果たして私は何がしたかったのだろう。
最初は地の文の練習のつもり…だったんですよ?
柔らかな風が草木を揺らす。暖かなそれはまるで雪に痛んだ樹皮を癒すかのよう。
桜の木々がその姿を華々しく繕い、蝶たちが所狭しと飛び交う日向。
春。見渡す限り、春満開。
「さ、咲夜!図書館に奴が!奴が現れたわ!?」
「だから妹様を図書館に入れたくなかったのよ…ちゃんとお菓子食べたら処理してといったのにぃ!咲夜」
「…あの、お嬢様、パチュリー様…。私はその…苦手でして」
「あなた肝心なときに役に立たないわね!」
紅魔館では奴が動き出した。いや、正確には奴らが、動き出した。
更に言うとそれは紅魔館だけに留まる話ではない。
「妖夢よ!あ奴が現れよったわ!早よう斬り捨てるのじゃ!!」
「そ、そんな、師匠なら楽に滅せるではありませんか!?私は嫌ですよっこの刀であんな無粋なもの斬るのは!?」
「ええいお主は精進が足らんのぅ!!!」
奴らの前では幻想郷のパワーバランスを司る偉人たちもたちまちに震え上がり足元が竦む。ひとたび翼をはためかせれば従者ものた打ち回る。
「そ、そんな、もうこの竹林にまで勢力を…てゐ!あんたの自慢のインチキ戦法で蹴散らしなさい!」
「長生きするコツその765、嫌なものには近づかない。ってことで冷戦よろしく」
「余裕ぶってる割には名前のイントネーションがおかしいわねぇ!」
時間がたてばたつほどに厄介な存在となる。
奴らに前線や戦線といった概念はない。ただ己の意思の赴くままに大地を闊歩し、領土とも縄張りとも取れない勢力範囲を伸ばしてゆくのだ。
「奴ら、人里を拠点にしてこの寺にまで勢力を強めているようだな。部下(鼠)によると近辺のゲリラと協力しながら進んでいるらしい」
「まぁ、それは頑張りますねぇ」
「さすがです聖!奴らにも屈しないその純然たる態度!」
「ご主人、買被りすぎだ」
「な!ナズーリン、聖を否定なさるのですか!?」
「だって彼らが出てきてもナズーリンのお子さんたちが処理してくれるでしょう?」
「だから言ったんだ。それに鼠たちは家族であっても子供ではない」
地形の荒さは関係ない。走破性の高さは折り紙つき。
奴らは奇襲、かく乱のプロだ。それで居て殲滅戦も得意。目にも留まらぬ高速移動と狭い場所でも素早く移動できる俊敏性を持ち、膠着状態の修羅場でも余裕でかき乱すことができる。
だが奴らの一番怖いところはまだ他にある。
「…?」
「どうかした神奈子?」
「今何かが風を切ったような」
「春一番でも吹いたんじゃない?」
「…そうか」
「何をしているんですか御二方!奴が侵入したんですよ見てなかったんですか!?」
優れたステルス性である。素早く俊敏に。しかし音はきわめて静かで、監視の目を緩めると隙を突いて進入してくるのだ。まるで毒のよう。気付かれないように相手の意識内に侵入し、破壊の限りを尽くす。
「うあぁあ!?」
「どうしましたかにとり!!」
「ああああ文っ!風起こして!奴がっ奴が工房にぃ!!」
「…掃除を怠るからです。私の風はそれほど安くはありません。どうぞご自慢の道具で駆逐してください」
「そんなこといって自分も嫌なだけなんじゃないのぉ!?」
誰だったか。流れるように素早く駆ける黒いライダーのような奴らを見て『死神』だと言った者がいた。
「お、お姉ちゃん!奴らよ!私たちの食料庫に奇襲をかけてきたよ!」
「穣子!?くっここに来て兵糧攻めだなんて…姑息な…!」
「せっかく辛い冬を乗り越えてきた私たちの宝物を根こそぎ奪う気ね…あの死神め…!」
「で…撃退してきたの?」
「…お姉ちゃんやってよ」
狭くて広い幻想郷。奴らは至るところに出没する。瘴気のあふれる魔法の森の中では比較的静かだが、それは決して現れないと言っているわけではない。
「…?……この気配…これは…ま、まさか…奴ら、とうとうここにまで適応したのか…?」
何よりも怖いもの。それは驚異的な汎用性及び適応性である。汎用性と言ってもただの汎用性ではない。並みの兵士なら装備を換装すれば密林から氷山まで幅広く出撃することはできる。しかしそんな装備は関係ない。奴らは特に装備を換装することなく様々な環境に適合できるのだ。
必要なものは時間だけ。時間さえかければ極端ではない地形のどこにでも適応し出撃できる。
「そ、そんな馬鹿な!ここは瘴気の渦巻く魔法の森だぞ…!その中でも更に劣悪環境な霧雨の館だぞ!?なんで入ってこれるんだよ!」
汎用性の高い奴らではあるが、好んで確保したがる場所がある。それは適度な水分と栄養を取れる補給ポイントがあり、一定の暖かさを持つ場所である。これは非常に魅力的なものなのだと奴らも分かっているのだろう。
水分と栄養分があり、寒さを凌げる場所があれば兵力に俄然の差がある戦いでも消耗戦に持ち込めば勝てる見込みがある。
「そ、そうだっアリスに応援を要請するんだ…!あいつなら答えてくれるはず。………………馬鹿な!何で出ないんだよ!?何のための通信人形だよ!?」
奴らは言葉を理解しない。理解できてもする必要なんてどこにもないのだ。悲鳴ならば言葉である必要もないし、命乞いなど聞く耳を持たない。ましてや敵の情報が欲しいわけでもないのだ。言葉はただ己の進路をゆがませる雑音でしかない。
「う、嘘だよな…う、撃つぜ?わたっ私は部屋の中でも平気でマスパ撃つぜ…?」
当然、脅しも効かない。無論それが命取りになることだってある。「出てきたら撃つ」と警告を受けたにも関わらず出て行けば当然撃たれる。だがしかし、それでもなお聞く耳を持つことはない。
奴らは個という感情はあまり持っていない。誰かが目的を成せれば自分はどうなってもいいのだ。自分は物事を成し遂げる重要な核であると同時にただの捨石でもあると本能に刻んでいる。だから奴らは止まらない。
「う、うわっ!く、くるなぁ!こないでぇ!ま、マスターす…う、あぁ、きゃああああああああ!!!!!」
そうして犠牲を払いながら戦火をかいくぐり戦果を挙げる。
何時しか、奴らは対象に対して絶対的な恐怖感を与える負の象徴として恐れられるようになっていた。それが奴らにとって最終最後の武器となるとも知らず。
「霊夢ーお茶淹れてくるねー」
「あいよ。よろしくアリス。ついでにご飯も作ってくれると助かる」
「私は飯炊きメイドではありません」
だがそんな奴らにも弱点はある。
それは戦闘力の弱さだ。単体では歩兵の一人も満足に打ち倒すことはできない。ひとつではただ地面に虚しく押し倒されて無残に踏み潰されるだけ。
しかし先述した相手への恐怖感を武器にすることでそれを克服できるのだ。相手に対して恐怖を与え動きが鈍くなったところを狙って突撃する。簡単に言うとヒットアンドアウェイ。
「ふー。あー、もうそろそろ嫌な時期になるわねぇ」
「何がかしら」
「あら紫。あんたもアリスのご飯たかりに来たの?」
「失敬な。私は対価を払って来てるのよ?外の人形でいいものがあったからあげたらお礼にってことで。それはともかく嫌な時期って?」
「梅雨よ梅雨」
「あーじめじめして嫌ねぇ」
「それはいいのよ。日本だし慣れてるし…でも…」
「でも?」
だがもし相手が全く恐怖を感じなければ?もし相手が接近を用意に感知できる勘を持っていたら?
「きゃあ!れ、霊夢!奴が!」
「あーはいはい大体そんな気がしてたわよ…しゃーない。ご飯のためにも奴にはアミュレットで早々に退場いただきましょうか」
「がんばってねー」
「あんたも来るのよ?残骸となった奴をスキマで山にでも捨ててきてもらいましょうか」
だがしかし、それでも奴らは諦めることをしないだろう。いや、諦めを知らないのだろう。ひたむきに挑み逃げず屈せず立ち向かう。ただそれだけが、いいやそれこそが奴らの評価に値する美徳なのかも知れない。
今日も奴らは野を超え山を越え大地を走る。黒き甲冑を揺らし鮮やかな翼を羽ばたかせながら、いつか夢見た安住の地…フロンティアを目指して。
「どうしたのリグル?…うわ!何でそんなもん持ってんの!?あ、あたいのほうに向けないでっ」
「死ぬほど憎いはずなのに…殺せない…同じ虫として…でも虫だって…うぐぁこのジレンマ!!」
最初は地の文の練習のつもり…だったんですよ?
柔らかな風が草木を揺らす。暖かなそれはまるで雪に痛んだ樹皮を癒すかのよう。
桜の木々がその姿を華々しく繕い、蝶たちが所狭しと飛び交う日向。
春。見渡す限り、春満開。
「さ、咲夜!図書館に奴が!奴が現れたわ!?」
「だから妹様を図書館に入れたくなかったのよ…ちゃんとお菓子食べたら処理してといったのにぃ!咲夜」
「…あの、お嬢様、パチュリー様…。私はその…苦手でして」
「あなた肝心なときに役に立たないわね!」
紅魔館では奴が動き出した。いや、正確には奴らが、動き出した。
更に言うとそれは紅魔館だけに留まる話ではない。
「妖夢よ!あ奴が現れよったわ!早よう斬り捨てるのじゃ!!」
「そ、そんな、師匠なら楽に滅せるではありませんか!?私は嫌ですよっこの刀であんな無粋なもの斬るのは!?」
「ええいお主は精進が足らんのぅ!!!」
奴らの前では幻想郷のパワーバランスを司る偉人たちもたちまちに震え上がり足元が竦む。ひとたび翼をはためかせれば従者ものた打ち回る。
「そ、そんな、もうこの竹林にまで勢力を…てゐ!あんたの自慢のインチキ戦法で蹴散らしなさい!」
「長生きするコツその765、嫌なものには近づかない。ってことで冷戦よろしく」
「余裕ぶってる割には名前のイントネーションがおかしいわねぇ!」
時間がたてばたつほどに厄介な存在となる。
奴らに前線や戦線といった概念はない。ただ己の意思の赴くままに大地を闊歩し、領土とも縄張りとも取れない勢力範囲を伸ばしてゆくのだ。
「奴ら、人里を拠点にしてこの寺にまで勢力を強めているようだな。部下(鼠)によると近辺のゲリラと協力しながら進んでいるらしい」
「まぁ、それは頑張りますねぇ」
「さすがです聖!奴らにも屈しないその純然たる態度!」
「ご主人、買被りすぎだ」
「な!ナズーリン、聖を否定なさるのですか!?」
「だって彼らが出てきてもナズーリンのお子さんたちが処理してくれるでしょう?」
「だから言ったんだ。それに鼠たちは家族であっても子供ではない」
地形の荒さは関係ない。走破性の高さは折り紙つき。
奴らは奇襲、かく乱のプロだ。それで居て殲滅戦も得意。目にも留まらぬ高速移動と狭い場所でも素早く移動できる俊敏性を持ち、膠着状態の修羅場でも余裕でかき乱すことができる。
だが奴らの一番怖いところはまだ他にある。
「…?」
「どうかした神奈子?」
「今何かが風を切ったような」
「春一番でも吹いたんじゃない?」
「…そうか」
「何をしているんですか御二方!奴が侵入したんですよ見てなかったんですか!?」
優れたステルス性である。素早く俊敏に。しかし音はきわめて静かで、監視の目を緩めると隙を突いて進入してくるのだ。まるで毒のよう。気付かれないように相手の意識内に侵入し、破壊の限りを尽くす。
「うあぁあ!?」
「どうしましたかにとり!!」
「ああああ文っ!風起こして!奴がっ奴が工房にぃ!!」
「…掃除を怠るからです。私の風はそれほど安くはありません。どうぞご自慢の道具で駆逐してください」
「そんなこといって自分も嫌なだけなんじゃないのぉ!?」
誰だったか。流れるように素早く駆ける黒いライダーのような奴らを見て『死神』だと言った者がいた。
「お、お姉ちゃん!奴らよ!私たちの食料庫に奇襲をかけてきたよ!」
「穣子!?くっここに来て兵糧攻めだなんて…姑息な…!」
「せっかく辛い冬を乗り越えてきた私たちの宝物を根こそぎ奪う気ね…あの死神め…!」
「で…撃退してきたの?」
「…お姉ちゃんやってよ」
狭くて広い幻想郷。奴らは至るところに出没する。瘴気のあふれる魔法の森の中では比較的静かだが、それは決して現れないと言っているわけではない。
「…?……この気配…これは…ま、まさか…奴ら、とうとうここにまで適応したのか…?」
何よりも怖いもの。それは驚異的な汎用性及び適応性である。汎用性と言ってもただの汎用性ではない。並みの兵士なら装備を換装すれば密林から氷山まで幅広く出撃することはできる。しかしそんな装備は関係ない。奴らは特に装備を換装することなく様々な環境に適合できるのだ。
必要なものは時間だけ。時間さえかければ極端ではない地形のどこにでも適応し出撃できる。
「そ、そんな馬鹿な!ここは瘴気の渦巻く魔法の森だぞ…!その中でも更に劣悪環境な霧雨の館だぞ!?なんで入ってこれるんだよ!」
汎用性の高い奴らではあるが、好んで確保したがる場所がある。それは適度な水分と栄養を取れる補給ポイントがあり、一定の暖かさを持つ場所である。これは非常に魅力的なものなのだと奴らも分かっているのだろう。
水分と栄養分があり、寒さを凌げる場所があれば兵力に俄然の差がある戦いでも消耗戦に持ち込めば勝てる見込みがある。
「そ、そうだっアリスに応援を要請するんだ…!あいつなら答えてくれるはず。………………馬鹿な!何で出ないんだよ!?何のための通信人形だよ!?」
奴らは言葉を理解しない。理解できてもする必要なんてどこにもないのだ。悲鳴ならば言葉である必要もないし、命乞いなど聞く耳を持たない。ましてや敵の情報が欲しいわけでもないのだ。言葉はただ己の進路をゆがませる雑音でしかない。
「う、嘘だよな…う、撃つぜ?わたっ私は部屋の中でも平気でマスパ撃つぜ…?」
当然、脅しも効かない。無論それが命取りになることだってある。「出てきたら撃つ」と警告を受けたにも関わらず出て行けば当然撃たれる。だがしかし、それでもなお聞く耳を持つことはない。
奴らは個という感情はあまり持っていない。誰かが目的を成せれば自分はどうなってもいいのだ。自分は物事を成し遂げる重要な核であると同時にただの捨石でもあると本能に刻んでいる。だから奴らは止まらない。
「う、うわっ!く、くるなぁ!こないでぇ!ま、マスターす…う、あぁ、きゃああああああああ!!!!!」
そうして犠牲を払いながら戦火をかいくぐり戦果を挙げる。
何時しか、奴らは対象に対して絶対的な恐怖感を与える負の象徴として恐れられるようになっていた。それが奴らにとって最終最後の武器となるとも知らず。
「霊夢ーお茶淹れてくるねー」
「あいよ。よろしくアリス。ついでにご飯も作ってくれると助かる」
「私は飯炊きメイドではありません」
だがそんな奴らにも弱点はある。
それは戦闘力の弱さだ。単体では歩兵の一人も満足に打ち倒すことはできない。ひとつではただ地面に虚しく押し倒されて無残に踏み潰されるだけ。
しかし先述した相手への恐怖感を武器にすることでそれを克服できるのだ。相手に対して恐怖を与え動きが鈍くなったところを狙って突撃する。簡単に言うとヒットアンドアウェイ。
「ふー。あー、もうそろそろ嫌な時期になるわねぇ」
「何がかしら」
「あら紫。あんたもアリスのご飯たかりに来たの?」
「失敬な。私は対価を払って来てるのよ?外の人形でいいものがあったからあげたらお礼にってことで。それはともかく嫌な時期って?」
「梅雨よ梅雨」
「あーじめじめして嫌ねぇ」
「それはいいのよ。日本だし慣れてるし…でも…」
「でも?」
だがもし相手が全く恐怖を感じなければ?もし相手が接近を用意に感知できる勘を持っていたら?
「きゃあ!れ、霊夢!奴が!」
「あーはいはい大体そんな気がしてたわよ…しゃーない。ご飯のためにも奴にはアミュレットで早々に退場いただきましょうか」
「がんばってねー」
「あんたも来るのよ?残骸となった奴をスキマで山にでも捨ててきてもらいましょうか」
だがしかし、それでも奴らは諦めることをしないだろう。いや、諦めを知らないのだろう。ひたむきに挑み逃げず屈せず立ち向かう。ただそれだけが、いいやそれこそが奴らの評価に値する美徳なのかも知れない。
今日も奴らは野を超え山を越え大地を走る。黒き甲冑を揺らし鮮やかな翼を羽ばたかせながら、いつか夢見た安住の地…フロンティアを目指して。
「どうしたのリグル?…うわ!何でそんなもん持ってんの!?あ、あたいのほうに向けないでっ」
「死ぬほど憎いはずなのに…殺せない…同じ虫として…でも虫だって…うぐぁこのジレンマ!!」
本当に怖いのはカマドウマとムカデに決まっている
>>奇声を発する程度の能力さま
奴らが近くにいると思わず奇声を発したくなるものですねw
>>2さま
確かに億年単位で種が生きてるのは凄まじいことですね。
人間なんて言っても数百万年ですし?
>>3さま
バル○ンのCMに出てきたGの怪人を少しかっこいいと思ってしまった私は…。
>>4さま
姉に見せたところ同じような反応をされましたw
>>5さま
虫嫌いな私にとってリグル以外の虫は全て気持ち悪いと思ってしまいます…。
>>6さま
…なん…だと…!?
…うそ…だろ…!?
>>7さま
おそらくさとりさまがこちら側に出現なさったら常に臨戦態勢でしょう…。