「あれ?」
魔理沙はひとり呟いた。
日付を間違えたのだろうか。まずそれを疑う。しかし、自分が、この日を間違えるとも思えなかった。
この書店は、入荷販売ともに予定通り正確であることに定評があり、それ故に魔理沙のお気に入りだった。街にあまり出ない魔理沙にとっては、来た日に確実にあるということはとても重要なことだった。
しかし。見当たらない。
今日は、なかったのだ。
「おっちゃ、おっちゃ、アレ入ってないの?」
店の奥に声をかける。
薄暗い奥のほう、カウンターの向こう側では、初老の男性が、ん、と顔を上げた。魔理沙の顔をちらっと確認する。
「アレっていうと……ああ、今日だから、アレか」
「もちろん、月刊きのこだよ。今日発売だろ?」
「そうだな。確かに入った。で、売れた。もうない」
「……なん……だと……」
さらっと軽く言った店主の言葉に、魔理沙は衝撃を受ける。
聞き間違いかと思うほどだった。
まず、もうこの書店にはないということ。
そして、自分以外に月刊きのこを買う者がいるという事実。
二重の意味で衝撃的だった。
店主の記憶違いなのではないか。そう思って、もう一度雑誌売場を探す。見渡す。いつも置いてある場所を、何度も見つめる。もちろん、急にそこに現れるようなことはなかった。
「……一部しか入荷しないのか?」
「あんた以外に買う人はいなかったからな。昨日までは」
「だよな……って、いや、わかってるなら、私のために残しておいてくれてもよかったのにさ」
「買いたいって人がいるのに、売れませんってわけにもいかんさ。予約されてたわけでもないしな」
「うう……世知辛い世の中だ……」
がくり。
肩を落として、魔理沙は打ちひしがれる。
発売日は、毎月楽しみにしていた。この日が近づくと、そわそわして研究にも身が入らなくなるほどだった。待ちに待った発売日。今日、幸せを手に入れる予定だったのだ。
今月のきのこ料理が。
きのこ狩り小説の続きが。
先月提出したきのこパズルの答えが。
全てが、今日は手に入らない。
いや、今日手に入らないだけで済むとも限らない。この書店以外で扱っているのかどうかすら、わからない。
もっと早く来るべきだった。いや、そもそも、やはり定期購読すべきだったのだ。いつだって確実に入手できると油断していた。同好の士が現れない保障などなかったのだ。
魔理沙は、顔を上げる。
「おっちゃ! 買っていったのは、誰なんだ?」
悔いたあとにすべきことは、次善の策を考えることだった。
他の書店を見てまわるより、可能であれば確実な策がある。捜し物、人探しは割と得意なのだ。
「誰と言われてもな。知らんよ」
あっさりと、店主は答えた。
「じゃ、どんな奴だった? 私以外の誰かがアレを買っていったんだ、印象に残ってるはずだろ?」
「まあな。若い女だ……あんたよりは、確実に年上だと思うが。髪はかなり長かった」
「ふんふん。他に何か気づいたことは?」
「探偵みたいだな。まあ、特徴って言ったら、あんたみたいにワイルドな口調だったな。身内なんじゃないのかい?」
「ふむ……?」
魔理沙は眉をひそめる。
自分自身でも、自分のこの口調が珍しいことは十分に自覚している。そうそうはいないだろう。人探しをするには、かなり有力な手がかりだ。
ちなみに、そんな身内はいない。
……
「……うん?」
「うん?」
魔理沙の呟きに、店主も同じような反応を返した。
「なあ、そいつ、もしかして……そうだな、なんというか、熱くなかったか?」
「熱い? ……米食えとか、そういう事は言われなかったが」
「いや、そうじゃなくて。物理的に、温かくなかったか? 体が」
「それは確実に病気だと思うが……ん? 言われてみれば、確かに、妙に温かいと思ったな」
不思議そうな声で、店主は言った。
よし、と魔理沙は大きく一度頷いた。
「ナイスだ、おっちゃ。完璧に知り合いだ」
「そうか。きのこ仲間が増えてよかったな」
「ああ。そうだ、こいつは礼だ、受け取ってくれ。じゃあな!」
ぽい。
魔理沙は、紙束を手提げ袋から取り出して、カウンターに置いた。というか、投げた。そして、さっと書店を出る。
店主は、あっという間にいなくなってしまった魔理沙を半ば呆然と見送ってから、なんだったんだ、と呟いて、その紙束を手にとった。
文々。新聞と書かれていた。
「……」
店主の、え? という言葉は、静かな店内に消えた。
「藤原さんかー。確かにきのこ好きそうな顔してるしな。いや、私は最初から仲間だと思っていたぜ」
空を飛びながら、さて、と魔理沙は考える。犯人の正体は意外なほど簡単に特定できてしまったが、この先が問題だ。まず、魔理沙は彼女の家を知らない。
とはいえ、さほど大きな問題ではないと考えていた。利用すべきは、人脈である。
「ま、姫様のところだな、とりあえず」
「というわけで、姫。藤原さんの家まで案内してくれ」
「あらあら」
急に訪れた魔理沙の、これまた急な言葉にも、輝夜は動じなかった。ちなみに、「というわけで」の前に一切説明はない。
客間でお茶を飲みながら話す。こうして簡単に輝夜と一対一で普通に話ができることが、極めて限定された者のみに認められた特権であることを、魔理沙は自覚していなかった。
「魔理沙もついに、あいつに喧嘩売りに行くことにしたの? 嬉しいわ」
「……いや、できれば喧嘩にならずにすむ方向性でいきたいと思っているが。まずは交渉だな」
「ふむ。話を聞かせてもらってもいいかしら?」
「そうだな――」
魔理沙は、月刊きのこが必要であること、それが売り切れであったこと、そして買ったのが妹紅である可能性が高いこと、を、簡単に説明した。
簡単に、のつもりが随分と感情がこもってしまったわけだが。
話を聞きながら、輝夜の目が輝く。
「へえ? あいつ――ふふ。そういうことなの。なかなか本気じゃない」
不敵に微笑みながら、輝夜はすっと立ち上がった。
お、と魔理沙は声を上げる。
「行きましょう。すぐに。案内するわ」
「おお。助かる。ありがとうな」
「ふふ――」
輝夜が呼ぶと、永琳はすぐに現れた。今からあいつを殴りに行ってくる、と一言伝えると、永琳は夕食までには帰ってきてくださいね、と答えた。
輝夜の足取り、というか飛行だが、は、魔理沙に比べると相当に遅かった。擬音を付けるなら、ふわふわ、がもっとも相応しい。飛行というよりひらがなで「とんでいる」と表現するほうが、より実態に合っている。
「遅くてごめんね」
輝夜は、あまり申し訳なさそうな感じでもなく、言った。
「いや、そこまで急ぐわけでもないからな。それに、ゆっくり進むのも慣れてる」
隣を飛びながら、霊夢みたいだな、と魔理沙は思う。こののんびり具合も、普段はなかなか動かないのにいざ行動となると早いのも、戦いになると別人のような動きを見せるのも、よく似ていた。
永遠を生きているとこういう性格が醸成されるのだろうかと一瞬思うものの、だったら霊夢はなんなのか、という気になる。
「魔理沙の箒に乗せてもらったら、きっと速いと思うんだけど。びゅーんって」
「……無理はしないほうがいい、姫様」
「そんなこと言われたら、挑戦してみたくなっちゃう」
「薬屋には恨まれたくないんだ。勘弁してくれ……」
「あら」
輝夜は優しく微笑む。子供っぽくも大人っぽくも見える、不思議な笑みだ。
「永琳は加減を知らないようで、ちゃんと限度は弁えているのよ。今のところ、私が知っている限りでは、意図してそうしたとき以外は、不要に誰かを定義上死なせたことはないわよ」
「まったく1ミリたりとも安心出来る言葉じゃなかったような気がするのは、気のせいか?」
軽く寒気を感じて、魔理沙は腕を押さえる。
輝夜は、くすくすと笑って、魔理沙の箒の先端を突いた。
「冗談、冗談。月流の冗談よ。いわゆるムーンジョーク」
「いわゆらないだろ……」
微妙にテンポの合わない会話を続けつつ、ゆっくりと二人は山に向かっていった。
山の奥のほうまで来た。
普通に考えれば、まともな人間が住んでいる環境ではない。が、それについては魔理沙も同類なので、その点について特に言うことがあるわけでもなかった。
「って言っても、家が近くにあるならそろそろ見えてもよさそうなもんだけどな。全然そんな感じがしない」
「もう、すぐそこよ」
「うーん」
首をひねっている魔理沙がそのまままっすぐ進むと。
目の前に、急に家が現れた。
「うわっ!?」
「とうちゃーく」
「なんだ、どうなってるんだ……?」
「ふっふーん。凄いでしょう。常人では近づくこともできないわよ」
何故か偉そうに輝夜は言った。
何がどうなっているのかわからない魔理沙は、とりあえずブレーキをかけて、その場に降り立った。もう、明らかに家の敷地内だった。
「……また、立派な家だな。なんでこんなものが隠れてたんだ」
豪邸というわけではないが、しっかりした建物である。少なくとも、魔理沙の家よりも広い。山奥にこのようなものがあることに、違和感を禁じ得ない。
「もっと、小屋みたいなところに住んでるイメージがあったのに」
「――ふふっ」
魔理沙の呟きに対して、輝夜は手で口元を隠しながら、笑いをこらえきれないといった様子だった。
とにかく色々とわけがわからない魔理沙は、まあそんなことはどうでもいいか、と気にしないことにして、玄関に向かう。
ドアを叩こうと拳を振り上げたところで――
がちゃ、と向こうから、ドアが開いた。
「……なんだ。誰かと思えば珍しい客だな」
「お、いたか」
家の中から、当の妹紅が現れていた。まず魔理沙を無表情で見て、その後方に輝夜の姿を見つけて、表情を険しくした。
「何の用だ?」
「確認したいことがあってな。今日――」
「わかった。話があるわけだな。上がっててくれ。部屋は、後ろのそいつに聞けばわかる」
「ん? そうか、じゃあ、まあお邪魔するぜ」
「あ、藤原さん、私、玉露がいいなー」
「藤原さん言うなっ!」
後ろからの輝夜の声に、声を荒らげて妹紅が突っ込む。
「私は緑茶なら何でも大丈夫だぜ。えー……藤原さん」
「お前らな」
「なんだっけかなー。覚えられないんだなー。モで始まってウで終わる赤っぽい名前、ってところまで覚えたんだが」
「だからなんでわざわざ毛沢東を連想するような覚え方するんだ!? あと一文字くらい頑張ってくれよ!」
「モールス信号さん!」
「輝夜お前は後で殴る」
畳の上に座り、温かい玉露を味わう。
ほんのり甘く、上品な味だった。やっぱりお茶はいいなあ、と魔理沙は呟く。
「ねえねえ藤原さん」
「なんですか蓬莱山さん」
「あらやだ。他人行儀ね。いつもみたいに輝夜様って呼びなさいよ」
「死ね」
「死なないし」
「知ってる」
……やっぱりお茶はおいしいなあ、とため息をつきながら魔理沙は呟く。
「で、ね、魔理沙がね、立派な家だなーって言ってたわよ。どう思う? ねえどう思う?」
「くっ……」
輝夜が言うと、すぐに妹紅は表情を歪めた。
歯ぎしりをしながら、輝夜を睨みつける。
相変わらず何が起きているのか理解できない魔理沙は、首を傾げる。ふふん、と輝夜は得意げに拳を突き上げた。
「この家はね、私が建ててあげたのよ。余計なものに邪魔されない、隠れた家。どう? ねえ悔しいでしょう? 憎んでる相手の施しに甘んじるなんて屈辱でしょう? 恥ずかしいでしょう?」
「くっ……! 仕方、ないだろう……前の家よりずっと快適で暮らしやすいんだ。ふん、せいぜい利用してやるさ」
「開き直りだなんて、みっともなーい」
「け。お前だってよく私の肉料理を喜んで食べてるじゃないか。敵の施しを受けるのは恥ずかしいんじゃないのか?」
「うっ!? そ、それは……それはー……だって、美味しいんだもん」
「ふん、語るに落ちたな、姫様」
「ふーんだ。偉そうに言える立場じゃないくせに」
「いや……お前らがそういう関係に疑問を持っていないなら、別に私は口をはさむつもりはないが……」
何故だかどっと疲れを感じながら、魔理沙は特に言葉も見つけられず、適当に受け流す。
お茶をもう一度味わって、気を取り直す。
「別に私は、家を見に来たわけじゃないんだ。本題はな――」
「そう! 聞いたわよ、妹紅、きのこの本買ったんですって?」
「!」
このタイミングで、また、輝夜が前に出た。
妹紅は苦々しい顔で、ぐう、と唸る。
「どこから……情報が漏れた?」
「悲しいわね。この期に及んで本に頼るなんて、自らの知識不足を露呈したようなものよ」
「……」
ぷい、と妹紅はそっぽを向いた。
顔が赤くなっているところから見るに、どうも何か恥ずかしいことらしい、と魔理沙は判断する、が、結局のところ、またひとりだけ流れについていけていないことに辟易としているのだった。
「なあ。一体何の話――」
「説明しましょう」
魔理沙の質問の言葉を遮って、輝夜は手を上げた。
「私たちが、争いあっていることは知っているわね?」
「ああ。早くも異議ありしたい気分ではあるが、そこはとりあえず通しておこう」
「最近は、月での伝統的な紛争解決方法を導入することにしたのよ。極力暴力を用いずに、後腐れなく争いを解決する――KTSを」
まるで昔話を語るかのように、澄んでよく通る声で、大げさに語る。
「けーてぃーえす?」
魔理沙のオウム返しに、輝夜はゆっくりと首を縦に振る。
「まず、争いあう当事者が、二つの陣営に分かれる。私たちの場合は陣営と言っても、二人だから、一人ずつになるだけだけどね」
「はあ」
「今回は、私がたけのこ派、妹紅がきのこ派になって」
「え?」
「色々な種目で競いあうの。種目は、その時々で異なるわ。そうね、エクストリーム皮むきや、きのこたけのこ速球コンテストみたいな恒例のものもあるけど、大半はその場限りしか設定されないものになるわ」
「……」
「まあ、常にたけのこ派の優勢が続いていたんだけどね。固定されているわけじゃないんだけど、優秀な人がたけのこ派を選びたがるから。きっとみんな、伝説のたけのこピアニストによる『たけのこできらきら星を演奏してみた』以来、たけのこの魅力に取りつかれてしまったのよ」
「……」
ちょっとそれは見てみたいと思う魔理沙であった。
「そして! 地上にKTSを導入した私は、今回、誰もが思いつかなかった画期的な種目を導入することにしたのよ。おそらく、全宇宙初の試みだと思うわ」
いよいよ絶好調になって、輝夜の声のトーンが上がる。
「そう――きのこ、たけのこ、料理対決を!」
「もう何もかもがわからなくなってきたが、少なくともKTSが何の略かだけはわかった」
どうしても必要だった、頭の整理と切替の時間のあと。
魔理沙は、状況を整理するように言った。
「要するに、料理対決のために月刊きのこが必要だったわけだ」
「……別に、何も知らないわけじゃないからな。参考にしたかっただけだ」
「他では売ってるかどうかもわからないんだ。できれば、それを、譲って欲しい。いや、もちろん、お金は払うから」
魔理沙の要求に、妹紅は渋い顔を見せる。
「まだ今日買ったばかりだ。せめてひと通りしっかり読み終わってからなら、問題ないけど……」
「じゃあ、明日なら大丈夫か?」
「早いな! もうちょっとじっくり味わわせてくれよ。パズルだってそんなすぐには解けないし」
「……!」
今度は、魔理沙の視線が鋭くなる番だった。
「まさか……藤原さん、あれに応募する気か……」
「藤原さんやめれ。もちろん、懸賞があるものは基本的に応募するさ」
「あれは雑誌についてる専用ハガキでの応募だ。それは私が使うからな、諦めてもらおうか」
「断る」
「――っ」
「私が買った本だ。権利は私にあるだろう?」
「くっ……いや、待て。仮に当たったとして、ここにプレゼントが届くとでも思うのか? 無駄なことだと思うが……」
「ふっ。山生活のキャリアを舐めてはいけない。私宛の荷物を、代わりに受け取ってくれる場所があるからな。何も問題はない」
「なんてこった……」
魔理沙は、ぎぎ、と歯ぎしりをして、床を睨みつける。
順調に行くかと思われた展開に、まさかの落とし穴が待ち受けていた。
ほんの少し前まで勝利が見えていたのに、わずか一分間の形勢逆転である。
もちろん、パズル応募を諦めさえすれば、本誌は入手できる可能性が高いわけであるから、完敗というわけではないのだが。
「毎月……応募していたのに」
「悪いね。懸賞となると、私も引くわけにはいかない。こいつはプライドの戦いだ」
「ああ、わかってる。よくわかる」
魔理沙は嘆息する。懸賞の価値とは、商品そのものではない。提出して、待ち、そして最高の場合は届くという、この過程にあるのだ。その粋を奪う権利は、誰にもない。
「わかった。とりあえず、他を探してみるさ。それでも見つからなかったときは、また、来る。だから本誌は残しておいてくれ」
「潔いな。そういうことなら、お安い御用だ」
「妹紅のけちんぼー」
「よしお前は痺れてきてる足の指先突いてやるからそこ動くな」
「むー……」
「大丈夫よ、魔理沙。私も探してあげる。きっとどこかにはあるはずよ」
「……ありがとな、姫様。でも、あんまり出歩くわけにもいかないだろ? とりあえず後はなんとかするよ」
「うーん。街中行くと、永琳は怒るからなあ。確かに」
むむむ、と唸る輝夜に、魔理沙は笑いかける。
「姫はいい奴だなあ」
「え? 惚れちゃった? 家族が増える?」
「いきなり飛躍されても困るが……」
既に暗くなり始めている空を見つめる。どのみち、今日はもうどの店も閉まっているだろう。戦いは明日からだ。
「とりあえず、責任持って姫様を送り届けますか」
「わーい」
魔理沙の戦いは、まだ始まったばかりだ。
諦めない心が、きのこを救うと信じて――
ところがどっこい。
翌朝、号外が飛んできた。烏天狗と一緒に。
「やや、おはようございます、魔理沙さん。早いですね!」
やたらと元気で明るい声で、やってきた。
いつも以上に。
なんなんだ、と思いつつ、号外に目を通す。
『文々。新聞、人間の定期購読者1名増える!』
……
「……おい」
本気で、それだけの記事だった。
「いやいやいや。言いたいことはなんとなくわかりますよ。でも聞いてください、久しぶりの、すごく珍しい、人間の客なんですよ! これは大手新聞社も羨む快挙ですよ! いやーもう時代が私に追いついてきたというかですねーえへへ」
「はあ……さいで」
「まあ、変わり者の人間なのは間違いないみたいですけどね。友達に思い切り自慢してきたら、そこはその子が作ってるマイナー誌を入荷してくれてる本屋さんだって、驚いていました」
「……」
ぴくり。
魔理沙の耳が、動いた。
「誰も入れないような山奥のきのこ専門誌なんて、人間が買って何の得があるんでしょうねー――って、魔理沙さんならそういえば大丈夫なのかも」
「よし。ちょっとお前に頼みたいことがある」
「――はい?」
「いやなに、ちょっと友達を紹介してもらいたいんだが――」
魔理沙はひとり呟いた。
日付を間違えたのだろうか。まずそれを疑う。しかし、自分が、この日を間違えるとも思えなかった。
この書店は、入荷販売ともに予定通り正確であることに定評があり、それ故に魔理沙のお気に入りだった。街にあまり出ない魔理沙にとっては、来た日に確実にあるということはとても重要なことだった。
しかし。見当たらない。
今日は、なかったのだ。
「おっちゃ、おっちゃ、アレ入ってないの?」
店の奥に声をかける。
薄暗い奥のほう、カウンターの向こう側では、初老の男性が、ん、と顔を上げた。魔理沙の顔をちらっと確認する。
「アレっていうと……ああ、今日だから、アレか」
「もちろん、月刊きのこだよ。今日発売だろ?」
「そうだな。確かに入った。で、売れた。もうない」
「……なん……だと……」
さらっと軽く言った店主の言葉に、魔理沙は衝撃を受ける。
聞き間違いかと思うほどだった。
まず、もうこの書店にはないということ。
そして、自分以外に月刊きのこを買う者がいるという事実。
二重の意味で衝撃的だった。
店主の記憶違いなのではないか。そう思って、もう一度雑誌売場を探す。見渡す。いつも置いてある場所を、何度も見つめる。もちろん、急にそこに現れるようなことはなかった。
「……一部しか入荷しないのか?」
「あんた以外に買う人はいなかったからな。昨日までは」
「だよな……って、いや、わかってるなら、私のために残しておいてくれてもよかったのにさ」
「買いたいって人がいるのに、売れませんってわけにもいかんさ。予約されてたわけでもないしな」
「うう……世知辛い世の中だ……」
がくり。
肩を落として、魔理沙は打ちひしがれる。
発売日は、毎月楽しみにしていた。この日が近づくと、そわそわして研究にも身が入らなくなるほどだった。待ちに待った発売日。今日、幸せを手に入れる予定だったのだ。
今月のきのこ料理が。
きのこ狩り小説の続きが。
先月提出したきのこパズルの答えが。
全てが、今日は手に入らない。
いや、今日手に入らないだけで済むとも限らない。この書店以外で扱っているのかどうかすら、わからない。
もっと早く来るべきだった。いや、そもそも、やはり定期購読すべきだったのだ。いつだって確実に入手できると油断していた。同好の士が現れない保障などなかったのだ。
魔理沙は、顔を上げる。
「おっちゃ! 買っていったのは、誰なんだ?」
悔いたあとにすべきことは、次善の策を考えることだった。
他の書店を見てまわるより、可能であれば確実な策がある。捜し物、人探しは割と得意なのだ。
「誰と言われてもな。知らんよ」
あっさりと、店主は答えた。
「じゃ、どんな奴だった? 私以外の誰かがアレを買っていったんだ、印象に残ってるはずだろ?」
「まあな。若い女だ……あんたよりは、確実に年上だと思うが。髪はかなり長かった」
「ふんふん。他に何か気づいたことは?」
「探偵みたいだな。まあ、特徴って言ったら、あんたみたいにワイルドな口調だったな。身内なんじゃないのかい?」
「ふむ……?」
魔理沙は眉をひそめる。
自分自身でも、自分のこの口調が珍しいことは十分に自覚している。そうそうはいないだろう。人探しをするには、かなり有力な手がかりだ。
ちなみに、そんな身内はいない。
……
「……うん?」
「うん?」
魔理沙の呟きに、店主も同じような反応を返した。
「なあ、そいつ、もしかして……そうだな、なんというか、熱くなかったか?」
「熱い? ……米食えとか、そういう事は言われなかったが」
「いや、そうじゃなくて。物理的に、温かくなかったか? 体が」
「それは確実に病気だと思うが……ん? 言われてみれば、確かに、妙に温かいと思ったな」
不思議そうな声で、店主は言った。
よし、と魔理沙は大きく一度頷いた。
「ナイスだ、おっちゃ。完璧に知り合いだ」
「そうか。きのこ仲間が増えてよかったな」
「ああ。そうだ、こいつは礼だ、受け取ってくれ。じゃあな!」
ぽい。
魔理沙は、紙束を手提げ袋から取り出して、カウンターに置いた。というか、投げた。そして、さっと書店を出る。
店主は、あっという間にいなくなってしまった魔理沙を半ば呆然と見送ってから、なんだったんだ、と呟いて、その紙束を手にとった。
文々。新聞と書かれていた。
「……」
店主の、え? という言葉は、静かな店内に消えた。
「藤原さんかー。確かにきのこ好きそうな顔してるしな。いや、私は最初から仲間だと思っていたぜ」
空を飛びながら、さて、と魔理沙は考える。犯人の正体は意外なほど簡単に特定できてしまったが、この先が問題だ。まず、魔理沙は彼女の家を知らない。
とはいえ、さほど大きな問題ではないと考えていた。利用すべきは、人脈である。
「ま、姫様のところだな、とりあえず」
「というわけで、姫。藤原さんの家まで案内してくれ」
「あらあら」
急に訪れた魔理沙の、これまた急な言葉にも、輝夜は動じなかった。ちなみに、「というわけで」の前に一切説明はない。
客間でお茶を飲みながら話す。こうして簡単に輝夜と一対一で普通に話ができることが、極めて限定された者のみに認められた特権であることを、魔理沙は自覚していなかった。
「魔理沙もついに、あいつに喧嘩売りに行くことにしたの? 嬉しいわ」
「……いや、できれば喧嘩にならずにすむ方向性でいきたいと思っているが。まずは交渉だな」
「ふむ。話を聞かせてもらってもいいかしら?」
「そうだな――」
魔理沙は、月刊きのこが必要であること、それが売り切れであったこと、そして買ったのが妹紅である可能性が高いこと、を、簡単に説明した。
簡単に、のつもりが随分と感情がこもってしまったわけだが。
話を聞きながら、輝夜の目が輝く。
「へえ? あいつ――ふふ。そういうことなの。なかなか本気じゃない」
不敵に微笑みながら、輝夜はすっと立ち上がった。
お、と魔理沙は声を上げる。
「行きましょう。すぐに。案内するわ」
「おお。助かる。ありがとうな」
「ふふ――」
輝夜が呼ぶと、永琳はすぐに現れた。今からあいつを殴りに行ってくる、と一言伝えると、永琳は夕食までには帰ってきてくださいね、と答えた。
輝夜の足取り、というか飛行だが、は、魔理沙に比べると相当に遅かった。擬音を付けるなら、ふわふわ、がもっとも相応しい。飛行というよりひらがなで「とんでいる」と表現するほうが、より実態に合っている。
「遅くてごめんね」
輝夜は、あまり申し訳なさそうな感じでもなく、言った。
「いや、そこまで急ぐわけでもないからな。それに、ゆっくり進むのも慣れてる」
隣を飛びながら、霊夢みたいだな、と魔理沙は思う。こののんびり具合も、普段はなかなか動かないのにいざ行動となると早いのも、戦いになると別人のような動きを見せるのも、よく似ていた。
永遠を生きているとこういう性格が醸成されるのだろうかと一瞬思うものの、だったら霊夢はなんなのか、という気になる。
「魔理沙の箒に乗せてもらったら、きっと速いと思うんだけど。びゅーんって」
「……無理はしないほうがいい、姫様」
「そんなこと言われたら、挑戦してみたくなっちゃう」
「薬屋には恨まれたくないんだ。勘弁してくれ……」
「あら」
輝夜は優しく微笑む。子供っぽくも大人っぽくも見える、不思議な笑みだ。
「永琳は加減を知らないようで、ちゃんと限度は弁えているのよ。今のところ、私が知っている限りでは、意図してそうしたとき以外は、不要に誰かを定義上死なせたことはないわよ」
「まったく1ミリたりとも安心出来る言葉じゃなかったような気がするのは、気のせいか?」
軽く寒気を感じて、魔理沙は腕を押さえる。
輝夜は、くすくすと笑って、魔理沙の箒の先端を突いた。
「冗談、冗談。月流の冗談よ。いわゆるムーンジョーク」
「いわゆらないだろ……」
微妙にテンポの合わない会話を続けつつ、ゆっくりと二人は山に向かっていった。
山の奥のほうまで来た。
普通に考えれば、まともな人間が住んでいる環境ではない。が、それについては魔理沙も同類なので、その点について特に言うことがあるわけでもなかった。
「って言っても、家が近くにあるならそろそろ見えてもよさそうなもんだけどな。全然そんな感じがしない」
「もう、すぐそこよ」
「うーん」
首をひねっている魔理沙がそのまままっすぐ進むと。
目の前に、急に家が現れた。
「うわっ!?」
「とうちゃーく」
「なんだ、どうなってるんだ……?」
「ふっふーん。凄いでしょう。常人では近づくこともできないわよ」
何故か偉そうに輝夜は言った。
何がどうなっているのかわからない魔理沙は、とりあえずブレーキをかけて、その場に降り立った。もう、明らかに家の敷地内だった。
「……また、立派な家だな。なんでこんなものが隠れてたんだ」
豪邸というわけではないが、しっかりした建物である。少なくとも、魔理沙の家よりも広い。山奥にこのようなものがあることに、違和感を禁じ得ない。
「もっと、小屋みたいなところに住んでるイメージがあったのに」
「――ふふっ」
魔理沙の呟きに対して、輝夜は手で口元を隠しながら、笑いをこらえきれないといった様子だった。
とにかく色々とわけがわからない魔理沙は、まあそんなことはどうでもいいか、と気にしないことにして、玄関に向かう。
ドアを叩こうと拳を振り上げたところで――
がちゃ、と向こうから、ドアが開いた。
「……なんだ。誰かと思えば珍しい客だな」
「お、いたか」
家の中から、当の妹紅が現れていた。まず魔理沙を無表情で見て、その後方に輝夜の姿を見つけて、表情を険しくした。
「何の用だ?」
「確認したいことがあってな。今日――」
「わかった。話があるわけだな。上がっててくれ。部屋は、後ろのそいつに聞けばわかる」
「ん? そうか、じゃあ、まあお邪魔するぜ」
「あ、藤原さん、私、玉露がいいなー」
「藤原さん言うなっ!」
後ろからの輝夜の声に、声を荒らげて妹紅が突っ込む。
「私は緑茶なら何でも大丈夫だぜ。えー……藤原さん」
「お前らな」
「なんだっけかなー。覚えられないんだなー。モで始まってウで終わる赤っぽい名前、ってところまで覚えたんだが」
「だからなんでわざわざ毛沢東を連想するような覚え方するんだ!? あと一文字くらい頑張ってくれよ!」
「モールス信号さん!」
「輝夜お前は後で殴る」
畳の上に座り、温かい玉露を味わう。
ほんのり甘く、上品な味だった。やっぱりお茶はいいなあ、と魔理沙は呟く。
「ねえねえ藤原さん」
「なんですか蓬莱山さん」
「あらやだ。他人行儀ね。いつもみたいに輝夜様って呼びなさいよ」
「死ね」
「死なないし」
「知ってる」
……やっぱりお茶はおいしいなあ、とため息をつきながら魔理沙は呟く。
「で、ね、魔理沙がね、立派な家だなーって言ってたわよ。どう思う? ねえどう思う?」
「くっ……」
輝夜が言うと、すぐに妹紅は表情を歪めた。
歯ぎしりをしながら、輝夜を睨みつける。
相変わらず何が起きているのか理解できない魔理沙は、首を傾げる。ふふん、と輝夜は得意げに拳を突き上げた。
「この家はね、私が建ててあげたのよ。余計なものに邪魔されない、隠れた家。どう? ねえ悔しいでしょう? 憎んでる相手の施しに甘んじるなんて屈辱でしょう? 恥ずかしいでしょう?」
「くっ……! 仕方、ないだろう……前の家よりずっと快適で暮らしやすいんだ。ふん、せいぜい利用してやるさ」
「開き直りだなんて、みっともなーい」
「け。お前だってよく私の肉料理を喜んで食べてるじゃないか。敵の施しを受けるのは恥ずかしいんじゃないのか?」
「うっ!? そ、それは……それはー……だって、美味しいんだもん」
「ふん、語るに落ちたな、姫様」
「ふーんだ。偉そうに言える立場じゃないくせに」
「いや……お前らがそういう関係に疑問を持っていないなら、別に私は口をはさむつもりはないが……」
何故だかどっと疲れを感じながら、魔理沙は特に言葉も見つけられず、適当に受け流す。
お茶をもう一度味わって、気を取り直す。
「別に私は、家を見に来たわけじゃないんだ。本題はな――」
「そう! 聞いたわよ、妹紅、きのこの本買ったんですって?」
「!」
このタイミングで、また、輝夜が前に出た。
妹紅は苦々しい顔で、ぐう、と唸る。
「どこから……情報が漏れた?」
「悲しいわね。この期に及んで本に頼るなんて、自らの知識不足を露呈したようなものよ」
「……」
ぷい、と妹紅はそっぽを向いた。
顔が赤くなっているところから見るに、どうも何か恥ずかしいことらしい、と魔理沙は判断する、が、結局のところ、またひとりだけ流れについていけていないことに辟易としているのだった。
「なあ。一体何の話――」
「説明しましょう」
魔理沙の質問の言葉を遮って、輝夜は手を上げた。
「私たちが、争いあっていることは知っているわね?」
「ああ。早くも異議ありしたい気分ではあるが、そこはとりあえず通しておこう」
「最近は、月での伝統的な紛争解決方法を導入することにしたのよ。極力暴力を用いずに、後腐れなく争いを解決する――KTSを」
まるで昔話を語るかのように、澄んでよく通る声で、大げさに語る。
「けーてぃーえす?」
魔理沙のオウム返しに、輝夜はゆっくりと首を縦に振る。
「まず、争いあう当事者が、二つの陣営に分かれる。私たちの場合は陣営と言っても、二人だから、一人ずつになるだけだけどね」
「はあ」
「今回は、私がたけのこ派、妹紅がきのこ派になって」
「え?」
「色々な種目で競いあうの。種目は、その時々で異なるわ。そうね、エクストリーム皮むきや、きのこたけのこ速球コンテストみたいな恒例のものもあるけど、大半はその場限りしか設定されないものになるわ」
「……」
「まあ、常にたけのこ派の優勢が続いていたんだけどね。固定されているわけじゃないんだけど、優秀な人がたけのこ派を選びたがるから。きっとみんな、伝説のたけのこピアニストによる『たけのこできらきら星を演奏してみた』以来、たけのこの魅力に取りつかれてしまったのよ」
「……」
ちょっとそれは見てみたいと思う魔理沙であった。
「そして! 地上にKTSを導入した私は、今回、誰もが思いつかなかった画期的な種目を導入することにしたのよ。おそらく、全宇宙初の試みだと思うわ」
いよいよ絶好調になって、輝夜の声のトーンが上がる。
「そう――きのこ、たけのこ、料理対決を!」
「もう何もかもがわからなくなってきたが、少なくともKTSが何の略かだけはわかった」
どうしても必要だった、頭の整理と切替の時間のあと。
魔理沙は、状況を整理するように言った。
「要するに、料理対決のために月刊きのこが必要だったわけだ」
「……別に、何も知らないわけじゃないからな。参考にしたかっただけだ」
「他では売ってるかどうかもわからないんだ。できれば、それを、譲って欲しい。いや、もちろん、お金は払うから」
魔理沙の要求に、妹紅は渋い顔を見せる。
「まだ今日買ったばかりだ。せめてひと通りしっかり読み終わってからなら、問題ないけど……」
「じゃあ、明日なら大丈夫か?」
「早いな! もうちょっとじっくり味わわせてくれよ。パズルだってそんなすぐには解けないし」
「……!」
今度は、魔理沙の視線が鋭くなる番だった。
「まさか……藤原さん、あれに応募する気か……」
「藤原さんやめれ。もちろん、懸賞があるものは基本的に応募するさ」
「あれは雑誌についてる専用ハガキでの応募だ。それは私が使うからな、諦めてもらおうか」
「断る」
「――っ」
「私が買った本だ。権利は私にあるだろう?」
「くっ……いや、待て。仮に当たったとして、ここにプレゼントが届くとでも思うのか? 無駄なことだと思うが……」
「ふっ。山生活のキャリアを舐めてはいけない。私宛の荷物を、代わりに受け取ってくれる場所があるからな。何も問題はない」
「なんてこった……」
魔理沙は、ぎぎ、と歯ぎしりをして、床を睨みつける。
順調に行くかと思われた展開に、まさかの落とし穴が待ち受けていた。
ほんの少し前まで勝利が見えていたのに、わずか一分間の形勢逆転である。
もちろん、パズル応募を諦めさえすれば、本誌は入手できる可能性が高いわけであるから、完敗というわけではないのだが。
「毎月……応募していたのに」
「悪いね。懸賞となると、私も引くわけにはいかない。こいつはプライドの戦いだ」
「ああ、わかってる。よくわかる」
魔理沙は嘆息する。懸賞の価値とは、商品そのものではない。提出して、待ち、そして最高の場合は届くという、この過程にあるのだ。その粋を奪う権利は、誰にもない。
「わかった。とりあえず、他を探してみるさ。それでも見つからなかったときは、また、来る。だから本誌は残しておいてくれ」
「潔いな。そういうことなら、お安い御用だ」
「妹紅のけちんぼー」
「よしお前は痺れてきてる足の指先突いてやるからそこ動くな」
「むー……」
「大丈夫よ、魔理沙。私も探してあげる。きっとどこかにはあるはずよ」
「……ありがとな、姫様。でも、あんまり出歩くわけにもいかないだろ? とりあえず後はなんとかするよ」
「うーん。街中行くと、永琳は怒るからなあ。確かに」
むむむ、と唸る輝夜に、魔理沙は笑いかける。
「姫はいい奴だなあ」
「え? 惚れちゃった? 家族が増える?」
「いきなり飛躍されても困るが……」
既に暗くなり始めている空を見つめる。どのみち、今日はもうどの店も閉まっているだろう。戦いは明日からだ。
「とりあえず、責任持って姫様を送り届けますか」
「わーい」
魔理沙の戦いは、まだ始まったばかりだ。
諦めない心が、きのこを救うと信じて――
ところがどっこい。
翌朝、号外が飛んできた。烏天狗と一緒に。
「やや、おはようございます、魔理沙さん。早いですね!」
やたらと元気で明るい声で、やってきた。
いつも以上に。
なんなんだ、と思いつつ、号外に目を通す。
『文々。新聞、人間の定期購読者1名増える!』
……
「……おい」
本気で、それだけの記事だった。
「いやいやいや。言いたいことはなんとなくわかりますよ。でも聞いてください、久しぶりの、すごく珍しい、人間の客なんですよ! これは大手新聞社も羨む快挙ですよ! いやーもう時代が私に追いついてきたというかですねーえへへ」
「はあ……さいで」
「まあ、変わり者の人間なのは間違いないみたいですけどね。友達に思い切り自慢してきたら、そこはその子が作ってるマイナー誌を入荷してくれてる本屋さんだって、驚いていました」
「……」
ぴくり。
魔理沙の耳が、動いた。
「誰も入れないような山奥のきのこ専門誌なんて、人間が買って何の得があるんでしょうねー――って、魔理沙さんならそういえば大丈夫なのかも」
「よし。ちょっとお前に頼みたいことがある」
「――はい?」
「いやなに、ちょっと友達を紹介してもらいたいんだが――」
いつもどおりのクオリティの高さで安心安全。
>モで始まってウで終わる赤っぽい名前
この様式美っ…!
「モールス信号さん!」って思いつかなかった。
>なんですか蓬莱山さん
「ほうらいさんさん」って言い辛そうとふと思ったり。
>エクストリーム皮むき
エクストリームつけると何もかも面白くなる不思議。
えr本探しとか。
修造ww
面白かったです
藤原さんはいい感じ
さすが村人。さんだね
だが待って欲しい。エクストリーム皮むきは茸に圧倒的不利ではなかろうか。これは姫様の罠だったんだよ!
ていうかそれ、懸賞成り立たないと思うんだけど、他の雑誌とも協賛なんだろうか。
蓬莱コンビの会話がウケるwww