お姉ちゃんまじチャーミング 古明地こいし
うほお。流石私だ。まさか無意識にして宇宙の真理を暴き出すとは。
いやしかし、それにしてもお姉ちゃんはチャーミングだ。
日本語で言うと魅力的。
うん。まじでお姉ちゃんはチャーミングだ。
件のお姉ちゃんは今、天蓋付きのベッドで眠っている。
くぅすぅという愛らしい寝息をたてて、安らかに眠っている。
私が顔を覗き込んでいるとも知らずに。それも一晩中……。
くいくいと自分の頭にある帽子の位置を直しながら、始終にやけ続ける。
たらまらない。辛抱たまらない。
お姉ちゃんがこてんと寝返りを打ったその瞬間、思考回路がショートして、
私は鮮やかなジャンプでベットへとダイブした。
と思ったらリビングにいた。
な、何を言ってるかわからないと思うけど、私も何をされたのかわからなかった……っ!!
無意識だとか事後だとか、そんなちゃちな……あ、お姉ちゃんが来た。
リビングの扉が半分だけ開かれ、そこから寝ぼけ眼のお姉ちゃんが顔を覗かせている。
両のひとさし指を口の両端にもっていって、ぐいっと一発、笑みを模った後に、ぱっとお姉ちゃんの前へと躍り出た。
「おはよっ!」
お姉ちゃんは、ぽかんとした。そりゃあもう、ぽかーんと。
第一ボタンが外れていた所為で、服がずるりと肩までずり落ちた事もあいまって、天下一品の間抜けさだった。
天下一品。間違いじゃないよ。だって、お姉ちゃんの間抜けな顔も、素晴らしく可愛いんだもの。
「お、おはよう……帰っていたのね、こいし」
「うん。やっと戦争が終わったんだ!これからはずっと家にいられるよ!!」
一転、は?と、呆気にとられた表情。
お、お姉ちゃんったら、愛らしい!愛らしいよ!!
ああもう、愛しのお姉ちゃん。愛のパワーで私の心を読み取って下さいなー!
なんちゃってー。んはは、読み取ったら殺す。
「せ、戦争……?」
少しかすれた声で、僅かに首を傾げてみせるお姉ちゃん。
そうだよ!と言いつつ、片足を上げて万歳し、びしっとポーズを決める。
眉を八の字にして無駄に思い悩むお姉ちゃんに、助け舟を出してやることにした。
「ライダー大戦だよ!!」
「ライダーたいせん?ライダー………みょん?」
ああんお姉ちゃん、ライダー違いだよ。あの庭師は出来損ないの子供のお遊びレベル。
真のライダーはもっとアクロバチックなぴーぽーうぃーずねーむ!
胸をそらして声高に言うと、お姉ちゃんは難しそうな顔をして、
「ライダー……オーディン……おいすー?」
お姉ちゃんインしたお!!って違う!!
確かにあの焼き鳥屋さんのラストスペル―――FV「エターナルカオス」―――はすごく格好良かったけれど、
それでもあの焼き鳥屋さんはライダーじゃない。
うんうんうなって悩むお姉ちゃんが段々かわいそうになってきたので、ぽんと肩を叩いて、
朝ごはんにしよっか!と言った。
直後にお姉ちゃんのお腹がなって……赤面する。
お姉ちゃんだけじゃなくて、私も。
お姉ちゃんの真っ赤な顔を見たら、なんだか急に恥ずかしくなってきたから。
おうふ。
さて、朝ごはんだ。
「めーしあーがれっ!」
椅子に座ったまま、びしっと決めポーズをとって、お姉ちゃんにごはんをすすめる。
「……こいし、これは……」
「チクデンティーニの和洋折衷中濃いソース総がけこいしちゃんスペシャル!!」
「oh…」
お姉ちゃんは脂汗とも見えるものを額に掻きながら、暗い表情でお皿の上に置かれた
真っ黒くてうねうね動いてて時々シャーッ!って威嚇みたいな声を出す私の得意料理を
見つめている。
「まあまあ、お姉ちゃん。食わず嫌いは良くないから、一口でも食べてみて?卒倒する味だと思うよ?」
「嫌な意味で卒倒しそうよ……」
んはは、そんなまさか。
笑いながらそう言って、お姉ちゃんの前にある皿を手で押し、強引にすすめてみる。
すると真っ黒い料理が耳鳴りのような奇声を発しながらぴょんと跳んで、ってなにこの気色悪いの!?
「お姉ちゃん!? 化け物が!!」
「……あなたのまいた種なのだから、あなたの手で刈りなさい」
ああんそんな!まってお姉ちゃん!私の未来のお嫁さん!!
ぐはっ!?体当たりとはやりおるなこの黒いのっ!とっつかまえて……ぎとぎとしてる………。
おうふ。
ああ、酷い目にあった。
まったく、お姉ちゃんって人が出来てないんだねえ、もう。助けてくれたっていいのに。
しかしなかなかの美味しさだったな、ちくずんてぃーぬ……だっけ?
お姉ちゃんが得意料理だとか言ってたような気がする。
まあいいや。
お腹が膨れたことだし、とお姉ちゃんを探そう、と思ったら、
なんだか熱気の溢れた所にいた。
どこここ。
数瞬だけ考えて、ああ、と手を叩いた。痛い。
ここは、旧・灼熱地獄跡……だとか呼ばれている場所だ。つまりは庭。
うん?でも何でこんなに熱気が溢れてるんだろ。
小首を傾げてそう考えていると、
「異物発見! 排除する!!」
と聞きなれているような、はたまた懐かしいような声が聞こえてきた。
振り向いて、顔を見やる。
こいつは……昔この場所で働いてた、お姉ちゃんのペットのうちの一匹。
神様を取り込んで、パワーアップした奴。
今は別の場所で働いているはずだけど……ここで何やってるんだろう。
ああ、熱気があるのはこいつのせいねー。ねこもいないのにどうして機能してるんだと思ったけれど。
うん、得心がいった。
まあ、こいつがここにいる理由はわからないのだけれども。
相手するのも疲れるので、私は意識を手放すことにした。いや、もののたとえだけどね。
里にいた。私が。
茶屋にいた。お姉ちゃんが。
……何やってるのお姉ちゃん。なに出てきちゃってるのお姉ちゃん。
いや、私も人のことは言えない身だけど、立場があるでしょお姉ちゃんには。
まあいいや。
お店の隅っこの席で一人静かにお団子を頬張っていたお姉ちゃんの隣に座って、手に持っている皿からひとつお団子を取りあげる。
あむ。むぐむぐ。……味がしない。
こんなお団子食べてお姉ちゃんは何考えてるのかなと横を向く。
お姉ちゃんは震えていた。
真っ青になって。小刻みに震える手がお皿に伸びる。
そうして、小さな口を開いた。
「ない……」
ない。
胸が?違う。
背が?違う。
立場あるものの自覚が?違う。
そもそも全部あるわけない。
じゃあなにか。
お団子だ。
「………ない」
まあ、私が食べたのは最後の一個だったし。そうなるのは、当然。
お姉ちゃんの目じりに涙がたまっていく。おうじーざす。お姉ちゃん精神が脆弱すぎるぜ。
い、いいい今こいしが舌でなめとってあげるからねお姉ちゃんっ!?
なんてね。んはは、流石にそんなことはしない。お姉ちゃん大事にってね。
「うひゃあっ!? こ、こいし! いつからそこに…!?」
なめちった。反省はしないし後悔もしない。
「な、なんで今なめて」
「ほらお姉ちゃん、そんな大きな声出してると叩き出されちゃうから、自主的に出て行こうね-」
「ちょ、ちょっと御代まだ払ってな」
注意しても大声を出す可愛いお姉ちゃんを担いで外に出ると、お姉ちゃんがそんなことをのたまった。
御代。
……なにそれおいしいの?
「こらこいし! お姉ちゃんのいうことを聞かないなら、もう口をききませんよ!」
ばかじゃないの。
いや、私のこと。御代?お前は音速遅いな、もう払ってきたよ。
唖然とするお姉ちゃんを担いで、私は地霊殿へと戻った。
と思ったら、なんか凄い一杯人がいるところにいた。
行き交う人々で溢れかえるこの場所。流されるようにして、私とお姉ちゃんはあんまり人のいない方へと移動していった。
「はぁ…、はぁ…」
途中で降ろしたお姉ちゃんは、膝に手を付いて荒く息を吐いている。
その背中をさすってあげながら、私は周りを見回した。
おおう。背の高い建物が一杯。
それになんだ、地面が硬い。土じゃないねこれ。かといって金属の類でもない。
にしても、凄い喧騒だ。耳が悪くなりそう。
……で、ここはどこ?
日も暮れかけてるし、そろそろ帰りたいんだけど。というか、茶屋を出たときはまだお昼も過ぎてなかったのに。
うーん、そんなに長いこと歩いたかな。
お姉ちゃんも何か言ってくれたらよかったのに。
ごほ、とお姉ちゃんが咳き込んだ。
慌てて顔を覗き込むと、非常に顔色が悪いのにびっくりした。
「どうしたの? お姉ちゃん」
私の問いかけに、弱々しく手をあげて見せるお姉ちゃん。
尋常じゃない様子に、私は感づいた。
陣痛だ。
違う、人が一杯いる所為で、お姉ちゃんの精神に無駄に負荷がかかってるんだ。
自ら読み取ろうとしなくても、表面は自動で読み取ってしまう。
無視することはできる。でも、こんなにいっぺんだと、まずい。
「しっかり、お姉ちゃん。すぐ家につくからね」
「はぁ…、ん、は、」
僅かに頷いたお姉ちゃんの肩を支えて、目をつぶる。
頼むよ私の無意識よ。私たちを家まで導いておくれ。
それから私は、目を開いた。
帰ってきました地霊殿。
そりゃあもう、あっさりと。
あそこが何処だったかは知らないけれど、こうやって無事に帰ってこれたってことは、
行ける距離にあるに違いない。
凄い人の数だったなー。
まあ、そんなことは今はいい。
「はい、あーん」
「あむ、むぐむぐ」
今私は、お姉ちゃんにおじやをあーんする作業で忙しいのだ。
熱に浮かされてぼーっとするお姉ちゃんに、つぎやつぎへとレンゲを運んでいく。
「おいしい?」
「……」
こくりとうなずくお姉ちゃんの愛らしさに激しく身もだえしながら、さらにご飯をあげていく。
可愛い。
お姉ちゃんまじ可愛い。
おうふ。
お姉ちゃんまじチャーミング!!!
ピクッ
お姉ちゃん可愛いマジ可愛い
>なんちゃってー。んはは、読み取ったら殺す。
こいしめ、ハハハ('∀`)
この妹怖ぇぇww