捉えた。
 映像化厳禁のスプラッターシーンである。
 だが、彼女は死なない。もう死んでいるからである。顔面が半分吹き飛んだまま、チルノを追いかける。

「ひゅごご、ごご!(うお~、待て~)」
「ぎゃあああ! 油ゾンビだ~!」
「ひゅ……ご……。お、治ったぞ」

 そしてチルノは芳香に捕まえられる度、油のぬるぬるを利用して拘束から逃れる。
 その繰り返し。チルノ本人にとっては災難であるが、傍から見る分には面白いようであった。

「わー、見て見て。チルノちゃんが変な妖怪と遊んでる!」
「ぬるぬる相撲ね! 面白そう。私たちもやってみない?」
「えー、服が汚れるから嫌よ」
「じゃあ、裸でやっちゃえばいいんじゃない?」
「え、何それは」

 そういった事で、模倣好きな妖精たちによって「ぬるぬる相撲」は興された。そして、やってみると意外と面白い、ということで彼女たちの間で一大ムーブメントになったのである。
 これが今回の事件の真相。本誌の暴いた真実である。



    ◇    ◇    ◇



 後日、目にクマを作りながら太極拳に興じる宮古芳香氏を発見、直撃を試みた。彼女はひとこと。

――「気づいたら丸焦げだった」

 これは恐らく、症状が改善せずにもう一度竹林の医者を尋ねた際、焼き鳥屋に不審人物として火葬されかけた時の感想だと思われる。油のせいで良く燃えていた。
 今回彼女は、天性の腐れ脳みそのせいで散々な目にあった。が、そんな彼女のことだ。しばらくは全てを忘れて、同じことを繰り返すのであろう。
 そこで本誌は次号より、その様子を追跡取材し、集中連載することに決定した。
 彼女の身体は柔らかくなるのか? それを実現する為の方法とは? タイトルは「本格的柔軟体操」である。お楽しみに。



<文責:射命丸文>
死体は鮮度が命!

という事で、今の時期にしか書けないかも知れないものを。
色々と設定が増えたら、また別の二次創作キョンシーさんが現れるのでしょう。
それまでは自分の中での芳香はこんな感じで。
yunta
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
なんだこの死体は!
まだ生きてるじゃないか!
(by.Drメ○チ)

また元気な子が来てくれたようで、楽しみしみです。
2.名前が無い程度の能力削除
芳香はキョンシー転じて⑨ンシーと呼んじゃってもいいんじゃなかろうか? と思わずにはいられない。
ああ、回復しないでお願いだから~!
3.名前が無い程度の能力削除
妖精達が裸でヌルヌルで相撲だと・・・
ちょっと幻想郷いってくる!!
4.奇声を発する程度の能力削除
よーし!私も幻想郷に逝く準備しなくちゃ!
5.sz削除
こうして幻想郷のブームは作られていくのですね