「今日も相変わらず平和ですね~」
紅魔館
それはスカーレットデビルを筆頭にする、幻想郷のパワーバランスの一角をになう組織である。
当主の吸血鬼は言うまでもなく、その妹である吸血鬼、時を操るメイド、七曜の魔法を使う魔女、その使い魔である小悪魔、そして門番である妖怪
その一人一人が中の上から上の上にあたいする力をもつ集団である。
その紅魔館の門番 紅美鈴は最近あることに悩まされていた。
それはいつも昼食後にやってきて、不死身と思われるほどの耐久性を持ち合わせておりなかなか退いてくれない強敵。
そう眠気である。
いつぞやの紅霧の異変のように意性の良い人間も来ず、来るとしてもその異変を解決し当主の妹であるフランドールを地下から引っ張り出した魔理沙が魔女 パチュリーとその使い魔 こぁ(名前がが無いので取り敢えずこう呼ばれている)が管理している図書館に本をなかば強奪しにくるていど。
本を強奪されるのはパチュリーも嫌なのだが、フランドールを地下から連れ出してくれた恩もあり黙認されているのだ。
まぁとうの本人も魔理沙が来てくれるのを喜んでいる節があるので問題はほとんど無いだろう。
問題があると言えば館に無断で侵入してくることと昼寝をしている門番に襲撃をかけて門を破壊していくことくらいだ
許可を取れば普通に入れるのだが本人はこっちの方がスリルがあって楽しい、その上弾幕の練習にもなって一石二鳥だぜと言って止める気ゼロである。
まったく迷惑な話だ。
門の修理は門番である美鈴とその部下の門番隊の連中でやらなければならないので労力と費用がかかる。
修理費用は美鈴の給料から差し引かれるのだがそれでも手取りは結構残る。
以外と紅魔館は給料がいいのだ。
労力の方は雇われの身ということで我慢である。
さてその眠気に対して今日はどう対処しようと考えていると遠くから氷精が門に向かって飛んでくる。
「おーい、めーりーん!」
元気のいい声が門前に響く。
「こんにちはチルノちゃん、こんな朝早くからどうしたの?」
「朝起きは三文の得ってきいたから試しに早起きしてみたんだ!」
「そうなんだ...で、なにかいいことあった?」
「うん!朝からめーりんに会えた!」
その笑顔からは元気が滲み出しているようで見ているこちらも元気にしてくれる、そんな気さえしてくる屈託のない笑顔がそこにはあった。
「じゃあ、私も朝からチルノちゃんに会えて得しちゃったな」
「そうだぞ!!朝からあたいに会えるなんてラッキーなんだから感謝してよね!!」
「うん、チルノちゃんありがとう」
そのやりとりは近所のお姉さんと子供のようであった。いや、本物の姉妹にも感じられるそんな光景であった。
「ねぇ?今日は何して遊ぶ?たぶん今日は大ちゃんとかリグルとかも来るから皆で何かしようよ!」
最近、紅魔館の門前では児童公園さながらの光景は珍しくない。
まだ精神の幼い妖怪や妖精が美鈴に遊んで貰いたくてやって来るのだ。
しかし、メイド長である十六夜咲夜はそのことをあまりよく思っていらしく、もっと紅魔館の門番としての自覚と誇りをもって欲しいと常々、動かない大図書館ことパチュリーに愚痴を零していた。
しかも、子供達と遊んでいるにもかかわらず、美鈴は仕事をこなしているのでたちが悪い。
注意したくても出来ない、そんなジレンマに悩まされる咲夜であった。
実は保母が本職なんじゃないの?っと思うことなかれ起きている時の美鈴の敵の撃退率は100%なのだ
そんな保母よろしくの美鈴はいつもなら二つ返事で了承するのだがどうやら今日は都合がわるいようだった。
「チルノちゃんごめんね、今日は用事があって一緒に遊べないんだ」
「えぇ~!今日は久しぶりにみんなくるのに~、用事ってそんなに大事なことなの!?」
美鈴の返事に不満そうなチルノ。
自分の誘いを断るとはどんなに大事なことなのか、くだらないことだったらつっぱねてやる、そう心に決めチルノは美鈴の返事を今か今かと待っていた。
「今日は大切な家族に会いにいくんだ。だから今日はどうしてもダメなの」
返ってきた返事はチルノでも分かるくらいに大切なことだった。
もし自分が親代わりのレティ・ホワイトロックに会いにいく約束があるとして自分はそれを反故にできるか?答えはNoである。
久しぶりに家族に会えるのに行かない訳がない。
レティに冬だけしか会えないチルノだからこそその大切さが痛いほどわかるのだ。
「そうなんだ、じゃあ仕方ないね。家族に会いに行くんだったら仕方ないね」
そう言うチルノの顔はすごく寂しそうで、先ほどの呆れるほどの元気の良さはどこかへ消え去っていた。
「ごめんね」
「それじゃあ、今日帰るよ」
飛びもせずに歩いて帰って行く
その様子はどこか消えてしまいそうな儚さを孕んでいた。
少しでも家に帰る時間を伸ばそうとしているのであろう、きっとその心の中は会いたくても会えない母親のことを考えているに違いない。
「チルノちゃん!」
「...なに?」
「実は私まだ行くまで時間があるんだ。それでその間門番しなくちゃいけないんだけど、どうにもこの陽気のせいで眠たいんだ。それで眠らないようになにか眠気を吹き飛ばすようなことをしたいんだけど手伝ってくれないかな?」
「...え?」
頬をかきながら申し訳なそうにお願いをする美鈴の言葉がチルノは始めその言葉が理解出来なかった。
別に言葉の意味がわからなかった訳ではない。
言葉は驚くほどすっと頭に入ってきたのだが、深く沈んでいた心では理解できなかったのである。
(なんで急にそんなこと言うんだろう?先ほど誘いを断ったのは美鈴の方ではないだろうか?)
チルノはただ呆然と美鈴を眺めることしか出来なかった。
(あっ!!)
十数秒かけてやっと理解出来た。
そう、美鈴のその言葉はチルノの気持ちを少しでも和らげてあげたいと思ってのものだった。
故意ではないとはいえ自分が思い出させてしまった気持ち。
それを少しでも払拭してあげたいと思う、優しい美鈴の気持ちが詰まった言葉だったのだ。
そして、その言葉の真意がわからないほどチルノは馬鹿ではない。
美鈴の優しさに思わず泣きそうになる。
しかし、泣くのをグッと堪え去勢をはる。
ここは泣く場面ではない。
「もう、めーりんはほんと~にしょ~がないわね~、いいよ!あたいがぜ~ったいに寝かせないんだから!!」
けど、お日さまのように温かい様子は伝わってきました。
次の作品も期待しています。
わかります!