※前作『それだから私はやりました』の続きとなっています。
「私の名前は霧雨魔理沙」
「違うぜ、お前はアリスだ。アリス・マーガトロイド」
ぐっすり眠ってすっきり爽快。
朝日を全身に浴びて、心身ともに絶好調な今日の始まり。
朝起きてからの一言が、これ。
「馬鹿言ってないで、ほら、さっさと食えよ。私特製の松茸シチューだ、上手そうだろ」
「…朝からシチュー?」
「いいじゃないか、別に」
目覚めた時には珍しく、既に魔理沙が起きていた。
さらに珍しいことに、朝ごはんまでしっかり用意してくれていて。
今日は空からきのこでも降るんじゃないかと思うぐらい。
「どうだ、わざわざ夜明け前に起きてだな…」
「不味い」
「だろ。え?」
嘘。
魔理沙が作ったにしては、なかなか上手に出来てる。
そもそも魔理沙が洋食を作れるなんて、意外だった。
「何で松茸をシチューに入れようと思ったのよ。あぁ、気分悪くなってきた」
「…それ、口元を笑顔で綻ばせながら言うことか?」
「あ、おかわりお願い」
「はいはい」
実によく出来てる。
松茸の香りもそのままで、甘くとろけるような独特の味わい。
魔理沙がこんなのを作れるなんて、ちょっとだけ悔しいのは内緒。
「ごちそうさま。この上なく不味かったわ、吐き気がする」
「そっか。アリスのためにレシピを用意しといたが、余計なお世話だったな。残念」
「…ちょうだい。改良しといてあげる」
「そりゃどうも」
それはそれとして、今朝は寝起きから頭が冴えてる。
魔理沙は本気で私の冴えてる嘘を信じて、きっと心底落ち込んでるに違いない。
悪いことをしてしまった。
「…おい、どこ行くんだよ。作ってやったんだから、片付けぐらい手伝ってくれ」
「はいはい。何すればいいの?」
「皿洗って…それだけだな。それだけでいいから」
落ち込んでるだろう魔理沙を一人にしてあげようという、都会派な心配りはいらなかったみたい。
ただ、魔理沙を私の哲学研究に付き合わせるのは一旦止めにしてあげよう。
まだまだ相手はいることだし、次々いかなくちゃ。
あぁ、水が冷たい。
「本を返しにきたわけじゃないわ。また奪いに来たの」
「あ、そのへんに置いといて。前貸したやつでしょ?」
「…はい」
まだ日が昇り始めてから、大した時間は経ってない。
そんな時間なのに、動かない不健康少女、パチュリーは既に起きていて読書中。
案外生活リズムはしっかりしてるのかも。
「でね、今日も本を奪いにきたのよ。へっへっへ」
「好きに読んでて。紅茶でも用意させるから」
「…どうも」
そんな彼女を相手に嘘を貫き通してるんだけど、なんだか違う。
こう、自分のペースにもっていけてないっていうか。
全て見破られてるっていうか、そんな感じ。
「ねぇ、奪いに来たのよ。嫌でしょ、怖いでしょ」
「本気じゃないのぐらい分かるわよ。アリスはいい子だもんね?」
「え、えぇ。まぁね」
私が都会派ないい子なのは周知の事実。
だから、そんな出来た子である私が本を奪うなんて蛮行をしないと考えたのだろうか。
でも、そうなると一つだけ疑問が残る。
「確かに私はいい子だけど、昨日は本当に奪っていったじゃない。いい子だけど」
「昨日とは顔つきが違うもの。アリスは嘘をつけない都会派ないい子ね」
「…そんなのは都会派じゃないわ」
嘘かどうかが顔で分かるなんて、素直で純粋な田舎者もいいとこ。
ちょっとした腹黒さを内包してこそ、初めて都会派だと言えるのに。
都会派を正確に理解してない発言よね。
「じゃ、これで。もう二度と来ないから」
「はいはい。いつでも歓迎するわ」
負け惜しみ的に吐いた嘘も簡単に見抜かれちゃって。
ほら、パチュリーは賢いから。私に負けず劣らず。
見抜かれてしまったのも、私のせいじゃなくてパチュリーのせい。
次は、もっと頭の弱い相手でいこう。
「そう、あなたは最強よ。あなたに勝る妖精も妖怪も人間もいやしないわ」
「…馬鹿にしてんの?」
私の家は、鬱蒼と茂る森の中にある。
森の中なんだから、そこには数多くの妖精達が戯れていて。
その中に、自分を最強だと疑ってかからない馬鹿な妖精がいることを私は知っている。
当然、私の嘘が通る筈だと思ったのに。
「馬鹿にしてるなんて、そんなそんな。力に加えて聡明さも兼ね備えた存在、それがあなたじゃないの」
「なら、何でにやついてるのさ」
「え…あ、いや、これは。あなたにお話しするのも恐れ多くて、上手く口がまわらないだけよ」
彼女、チルノを甘く見過ぎてたみたい。
内心彼女をこの上なく馬鹿にしていた私だから、少し疑われただけで取り乱してしまった。
まだまだ完璧な都会派への道は長い。
「嘘つくんなら、もっと上手につけば? まぁ、あたいが最強なのは知ってるけどさ」
「…あなたより強い妖怪や人間なんて、腐るほどいるわよ。自惚れないで」
「ほら、やっぱり嘘だったんじゃん」
そして、私が嘘を貫き通すのを諦めるまでわずか一分足らず。
正直に全てを白状したって、上手い事いかなかった。
かと言って、嘘は何もかも見抜かれてしまう。
私の哲学研究に、終わりが見えてこないのはどういうことなのか。
「で、何の用なの? 暇そうに見えるかもしれないけど、あたいにだって用事があるんだから」
「もう無いわよ。協力ありがとう」
「え、なにそれ。騙すためだけに呼んだの?」
「まぁ、そうね」
用事があるんなら、さっさと行けばいい。
チルノに見抜かれるぐらいなんだから、きっと私は誰も騙せないんだろう。
あぁ、もう。都会派じゃないなぁ。
「無理だよ、絶対無理。アリスは自分で思ってるより正直者だから。特に顔が」
「顔?」
「そ、顔。思ってることが顔に出てるんだよ。まぁ、あたいが最強だから分かるのかもしれないけどさぁ」
得意げな顔して言ってくれるチルノ。
でも、少し思い返してみるとあら不思議。
『…それ、口元を笑顔で綻ばせながら言うことか?』
『昨日とは顔つきが違うもの。アリスは嘘をつけない都会派ないい子ね』
次々出てくる、心当たりの数々。これは使えそう。
口で伝えるのが不器用な私でも、表情なら伝えたいことを勝手に伝えてくれるんだから。
「あ、今悪い事考えたでしょ。悪い顔してたよ」
「悪い顔ってどんな顔よ。悪い事考えてないし」
「じゃあ何考えてたのさ」
「私の人生を変える、画期的なアイデアよ」
正直だとか嘘だとか、考え過ぎたのが今回の失敗。
言葉なんかなくたって、私には言葉以上に役に立つ武器がある。
自分で言うのもその通り、世界中の可愛さ美しさを集めたこの顔が全てを語ってくれるんだから。
「ほら、用事があるんでしょ。早く行きなさい」
「あ、そうだった! 二度とこんなので呼ばないでよ!」
「はいはい、どうもごめんなさい」
用事って言ったって、結局は悪戯か何かだろう。
チルノ本人はそう言ってないけれど、それこそ悪そうな顔をしていた。
さて、私も研究成果を試しに戻らないと。
「あ、あぁ。上手いぜ、よく出来てる」
「…」
「そっ…そうか。そうだよな、そんな感じ」
霧雨作、マーガトロイド編作の松茸シチュー改。
それを困ったように食べる魔理沙を、私は無言で見つめる。
魔理沙が何に困っているのかは分からないけど。
「な…なぁ。アリス」
「…?」
無言で首を少し傾ける私。
「…何で喋らないんだ?」
「…」
「そんな顔されても…」
そんな顔されても…だって。
まったく、これだから田舎者の魔理沙は修行が足りない。
私には表情だけで伝える才能が備わってるんだから、伝わらないとすればそれは魔理沙の側に欠点がある。
「あ、あの、怒ってるのか? 無言のプレッシャーって予想以上だな…これ」
「…」
「…それは肯定か否定か微妙な感じだな」
「…」
まぁ、すぐに表情のみでの会話をしろというのも無理がある。
田舎者の魔理沙が、都会派に成長するまで気長に待ってあげよう。
魔理沙には、まだまだ付き合ってもらう予定だから。
「私の名前は霧雨魔理沙」
「違うぜ、お前はアリスだ。アリス・マーガトロイド」
ぐっすり眠ってすっきり爽快。
朝日を全身に浴びて、心身ともに絶好調な今日の始まり。
朝起きてからの一言が、これ。
「馬鹿言ってないで、ほら、さっさと食えよ。私特製の松茸シチューだ、上手そうだろ」
「…朝からシチュー?」
「いいじゃないか、別に」
目覚めた時には珍しく、既に魔理沙が起きていた。
さらに珍しいことに、朝ごはんまでしっかり用意してくれていて。
今日は空からきのこでも降るんじゃないかと思うぐらい。
「どうだ、わざわざ夜明け前に起きてだな…」
「不味い」
「だろ。え?」
嘘。
魔理沙が作ったにしては、なかなか上手に出来てる。
そもそも魔理沙が洋食を作れるなんて、意外だった。
「何で松茸をシチューに入れようと思ったのよ。あぁ、気分悪くなってきた」
「…それ、口元を笑顔で綻ばせながら言うことか?」
「あ、おかわりお願い」
「はいはい」
実によく出来てる。
松茸の香りもそのままで、甘くとろけるような独特の味わい。
魔理沙がこんなのを作れるなんて、ちょっとだけ悔しいのは内緒。
「ごちそうさま。この上なく不味かったわ、吐き気がする」
「そっか。アリスのためにレシピを用意しといたが、余計なお世話だったな。残念」
「…ちょうだい。改良しといてあげる」
「そりゃどうも」
それはそれとして、今朝は寝起きから頭が冴えてる。
魔理沙は本気で私の冴えてる嘘を信じて、きっと心底落ち込んでるに違いない。
悪いことをしてしまった。
「…おい、どこ行くんだよ。作ってやったんだから、片付けぐらい手伝ってくれ」
「はいはい。何すればいいの?」
「皿洗って…それだけだな。それだけでいいから」
落ち込んでるだろう魔理沙を一人にしてあげようという、都会派な心配りはいらなかったみたい。
ただ、魔理沙を私の哲学研究に付き合わせるのは一旦止めにしてあげよう。
まだまだ相手はいることだし、次々いかなくちゃ。
あぁ、水が冷たい。
「本を返しにきたわけじゃないわ。また奪いに来たの」
「あ、そのへんに置いといて。前貸したやつでしょ?」
「…はい」
まだ日が昇り始めてから、大した時間は経ってない。
そんな時間なのに、動かない不健康少女、パチュリーは既に起きていて読書中。
案外生活リズムはしっかりしてるのかも。
「でね、今日も本を奪いにきたのよ。へっへっへ」
「好きに読んでて。紅茶でも用意させるから」
「…どうも」
そんな彼女を相手に嘘を貫き通してるんだけど、なんだか違う。
こう、自分のペースにもっていけてないっていうか。
全て見破られてるっていうか、そんな感じ。
「ねぇ、奪いに来たのよ。嫌でしょ、怖いでしょ」
「本気じゃないのぐらい分かるわよ。アリスはいい子だもんね?」
「え、えぇ。まぁね」
私が都会派ないい子なのは周知の事実。
だから、そんな出来た子である私が本を奪うなんて蛮行をしないと考えたのだろうか。
でも、そうなると一つだけ疑問が残る。
「確かに私はいい子だけど、昨日は本当に奪っていったじゃない。いい子だけど」
「昨日とは顔つきが違うもの。アリスは嘘をつけない都会派ないい子ね」
「…そんなのは都会派じゃないわ」
嘘かどうかが顔で分かるなんて、素直で純粋な田舎者もいいとこ。
ちょっとした腹黒さを内包してこそ、初めて都会派だと言えるのに。
都会派を正確に理解してない発言よね。
「じゃ、これで。もう二度と来ないから」
「はいはい。いつでも歓迎するわ」
負け惜しみ的に吐いた嘘も簡単に見抜かれちゃって。
ほら、パチュリーは賢いから。私に負けず劣らず。
見抜かれてしまったのも、私のせいじゃなくてパチュリーのせい。
次は、もっと頭の弱い相手でいこう。
「そう、あなたは最強よ。あなたに勝る妖精も妖怪も人間もいやしないわ」
「…馬鹿にしてんの?」
私の家は、鬱蒼と茂る森の中にある。
森の中なんだから、そこには数多くの妖精達が戯れていて。
その中に、自分を最強だと疑ってかからない馬鹿な妖精がいることを私は知っている。
当然、私の嘘が通る筈だと思ったのに。
「馬鹿にしてるなんて、そんなそんな。力に加えて聡明さも兼ね備えた存在、それがあなたじゃないの」
「なら、何でにやついてるのさ」
「え…あ、いや、これは。あなたにお話しするのも恐れ多くて、上手く口がまわらないだけよ」
彼女、チルノを甘く見過ぎてたみたい。
内心彼女をこの上なく馬鹿にしていた私だから、少し疑われただけで取り乱してしまった。
まだまだ完璧な都会派への道は長い。
「嘘つくんなら、もっと上手につけば? まぁ、あたいが最強なのは知ってるけどさ」
「…あなたより強い妖怪や人間なんて、腐るほどいるわよ。自惚れないで」
「ほら、やっぱり嘘だったんじゃん」
そして、私が嘘を貫き通すのを諦めるまでわずか一分足らず。
正直に全てを白状したって、上手い事いかなかった。
かと言って、嘘は何もかも見抜かれてしまう。
私の哲学研究に、終わりが見えてこないのはどういうことなのか。
「で、何の用なの? 暇そうに見えるかもしれないけど、あたいにだって用事があるんだから」
「もう無いわよ。協力ありがとう」
「え、なにそれ。騙すためだけに呼んだの?」
「まぁ、そうね」
用事があるんなら、さっさと行けばいい。
チルノに見抜かれるぐらいなんだから、きっと私は誰も騙せないんだろう。
あぁ、もう。都会派じゃないなぁ。
「無理だよ、絶対無理。アリスは自分で思ってるより正直者だから。特に顔が」
「顔?」
「そ、顔。思ってることが顔に出てるんだよ。まぁ、あたいが最強だから分かるのかもしれないけどさぁ」
得意げな顔して言ってくれるチルノ。
でも、少し思い返してみるとあら不思議。
『…それ、口元を笑顔で綻ばせながら言うことか?』
『昨日とは顔つきが違うもの。アリスは嘘をつけない都会派ないい子ね』
次々出てくる、心当たりの数々。これは使えそう。
口で伝えるのが不器用な私でも、表情なら伝えたいことを勝手に伝えてくれるんだから。
「あ、今悪い事考えたでしょ。悪い顔してたよ」
「悪い顔ってどんな顔よ。悪い事考えてないし」
「じゃあ何考えてたのさ」
「私の人生を変える、画期的なアイデアよ」
正直だとか嘘だとか、考え過ぎたのが今回の失敗。
言葉なんかなくたって、私には言葉以上に役に立つ武器がある。
自分で言うのもその通り、世界中の可愛さ美しさを集めたこの顔が全てを語ってくれるんだから。
「ほら、用事があるんでしょ。早く行きなさい」
「あ、そうだった! 二度とこんなので呼ばないでよ!」
「はいはい、どうもごめんなさい」
用事って言ったって、結局は悪戯か何かだろう。
チルノ本人はそう言ってないけれど、それこそ悪そうな顔をしていた。
さて、私も研究成果を試しに戻らないと。
「あ、あぁ。上手いぜ、よく出来てる」
「…」
「そっ…そうか。そうだよな、そんな感じ」
霧雨作、マーガトロイド編作の松茸シチュー改。
それを困ったように食べる魔理沙を、私は無言で見つめる。
魔理沙が何に困っているのかは分からないけど。
「な…なぁ。アリス」
「…?」
無言で首を少し傾ける私。
「…何で喋らないんだ?」
「…」
「そんな顔されても…」
そんな顔されても…だって。
まったく、これだから田舎者の魔理沙は修行が足りない。
私には表情だけで伝える才能が備わってるんだから、伝わらないとすればそれは魔理沙の側に欠点がある。
「あ、あの、怒ってるのか? 無言のプレッシャーって予想以上だな…これ」
「…」
「…それは肯定か否定か微妙な感じだな」
「…」
まぁ、すぐに表情のみでの会話をしろというのも無理がある。
田舎者の魔理沙が、都会派に成長するまで気長に待ってあげよう。
魔理沙には、まだまだ付き合ってもらう予定だから。