Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

デート中だってキャプテンが悪い話

2011/03/23 21:54:23
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 この作品は、作品集80にある『思い出した頃にキャプテンが悪い話』の続きになっています。
 
 先に読んでいると良いと思います。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 煮魚が予想していたよりも美味しくて、慎重に骨を取り除いてほぐしながら一口、大切に食べる。
 口の中に広がる味に満足して、ほっこりと噛み締める。
 
「……美味しい?」
「む」

 視線を感じて目を開くと、キラキラと期待に輝きながら感想を求める子供が一人。
 ゆっくりと租借しながらあえて焦らしてみると、子供はうずうずしながら苛めがいのある顔で「ぅう」と待ち遠しそうに、それでも大人しく待ち続ける。

「美味しいわね」
「! でしょ!」
「ええ、とても」
 
 自分が作った訳じゃないのに、嬉しそうににこーっとするお子様の顔に、ついついでこぴんをしたくなる衝動をこらえつつ、あー妬ましいとほどよい固さの白米を味わう。うんこれも良い。

「おすすめのお弁当屋さんに予約して特別に作ってもらったんです! パルスィお魚好きだから!」
「へぇ」
「それでね? このお魚は―――」

 尚も延々と話そうとするお子様の言葉を聞き流しながら、お子様こと、聖輦船とかいう船の船長とかやっている、普段は背伸びして紳士とか目指すガキんちょ。村紗水蜜を流し見る。
 さっきから不出来な船長で紳士というメッキがぽろぽろ剥がれて、言葉の音が、使い方が、表情が、仕草が、どんどん年相応になっていく。

「……ふぅん」
「?」

 にこーっとして首を傾げながら、無意識に足がふらふら楽しげな船長さん。
 つい我慢できなくて頬をぷにっとすると「あう?」っとムラサはきょとんとして「え?」って何かしたかなっておろおろしだしてぴしっと固まって、実に面白い。
 少し思案して、にこりとしてもう一度頬をぷにっ。

「ぉう?」
「ほれほれ」
「ぁ、パルスィ? やめ、やめて。まだ飲み込んでな、ぁう」

 口の中にまだ租借しているものがあると知りながら、こういう事をされると焦るわよね。分かるわぁ。
 行儀が良いとは間違っても言えない行為だけれど、ムラサが必死にごっくんしてお終い。

「パルスィ~」
「情けない声を出さないの。ほら、頬にご飯粒が付いているわよ」
「え…っ?!」

 自称立派な船長さんが、頬にそんなの付いていたら格好付かないわよね。慌ててお弁当と箸をおこうとするのを片手で制して(本当はさっき私がつけたんだけどね)そっと顔を寄せる。

 ちゅ。

「ぴっ!?」
「ん、ごちそうさま」
「ぱ、ぱぱぱパルスィ?!」

 あら、慌ててる。……へぇ。照れるんだ。ちょっと感動。
 悪戯心がむくむくともたげて、更に追撃。

「はい、返すわ」
「へ?!」

 ちゅう。

 あ、煮魚の味。……うっかり味わいそうね。っていうか、本当にこれ美味しい。レシピとか教えて、くれないわよねぇ。

「―――――ッ?!」
「ん、はいお終い」

 完全に停止したムラサににこりと微笑んで、残りのお弁当をパクパクと食べていく。
 今のを目撃した里人は、けっこう多いわね。……まぁいいわ。
 適当な田んぼ道のベンチに座っての行為だもの。それぐらい予想済み。
 そしてここまで見通しが良い場所なら……しっかり見えていたでしょうしね。
 あ。発見。
 心地良くもない妬みの波動ね。まぁ、この馬鹿に惚れるっていうならそれぐらいは出して貰わないと私が困るわ。
 ……でも、そうね。もう少し煽りましょうか。

「ムラサ、あーん」
「へえ?!」
「ほら、食べなさいよ」
「ッ!? ぱ、パルスィが優しく微笑みながら、あ、あーんって。あ、あああの?!」
「食べたくない?」
「た、食べたい!」

 はぐっ、と箸に歯をたてる勢いのムラサに、あらあらとほくそ笑む。
 妬みの波動が呪いを発動できるレベルに一気に跳ね上がって、これはこれはとぞくぞくする。

「美味しい?」
「っ!」

 こくこく赤い顔で頷くムラサ。
 今まではあえて地面に落としたのを食べさせたりしていたからか、本当に嬉しそうである。
 いや、それよりも、ここまでの妬みを浴びるのはほとんど初めてで、目的を忘れて味わいたくなる。

「……」
「パルスィ?」
「ううん、そうね。……別にいいわよね。それでも目的は達せられるわよね!」
「はい?」
「ムラサ、私にも、あーん」
「はぐッ!?」

 とても面白くうろたえて、だけれど私の笑顔のお願いに逆らえるわけもなく、ぎくしゃくと油の切れた機械人形よりもがちがちに、震える箸に煮魚を摘んで、ぷりゅぷりゅと持ち上げる。……可愛いわね。

「ど、どうぞ……!」
「ねえ、ムラサ」
「は、はい」
「あーんは?」
「ふぐぎゅッ?! …ッ、あ、あーん!」
「あーん」
「はぅッ!?」

 そっと歯で摘む様にして口の中にいれると、その途端にムラサが後ろにふらあっと倒れる。
 べちゃっと派手な音がしたが、お弁当だけは死守してあげて、もぐもぐと煮魚の味と妬みと達成感に酔いしれる。
 いやだわ。癖になったらどうするのかしら?
 とても晴れ晴れするわね、これ。

「ムラサ、早く食べないと酷いわよ?」
「……ッ、い、いえ、もう胸が一杯で」
「そう。はい、あーん」
「ぴッ?!」

 囀るムラサに再度あーんをすると、ムラサはあうあうと真っ赤になりながら、今度は箸をばきりと噛み切りながらも食べてくれた。てんぱりすぎである。
 もう、と。私の箸は駄目になったのでムラサの箸で再度食事を始めると、ムラサが「か、間接…?!」って、おかしな所で真っ赤になりだし、弱々しく目をふせて正座したまま動かなくなってしまう。
 ……こいつの照れる基準が謎ね。

「ムラサ、美味しいわね」
「……味、もうわかんないよ」
「ねえ、船長さん」
「何? あ、いえ何ですか?!」
「ごちそうさま」
「え? は、はぁ」
「美味しかったわ」
「……」
「私の好物、ちゃんと覚えていたのね。本当に、そういう所はちゃんとしているんだから」
「……はい」

 えへへ、と。
 あれだけペースを崩したのだから、ようやく見れるムラサの、ただの子供の顔。
 優しげでも少し頼れるでもない。ふにゃっとした子供の、力の入っていない笑顔。
 そうそう。そう笑ってなさいよ。
 あんたはやっぱり、どうしたって、そこから時間が進んでいない、止まったままの、止まったまま背伸びしただけの、子供なんだから。

「……」

 頭を撫でる。ぐしゃぐしゃと乱暴に。
 軽い頭がぐらぐら揺れて、ちょっと痛そうだけど嬉しそうに、でも笑っているのをばれない様にしようとして滲み出る嬉しさみたいなのがばればれで。このお子様、ともっとぐりぐりする。
 そして唐突にぱっとやめる。

「はい、褒めるの終了」
「え゛?!」
「お弁当のゴミとか捨ててきて」
「あ、うん」
「それと、お茶もきれちゃったわね」
「わ、分かった!」
「ムラサ」
「え?」
「足も疲れたから、戻ってきたら私をおぶってくれる?」
「う、うん!」
「四つん這いで私を乗せてね」
「まかせて!」
「応答はわんときゃうんだけよ」
「わん!」
「良い子ね。靴を舐めなさい」
「わん!」

 やる気満々のムラサは拳を握って即座に四つん這いになろうとした。だから私は笑顔を作って即座にムラサを蹴り上げる。きゃうん!? とムラサは鳴いた。

「……ふぅ、断りなさいっての!」
「わ、わん」
「どんだけ流れに身を任せるのよ?! いい? あんたは流されすぎ。少しはその頭で考えなさい!」
「っ」

 びくっとした顔で。今日初めて見せる強張った顔。……へぇ、どうやら自分で少しは気づいていたのか。
 少し見直す。
 
「ったく。デートやめるわよ」
「それだけは!?」
「じゃあ、人の顔色ばかり伺ってないで、少しは自分を立てなさい」
「…うっ」
「この愚図」
「……返す言葉もないです」

 がっくりしたムラサの頭を靴でぐりぐり踏みながら、まったくと溜息。
 またしても目的を忘れてしまいそうな、この駄目っぷり。
 ひしひしと露骨に感じる妬みの波動を受けながら、こんな奴のどこがそんなにいいのかと本当に分からない。私ならごめんである。マジでいらない。こんなの。

「パルスィ、痛い、ちょ、痛い」
「うるさいわよ。返答はわんでしょう?」
「わ、わ……わ、んなんて言わないよ? 犬じゃないもの!」
「学習はしているのね」
「あ、痛い。だから痛いよ。ちょ、痛い」
「いいから地面と語らってなさい。私の気がすむまで」
「ま、前にそれ言って、そのまま寝ちゃった事あるよね!?」
「よく覚えているわね。そのまま寝てたあんたもあんただけど」
「だ、だって他にやる事なくて……」
「だから、とっとと抜け出して逃げれば良かったのよこの馬鹿!」

 更にぐりぐりすると、ムラサがあぅうと非常に悲しげな声をあげながら、でも、とチラチラ私を見る。

「何よ?」
「……」
「言いたい事は言いなさい」
「……その」
「はっきりと大きな声で!」
「うぐ。あ、あのさ! い、痛いし嫌だし何か心がガシガシ削られているんだけどさ!」
「ええ」
「……ぱ、パルスィに構って貰えるの、嬉しいから。……抜けたくない、かなって……思ってる」

 へ? と。
 ぱちくりと。
 ……。
 あー、と、髪をかきあげる。
 まったく、さっきから。
 成長しているのか、退化しているのか、本当にこいつは分からない。
 ったく、少しは妬ませなさいよね、この馬鹿。


「変態」
「違うよ?!」

 ふみふみしながら罵って、一気に疲れてくる。
 こいつは、何て面倒くさい。
 今すぐに放り出したいのに、放り出せない厄介さ。苛立たしくて力を込めて踏みしだく。

「いたい、いたい、本当にいたい」
「嬉しいんでしょう?」
「むしろ心が死にそうです!」
「おめでとう」
「ちょっ?! 成仏じゃないからねそれ?!」

 じたばたしてきーきーうるさいこいつが、本当に鬱陶しくて、だからもう、しょうがない。
 もう、しょうがないから、付き合ってあげるわよ。今日だけは!
 
「ふぅ、足が疲れたわ」
「……だろうね」
「あんたを踏みしめていたせいで、暫く歩けないわね。背負いなさい」
「断っていいのかな?!」
「駄目に決まってんでしょう」
「……」

 うーって恨みがましげというよりは、何だか納得いってないって顔。あら可愛い。考えてみたらこいつ。中性的というか、もう少し髪を短くすると本当に性別分からなくなりそうで、好みではあるのよね。心からお断りだけど。
 そんな事を考えていると、ムラサは油断した私をぐいっと持ち上げる。

「え? ちょっと?」
「背負わない」
「あら」
「だから、その。お姫様抱っこ……し、します!」

 ……。
 唇が、知らず緩む。
 くすくすと。こいつは本当、お馬鹿さんで、でも憎めない。
 でも。ええ。
 それでいいのよ。

「結局運ぶのね」
「……ぱ、パルスィのお願いだから!」
「へぇ、ねえ船長さん」
「何? い、いや何でしょう?」
「安全運転でお願いね」
「……はい、それはもう。……お、お姫様の安全は保障します」
「そう」

 真っ赤な顔で照れている。
 普段ならさらっと言えるのでしょうけど。私の前じゃ無理よね?
 つんつんと頬をつつく。髪の隙間から土や泥が落ちていく。顔は赤くてとても情けなくて。でも懲りない。
 ねえ、ムラサ?

「あ、ゴミもちゃんと持ちなさいよ」
「うん!」

 子供みたいに素直なあんたを、さ。
 私は御免だけど、それでも。求めている奴はいるのよ?
 見えないの?
 私に見せる顔を、あなたはちゃんと、見せてきたの、あいつらに?
 泣きそうじゃないの、馬鹿。
 ちらりと見えた、二人の少女。私はあえて見えなかった振りをして、ムラサの首に腕を絡ませる。


「ね、次はどこに行きますか?」
「そうねぇ」


 前に、私はあんたに聞いたわよね?
 私には、ぬえの気持ちも、一輪の気持ちも、遠目からだけれどはっきりと分かったから、こそこそと遊びに来るあんたに聞いた。


『あんたを好きって物好きな奴と遊べば良いでしょう』


 って。
 そうしたら、あんたは。


『そんな誰かはいないですよ』


 あっさりと。当たり前の事を繰り返すみたいに、笑いながら言った。


「どこに行こうかしらね」
「たくさん案内する所はありますよ!」


 私は、その時に違和感を覚えて、それが何か分からないままに、その時は聞き流した。
 そして、思い出した頃に聞いてみた。


『どうしてあんたを好きな奴がいない、なんて断言しているのよ? あんた何様?』
『え?』


 あんたは、きょとんとして。笑いながら。
 諦めた笑いで。


『だって、私は幽霊です』
『そうね』
『悪霊です』
『まあね』
『子供だって産めない』
『いきなり生々しいわね』
『それにたくさん、たくさん殺しました』
『ここじゃ珍しくないでしょう?』
『……ねえ、パルスィ』
『何よ』
『……私は、知っているし、嫌だし、無いですよ』
『……』


 あんたは、暗い緑の瞳で。
 それでも笑って。


『私は、もしも私の、一番大好きな誰かが『こんなの』だったら、嫌です』
『……』
『だから。……私を好きになる誰かなんていない』
『……で、でも。あんたの『それ』を知らないで、あんたを好きになってくれる誰かだって、いるかもしれないじゃない』
『そんなの』


 その時のあんたは、酷く嫌そうに、顔を歪めて。


『御免です。そんな知らない誰かの好きなんて、応えようとも思わないし、すぐに消えますよ』


 冷たい、冷たすぎる無感情な声で。


『私を知らない好きなんて、私には無いと一緒です』


 有り得ない『もしも』を語る、どうでも良さげな声で。


『そして『私』を知って生まれる好きなんて、ある訳もない』


 信じてもいない。


『冗談じゃない』


 はっきりと。


『……ぐちゃぐちゃの水死体の末路に、好きとか、正気じゃない……ッ』


 吐き捨てる様に、嫌悪する様に、拒絶、した。
 
 ――――。


「パルスィ、どうかしました?」
「……うん、そうね」

 思い出す。
 今と昔がごっちゃになる。
 その時の私は、あんたの本性がうすらと見えて、寒気がしたのを覚えている。
 冷たい体。
 その体に自分の温い体を預けて、慣れない体勢にだけれど、それでもあんただから落ち着いて。
 明るい笑顔の奥で、こいつの心がどれだけ凍えているのかと、苛立った。今も昔も、それが腹立たしかった。
 ふざけるな。
 自分の世界で、自分の常識で、勝手に全てを完結させるな。
 
 あんたをそれでも好きな奴は、ちゃんといると。叫びたい。
 だけれど、今のこいつの凍った心には響かない。
 だからこそ。
 私は、あんたの成長を願っていた。子供が大人になって、心が強くなれば、あんただって、信じられるでしょう? 許せるでしょう? 受け入れられるでしょう?

 ……でも、あんたは止まったままここまできた。
 だけれど、ようやく兆しはきた。
 そう、ね。 



「……命蓮寺に行きたいわ」



 だから。
 なんとなく、今ならと。

 何が今なのか分からないままに、そこに向かうべきだと思った。

 こいつは、そろそろ気づくべきだ。

 自分が、どれだけ悪い奴なのか。
 どれだけ、他者の心を知らず踏みにじってしまっているのかを。


 ……馬鹿。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 パルスィお姉さん曰く、そんな思い込みをしている船長はいつだってずっと悪い。
 
 お姉さんの家庭訪問? 要求に船長は笑顔で停止中です。
 
 デート? なムラパルターンはまだまだ続きますです!
 
 
夏星
コメント



1.名無し削除
イイイヤッホウー!
修羅場?修羅場なのか!?
2.奇声を発する程度の能力削除
相変わらずの良さで良かったです
3.名前が無い程度の能力削除
パル姉さんが良いなあ

ぬえと一輪さんはまだ気絶中なんだろうか
4.名前が無い程度の能力削除
みー。パルスィーがついに動きだすですね。
修羅場ですね?解決編ですね?ナズ星は救われるんですね?ムラぬえになっちゃうですね!?
ヒャッホー!

失礼。つい興奮してしまいました。
続き、楽しみです。
5.名前が無い程度の能力削除
パルスィの回想の中のムラサが素敵だと思った自分は末期でしょうか…?
デートなムラパルで命蓮寺…だと!?修羅場しか見えないです。

その中でムラサがどう変わるか、楽しみです。
あとナズ星は勘違いしたままでいてくれると俺得でs(殴
6.名前が無い程度の能力削除
にゃっはー! パル姉さんがすごい良いです
7.名前が無い程度の能力削除
イヤラスィ
8.名前が無い程度の能力削除
腐った水死体を愛する人がいてもいい。自由とはそういう事だ
9.名前が無い程度の能力削除
パルスィ素敵。

むむむ。このシリーズもそろそろクライマックスが近いのか。
続きを楽しみにしております。
10.名前が無い程度の能力削除
船長の意外な一面を見た……やはり地底に封印されるだけのことはあるんだろう
でも皆何かしら持ってると思うし、自分を侮辱するのは他人を侮辱するに等しいよな
キャプテンの成長に期待しようか
11.oblivion削除
何やら佳境っぽいノリに
パルスィの割と懸命な優しさ、思わず応援したくなります

村紗の急な強い口調、心に来ますね
続きが楽しみ
12.ぴよこ削除
このわるい幽霊(このシリーズのタイトル的な意味で)が、自分の為した悪に気付ける日は来るのでしょうか。目が離せません。