瑞々しい夏草の草原を歩きながら、ふと空を見上げてみると。
綿あめのようにふっくらとした大きな入道雲が、薄水色の海をゆったりと漂っているのが見えた。
まったくの快晴よりも、こうして雲が漂っている方が夏らしいのはなぜだろう。
雲が動き、強くなっていく日光を手で遮りながら、私はぽつりと思った。
「空ばかりじゃなく、地上にも目を向けてみたらどうかしら」
そんな私に背後から声を掛けてきたのは、山吹色の鮮やかな日傘を差した花の妖怪、風見幽香だった。
「地上?」
「ほら、可愛いひまわりたちがあなたを待っているわよ」
微笑みを浮かべた幽香の白い手が指し示す方向。
そこに目を移すと、今日の太陽に負けないくらいに満開のひまわりたちが、私の蒼い瞳に飛び込んできた。
思わず、見とれた。
ああ、なんて忠実に、誠実に。
遥か遠く光の女神へと、そのこうべを伸ばしていることか。
「みんな同じ方を向いているなんて、圧巻ね。まるで統制のとれた軍隊だわ」
「その言い方だとあんまり可愛くないわね……」
でも、知っているかしら、アリス。
幽香が一歩ずつこちらへ、物知り顔で近づきながら続ける。
「ひまわりはつぼみをつけるまでは太陽に向かって生長していくけれど、花が咲き始めるとだんだん動かなくなるのよ」
「へえ……じゃあ、咲ききったらずっとどこかを向いたままなの?」
「ええ、ほとんどが東や南を向いたまま」
ふーん、なるほどね。
私はふたたび、傍らの人形たちと一緒に、ざっとひまわりを眺めてみた。
そうは言うがやはり、じっと立っている彼らはどこか太陽を見つめているようで。
「ねえ、幽香」
「ん?」
「それでもひまわりって、何だか太陽のこと待っているみたいじゃない?」
ずっと同じ場所で佇んで、ずっと同じ場所を眺めて。
たとえ動けなくなっても、太陽がやってくるまで。
いつまでも、いつまでも、黄色い瞳を開き続ける。
ほら、やっぱり忠実で誠実だわ。
「なるほど、今度は可愛らしい解釈じゃない」
「きっと一途な子なのよ、ね」
よしよし、とひまわりを撫でるように優しく触ったら、隣の幽香がどこか嬉しそうに笑って言った。
「まるでアリスみたいね」
「え、何で?」
「ふふ、だって――ずっとここで、私がくるのを待っていたんでしょう?」
そう、何でもないように幽香が言うから。
とても幸せそうに微笑むから。
私の頬は、夏の太陽よりも熱く赤く燃え上がってしまった。
そしてそのまま幽香は笑顔を崩さずに、先ほど私がひまわりにしたように。
優しく、愛しそうに私の頭を撫でた。
「……別に、ずっと待っていたわけじゃないわよ」
それがあまりにも気恥ずかしくて。
私は思わず、いつもどおりの憎まれ口を叩いてしまったが。
けど、それでも幽香は、その幸せそうな微笑みを絶やすことはなかった。
綿あめのようにふっくらとした大きな入道雲が、薄水色の海をゆったりと漂っているのが見えた。
まったくの快晴よりも、こうして雲が漂っている方が夏らしいのはなぜだろう。
雲が動き、強くなっていく日光を手で遮りながら、私はぽつりと思った。
「空ばかりじゃなく、地上にも目を向けてみたらどうかしら」
そんな私に背後から声を掛けてきたのは、山吹色の鮮やかな日傘を差した花の妖怪、風見幽香だった。
「地上?」
「ほら、可愛いひまわりたちがあなたを待っているわよ」
微笑みを浮かべた幽香の白い手が指し示す方向。
そこに目を移すと、今日の太陽に負けないくらいに満開のひまわりたちが、私の蒼い瞳に飛び込んできた。
思わず、見とれた。
ああ、なんて忠実に、誠実に。
遥か遠く光の女神へと、そのこうべを伸ばしていることか。
「みんな同じ方を向いているなんて、圧巻ね。まるで統制のとれた軍隊だわ」
「その言い方だとあんまり可愛くないわね……」
でも、知っているかしら、アリス。
幽香が一歩ずつこちらへ、物知り顔で近づきながら続ける。
「ひまわりはつぼみをつけるまでは太陽に向かって生長していくけれど、花が咲き始めるとだんだん動かなくなるのよ」
「へえ……じゃあ、咲ききったらずっとどこかを向いたままなの?」
「ええ、ほとんどが東や南を向いたまま」
ふーん、なるほどね。
私はふたたび、傍らの人形たちと一緒に、ざっとひまわりを眺めてみた。
そうは言うがやはり、じっと立っている彼らはどこか太陽を見つめているようで。
「ねえ、幽香」
「ん?」
「それでもひまわりって、何だか太陽のこと待っているみたいじゃない?」
ずっと同じ場所で佇んで、ずっと同じ場所を眺めて。
たとえ動けなくなっても、太陽がやってくるまで。
いつまでも、いつまでも、黄色い瞳を開き続ける。
ほら、やっぱり忠実で誠実だわ。
「なるほど、今度は可愛らしい解釈じゃない」
「きっと一途な子なのよ、ね」
よしよし、とひまわりを撫でるように優しく触ったら、隣の幽香がどこか嬉しそうに笑って言った。
「まるでアリスみたいね」
「え、何で?」
「ふふ、だって――ずっとここで、私がくるのを待っていたんでしょう?」
そう、何でもないように幽香が言うから。
とても幸せそうに微笑むから。
私の頬は、夏の太陽よりも熱く赤く燃え上がってしまった。
そしてそのまま幽香は笑顔を崩さずに、先ほど私がひまわりにしたように。
優しく、愛しそうに私の頭を撫でた。
「……別に、ずっと待っていたわけじゃないわよ」
それがあまりにも気恥ずかしくて。
私は思わず、いつもどおりの憎まれ口を叩いてしまったが。
けど、それでも幽香は、その幸せそうな微笑みを絶やすことはなかった。
ひまわりって咲いてからも太陽の方向に向くんじゃないんだ…
こういうお話、好きです。
もっと読みたい。次回作も期待してます。