足りないよねって、あたいは言うんだ。
そしたら文は目を丸くして「何がですか?」ってまったく乙女心? を分かっていない事をへーぜんと聞き返すから、あたいはムッとして、でもあたいは大人の女だからそんな文をかんよーに許してあげて、そっぽを向きながら、気づかれないようにちょっとづつ文に近づいていく。
そろそろとゆっくり。記事? を書いている文の横にまで、一歩、一歩、慎重に近づいていく。
文は西洋風? の何だか格好良い椅子に座っているから、その椅子によじ登って見上げる。
そこで、あたいはもう一度聞くのだ。
「足りないよね?」
「? ですから、何の事ですか」
はて? と目を丸くしてペンをくるっと回してあたいを見る文。その本当に分かっていない顔にガンッとした。
それからムッ!? ってきて。この鈍感のとーへんぼくめ! ってむかむかした。
大ちゃんが教えてくれたさげすむ? 様な目で見ると、文がびくっとして「え?」って笑いながら身を捩ってあたいから距離をとる。
「足りないよね!?」
「え? いえ、インクも用紙もネタも、今のところは充分ですけど?」
「……っ」
ぷくうってほっぺが勝手に膨らんでいく。
ここは文の家で、文は仕事部屋っていう文の大事な事をする部屋で、新聞の原稿っていうのを書いているからって、あたいが聞きたいのはそういう事じゃないって、分かってもいない。
大ちゃんが、あたいがしっかりしなくちゃ駄目なんだよって言ってた意味が本当によく分かる。文は駄目駄目だった!
「……文は駄目だ」
「思っていただろう事をわざわざ口に出すとか……、正直傷つきますね」
「文なんてそんなんだからチェリーなんだ」
「当たり前ですね?! 女ですしね?! そして誰が教えたそんな事?!」
「大ちゃん」
「またかあの腹黒妖精ー!?」
? 怒りだした文にきょとんとする。チェリーってさくらんぼだよ? だから大ちゃんは文を可愛いって褒めたのに、変な文。
ふふん。
あたいはチェリーがさくらんぼをえらく言ったものだってちゃんと知っているのよ! えらいのよ!
「ハッ!? い、いやまさかもしかしてあっちの意味でチェリーですか!? ……ッ、あ、あの大妖精、誰のせいでまだ手を出せないと」
「文、文!」
「あ、え!?」
「チェリーはね、さくらんぼなんだよ!」
「……へ?」
「だからね、文は可愛いのよ!」
「………………」
あたいは文にチェリーの意味を教えてあげると、文はぴしっと固まってだらだらと汗をかき出して、急に変な感じに赤くなっていく。
おかしい文がいつもよりおかしくて、どうしたのって覗き込む。
「文?」
「――はいッ!?」
「どうしたの?」
「な、なんでも、ないですよ!?」
「声がガチガチしてるよ?」
「ち、ちょっと、いえ、あまりにチルノさんが真っ白すぎて、ええ」
「? あたい青いよ」
「ぐふっ?!」
文が何だかぷるぷるして向かっていた机に突っ伏してしまった。
書きかけの原稿が皺になりそうで、慌てて取ってあげた。
文はこれが大切だから、文の大切はあたいの大切で、大事にしてあげるのだ。だから、その原稿がどこも曲がってたりしわしわになってなくて、ほっとした。
「文! 気をつけなさいよね!」
「あ。ええ、すいません」
文を怒ると、文は鼻を押さえて呼吸を乱しながら、すっごく面白そうで笑いたそうで、でも苦しそうでよく分からない感じになっていた。
「……あー。んん。それでチルノさん?」
「なあに?」
「チルノさんの足りないって何ですか? 教えてください」
「え?」
よいしょ、っと文が苦笑しながらあたいを椅子に座った文の膝の上にちょこんと乗せる。あたいはこの座り方好きだから、すぐに嬉しくなってしまって、えへへー♪ と文の体にすぐにしがみついた。
「わかんないのぉ?」
「分かりません」
「だから文は駄目なんだ~♪」
「ええ、私はチルノさんがいないと、大切な原稿も守れない、とてもか弱い天狗ですからね」
「えへへ~♪」
きゃあきゃあって足をじたばたさせると、文が「危ないですよ」ってもっとぎゅってしてくれる。くるりと椅子を回して文のお膝でお姫様にされる。
「んふふぅ♪」
嬉しくて顔がふにゃふにゃして、今ならにゃあにゃあごっこで一番になれそう。
文が優しい顔してくれているから、手足が勝手にじたばたして「にゃー♪」って本当に鳴いてみたら、文が「へ」って目を丸くして、すぐに噴きだした様にあははって笑ってくれた。
それが嬉しくて、もっとにゃあにゃあ鳴いてみた。
「チルノさん、可愛すぎですよ!」
「にゃあにゃんにゃん♪」
「あーもう、ぎゅーです!」
「きゃあん♪ にゃんにゃんにゃん」
文が好き好き好きって頬をぺろぺろすると、文はあははってまたたくさん笑ってくれて、文が嬉しそうで嬉しい!
にゃんにゃんごっこ。文の前で今度からいっぱい見せようって決めて、ぎゅうってしてくれる文に、あたいもぎゅうってしてにゃあにゃあする。
「チルノさん、にゃあ」
「! 文、にゃあにゃあ」
「はいはい。にゃんにゃあにゃあ」
「えへへぇ♪ にゃうにゃうなー」
「にゃん、にゃん、チュッ」
「ッ♪ なーごろごろ」
にゃんにゃんごっこ。初めてした筈なのに文はすっごく上手くてふにゃんふにゃんって降参ぽーずしたら、文は顔とか首とか耳とかにいっぱいちゅーしてくれる。
きゃあきゃあ言うと、文はにゃんにゃんってぎゅうって押さえ込まれてまたちゅうされて、あたいも文にたくさんちゅーした。
文の唇はふかふかしててあったかくて、口の中はもっとあったかくて、文は冷たいけどあったかいですってあたいの頭を撫でてくれる。
文といると、あたい冷たいのに勝手に熱くなるから、それで他の奴からからかわれたりするけど、文といるとどんどんあったかくなるあたいを、あたいは嫌いじゃないから嬉しくて、文にもっと抱きついた。
「あやぁ」
「はい、チルノさんは可愛いですね」
「あやのがかわいいよぉ」
「え? ……ええ、と。ありがとうございます。……本当に可愛すぎて理性が危機ですね」
「あやぁ?」
「はい、チルノさん」
あたいが呼ぶと文はぎゅーってしてくれるから。それだけであたいの喉は本物の猫みたいにごろごろしちゃいそうで、文の胸にぐりぐり顔をしてもっともっとあったかくなる。
「あ、ところでチルノさん」
「ふみゅ?」
「ぐっ。かわい……。い、いえ! だから、最初の足りない物って、何なのかなーと気になりまして」
ちょっと赤くなってへらって笑う文に、あたいはきょとんとして。まだそんな事を気にしてたんだって思って。
でも、その気になった事は何でも解決しようってする、文のそーいう、記者? な格好良い所があたいは好きだから、あたいはしょうがないなぁって笑うのだ。
んしょっと体を起こして、文のほっぺを撫でて抑えて、ちゅうってする。
「へ?」
「今はね、いっぱいなんだよ」
「は、え?」
「文の中の、あたい!」
そのまま心臓の上を押さえて「ね?」ってにかっと笑うと。
文はぽかんってしてから。あたいが言っていた『足りない』が何かようやく気づいて、あややややややややって顔半分を手で隠して「……それ、反則」ってあたいをむぎゅってした。
「チルノさん」
「?」
「すいませんが」
「わわ?」
そのまま、あたいは文にお口にちゅーされて、それから見えた文の赤い瞳が乾いて見えて、ドキンってした。
「私のチルノさん分は、まだまだ全然、足りない様です」
「ふぇ?」
「ですから、チルノさんともっといちゃいちゃしますね?」
にこり、と。
あたいが見惚れちゃう、素敵な笑顔。
そのまま、文はあーんってして、あたいのお口をまたぱくりと食べちゃって。
胸の奥がすっごくきゅうんってして。
あぁ、文は甘えん坊だから、やっぱりあたいが付いていなくちゃ駄目だって。
んぎゅうって、文を抱きしめるのだ。
あたいの中の文も、いっぱいだけどまだまだ足りなくて、あたいと文は、たくさんいちゃいちゃして、たくさんたくさん、一杯にするのだ。
えへへぇ♪ あたいの中の文は、まだまだたくさん入るから。
もうずっと、こうやってイチャイチャしなくちゃいけなくて。
だからあたいは、きっとずっと幸せなんだよぉって、文ににゃあってちゅうをした。
甘味ご馳走様でした。
甘ィ!!
甘っ!
夏星氏はホント罪作りな人やでェ……(糖死
このあややは
今なら砂糖が吐ける!!!!!
あまい