紫との対決から一週間がたったこの日、
チルノとリグル、そしてルーミアは妖精の湖に集合した。
「それで、体調の方はどうなの?」
リグルがルーミアに尋ねる。ルーミアは胸をポンと叩き
「大丈夫、全快なのかー!」
力強く答えた。終盤、毎回のように苦しめられていた胃の痛みが何故解消したのか、
それは一週間前、幽々子に宣戦布告された時に遡る……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…それはそうとあなた、相当弱っているわよね?」
「え?そ、それは…」
幽々子に図星をつかれ、しどろもどろになるルーミア。
そんなルーミアの様子に構うことなく、服の袖から一つの薬を出した。
「永遠亭に行って貰っておいたの。八意印の特効性の胃薬。
あなたの胃の痛みはきっと連戦による胃の疲労。
これを飲んで一週間おとなしくしてれば治るはずよ。私も昔経験しているからね。」
はい、とルーミアに薬を手渡す幽々子。
それを受け取りながら、ルーミアは幽々子に尋ねた。
「どうして、ここまでしてくれるのだ?来週戦う相手なのに。」
「あら?そんなの当然じゃない。」
幽々子はふわふわとした調子を崩さず、扇子で表情を隠しながらルーミアに告げた。
「現チャンプには万全の状態で挑んでもらわないと。
不完全な状態のチャンプに勝ったって意味がないもの。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^
「幽々子って奴、なかなかいい奴ね!」
「うん、よくわからない人であるけど、悪い人ではなさそうだ。
前の八雲紫の時みたいに、インチキをするようなこともしないだろうね。
……だからこそ、よっぽど自分の胃袋に相当な自信を持ってるんだろうけど。」
チルノとリグルの幽々子に対する言葉に、ルーミアも力強い表情で続いた。
「だからこそ、この勝負、負けるわけにはいかないのかー。」
ルーミアの言葉にチルノとリグルは頷き、試合会場へと歩き出した。
正真正銘の最終戦、西行寺幽々子とのフードファイトの会場へ……
「……」
そんな3人の後をこっそりとつげる人影に、ルーミア達は気付かなかった。
そして3人は、試合会場へとやってきた。
出迎えたのは前回、ルーミアとの死闘?を繰り広げた八雲紫。
「いらっしゃい。こういう形で会うのも今回で最後ね。」
「あ!インチキババア!」
チルノが出会いがしらに暴言を吐いた。
「うぐっ!」と言葉を詰まらせるものの、紫は気を取り直して言葉を続ける。
「ゴホン!……さて、今回は幽々子と戦うことになるのだけど、
少し幽々子について話しておきましょうかね。知りたいでしょう?」
コクン、と三人が頷いた。
「幽々子は前回のフードファイトのチャンプ。まったくの負け無し、無敵の存在だったわ。
戦歴は20勝0敗。つまり、無傷の20連勝をしたってことよ。」
「20連勝!?」
「そして対戦者がいなくなってしまった。誰も幽々子に挑戦しなくなってしまったの。
フードファイトはそこでお開きとなった。幽々子という圧倒的なチャンプに潰された形ね。
だから第二期を始めるにあたって、一つ絶対の決まりを作った。
『幽々子をフードファイトに参加させない。』…当然本人はブーたれたけど、殿堂入りという形で我慢してもらった。
それが今回、こういう形で幽々子自ら戦いを挑んできたってことは…」
紫はルーミアの顔を見て、ニヤリと笑う。
「よっぽど、あなたのことが気になるのね。」
「私が、かー……」
「私としても、ここまで来たら見てみたいわ。
元チャンプと現チャンプ、どちらがより強い胃袋を持っているのかを、ね。
……ほら、来たみたいよ。」
紫が奥の扉に視線を向けると、今回の挑戦者でありフードファイト第一期のチャンプでもある、
西行寺幽々子がその姿を現した。相変わらずふわふわとした笑みを絶やさずにいる。
そしてルーミアが来ていることを確認すると、ゆっくりと口を開いた。
「さあ、もう始めましょう。お腹すいちゃったわ。」
~~ フードファイタールーミア ~~
Extra Stage 大食いキャラ頂上決戦
競技場の二つの机に、二人の王者が同時に座った。
第一期フードファイトチャンプ、西行寺幽々子。
第二期フードファイトチャンプ、ルーミア。
『メニューはおにぎり。二人の食べる量を考えて、いつもより更に大量に用意してあるわ。
それじゃあ始めましょうか、フードファイトの、頂上決戦を!』
――カーン!
試合開始のゴングが鳴り響く。次の瞬間には、既にお互いおにぎりを口の中に入れていた。
「は、はやい…!」
「二人とも、早すぎる!」
観客席で何試合もフードファイトを観戦してきたチルノとリグル。
それなりにフードファイトの光景も見慣れてきたはずだった。しかし…
「この二人の戦い、今までのとは格が違う!」
無傷の20連勝を成し遂げたという西行寺幽々子が圧倒的なスピードを見せれば、
胃の痛みも無くなって本来の圧倒的なペースを取り戻したルーミアがそれを追いかける。
「この二人、互角だ!」
「…と、見えるでしょうね、側からは。」
一人モニターで観戦している紫は、二人の間にあるわずかな差を見切っていた。
幽々子は手を抜いているわけではない。100%の実力そのままを出し切っている。
しかしルーミアは現在、そのペースについていくため120%の力を出しているのだ。
ルーミアの方が無理をしている現状。少しでもルーミアが疲れを感じ始めると…
ルーミア:18 幽々子:20
「…ほうらね。」
わずかではあるが差が開いた。この小さな差が、この先どんどんと広がっていくことだろう。
「初めて幽々子に土をつけるっていう展開にも期待したけど……
やはりこのフードファイトにおいては、幽々子の方が地力は上ね。」
――カーン!
前半終了を告げるチャイム。結果は紫の読み通り…
ルーミア:27 幽々子:32
幽々子がわずかに差を広げての終了となった。
わずかな差だが幽々子のペースがブレない以上、この差を詰めることは想像以上に困難であろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
休憩時間。胃の痛みは無いものの明らかにオーバーペースで食べ続けているルーミア
その表情には疲れの色が浮かんでいた。
チルノとリグルもルーミアを心配する。
「ルーミア、大丈夫?」
「うん…大丈夫。でも、強いのかー。」
「なんたって無傷の20連勝だっていうからね。誰にも負けたことないんでしょ?
でも私は…ルーミアなら勝てるって信じてる。」
「あたいも!」
「二人とも……ありがとう。」
ルーミアを励ましあっているうちに時間となった。
「じゃあ、行ってくるのだー。」
「頑張れルーミア!」
「あとちょっとだよ!」
控え室を後にし競技場へと向かったルーミア。
そしてルーミアを見送り、チルノとリグルも観客席へ移動しようとしたところで…
「う~、どこへ行けばいいの?早苗と一緒に来ればよかった…」
扉が開き、一人の妖怪が入ってきた。
チルノ達の親友の一人であり、今回このフードファイトに参加するきっかけになった少女…
「あー!見つけたー!!」
ミスティアであった。二人を見つけ叫ぶミスティア。
一方のチルノとリグルも驚きを隠せない。
「みすちー!」
「どうしてここに!」
「三人の後をつけてたんだよ。スキマの中で見失って、しばらく迷ってたんだけどね。
……ってそうじゃなくて!」
ミスティアは動揺する二人に詰め寄り、言葉を続ける。
「早苗さんから全部聞いたよ!
私の屋台のために、こんな競技に参加してくれてたんでしょ?
……だけどもう大丈夫!大丈夫だから、帰ろうよ!こんな危ない競技……」
「みすちー。ちょっと待って。落ち着いて。」
ヒートアップするミスティアを、リグルが鎮める。
そして、チルノがミスティアの手を引っ張った。
「ミスティア、まだルーミアが戦ってるところ、見たことないでしょ?
見に行こうよ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チルノ達はミスティアを連れて観客席へとやってきた。
既に後半戦が始まっている。ペースは変わらず幽々子優勢のようだ。
「ルーミア!」
ミスティアがルーミアの姿を確認して、声をあげる。
そしてチルノとリグル、二人に向き合った。
「あのね、私の屋台はもう大丈夫なんだ。
経営も安定した、早苗さんのお店も協力してくれた。
だからもう、後は私が頑張ればいいだけなの。」
「ほんと?よかった!」
「うん。みんなには迷惑ばかりかけてたね。ごめん。」
「迷惑だなんて思ってないよ!あたい達友達だもん!」
「…ありがとう。だからね、もうルーミアに無理をさせる必要もないんだよ。
二人とも…ルーミアを、止めよう?」
ミスティアはチルノとリグルに提案する。
しかし、二人は即座に首を振った。
「それは、出来ない。」
「どうして!みて、あんなに苦しそうな顔をして食べてる!
あんなルーミア初めて見たよ!もうこれ以上負担をかけさせたくないの!」
「あたいも同じことを思ったよ。あたいが代わろうともした。
でも断られたんだ。あのね、背負ってるものが増えちゃったんだって。」
「背負ってる…もの?」
「うん、それは…」
チルノとリグルは、同時にミスティアに同じ単語を告げた。
「「『チャンプ』」」
「最初はただのお金稼ぎだったよ。でも勝ち続けたことで、負けた人の想いも背負った。」
「今戦っている幽々子って人も、ルーミアの体調を治してまでルーミアと戦うことを望んだ。」
「そして、ルーミア自身も戦うことを望んだんだ。だからあたい達がいくら言っても、ルーミアは止まらない。」
「私達がルーミアにかけるべき言葉は、心配の言葉じゃない。
ルーミアが求めてるのは、そんな言葉じゃないんだ。
ミスティア…わかるよね。」
チルノとリグルに諭され、ミスティアはただ黙って頷いた。
自分がすべきことが、理解できたからだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
残り10分。現在のスコアは…
ルーミア:40 幽々子:47
なんとか必死にルーミアが幽々子に喰らいついている状況だ。
しかし本来のペースで食べ続ける幽々子に対して、
オーバーペースで食べ続けるルーミア。明らかに限界が近づいていた。
『ルーミアーー!!』
と、そこに、一人の少女の声が競技場へ響いた。
観客席からだ、とルーミアがそちらへ視線を送ると…
「みすちー……」
ここにいるはずのない親友の姿がそこにあった。
ミスティアは更に叫び続ける。
『もう屋台のことは心配しなくていいよ!潰れる心配も無くなった!
お客さんも戻ってくる!だから、ルーミア、もう心配しないでいいよ!』
『だからルーミア、私のためじゃなく、自分のために、食べて!!』
『がんばれーーー!!ルーミアーーーー!!!』
ミスティアの必死の声援。横ではチルノとリグルも声を張り上げている。
それを見てルーミアは……
「そっか……そーなのかー……」
大きな、安堵感につつまれていた。
もう『みすちぃ』は大丈夫。寄付をしなくても大丈夫。
自分が心配することは、何一つ無くなったのだ。
「……」
ルーミアは自分の手にあるおにぎりをじっと見つめた。
心配ごとが無くなって、ルーミアの頭の中はある一つの欲求で埋められた。それは……
「よく見たらこのおにぎり……」
食 欲 !
「すごくおいしそうなのだ♪」
その言葉を皮切りに、ルーミアは再びおにぎりを食し始めた。
先ほどまでのペースが120%とするならば、今のペースは150…いや、200%!
その圧倒的ペースに、観客席にいるミスティア達も驚く。
「すごい!またペースをあげた!頑張れ!」
「でも、大丈夫なの?さっき以上に無理してるんだよ?」
「大丈夫だよ!あたいには分かる!だって見てよ!」
心配するリグルに、チルノはルーミアの様子をよく見るように促した。
そのルーミアの様子は……
「すごく、おいしそうに食べてるよ!!」
このルーミアのペースの変化には隣の幽々子も気付いた。
(あらあら…心配ごとが無くなって、ようやく本当の食欲魔人の誕生ってとこかしら。
でも…私も負けないわよ?)
幽々子もまた、ペースをあげる。
しかし苦しそうな様子はどこにも無く、彼女もまた、おにぎりをとてもおいしそうに食べている。
まるで食べることそのものに感謝しているかのように。
そして……
――カーン!!
試合終了のゴングが鳴り響いた。皆が一斉にスコアを見る。そこには……
ルーミア:80 幽々子:80
まったく同じ数字が、二つ並んでいた。
「ど、同点!」
「こんなの初めてだ!」
「どーなるの?引き分け?」
動揺する観客席。しかし幽々子は、静かに首を振った。
「違うわ、引き分けじゃない。勝負はついているわ。」
「え?どっちが…」
ルーミアの問いには答えず、ただ静かに手を開いて、ルーミアに見せた。
その手の指先には…
「ご飯粒…」
ご飯粒が一粒だけ、くっついていた。
幽々子はルーミアに向かって、ニコリと笑いかける。
「ご飯粒一粒ぶん、あなたの方が多く食べているわ。
あなたの勝利よ、チャンプ……ルーミア。」
「おおおお!」
「やったああ!!」
「ルーミア!おめでとーー!!」
幽々子の言葉を皮切りに、観客席から祝福の声があがる。
元チャンプと現チャンプ、東方キャラの大食いキャラ頂上決戦は、ルーミアに軍配が上がった。
「私が……勝ったのかー……」
「どうしたの?もっと嬉しそうになさいな。」
「まだちょっと…信じられない……。」
「私の胃袋よりもあなたの胃袋が勝った、それだけよ。
あなたの胃袋は宇宙なんでしょ?」
「…うん!」
幽々子の言葉に、ルーミアは満面の笑みで答えた。
「私の胃袋は宇宙なのかー!この宇宙には、おいしいものがいっぱい溢れているのだ♪」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
フードファイトが終わり、彼女達はそのまま流れ込むようにミスティアの屋台、『みすちぃ』へ向かった。
ルーミアの祝勝会、幽々子の残念会、フードファイトそのものの打ち上げ…
いろいろな名目が絡み合っているが、要はみんなでバカ騒ぎをする集まり…
「「かんぱ~~い!!」」
つまるところ、宴会である。
みんな思い思いに飲んで騒いでいた。今日は『みすちぃ』も貸切である。
「ん~モグモグ♪」
「幽々子…よくそんなに食べられるわねぇ。さっきフードファイトをしたばっかでしょう?」
「あら、私の胃袋も宇宙なのよ~!ああそういえば、あなたの胃袋はインチキスキマでしたっけ?」
「幽々子…そのネタはもういいじゃない。藍にバレたらなんて言われるか…」
「あらあら、向こう100年はこのネタで引っ張っていくわよ~?」
「勘弁して~!」
幽々子が紫をいじって遊べば、もう一方では
「やっぱりルーミアが勝つと思ってたぜ!なんたってこの私に勝ったんだからな!」
「ん~!やっぱり屋台では『みすちぃ』が一番だねぇ!」
「ちょっと美鈴さん!ウチのお店だって負けては…
って霊夢さん!だからいつも言ってるじゃないですか!泣きながら食べるのはやめてくださいって!」
「おいひぃ、おいひぃ~!」
かつてルーミアと戦った挑戦者達も飛び入り参加し騒いでいる。
どんちゃん騒ぎという言葉がふさわしい、まさに宴会という光景が広がっている。
そして屋台のカウンター席、ミスティアに一番近い席では、
チルノとミスティア、そして今回の宴会の主役であるルーミアが座っていた。
「えっと、まだちゃんと言って無かったよね。みんな…」
ミスティアはルーミア達に対して、静かに頭を下げた。
「私の屋台のために、いろいろとしてくれてありがとう。
最初は、店を畳むことも覚悟してた。でもこうして屋台が続けられるのは、
みんなが頑張ってくれたおかげ。本当に…ありがとう。」
ミスティアからルーミア達に送られる感謝の言葉。
それに対してチルノとリグルは…
「何言ってるのよ!親友だから当然じゃない!」
「そうそう!当たり前のことだよ!」
ミスティアを元気付ける。そしてルーミアは…
「みすちー、鰻一本ちょうだい。」
「あ、うん。…お待ちっ!」
八目鰻を一本頼んだ。出来上がった鰻を手にとり、ミスティアに語りかける。
「私ね、この鰻が食べたかったから、頑張れたのだー…」
「ルーミア…」
「ここ数週間、いろんなものをいっぱい食べてきたけど…」
ルーミアは満面の笑顔をミスティアに向けた。
「やっぱり、みすちーの鰻が一番おいしいね!」
その言葉に感極まったのか、ミスティアの目にうっすらと涙が浮かぶ。
それを隠すかのように、顔をそむけ照れながらルーミアをせかした。
「ほ、ほらルーミア!冷めちゃうから、早く食べなよ!」
「うん!それじゃあ…」
ルーミアは満面の笑顔のままで、口を大きく開けた。
「いただきま~す♪」
~~ フードファイタールーミア ~~
完
チルノとリグル、そしてルーミアは妖精の湖に集合した。
「それで、体調の方はどうなの?」
リグルがルーミアに尋ねる。ルーミアは胸をポンと叩き
「大丈夫、全快なのかー!」
力強く答えた。終盤、毎回のように苦しめられていた胃の痛みが何故解消したのか、
それは一週間前、幽々子に宣戦布告された時に遡る……
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「…それはそうとあなた、相当弱っているわよね?」
「え?そ、それは…」
幽々子に図星をつかれ、しどろもどろになるルーミア。
そんなルーミアの様子に構うことなく、服の袖から一つの薬を出した。
「永遠亭に行って貰っておいたの。八意印の特効性の胃薬。
あなたの胃の痛みはきっと連戦による胃の疲労。
これを飲んで一週間おとなしくしてれば治るはずよ。私も昔経験しているからね。」
はい、とルーミアに薬を手渡す幽々子。
それを受け取りながら、ルーミアは幽々子に尋ねた。
「どうして、ここまでしてくれるのだ?来週戦う相手なのに。」
「あら?そんなの当然じゃない。」
幽々子はふわふわとした調子を崩さず、扇子で表情を隠しながらルーミアに告げた。
「現チャンプには万全の状態で挑んでもらわないと。
不完全な状態のチャンプに勝ったって意味がないもの。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~^
「幽々子って奴、なかなかいい奴ね!」
「うん、よくわからない人であるけど、悪い人ではなさそうだ。
前の八雲紫の時みたいに、インチキをするようなこともしないだろうね。
……だからこそ、よっぽど自分の胃袋に相当な自信を持ってるんだろうけど。」
チルノとリグルの幽々子に対する言葉に、ルーミアも力強い表情で続いた。
「だからこそ、この勝負、負けるわけにはいかないのかー。」
ルーミアの言葉にチルノとリグルは頷き、試合会場へと歩き出した。
正真正銘の最終戦、西行寺幽々子とのフードファイトの会場へ……
「……」
そんな3人の後をこっそりとつげる人影に、ルーミア達は気付かなかった。
そして3人は、試合会場へとやってきた。
出迎えたのは前回、ルーミアとの死闘?を繰り広げた八雲紫。
「いらっしゃい。こういう形で会うのも今回で最後ね。」
「あ!インチキババア!」
チルノが出会いがしらに暴言を吐いた。
「うぐっ!」と言葉を詰まらせるものの、紫は気を取り直して言葉を続ける。
「ゴホン!……さて、今回は幽々子と戦うことになるのだけど、
少し幽々子について話しておきましょうかね。知りたいでしょう?」
コクン、と三人が頷いた。
「幽々子は前回のフードファイトのチャンプ。まったくの負け無し、無敵の存在だったわ。
戦歴は20勝0敗。つまり、無傷の20連勝をしたってことよ。」
「20連勝!?」
「そして対戦者がいなくなってしまった。誰も幽々子に挑戦しなくなってしまったの。
フードファイトはそこでお開きとなった。幽々子という圧倒的なチャンプに潰された形ね。
だから第二期を始めるにあたって、一つ絶対の決まりを作った。
『幽々子をフードファイトに参加させない。』…当然本人はブーたれたけど、殿堂入りという形で我慢してもらった。
それが今回、こういう形で幽々子自ら戦いを挑んできたってことは…」
紫はルーミアの顔を見て、ニヤリと笑う。
「よっぽど、あなたのことが気になるのね。」
「私が、かー……」
「私としても、ここまで来たら見てみたいわ。
元チャンプと現チャンプ、どちらがより強い胃袋を持っているのかを、ね。
……ほら、来たみたいよ。」
紫が奥の扉に視線を向けると、今回の挑戦者でありフードファイト第一期のチャンプでもある、
西行寺幽々子がその姿を現した。相変わらずふわふわとした笑みを絶やさずにいる。
そしてルーミアが来ていることを確認すると、ゆっくりと口を開いた。
「さあ、もう始めましょう。お腹すいちゃったわ。」
~~ フードファイタールーミア ~~
Extra Stage 大食いキャラ頂上決戦
競技場の二つの机に、二人の王者が同時に座った。
第一期フードファイトチャンプ、西行寺幽々子。
第二期フードファイトチャンプ、ルーミア。
『メニューはおにぎり。二人の食べる量を考えて、いつもより更に大量に用意してあるわ。
それじゃあ始めましょうか、フードファイトの、頂上決戦を!』
――カーン!
試合開始のゴングが鳴り響く。次の瞬間には、既にお互いおにぎりを口の中に入れていた。
「は、はやい…!」
「二人とも、早すぎる!」
観客席で何試合もフードファイトを観戦してきたチルノとリグル。
それなりにフードファイトの光景も見慣れてきたはずだった。しかし…
「この二人の戦い、今までのとは格が違う!」
無傷の20連勝を成し遂げたという西行寺幽々子が圧倒的なスピードを見せれば、
胃の痛みも無くなって本来の圧倒的なペースを取り戻したルーミアがそれを追いかける。
「この二人、互角だ!」
「…と、見えるでしょうね、側からは。」
一人モニターで観戦している紫は、二人の間にあるわずかな差を見切っていた。
幽々子は手を抜いているわけではない。100%の実力そのままを出し切っている。
しかしルーミアは現在、そのペースについていくため120%の力を出しているのだ。
ルーミアの方が無理をしている現状。少しでもルーミアが疲れを感じ始めると…
ルーミア:18 幽々子:20
「…ほうらね。」
わずかではあるが差が開いた。この小さな差が、この先どんどんと広がっていくことだろう。
「初めて幽々子に土をつけるっていう展開にも期待したけど……
やはりこのフードファイトにおいては、幽々子の方が地力は上ね。」
――カーン!
前半終了を告げるチャイム。結果は紫の読み通り…
ルーミア:27 幽々子:32
幽々子がわずかに差を広げての終了となった。
わずかな差だが幽々子のペースがブレない以上、この差を詰めることは想像以上に困難であろう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
休憩時間。胃の痛みは無いものの明らかにオーバーペースで食べ続けているルーミア
その表情には疲れの色が浮かんでいた。
チルノとリグルもルーミアを心配する。
「ルーミア、大丈夫?」
「うん…大丈夫。でも、強いのかー。」
「なんたって無傷の20連勝だっていうからね。誰にも負けたことないんでしょ?
でも私は…ルーミアなら勝てるって信じてる。」
「あたいも!」
「二人とも……ありがとう。」
ルーミアを励ましあっているうちに時間となった。
「じゃあ、行ってくるのだー。」
「頑張れルーミア!」
「あとちょっとだよ!」
控え室を後にし競技場へと向かったルーミア。
そしてルーミアを見送り、チルノとリグルも観客席へ移動しようとしたところで…
「う~、どこへ行けばいいの?早苗と一緒に来ればよかった…」
扉が開き、一人の妖怪が入ってきた。
チルノ達の親友の一人であり、今回このフードファイトに参加するきっかけになった少女…
「あー!見つけたー!!」
ミスティアであった。二人を見つけ叫ぶミスティア。
一方のチルノとリグルも驚きを隠せない。
「みすちー!」
「どうしてここに!」
「三人の後をつけてたんだよ。スキマの中で見失って、しばらく迷ってたんだけどね。
……ってそうじゃなくて!」
ミスティアは動揺する二人に詰め寄り、言葉を続ける。
「早苗さんから全部聞いたよ!
私の屋台のために、こんな競技に参加してくれてたんでしょ?
……だけどもう大丈夫!大丈夫だから、帰ろうよ!こんな危ない競技……」
「みすちー。ちょっと待って。落ち着いて。」
ヒートアップするミスティアを、リグルが鎮める。
そして、チルノがミスティアの手を引っ張った。
「ミスティア、まだルーミアが戦ってるところ、見たことないでしょ?
見に行こうよ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チルノ達はミスティアを連れて観客席へとやってきた。
既に後半戦が始まっている。ペースは変わらず幽々子優勢のようだ。
「ルーミア!」
ミスティアがルーミアの姿を確認して、声をあげる。
そしてチルノとリグル、二人に向き合った。
「あのね、私の屋台はもう大丈夫なんだ。
経営も安定した、早苗さんのお店も協力してくれた。
だからもう、後は私が頑張ればいいだけなの。」
「ほんと?よかった!」
「うん。みんなには迷惑ばかりかけてたね。ごめん。」
「迷惑だなんて思ってないよ!あたい達友達だもん!」
「…ありがとう。だからね、もうルーミアに無理をさせる必要もないんだよ。
二人とも…ルーミアを、止めよう?」
ミスティアはチルノとリグルに提案する。
しかし、二人は即座に首を振った。
「それは、出来ない。」
「どうして!みて、あんなに苦しそうな顔をして食べてる!
あんなルーミア初めて見たよ!もうこれ以上負担をかけさせたくないの!」
「あたいも同じことを思ったよ。あたいが代わろうともした。
でも断られたんだ。あのね、背負ってるものが増えちゃったんだって。」
「背負ってる…もの?」
「うん、それは…」
チルノとリグルは、同時にミスティアに同じ単語を告げた。
「「『チャンプ』」」
「最初はただのお金稼ぎだったよ。でも勝ち続けたことで、負けた人の想いも背負った。」
「今戦っている幽々子って人も、ルーミアの体調を治してまでルーミアと戦うことを望んだ。」
「そして、ルーミア自身も戦うことを望んだんだ。だからあたい達がいくら言っても、ルーミアは止まらない。」
「私達がルーミアにかけるべき言葉は、心配の言葉じゃない。
ルーミアが求めてるのは、そんな言葉じゃないんだ。
ミスティア…わかるよね。」
チルノとリグルに諭され、ミスティアはただ黙って頷いた。
自分がすべきことが、理解できたからだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
残り10分。現在のスコアは…
ルーミア:40 幽々子:47
なんとか必死にルーミアが幽々子に喰らいついている状況だ。
しかし本来のペースで食べ続ける幽々子に対して、
オーバーペースで食べ続けるルーミア。明らかに限界が近づいていた。
『ルーミアーー!!』
と、そこに、一人の少女の声が競技場へ響いた。
観客席からだ、とルーミアがそちらへ視線を送ると…
「みすちー……」
ここにいるはずのない親友の姿がそこにあった。
ミスティアは更に叫び続ける。
『もう屋台のことは心配しなくていいよ!潰れる心配も無くなった!
お客さんも戻ってくる!だから、ルーミア、もう心配しないでいいよ!』
『だからルーミア、私のためじゃなく、自分のために、食べて!!』
『がんばれーーー!!ルーミアーーーー!!!』
ミスティアの必死の声援。横ではチルノとリグルも声を張り上げている。
それを見てルーミアは……
「そっか……そーなのかー……」
大きな、安堵感につつまれていた。
もう『みすちぃ』は大丈夫。寄付をしなくても大丈夫。
自分が心配することは、何一つ無くなったのだ。
「……」
ルーミアは自分の手にあるおにぎりをじっと見つめた。
心配ごとが無くなって、ルーミアの頭の中はある一つの欲求で埋められた。それは……
「よく見たらこのおにぎり……」
食 欲 !
「すごくおいしそうなのだ♪」
その言葉を皮切りに、ルーミアは再びおにぎりを食し始めた。
先ほどまでのペースが120%とするならば、今のペースは150…いや、200%!
その圧倒的ペースに、観客席にいるミスティア達も驚く。
「すごい!またペースをあげた!頑張れ!」
「でも、大丈夫なの?さっき以上に無理してるんだよ?」
「大丈夫だよ!あたいには分かる!だって見てよ!」
心配するリグルに、チルノはルーミアの様子をよく見るように促した。
そのルーミアの様子は……
「すごく、おいしそうに食べてるよ!!」
このルーミアのペースの変化には隣の幽々子も気付いた。
(あらあら…心配ごとが無くなって、ようやく本当の食欲魔人の誕生ってとこかしら。
でも…私も負けないわよ?)
幽々子もまた、ペースをあげる。
しかし苦しそうな様子はどこにも無く、彼女もまた、おにぎりをとてもおいしそうに食べている。
まるで食べることそのものに感謝しているかのように。
そして……
――カーン!!
試合終了のゴングが鳴り響いた。皆が一斉にスコアを見る。そこには……
ルーミア:80 幽々子:80
まったく同じ数字が、二つ並んでいた。
「ど、同点!」
「こんなの初めてだ!」
「どーなるの?引き分け?」
動揺する観客席。しかし幽々子は、静かに首を振った。
「違うわ、引き分けじゃない。勝負はついているわ。」
「え?どっちが…」
ルーミアの問いには答えず、ただ静かに手を開いて、ルーミアに見せた。
その手の指先には…
「ご飯粒…」
ご飯粒が一粒だけ、くっついていた。
幽々子はルーミアに向かって、ニコリと笑いかける。
「ご飯粒一粒ぶん、あなたの方が多く食べているわ。
あなたの勝利よ、チャンプ……ルーミア。」
「おおおお!」
「やったああ!!」
「ルーミア!おめでとーー!!」
幽々子の言葉を皮切りに、観客席から祝福の声があがる。
元チャンプと現チャンプ、東方キャラの大食いキャラ頂上決戦は、ルーミアに軍配が上がった。
「私が……勝ったのかー……」
「どうしたの?もっと嬉しそうになさいな。」
「まだちょっと…信じられない……。」
「私の胃袋よりもあなたの胃袋が勝った、それだけよ。
あなたの胃袋は宇宙なんでしょ?」
「…うん!」
幽々子の言葉に、ルーミアは満面の笑みで答えた。
「私の胃袋は宇宙なのかー!この宇宙には、おいしいものがいっぱい溢れているのだ♪」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
フードファイトが終わり、彼女達はそのまま流れ込むようにミスティアの屋台、『みすちぃ』へ向かった。
ルーミアの祝勝会、幽々子の残念会、フードファイトそのものの打ち上げ…
いろいろな名目が絡み合っているが、要はみんなでバカ騒ぎをする集まり…
「「かんぱ~~い!!」」
つまるところ、宴会である。
みんな思い思いに飲んで騒いでいた。今日は『みすちぃ』も貸切である。
「ん~モグモグ♪」
「幽々子…よくそんなに食べられるわねぇ。さっきフードファイトをしたばっかでしょう?」
「あら、私の胃袋も宇宙なのよ~!ああそういえば、あなたの胃袋はインチキスキマでしたっけ?」
「幽々子…そのネタはもういいじゃない。藍にバレたらなんて言われるか…」
「あらあら、向こう100年はこのネタで引っ張っていくわよ~?」
「勘弁して~!」
幽々子が紫をいじって遊べば、もう一方では
「やっぱりルーミアが勝つと思ってたぜ!なんたってこの私に勝ったんだからな!」
「ん~!やっぱり屋台では『みすちぃ』が一番だねぇ!」
「ちょっと美鈴さん!ウチのお店だって負けては…
って霊夢さん!だからいつも言ってるじゃないですか!泣きながら食べるのはやめてくださいって!」
「おいひぃ、おいひぃ~!」
かつてルーミアと戦った挑戦者達も飛び入り参加し騒いでいる。
どんちゃん騒ぎという言葉がふさわしい、まさに宴会という光景が広がっている。
そして屋台のカウンター席、ミスティアに一番近い席では、
チルノとミスティア、そして今回の宴会の主役であるルーミアが座っていた。
「えっと、まだちゃんと言って無かったよね。みんな…」
ミスティアはルーミア達に対して、静かに頭を下げた。
「私の屋台のために、いろいろとしてくれてありがとう。
最初は、店を畳むことも覚悟してた。でもこうして屋台が続けられるのは、
みんなが頑張ってくれたおかげ。本当に…ありがとう。」
ミスティアからルーミア達に送られる感謝の言葉。
それに対してチルノとリグルは…
「何言ってるのよ!親友だから当然じゃない!」
「そうそう!当たり前のことだよ!」
ミスティアを元気付ける。そしてルーミアは…
「みすちー、鰻一本ちょうだい。」
「あ、うん。…お待ちっ!」
八目鰻を一本頼んだ。出来上がった鰻を手にとり、ミスティアに語りかける。
「私ね、この鰻が食べたかったから、頑張れたのだー…」
「ルーミア…」
「ここ数週間、いろんなものをいっぱい食べてきたけど…」
ルーミアは満面の笑顔をミスティアに向けた。
「やっぱり、みすちーの鰻が一番おいしいね!」
その言葉に感極まったのか、ミスティアの目にうっすらと涙が浮かぶ。
それを隠すかのように、顔をそむけ照れながらルーミアをせかした。
「ほ、ほらルーミア!冷めちゃうから、早く食べなよ!」
「うん!それじゃあ…」
ルーミアは満面の笑顔のままで、口を大きく開けた。
「いただきま~す♪」
~~ フードファイタールーミア ~~
完
また次のTAMさんの作品を楽しみにしてます。
ゆゆ様カッコヨス、どっかのスキマとは大違(ry
お疲れさまでした
何とまぁ命知らずな・・・w
元ネタ知らないけど、全編通して楽しく読ませてもらいました。
お疲れさまでした!
乙でした!
お疲れ様でした
連載お疲れ様でした。
とても楽しく読ませて頂きました!!
最後の霊夢がすべて持って行ってしまったww
恋人の握った飯、同点のカウント、手を開けばホンの小さな握り飯のカケラ。
思い出すなあ、最終回。
本家とは違って悲壮感はございませんが、その分楽しく読めましたw
ありがとうございました!
一般客の描写がないので、どうやって賞金を出しているのか(観客料、スポンサー料)分からなかったです
元ネタ調べろって話なんですかねぇ
幻想郷で金の出どころなんて考えちゃいかんぞ