※この作品にはオリキャラが出てきます。大体オリキャラでできています。そういったものが苦手な方はブラウザの戻るをクリックしてください。
またこの話は、ジェネリック83 お祭りの話、という作品の別視点となっています。もしお暇があればそちらも読んでいただけると楽しめるかもしれないです。
幻想郷の地底、旧都の入り口に店を構える屋台、人間が営むその屋台は、普段は地底の妖怪ばかり相手に商売をしている。しかし、この日訪れていたのは人間だった。
「こんにちは、いるかしら?」
その人間、博麗の巫女博麗霊夢はそう言って暖簾をくぐり屋台のカウンターに座る。店主の頭巾は何も言わずお茶を出した。
「ああ、気が利くわね。ねぇ、今度うちの神社の縁日があるのだけれど、うちでお店出してみない?」
出されたお茶を飲みながら、店主である頭巾に話しかける
「いきなりだな。とりあえず話は聞くけど・・・場所代払えとか言ったりしないよな?」
手元の湯呑みや徳利を布巾で拭きながら頭巾は問い返す。
「別にそんな事言わないわ。まあ、うちに来るならお賽銭くらい入れていってもいいと思うわよ。」
「その前にどんな御利益があるんだ、あの神社。どんな神様がいるか知らないんだけれども。よく知らないものに賽銭を入れる気にはならないかな。」
そう言って手元の作業を終えて徳利などを片付け始める。
「はぁ、色々考えてはいるんだけれども・・・。それで結局出してくれるのかしら?お店、今回はそこそこ人も来る・・・と思うし悪い話じゃないと思うんだけれど」
霊夢はため息をつきつつ会話の路線を元に戻す。
「まあ別に出すのはかまわないけど。なんでうちの屋台?里の方に頼んでも同じだろうに」
今度は包丁を取り出し手元で八つ目ウナギを裁いていく。
「それがねえ。まあ、ほら。うちの神社じゃない・・・今回はちゃんと里の人達も来てくれるようにするんだけどね・・・面倒な奴らもたくさん寄ってくるのよ・・・って聞いてる?」
面倒な奴ら、とは神社に寄り付く妖怪達の事だろう。
「聞いてるよ。妖怪が寄ってくるんだろ?それで?」
頭巾は手元の作業に集中していたのだろうが、一応耳には届いているようだ。
「あんたに妖怪の相手してもらいたいのよ。まあ全部とは言わないけれど、酒さえ飲めれば良いって連中も多いし」
霊夢は手元のお茶を飲み干してしまったため、手持ち無沙汰らしく湯呑みをぷらぷらさせる。
「はいはい、お茶のおかわりね。まあ、行ってもいいんだけれど。俺が行くと妖怪が増えると思うんだけれど」
その様子を見て急須を出しお茶を注ぐ。
「ありがとう。あら、こっちの妖怪っていうと・・・」
「鬼が一人増えるかもしれないね。」
指を一本立てる。
「げ・・・やっぱりやめようかしら・・・」
それを聞いて霊夢は顔を引きつらせる。
「そういわれるとやりたくなってきたな。」
にやり、と頭巾
「あんたもいい性格してきたわね。まあこんなとこで暮らしてたらそうなるのかしら?」
「こんなとこって酷いな。気に入ってるんだよ、割と。特にこの場所なんてなかなか眺めも悪くはないだろう?」
そう言って入り口にかかる橋の方を指差す。しだれ柳と提灯の明かりがなんとなく良い雰囲気をかもし出している。
「ああ、いやそういう意味でなくて妖怪ばっかりの所って意味よ」
「そういや魔理沙にも最初「お前なんか食料になるだけだからやめとけ」とか言われてたなあ。」
「ま、いいわ。それじゃあ来てくれるって事でいいのね?お願いするわ。ああ、あと夜雀にも声を掛けるつもりだからその辺もうまくやってね。」
霊夢は二杯目のお茶を飲み干したようで、湯呑みを置き椅子から立ち上がる。
「ああ、わかった。・・・今度は魔理沙でも連れてこっちに飲みに来なよ。まあ、なるべく安くしてやる。」
「あら、だったら夜雀の屋台の方が安く済みそうね。」
霊夢は少し笑いながら言う。
「はぁ・・・、ツケとタダは違うぞ。金が入るようになったらちゃんと払えよ?こっちはいいから。」
ため息をつき顔に手を当てる。
「ふふふ、わかったわよ。じゃあそのうち、魔理沙を連れてくるわ。それじゃあね」
霊夢はそう言って最後に軽く手を振り飛び去っていった。
「ああ、それじゃあまた・・・」
頭巾は手を振り返すがもう霊夢は屋台の中からでは見えなかった。
「さて・・・祭りかあ。また後で考えよう。今日はとりあえず・・・」
そう言って頭巾は食器の整理を再開した。
霊夢が来てから半日、日も暮れた頃に頭巾の屋台の屋台提灯に灯が灯る、しかし暖簾はかかっていない。
「いつもより早いわね。一日篭ってたの?外に出たのを見てないけれど。」
提灯が灯って一番初めに暖簾をくぐったのは、地底の入り口にかかる橋の橋守、水橋パルスィだった。
「パルスィさんいらっしゃいませ。いや、今日の宴会の準備とか色々考え事をしてたので。今日はそういえばずっとこの中でしたね。」
頭巾はそう言いながら漬け物とお茶の入った湯呑みをパルスィに出す。手元では豚を捌いているようだ。
「ああ、ありがとう。今日もまた馬鹿みたいに騒ぐのよねえ。どうにかして私だけ逃げられないものかしら。」
パルスィは少しだけ頭を抱えるようなしぐさをした。
「そんな事言って結局参加するんでひょっ!?」
言い切る前にパルスィが身を乗り出して頭巾の頬を引っ張る。
「あんたも大分生意気言うようになったわよねぇ。」
言いながら頭巾の頬をぐいーっと引っ張る。
「あだだだだ!なんでもないです!ごめんなさい!」
謝ったところでパルスィは手を離した。
「・・・にしてもあんたが考え事なんて珍しい気がするわね。いっつも特に何も考えてなさそうなのに。ちなみにどんな?」
「何気に酷い事をさらっと言われたような・・・まあいいや。今度博麗神社で祭りがあるみたいなんですがね。霊夢にあそこで店を出せといわれましてね。」
少々苦笑いを浮かべながらパルスィの質問に答える。
「あら、そんな事なの?大して考え込むような事でもないじゃない。いつもどおり商売してちゃ駄目なの?」
「まあ、お店を出すだけなら出せますが、折角お祭りなんだから何かそれっぽい事をやろうかなあ。とか考えてたんですよ。」
「何々?お祭りだって?今日は宴会だろう?」
と、ここで地底の鬼、星熊勇儀が顔を見せた。
「そうじゃなくて、紅白巫女の神社で祭りがあるらしいわよ。」
「勇儀さんいらっしゃいませ。宴会までまだまだ時間ありますよね?こっちもまだ準備中ですよ?」
頭巾は調理を一旦止めて勇儀に向かって言う。また、パルスィに出した漬け物と同じものを出す。。
「おお、気が利くねえ。まあ宴会まで退屈だったから時間つぶしさ。遠くからパルスィが入ってくのが見えたしね。」
勇儀はそう言って常に持ち歩いている大きな杯を屋台のカウンターに置く。
「お茶はいります?」
その様子を見て頭巾は尋ねる。
「いやいいよ、今から飲んでても変わらないさ。ところで祭りかあ、あんたらは行くのかい?」
そう言って勇儀は自前の巨大な瓢箪から酒を注ぐ。
「ああ、自分は霊夢に頼まれてたので屋台を出そうかと。折角なので皆さんにも来てもらいたいですねえ。」
そういって頭巾はパルスィの方を見る。
「・・・なんで私を見るのよ。」
その視線を受けてパルスィがひじをついた姿勢のまま顔だけをそらす。
「いや、パルスィさんが来てくれれば皆さん来てくれるんじゃないかなあ。と思いまして」
「そうだね、それじゃあ一緒に行こうじゃないか!パルスィ、ヤマメやらキスメも連れて」
勇儀はにっこり笑ってパルスィに言う。
「はぁ・・・あんまり騒がしい所には行きたくないんだけれど・・・お祭りなんて妬ましい感じしかしないじゃない。」
「あんまり細かい事気にしなさんなって!いざとなったらこいつの店でのんびりしてりゃいいんだ」
「・・・大体神社のお祭りでしょう?人間がたくさん来るところに私達なんかが行っていいわけ・・・」
ないだろう、と続くのだろうその言葉を頭巾が遮る。
「大丈夫ですよ。あそこの神社はほとんど妖怪神社ですからね、むしろ今回ちゃんと人間が来るのかどうか怪しいと思ってるくらいですから。」
「・・・わかったわよ。行きゃいいんでしょう?ただし勇儀!山の妖怪と面倒な事になりそうだったらあんたなんとかしなさいよ!」
「おお!一緒に行ってくれるか!こりゃ今から楽しみだ。なーに、山の河童や天狗達だって祭り事を荒らそうなんて奴そんないないさ!いたってあたしがぶっとばしてやる。」
そう言って二の腕を叩く。とても頼もしい。
「自分も頼りにしてますよ、勇儀さん」
と、頭巾。勇儀は「任せろ!」と笑った。
「まあ、お祭りの話はそれとして、今日の宴会の準備はどうなんだ?結構たくさん来るけど大丈夫かい?」
勇儀はそう言って少し心配そうにする。
「えぇ、朝から準備で大変でしたよ。皆さんが昨日たくさん食材を持ってきてくださったんで張り切ってしまいました。」
にっこり笑う頭巾。
「あんたほんとに好きよねえ、まあ助かるんだけど。あんたが来るまでは自分で用意しないと酒はともかくつまみなんてなかったもの。」
パルスィは思い出すように言う。
「まあ、趣味みたいなものですしねえ。それにおかげで普段でも皆さん色々食材を持ってきてくれるようになりましたし。」
「ははは!そりゃ結構!それで、何か手伝うことはあるかい?」
勇儀はそう言ってあたりを見回す。
「ん~、もうちょっとで調理が必要な分は終わるのでこれが終わったら運ぶのを手伝ってください。」
頭巾の手元では刺身ができあがろうとしていた。
「あら?それ、鯛よね。」
頭巾の手元を見たパルスィは少し驚いた様子だ。
「お、わかります?藍さんが昼間に届けてくださったんですよ。紫さんが多く仕入れてきたようで。」
「まあ、そりゃあ人間よりは私達は長生きしてるからね。確かに最近海は見てないけれど、海の魚くらいわかるわよ。」
「それにしても上手に捌くねえ。鯛なんて幻想郷の人間はほとんど見たことすらないだろうに」
勇儀も頭巾の手元を見て少し驚く。
「まあ、始めて見た時はどうしようかと思いましたけどねえ。師匠にちょっと教わってあとはぶっつけ本番を何回かやってたらこんな感じです。」
「・・・なにそれ。自慢?妬ましいわね」
パルスィが少しジト目になる。
「あわわ、そういう風に聞こえましたかね!?まあ普段から包丁握ってたからこう・・・ね?」
と、困ったように言い終えると頭巾は包丁を置いた。
「ふふ、まあ冗談よ。それでおしまい?」
その様子を見てパルスィは少しだけ笑いながら言う。
「えぇ、ここで準備をする分は全部おしまいです。あとは運ぶだけですね。裏手に何個か桶があるのでとりあえずそれをお願いします。」
包丁を軽くきれいにて片付けた頭巾は、勇儀達に向かって言う。
「あいよ!」
「はいはい・・・ってすごい量ね!?」
そう言って二人は席を立つ。屋台のうらには大きな桶が何個か置いてある。
「今日はそこの柳の下でしたっけ?近くですから楽ですねえ。」
頭巾は両手にそれぞれ鯛の造りを持って歩く。
「はは!あんたの店があるからさ!わざわざ宴会の度に色々準備してくれるんだ。そりゃあこうなるさ!」
「うーん、なんというか。そう言われると照れますね。お、ヤマメさん達だ」
「まだ持ってくるものたくさんあるからあいつらにも手伝わせましょ」
地底の宴会から数日後、頭巾は地底の中心に居を構える建物、地霊殿のドアを叩く。
「お邪魔しまーす・・・えーと・・・さとりさんかもしくはお燐さんあたりを呼んでもらえるかな?」
入った所にいた猫に話しかける。猫は頭巾の言葉を聞いた後館の奥へと駆けて行った。
「しかし、相変わらず広いなあ。」
周囲を見回したあと頭巾は一人呟く。暫くしてから玄関に地霊殿の家主、古明地さとりが姿を現す。
「あら、いらっしゃい。勝手に上がっていただいて構わないのに」
「いや、女性の家に勝手にずこずこ上がりこむのはどうかと思いまして。」
「そういえば男性でしたねえ。・・・ああ、そういう顔だとかいう訳ではなくてですね。じゃあどういう意味なのか、ですか?ふふふ、それは内緒です。」
三つの瞳で頭巾を覗き込みながらさとりは一人で会話を進めていく。
「はぁ・・・ほとんど何もしていないのになんだろうこの感じ、少し泣きたいですね。」
頭巾は思わずため息をつく。
「ふふふ、どうぞこちらへ・・・立ち話もなんですし。丁度お茶にしようと思っていた時間でしたので。」
くすくすと笑いながらさとりは中へ入るよう示す。
「それじゃあお言葉に甘えて・・・あ、これケーキです。皆さんで召し上がってください。」
そう言って頭巾はその手に抱えていた紙箱をさとりに渡す。
「わーい!ケーキ!?結構大きい!あ、挨拶挨拶。おにーさんこんにちわ~」
突然頭巾の後ろに現れたのはさとりの妹、古明地こいしだった。
「ええ、こいしさんこんにちは。」
「あらあら、随分と美味しそうなケーキですねえ。上の方は苺のゼリーですか?」
さとりは受け取った箱の上の部分を開き中を覗き込む。こいしもその横から中を覗き込んだ。
「えぇ、苺をたくさん頂いたので。とても嬉しかったし美味しい苺だったのですが、うちは基本飲み屋なので使い切るのが大変だったので。」
「おねえちゃん!早く食べよう!これとっても美味しそうだよ!」
「そうね、こいし。それじゃあお燐達を呼んできてくれるかしら?私は紅茶を淹れてるから。」
「はーい!」
こいしは元気な返事をした後館の奥へと駆けていった。
「それじゃあここで少し待っていてください。すぐにお茶を用意しますよ。」
さとりは頭巾を椅子に座らせると、やかんを火にかけた。
「そんな気を使わなくても。わかっているかもしれませんが、たいした用事ではないですよ?」
椅子に腰をかけた頭巾はさとりの背中に話しかける。
「ふふ、そうね。わかっているわ、たいした用事ではない事も、貴方が今日わりと暇だという事も。」
頭巾に背を向け、お茶の準備をしながらさとりは少し楽しそうにする。
「それじゃあお言葉に甘えさせてもらいましょう・・・ふぁぁ、っとすいません。」
言い切る前にあくびをした頭巾、反射的に謝る。
「あら、眠そうですね。忙しそうですね?お祭りの準備というのは。」
突然祭りの話をするさとり。
「えぇまあ、あっちこっちと連絡取らないといけないから色々走り回ってましたので。お店も休むわけにはいきませんし、そういえば結構寝てないですね。」
「おねえちゃーん!連れてきたよー!」
そこにこいしがお燐と空を連れてやってきた。
「久しぶり!ケーキの人」
と空。
「あたいはちょくちょくお店に行ってるからそんなに久しぶりでもないね。こんにちは!お兄さん」
お燐はにっこりと挨拶をした。
「えぇ、こんにちは。お燐さん。お空さん。」
「さてさて、そろいましたね。店主さんは紅茶は何か入れます?」
さとりが一人一人に紅茶の入ったティーカップを配っていく。
「ああ、ストレートでお願いします。」
「おおー!硬派だ!だんでぃーって奴だね!」
こいしはそう言ってはしゃぐ。
「あう・・・硬派とかそういうんじゃなくて甘いのが苦手なんですよねえ。」
「あれ?ケーキとか作るのにかい?」
お燐が不思議そうにたずねる。
「ああいえ、甘いものが苦手とかではなくて甘いお茶というのがなんとなく・・・」
「あら?でもダンディーって言われたのがそんなに照れますか?」
にやにやしながらさとりは言う。
「ぐうう・・・」
頭巾は顔をうつむけるしか出来なかった。
「それじゃあこれ、クッキーです。貴方のケーキに比べれば見劣りするかもしれませんが・・・」
さとりはテーブルの真ん中に皿を置く。
「そんな事はないですよ!とても良い匂いですし、とっても美味しそうです。」
「ふふ、ありがとう。さ、召し上がりましょう。ケーキは・・・あら。切り分けてある。」
「えぇ、数はあってますよね?自分はいいです。皆さんにあわせて切ってきたので。」
「わーい!ケーキだー!」
こいしと空は飛び上がって喜ぶ。
「それじゃあいただきましょうか。」
さとりがケーキをこいし達にわけおわり、声を掛ける。
「「「「いただきます」」」」
「うーん、このクッキー、とても美味しいです。」
と、頭巾。空は「どっちも美味しい!」と大声で喜んでいた。
「あらあら、貴方に言われると嬉しいのは何故でしょうね。・・・ああ、やはり貴方のケーキも美味しいですねえ。」
「ありがとうございます。それは自分がその手の本業だからじゃないですかね?」
「あ、おにーさん調子に乗ってる~!でも美味しいからいいや。」
こいしが楽しそうに指摘する。
「だってここで下手に自重をするとまたいじられそうで・・・はぁ。」
頭巾はため息をつく。
「まあ本業なのは本当だしねえ。あたいはさとり様のクッキーもおんなじくらい美味しいと思うけど。」
「そうですねえ。本当に美味しいですよ、このクッキー。自分は絶対こんなに美味しく焼けませんよ。」
そう言ってまた一つ、クッキーに手を伸ばす頭巾。
「あらあら、そこまで言われると流石に照れるわね。ところで今日の用事はいいのかしら?」
ここでさとりが話題を切り替えた。
「ああ、そうだそうだ。皆さん今度博霊神社でお祭りがあるのは知ってますか?」
それに頭巾は応じる。
「祭り?宴会じゃなくて?」
とお燐。
「えぇ、人里の人間もちゃんと来るらしい、お祭りです。」
「うにゅ?そういえばそんな事言ってたような・・・」
空は頭を少しかしげる。
「それで自分もそこで店を出す事になっているので、折角だから皆さんにも来ていただきたいなぁ。と思いまして、それで・・・」
「行くー!!いいよね!お姉ちゃん!」
頭巾の言葉を最後まで聞かずにこいしはぴょんっと椅子から飛び上がり、さとりに声をかける。
「えぇ、構わないわ。けれど最後まで店主さんのお話を聞きましょう?」
さとりがそういうとこいしは「はーい」と言って椅子に座った。
「それで、ですね。お祭りの時なんですが、もしかするととても店が忙しくなるかもしれません。・・・というか何があるかわからないので。少しでいいのでうちのお店の手伝いとかをお願いできる方がいればと思いまして。」
「あたい達がかい?」
「たのしそー!」
それぞれ反応を示す。空は口にケーキを含んだままもごもご何か言っている様子だ。
「まあ手伝いと言っても料理を運んでもらったり、お皿洗いの手伝いとかだけだし。自分ひとりで回らなくなった時に近くにいたら手伝ってほしいなあ。って程度なんですけれども。」
「あら、そんな適当で大丈夫なんですか?」
とさとり。
「基本的に一人でなんとかなると思うんですけどなんとなく嫌な予感もしているので・・・一応ヤマメさん達にも同じように声を掛けてあるのでなんとかなるかと思いますが。」
「そうですか、わかりました。じゃあその時は気軽に声をかけてください。いいわよね?こいし。」
さとりはそう言ってこいしに声をかける。
「うん!まっかせてー!なんだか楽しそうだから忙しくなくても勝手に手伝ってるかも~!」
こいしは楽しそうに声を上げる。
「あとは・・・」
頭巾が最後に何か言おうとした・・・が。
「あとは巫女に気をつけてください。だそうです。人間に手を出したりしたら大変な事になるらしいですね。」
その言葉はすべてさとりに持っていかれてしまった。
「あはは・・・最後までしゃべらせてはくれないんですね。」
少し苦笑気味に頭巾は言う。
「ふふふ、だって私はそういう妖怪ですからね」
にこり、と少しだけいたずらにさとりは笑った。
頭巾は、地霊殿を訪れた次の日、人里はなれた場所にある、とある商店に顔を出していた。
「こんちわー、いますかー?」
「いるけどいないぜ。」
その頭巾の声に返事を返したのは白黒魔法使い、霧雨魔理沙だった。頭巾が訪れたのは、迷いの森の中にある霧雨魔法店・・・ではなく
「おや、君か。いらっしゃい」
頭巾が訪れた店、香霖堂の店主森近霖之助は頭巾を見て接客をはじめる。
「こんにちは、霖之助さん。この間お願いしたものは出来てますか?」
頭巾は店の入り口に立ったままたずねた。
「ああ、出来ているよ。これでいいのかい?」
そう言って霖之助はカウンターの下から鉄板を取り出した。
「おお?何だそりゃ。ただのちょっと分厚い鉄板じゃないか。」
「違うよ魔理沙。ほら、ここをこうするとね・・・」
霖之助が鉄板を少しいじくると、鉄板は三枚にわかれた。
「おお?分離した?成る程、これならわかるぜ!これはたこ焼きを作る奴だな!それでこっちは普通の鉄板で、残りが蓋って事だな。」
鉄板の様子を見て魔理沙は興味がわいた様子だ。
「おお、これなら良い感じですね!ありがとうございます。代金はこれで足りますか?」
頭巾もその鉄板を見て納得した様子で頷いた。財布を取り出し、金を霖之助に払う。
「ああ、この間言った額丁度だね。」
「香霖がまともに商売しているだなんて、明日は雨が降るな。」
「失礼だな、君は・・・確かに客は普段はあまり来ないが。」
「おい、私は結構来てるぞ。」
魔理沙が抗議の声を上げる。
「君は自分が客だと思っているのかい?」
「違うのか?」
あっけらかんと魔理沙。
「・・・心中お察し・・・しきれません。」
その様子を見て頭巾は少々ためを作って言った。
「はぁ・・・どうも。」
霖之助はため息をついて返事を返す。どことなくどんよりとした空気になる。
「やれやれ、明日は楽しい楽しいお祭りだってのにこれじゃあまるでお通夜だぜ」
魔理沙は両手を広げやれやれ、のポーズをとった。
「そういえばそうだね。こんなにギリギリまで遅くなってすまないね。」
と霖之助、鉄板の事を言っているようだ。
「いえいえそんな!霖之助さんこそ自分のお店の準備もあるだろうにわざわざ・・・こんな依頼をしてしまって申し訳ない。」
頭巾は両手を振ってリアクションをする。
「ああ、こっちはそこまで気にする事はないよ。たまたま無縁塚に流れ着いていたものをほとんどそのまま使うだけだからね。」
「・・・あれ?香霖も店を出すのか?そんな話聞いてないぞ!」
魔理沙は少し驚いた様子だ。
「ああ、そういえば魔理沙がいるところでこの話はしていなかったな。霊夢はとおに知っているよ。」
「そういう問題じゃなくてだな!いや、っていうかなんで私が知らなくて霊夢やこいつが知ってるんだよ!」
そう言って魔理沙は頭巾を指差す。
「そりゃあ博霊神社での祭りなんだから霊夢が知らないわけがないだろう?それに彼とは同じく店を出す間だからね。それくらいの情報は入っているさ。」
「霊夢めいつも会ってたのに、私にわざと黙っていたな!文句言ってくる!!」
魔理沙は店を文字通り飛び出していってしまった。
「・・・そうそう、アレでしたら明日はそちらのお店がひと段落したらうちの店に顔を出してください。お連れさんもいらしたらまとめて安くしますので。」
「・・・それはどうも。それじゃあ明日は少し速めに切り上げて伺う事にするよ。」
「それじゃあお待ちしてますね。あ、これ色々あれで忘れてましたが差し入れです。・・・晩御飯にでもどうぞ。」
頭巾はそう言って紙袋を霖之助に渡した。
「おお、ありがとう。」
「それじゃあ準備があるのでこれで。また明日、是非来てくださいね。」
「ああ、きっと行くよ。また何かあったら来るといい。」
「えぇ、それではまた明日。」
頭巾は最後に軽く手を振り香霖堂を後にした。
「また明日、か。あんまり騒がしくないといいが・・・」
呟きが一つ、あたりの静けさに、かき消されていった。
そして日は移り、祭りの当日。祭りのとても賑やかな雰囲気の中、祭りの博麗神社の入り口のわきに頭巾とミスティアの屋台が合同で店を出していた。頭巾の屋台は半分が屋台の行列に連なっていて、隣の屋台とは少し隙間が用意されていて、そのスペースではカウンター座って飲み食いができるようになっている。その奥にミスティアが連なる形で屋台を出している。こちらは完全に飲酒スペースだ。
「なんでこんな妖怪神社に妖怪も人間も集まってるんだろう・・・」
頭巾は軽くため息をついた。その横で「八つ目追加~!!」と声がかかる。ミスティアの屋台では串焼き。頭巾の屋台では主に焼きソバとたこ焼きが作られている。
「はーい!・・・まあ暇なよりいいんじゃない?」
横でミスティアは客の応対をしながら返事を返す。客の中には伊吹萃香や勇儀の姿も見える。すでにかなり出来上がっている様子だ。
「くっくっく、忙しそうだねえ。手伝おうか?」
そう言ったのは頭巾の前に座っていた土蜘蛛、黒谷ヤマメだ。横にはキスメとパルスィもいる。
「あぁいえ、まだ大丈夫ですよ。そんな事より屋台はもう見て周りました?」
手元で忙しくたこ焼きや、焼きそばなどを作りながら頭巾は返事を返す。たこ焼きはいくつかストックができている様子だ。
「あんたのおかげで里の人間達が来る前に大体見て回れたからね。」
とパルスィ。
「ええー!パルスィ達もう回ったの!?」
そのパルスィの後ろから声がした。古明地こいしである。その後ろにはさとり、お燐、空の姿もあった。
「ああ、どうやら店主さんが主催者側特権のような物を使ったようですね。普通の祭り客が来る前に彼女達は回ったみたいですね。」
「ああ、皆さんもいらっしゃいましたか。」
頭巾はさとりたちの方を見る。
「わわっ!?こいしちゃん!?」
「パルスィ達だけずるい!なんで私達も誘ってくれなかったの!?」
こいしはパルスィを踏み台に頭巾に詰め寄る。
「わわ、ごめんなさい!忙しかったんですよ!昨日一応お空さんに伝えてもらうよう頼んだのですが・・・」
「うにゅ?そうだっけ?」
空は首を少しかしげた。その横でお燐はため息をついている。
「まあいいじゃないですかこいし。私達は私達で回りましょう?」
「ぶー!まあいいや。また後でね!おにーさん!」
頬をぷーっと膨らませるこいし。しかしすぐ気を取り直したのか。手を振ってパルスィから飛び降りる。
「えぇ、あ、ちょっと待ってください。お詫びにこれをどうぞ。まだ熱いので特にお燐さんは気をつけてくださいね。」
そういって頭巾はタコ焼きを一包みずつさとり達に渡す。
「うにゃあ!おにーさんありがとう!」
よほど嬉しかったのかお燐は妙な声をあげた後お礼を言った。
「それじゃあまた後で。お燐、やけどをしないように気をつけてね。」
そう言ってさとり達は人ごみの中へ消えていった。
「・・・やれやれ。騒がしいわねまったく。」
こいしに潰されていたパルスィがやれやれと声をあげる。
「あはは!パルスィ髪がぐちゃぐちゃだよー」
キスメがそう言いながらパルスィの髪を直していく。
「しかし一人で二つも器用によくやるねえ。」
頬杖をつきながらヤマメは頭巾に声をかける。
「まあこれくらいならなんとか。たこ焼きなんかは作って置いて少し冷ました方が良さそうですしね。少し暇も出来そうですよ。」
「あたしはできたての熱々が好きだけどねえ。」
とたこ焼きをほおばりながらヤマメは言う。
「その場合は言っていただければその場で作りますよ。」
ここで通りの方から「焼きソバくださーい!」と注文が入ったので頭巾は鉄板の隅で暖めてあった焼きそばを焼き始める。
「あら?そうなの?」
「ほら、そこに張り紙があるでしょう。」
手元で焼きそばを混ぜながら頭巾は視線でその張り紙を見る。
「ああほんとだ。じゃああっつあつを頼むよ!」
指を一本立てて注文する。
「はーい!でもちょっと待ってくださいねー」
焼き始めた所で表からまた注文が入った。先ほどの客に焼きソバを渡した後造り置きのたこ焼きを渡し、お金を受け取る。
「あややや!お忙しそうですねえ。」
今度は裏手の方から声がかかる。鳥天狗、射命丸文だ。
「文さんいらっしゃいませ。」
「美味しそうな匂いに釣られてやってきてしまいました!」
「こっちで何か食べます?奥で師匠がやってるんでもう飲むならそっちですねー・・・」
「ふふ、まああちらも後で行きますが、先にこちらですねぇ。さて・・・そろそろですよ。」
その言葉に近くにいたパルスィ達は少し不思議そうな顔をした。
頭巾は屋台行列の少し裏手、自分達の屋台から出て、少し開けたところで人妖入り混じった集団の中心にいた。
「さあ店主さん、負けたら今日は貴方のおごりですよ!」
同じくその集団の中央に立っていた射命丸が頭巾に向かって啖呵を切る。
「自分が勝ったらいつかのネガは頂きますよ。」
頭巾も負けじと切り返す。
「ふっふん。人間ごときが酒量で天狗に勝てるとでも?おごがましいにも程がある。まだまだハンデが足りないと思うんですがねぇ?」
酒樽を片手で持ちながらニヤニヤ笑う。
「・・・あんまり舐めてると足元すくわれますよ」
頭巾は一升瓶を片手に一本持っていて、足元にも一本置いてある。
「・・・そろそろいいだろ。天狗はその樽、坊やは一升瓶二本、先に飲み干した方が勝ちだ。はじめるよ~ぃ」
その間に入り込んで来たのは萃香だ。周りを見回した後片手を上げて
「どんっ!」
振り下ろした。その腕の鎖がジャラジャラと音を立てる。
「うおー!天狗と人間が飲み比べしてるぞー!!」
勇儀が大声を張り上げる。頭巾たちの周りから「がんばれー!」と声がする。
そして―
「ぐへぇ・・・」
勝負の後、頭巾は再び自分の屋台に戻っていた。少々グロッキーになりつつも、たこ焼きと焼きそばの屋台はやっている様子だ。
「おにーさんおしかったねー!もうちょっとで勝ててたのに」
頭巾に声を掛けたのはこいし。屋台は一通り回り終えたらしい。頭巾の屋台の、先ほどまでヤマメやパルスィ達が座っていた席に座りたこ焼きを食べている。
「おしいて言ったって引き分けなんだからすごいですねぇ。」
と、さとり。手元の焼きそばをつつきながら話しかける。
「おにーさん焼きそば二個~!」
屋台の表側では、お燐が接客をしている。
「はーい!」
頭巾は、鉄板の隅に保温のため置かれていた焼きそばをパックにつめてお燐に渡す。
「はい焼きそばお待ち~!」
お燐はわりとうまく接客をしている様子だ。
「ねぇ、これでいいの?」
空はパックにつめたたこ焼きを頭巾に見せる。
「えぇ、それで大丈夫です。あそこのお客さんに渡してきてください。」
そう言ってミスティアの屋台の方の客を手で示す。
「ねぇねぇ!おにーさん!私もそれやってみたい!」
こいしはたこ焼きの鉄板を指差した。
「・・・あぁ、やってみますか?そろそろ客足も落ち着いてきたし。はい、これでひっくり返すんですよ。」
そう言ってカウンターの板を上げてこいしを招き入れる。そしてたこ焼きの鉄板の前に立たせてたこ焼きを返すための串を渡した。
「えぇっとやり方はですねぇ・・・えぇ・・・そんな感じ・・・おぉ?」
頭巾が指示をする前に、こいしはせっせとたこ焼きを焼いていく。頭巾は少し驚く。
「どお?おにーさん。おにーさんのマネしてみたんだけど・・・」
こいしは頭巾に尋ねる。
「うん、ひっくり返すタイミングもいいですね。とても上手ですよ。」
にこりと返事を返す。
「おいおい、なんだか楽しそうだな。私にもやらせてくれよ」
と言い出したのは魔理沙だった。先ほどの騒ぎに駆けつけて、それから頭巾の屋台のカウンターに座っていたようだ。手には水風船を持っていてそれを弾いて遊んでいる。
「まあいいよ。ほれ」
そう言って串を魔理沙に渡す。それを受け取った魔理沙はこいしの横に並んで早速たこ焼きを焼き始めた。
「ふふん、妹の方も中々だったがな、やっぱりアレだぜ!」
「あれ?」
こいしが首をかしげる。
「ひっくり返すのも!パワーだぜ!」「んなわけねぇだろ。」
魔理沙が言った瞬間、頭巾が突っ込みを入れた。
「じょ・・・冗談だって」
あまりに突っ込みが速かったためか、魔理沙は少し驚いた様子だ。
「まだちょっと速いな。もうちょっと下の方がカリッとしてからひっくり返すんだよ。」
たこ焼きの様子を見ながら頭巾は魔理沙に言った。
「おう!」
「まあ火加減はこっちで調節するから飽きるまでやってみるんだね。そこそこストックもあるし。」
「「はーい」」
そう言って頭巾は一旦カウンターの中の椅子に腰を下ろした。
「ふぅ・・・」
「あらあら、もうお疲れかしら?貴方はまだまだこれからが書き入れ時でしょうに。」
そう言って頭巾の背後の空間から声を掛けたのは、妖怪の賢者八雲紫だった。自身の能力によって出現させたスキマ、それから身体を半分ほど出した状態だ。
「あぁ、紫さん。こんばんわ。今回は色々と仕入れありがとうございます。」
頭巾はそう言って紫に頭を下げる。
「ああ、いいのよこれくらい。それよりほら、私にたこ焼きを頂戴。・・・無論貴方が焼いた物がいいわ。焼きたてを食べてみたいわ」
「おい紫、なんだその引っかかる言い方。」
魔理沙が意義を唱える。
「あぁ、さとり妖怪の妹の分でもいいわ。」
「なんだとぉ~!?」
「あ~、はいはい。魔理沙、そこ変わってくれる?」
魔理沙が紫に文句を言おうとするのを遮って頭巾は魔理沙を鉄板の前からのけた。
「あはは!どんまい!魔理沙」
こいしは楽しそうに笑う。
「冗談よ、折角だから魔理沙が作ったのも一緒につめて頂戴。」
紫は自前の扇子で口元を押さえながら笑う。
「はい、それじゃあそこで待っててください。」
「それにしても貴方も大変ねぇ?」
紫はカウンターに座り両手で頬杖をついてたった今たこ焼きを作り始めた頭巾に声をかける。
「ん?なんの事ですか?」
「パフォーマンスとは言え天狗と飲み比べだなんて。結構ふらふらじゃない」
「あぁ、やっぱりばれてました?」
頭巾は軽く頬をかく。
「なんだなんだ?八百長だったのか?」
魔理沙は少しいぶかしむように頭巾を見る。
「違う違う、飲み比べはお互い本気だよ。それまでがパフォーマンスって事、ようは客寄せさ」
「ふーん、まあよく考えりゃ文がんなつまらん事するわけないか。」
「霊夢に妖怪とかはなるべくここに集めろって言われてたからな。飲み比べは師匠が言い出した事だよ。」
「ふーん、あの夜雀意外とずるがしこいなあ。馬鹿だ馬鹿だとしか思ってなかったぜ。」
「・・・まあ、昔は自作自演で稼いでたしな。祭りというより騒ぐのが好きなだけの妖怪達は大体満足してくれたみたいだし。」
魔理沙のなんとも言いがたい返事に少々苦笑いしながら頭巾は答えた。
「ふふふ、そういえばそうだったわねぇ。」
その様子を見て紫は笑う。
「ねぇおにーさん?」
こいしが頭巾に声を掛ける。
「ん?どうしました?こいしさん」
「これおねーちゃん達にあげてもいい?」
こいしは自分で作ったたこ焼きをパックにつめて頭巾に見せる。
「ああ、全然構いませんよ。・・・それにしても上手ですねぇ。それにいつの間にこんなに作ったんだか。」
頭巾に見せた分以外にもこいしの手元ではまだたくさんのたこ焼きが出来ていた。
「わーい!ありがとう!はいおねーちゃん!」
こいしはカウンターから自分のたこ焼きをさとりに手渡す。
「えぇ、ありがとうこいし。うん、美味しいわ」
さとりはにこりと笑ってそれを受け取り、一つとって食べる。
「さて、紫さんできましたよ。ここが自分が作った分でここまでがこいしさん。そんでここが魔理沙のですね。」
その様子を見ながら頭巾は紫に、端から説明しながらたこ焼きを渡す。
「あらあら、それぞれ目に見えて違って面白いわねえ。どれから頂こうかしら。」
紫はそれを手にとってどれから食べようか選び始める。
「私の分が美味しいのは確定的に明らかなんだぜ」
魔理沙は自信満々に言う。いつの間にか調理場から出てカウンター席、紫の隣に座っていた。
「まあ最初から美味しいのを食べてもつまらないものねぇ。」
紫はそう言って魔理沙のを食べる。
「なんせ魔法の森で取ってきたキノコをこっそり一つ入れてきたからな。」
「なんてことを!」
言って頭巾は魔理沙の口に焼きたてのたこ焼きを突っ込んだ。すると今度は魔理沙が悶絶するのと同時にさとりがカウンターに突っ伏した。
「あ、おねーちゃん。言い忘れてたけど一個だけとってもから~~いのがあるから気をつけてねっ!」
「なんてことを!?」
今度は慌てて水を二つ用意する。
「ま・・・まぁ私にこの程度の毒は効かないから気にしなくていいわよ。」
・・・と、紫。
「「く・・・くふぃふぁ・・・」」
魔理沙とさとりがその両隣で似たような声を上げた。それぞれに頭巾が水を渡す
「うぅ、紫さん。さとりさん。ごめんなさい・・・自分が気をつけてれば・・・」
「こほっ・・・ま、まあ仕方ありませんよ。貴方も結構思考がふらふらしていますし、何よりこいしがした事ですから気づかなくても仕方ありません。」
さとりは水を一気に飲み干してから頭巾に言う。横でこいしが「おねーちゃん大丈夫?」と言って声を掛ける。
「ふふふ、まあ楽しかったし気にしなくていいわ。ねぇ?魔理沙」
紫は笑いながら魔理沙の方を見る。
「ぐぅ・・・まだ口のなかがひりひりするぜ・・・たこ焼きって凶器だな。」
口を少し押さえ、涙目になりながら魔理沙は頭巾を軽くにらみ付ける。
「さて、少し早いけれど、表の店は閉めて来ますかね。お燐さ~ん、もういいですよ~。お空さんも戻ってきてくださーい」
頭巾はそう言ってお燐に声をかける。
「はーい!」
その声を聞いて表のカウンターからお燐が、奥のミスティアの屋台からお空が戻ってきた。お空は途中からミスティアの店の手伝いをずっとしていたようだ。
「ありがとうございます。お二人とも。一人だと大変だったので本当に助かりました。」
「どういたしまして!」
「楽しかったから良いよ~!」
「それじゃあこれ、とりあえずのお礼です。」
頭巾はそう言って二人にたこ焼きと焼きそばのパックを一つづつ渡す。
「ちゃんとしたお礼は今度またしますんで今回はこれで構いませんか?」
「あたいはこれがもらえるだけで構わないんだけどね~、楽しかったし」
「私もだよ~!」
お燐とお空はそれぞれ受け取ったあと「ありがとう!」とお礼を言った。
「それじゃあ改めてお二方ともありがとうございました。一旦ここは少し整理するのであっちに移ってもらえますか?」
頭巾はミスティアの屋台の方を指差す。ミスティアの屋台のカウンターでは天狗や河童など、妖怪達が騒ぎまくっていた。その少し奥の広場にはテーブルが用意されていてそれぞれ好きなように酒宴が展開されていた。
「・・・早くあっちを手伝わないと大変だなぁ。」
指を刺した頭巾が苦笑いを浮かべるほど、ミスティアの屋台は賑わっていた。
「ふふ、頑張ってくださいね。それじゃあ私達は・・・あぁ、あそこに行きましょう。それじゃあ店主さん、頑張ってくださいね。」
さとりは席を立って周りを見回して、あるテーブルを指差した。そこにはパルスィ達、地底の妖怪達に加え萃香や勇儀、鬼達が集まっていた。頭巾に軽く挨拶をした後こいしたちをつれてそちらへ歩いていった。
「ん~、じゃあ私は霊夢に声をかけてくるぜ」
魔理沙はそう言うと神社の方に歩き始めた。
「さて、私の式たちはどこかしら?あ、いたいた。それではまた。」
紫はそう言うと自分で作ったスキマに消えていった。
「はい、それではまた。」
頭巾は客達が去った後、表の屋台の暖簾を下ろして提灯の灯を消し急いでミスティアの屋台へと向かった。
「あややや・・・今度はこちらのお店れすか?」
屋台に来ていた文に声を掛けられる。
「はい、こちらが忙しそうだったので・・・ろれつが回ってませんよ、文さん。」
「アレからずーっと飲んでましたかられえ。店主さんはまだ飲まないんでひゅかぁ?」
すでに空の杯をぶらぶらさせながら文は頭巾に尋ねた。
「はいはい、おかわりですね。・・・自分はまだまだ飲めませんねえ。これだけ忙しいと」
頭巾は文の杯に酒を注いだ。
「残念です・・・悔しかったのでもう一勝負といきらかっらのれすが・・・」
「・・・まぁ、あれだけのハンデもらって引き分けですからね。貴女が悔しがる必要はないと思いますよ。」
「むむぅ?そうれすか?・・・まあ今度はのんびり決着をつけましょう」
文はカウンターにだら~、とひじ枕を作り下から頭巾を見上げる。
「そうですね。それじゃあ今度は宴会の席でやりましょう。」
頭巾はそう言うと、他の客の下へと行ってしまった。
その後、テーブルの客から注文が入ったりでしばらく賑やかな祭りの飲み屋台の店主達は大忙しだった。
祭りの中のとあるテーブル。そこでは地底に住む妖怪達、また
「おおーい!パルスィ酒ぇ~」
勇儀が自前の大きな杯をかかげた。
「はいはい、今日は一段と騒がしいわね。」
パルスィは勇儀にお酌をした。
「あっはっは!こんな日だから騒ぐしかないだろう?静かな祭りなんて人妖関係なくお断りだよ」
萃香も同じく大きな杯を煽る。パルスィを囲んで鬼二人が暴れていた。
「あははは!おねーちゃーん!あっははははは~!」
その横ではこいしが一升瓶をさとりの口に突っ込んで楽しそうにしている。随分酔っている様子だ。
「ちょっこいし様!ストップ!さとり様ぁ~!!!」
お燐がこいしをさとりから引き剥がす。
「げふっ・・・流石にきついですね・・・」
こいしから開放されたさとりはその場に突っ伏してしまった。
「あ、たこ焼きも焼きソバもなくなっちゃった。」
その様子を何をするでもなく見ていたお空は手元の空になった容器を見て呟く。
「あー、私も食べすぎちゃったかねえ。ごめんよお空、最後の一個食べるかい?」
それを聞いたヤマメが最後の一つを空の口元へ運ぼうとする。
「うーん、いいよ。それよりほら、新しいの何か頼もう?たこやきは美味しかったけれど、他のも食べたくなっちゃった」
「それじゃあ何か頼むかぁ。おーい!こっち注文よろしく~!」
ヤマメは近くを歩いていた屋台の店主、ミスティアに声を掛ける。
「はーい!あぁ、確か地底の・・・それで、ご注文は?」
ミスティアはメモと筆を取り出した。
「ん~、酒の追加と~あとウナギを10本くらいかな。お願いするよ。」
ヤマメが注文を言う。
「あ!あと何かお野菜を食べたいかな~、漬け物とかあったらお願いします。」
その横から注文を付け加えるのはキスメ。ぴょんぴょん跳ねてアピールする。
「ん~、それじゃあ漬け物ね。わかったわ、注文は以上でいい?」
ミスティアは最後に確認する。
「えぇ、それでお願い。忙しそうだね。あの子は頑張ってるかい?」
ヤマメがそう言うとミスティアは「ん~、まあまあね。」と、言って屋台の方へ帰っていった。
「おーい!ヤマメも飲めよ~」
勇儀はヤマメ達の隣に移動してきた。
「はーい!飲みましょ飲みましょ!なんせ今日は楽しいお祭りだ。ほら!パルスィも注いでばっかいないでこっちこっち!」
そう言ってヤマメはパルスィにこっちこい、のしぐさをする。
「私だって結構飲んでるわよっ・・・たく。」
パルスィはそういってゆっくり腰を上げる。その顔は、少し楽しそうだった。
「ま・・・まさかこんなに忙しくなるとは・・・二人で回していいアレじゃないですよ、これ。」
頭巾は手元の串をひっくり返しながら言う。
「そうねぇ。ちょっとあんた、分身とかできないの?」
ミスティアはそちらを向く事なく返事を返す。こちらは皿に盛り付けをしているようだ。頭巾は何人かのカウンターの客の勘定をしていて返事どころではない。
「あらあら、随分と儲かってそうね。」
いくらかの席が一気に開いた、そこに入ってきたのは博麗の巫女、博麗霊夢だった。
「あぁ、霊夢か。いらっしゃい、あの飲み比べおかげで休む間もないらしいよ。」
「良い事じゃない、提案した私に感謝なさい。」
そう言って霊夢はおみくじの入っているらしい箱を出す。
「んん?師匠が言い出したんじゃ・・・」
頭巾はそれに答えながら手元の串焼きをカウンターの客に配っていく。いくらか空いたがまだまだ客は多い。
「ああ、私とあいつの発案よ。私が何かしら盛り上げれば?って言ったらじゃあ飲み比べでもやらせるかってミスティアが言ったのよ。・・・ねぇ。そんな事よりおみくじ引かない?」
「それ聞いてないぞ俺。・・・いくらだ。今忙しいから後で引くよ。」
頭巾は手を止めることなく会話を続ける。
「そうねぇ。ここでの飲食代と同じくらいかしら」
「はぁ・・・そりゃ随分お高いこって・・・まあいいや場所代って事で、何にする?」
頭巾はため息をつきながら霊夢から注文をとる。
「そうね、どうしようかしら。そうだ、貴方の店でやってたのはもうないの?」
「んん?たこ焼きと焼きそば?すぐは無理だけど、もうちょっと客が減れば用意できるけど。」
「それじゃあとりあえず串焼きとお酒を頂戴。そろそろ里の人たちは帰る頃だろうからそっちはその後にでもお願いするわ。」
「あぁ、さっきから確かに人間のお客さんの勘定ばっかりしてるな・・・まあ今からは妖怪の時間だしそうなるか。」
頭巾は手元のウナギの串焼きをひっくり返す。追加で何本かウナギを焼きはじめた。
「あやややぁ~?霊夢さんじゃないれすかぁ~、今日はずっと何をされれらんれすかぁ~?」
奥のカウンター席に座っていた射命丸がふらふらしながら霊夢の横に寄ってきた。
「随分とまぁ出来上がってるわね、どれだけ飲んだのこいつ。」
霊夢は少々面倒くさそうな顔をする。
「あー・・・随分飲んでたなあ。えーと・・・うわぁ。」
頭巾は文の伝票を確認して妙な声を上げた。それを霊夢に見せる。
「・・・こいつらの身体はどうなってるのかしらね。」
「どうれもいいじゃないれすか!そんな事!ほら!霊夢さんも飲みましょう!」
文は霊夢によりかかる。霊夢はうっとおしそうにした後、文をカウンターに返却した。顔面から
「はいはい、霊夢、酒だよ。こっちはお通しだ。串焼きはもうちょっと待ってくれ。」
頭巾はそう言って霊夢に漬け物と徳利とお猪口を渡す。
「ああ、飲むだけってのも楽ねぇ。いつもは片付けまで考えないといけないもの。」
「おお?霊夢に文か。というか霊夢、こんなとこにいたのか。そういえば探してたぜ」
霊夢の後ろから現れたのは魔理沙だった。どうやら一人で屋台を回っていたらしい。お面やら何やらをたくさん装備していて、よくわからない事になっている。
「あら魔理沙、随分と楽しそうな格好ね。」
「年中めでたい格好している奴には言われたくないぜ」
「はっ!魔理沙さんがしゅんごい事にっこれは収めねば!」
文はそう言ってカウンターから復活し、カメラを構え写真を撮る。
「おいおい、見世物じゃないぜ。さて、なんか食いにきたぞ。そうだな・・・とりあえず霊夢と同じのをくれ。」
「はいよー、じゃあとりあえず酒とお通しなー。」
そう言って先ほど霊夢に渡した者と同じものを渡す。
「ん~で、こっちが串焼き。」
今度は二人にそれぞれ串焼きの乗った皿を渡す。魔理沙は「準備がいいな」と軽く笑顔を浮かべる。
「さてと・・・テーブルのお客さんにも配ってこなきゃな・・・」
頭巾はそう言うと皿をおぼんに乗せてカウンターから出て行く。交代でミスティアがカウンターに立つ。
「ふぅ、本当に忙しいわね。普通の人間が減ってきてちょっと楽になったけどまだまだ面倒な連中がいっぱいじゃない」
ミスティアは誰にとなく話しかける。
「おいおい。普通の人間を目の前にして言う台詞じゃあないぜ。」
「あんたらは十分人外でしょうに」
ミスティアは手元の串をひっくり返しながら言った。
「裏で何してたの?」
霊夢は得に話題もないので適当に話しかける。
「あぁ、追加のウナギの下準備よ。足りなくなりそうだったからね。」
「おんやぁ?随分儲かってるみらいれすねぇ?うらやましいかぎりれ。」
と、射命丸。いかんせん聞き取り辛い。
「・・・あんたがこれくらいで酔いつぶれる訳ないでしょう。聞き取り辛いからいい加減普通にしゃべりなさい。」
「あややや、ばれてましたか。いや、全く酔ってない言うわけではないんですがね。」
文はそう言って顔を上げる。舌の回りは普通だが、若干焦点が合ってない視線がその言葉を若干裏付ける。
「まぁ、余計な事は言わないでおいてあげるわ。さて、これと・・・これが・・・こっちで・・・」
ミスティアは他のカウンターの客に串焼きを配っていった。
「余計な事ってなんだ?気になるな。文、教えろよ」
魔理沙が文に詰め寄る。が、
「はてさて、何の話やら。そんな事よりほら、串焼きがさめてしまいますよ。」
文は目をそらし適当に話をそらす。
「まあなんでもいいけれど。ああ、美味しいわね。やっぱり」
霊夢はその様子を横から眺めながら串焼きをほおばった。
夜がやや深まり、人間の客がさらに減ってきた夜雀の屋台、カウンターではまだ霊夢達がのんびりと飲んでいた。頭巾は自分の屋台の明かりを再び灯してたこ焼きと焼きそばを作っているようだ。
「霊夢~魔理沙~、一緒に飲みましょう?」
そこに現れたのは紫だった、後ろにはその式、八雲藍と橙もついてきていた。
「・・・また面倒なのが。はぁ。」
霊夢は顔を抑えて軽くため息をつく。
「そんな反応しなくてもいいじゃない。ね、店主さん。こっちに移動したいのだけれども、かまわないかしら?」
紫はそう言ってカウンター席を指差し、ミスティアに話しかける。カウンターの席は今は大分空いている。
「えぇ、かまわないわよ。でもテーブルの皿とか伝票とかは持ってきてくれる?」
ミスティアはちらっと席の様子を見てから答えた。
「ふふ、ありがとう。さあ橙、藍。座りましょう。」
紫が座ると、その前の席にはいくつか料理の乗った皿や乗ってない皿。伝票などが現れた。
「あややや、また一気にこちらは騒がしくなりましたねえ。」
文はそう言いながら杯を煽る。
「お前も大概やかましい原因だろうに。」
藍は文を見ながら言う。
「藍さま!なんだか良いにおいがする!」
橙が鼻をぴくぴくさせながらあたりを見回す。
「うん?そうか?どこからだろう。」
「アレじゃないか。アレ」
魔理沙はミスティアの屋台の隣、表通りに面している頭巾の屋台を指差した。そこでは頭巾がたこ焼きとや焼きそばを作っていた。
「何あれ!美味しそう」
橙は目を輝かせる。
「たこ焼きだな。美味しいぜ~。私が作ったのなんて特にだな。」
「魔理沙のはやめた方がよさそうね。」
霊夢がすぐに突っ込みを入れた。
「おろ、紫さん。こっちへ移ったんですね。」
頭巾がその様子に気づいて声を掛ける。
「ああ、丁度良い。この子にもたこ焼きをくださる?」
紫は橙を軽く指差して言う。
「はい!わかりました~!」
頭巾は返事をした後またたこ焼きを焼く作業に戻った。
「あら、なんだかよく見る顔やらめったに見ない顔やら色々いるわね」
ここで現れたのは、吸血鬼スカーレット姉妹。レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレット。またその従者の十六夜咲夜たちだった。
「あらレミリア、あんたも来てたのね。」
霊夢がお猪口の酒を飲みながら言った。
「魔理沙~!みてみて~!」
フランは自分の持っているヨーヨーをばしゃばしゃ弾きながら魔理沙に声を掛けた。
「おお、お前らも香霖のところへ行ったのか。ほら、私も持ってるぜ。フラン、色違いだがな。」
魔理沙もヨーヨーを取り出してフランに見せる。
「えぇ、祭りがあると聞いてきたのだけれど、もう結構お店が閉まっていてね。他に余りなかったのよ。」
レミリアは腕組みをしながら言う。
「しょうがないでしょ、もう流石に普通の人間がうろうろしてると危険な時間だし、神社の縁日よ?基本的に妖怪のための物じゃないんだからもっと早くに来るべきね。遊びたかったなら」
「まあ、こちらも基本的に夜行性だから仕方ないわね。」
「ああ、座るならこっちが開いてるぜ。」
魔理沙がレミリア達を手招きする。
「よーし、出来ましたよ~」
頭巾はそう言ってたこ焼きと焼きそばを霊夢達に配って行く。
「ありがとう。」
頭巾は、紫や霊夢達に配り終えた後、他のテーブル客にもそれらを配りに行った。
「ねえ!それ何~?」
フランが興味ありげにそれらを見つめる。
「おお?これか。たこ焼きってんだ。食ってみるか?」
魔理沙は一つたこ焼きを串に刺し、フランに一つ差し出す。
「ありがとー!ぱくっ」
フランは躊躇なく差し出されたそれをくわえた。
「ん?・・・!!はふっはふふっ!」
熱かったのだろう。人噛みしたところでフランはその場で軽くのたうちまわる。
「妹様!これを!」
咲夜がどこからか水を差し出す。フランはそれを受け取って一気に口の中に流し込む。
「はひぃ・・・あついよぅ、魔理沙ぁ」
フランは涙目になりながら魔理沙に訴えかける。
「ちょっと!貴女なんてことを・・・」
咲夜が魔理沙に怒鳴りかかろうとした。
「何してんだこのやろぅ。」
そのとき、後ろから現れた頭巾が鉄板から持って来たばかりのたこ焼きをひょいっと取り魔理沙の口の中に突っ込んだ。
「もがぁ・・・!!!?」
魔理沙はそのまままた、カウンターに突っ伏し拳を何度か叩きつける。
「あははは!魔理沙もやられてる~!」
フランは腹を抱えて笑う。
「すいませんね。これはちょっと熱いので、あんな風に少しだけ冷ましてから食べるといいですよ。」
頭巾は霊夢の方を指差した。霊夢はたこ焼きを口でふーふー冷ましてから食べている。
「わかったー!」
フランはそのマネをしてからたこ焼きをほおばる。
「あっ・・・ふ・・・うん。美味しい!」
フランはにっこり笑う。
「あら、美味しそうねえ。だったら私達も一つもらおうかしら。」
レミリアはその様子を見て頭巾に注文を出した。
「はい、かしこまりました。」
「さっきから扱いがひどいんだぜ・・・」
魔理沙は涙目になりながら起き上がった。
「君が余計な事ばっかりするからだよ。」
そう言いながら現れたのは霖之助だった。後ろには人里の守護者、上白沢慧音も一緒だった。
「あ!さっきの店主さんだー!」
フランは席から飛び上がって霖之助に飛びついた。
「おおっと、君か。ヨーヨーはまだ元気かい?」
霖之助はフランを引っぺがして元の席に戻す。
「うん!ほら!」
そう言ってフランはヨーヨーを取り出して霖之助に見せ付ける。
「ああ、えらいね。・・・さて。」
霖之助は周りを少しだけ見回す。
「あ、いらっしゃいませ霖之助さん。お連れは、慧音さんに妹紅さんですか。」
頭巾は霖之助を見て声を掛ける。
「そういう事だ。本当にいいのかい?」
霖之助はそちらを見たまま話を続ける。
「えぇ、かまいませんよ。うちの店の方のカウンターが開いてるのであそこに座ってください。紫さん達の向こうですね。」
そういって頭巾は自分の屋台の方を指差す。ミスティアの屋台と頭巾の屋台は繋がっているため、霖之助達は紫たちの隣に座る形になった。
「ああわかった。」
そう言って頭巾は霖之助を座らせる。
「おごりってもしかしてこっちの店主のおごり?」
妹紅が霖之助を見る。
「あぁ、今日は連れ込みで食べさせてもらえるんだ、タダという訳ではないけれど。」
良いながら霖之助は今現在一番隅の席に着いた。そのため妹紅と慧音は紫達の隣に座る事になった。
「連れも一緒にとはまた随分と気前が良いな。何かあったか?」
慧音も席に着きながらどちらにとなくたずねる。
「ああ、この鉄板を用意していただいたので、まあそのお礼ですね。」
頭巾はそう言いながら霖之助達の前に立ち注文を受ける姿勢を作った。
「ほーぅ、これを仕上げたのか。」
たこ焼きと焼きソバを作っていた鉄板をそれぞれ眺めて妹紅は関心したような声をあげた。
「えぇ、なんにします?たこ焼き、焼きそばだけじゃなくていつもの屋台のメニューも出ますよ。」
「それじゃあ僕はとりあえず八つ目の串焼きと熱燗をお願いしようかな。たこ焼きと焼きそばは最初に頂いたからね。」
「それじゃあ私達は・・・そうだな。焼きそばは二つとたこ焼きはまあ1つで分ければいいだろう。」
慧音が注文を言う。
「あ!私達にも酒を忘れないでくれよ。私は熱燗ね」
妹紅が慧音の注文に付け加えた。
「ああ、そうだったな。私も同じものを頼むよ。」
「はーい!かしこまりました~。熱燗はちょっと時間がかかるのでとりあえずお茶とお通しの漬け物です。」
頭巾はささっと伝票を書いた後、お茶の入った湯呑みとお通しをそれぞれに渡す。その後一旦奥に行った。どうやら串焼きの用意をするらしい
「こんばんは、さっきぶりね。」
紫が妹紅と慧音ごしに霖之助に声を掛ける。
「そうだな、まあいるだろうとは思っていたけど。」
「そんな隅っこに座らなくてもほら、こっちに座れば良いのに。両手に華どころの騒ぎではありませんよ?」
口元を扇子で隠しながら言う。どことなくとも妖美な雰囲気である。
「遠慮しておくよ。僕は少しでも静かに飲みたいのでね。」
霖之助はそう言ってお茶を煽る。
「ふふ、そこにいても最終的には変わらないと思いますけれどね。」
口元を隠したまま笑う紫。さらに妖美な雰囲気に磨きがかかる。ここで頭巾が「熱燗です。」と、三人に徳利とお猪口を配っていった。
「ん~、しかし今日は色々あったなあ。」
妹紅はたこ焼きをほおばりながら呟く。
「そうだな、ギリギリだったが屋台もそこそこ回ることができたし。」
慧音は焼きそばを食べている。
「そういえば君達、里の人間の送り迎えは結局どうなったんだい?」
「ああ。実は寺の連中と傘の妖怪に頼まれてな。ここまでの道中が肝試し会場になったんだ。」
「・・・すまない。意味がよくわからないんだが」
霖之助は眉を寄せる。
「えぇっとつまりだな。傘の妖怪がこの機会に人間をたくさん驚かせたいと言い出してだな、それを命蓮寺の連中が手伝うことになってだな・・・」
慧音が付け加えて説明をするが先ほどと大差ない。
「ようは化け傘と寺の連中がここから人里までの道をお化け屋敷にしたんだよ。道中の安全は保障してくれたし。」
妹紅が二言で片付けた。
「おいおい、そんなんでいいのか?」
魔理沙が後ろからやってきた。手には串焼きとお猪口と徳利を持っている。
「まあ、安全は保障すると言っていたし大丈夫だろう、何よりあそこの僧侶は強いからな。心配はいらないだろう」
と慧音。
「あー、アレは強かったわ。まあ、私ほどじゃないがな。」
えへん、と胸を張る魔理沙。どうやらすでに戦闘済みらしい。
「それより魔理沙、お猪口が空じゃないか。出してみなさい」
霖之助がそういうと、魔理沙はお猪口を霖之助の方に差し出して、霖之助はそれに自分の酒を注ぐ。
「おお?香霖どうした。やるき満々じゃないか珍しい。明日は雨がふりそうだぜ」
「珍しい、か。そうかもしれないね。祭りの陽気にでも当てられたかな。」
「はっは!違いない!この辺は妖気でいっぱいだけどな!」
と、妹紅。
「あら、うまいわね。それを出しなさい。お酌をしてあげるわ。」
紫はそう言うと妹紅のお猪口に酒を注ぐ。
「おーい!店主!酒が足りないぜ~」
魔理沙が大きな声で酒の追加を頼んだ・・・が、返事はなかった。
「あれ?どこ行った?」
魔理沙はあたりを見回す。カウンターの中に頭巾の姿はなく奥の屋台のミスティアだけだった。
「うん?さっきどこかにたこ焼きと一升瓶を何本か持って行っていたようだが・・・」
慧音達も同じようにあたりを見回してその姿を探す。
「・・・あ、あそこじゃないか。」
霖之助があるテーブルを指差す。そこには鬼二人に囲まれている頭巾らしき人影に一升瓶が突き刺さっているようなシルエットが浮かんでいた。
「あ~・・・おーい!こっちに酒くれ~!」
魔理沙は何かを察した様子で、もう一方の店主ミスティアに注文する。
「こっちも忙しいのよ!面倒だから取りに来て!適当に何か渡すからっ」
ミスティアは手元の串焼きをひっくり返したり酒瓶を出したり空瓶を片付けたりでてんやわんやだった。
「客使いの荒い屋台だぜまったく。」
魔理沙は言われた通りにミスティアのところへ駆けて行った。
魔理沙が酒を取りに行った少し後、頭巾が早足で帰ってきた。若干ふらついているようにも見える。
「あ~・・・きっつぃ。」
「よく鬼二人に囲まれてその程度ですんだね。」
霖之助は素で驚いた様子でたずねた。
「鬼の酒を浴びる程飲まされましたがね・・・仕事中だって言って逃げて来ました。」
頭巾の着物は零れた酒でだろうか。少々濡れていた。
「んお?戻ってるじゃないか。もう戻ってこないと思ったのに」
一升瓶を持って帰ってきた魔理沙が霖之助の隣に座った。
「さっさと押し付けられた分飲んで戻って来たよ。その酒は・・・魔理沙の伝票につけとけばいいのか?」
そう言うと頭巾は魔理沙の伝票を取りに行こうとした。どうやら先の席に置きっぱなしらしい。
「香霖のおごりだぜ。」
魔理沙は躊躇なく言い放つ。
「はぁ・・・まあいいけどね。」
霖之助はため息をついた後自分の伝票を頭巾に渡す。
「さすが香霖だぜ」
「で、他に注文はありませんか?あっちのカウンターやら他のテーブルやらに色々持って行かないといけないので伺うなら今なんですが。」
頭巾はたこ焼きと焼きそばを容器につめたり徳利の準備をしたりしながら近くの客に声を掛ける。
「ああ、それじゃあ串焼きを頼む。」
慧音が注文をした。それを聞いて妹紅も「あ、私も同じの!」と続いた。
「じゃあ私は漬け物かサラダを頼むぜ。」
と、魔理沙。
「こっちには熱燗を二つとぬる燗を一つお願いしますわ。」
紫からも注文が入った。
「はーい!」
祭りの屋台提灯の灯が減っていく中、ミスティアたちの屋台だけは夜通し灯が消える事はなく。その賑わいは夜が明けるまで収まる事はなかった。飲み屋台は次第に宴会場に様変わりしていき、終いには店の客全部が一箇所に集まり収集のつけようのない大宴会になっていった。
どんだけツケてるんだw
俺も頭巾さんの屋台に行ってみたいなぁ!
何か起こる訳でもなく、それでも読みやすい、とても好みな文章です。