Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

船長だからキャプテンが悪い話

2011/04/19 15:25:35
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 この作品は、作品集83にある『デート中だってキャプテンが悪い話』の続きになっています。
 
 先に読んでいると良いと思います。





















 なりたい私がいて、目指したい船長像があった。

 すでに死んだ私が願う未来は、きっと間違えてしまっているけれど、私は我侭になりたいから。

 私の秘密の『夢』を、叶えたいから。

 だから、全部にごめんなさい。




















「あんたの家に行きたいのよ!」

 とんっと。
 鎖骨と胸の中心を人差し指で押されて、ようやくハッとして我に返る。
 目の前には日の光の下でより鮮やかに映えるエメラルドグリーンの瞳。私と同じ色なのに全然違う、いつまでも見つめていたい輝きと、それを際立たせる白い肌が綺麗な、水橋パルスィがいて。
 
「……えーと」

 指と彼女の顔を交互に見て、あははって笑って誤魔化してみた。
 どうやら、予想外のお願いに一瞬どころか数秒は思考が停止していたらしい。
 いや、だって私の家に行きたいなんて、そのデートとしては、間違ってないけれど、とても変則的な気がするのだ。主に、その。男女のカップルがしそうな偏見といいますか。

「あら?なによ、そのだらしない顔は」
「えっ」
「いやらしいわね。何を期待しているのよ」
「ええ?!」
 
 柳眉を歪めて、ふんって鼻で笑うパルスィは、そのままむにって私の頬を引っ張る。

「ひ、ひがいまふ!」
「どうかしらね」

 痛くはない、けれど絶妙な力加減に頬をむにーで、どうやらこれはからかわれているみたいだって分かって、自然と更にだらしなく笑ってしまいそうな私は、その、パルスィに構って貰えているのが結局は嬉しいのだ。

 ううん、彼女とは、話しているだけでも嬉しい。
 優しい、暖かな皆とは少し違う。間違えたら厳しく叩いて教えてくれるパルスィ。
 眩しくて格好良い、でも可愛い彼女。

 今日はたくさん失敗をした。
 だから遠慮なく叩かれたり、踏まれたりと手加減無くて。おもむろに間違いを、彼女の考えを、私との食い違いを、蔑みながらも暖かな視線を、全てを与えてくれる。

 惜しみなく私なんかにそんな『大切』をくれるパルスィが、私は大好きで。


「……駄目、なの?」
「ッ?!」
「ね? ムラサ」

 で、ででも?! なな何でか今日はスキンシップが多いというか、さっきもあーんとかちゅっとか、私の心臓が動いていたらすでに爆発必須の必殺技が惜しみなくてッ?! 煙がでそうなぐらいに顔に熱がたまっていく。
 っていうか今はパルスィをお姫様抱っこ中の凄い密着度なのに、こ、こんな風にしなだれかかれると、ぐらぐらくるというか……ッ。
 思わず我を忘れて何かをしちゃいそうで必死に船長として自分を制する!

「ねえ、ムラサの部屋に行きたいわ?」
「は、ぅぐ?!」

 いや、いやね?!
 わ、私だって本当は招いてもいいんですよ?! で、でも、デート中の婦女子を部屋に連れ込むなんてその、紳士にあるまじきっていうか、パルスィが変な誤解をされて噂されるなんて駄目だし。私はいいけど、パルスィは結婚前のうら若き女子だというのに、私なんかと噂なんてやっぱり、駄目、だ……!
 そう、そうだ! パルスィだってさっき私の事を案じて、流されずに自分の考えで、嫌な事は嫌といえる船長になれと説教してくれたじゃないか! 足蹴にしながら!
 だから私は、その言葉を糧に成長した私を彼女に見せなくてはいけない……!

「お、お断りします!」
「はぁ? 馬鹿ね、あんたに拒否権なんて無いわ」
「痛いッ?!」

 即座に鼻を拳で殴られた。ガスッ! ってやられた。
 ……う、うわぁ、血がだくだくでてきた。
 お、おかげ様で、混乱中の頭も一気に冷え切った。

「……ぱ、パルスィ?」
「私が行きたいのよ。だからとっとと連れて行きなさいよ」

 う、うわっ……。
 私の腕の上で膝を組んでふんって鼻を鳴らすパルスィが凄く彼女らしいなぁって、彼女に鼻血がかからない様にしながら清々しさを覚えてしまう。

 流れる血を尻目に、あぁ、ここに一輪がいなくて良かった。と一番最初に思ったのがそれだから。あぁ、デート中なのになぁって、苦笑。

 うん。そう思うのも、一輪がいたらきっとパルスィと喧嘩になるかもしれないからで。普段は真面目で大人しくて良い子なのに、地獄で私が傷だらけで帰ってくるだけで「報復に行ってくるわね」って真顔で下ごしらえ中で握っていた包丁を片手に出かけようとするから、毎回雲山と一緒に必死に止めたっけ。
 ……あー。それで私も。一時期、聖がいない心の穴に耐え切れず荒んでいた現状から、案外早く立ち直れたし落ち着けたんだよね。うん、良いコンビだったんだろう。私たちは。
 ……ま、まぁ、ぬえと知り合って馬鹿をしたっていうのも大きいんだろうけれど。


「あら? ……はぁん。……こほん。そういえば、あんたにべったりのあの子も、随分と大きくなったものね」
「え?」

 少し思い出に浸っている内に、何故かパルスィが私の考えを読んだかの様に話題変換。へ? って目が丸くなる。

「なんだっけ? 今じゃあ、あんたの身長も追い越して良い身体してるじゃないの……くっ、妬ましいッ!」
「えっ? こわい、なんかこわいから爪噛まないでパルスィ」
「……いえ、まちがえ、いえいえ、そうよ。私はちゃんと話した事は無いけれど、あんたからあの子の話は嫌というほど聞いたからね」

 パルスィはちろり、と何故か近くの茂みを見つめながら言う。ガサリ! と風が起こる。
 急にだからどうしてその話? と疑問に思い口を開く前に、パルスィが私の鼻を摘んでぐりぐりしだす。……あ、あの? まだ血が出てるんだよ? 痛いよ?!


「確か、あんたにとって、可愛い『妹』だって自慢していたものねー」

 がささっ!!

「身長が伸びたらお姉さんぶろうとしてそこが可愛いって、私のところにくるたびにうるさいの何の。そんなに好きなら結婚すればって言ったら、それじゃ私は変態じゃないですかーとか言ってたっけ」

 が、さっ……ささ。

「あ! そういえば、あの正体不明の子の事もよく話してたわね」

 がさん?!

「なんだっけ? いちいちちょっかいかけてくる、うっざい子だっけ?」

 ……がさ、り。

「ひぅうぐ、いひゃい、ですってば! もうっ、そんな事は、確かに言いましたけれど!」
「うん? 何よ、言ってみなさい」

 ……っ。かささ、かさ。

「えーと。それは昔の事ですし、今は一輪は便りがいがあって私なんかよりよっぽどしっかりして、私がお嫁さんに欲しいぐらいですし、ぬえだって手加減を覚えてきて、この前は薬をくれたりもして、素直ですよ!」
「……つまり好きなのね?」
「好きです!」


 ―――。さらさら。


「あ、浄化した」
「え?」
「ううん、何でもないわ。なんかもう、これであんたとその周りの関係性が大まかに分かった感じ」
「? それって」

 ぐぎ。

 鼻骨が軋んだ。

「まったく、指があんたの汚い血で汚れたわ。……赤いわね、妬ましい」

 ――――ッ?!
 声にも言葉にも出来ない激痛にぷるぷるとしゃがみこんで、パルスィはすとんっと自分の足で地面に足をつく。
 い、今の行為を! お姫様抱っこ中にするのって、きっとパルスィだけじゃないのかな?! って私は強く思った。
 というか流れが意味不明だし、ち、血が止まらないんだけど? 急所へのこの一撃はかなりきついです。
 パルスィって、一輪やぬえや星みたいに、大雑把にどかんじゃなくて、急所をシュッ! って感じの、とにかくいやらしいというか。そこも好きというか。でも痛い。

「つまり、ムラサ」
「ぐ、ぅぐぐ」
「あんたさ、その二人の事、好きなんでしょ」
「ぐぬっ、だから好きですよ! もう!」
「そうよね。私より好きでしょう?」
「はい? いたた、どっちの方が好きも何も、パルスィへの好きは、二人とは次元が違うので比べられないですけど?」
「……」

 この…っ、と漏れた声。
 優しい笑顔で、うずくまった私の鼻を遠慮なく蹴り上げる。

「ッ?!?!」

 ついでに人間の頭分の石が二つほど勢いよく飛んできて足とか頭が砕けそうになった。
 ッ!? せ、せっかくとまりかけた出血再開。
 お、鬼だ!
 連続で鼻への攻撃と投石までしてくるの?!
 そして「台無しだわ……」って頭痛をおさえるようなパルスィに、まずは謝罪をして欲しいかな?! って、私はごろごろ地面で痛みに転がりながらも痛みの狭間に思うのだった。









 その後、変な方向に曲がった足を無理やり直すとかもう思い出したくないし描写もしたくない鬼の如き所業の後に、私はずりずりとパルスィに片手で引きずられていた。

「……」

 やっぱり命蓮寺に行くみたいで、私はこの傷だらけの姿を見たら一輪が何て言うかなぁって心配で、でもそれ以上にパルスィを聖に紹介したい気持ちもあって複雑だった。……襟首つかまれて地面を引きずられている現状も複雑だけど。
 パルスィだからなあってすでに諦め気味だった。


「ああ。丁度良いわ、ムラサ」
「はい?」
「良い機会だから、聞いても良い?」
「はぁ」
「……ま。もしかしたら私以外も、聞いているかもしれないけど、いいわよね?」
「なんか、もうパルスィの言っている事の意味が分かりません」

 ずりずりってしながらも、変な事を言っていても、でもパルスィの声は真剣。
 だから、私も引きずられたまま居住まいを正す。
 何だろう? って少し不安だけれど、今はたぶん、彼女の顔を見てはいけないのだろうと、そして、彼女にとっては良い機会だからではなく。多分、今の内に聞いておかなくてはいけない問題なんだろうと。私はいまだ頭と足のダメージが抜けていない振りをして、だらりと力を抜く。
 しん、と一瞬の沈黙の後、パルスィは口を開く。


「……あんたさ、前に私に言ったわよね」
「え?」
「あんたを好きになる奴なんて、いる訳がないって」
「……」

 …………。

 それは。

 うん、覚えている。
 初めて、誰にも言えないへどろみたいな汚い感情を、吐き出した、吐き出させて貰った、から。
 よく覚えている。
 忘れる筈もない。


「ねえ? あんたは今でもそう思っているの? 水死体の末路を好きなんて奴は、異常だって」

 ……あぁ。
 そっか。
 
 瞳を閉じて、静かに息を吸う。
 ……うん。やっぱり。

 私、パルスィの事が、好きだなって、思った。

 今思う事じゃないのかもしれないけれど。今だから強く思う。
 そんな質問。する方だって苦しい。でもパルスィはそれが出来る。その勇気と優しい強さを持っているから。
 それができる彼女が、本当に好きだなって。
 
 暖かい、気持ちになる。

 だから、素直な気持ちで、話そうと思った。
 偽り無く、伝えようと思えた。


「…………少し、長くなるけれど、いいですか?」
「……ええ、いいわ」
「じゃあ」


 ふう、と緊張しながら息を吸う。
 でも、私も勇気を出そう。
 語ろうと、息を吐く。

「……」

 うん。
 こんな風に、私の中の黒い気持ちを聞いてくれる彼女が、私なんかの近くに、傍に、いてくれたから。
 私は本当の意味で、あの長い拷問を耐えられた。
 ありがとう、って、気持ちを込めて。
 『今』の私を知ってほしくて、彼女に話そう。


「……。最初、私が悪霊だった頃に話が戻るんですけれど。実は私、その時に友達が、仲間が欲しいと思った事があるんです」
「……」
「私と『同じ』の誰かが欲しくて。それで、気に入った水死体を、とっておいたんです」
「……」
「酷い事を、言います。……可愛かったその子が、ぶくぶくに腫れて、変色して、ただれて、こそぎ落ちて、骨が露出して、腐敗していく過程は……」
「……」

 身勝手な感想を、吐き気を、ぐっと飲み込んで。息をつめる。
 覚えている。
 忘れられない。
 だって。
 あれこそが。

「……あぁ、アレが、私なんだと思いました。こんなに酷いものが私。そっか。もう自分は生きてないんだなって、これ以上なく、あの時にはすでに分かっていたのに、更に突きつけられて、後戻りができなくて、終わってしまったと絶望して、だから這い上がりたくて、力が欲しくて」
「……」
「そうしたら……救われて」

 聖に。
 救って貰えて、おいでって、言って貰えて。

「……」
「助けて貰って、恩人が出来て、友達が出来て、可愛い妹分が出来て、幸せを感じてしまって」
「……」
「私は、私が水死体だと忘れていました。そしてその事を、封印されて、聖と離れてしまった絶望の中で、まざまざと思い出して。……それが、苦しくて、救われたくて、彼女を救いたくて、追い求めて、その過程で、パルスィに会えて」
「……」

 胸が、苦しい。

 でも、無言で聞いてくれる彼女。
 静かに、ずりずりと私を引く音だけがする。
 彼女だけが聞いてくれる、私の話。
 身体から力が抜けるぐらいに、その事実だけで、落ち着ける。


「だから、私なんかを好きになるのは異常者なんだろうって、諦めたんです」
「……そう」
「でも」

 うん、でも。

「いて、くれました」

 そう。こんな私に惜しみなく、好きだと、態度と言葉で、言ってくれる家族が、いてくれた。
 結構な頻度で出血したり傷つけられたり泣きそうになったり理不尽だったり、するけれど。
 それ以上に暖かい。
 私の家族。

「私、好きなんです、命蓮寺の皆が」
「……!」
「だから、私は水死体だけれど、皆は優しいから、私を好きになってくれる。でも、もっと好きになって欲しいから、聖にだって頼られる船長に、好意と信頼を寄せてもらえる、そんな船長を目指して。そうありたいと思った」
「……ムラサ、あんた」
「勘違いさせてでも。私は『皆』に、私を好きになって貰うつもりです」

 私が、水死体だと忘れてもらう。
 大好きだと言おう。たくさん優しくするから、皆に都合の良い存在になるから。どこまでも頑張るから。どうか、どうぞ、私を好きになって下さい。

 好きだと、言って下さい。

 一生だって、騙し続けるから。


「……っ、でも」
「……」
「それ、じゃあ、駄目なのかな。……聖と、パルスィに、それじゃあいけないって、注意されて、流されるな、都合良くなるな、ちゃんと、自分が嫌な事はするなって、怒られてる。……でも、それじゃあ、嫌われる。ううん、嫌われなくても、構ってもらえなくなる。……私、どうすればいいのかな?」
「―――」
「立派な船長を、目指すのに、ぬえは悪戯するし、泣かれて引きこもらせちゃった事もあるし、星とナズは仲直りした筈なのに少しよそよそしくて、一輪を最近よく落ち込ませたり、泣かせたりするし、私、何を間違えているのかな……」

 どうして、上手くできないんだろう?

 今までのやり方がいけないならと、少しずつ直しているのに、更に悪化している気がして。

 ……うん。

 だからきっと。私は。


「パルスィに会いたかった」
「ムラサ」
「デートして、聞いて欲しかった」
「……」
「勝手だけど、私、ね。パルスィの事を」


 お姉ちゃんみたいだって、思っているんだ。


「…………っ」

 
 ずるずるが止まる。
 頭が落ちる。
 地面に力なく寝ころがって、空が青くて。海みたい。
 パルスィが、ぐっとのしかかってくる。
 視界が、パルスィで一杯になる。


「あんたって、本当に馬鹿な妹ね」


 頬を、やわらかくなぞられて、妬むまでもない馬鹿だわ。って綺麗な顔を寄せて、瞳が、そっと閉じられる。
 まだ赤いだろう鼻を、ちろって舐められて、それから、キス。

 
 彼女の口の中は、まるで噛み締めたみたいに、血の味が濃かった。
 

 あったかいって、思った。


















「ねえ、ムラサ」

 そうやって暫くパルスィの口付けをうっとりと味わっていると、彼女は息が苦しいわって。苦笑して、私を膝枕してくれた。そのまま、髪を撫でながら私を呼ぶ。
 心地良い。

「私ね。あんたがどうすればいいのか、知っているわ」
「……え?」
「きっと、私以外も知っている」
「パルスィ?」
「でも、あんたがそれを聞けるとも、あの二人がそれを言えるとも思えないから、まだお節介を焼くわ」

 青空を背景に、彼女の切なげな微笑みは綺麗で、止まった心臓がうずく気がする。
 彼女の手を握って、指を絡める。


「あんたはね。ちゃんと、誰かを好きになりなさい」


 まるで、お姉ちゃんが妹に、大切な事を教えるみたいに。
 パルスィは、私の瞳を優しく見つめる。


「もう、ね。あんたが感じる普通の好きじゃあ、分からないの。もっと、深く、船長としてでも、あんたの打算の為でもなく、水死体のあんたのままで、好きな人を見つけなさい」

 え?

「大丈夫よ。……あんたが無意識に悪霊化しても、そんなのあんたにキスして空っぽの肺に空気を贈り込めば、すぐに元に戻る。あれは、あんたの残り滓。今のあんたじゃない。だから、相手の心配よりも自分の事を考えなさい。……あんたは、あんたの中の許されない奴になりなさい」
「ぱ、ルスィ……?」

 それ、は、船長がする事じゃなくて。
 長年の染み付いた自分を否定する行為で。


「恋をしなさい、村紗水蜜」


 まるで歌う様に。


「自分の我侭をぶつけあい認められる喜びに舞い上がり、受け入れる幸せに酔いしれなさい。成長への苦しくも魅力的な旅路を、あんたはそろそろ歩みなさい」

 恋も知らずに死んだ哀れな水死体さん、と。

「そうすれば、分かる事があんたにはある。そして、それがあんたには大事な、必要な事なの」
「で、でも」
「今までのあんたを捨てろとは言わない。あんたの中の紳士さんは、あんたを形成する大切な一つになっている。でも、その時だけは船長らしくあろうなんてしちゃ駄目。村紗水蜜としての視点で、相手に向き合いなさい。ねえ? あんたの素の視線の先の、彼女たちは、どんな風に写るの?」
「っ、そ、んなの、知らない」
「でしょうね。あんたは、一度だって、ちゃんと彼女たちを見た事がない」

 優しい厳しさ。
 彼女は、続ける。


「知りなさい。成長しなさい。そして、良い女になりなさい。この私の中で、勇儀の次に大切な、私の、妹」


 あ、ぁ。

 唇を噛む。

 やっぱり、彼女は、厳しい。

 言いにくい事を、言い辛い事を、その強さで、真正面に伝えてくれる。


 そう。最初の出会いだって。

 泣いている私に。邪魔だって、声をかけてくれた。

 泣いている子供に声をかけられる、貴方を。


「……っ。パルスィに、恋、したかったなぁ」


 そうしたら、良かったのにって。私は笑った。
 泣きながら。
 何かが、決定的に交わらないんだねって、分かったから。

「あら、駄目よ。私には私よりも嫉妬深くて、貴方よりも私を好きな、怖い鬼がいるもの」
「……っ、うん」
「ね?」
「うん」
「貴方の中の、素の裸眼に写る、私って、どんな私なの?」
「……」

 分かりきった事を、聞かないでよって、私は、ごしごしと目元を拭って、言う。


「私がそうありたいと思う強さを持った、私のお姉ちゃんだよ」


 こつん、って。

 生意気言わないのって感じに小突かれた。
















 ねえ?

 私は、恋を、してみようと思うんだ。

 それは、したいと思ってできるものかは分からないけれど。

 私は知りたいから。私は成長したいから。私は、強くありたいから。

 だから。

 ほんの少しだけ『船長』の私に、さようならしよう。




 ―――そうして得られる何かが、きっと、大切になるのだと信じて。
 
 この帽子を脱ごう。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 最初から彼女の瞳は理想の自分しか見えていない。
 
 優しく怒られた船長が、そっと教えられた道しるべを信じて歩き出す。

 登場していないけれど、彼女たちもまた指針が決まっていく。
 
 ……長くてすいません。ここからが船長の本当のスタートみたいな感じです。
 
 
夏星
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
やぁああああああああっとですかぁ!!
長かったけどこれからの船長、ではなく水蜜に頑張れって言いたいです。
2.奇声を発する程度の能力削除
おお、やっとか
とても良かったです
3.名無し削除
やっとか・・・
やっとかよ、待たせやがって
4.名前が無い程度の能力削除
やっとか…
焦らされたな…

これからも楽しみにしてます
5.名前が無い程度の能力削除
やっとだ…
パルスィありがとう
6.名前が無い程度の能力削除
……うむ、ようは結局人を騙して好きになってもらおう、
とか考えたキャプテン、改め村沙水蜜が悪い、という事だな。
キャプテンの道行に幸多からん事を
7.oblivion削除
結末が見えてきましたね。
どうあってもこの村紗なら不仕合わせになんてならないね
8.名前が無い程度の能力削除
『船長』にこだわる理由、背景が分かってさらにムラサが好きになりました。
それを引き出したパルスィとの組み合わせもまた然り、です。

帽子を脱いだムラサがどのように恋をしていくのか、どれだけ長くなっても見届けたいです。
9.名前が無い程度の能力削除
パルシィかっこいいなぁ
10.名前が無い程度の能力削除
ようやくこの悪霊は悪霊でなくなるのですね。

シリーズを通して見ているせいか、妹が嫁に行くような切ない気持ちになりました。
11.名前が無い程度の能力削除
パルスィがいいなぁ
12.名前が無い程度の能力削除
船長ついにきましたか
頑張れ皆、そしてパルスィありがとう
13.名前が無い程度の能力削除
なにこれシリーズ通して文庫本にして手元に置いときたい。
パルスィ姉さんGJ。

そして村紗水蜜がんばれ
14.名前が無い程度の能力削除
なるほど、このパルスィは姉になってほしい。
聖と呼び方かぶるけど姐さんと呼びたくなった。
ところで勇パル好きとしては是非夏星さんの勇パルが読みたいのですが…期待していいですか?