Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

にとりは意外とぶきっちょなようです

2011/04/20 03:23:38
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春の陽射しにやられてぽかぽか頭。さらりと吹く春風に落ち着かないうずうず心。
ゆったりと河は流れて春の匂いがしてなんだか幸せだなって思う春うらら。


私は草っぱらで一生懸命に草冠を作っていた。
白詰草を編んで織り込んで輪っかを作る。

機械いじりは得意だ。設計ミスがあったら数値を計算し直して調整するし、必要な道具がなければまずは道具から作る。
メンテナンスも調節も独創性溢れる設計図も全部ひとりで作れる。
なのに何でだろう。ただの草相手に私は苦戦していた。

爪と爪の間に草の汁が染み込んで茶色に汚れる。
オイル汚れとは全然違うからべたつかないし簡単に落ちそうなんだけど、ぶきっちょみたいで嫌だ。
植物で長さがまばらだから端々がぴょんぴょん跳ねてうまく編み込めない。
そもそも綺麗な真円に形作ることができなくて歪な丸を描く。
私はひとりで何でも作れるエンジニアなのに……。

「にとり、できないの? 手伝いましょうか?」

「ううん、自分でできる!!」

やだやだ。私は作れるよ。一人で作れるよ。
それにこれはあげるやつなんだから手伝ってもらったら意味ないんだから。

私はなるべく長さが均一な白詰草を集めてもいっぺんはじめから編み直した。
まずは引っ掛かりを作ってそれを連ねて続けて織り込んで入れて絡ませて………
あ、これちょっと形違うけど長さぴったりだから入れとこう。

旋盤は数値を入力して綺麗な真円を削り出すことができる。でも手編みの草冠はそうはいきそうになかった。
おにぎりひとつ握るのも綺麗は正三角形にできない私だから当たり前なのかもしれないけど。
細胞壁が折れてしまって、くったり黒ずんだ茎が教えてくれた。

隣にいる彼女を見やる。人のを手伝う余裕があるほどなんだから手早く綺麗な草冠を作ってるんだろう。
雛の手は魔法の手みたいだった。
無理に曲げたり折ったりすることはなく、植物元来の歪みを利用して自然に最低限でしならせる。
長さ違いのをうまく組み合わせてかっちり輪の中に収める。切れっ端が跳ねることもなく、ちゃんと落ち着く。
計算なんてしてないのにどうしてあんなに美しい真円が作れるんだろう。

微妙に開いている隙間に他の種類の小さな花を編み込んでいて、私の白と緑だけのと違って随分と華やかだった。
なめらかな手つきでしなやかに動かす指を眺めてしまう。
雛は綺麗だ。斜め下を向いてちょっと微笑んで作業していた。

こっち向いてくれないかなぁ。
長いまつげが揺れて少しずつ瞳を開いてそして私とぱっちり目が合った。
うん。やっぱり雛は綺麗だ。でもって可愛い。


あああああああ………見てたの雛に見られた!!!!


「にとり……どうかしたの?」

「ひゅいっ!?」

反動で持ってた草冠をぎゅっと引っ張ってしまう。そしたらぶっちんって音がした。
異常音がしたら直ちに作業中止で点検しないといけない。
だけど点検するまでもなく私の草冠は千切れてしまっていた。

「あああああ……雛、千切れちゃった…」

ちょんぎれてしまった茎。接着剤持ってるけどそんなの反則だ。
図面書いていいかな…長さ計算して計画的に作れば私だって……!!

「にとり、あなた神経質に完璧に作りすぎよ。
 植物だもの、いっこいっこ違うんだから綺麗に作れなくても当然なのよ」

「で、でも雛は綺麗にできてるじゃんか」

「私は……ひとりで遊ぶことが多かったから自然と上達しちゃっただけ」

みっともない、みじめで情けない気持ちになる。
雛はできるのに私はできない。これあげる。って言ったってこんなんじゃ雛、喜ぶどころか迷惑だよ……。
何でも作れる技術屋、エンジニア。なのに河童のにとりは草冠も作れないぶきっちょ河童………そんなの嫌だ。

「にとり、貸して?」

「うん…」

ちょっと泣きそうになって目をごしって誤魔化しながら雛に渡す。
そしたら雛はにこにこしながら、はい、って作った冠を被せてくれた。
大きさもぴったりで本当に雛はすごいなぁって。そう思ったんだ。

「私、リボン邪魔だから」

しゅるしゅるってリボンを抜いて私の草冠とうまく縛って形を作る。ふぁさっ…って緑の髪が広がった。
慣れたような手つきで魔法みたいに綺麗な形になって千切れたところも修復できた。
ほら、って渡されて。ははーん。被せて欲しいのね。

「はい、どうぞ。私のお姫様」

被せて、ありがとうってはにかんだ笑顔が堪らなく可愛かった。
一本だけ中途半端に飛び出している白詰草があったから引っこ抜いた。
あ、これは長さぴったりだから入れたやつなのに結局飛び出しちゃったなぁ……。

「にとり、にとり。それちょうだい」

「なんで? 飛び出してたから取っちゃったよ」

「本に挟むわ」

雛がずずいと近寄ってきてそのまま押し倒されるみたいに抱きしめられた。
でもってちゅーって唇を奪われた。持ってた白詰草ごと。

「これ四つ葉のクローバーだもの」


あんまりにも雛が幸せそうに笑うもんだからつられて笑って二人で抱き合って転げ回って。
せっかく被せた互いの冠も落っことしちゃって髪ぐしゃぐしゃになってたけど。

「雛大好き!!」

「私もよ、にとり」


四つ葉のクローバーって本当なんだなって私は思ったのでした。
お読みいただきありがとうございました。

【4/23追記】
名前をアサトからアサトモに変更。
普段はそそわじゃないところに投稿していたりします。今回は初めてだったので名前微妙に変えてしまいました。すみません;

>1. 名前が無い程度の能力様
貴重だと思います。ちなみに自分は作れません。

>2. 奇声を発する程度の能力様
ありがとうございます。友人が素晴らしいネタを提供してくれたので調子に乗って書きました。
今は見たことすらない人がごろごろいそうですね。ちょっと切なくなりました。

>3. 名前が無い程度の能力様
ありがとうございます。これもひとえに友人のネタが素晴らしかったおかげかと。

>4. いっちょうめ様
ありがとうございます。まさか作者様からコメントがつくとは思わず…嬉しいです。
アサトモ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
あの草冠作れる娘さんは昨今貴重な存在なんだろうなぁ…
2.奇声を発する程度の能力削除
良いにとひなでした
今気づいたけど草冠の現物見た事無いや、あと四葉のクローバーも
3.名前が無い程度の能力削除
素晴らしい
4.いっちょうめ削除
2828が止まらなくなりました