午前9時48分。突然私──十六夜咲夜は、お嬢様に呼び出された。
朝から起きてる吸血鬼ってどうなんだろう、と思いながら私はお嬢様の部屋へ向かう。
「お嬢様、お呼びでしょうか?」
「うん、呼んだ呼んだ。とりあえず、おはよー咲夜!今日もいい天気ね!」
ひゃっほい!と何故かテンションの高いお嬢様に「おはようございます」と返す。何かあったのかしら?
「そんなテンションじゃダメよ咲夜!ほら、テンションあげて!はい、一緒に!『最高に「ハイ!」ってやつだアアアアアアハハハハハハーッ!』」
「・・・・・・それで、どのような御用でしょうか?」
とりあえず用件を聞く私。スルーされたのがショックだったのか、部屋の隅で写真を見ながらシクシク泣いていた。意外と打たれ弱いお人である。
「ああ・・・美鈴・・・最近咲夜が冷たいわ・・・。昔はあんなにいい娘だったのに・・・。私のところにトテトテ歩いてきて『ママー』ってまるで天使のような笑顔で笑いかけてくれたあの咲夜はどこへ行ってしまったのかしら・・・?」
「・・・・・・お嬢様、私はお嬢様のことを『ママ』と呼んだ憶えは全くありませんが」
「そしてアナタ──美鈴に『わたしね、おおきくなったらパパのおよめさんになるの!』って言っていたあの純粋で可愛らしい咲夜はどうしちゃったのかしら・・・?」
「ちょ、ちょっと!私、美鈴のことも『パパ』なんて呼んでませんでしたよ!」
「あら?『お嫁さんになる』ってのは言ったのね?」
「う・・・!」
急に立ち直り、ニタニタ笑いながら『私は咲夜。紅魔館のメイド長。そして幸せな、貴女のお嫁さん』などと芝居がかった調子で何か言っている。よく分からないが私をからかっているという事だけは分かる。くそぅ、顔が熱い。
「よ、用が無いのならもう行きますよ!」
幾分強い調子でそう言って、部屋から出ようとする。本来なら従者にあるまじき事だがこれはしょうがない。お嬢様が悪い。うん、私は悪くない。悪くないったら悪くない。
私の機嫌が悪くなったのを感じたのか、お腹を抱えて笑い転げていたお嬢様が「待って待って」と目に浮かんだ涙を拭いながら引き止める。
「咲夜に花畑の手入れを頼もうと思ってさ」
「花畑の手入れ・・・ですか?」
花畑の手入れなら、いつもは美鈴が担当している。美鈴は門番の仕事が休みの日でも、手入れだけは行っていた。となると、
「あの・・・美鈴に何か・・・?」
当然、私はこの疑問に行き着いた。ほんの少しだけ、不安がよぎる。
それが顔に出ていたのだろうか。お嬢様は私の不安を払拭するかのように「たいした事じゃないんだけどね」と口を開く。
「私、美鈴に頼み事してさ、今アイツいないのよ。でも花畑の手入れって大事じゃない?だからメイド達に任せようと思ったんだけど・・・」
何か問題でもあるのだろうか?確かに妖精メイド達は役には立たないけど、花畑の管理くらい数人割り当てれば何とかなる気はするし・・・それに私は今日も忙し・・・
「あの花畑は私の愛する夫である美鈴が心を込めて育てている花でしょ?そんな大切な花達を妖精メイドに任せるわけにはいかないじゃない」
その言葉にピシリ、と固まる私。何時の間に時を止められるようになったのだろうかお嬢様は。私の専売特許だったのに。
「そうなると私がやるべきなんでしょうけど、私は吸血鬼。日光の下へは出られない。美鈴の愛がこもった花達に触れられないなんて、私はなんて不運な女なののかしら!」
仰々しい振り付けを交えながら、なにやらおかしな事を言い出す。何か悪いものでも食べたのかしら?おかしいわね、昨日のハンバーグは特に異常は無かったと思ったけれど。
「というわけで、私と美鈴の愛の結晶である貴女に任せようと思ったの」
Q.E.D.とでも言うかのように言葉を区切るお嬢様。一体何を証明したと言うんだろう。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ、何固まってんの咲夜?ほらほら、さっさといって来なさいよ」
ハリーハリーハリー、と急かすお嬢様。それに流されるまま、私は花畑の方へ向かった。
そうして花畑へとやって来た私だったが、
「あれ、咲夜さんじゃないですか。どうしました?」
そこには今、出払っているはずの美鈴がいた。どういうことなのかしら・・・?
とりあえず事の次第を美鈴に伝えるが、どうも話がかみ合わない。美鈴はお嬢様に何も頼まれ事はされていない、と言う。
私が何とか状況を理解しようと頭をひねらせていると、美鈴は何か気づいたように、ああ、と声を出した。
顔に少し意地の悪い表情を浮かべながら、美鈴は「咲夜さん、今日の日付分かります?」と、問いかけてきた。
今日は確か──
「4月の1日・・・ああ、なるほど。エイプリルフールね」
その答えを肯定するように美鈴は笑みを浮かべる。なるほど、私はお嬢様に騙されたわけか。
「あはは。まんまと引っかかっちゃいましたね、咲夜さん」
「ホントにね・・・もう、困った人だわ・・・」
そういって無邪気に笑う美鈴とは裏腹に呆れる私。どうしてこう、やる事が幼いのだろうか。500年の時を生きているのならもうちょっと大人になってほしい。外見は仕方ないとしても。
むうぅ、と不機嫌そうに唸っていると、何か思いついた、という顔をした美鈴が声をかけてきた。
「ねぇ、咲夜さん。私、今とっても疲れているんです」
いきなり何を言っているのだろうか。どう控えめに見ても疲れている風には全く見えない。いつもと変わらず健康そうじゃない。
「だから私一人でお花の手入れをするのは無理そうなので・・・・・・咲夜さん、手伝ってもらえませんか?」
そう微笑みながら提案してきた。その表情のせいで顔が赤くなるのを感じたが、数瞬遅れて、美鈴の意図を理解した。
「そうね・・・今日はたまたま仕事が忙しくないから・・・手伝ってあげるわ、美鈴」
と、私は答えを返す。お嬢様へのささやかな仕返しだ。今日はちょっぴり不自由な思いをしてもらおう。それに、せっかく美鈴が誘ってくれたのだ。断る事なんて、私に出来るわけないじゃない。
私は美鈴から手入れの道具を借り、二人で花畑の手入れを始めた。
その後、花畑の手入れが終わったのは、13時を少し回った頃だった。
「ふぅ、終わりましたね。お手伝いありがとうございます、咲夜さん」
そう礼を言う美鈴なのだが、実質私は何もしていない。“疲れている”にもかかわらず、殆どの作業を担当してくれたので、私はあまりやる事は無かったのだ。
お疲れ様、と返して適度に冷やした状態を保っておいたお茶を美鈴に差し出す。
「こう、改めて見ると結構広いわよね、花畑。花の種類も色々違うみたいだし」
「ええ。一種類だけだとなんだか面白みが無いと思いまして。色々と植えてみたんです」
そっちの方が見ていて楽しくなりますし、とそう言って美鈴は花畑の方へ指先を向けながら、あそこにアイリス、あそこにはアザレア、あっちの方はビオランテです、と説明してくれた。
「それだけ種類があると、手入れが大変じゃない?どれもが全部、同じようなやり方って訳でもないんでしょ?」
そう思った事を問うてみると、それもまた楽しみの一つです、とウィンクしながら返してきた。ヤダ、ちょっとキュンてきた。
「あのー・・・咲夜さん」
「え・・・あ、何かしら・・・?」
悶々としていたところに声をかけられ、少し驚いたが何とか言葉を返す事が出来た。
「あ、いえ。お手伝いしてもらったのでちょっとお礼を・・・」
ちょっと待っててくださいねー、と言って花畑へ駆け寄る美鈴。お礼なんていいのになぁ・・・そんなに役に立ってなかったし、私。
「お待たせしました、咲夜さん」
「そんなに待ってないわよ」
その答えがおかしかったのか、美鈴はあはは、と笑った。美鈴の右手を見ると、そこには一輪の白い花があった。何の花?と聞いてみると、「パンジーの花です」と教えてくれた。
ああ、私にくれるのね、と思い、花を受け取るために手を出そうとした。しかし、美鈴の手は私の手よりも上の方へ上がっていった。
そして、私の頭の辺りで止まると、美鈴はその花を私の髪に挿した。そして私の頬に手を添え、
「よく似合ってますよ、咲夜さん。とても、とても可愛らしいです」
と、花の咲いたような笑顔を浮かべて、言った。
その表情に、言葉に、私の心がときめくのを感じた。胸の鼓動はびっくりするほどに早くなっているし、顔が真っ赤になっているのは鏡を見なくても解かる。だって顔がありえないくらい熱いし。
真っ赤になった顔を見られたくなくて下を向いていたら、ど、どうしたんですか・・・?と心配そうに顔を覗き込んでくる美鈴。この鈍感め。こんな顔を恥ずかしくて見せられないから下を向いているっていうのに、どうして気付かないのかしら。
上目遣いでちらりと美鈴の方を窺ってみると、さらにびっくりした。なんていうか近い。すぐ目の前に美鈴の顔があるのだ。こっちの気も知らないでこいつは・・・。
美鈴に対する理不尽な苛立ちを覚えると同時に、よく分からない感情が私の中に生まれていた。
その感情に流されるまま、私は美鈴の顔にぐい、と自分の顔を近づけ、
「咲夜さ・・・・・・・・・・・・んむぅ!?」
美鈴の唇に、自分の唇を押し付けるように、重ねる。
そのまま私は舌を動かし、美鈴の口内へ侵入させようと動かした。美鈴は最初歯を閉じていたが、トントン、とノックするように軽く数回舌で触れると、すぐに力を抜いて私の舌を口内へ迎え入れてくれた。舌と舌が艶かしくうごめき、絡まりあう。その度にぴちゃり、と淫靡な音が耳に入った。
15秒ほど経った頃か。実際はもっと短かったのかもしれないし、もうちょっと長かったのかもしれない。息苦しさを感じ、私は美鈴から唇を離す。私と美鈴の唇の間には、銀糸のアーチが架かっていた、がすぐに切れてしまう。あっ、という美鈴の名残惜しそうな声が耳に届き、ぞくりとなんともいえない感覚が背筋に走った。
そして、私はとんでもない事をしてしまったのでは、という恥ずかしさに似た思いから、屋敷の方へ逃げるように、文字通り脱兎の如く駆け出した。後ろで美鈴が何か言っていたが、混乱しきっている私は、その内容を聞き取る事は出来なかった。
午後11時を回った頃、私は自室のベッドの上で『花図鑑』と題された分厚い本を膝の上に乗せ、ぱらり、と捲っていた。
美鈴から逃げ出した後、お嬢様から「何で顔真っ赤になってんの?」としつこいほどにからかわれたり、先ほどのことを思い出して大ポカをやらかしたりと、散々だったけれど、何とか仕事を終わらせた。パチュリーの図書館に立ち寄りこの本を借り、入浴後の就寝前のひと時に、ある事を調べるために本を開いたのだ。
ぱらり、ぱらりと捲っていると、目的の頁に行き当たった。
その内容を読んで、私はまた自分の顔が赤くなるのを感じていた。狙ってやったのか、と思ったけど、美鈴に限ってそれは無いわね。あの天然タラシめ。
治まることのない胸の鼓動を感じながら、私は、今もなお残る美鈴の柔らかな唇の感触を思い出していた。
~おまけ~
レミリアとパチュリーの会話
「あー、今日は面白かった!これだから咲夜をいぢるのはやめられないわね~」
「貴女ね・・・程ほどにしておきなさいよ。やりすぎると、そのうちひどい目にあうわよ」
「ひどい目って何さ?咲夜に刺されるとか?あ、それなら美鈴に嫌われるって方がひどいわね。美鈴に嫌われたら、私、生きていけない!」
「はいはい・・・まったく、今日はろくでもない一日だったわ。どこかの誰かさんのせいで」
「ふふん。騙される方が悪いのよ、パチェ」
「はぁ・・・・・・あら?・・・・・・・・・・・・・・・ところでレミィ、今日は美鈴の所に行かなくていいの?」
「ん?ああ、そうね。そろそろ行ってこようかしら。私もムラムラしてきたし」
「ムラムラとか言うな」
「だってホントの事だし。ああ、あのみすずの豊満なおっぱいを揉みしだいて、あのすべすべした肌に舌を這わせて。「お・・・お嬢様・・・・・・やめてぇ・・・」って涙ぐみながら懇願するようにこっちを見る美鈴・・・・・・ムッハーー!!もーたまらん!!」
「ねぇ、レミィ」
「何よ?私もう行くんだけど?」
「後ろ。フランが物凄い形相で立ってるわよ」
「・・・・・・・・・え?・・・・・・ひぃ!ち、違うのよフランこれは・・・そう!内なるリビドーゆえの行動なのよ!だから別に美鈴にやましい事しようって訳じゃないの!ただのスキンシップ!夫婦の夜のスキンシップなのよ!」
「おねぇさまの・・・・・・・・・・・・!!」
「フ、フラン・・・?どどどどうして手に魔力なんか集めているの・・・?あ、ちょっ!待った待った!だだだだだめよそんな危ないもの持っちゃ!ちょ、やめ・・・・・・!」
「えっち!!すけべ!!へんたーーーーーーい!!!!!」
パチュリー言葉どおり、ひどい目にあったレミリアであった。めでたしめでたし。
パンジーの花言葉って何だっけと思ったけどその後のフラレミでどうでもよくなった。
最後の一行に関しては、もっとやらしい所があると思います先生。
ホラ、ボディラインが出やすいぱっつんぱっつんな服で強調された胸とk(ドゴォォォ
そ、それとかその胸とは対照的に可憐な腰周りとk(バチィッ
そ……そして、その場の空気を読んでお誘いに乗ってくれそうな所とk(グチャ
ニブチンめーりんの破壊力はヤバいですね。
頬が緩みっぱなしですよ。
良いさくめーでした!
紅魔館は変態が一人二人いたほうがバランスがt(ドゴォォォ
いじらしいさくめーですね、うぎぎ。
あと美鈴へのエロを許さないフランちゃんが純情で可愛かったです。
あれ?でもこの流れだと流石のフランちゃんも変t(ドゴォォォ
確かに・・・あの胸とか腰はエロい・・・なんてエロい人なんだ衣玖さんは!
ちょっと雲に潜って衣玖さんを探してきます。そしてあわよくばちゅっちゅs(バチィッ
>>2さん
>私は『歯磨き粉』がエロいと思いますよ。
『歯磨き粉』か・・・。新しい・・・惹かれるな・・・。
ニヤニヤしていただけたようで、とても嬉しいです。ニブチンのめーりんってグッと来るものがありますよね。
>>奇声を発する程度の能力さん
やっぱり『処女作』ってエロいですよね。この言葉を考えた人はエロいに違いない!
お褒めいただき、ありがとうございます。
>>4さん
実は誤変換です・・・修正しておきます・・・。
確かに・・・一人はいたほうがバランスがいいかもしれません・・・。いっそのこと美鈴以外全員変態化させてみようk(グチャァ
>>5さん
このところお休みが続いているので、書けるだけ書こうかなって思いまして。
ふと気づいたら、私の『処女作』でフランちゃん変態化してる!?私は・・・私はなんてことを・・・まぁ、めーりんへの愛ゆえの変態化だからいいよね!
>>6さん
そう言っていただけるととても嬉しいです。乙女な咲夜さんは鼻血が出るほど可愛いですよねw
>>アジサイさん
禁則事項です(オイ
思えばもう20年近く前の作品なんですよね・・・アレ。
いえ、『処女作』のフランちゃんは甘えんぼの可愛い少女という印象でしたよ。
個人的に咲夜さんとお嬢様が変態役を務めた今、フランちゃんでさえめーりんを想うあまり変態となってしまうのでは、と思ったわけですw
そして愛ゆえの変態化はしょうがないと思(ry