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――――以下本文。
幻想郷の地底、昔地獄として機能していたその場所は、現在は幻想郷の中でも嫌われ者の妖怪達の楽園となっていた。
その楽園、旧都の入り口で、朝早く。と言っても、朝日など昇らないのだが。屋台提灯に火が灯った。屋台の営業を示す、暖簾はかかっていないが。
「こんにちはー!文々。新聞です、新聞をお届けに参りましたー・・・ってそんな地味に嫌な顔しないでくださいよー」
屋台提灯が灯ってから最初の訪問者は鴉天狗、射命丸文だった。
「あれ?そんな顔してますかね。そんなつもりはないんですが・・・すいません。」
屋台の店主、頭巾は軽く頭を下げる。
「あややや、まさか謝られるとは。お一人で3部も購読してくださっているのに・・・」
それを見て射命丸は慌てて両手を振る。
「あいや、まあ自分ひとりで読む訳じゃありませんからね。最近忙しくてお客さんを待たせる事が多いので、こういうのは助かるんですよ。」
頭巾は笑顔で答える。
「この間のを期に地底で他の方にも購読してもらえば・・・ふふふ・・・」
なにやらにやにやしている射命丸を尻目に頭巾は何やら作業をはじめる。
「まあ、そのいつぞやの新聞は人気でしたよ。主にうちのお客さんに。あの号だけ買いたいって人結構いましたよ。あの号だけ。」
少々苦い顔をしながら頭巾は言った。
「あやややや!それは本当ですか!?これは刷りなおしを考えざるを得ませんね!?」
それに射命丸は割と尋常じゃない反応を見せる。
「・・・それはまあもう・・・ご勝手にどうぞ・・・」
その様子を見て何か諦め気味に頭巾は言う。
「それにしても、拒否しないんですねえ。貴方は、その辺の趣味でもお持ちなのですか?はっ、まさか私にあんな事やそんな事を言わせるために!?」
体をクネクネさせながら頭巾から離れる。
「もう・・・購読やめようかな・・・」
頭巾は顔をうつむける。
「冗談ですよ!冗談!この清く正しい射命丸がそんな事本気で思うわけないじゃないですか!・・・というかこういうのには弱いんじゃなかったんですか?」
射命丸は少し不思議そうにたずねる。
「いや・・・なんというか・・・慣れてしまって・・・はぁ・・・」
頭巾はため息をついた。
「あらあら、それはここの客の男連中の嫉妬を散々煽れそうねぇ。」
そこに、後ろから声がかかる。屋台の位置する旧都の入り口近くの橋の守り姫、水橋パルスィである。
「それは勘弁してください。いらっしゃいませ、パルスィさん。」
「あやややや、これはこれは、橋姫さんですか。私は・・・」
「知ってるわ。あの記事書いた天狗でしょう?天狗ってだけで妬ましい感じがプンプンするわ。」
射命丸が自己紹介をしようとしたのを遮ってパルスィは話を続ける。
「ふむ、それで橋姫さんはこんな時間にここに何の用ですか?確かにここは常にじめじめで薄暗い地底ですが、地上ではまだ朝ですよ?店主さんも仕込みをはじめたばかりでしょう?」
不思議そうな顔で2人を見回す。
「ん~、まあすぐにわかりますよ。はい、パルスィさん。射命丸さんもどうぞ。」
そう言って頭巾は手元の作業を終えて、竹の皮の包みを取り出した。
「おや、これは・・・おにぎり・・・ですか?」
射命丸は受け取ったそれを早速開き、中身を不思議そうに見つめる。
「えぇ、外だと海苔と言う物を巻くのが普通らしいんですがね、海苔はここでは貴重なので、高菜で巻いてみました。具は・・・お楽しみです。お昼にでもどうぞ。」
その様子を見て頭巾が解説をした。
「ありがとう、それじゃお願いね。」
そう言ってパルスィはカウンターに座る。
「あやや?まだ何かあるんですか?」
射命丸は少し不思議そうにたずねる。
「朝ご飯ですよ。一人で食べてもつまらないので、この時間に来てくれた方の分まで作って一緒に食べるんです。おにぎりもおまけで。一緒にどうです?」
そう言ってカウンターに座るように促す。
「あややや、今日はここが最後の配達場所で、実は少し疲れていたのですよ!すごくありがたいです!私もご一緒させていただきます!」
そう言って射命丸もカウンター、パルスィの横の席に座る。
「それじゃあ、射命丸さんは苦手な物ってあります?」
「天下の鴉天狗に怖いものなどあまりない!って感じですかねー」
胸を張り言い張る。
「何それ、妬ましい。」
隣でパルスィが呟いた。
「ふむ・・・それじゃあいつも通りでいいや。いいですよね?パルスィさん。」
そう言ってさっさと準備を始める。手元ではすでにウナギを捌いている。
「タダでもらってるんだもの。文句なんてないわ。」
パルスィは頬杖を付きながら返事を返す。
「たまには何か食べたいものを注文してもらってもこちらとしては全然構わないんですけれどね。」
そう笑顔で答えた。
「あややや、見事な手際で・・・」
頭巾の様子を見ていた射命丸が声をあげる。
「そうですかね?師匠にはまだまだ及びませんよ。」
「いやいや、もう負けてないんじゃありませんか?ほら、しゃべりながらでも一切手が止まらないのは凄いですよ!」
「そう言ってもらえると嬉しいですね。ここに来てから毎日忙しかったおかげかな?師匠にはこないだ、まだまだね。とか言われたばっかりなんですが」
褒められて嬉しいのか、素直に頭巾の顔が綻ぶ。
「あややや!それはですね!照れ隠しか何かですよ!ねぇ?橋姫さん!」
何やら楽しそうに射命丸がパルスィに話しかける。
「そうね、私は貴方の師匠の事は聞いた話でしか知らないけれど。ここに来た時より手際がいいのは私が見てもわかるわ。」
パルスィも素直に褒める。
「あわわ・・・まさかそんなに褒められるとは・・・素で照れてしまう・・・」
そう言って頭巾は少しだけ顔をそっぽに向けた。
「あはは!照れてますよ橋姫さん!ここは攻め時ですよ!マゾヒズムな店主さんをいじり倒してあげましょう!」
今度は本当に楽しそうに声を掛ける。
「あら、そういう趣味だったの。それは知らなかったわ。ちょっと怖いわね。」
パルスィが少し嫌な顔をして射命丸に身体を少し寄せる。
「ちょっと!?何変な情報勝手に擦り付けてるんですか!?勘弁してください!」
「あやややや!なるほど!こないだの記事の刷りなおしに一文書き加える事になりそうですねえ。」
射命丸は指を一本立てて、ウインクする。
「ほ・・・本気で勘弁してください・・・。」
本気で渋そうな顔をする頭巾。
「だから冗談ですよ!じょーだん!まあ事実だという確証が得られれば書きますがね。若干の脚色もあるかもしれませんが」
にやり、と射命丸。
「はぁ・・・だからもう・・・うん・・・勝手にしてください・・・さて、できましたよ。」
ため息をつき、声のトーンを切り替えて頭巾はおぼんに料理をのせてカウンターに置いて行く。
「あややや!これは塩焼きですね!とってもいい香りです!」
「味噌汁も美味しいわよ。朝しか出さないんだから。これ」
並べられた料理に射命丸は席を立ち目を輝かせる。パルスィは横でその様子を眺めていた。
「さて、じゃあ隣失礼しますよ。」
そう言って頭巾は屋台の中から一旦出てきて、射命丸の横に座る。
「あやや、こっちで食べるのですね。」
「そりゃ朝ご飯ですからね。商売じゃないんですから。同じ机で食べるのがいいでしょう。」
「そうじゃなくてですね。ほら、橋姫さんのお隣じゃなくていいんですか?」
こそっとひそひそ声で頭巾に話しかける。
「・・・?いや、こっちの方が近かったからこっちに座っただけですが・・・」
「聞こえてるわよ。あと、こいつにそんな感じのネタ期待しても無駄だと思うけれど?」
横から白い目で射命丸に忠告を加えるパルスィ。
「あややや・・・折角地底の方々向けの記事を書こうと思ったのに・・・残念です、こうなったら私自ら・・・!!」
立ち上がって拳を握りしめる射命丸。その横で、
「そんな事より食べましょう。ほら、座ってください。」
「そうね、私もそろそろ待ちきれないわ。」
2人の様子に射命丸は羽をしゅん、とさせて席に着く。そして
「・・・それじゃあ、いただきます。」
「「いただきます。」」
3人の朝食はのんびりと始まった。
「これはまた絶品ですねぇ。味も濃くなくて朝ごはんにぴったりです。漬け物もおいしい!」
「ねぇ、それよりこないだの記事、私はここで読んだだけなんだけどさ。あの写真、もっときれいなのないの?」
「ぶっ、ちょっパルスィさん何を!?」
「あー、アレですか?アレは新聞として印刷するとああなってしまうんですよ。もっときれいなのを所望されますか?」
「勘弁してください・・・」
「えぇ、是非お願いしたいわ。現地で見れなくて凄く残念だったの。」
「いや、本当に勘弁してくだ・・・」
「あややや!それなら今日にでもお届けいたしますよ!どこにお届けすれば?」
「・・・」
「あら、いいの?それならそこの橋に今日は一日たってるからあそこにお願い。」
と、ここで頭巾がガタッと席を立ち、カウンターの中に入ってなにやらごそごそと探している。
取り出したのは一升瓶である。お猪口も三つ取り出した。
「あやややや、こんな朝っぱらからお酒ですか?しかも私達にまで飲ませるおつもりで?」
「あら、何か嫌な事でもあったのかしらねぇ?」
2人でにやにやしながら話をしている。
「うん、酒が美味しい。いっそ倒れるまで飲んでみようか・・・」
お猪口を片手に頭巾は言う。
「貴方の場合、倒れてまたヤマ・・・ゴブッ・・・ちょ!?何すんのよ!」
パルスィが言い切る前に頭巾がパルスィの口に一升瓶をねじ込んだ。
「ん~?何の事ですか?」
頭巾は笑顔で言う。
「あややや、飲むならもっと一気に飲みたい気もしますがまあたまにはいいでしょう!それより何かあるんですか?」
少し気になる様子で頭巾とパルスィにたずねる。
「何でもありませんよ。ほら、どうぞ。」
そう言ってお猪口を渡し、それぞれにお酌をする。
「・・・私は一杯だけでいいわ。お茶もあるし、あんたら2人で好きなだけ飲みなさい。」
そう言ってパルスィもお猪口を受け取った。
今回はちょっとあっさり気味でしたが、楽しませていただきました。結局記事にされちゃったのね……
こういう作品は大好きです!