霊夢を中心にした繋がりだけで、ここまでの大所帯になるのだ。
今日の花見のようなイベントの時には、参加者の誰もが驚くことになる。そして次に、人間がほとんどいないことに驚く。最後に、幻想郷の住民ではない者が多いことに驚く。
どちらかといえば付き合いの古い方になったアリスもまた、事あるごとに増えていく面子に驚きを隠せないのだった。
とはいえ、アリスの位置は特に変わらない。端の方に寄って、騒がしい場所を避けて静かに風流を楽しむ。このあたりに陣取るのは、アリスやパチュリーを初めとして、やはりいかにも喧騒が苦手そうな顔ぶれだった。
「たまには、こういう食事も悪くはないわね」
パチュリーの呟きに、アリスは小さく頷く。喉が渇く食べ物ばかりでバランスはよくなかったが、この祭のような空気も影響してか、美味しく楽しめる。
「相変わらず、こうやって座るのは慣れないけど」
「同意するわ」
ござの上に座るというのは、こんな時くらいだった。慣れないと、疲れる。アリスは立ち上がって、ふうと息を吐いた後、「ちょっと歩いてくる」と、隣のパチュリーに言った。
飲み物も足りなくなってきている頃だった。どこかから貰ってこようという目的もあった。
歩き出すと、全体が見える。
とにかく、多い。人が。というより、妖怪が。
賑やかな場所の中心は、まず魔理沙だった。そして、それとは別に、鬼たちのエリアもあった。前者は人が多くて会話が絶えないという意味で。後者は、単純に声が大きいという意味で。
だいたい、集団は納得の組み合わせで出来ていた。基本的には、身内で固まっている。
さらに離れて見てみると、文が花見の様子の写真を撮っているのを見つけた。全体が写るようにするためか、かなり離れて撮っている。これだけの人数を一枚に収めるのは大変だろう。
アリスはなんとなく、文のほうに向かう。文は、アリスに気づいて、カメラを下げて微笑みかけた。
「お疲れ様。全員が入るように撮れるのかしら?」
「そうですねえ。今は、無理です。アリスさんがいませんから」
「あら……それを言うなら、あなたもいないじゃない」
「ふふ。そうですね。それは宿命です」
アリスは文の隣に立って、同じ方向を見てみる。これだけ距離をとれば確かに範囲的には全員を見渡すことができる、のだが、木が途中に挟まるため、綺麗には撮れそうになかった。
文は、両手を軽く上げる。
「こんな感じです」
「大変ね……」
文もおそらく少しでもいい場所をと探し歩いているのだろう。その結果、一番マシだった場所がここなのかもしれない。すでにカメラを構えていたところから、そう察する。
「あなたも大変ね。せっかくの花見なのに、仕事に苦労するなんて」
アリスが労ると、文はカメラを持ち上げてにこりと笑った。
「好きでやっていることですから」
「でも、あなたも飲むのは好きな方でしょう」
「飲むのは好きですが、写真を取るのも好きです。あと――」
ぱしゃ。
唐突に、文はシャッターを切った。アリスに向けて。
「ちょっ」
「ちょっとくらいの労働なんて、アリスさんの今の言葉で十分に報われます。お釣りを払わないといけないくらいです」
カメラを向けられたアリスが狼狽しているうちに、文は嬉しそうに言った。
「アリスさんは、優しいですね。わざわざこんなところにいる私のことを気にかけて下さるなんて」
「え? あ、いえ、別に……なんとなく暇だから寄ってみただけよ」
「うん……?」
言い訳するようなアリスの言葉に、文は首を傾げる。
しばらく人差し指で自分の頬をつつくような仕草を見せた後、一度、大きく頷いた。
んー、と唸る。
「アリスさん、もしかして実は褒められるのにあまり慣れてなかったりします?」
「えっ」
「いえ、経験上。そんな反応に思えたので」
くす、といたずらっぽく笑いながら文は言った。
「え、いやそんな……」
なんとなく顔を赤らめてしまう。
よくわからないが、何故かとても恥ずかしいことを言われたような気がした。アリスは自分で自分の反応に戸惑う。
「ふふ。これは当たりっぽいですね。これは新情報です」
「いやいや。そんなことないし、どうでもいい内容だし」
「そんなことありますし、重要な情報です」
にこやかに完全否定。
うう、とアリスは家の中で唸る。
「不思議ですねえ。アリスさんは、褒めるべき点はいくらでもあるのですが。美人だし、スラっとしててかっこいいし、指も綺麗だし、綺麗な金髪だし、優しいし、お菓子作りは上手だし、人形作りもプロだし、魔法も独創的だし――」
「あああああやめてちょっと待ってそういうのやめて」
「あ、ほら、その反応です。間違いないです」
真っ赤になって、耳を塞ぐようにして悶えるアリスを見て、文はもう一度頷いた。そして、アリスの面白い姿を逃さず、シャッターを切った。
「あっ……ううう」
「可愛いですよ、アリスさん」
「あ、う……遊ばないでっ!」
「遊んでますが、嘘は一言も吐いていませんよ?」
「うー……う……うーー」
アリスは、完全に動揺して思考がぐるぐると乱れる中、文を睨みつける。文は涼しい顔を崩さない。
睨んでも効果がないと悟ると、今度は逆に顔を隠すように目を逸らす。文に背中を向けるようなことはしない。……なんとなく、負けを認めることになるような気がしたからだった。
こほん、と意図的に一つ咳払いをする。
「だ……誰だって、いきなりそんな褒め殺しにされたら、恥ずかしくもなるでしょ」
「ふふ。ではアリスさん、私を褒めてくれますか?」
「え?」
「まあ――アリスさんからすれば、私なんてそんな褒めるところなんて、ないかもしれませんが」
「そんなことはないわ!」
反射的に、アリスは叫ぶ。
叫んだあとに、はっと口を抑える。もちろん、何の意味もない。
また、赤くなりながら、ぼそぼそと呟く。
「あなたは……私なんかじゃ想像もできないくらい、身も心も強いわ。あまり強さは見せないけど、見ていれば感じるもの」
「あやや」
「いつだって自分の思うままに動いて、思ったことを実現している……すごいことだと、思うわ。本当よ。新聞を見ているだけでも、わかるもの。すごく、真っ直ぐ生きてるんだなって感じるくらい。簡単にできることではないわ。本当にかっこいいって、そういうことなんだと思う。私は、そういうところには憧れて――」
「……」
「……?」
アリスが一生懸命喋っていると、文の視線はいつの間にやら違う方を向いていた。アリスは言葉を中断して、同じほうに視線を向ける。
花見の面々のうち、半分近くが、二人のほうを注目していた。
「え」
小さく声を漏らす。
ある者はにやにやと笑いながら眺め、ある者はちらちらと横目で眺め、ある者は赤くなり、ある者は目を輝かせ――特に、早苗などは食い入るように見つめていた。両拳を胸の前で握り締めながら。
何より、魔理沙が見ているのが大きかった。魔理沙の周囲に人が一番集まっているのだ。自然に、周囲が巻き込まれる。当の魔理沙は、何やら不安そうな顔をしていた。
アリスは、そんな群集の様子をひと通り眺めてから、整理する。現状を。
1.アリスと文は、二人だけ、花見の集団から離れたところにいる
2.文は微笑み、アリスは真っ赤になっている。
3.アリスは先ほどから文のいいところを熱く語っている
「――!?」
状況を把握して、アリスは声にならない悲鳴を上げた。
文は、あー、と呟いて、頬を指で掻いた。
「なるほど、なかなか恥ずかしいものですねー」
「い、い、いや、そういう問題じゃ」
「ふふ。見事にアリスさんに辱められてしまいました」
「ちょ!? な、何言ってるのよっ! 誤解を増長するような――」
「アリスさんには、しっかり責任を取っていただかないといけませんね」
「だーかーらーっ!」
楽しむような文と対照的に、どんどん追い詰められていくアリスのパニックはまだ続くのだった。
今日の花見のようなイベントの時には、参加者の誰もが驚くことになる。そして次に、人間がほとんどいないことに驚く。最後に、幻想郷の住民ではない者が多いことに驚く。
どちらかといえば付き合いの古い方になったアリスもまた、事あるごとに増えていく面子に驚きを隠せないのだった。
とはいえ、アリスの位置は特に変わらない。端の方に寄って、騒がしい場所を避けて静かに風流を楽しむ。このあたりに陣取るのは、アリスやパチュリーを初めとして、やはりいかにも喧騒が苦手そうな顔ぶれだった。
「たまには、こういう食事も悪くはないわね」
パチュリーの呟きに、アリスは小さく頷く。喉が渇く食べ物ばかりでバランスはよくなかったが、この祭のような空気も影響してか、美味しく楽しめる。
「相変わらず、こうやって座るのは慣れないけど」
「同意するわ」
ござの上に座るというのは、こんな時くらいだった。慣れないと、疲れる。アリスは立ち上がって、ふうと息を吐いた後、「ちょっと歩いてくる」と、隣のパチュリーに言った。
飲み物も足りなくなってきている頃だった。どこかから貰ってこようという目的もあった。
歩き出すと、全体が見える。
とにかく、多い。人が。というより、妖怪が。
賑やかな場所の中心は、まず魔理沙だった。そして、それとは別に、鬼たちのエリアもあった。前者は人が多くて会話が絶えないという意味で。後者は、単純に声が大きいという意味で。
だいたい、集団は納得の組み合わせで出来ていた。基本的には、身内で固まっている。
さらに離れて見てみると、文が花見の様子の写真を撮っているのを見つけた。全体が写るようにするためか、かなり離れて撮っている。これだけの人数を一枚に収めるのは大変だろう。
アリスはなんとなく、文のほうに向かう。文は、アリスに気づいて、カメラを下げて微笑みかけた。
「お疲れ様。全員が入るように撮れるのかしら?」
「そうですねえ。今は、無理です。アリスさんがいませんから」
「あら……それを言うなら、あなたもいないじゃない」
「ふふ。そうですね。それは宿命です」
アリスは文の隣に立って、同じ方向を見てみる。これだけ距離をとれば確かに範囲的には全員を見渡すことができる、のだが、木が途中に挟まるため、綺麗には撮れそうになかった。
文は、両手を軽く上げる。
「こんな感じです」
「大変ね……」
文もおそらく少しでもいい場所をと探し歩いているのだろう。その結果、一番マシだった場所がここなのかもしれない。すでにカメラを構えていたところから、そう察する。
「あなたも大変ね。せっかくの花見なのに、仕事に苦労するなんて」
アリスが労ると、文はカメラを持ち上げてにこりと笑った。
「好きでやっていることですから」
「でも、あなたも飲むのは好きな方でしょう」
「飲むのは好きですが、写真を取るのも好きです。あと――」
ぱしゃ。
唐突に、文はシャッターを切った。アリスに向けて。
「ちょっ」
「ちょっとくらいの労働なんて、アリスさんの今の言葉で十分に報われます。お釣りを払わないといけないくらいです」
カメラを向けられたアリスが狼狽しているうちに、文は嬉しそうに言った。
「アリスさんは、優しいですね。わざわざこんなところにいる私のことを気にかけて下さるなんて」
「え? あ、いえ、別に……なんとなく暇だから寄ってみただけよ」
「うん……?」
言い訳するようなアリスの言葉に、文は首を傾げる。
しばらく人差し指で自分の頬をつつくような仕草を見せた後、一度、大きく頷いた。
んー、と唸る。
「アリスさん、もしかして実は褒められるのにあまり慣れてなかったりします?」
「えっ」
「いえ、経験上。そんな反応に思えたので」
くす、といたずらっぽく笑いながら文は言った。
「え、いやそんな……」
なんとなく顔を赤らめてしまう。
よくわからないが、何故かとても恥ずかしいことを言われたような気がした。アリスは自分で自分の反応に戸惑う。
「ふふ。これは当たりっぽいですね。これは新情報です」
「いやいや。そんなことないし、どうでもいい内容だし」
「そんなことありますし、重要な情報です」
にこやかに完全否定。
うう、とアリスは家の中で唸る。
「不思議ですねえ。アリスさんは、褒めるべき点はいくらでもあるのですが。美人だし、スラっとしててかっこいいし、指も綺麗だし、綺麗な金髪だし、優しいし、お菓子作りは上手だし、人形作りもプロだし、魔法も独創的だし――」
「あああああやめてちょっと待ってそういうのやめて」
「あ、ほら、その反応です。間違いないです」
真っ赤になって、耳を塞ぐようにして悶えるアリスを見て、文はもう一度頷いた。そして、アリスの面白い姿を逃さず、シャッターを切った。
「あっ……ううう」
「可愛いですよ、アリスさん」
「あ、う……遊ばないでっ!」
「遊んでますが、嘘は一言も吐いていませんよ?」
「うー……う……うーー」
アリスは、完全に動揺して思考がぐるぐると乱れる中、文を睨みつける。文は涼しい顔を崩さない。
睨んでも効果がないと悟ると、今度は逆に顔を隠すように目を逸らす。文に背中を向けるようなことはしない。……なんとなく、負けを認めることになるような気がしたからだった。
こほん、と意図的に一つ咳払いをする。
「だ……誰だって、いきなりそんな褒め殺しにされたら、恥ずかしくもなるでしょ」
「ふふ。ではアリスさん、私を褒めてくれますか?」
「え?」
「まあ――アリスさんからすれば、私なんてそんな褒めるところなんて、ないかもしれませんが」
「そんなことはないわ!」
反射的に、アリスは叫ぶ。
叫んだあとに、はっと口を抑える。もちろん、何の意味もない。
また、赤くなりながら、ぼそぼそと呟く。
「あなたは……私なんかじゃ想像もできないくらい、身も心も強いわ。あまり強さは見せないけど、見ていれば感じるもの」
「あやや」
「いつだって自分の思うままに動いて、思ったことを実現している……すごいことだと、思うわ。本当よ。新聞を見ているだけでも、わかるもの。すごく、真っ直ぐ生きてるんだなって感じるくらい。簡単にできることではないわ。本当にかっこいいって、そういうことなんだと思う。私は、そういうところには憧れて――」
「……」
「……?」
アリスが一生懸命喋っていると、文の視線はいつの間にやら違う方を向いていた。アリスは言葉を中断して、同じほうに視線を向ける。
花見の面々のうち、半分近くが、二人のほうを注目していた。
「え」
小さく声を漏らす。
ある者はにやにやと笑いながら眺め、ある者はちらちらと横目で眺め、ある者は赤くなり、ある者は目を輝かせ――特に、早苗などは食い入るように見つめていた。両拳を胸の前で握り締めながら。
何より、魔理沙が見ているのが大きかった。魔理沙の周囲に人が一番集まっているのだ。自然に、周囲が巻き込まれる。当の魔理沙は、何やら不安そうな顔をしていた。
アリスは、そんな群集の様子をひと通り眺めてから、整理する。現状を。
1.アリスと文は、二人だけ、花見の集団から離れたところにいる
2.文は微笑み、アリスは真っ赤になっている。
3.アリスは先ほどから文のいいところを熱く語っている
「――!?」
状況を把握して、アリスは声にならない悲鳴を上げた。
文は、あー、と呟いて、頬を指で掻いた。
「なるほど、なかなか恥ずかしいものですねー」
「い、い、いや、そういう問題じゃ」
「ふふ。見事にアリスさんに辱められてしまいました」
「ちょ!? な、何言ってるのよっ! 誤解を増長するような――」
「アリスさんには、しっかり責任を取っていただかないといけませんね」
「だーかーらーっ!」
楽しむような文と対照的に、どんどん追い詰められていくアリスのパニックはまだ続くのだった。
イイヨイイヨー!
ところで先生、はめ殺しは普通に建築用語だと思います。
『はめ殺しの窓』とか。
だけど、やっと、やっと見つけた。
うん、やっぱり良い! この二人は絶対良い!
もっと増えても良いよ!
このお話は、アリスがすごく可愛い。すんごく可愛い。うー、と恥ずかしがる姿を想像して、こっちが、うーと言いたくなりました。
文がリードして、アリスがあたふたしてるさまは、読んでいてニヤニヤしますね。
宴会の場でもカメラをかまえる文の姿勢とか、それについてのアリスの思いとか、結構ツボに入ってきました。
また、アリスの方から文に話しかけているのもいいですね。しかも、その一言目が労いの言葉であることが、アリスの人柄を良くあらわしているなあと感じました。
それと、この逆パターンのお話もぜひ読んでみたいと思いました。アリスがリードして、文が赤くなるみたいな。できれば、アリスがお姉さんっぽくて、穏やかさと明るさを兼ね備えた、優しい女性。
文は、元気いっぱいで、新聞をこよなく愛する活発な女の子、みたいな感じのやつがぜひとも読みたいものです。(チラッ
あ、でも後でちゃんと魔理沙にフォローするよ!
ベタは安心があって良いですね!
思わずニヤニヤしてしまいましたっ。
砂糖吹いた…
すごくニヤニヤしました。
アリスであそぼうシリーズ的なかんじでした。
>はめ殺し
もちろん知っているからネタにしているのですよー!
>文アリだと
どうしてもアリスのほうが引っ掻き回される状況しか想像できないです!
ちくしょお、アリス可愛いすぎ。
どこにいっても彼女は彼女だなぁwww