人里の一角に佇む茶屋で他愛もない話に花を咲かせる人間と妖怪。
一人は幻想郷縁起を執筆している稗田阿求、もう一人は花の妖怪風見幽香。
「…もう、春ですねぇ」
「えぇ、もう春よ」
阿求は湯飲みを傾け茶を一口飲むと心底楽しそうに団子を頬張る幽香に尋ねる。
「楽しそうですね」
「えぇ、楽しいわ、春になればいろんな花が咲くもの」
「ご自分の能力で何時でも咲かせられのでは?」
「野に咲く花は能力で咲かせた花よりも生きる力に溢れている、とでも言えば納得してくれるのかしら?」
幽香の答えに阿求は頷き、黙りこむ。
何時ものように質問に質問を重ねるはずの阿求がそこそこで終わらせた事に不信感を抱いたのか、幽香は逆に阿求に問いかける。
「貴方は?春は楽しみじゃないの?花見とかあれやこれやとか」
無言で向き直る阿求の顔に気づいた幽香は湯飲みに視線を落とし、呟いた。
「…近いのね」
「えぇ」
死期が、近い。
阿求はその事をはっきりと口に出した。
「勝手なことだけど、貴方には長生きしてほしいわ」
「長生きしようが早死にしようが、私は私ですけど」
笑いながら茶化す阿求に幽香は微笑む。
「でも貴方には借りがあるのよ」
幻想郷縁起で少しばかり印象良くしてくれたから、と幽香は呟いた。
そんな言葉を聞いて、阿求は数度瞬きをし、お茶を飲み干す。
「…のどかな春で、ございます」
阿求は湯飲みを静かに置き、呟く。
「幻想郷縁起を書いてると『早く書きあげたいなぁ、もっと書きたいなぁ』って思いと『もう止めてゆっくり眠りたいなぁ』なんて言う気持ちがぽこぽこ頭を出すんです」
「ぽこぽこ…ね、貴方らしいわ」
そうですか、と微笑みひらひらと舞う桜の花びらを手のひらに載せながら、阿求は続ける。
「出来れば、来年もこんな桜を見れたら良いですね」
そう言って阿求は立ち上がり伸びをすると、幽香に向き直り言った。
「幽香さん、私の事、憶えておいて貰えますか?」
「当り前じゃない、貴方こそ私を忘れないで欲しいわ」
「私の能力お忘れですか?」
幽香は微笑みながら首を横に振る。
それに満足したのか、阿求はその年の少女らしい満面の笑顔で言った。
「幽香さん、またお会いしましょう、では」
「えぇ、また」
幽香の返答に満足したのか、阿求は家へと帰って行った。
「…またお会いしましょう、か」
既に小さくなりつつある阿求の背中を見つめつつ幽香は呟く。
やがて阿求の背中が見えなくなると、立ち上がり、礼を言って茶屋を後にした。
一人は幻想郷縁起を執筆している稗田阿求、もう一人は花の妖怪風見幽香。
「…もう、春ですねぇ」
「えぇ、もう春よ」
阿求は湯飲みを傾け茶を一口飲むと心底楽しそうに団子を頬張る幽香に尋ねる。
「楽しそうですね」
「えぇ、楽しいわ、春になればいろんな花が咲くもの」
「ご自分の能力で何時でも咲かせられのでは?」
「野に咲く花は能力で咲かせた花よりも生きる力に溢れている、とでも言えば納得してくれるのかしら?」
幽香の答えに阿求は頷き、黙りこむ。
何時ものように質問に質問を重ねるはずの阿求がそこそこで終わらせた事に不信感を抱いたのか、幽香は逆に阿求に問いかける。
「貴方は?春は楽しみじゃないの?花見とかあれやこれやとか」
無言で向き直る阿求の顔に気づいた幽香は湯飲みに視線を落とし、呟いた。
「…近いのね」
「えぇ」
死期が、近い。
阿求はその事をはっきりと口に出した。
「勝手なことだけど、貴方には長生きしてほしいわ」
「長生きしようが早死にしようが、私は私ですけど」
笑いながら茶化す阿求に幽香は微笑む。
「でも貴方には借りがあるのよ」
幻想郷縁起で少しばかり印象良くしてくれたから、と幽香は呟いた。
そんな言葉を聞いて、阿求は数度瞬きをし、お茶を飲み干す。
「…のどかな春で、ございます」
阿求は湯飲みを静かに置き、呟く。
「幻想郷縁起を書いてると『早く書きあげたいなぁ、もっと書きたいなぁ』って思いと『もう止めてゆっくり眠りたいなぁ』なんて言う気持ちがぽこぽこ頭を出すんです」
「ぽこぽこ…ね、貴方らしいわ」
そうですか、と微笑みひらひらと舞う桜の花びらを手のひらに載せながら、阿求は続ける。
「出来れば、来年もこんな桜を見れたら良いですね」
そう言って阿求は立ち上がり伸びをすると、幽香に向き直り言った。
「幽香さん、私の事、憶えておいて貰えますか?」
「当り前じゃない、貴方こそ私を忘れないで欲しいわ」
「私の能力お忘れですか?」
幽香は微笑みながら首を横に振る。
それに満足したのか、阿求はその年の少女らしい満面の笑顔で言った。
「幽香さん、またお会いしましょう、では」
「えぇ、また」
幽香の返答に満足したのか、阿求は家へと帰って行った。
「…またお会いしましょう、か」
既に小さくなりつつある阿求の背中を見つめつつ幽香は呟く。
やがて阿求の背中が見えなくなると、立ち上がり、礼を言って茶屋を後にした。
生き物はワクにはめられると自然の英知から切り離されて弱ってくもんです。
人間もなるべく社会と淡く付き合って、勝手に生きたいもんです。
80点