※注意※
この作品は拙作『霖「…と言う夢を見たのSA☆」』の設定を使っております。
それらを先に読むと若干分かりやすくなるかなもし。
さらにこん作品はあしの願望や妄想がふくまれちょります。
それらが好かん御方は速やかにブラウザバックをお願いします。
注意はしたぞな、中傷なんかはやめておくんなもし。
「…おとーさーん、起きてー」
「朱鷺子が退いてくれないと起きれないよ」
僕は朱鷺子を退かして布団から上半身を起こす。
春になったばかりの陽気の良い朝、布団から抜け出すには惜しい、が。
「おとーさんお腹減ったー」
朱鷺子からの再三の要求に耐えかね愛しき寝床から抜け出すことにした。
「分かった分かった、それより母さんは?」
顔を洗いながら娘の要求を聞き、まだ顔を見ていない妻の事を尋ねる。
寺子屋の長期休暇の為我が家にいるはずなんだが。
「寝てる」
「そうか、昨日は満月だったか」
濡れた顔を拭き、眼鏡をかけ妻が寝ているであろう部屋へ行った。
襖を開けると持ち帰って来たのだろう書類やらが薄暗い部屋の中で散乱していた。
「…慧音、起きてるか?」
「あぁ……起きてるよ…」
「朝ごはん食べるかい?」
「すまん…朱鷺子と先に食べていてくれ」
「分かった、おやすみ」
月に一度、満月になると慧音はふらりと出掛け歴史編纂をして、帰ってくる。
別段怒る心算も無いし、それを見越したうえで僕は結婚を申し込んだんだ。
「でだ、朱鷺子、何食べたい」
「んー、何でもいい」
「そう来たかぁ、じゃあアミメニシキヘビの蒲焼とロシアニセマンゴーをふんだんに使ったフルーツカクテルで良いかな?」
「出来ればまともな食材使ってくださいお父様」
「うむ宜しい」
速攻で古流土下座を決め込む朱鷺子に頷きながら食糧庫を覗く。
コンビーフ一缶に卵、そして釜には冷ご飯。
「(…我ながらこんなに欠乏していたとは、今日は買いだしか)」
「お父さん、私何時までこれやってればいいのー」
朱鷺子がいつの間にか霧雨流土下座へと移行していた。何時の間に体得したのかあの子は。
「もう良いよ、今から作るからテーブルを片づけてくれないか」
「うーい」
と言う訳で缶を開けフライパンに油を引く。
…油も買い足しておくか。
十分に熱された所で缶から出したコンビーフをフライパンに開け炒める。
余り丁寧にほぐさないように、後で米が入るため全体に回す牛脂を残しておかなければ。
そして冷ご飯を投入、一気に炒める。
コンビーフが全体に回って来た頃、卵を割り入れ混ぜる。
ここで火を弱めたらいけない、パラッと行かないからな。
そして米同士がまとわりつかなくなった頃、醤油を入れて炒め、完成。
後はお好みで刻んだネギやらごまを振りかけても良いと思う。
「さぁ出来たよ」
「わーい」
出来たての炒飯をフライパンから直接取り分け、食べる。
「美味しい?」
「うん!」
最も、慧音が起きているなら普通のお味噌汁と白米の朝食なんだけど。
あらかた食べ終えた所で慧音が部屋から這い出て来た。
「おはよー、お母さん」
「おはよう、慧音」
「うぅ、おはよ」
目の下のクマが昨日の作業の苛烈さを物語っている。
大変だよなぁ、一か月分を一晩で仕上げるんだから。
「昨日は大変だったのかい?」
言いながら白湯を渡す。
「まぁ、何時もの事だよ」
「そうか、今日はゆっくり休んでくれ」
「ありがとう」
慧音は空になった湯飲みを置き、もう一度自分の寝室へと戻って行った。
「…さて、片付けは終わったし洗濯物も干した、どうするか」
と言っても先程の食料この惨状を鑑みれば自ずとやる事は決まってくる。
「朱鷺子、これから里に買い出しに行くから着いてきてくれないか」
「良いよ、で、何処行くの?」
「里だ、そこしかないからな」
「分かった、ちょっと支度してくるから待ってて」
そう言って奥に引っ込んだ朱鷺子を待つ事数分
「お待たせ!」
「じゃ行こうか」
寝巻から普段の服へ着替えた朱鷺子と共に自宅を出た。
里の入り口に着くと、僕は馴染みの番兵に挨拶を済まし中へと足を踏み入れる。
「はぐれない様にね、朱鷺子」
「分かってる」
まずは何処へ行くか、成る丈日持ちの良い食材を買い込めれば。
「あ!お父さん、あれあれ」
「ん?」
朱鷺子が指さす先は本屋、里に来るといつもこうだ。
本を読む事が好きなのは良いんだが。
「駄目だよ、寄るのは全て終えてから」
「は~い」
さて、米が無かったから買って、味噌、野菜、後は…
「本!」
「駄目!」
「ケチ!」
食料品は大方終えた、どうするか。
「…霖之助君?霖之助君ですか?」
考えつつ歩いていると、後ろから声が掛けられた。
反応し振り向くとそこには懐かしい顔が。
「親父さん!」
僕の里時代の恩人、霧雨さんである。
「やっぱりだ。朱鷺子ちゃんも久しぶり」
「お久しぶりです」
「今日は買いものですか、それと慧音先生は」
「仕事を終えて家でダウンしています、親父さんはこれから何処へ」
そう聞くと、親父さんは顔を綻ばせ嬉々と語る。
どうやら商談が上手く行った帰りのようだ。
「だから僕の懐はまさに春満開ですよ」
お茶くらいなら御馳走できますよ、と親父さんは笑う。
「じゃあお言葉に甘えさせてもらいましょう、な?朱鷺子」
「うん」
「はは、じゃあ行きましょうか」
茶屋で団子を一串食べ終えた頃、親父さんは静かに口を開いた。
「いやぁ、すっかり桜も満開ですねぇ」
親父さんは湯飲みを手で転がしながら呟く。
薄桃色の花弁が春の少しばかり強い風に浚われてゆくのが茶屋の窓から見えた。
「そう言えば朱鷺子ちゃん」
「ふぁい?」
団子を頬張りながら答える娘。口にものいれながら喋らないと教えたはずなのに。
しかし親父さんは構いもせず腰に下げていた鞄から分厚い何かを取り出し朱鷺子に差しだす。
「以前から読みたいと言っていた本、やっと手に入れられましたよ」
「まさか、ひょっとして…」
朱鷺子は顔を輝かせ親父さんが差し出していた包みを優しく受け取り、中身を見た瞬間、喜声を上げた。
「やっぱりバンドオブブラザーズだ!ありがとう霧雨さん!」
「親父さん、これ外界の書物じゃないですか、どうやって?」
「いやぁ、紅魔館の図書館にあったのを譲ってもらったんです」
成る程、あそこなら外界の本は大量にある、しかし
「どうやって譲ってもらったんですか?大図書館の主は相当な本好きなはずですが」
「いえ、気持ち良く譲ってくれました、何でもこういう種類の本は別段無くても困りはしないとか言っていましたし」
「ははは…」
僕としてはこういう本が好きなんだが、やはり趣向は違うものか。
そして朱鷺子はと言うと既に目を輝かせながら本を読んでいる。
「さて霖之助君、僕はもう行きますよ」
「お団子御馳走様でした」
「本ありがとうございます!」
席から立ち上がり僕らの分まで代金を払うと親父さんは自分の店へと帰って行った。
「…じゃあ朱鷺子、母さんが待ってるから帰ろうか」
「うん」
朱鷺子が本に栞を挟んだのを確認して、店の人に礼を言ってから僕らは店外へ出る。
春の強い風に体を押されながら、家路に就くことにした。
家に帰りついた頃、もう既に夕方に差し掛かっていた。
どうやら慧音は僕らが帰ってくるまで眠っていたようだ。まぁ無理もないだろうけど。
「…と言う事は霧雨の店主に奢ってもらったと言う事か」
先程の茶屋での出来事を慧音に話した反応がこれだった。
「それで朱鷺子は本を貰ってね」
先程から本を読みふける朱鷺子を見やりながら付け加える。
「そうか、里に戻ったら礼を言っておかなければ」
「寺子屋の長期休暇もそろそろ終わりか」
「あぁ、明日に出る」
少し寂しくなるな、と慧音は呟いた。
表情に影を落としそうになる慧音に僕は提案する。
「まぁ、会いたければ何時でも会えるし、昔みたいに物騒なわけでもないから」
「そうだな」
「朝から何も食べていないだろう、お粥でも作ろうか?」
「あぁ頼む」
慧音の顔が若干和らいだ事を見届け、僕はお粥を作るため台所へ足を運んだ。
夕食時、僕らは春休み最後の家族団欒をとっていた。
「…所で朱鷺子、あの本は何処まで読み進めた?」
「うん、主人公たちが横暴な上官に対して反乱を起こすか起こさないかで揉めてる、それでねそれでね…」
「朱鷺子、ご飯中は騒がない、それからほっぺにご飯がついてるぞ」
本の内容に熱が入った朱鷺子に慧音は頬にも米粒が付いている事を指摘する。
「ん?どこ」
「ほら、右のほっぺだ」
「ん~?」
「間違えた、左だった」
「あ、あった」
夕食を終え、片付けをしていると、慧音は食器を運びながら僕に話しかける。
「なぁ霖之助、今日夜桜を見に行かないか」
「夜桜?まぁ、別に良いけど。朱鷺子、夜桜見に行くかい?」
「良いよ別に、お母さんたちで行って来てー」
今からの声には若干どうでもいいよ的な感じが入っていたな。まぁ本に夢中なんだろう。
「ふふ、本を前にすると何も見えなくなる、お前に良く似ているな」
「否定は出来ないね」
食器をすべて洗い終え、僕らは外に出る準備をしていた。
春とはいえまだ夜は寒いだろう、薄手の外套で十分だが。
「…じゃあ朱鷺子、なるべくすぐ帰ってくるから」
「分かったわ、お母さん」
「火の元には気をつけるんだよ」
「分かってるよ、お父さん」
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃーい」
手を振る朱鷺子に別れを告げ、僕らは外へ出る。
夜の冷たい風が体を吹き抜けた。
「…やはり少し寒いね」
「歩いていれば大丈夫だ、行こう霖之助」
「あぁ」
春の夜空は暗く、そして星々が煌々と輝く。
昼とは対照的に、風が静かに吹くだけで何の音もしない。
歩く事一時間ほどで、僕らは月明かりに照らされた桜の木の下に辿り着いた。
「やはりここの桜は綺麗だ、なぁ霖之助」
「慧音、ここって…」
「あぁ、私がここでお前の申し込みを受け入れた桜の木の下だ」
そう、その昔僕が慧音に結婚の申し込みをしたところだった。
枯れる事無くまた花を咲かせた桜に、僕は思い出す。
あの一言に、どれだけの勇気を使ったのだろうか。
「懐かしいなぁ」
「あぁ、懐かしいよ」
だがあの言葉にウソもないし後悔もしていない、覚り妖怪はおろか閻魔にすら胸を張って言える。
僕は静かに慧音の肩に手を回し、抱き寄せた。
「どうした、霖之助」
「しばらくこうさせて欲しい、駄目かな」
「そんなわけ無いだろう」
そして慧音も僕の肩に頭を預ける。
僕は静かに、風にまぎれるように呟いた。
「僕は幸せ者だ」
僕は、上白沢慧音と言う女性を愛し、彼女との間に創り上げた家族を、愛し、守って行こう。
春の夜の、誰にも告げない誓いだ。
この作品は拙作『霖「…と言う夢を見たのSA☆」』の設定を使っております。
それらを先に読むと若干分かりやすくなるかなもし。
さらにこん作品はあしの願望や妄想がふくまれちょります。
それらが好かん御方は速やかにブラウザバックをお願いします。
注意はしたぞな、中傷なんかはやめておくんなもし。
「…おとーさーん、起きてー」
「朱鷺子が退いてくれないと起きれないよ」
僕は朱鷺子を退かして布団から上半身を起こす。
春になったばかりの陽気の良い朝、布団から抜け出すには惜しい、が。
「おとーさんお腹減ったー」
朱鷺子からの再三の要求に耐えかね愛しき寝床から抜け出すことにした。
「分かった分かった、それより母さんは?」
顔を洗いながら娘の要求を聞き、まだ顔を見ていない妻の事を尋ねる。
寺子屋の長期休暇の為我が家にいるはずなんだが。
「寝てる」
「そうか、昨日は満月だったか」
濡れた顔を拭き、眼鏡をかけ妻が寝ているであろう部屋へ行った。
襖を開けると持ち帰って来たのだろう書類やらが薄暗い部屋の中で散乱していた。
「…慧音、起きてるか?」
「あぁ……起きてるよ…」
「朝ごはん食べるかい?」
「すまん…朱鷺子と先に食べていてくれ」
「分かった、おやすみ」
月に一度、満月になると慧音はふらりと出掛け歴史編纂をして、帰ってくる。
別段怒る心算も無いし、それを見越したうえで僕は結婚を申し込んだんだ。
「でだ、朱鷺子、何食べたい」
「んー、何でもいい」
「そう来たかぁ、じゃあアミメニシキヘビの蒲焼とロシアニセマンゴーをふんだんに使ったフルーツカクテルで良いかな?」
「出来ればまともな食材使ってくださいお父様」
「うむ宜しい」
速攻で古流土下座を決め込む朱鷺子に頷きながら食糧庫を覗く。
コンビーフ一缶に卵、そして釜には冷ご飯。
「(…我ながらこんなに欠乏していたとは、今日は買いだしか)」
「お父さん、私何時までこれやってればいいのー」
朱鷺子がいつの間にか霧雨流土下座へと移行していた。何時の間に体得したのかあの子は。
「もう良いよ、今から作るからテーブルを片づけてくれないか」
「うーい」
と言う訳で缶を開けフライパンに油を引く。
…油も買い足しておくか。
十分に熱された所で缶から出したコンビーフをフライパンに開け炒める。
余り丁寧にほぐさないように、後で米が入るため全体に回す牛脂を残しておかなければ。
そして冷ご飯を投入、一気に炒める。
コンビーフが全体に回って来た頃、卵を割り入れ混ぜる。
ここで火を弱めたらいけない、パラッと行かないからな。
そして米同士がまとわりつかなくなった頃、醤油を入れて炒め、完成。
後はお好みで刻んだネギやらごまを振りかけても良いと思う。
「さぁ出来たよ」
「わーい」
出来たての炒飯をフライパンから直接取り分け、食べる。
「美味しい?」
「うん!」
最も、慧音が起きているなら普通のお味噌汁と白米の朝食なんだけど。
あらかた食べ終えた所で慧音が部屋から這い出て来た。
「おはよー、お母さん」
「おはよう、慧音」
「うぅ、おはよ」
目の下のクマが昨日の作業の苛烈さを物語っている。
大変だよなぁ、一か月分を一晩で仕上げるんだから。
「昨日は大変だったのかい?」
言いながら白湯を渡す。
「まぁ、何時もの事だよ」
「そうか、今日はゆっくり休んでくれ」
「ありがとう」
慧音は空になった湯飲みを置き、もう一度自分の寝室へと戻って行った。
「…さて、片付けは終わったし洗濯物も干した、どうするか」
と言っても先程の食料この惨状を鑑みれば自ずとやる事は決まってくる。
「朱鷺子、これから里に買い出しに行くから着いてきてくれないか」
「良いよ、で、何処行くの?」
「里だ、そこしかないからな」
「分かった、ちょっと支度してくるから待ってて」
そう言って奥に引っ込んだ朱鷺子を待つ事数分
「お待たせ!」
「じゃ行こうか」
寝巻から普段の服へ着替えた朱鷺子と共に自宅を出た。
里の入り口に着くと、僕は馴染みの番兵に挨拶を済まし中へと足を踏み入れる。
「はぐれない様にね、朱鷺子」
「分かってる」
まずは何処へ行くか、成る丈日持ちの良い食材を買い込めれば。
「あ!お父さん、あれあれ」
「ん?」
朱鷺子が指さす先は本屋、里に来るといつもこうだ。
本を読む事が好きなのは良いんだが。
「駄目だよ、寄るのは全て終えてから」
「は~い」
さて、米が無かったから買って、味噌、野菜、後は…
「本!」
「駄目!」
「ケチ!」
食料品は大方終えた、どうするか。
「…霖之助君?霖之助君ですか?」
考えつつ歩いていると、後ろから声が掛けられた。
反応し振り向くとそこには懐かしい顔が。
「親父さん!」
僕の里時代の恩人、霧雨さんである。
「やっぱりだ。朱鷺子ちゃんも久しぶり」
「お久しぶりです」
「今日は買いものですか、それと慧音先生は」
「仕事を終えて家でダウンしています、親父さんはこれから何処へ」
そう聞くと、親父さんは顔を綻ばせ嬉々と語る。
どうやら商談が上手く行った帰りのようだ。
「だから僕の懐はまさに春満開ですよ」
お茶くらいなら御馳走できますよ、と親父さんは笑う。
「じゃあお言葉に甘えさせてもらいましょう、な?朱鷺子」
「うん」
「はは、じゃあ行きましょうか」
茶屋で団子を一串食べ終えた頃、親父さんは静かに口を開いた。
「いやぁ、すっかり桜も満開ですねぇ」
親父さんは湯飲みを手で転がしながら呟く。
薄桃色の花弁が春の少しばかり強い風に浚われてゆくのが茶屋の窓から見えた。
「そう言えば朱鷺子ちゃん」
「ふぁい?」
団子を頬張りながら答える娘。口にものいれながら喋らないと教えたはずなのに。
しかし親父さんは構いもせず腰に下げていた鞄から分厚い何かを取り出し朱鷺子に差しだす。
「以前から読みたいと言っていた本、やっと手に入れられましたよ」
「まさか、ひょっとして…」
朱鷺子は顔を輝かせ親父さんが差し出していた包みを優しく受け取り、中身を見た瞬間、喜声を上げた。
「やっぱりバンドオブブラザーズだ!ありがとう霧雨さん!」
「親父さん、これ外界の書物じゃないですか、どうやって?」
「いやぁ、紅魔館の図書館にあったのを譲ってもらったんです」
成る程、あそこなら外界の本は大量にある、しかし
「どうやって譲ってもらったんですか?大図書館の主は相当な本好きなはずですが」
「いえ、気持ち良く譲ってくれました、何でもこういう種類の本は別段無くても困りはしないとか言っていましたし」
「ははは…」
僕としてはこういう本が好きなんだが、やはり趣向は違うものか。
そして朱鷺子はと言うと既に目を輝かせながら本を読んでいる。
「さて霖之助君、僕はもう行きますよ」
「お団子御馳走様でした」
「本ありがとうございます!」
席から立ち上がり僕らの分まで代金を払うと親父さんは自分の店へと帰って行った。
「…じゃあ朱鷺子、母さんが待ってるから帰ろうか」
「うん」
朱鷺子が本に栞を挟んだのを確認して、店の人に礼を言ってから僕らは店外へ出る。
春の強い風に体を押されながら、家路に就くことにした。
家に帰りついた頃、もう既に夕方に差し掛かっていた。
どうやら慧音は僕らが帰ってくるまで眠っていたようだ。まぁ無理もないだろうけど。
「…と言う事は霧雨の店主に奢ってもらったと言う事か」
先程の茶屋での出来事を慧音に話した反応がこれだった。
「それで朱鷺子は本を貰ってね」
先程から本を読みふける朱鷺子を見やりながら付け加える。
「そうか、里に戻ったら礼を言っておかなければ」
「寺子屋の長期休暇もそろそろ終わりか」
「あぁ、明日に出る」
少し寂しくなるな、と慧音は呟いた。
表情に影を落としそうになる慧音に僕は提案する。
「まぁ、会いたければ何時でも会えるし、昔みたいに物騒なわけでもないから」
「そうだな」
「朝から何も食べていないだろう、お粥でも作ろうか?」
「あぁ頼む」
慧音の顔が若干和らいだ事を見届け、僕はお粥を作るため台所へ足を運んだ。
夕食時、僕らは春休み最後の家族団欒をとっていた。
「…所で朱鷺子、あの本は何処まで読み進めた?」
「うん、主人公たちが横暴な上官に対して反乱を起こすか起こさないかで揉めてる、それでねそれでね…」
「朱鷺子、ご飯中は騒がない、それからほっぺにご飯がついてるぞ」
本の内容に熱が入った朱鷺子に慧音は頬にも米粒が付いている事を指摘する。
「ん?どこ」
「ほら、右のほっぺだ」
「ん~?」
「間違えた、左だった」
「あ、あった」
夕食を終え、片付けをしていると、慧音は食器を運びながら僕に話しかける。
「なぁ霖之助、今日夜桜を見に行かないか」
「夜桜?まぁ、別に良いけど。朱鷺子、夜桜見に行くかい?」
「良いよ別に、お母さんたちで行って来てー」
今からの声には若干どうでもいいよ的な感じが入っていたな。まぁ本に夢中なんだろう。
「ふふ、本を前にすると何も見えなくなる、お前に良く似ているな」
「否定は出来ないね」
食器をすべて洗い終え、僕らは外に出る準備をしていた。
春とはいえまだ夜は寒いだろう、薄手の外套で十分だが。
「…じゃあ朱鷺子、なるべくすぐ帰ってくるから」
「分かったわ、お母さん」
「火の元には気をつけるんだよ」
「分かってるよ、お父さん」
「じゃあ行ってくる」
「いってらっしゃーい」
手を振る朱鷺子に別れを告げ、僕らは外へ出る。
夜の冷たい風が体を吹き抜けた。
「…やはり少し寒いね」
「歩いていれば大丈夫だ、行こう霖之助」
「あぁ」
春の夜空は暗く、そして星々が煌々と輝く。
昼とは対照的に、風が静かに吹くだけで何の音もしない。
歩く事一時間ほどで、僕らは月明かりに照らされた桜の木の下に辿り着いた。
「やはりここの桜は綺麗だ、なぁ霖之助」
「慧音、ここって…」
「あぁ、私がここでお前の申し込みを受け入れた桜の木の下だ」
そう、その昔僕が慧音に結婚の申し込みをしたところだった。
枯れる事無くまた花を咲かせた桜に、僕は思い出す。
あの一言に、どれだけの勇気を使ったのだろうか。
「懐かしいなぁ」
「あぁ、懐かしいよ」
だがあの言葉にウソもないし後悔もしていない、覚り妖怪はおろか閻魔にすら胸を張って言える。
僕は静かに慧音の肩に手を回し、抱き寄せた。
「どうした、霖之助」
「しばらくこうさせて欲しい、駄目かな」
「そんなわけ無いだろう」
そして慧音も僕の肩に頭を預ける。
僕は静かに、風にまぎれるように呟いた。
「僕は幸せ者だ」
僕は、上白沢慧音と言う女性を愛し、彼女との間に創り上げた家族を、愛し、守って行こう。
春の夜の、誰にも告げない誓いだ。
なんかほこほこする物語だったんじゃねー?
山篭もりとか恐山じゃねー?←投げやり
ほのぼの家族オーラがマッハじゃないですか!
そして完全に森近一家に目覚められた様で嬉しいです。
100作品おめでとう御座います!
これからも頑張って下さい!
これからも頑張ってください
アミメニシキヘビとロシアニセマンゴーってまさかM○S3のフードキャプチャー?
作者名と分類で続きだと分かってたぜ!!
100作品目おめでとうございます。いや、有り難うございますかな?
節目に相応しい、良いほのぼの一家でした。
此からも宜しくお願いします♪