満開の桜の木の下で森近霖之助は待っていた。
彼の顔を擽る風と鼻に微かに香る桜の香りが、これからの決心を固める。
「霖之助、待たせたな」
掛けられた声に振り向くと、そこには自分にとって見慣れた顔が覗きこんでいた。
霖之助は絞り出すように声を出す。
「…やぁ、慧音」
「珍しいな、お前から呼び出しなんて」
で、どうしたんだ、と慧音は聞いてくる。
そして二度三度深呼吸をし、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「慧音、僕は…僕は商売人として失格だとか何とか色々言われているし、結構ずぼらな所もある。そんな僕がこんなことを言っていいのかどうかわからないけど…」
全身から汗が噴き出た。
霖之助は自らの都合ばかり言っているが、慧音は黙って聞いている。
「やっぱり、言わないで後悔するよりも言って後悔したいんだ。…なんだかこれだと後ろめたい事があるような言いぶりだ。困ったなぁ、こんな時なんて言えばいいのやら…」
「…あぁもうじれったい!はっきり言え」
まっすぐで堅物な慧音らしい叱責を受け、その通りだと心で呟きながら心を固める。
そしてもう一度、霖之助は深呼吸をして慧音の瞳を見つめながら口を開いた。
「…結婚…して欲しいんだ」
風の音が消えた。
慧音は目を点にして霖之助から目をそらす。当然だろう、いきなり求婚されたら誰だって戸惑う筈だ。
しかしそんなことお構いなしに霖之助は続けた。
「指輪も買おうとしたんだけど……僕の収入じゃ…」
言いながら、小さい正方形の箱を取り出し、開ける。
中に入っているはずの指輪が、無かった。
「……何時か、必ず君の指にはめる…だから僕と…」
「…じゃあ、今はめてくれ」
「え?」
「その…何時か買う指輪を、今はめてくれ」
霖之助は頷き、指輪があるかのように形作り、その白い手を添え、通すかのように慧音の左薬指を撫でる。
添えられていた手が離れると、慧音は何もはまっていない手を空にかざし、呟いた。
「…綺麗だ、とっても」
何時しか慧音の頬には一筋の涙が伝っていた。
彼の顔を擽る風と鼻に微かに香る桜の香りが、これからの決心を固める。
「霖之助、待たせたな」
掛けられた声に振り向くと、そこには自分にとって見慣れた顔が覗きこんでいた。
霖之助は絞り出すように声を出す。
「…やぁ、慧音」
「珍しいな、お前から呼び出しなんて」
で、どうしたんだ、と慧音は聞いてくる。
そして二度三度深呼吸をし、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「慧音、僕は…僕は商売人として失格だとか何とか色々言われているし、結構ずぼらな所もある。そんな僕がこんなことを言っていいのかどうかわからないけど…」
全身から汗が噴き出た。
霖之助は自らの都合ばかり言っているが、慧音は黙って聞いている。
「やっぱり、言わないで後悔するよりも言って後悔したいんだ。…なんだかこれだと後ろめたい事があるような言いぶりだ。困ったなぁ、こんな時なんて言えばいいのやら…」
「…あぁもうじれったい!はっきり言え」
まっすぐで堅物な慧音らしい叱責を受け、その通りだと心で呟きながら心を固める。
そしてもう一度、霖之助は深呼吸をして慧音の瞳を見つめながら口を開いた。
「…結婚…して欲しいんだ」
風の音が消えた。
慧音は目を点にして霖之助から目をそらす。当然だろう、いきなり求婚されたら誰だって戸惑う筈だ。
しかしそんなことお構いなしに霖之助は続けた。
「指輪も買おうとしたんだけど……僕の収入じゃ…」
言いながら、小さい正方形の箱を取り出し、開ける。
中に入っているはずの指輪が、無かった。
「……何時か、必ず君の指にはめる…だから僕と…」
「…じゃあ、今はめてくれ」
「え?」
「その…何時か買う指輪を、今はめてくれ」
霖之助は頷き、指輪があるかのように形作り、その白い手を添え、通すかのように慧音の左薬指を撫でる。
添えられていた手が離れると、慧音は何もはまっていない手を空にかざし、呟いた。
「…綺麗だ、とっても」
何時しか慧音の頬には一筋の涙が伝っていた。
感服というか、もっとやって下さいお願いします
良い一家でした
この緩みきった頬を見せてやりたいくらいだ。
後は……言わなくても分かるよね?