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また、この話は、自分の書いている、ジェネリック81~屋台小話 という作品シリーズと話が繋がっています。もしよろしければ、そちらもご覧ください。読まなくても話はわかると・・・思います。
――――以下本文。
旧都、人間だけでなく地上の妖怪にすら嫌われた妖怪達の楽園である。
そんな旧都の住人、黒谷ヤマメは鼻歌交じりに地底に最近できた飲み屋台に向かって歩いていた。
―あの子は今頃ちゃんと寝てるかな?・・・そんなわけないか。
そんな事を思いながら歩いていたら屋台が見えてきた、中では屋台の店主。頭巾と名乗る人間はごそごそと中で何かしていた。
「やー頭巾の!今日は元気がないねー!何やってんの?」
「ああいえ、なんだか今日は体がだるくて・・・まだ仕込み中で開店はまだまだですよ?」
―軽くしすぎたかな・・・?
「ふむ・・・ありゃ、こりゃ熱があるね。あんた風邪だね、こりゃ」
額と額をくっつけてみる。うん、熱い。よく見れば顔も真っ赤だ・・・あれ?真っ赤だったっけ?
「あ・・・あうぅ・・・熱・・・ありますかね?咳がでないから大丈夫かと思ってたけど・・・」
真っ赤な顔でたずねてくる。よく見ると耳まで真っ赤で少し面白い
「結構あるね、今日は休みな!休みの知らせはパルスィにでも頼んでさ。」
「うぅ・・・しょうがない・・・今日はお休みにします。」
「ありゃ?てっきりあんたはだるいの押してでも店出すと思ったんだけどちょっと意外だねぇ」
予想外の反応だったので尋ねてみる。
「お客さん達に風邪をうつす訳にはいかないですからねぇ・・・うつらなくても。」
「ふーん、やっぱり真面目っ子は真面目っ子なのねぇ。・・・あんたいつもここで寝てるんだよね。」
そんな事はとうに知っているが尋ねる。
「えぇ、そうですけど・・・」
「こんな窓も扉もないような屋台で寝てたら治る風邪も治らないよ!ほら!あたしん家まで引っ張ってったげるからうちで寝な!!」
「え、ちょっ・・・」
文句を垂れそうだったので聞く前に屋台の前に上に飛び上がり糸で縛り持ち上げる。
「ほら行くよ、お店の事はパルスィにあたしから言っとくから。」
―さてと、どうなるかねぇ。
ヤマメは旧都の中心の方に少し飛んだあとに屋台をおろした。屋台の中で座っていた頭巾は屋台からのそのそと出てあたりを見回す。
―あれ、割と近い。
そこにヤマメが声をかける。
「ほら、こっちだよ」
「あ、はい」
とりあえず返事をしてついていく。すると割と大きな家々が見えた・・・どこも大きい家ばかりだが。
「ここがあたしの家さ――意外かい?」
そう言ってヤマメさんは大きな家のうち一軒を指してそう言った。
「ああいえ、そういう訳では。思ったより近くだったもので・・・大きいお家ですねぇ」
素直に感想を述べる。
「まあね、ほらあがりな。」
「お・・・お邪魔します。」
「邪魔するなら帰っとくれ」
「お邪魔しました・・・」
「おいおい冗談だよ。・・・ったくほんとに上げないよ?」
「あはは、すいません。あらためて・・・お邪魔します。」
中に入ると、外から見るよりは落ち着いた内装をしていた。部屋の真ん中には囲炉裏があり、奥の方に台所が見える。
「どーぞどーぞ!まあ何もないんだけれどもね!布団用意するから待ってな」
「あ、布団なら屋台に・・・」
そう言ってとりに戻ろうとしたが「いいからいいから。病人はそこに座ってな」と言われて囲炉裏の前に座らされた。すでに火はついているようだ。とても暖かい
―あったかい・・・けど座ったら一気に体が楽になった気がする。思ったよりしんどかったのかなあ。
「はい用意できたよ、今日はゆっくりお休みなさいな。」
ヤマメさんはそう言って足元に敷いた布団を指差した後、そのまま奥の方へ行ってしまった。
「はぁい・・・っと」
立ち上がって布団に入ろうとしたが、立ち上がろうとした時に少し眩暈がしたので赤ちゃん歩きで布団に入る。
―思ったより体調悪いのかな・・・そういえば頭もはっきりしたりぼーっとしたりで落ち着かないや。
気をつけてたつもりなんだけどなぁ・・・そういえば神社以外で女の人の家に入るの・・・入るの・・・初めてだ。
そう考えた途端、顔が熱くなる。さっきの事まで思い出して余計に・・・とりあえず布団の中に顔を隠してみる。
そんな事を知ってか知らずか。ヤマメさんが戻ってきて布団をめくった。
「ほら、おでこ出しな。」
そう言ってヤマメさんはぬらした布巾を持って来た。
「そんなにしんどいの?・・・ありゃ、また顔真っ赤だ?もしかして女の子の家で寝るの始めてかい?」
・・・布団に潜ることにしよう。
「あによー、なんでかくれんだい?ねーねー」
ヤマメさんはそういって布団を引っ張る。療養はどこへ行ったのだろうか
「うぅ・・・そういえば今日はキスメさんはご一緒じゃないんですね?割といつも一緒にいるイメージですが・・・」
だんだん布団を引っ張る力が強くなってきたので話を変える事にしてみる。
「むぅ・・・私がいるのに他の女の名前を出すなんて・・・めそめそ・・・」
とりあえず布団は引っ張られなくなった・・・このまま寝よう。
「めそめそ・・・」
「ぎゃうん!」
布団越しに攻撃を仕掛けてきた。そこそこ痛い。
「ヤマメさん・・・痛いです。」
「ふん!女の子を泣かして狸寝入りするような男にゃこれでもやさしいくらいさ!」
「泣いてな・・・ごめんなさい。」
言いかけたところで猛烈な殺気のようなものを感じたのでとりあえず謝る
「まあ許そう、キスメは買い物に行ってるよ。昼ごろには戻ると思うけれどね。飯時にゃ起こすから今は寝ときなさい、ほれ」
そう言って先ほどの布巾をおでこに乗せられた。冷たくて気持ちがいい。
「はい。」
寝かせなかったのは誰だ・・・という台詞は胸の奥にしまいこんで、目を閉じる事にした。
旧都の入り口、地上から降りて来る者や地上に上がっていく物が通る道のすぐ近くにかかる橋、その橋の番をする妖怪姫、水橋パルスィは橋の手すりで頬杖をついていた。
―風邪ねぇ、そういやあいつ人間だったのよねぇ。まあ、ずっとあんな屋台の中で生活してたら風邪の一つや二つひいてもしょうがないか。
先刻ヤマメに屋台の店主の事を聞かされたのである。
「まあ、何か用事があるわけでもないし。休みの知らせくらいいいんだけどね・・・」
―あ、晩御飯どうしようかしら。今日もあそこで食べるつもりだったからなぁ。
そんな事を考えていると後ろから声をかけられた。
「いよぅ!パルスィ、今日も暇そうだね。飲まないかい?」
現れたのは地底の実力者、星熊勇儀である。
「失礼ね、暇だけれども。そんな失礼な奴の酒は遠慮しとくわ。」
こんな真昼間から飲んでなどいられない。いつもどおり適当に返す。
「むう、まあいいさ。何見てたんだい?」
「あそこよ、あそこ。」
そう言っていつも屋台があった所を指差す。
「なんだい?何もないじゃないか・・・あれ?何もないじゃないか。」
「あんた今少し日本語おかしかったわよ。まあわかったけど、風邪らしいわよ。ヤマメの家で療養だってさ」
「へぇ、風邪ねぇ?あたしゃひいた事ないからわからないんだよねぇ。」
―あんたにゃ確かに無縁そうだわ。
「まあ最近少し冷えてきたし、毎日割と大変そうだったしね。丁度いいんじゃない?」
「それじゃ見舞いにでもいくか!酒でも持って!」
「ふむ、四分の三くらい賛成ね。あんた、その酒持って行って飲ませる気じゃないでしょうね。病人にそれはないわよ。」
まあ、持って行くのだろうしそのつもりなんだろう。
「う・・・じゃ、じゃあその辺で養命酒か何か買っていこう!」
図星だったようだ。
「まあそれならいいわ。そうだ、勇儀あんた看板か何かそれっぽいの作ってよ」
「ん?いいけどどうするんだい?」
「お店が休みなの知らせてくれって頼まれてるのよ。あの辺に看板立てとけばいいでしょ」
そこまでする義理はあんまりないが貸しは作っておいて損はないだろう。安くなるし。
「はいよ!ふむ。この辺のでいいかな。ちょっと道具とって来るわ。」
そこら辺に転がっていた木の枝と板を拾ってきて置いたあと来た方へ戻っていった。
―なんだかんだで勇儀にも気に入られてるのよねぇ・・・大した人気だこと・・・
「できたっこれでいいだろう?」
「はやっ!何取りに行ったのよ」
「ん?これ。」
そういって見せてきたのはペンである。
「あぁ、そういう・・・無駄に手際がいいところまで妬ましいのね、あんたは。んじゃ行くわよ」
屋台の休業を知らせる看板が立ったのを確認して都の商店街の方へ歩を進める。
―そう、こいつは何から何まで妬ましい。こいつは・・・
「ん?どうしたんだい?」
「ああいや、なんでもないわ。行きましょう見舞いは何がいいかしらねぇ。」
顔に出たのだろうか、色々面倒なので見舞いの品でも考える事にしよう。
「そりゃ酒だろ酒!養命酒ならいいんだろう?」
「あんたが飲みたいだけなんでしょう、どうせ」
「いやいや、誰かと飲みたいのさ。パルスィも付き合ってくれるかい?」
これから行くのが病人のところだとわかっているのだろうか・・・どうせあまり騒がないんだろうけど・・・
「まあ、どうせ大したことないでしょう。案外ご馳走にありつけるかもしれないしね。」
―面倒な事考えてるのなんて私くらいなんだろうか?馬鹿馬鹿しくなってくるわね、こいつを見てると。
「あれ?もしかして顔になんかついてるかい?」
「・・・」
そうだ、からかってやろう。何も言わず目をそらしてみる。
「なんだい?きになるじゃないか!」
引っかかった。こいつはこうだから面白い。
「なんでもないわよ!さあ、行きましょ。」
こんな日は飛んでいこう、いつもより少し高くを。
旧都の商店街の中心部あたりで、釣瓶落としのキスメは一人頭を抱えていた。
―うー、どうしよう。ヤマメちゃんにバナナとか買ってきてって言われたのに・・・いつものお店に売ってなかったよぅ。
―代わりのもの買って帰ってもいいんだろうけれど、どれにしようか迷うよー!
「あれ?キスメじゃない。一人でどうしたのよ?」
後ろからよく知った声が聞こえた。
「パルスィ!それに勇儀さん!どうしよー!」
「おおっと、どうしたんだい?」
とりあえず飛びついてみたら勇儀さんにキャッチされた。
「あのね、頭巾さんのバナナを買いに来たんだけど売ってなかったの!代わりに何を買えばいいかわからなかったの!」
一瞬パルスィが変な顔をした・・・気がする。
「あぁ、食料ね。食料の話ね。うん、果物ならりんごとかじゃない?あとは一緒に適当に見てまわりましょう。私達も似たような目的だし。」
―ちゃんとお見舞いするなんて心配してるんだねー・・・って言ったら帰っちゃうかな?パルスィは
「ふむ、元気が出る食い物ねぇ?やっぱ肉だよね」
さっきから勇儀さんはわたしを持ったままお肉屋さんの前でうろうろしている。お酒も買ってるみたいだし宴会でもする気なのかな?
「元気がない時にお肉は食べにくいんじゃないかなー?」
―わたしがそうだし頭巾さんもきっとそうだと思う。
「ふむ、じゃあキスメは疲れてる時何が食べたいんだい?」
「うーん、疲れてるときかぁ。甘いもの!」
「甘いものねぇ、っていうか疲れてるんじゃなくて風邪でしょう?体力の付くものなら肉ってのは間違ってないんじゃない?」
後ろのパルスィからそれっぽい意見が飛んできた。
「んじゃ食べやすいようにミンチにでもしてもらうかね。おーい!店主~!」
―あ、決まっちゃった。
「へいらっしゃい!っと勇儀さんにキスメちゃんじゃないですか。何がご入用で?」
パルスィは店の外で待ってるのかな?いつの間にか消えてるや。
「精のつきそうな肉を選んで食べやすいようにミンチにして頂戴な。」
「へい!かしこまりました!どっかで決闘かなんかでもするんですかい?」
はっそうがぶっそうだ!けど皆こんな感じだよね。店主さんはお肉をひと塊取り出して包丁で叩きはじめた。
「違う違う。ほら、最近やってきた人間がいるだろう?屋台やってる。あいつが風邪ひいたみたいでさ、その見舞い品さ」
「へぇ。そりゃ大変だ。ちょっと待ってください、じゃあこれ、おまけでさぁ!生姜は身体があったまりますからいいかもしれんですよ。」
店主さんは一旦手を止めて置くから何かを持って来た。
「おお、気が聞くねぇ。それじゃこれで足りるかい?」
「えぇと・・・はい!じゃあこれお釣りです。早く元気になってもらわんと宴会のつまみが寂しい事になりますねぇ」
そういえばお肉屋さんも屋台の常連さんだったなぁ。宴会にも毎回来てるっけ
「ははは!そうだねぇ。最近じゃ毎回毎回宴会の度にがんばってもらってるからねぇ。じゃ!今度は快気祝いの宴会だな!」
あらら?頭巾さんの次のお仕事が決まっちゃった。いいのかなぁ
「いいですねぇ!是非声掛けてくださいね!」
「んじゃ他も回ってみることにするよ。そんじゃあね!」
「はい!またいらしてください!」
「ん、終わったの?」
お店から出るとパルスィがそこで待っていた。
「うん!おまけで生姜もらっちゃった!」
「生姜ねぇ、確かにあったまるしよさそうだけど・・・」
「だけど、どうしたんだい?」
「なんに使うの?」
「「え?」」
――考えてなかったや。勇儀さんもおんなじみたい。あれ?
「そーいえばお肉もどうするの?ミンチにはしてもらったけどこのまま食べないよね。」
生姜なんてわたしは料理なんてあんまりできないからわからない。お肉も焼くだけだったりするし。生だったりも・・・
「「あ」」
勇儀さんとパルスィが同時に声をあげた。
―おかいもの、長くなりそうだなぁー
「ふぅ。」
ヤマメは台所で布巾を濡らす為の水を替えていた。
―キスメは・・・この様子だと時間がかかるね。さて・・・
「あんた、起きてるよね。」
部屋に戻り声を掛ける。
「ん?なんですか?ヤマメさん。」
「あんたに聞きたい事があってね、」
「なんでしょう?」
「人間の食べ方って知ってる?」
少しだけ、いつもよりトーンを落として、威圧する。
「ふむ、人間ですか。まず頭を落として手を腰辺りで縛って逆さ吊りにしてですねぇ。」
―こいつは
「あ、内臓やらは食べるにしろ食べないにしろ先にとっておいた方がいいんじゃないですかね。」
―殺されるのを覚悟してる・・・って感じじゃないよなぁ。
「あ、膀胱とかも取ってくださいね。それで・・・」
―かと言って、身の危険を感じてないわけじゃ・・・ない?
「もういい、どんな人間が美味しいんだと思う?」
隣に座り、顔を近づける。
「うーむ・・・それは・・・わからないですねぇ。ごめんなさい。」
しっかりと、目を見据えてくる。
「体、動かないでしょう?この子のおかげ。この子の毒はね。あんたらから体の自由だけを奪うの。脳ははっきりしているらしいけどね。」
手の平に乗せていた蜘蛛を見せつけ、顔の上に落とす。
「私の言いたいこと、わからないわけじゃないわよね。」
殺気を込めて言い放つ。
「む~・・・絶対不味いと思いますけどねぇ。特に内臓なんて業の塊で見れた物じゃないと思いま・・・」
まだ余裕のある返事が出来る事に、少しだけ、驚く。しかし、首を絞めて最後まで喋らせない。
―あれ?
「・・・抵抗、しないんだね。」
絞める手を、少しだけ緩める。
「して・・・も・・・意味は・・・ないでしょう?」
「それでも、普通は抵抗するものさ。あたしらだってするさ。」
そう言って、手を離す。そして―
「教えてあげよう。あたしが思う人間の一番の食べ方はね・・・」
変化を解く。服を裂き、蜘蛛の手足を出現させる。
「丸呑みさ」
口を開け、頭から――
「ふぅ、やっと終わった。ちと買いすぎたかね。」
大量の荷物を片手で抱えながら、鬼。星熊勇儀は言う。
「結局何作るか決まってないんだけれどね・・・」
横でパルスィがため息をついた。
「これだけあれば何かできるよー!」
キスメが楽しそうに言う。まあ食材ばかり買いこんで、自分の前には1メートル四方くらいの荷物がある。
「よっと、ヤマメん家ってそろそろだっけ?」
バランスを崩しそうになったので一端整えてからキスメに聞く。
「うん!もうそこだよ!ちょっと待っててね!先に戸、あけてくるから!行こう!パルスィ!」
「はいはい・・・それ前見えてる?」
「あぁ、ギリギリなんとかみえてるさ。」
荷物の上の方から顔を出し、足元は見えないが前はギリギリ見える。
「ふーん、じゃあ・・・」
パルスィの言葉が止まった。
「・・・?どうしたんだい?」
そういえばキスメの声も聞こえない。目の前にヤマメの家の入り口があるのは見える。戸も開いているのもギリギリ見える。
―?
荷物を置いて、ヤマメの家の中に見えたのは―――
「・・・」
「・・・」
目の前は、真っ暗だった。大きな蜘蛛の姿になったヤマメさんの口が迫ってきて、それが、目の前で止まった。
「・・・やっぱりあたしじゃ怖くないってかい?」
ヤマメさんが、尋ねてきた。口は動いていないが、声は聞こえてくる。
「・・・ごめんなさい。でもヤマメさんだからって訳じゃありません。」
それしか言えない。
「なんで謝るんだい?」
「妖怪は、人間に畏怖され、恐れられるべき存在で、幻想郷の人間は妖怪を恐れるためにあると、それが役目だと聞きました。」
視界が開けてきた。ヤマメさんの口が遠ざかる。
「・・・ふむ。」
ヤマメさんが、視界から消えた。
「そろそろ体も動くだろう?」
それを聞いて、体が動かなかった事を思い出した。今も軽く痺れている感じはするが全く動かない訳ではない。体を起こしヤマメさんの方を見る。
「どうだい?この姿、あんたから見て」
巨大な蜘蛛、自分の体の二倍から三倍はあるだろう。
「う~ん、かっこいい?」
「くっ、あはは!かっこいい?そりゃ始めての感想だね!」
―割と素直な感想なのになぁ。
「ほら、アレですよ。でっかいクワガタとか好きじゃないですか。男って」
ゆびを立てて例を挙げてみる
「あはははは!あたしゃクワガタと同列か!」
そう言った途端、ボフンッとヤマメさんは煙に包まれた。
「あーいやおかしい。いやさほら、前にこいしちゃんにね?あんたが全然驚いたり怖がったりしないって聞いてさ」
煙の中からいつもの明るい笑い声が聞こえる。
「それでおどかしてやろうと――」
煙が晴れてきてヤマメさんの姿が―
「どうしたんだい?固まって・・・あ。」
煙から出てきたヤマメさんは。いつもの人の姿をしていた・・・が。
その身体を隠すものは一切なかった。
「どわあああああああああ!?」
急いで目を自分の手で覆う
「あっはっは!そういや変化解いたのなんて久しぶりだから服とか破けちゃうの忘れてたよ!」
ヤマメさんは手で後ろ頭をかきながらのんきな笑い声をあげる。
「笑ってる場合じゃないですよ!早く服とか着てください!」
「はいはい・・・ってあれ?あんたそれ、手のスキマから見えてるんじゃないの?」
「・・・」
「・・・」
無言。
「っぎゃああああああ!ごめんなさぃぃぃぃ」
思わず今度は全速力で布団に隠れる。穴があったら迷わず飛び込んでいるところだがそうも言っていられない。
「あははは!驚いちゃってる!ほらほら!見たかったら見てもいいんだよー?減るもんじゃないんだから!」
今度は一瞬で掛け布団を引っぺがされた。さっきとは比べ物にならない力で。
「わわわ!ごめんなさい!お願いだから服を着てください!」
「おお?顔が真っ赤なんてもんじゃないよ!あっはっははは!なにこれ!面白い!」
ヤマメさんが顔を近づけてきた。もう駄目かもしれない。色々と
「うぅ・・・」
顔をそらす。
「ほらほら!蜘蛛の時はかっこいいんだろう?こっちはどうなんだい?」
「うわわわわ!ヤマメさん!ストップ!この状況色々とアレですから!」
ヤマメさんは四つん這いで自分の上にかぶさるように乗っている。目の前で手をばたばたと交差させる。
―こんな状況他の誰かに
ガラッと玄関の戸が景気の良い音を立てて開いた。
「ヤマメちゃーん!遅くなってごめ―」
「おーい、見舞いにき・・・た・・・わよ・・・」
「キスメ?パルスィ?どうしたんだい?固まって。・・・なにしてんだい?あんたら。そんな格好で」
「ああ、勇儀さん。いらっしゃい。」
自分とパルスィさんとキスメさんはしばらく固まって動かなかった。
「あっはっは!驚かそうとして変化したら服が破けたねぇ!そりゃラッキーだったね頭巾の!」
事情を聞いて勇儀は豪快に笑う。
「まったく、何事かと思ったわよ。入ってみたらヤマメが襲われてるんだもの。」
パルスィは腕を組んで鼻を少しふんっと鳴らした。
「逆ですからね!?あれでどうして俺が襲ってるんですか!?」
台所から頭巾が抗議の声をあげる。
「あぁ・・・酷い・・・あんな事をしておいて・・・めそめそ。」
ヤマメはおよよとその場に崩れ落ちる。
「ヤマメさん!?なんですかその誤解しか生もうとしない感じの言い方!?・・・あれ?キスメさんは?なんか一切声が聞こえないけど・・・って後ろにいる!?」
火の番をしているため居間に顔は出せないようだ。まだ若干落ち着きがない。
「あっはっは!言い訳は後で聞こうじゃないか!」
「しかし元気そうね。風邪なんて嘘だったの?」
台所の頭巾の様子を見ながらパルスィは言う。台所では、キスメがじーっと料理をしている頭巾の方を見ている。
「あいや、風邪はほんとさ。まあ風邪じゃなくて病気なんだけれど。」
「あら?って事はあんたなんかしたの?」
それを聞いてパルスィは尋ねる。
「うん、こないだ地上の人里に仕入れの手伝い行った時にさ。まああたしは中までは入ってないんだけどね。ちょっと良くないのが流行りそうだったんだ。」
「それで?」
勇儀が続きを促す。
「その病気は一回罹っておくとあとから同じのにはならないんだ。だから軽くこじらせれば予防できるって訳さ。」
「へぇ、あんたの能力も意外と便利なのねぇ。」
「まあ、こんな使い方めったにしないんだけどね。それに軽くても結構しんどいはずだし。死にやしないけど」
ヤマメは両手を広げやれやれといった感じのポーズをとった。
「にしちゃ元気そうだったじゃないか。色々と」
勇儀がにやにやしながら頭巾の方を見る。丁度準備ができたようだ。
「簡便してください・・・はい、準備できましたよ。」
少し大きな鍋を持って頭巾は台所から出てきた。
「あら、鍋?いいわね。外も雪だしすごく丁度いい感じ」
頭巾は囲炉裏に鍋をかける。そして後ろからキスメが小皿を持って来てひとりひとり配っていく。
「はい、大体こんな感じです。皆さん何作るか考えずに買い物してきでしょう。」
「あら、ばれた?あんたいるし色々買って何が出来るか聞こうって事にしてたのよ。」
「だってほら、まだまだあんなに色々残ってますよ。どうするんですか、あれ。」
頭巾は台所に山積みにされた食材達を指差す。
「なぁに!あれくらいなら消費できるって!近いうちあんたの快気祝いの宴会するしさ!そん時に使えばいいさ」
「俺のためにそんな・・・いいんですか?」
「はっはっは!宴会を開く理由がほしいだけさ!なくても開きまくってるがねぇ」
勇儀はそう言って豪快に笑う。
「ああ、その宴会は確かに楽しみねぇ。」
「あら、パルスィが宴会が楽しみだなんて珍しいわねぇ」
「ほんと、めずらしー」
ヤマメとキスメが少し驚いたような顔をする。それに対してパルスィは、にたぁ、と笑い頭巾の方を見ながら
「ほら、さっきの。あれをネタに男共の嫉妬心を煽りまくるのよ。」
「それはっ・・・勘弁してください・・・」
頭巾の顔が赤くなる。
「あっ顔あかーい!」
「あら、何思い出してるんだいこの助平」
そう言われて頭巾はわたわたと手をばたつかせるが特に返す言葉もないのか、何も言わなかった。
「まぁその辺にしてそろそろ鍋をつつこうじゃないか!頭巾の坊やはあんまり飲みすぎるんじゃないよ!」
「それじゃあほら、みんなで。」
パルスィを初めに5人が手を合わせる。
「「「「「いただきます」」」」」
旧都の中心、現在では旧灼熱地獄などの蓋のような役割を果たす地霊殿。旧都の妖怪達もあまり近づかないこの建物にノックの音が響いた。
―誰だろう。
「おーい!誰かいないかーい」
「あら、あなたでしたか。」
やって来たのは黒谷ヤマメであった。どうやら予想外だったらしい。
「あら、さとりかい?あんたがなんで出てくるんだい。」
「いらっしゃい、あら。私の住処なんだから私が出てきてもおかしくはないでしょう?・・・主がそんなぽんぽん出てきてどうするんだ、ですか?そこでペット達と遊んでいたのですよ。」
「まぁあんたなら手っ取り早くていいや。頭巾の坊やから伝言だよ。」
そう言ってヤマメは頭の中で私達への伝言を思い浮かべる。いいように使われているようで少しくやしい。
「ふむ、店主さんの仕入れの手伝いですか。それでその後噂の地上の屋台に行く、と。」
「そうそう、お燐は特に行きたがっていたみたいじゃないか。声かけたげなよ。それじゃあ後でね!来る奴は・・・」
そうそう、といい始めたあたりから集合場所を頭に浮かべている。器用な事で、そこまでしなくてもわかるのに。
「はいはい、入り口の洞窟ですね。わかりました、お燐達には声を掛けておきますよ。」
「なるべく早くにね!」
そう言い残してヤマメは去っていった。
「さてと、それじゃあお燐に声を掛けて来て頂戴。はいはい、貴方達には人間に変化できるようになってからね。今回はちゃんとお土産買って来るから。」
近くにいたペットに声を掛ける。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
二回から声がかかった、こいしのようだ。どうやらつい先程目覚めたらしい。
「頭巾さんから私達にデートのお誘いだそうよ。一緒に地上にいかないか?って」
「行くー!おねえちゃんも一緒に行こう!」
即答だった、無意識という訳ではないので読めない訳ではないがほぼ反射的に答えが返ってきた。
「はいはい、一緒に行きましょうか。お燐も来たようだし。」
どたばたと走る音が聞こえてきたのでその方向を見る。
「さとり様!私も行っていいんですか!?」
「えぇ、貴方にはいつもがんばってもらっていますからね。こんな時くらい羽目を外してもいいと思いますよ。」
そう言うとお燐の頭の中は私への感謝とウナギの事でいっぱいになる。・・・感謝をされる事はしていないのに。
「やったー!早く行きましょう!」
そう言えばお空の姿が見えない。どうしたのだろう。まさか、声を掛けられていないのだろうか。
「あはは!お燐うれしそー!」
「お燐、お空はどうしたの?」
「お空はもう神社に遊びに行ってます!」
そういえばたまに一人で紅白やら白黒に挑戦しに行っていた。
「じゃあしょうがないね!早く行こう!おねえちゃん!」
「はいはい、それじゃあ行きましょうか、旧都の入り口のいつもパルスィさんがいる所で待っているようですよ。」
「「はーい!」」
―楽しそうね、こいしもお燐も・・・なんだか私も楽しくなってきたわ。外に出るのが楽しいだなんて・・・久しぶりな気がする。
待ち合わせの場所に着くと、ヤマメとキスメ。それに店主にパルスィが橋の上でのんびり談話していた。
「あら、あんたも行くの?」
パルスィが心の底から以外だと聞いてくる。
「私だってたまには外出くらいしますよ?そういうパルスィさんは行かれないみたいですね。」
心を読んでの会話、パルスィは読まれた事を大して嫌がる様子はない。ここにいる連中は余り気にしない。さとり妖怪としてはどうなのだろう。私としては気が楽でいいのだが。
「私はあんまり地上は好きじゃないの。まあ、行ってみたくなったら今度誰かに案内してもらう事にするわ。」
「そうですか」
言われて自分もあまり地上が好きでなかった事を思い出した。回りを見回すと、こいしが店主に声を掛けた所だった
「やっほー!おにーさん!風邪は治った?」
「・・・あれ?なんでこいしさんが知ってるんですか?」
―あら、動揺してるわね・・・?・・・あらあら。
読んでみるととても面白い事があったようだ。こちらの視線に気づいてさらに動揺している。
「だってほら!看板に書いてあったじゃない!」
「ああ、そういう事でしたか、折角来ていただいていたのに・・・」
「それにあの日ヤマメの家で寝てたしね!」
―あ、思考が吹っ飛んだわ。
「ぶっ・・・なんでそこまで!?」
「・・・?どーしたの?ヤマメの家に行ったけど寝てたから帰っただけだよ?」
「ああいや、なんでも・・・」
「・・・?変なおにーさん」
笑いをこらえるのが限界だった、くすくすと笑ってしまう。店主は涙目、といった感じだ。
「おーい、準備は出来たかい?」
涙目になっている原因が声を掛ける。
「あ、えぇ。それじゃあ行く人は行きましょうか。」
「あれ?キスメも行かないのかい?」
お燐がキスメに声をかける。
「うん!今日はパルスィとお留守番するんだー」
どうやらパルスィを一人にして寂しい思いをさせたくないようだ。
「ふーん、それじゃああたいを入れて5人か。屋台ってそんなに大人数で押しかけて大丈夫なの?」
確かに、たまに店主の屋台も大変な事になっていた気がする。
「まあ、待つ時間は長いだろうけれど問題ないですよ。お店が忙しくなるのは間違いないだろうけど。」
「ねえねえ!上の屋台って前に言ってたおにーさんのししょーのお店だよね?」
こいしがたずねる。
「えぇ、以前お燐さんが行きたがっていたのを思い出して、仕入れのついでに顔を出そうかなぁ、と思いまして。」
「うにゃあ!あたいのために!ありがとー!!」
お燐は心の底から嬉しそうだ。
「えぇ、それじゃあ行きましょうか。行ってきますね、パルスィさん、キスメさん。」
店主が留守番の2人に声を掛け、歩き始める。
「うん?歩いていくの?」
それを見て。お燐が尋ねる。
「えぇ、自分は飛べないので・・・少し時間はかかりますが・・・」
「あたしが糸で吊って行ってやるって言ったのにどうしてもって嫌がるんだ。」
ヤマメがやれやれ、とため息をつく。どうやら以前店主は、それでパルスィに笑われたらしい。
「それじゃああたいにお任せだ!」
お燐が胸をどんっと叩く。
「お任せって・・・?」
店主が嫌な予感しかしない、とばかりに若干顔を引きつらせる。ああ、どうやらその予感は、当たっているようだ。
「そーれ!これなら早いよ!」
お燐が自前の手押し車に店主を放り込んだ。
「ああ、いいねそれ!」
ヤマメがなるほど、と手を打つ。
「なるほど、それもいいわね。」
パルスィは後ろですでに若干笑いをこらえている。
「ちょっお燐さんすと・・・おわわわわ!」
言い終わる前にお燐が走り始めた。
「あはは!待ってよおりーん!」
「それじゃあ、行ってきますね。」
残る2人に声を掛けそれを全員で飛んで追いかける。
「行ってらっしゃい」
「お土産よろしくねー!」
―不思議、地上に行くのが楽しいだなんて。今でもあまり好きじゃないのに。どうしてだろう?
こうして、少し賑やかな一行が、地底から地上へと進み出た。
地上への道を走る、走る、走る。火焔猫燐は、地上へ続く道を全力で走っていた。
―おつかいを手伝って!手伝った後にアレが食べられるならおつかいに時間なんて掛けていられない!
「お燐さん!ちょっ速い!がたがた揺れて色々痛いです!どなたか存じませんがこのお骨がガンガン当たって痛いです!」
荷車のお客さんが何か言っているようだが特に気にしない。
「ふふふ、お燐。楽しそうねえ」
さとり様も楽しそうだ。
「おにーさんってもっとクールというか落ち着いた人間だと思ってたよ!以外とテンション高いよね!」
こいし様も楽しそう、みんな楽しそうなんだ。楽しくない方がおかしいのだろう。
「なんだかそれは喜んでいいのか微妙ですね、こいしさん・・・」
「あはははは!折角作ってたキャラが台無しだねえ!」
「作ってたわけじゃ・・・むしろ皆さんが俺に対してあだだだだ!」
ちょっと道がでこぼこしてきた。流石に落としたら大変そうなので気をつけて走る。洞窟の出口も見えてきた。
「ひゃっほー!」
そう言って飛び出す。妖怪の山のふもとに飛び出す。っと、店主も一緒に空中へ飛び出してしまった。あとから出てきたさとり様が空中で捕まえてくれた。
「お燐、もう少しだけ気をつけてあげなさい?私達よりはずっと脆い生き物なんだから。」
怒る、というよりは諭す感じで言われる。やっぱりさとり様はやさしい。さとり様は近くにおにーさんを下ろした。
「もう・・・いいです。走ります。」
そう言っておにーさんはため息をついた。
「あれ?あんた運動なんてできるの?」
ヤマメが聞く。そういえばそんなイメージはない。むしろおにーさんは体力がないように見える。
「まあ、ここからなら大した距離じゃないし、たまには運動もしないと・・・」
「それじゃー競争しようよ!競争!」
こいし様が楽しそうに提案する。
「あら、いいね。それ」
「ふふ、私達は当然飛んでいきますからね?」
「お燐も飛んでいいよー!」
皆ノリノリだ。
「え、流石にそれはちょ・・・」
頭巾のおにーさんは首を横に振ろうとしたが・・・
「よーい、どーん!」
スタートの合図は出てしまった。私も飛んで行く事にしよう。
「ちきしょー!」
下の方ではおにーさんが全力疾走している。見ていて少し面白い。
「さて、他の妖怪に襲われたりしないように見ながら行きましょうか」
と、さとり様。凄く楽しそうな顔をしている。確かに必死に走るおにーさんを見ていて楽しくなってきた。
「おにーさんがんばれー!」
前の方ではこいしさまがそこそこ速めに飛んでいる。一番は取りたいらしい。
「あははは!こけないようにねー!」
ヤマメなんかは腹を抱えて笑っている。さとり様もつられて
―あーあ、お空も来ればよかったのに。こんなに笑ってるさとり様とこいし様、久しぶりに見れるのに。
結果、人間の里に一番についたのは無意識を操る少女、古明地こいしであった。
「いっちばーん!」
最後は飛んでいた皆も競争になったけど、結局私が一番だった。
「はぁ・・・はぁ・・・やっぱり貴方は、体力あるわね・・・。」
お姉ちゃんは4番目、やっぱり出不精だからかな?
「ふぅー、久しぶりに全力で飛んだよ。弾幕ごっこもいいけどたまにはかけっこも楽しいもんだ。」
3番目はヤマメ、結構速かった。
「負けたかー!流石こいし様です。」
2番目のお燐は少し悔しそうだ。それを見ると一番を取ったのが嬉しくなった。
「ひぃ・・・ひぃ・・・よ・・・よけい・・・な事言うんじゃ・・・なかった・・・」
最後はおにーさん。お姉ちゃんより結構遅れてごーる!
「ふふふ、じゃあビリのおにーさんは皆に何かおごってね!」
そのためのかけっこだ。罰ゲームはやっぱり必要だろう。
「あら、いいわね。私は何か飲み物がいいわ・・・」
「じゃああたしも飲み物がいいね!」
「あたいものど渇いたからそうしようかな。」
皆賛成してくれた、わたしも飲み物にしよう。
「えぇー、大体下走るのと上飛ぶのじゃ障害物とかいろいろ・・・」
あ、ちょっと不服そう
「あら、なんか愚痴ってるよ。大の男が。」
「あらあら、男らしくないですねえ?」
おねえちゃんとヤマメが一気に攻め立てる。これはひどい!
「おにーさん、どんまい!」
肩をポンと叩いて励ましてみる。
「はぁ、しょがない。・・・って誰のせいでこうなったと・・・」
そういえばわたしが提案したんだった。
「あれー?どうだったかなー?」
「もういいです・・・それじゃ、行きましょうか。」
おにーさんが先導して人間の里に入っていく。地上は色々回ったけど人里は始めてだ。
「ん~・・・今日は、なんだか静かだなあ。」
おにーさんがあたりを見回しながらぼそり、と呟いた。
「あら?もしかして私達のせいかしら?」
おねえちゃんも周りを見ながら言う。言われて見れば凄く静かだ。道を歩いているのは私達だけ。割と広い道なのになー
「まあ、とりあえず何か飲みましょう。自分も喉が渇きました。」
おにいさんが近くにあった大きなお家を指差して、そちらに歩いて行った。みんなで付いて行く。
「こんにちはー!」
おにいさんが中に入ってお店の人を呼んだ。
「はいはい、あら。頭巾の坊やじゃない。今日はそんなに美人さんをたくさん連れて、デートかい?」
中からはおばさんが出てきた。美人さんって私達の事かな?少し照れるかも。
「あはは、そんなんじゃないですよ。今飲み物ってどんなもの置いてますか?」
おにいさんは笑って返す。
「そうだねえ、りんごかみかんのジュースならあるね。どうだい?」
「じゃあわたしはりんご!」
「私は、みかんにしようかな?」
「あたいはりんご。」
「それじゃあ私は・・・みかんにします。」
みんなそれぞれ注文する。
「・・・だそうです。自分はみかんをお願いします。・・・これで丁度です。」
最後におにーさんが注文して5人分のお金を渡す。
「はいよ、確かに。」
おばさんはお金を数えると腰につけていた袋に入れた。
「今日はやけに静かですねえ?何かあったんですか?」
「ああ、ちょっと病が流行っててねぇ。空気で伝染るってんで皆あんまり出かけないようにしてるんだよ。」
「へえ、大丈夫なんですか?」
「うーん、どうなんだろうねえ。病自体は竹林のお医者様のお薬でなんとか治るんだけれども、ほら、八百屋のおばあちゃんいるでしょ?今回の病で亡くなっちゃってねえ。」
「ああ、結構なお年でしたからねえ。」
私達はよくわからなかったから、皆おにーさんとおばさんの会話を黙って聞くだけだった。
「それが、他の若い人も数人なくなっちゃってねえ、そのせいで皆気が滅入っちゃって。」
「ふーむ、それは大変だ・・・ぷはぁ。ご馳走様でした。」
おにいさんはそう言うけれど、あんまり表情は変わっていなかった。
「貴方も気をつけてね?皆さんは・・・大丈夫なのでしょうね。」
そう言うおばさんは少し難しい顔をした。
「ごちそう様でした。ここでの買い物はないのでしょう?次、行きましょう?」
そう言ってお姉ちゃんは外へ出るよう促す。
「ごちそーさま!おいしかったよー!」
ジュースの入っていたビンを置いておばさんに手を振る。おばさんも手を振りかえしてくれた。
「さて、それじゃあ買い物ですが、皆さんはどうします?」
おにーさんが聞いてきた。
「わたしは付いてくー!」
「あたいも行こうかなさっさと終わらせてしまおう。」
私にお燐も続く。
「あたしはちょっと外で待ってようかしらねえ。今のここにあたしは縁起が悪そうだ」
と、ヤマメ。そういえばそういう能力だったなあ?
「・・・それじゃあ私も外で待っているわ。こいし、お燐。店主さんのいう事を聞くのですよ?」
「はーい!」
「わかりました!」
2人で元気に返事をする。・・・おねえちゃんも一緒に来ればいいのにー
「それじゃあ、行きましょうか。まずは酒屋さんです。」
「わーい!お酒お酒ー!じゃあ後でね!お姉ちゃん!」
「行ってらっしゃい。」
そう言っておねえちゃんは笑顔で手を振ってくれた。
「・・・ふぅ、大体こんなものかな。」
大体の買い物を終え、頭巾は一息ついた。両手には結構な量の荷物を抱えている。
「結構色々買ったねー!おにーさん!私もっと持てるよ?」
こいしが両手に買い物袋を持ってぱたぱたと走り回る。
「そうだよ?無理しなくてもあたい達を頼ればいいのに。」
お燐は自分の荷車の中の荷物を見ながら言う。
「・・・それじゃあよろしくお願いします。っと、」
結構しんどかったのだろう。その場にかがんで荷物を一端置く頭巾。
「じゃああたしこれと・・・これもつねー!」
「あたいはまあこれ使ってるからねえ。よいしょっと。」
2人は頭巾の持っていた荷物をそれぞれ取っていく。
「あれ・・・これじゃあ俺の持つのこれだけ・・・」
頭巾の前に残ったのは酒のビンが入った袋一つだけだった。
「いいじゃないか、それで。」
お燐は不思議そうに言う。
「いや、男としてこれは・・・!?」
頭巾がそう言おうとした時、突然大きな爆発音のような物がした。空気の振動が、里を包み込んだ。
「おんや?何事?」
「あっちで何かやってるよー!」
こいしが指をさした方向は里の入り口であった。
「あっちは・・・さとり様!?」
お燐が慌てた表情をする。
「お姉ちゃんなら大丈夫だよ、お燐。落ち着いて。」
こいしがやさしく燐を諭す。
「そうですね、大丈夫でしょうが、気になりますね。行きましょう。」
頭巾がそう言うと、3人は走り始めた。
「わあ!人間がいっぱい出てきた!」
こいしが周りを見ながら言う。民家から人々が出てきて、何事かとばかりに様子を伺っている。
「結構な音でしたからね・・・襲い掛かっちゃ駄目ですよ?あ、見えてきた。」
里の入り口には、随分と大きな人だかりが出来ていた。それを見て、頭巾は
「結構な人ですね、お燐さん、こいしさん、はぐれないよう・・・に・・・」
そう言って後ろを振り向いたが、2人はすでに、いなくなっていた。
―まあ、あの2人は大丈夫だろうけれど・・・
「すいません!何事ですか?」
人だかりの最後尾の人間に何があったかを尋ねる。
「ああ、妖怪が出たらしいよ。慧音先生と妹紅さんがなんとかしてるって。」
―妖怪・・・入り口にいたのって・・・まさか!?
「通してください!すいません!」
慌てて人ごみを掻き分けて入り口の方へと進んでいく。そして、最前列へ出た。
「おや、お前は確か・・・」
最前列に出た頭巾に声を掛けたのは、人里の守護者。半獣人、上白沢 慧音であった。
「慧音先生、妖怪が出たって・・・ヤマメさん!?」
頭巾が見たのは、大蜘蛛に変化したヤマメと、それと交戦する竹林の案内者、不死人藤原 妹紅であった。
「ちょ!止めてください!あれは・・・」
そう言って飛び出す頭巾を慧音は慌てて止めた。
「やめんか馬鹿者!あれは土蜘蛛、病や感染症などを操るとされる妖怪だ・・・近づくとどうなるかわからないぞ。」
頭巾を羽交い絞めにしながら言う。
「知ってます!でも彼女は里の病とは無関係です!」
「いいから黙ってみていろ!」
慧音はそのままもがく頭巾を押さえ、口をふさぐ。
「久しぶりだな!こんな普通に妖怪退治だなんて!」
妹紅が大声で叫ぶ。
「ハッハァ!そんな簡単に退治なんてされてやんないよォォ!!」
大蜘蛛もそれに答えるようにそう叫ぶ。
―ヤマメさん・・・どうして・・・。妹紅さんだって話のわからない人じゃないのに・・・
慧音の腕の中でもがきながら思考を巡らせる。その間も事態は進展している。
「それじゃあこれでとどめだっ」
妹紅がそう言うと、彼女の背中に炎の翼が生え、次の瞬間には大蜘蛛を炎が包み込む。
「ぎぃやぁぁぁぁ!!」
炎の中から叫び声が響く。その後大蜘蛛はその場に倒れ伏せた。
「ヤマメさん・・・!!」
慧音の腕を振りほどき、炎の中へと飛び込む。それを見送った後慧音は
「もう病を振りまく妖怪は倒された!さあ!皆安心して家に帰るんだ!あとの処理は私達で行う・・・」
と大きな声で里の人間の方を見て言う。
「もう、大丈夫なんですか?」
里人の一人が問いかけた。
「えぇ、もう大丈夫ですよ。どうか、他の皆様にもそうお伝えください。」
それに慧音はやさしく返し、人々を村の中へと返した。
「ヤマメさん・・・!!」
大蜘蛛に駆け寄り、頭巾は問いかける。しかし、返事はない。
「お前は・・・前夜雀の屋台にいた・・・」
妹紅が頭巾に声を掛ける。
「・・・この方は・・・病を里にばら撒くような方じゃなかった・・・」
頭巾はぽつぽつと、言葉を紡ぐ。
「そうかい。」
妹紅はそう、一言だけ答えて、頭巾の方から顔をそらした。
「でも・・・」
頭巾が、何か言おうとした時、ぼふん、と煙をあげて大蜘蛛は、姿を変えた。
「・・・」
頭巾は黙って上の着物を脱ぎ、大蜘蛛、もとい黒谷ヤマメにかける。
「・・・変化まで解けて・・・こんな・・・」
しばらくその場に、沈黙だけが残った。
「こんな・・・」
―あれ?そういえば・・・
「ぷっ・・・」
頭巾の手元で声がした、頭巾は、その表情を最高に歪めに歪めた・・・
「そういえば・・・ヤマメさんて・・・蜘蛛の方が本当の姿でしたよね・・・」
「くっくっくっ・・・」
手元からする声を無視して頭巾は続ける。
「変化が解けて・・・人間に戻るって・・・おかしいですよね・・・」
「あっはっはっはっは!!」
手元からだんだん大きな声がしてきたがさらに無視して頭巾は続ける。
「お燐さんもこいしさんもどこかに消えるし・・・なんで・・・」
「ひーっひっひっ・・・あー!苦しい!」
いつの間にかあたり一帯から笑い声がする。
「もう・・・やだ・・・」
そう言って頭巾は、顔を両手で覆った。
夕暮れ、地上の屋台、夜雀ミスティア・ローレライが営むこの店に、一番初めの客が一組、訪れていた。
「つまり、慧音先生にヤマメさんをやっつければ里の人たちが病に怯える事がなくなるから、と持ちかけて一芝居打った、と。」
その客の一人、かつてこの店で働いていたという頭巾は、杯を煽りながら言う。
「それで、ヤマメさんへの報酬は自分をからかう事だった、と。」
もう一杯、ぐいっと手元の杯を煽る。
「お燐達には私がこっそり声をかけました。ふふ、意外とばれないように声を掛けるのもドキドキして楽しかったですよ。」
さとりはくすくすと笑いながらその横で愚痴を聞く。
「いやー!私も堪えるの大変だったよ!色々と」
妹紅もけらけらと笑う。
「こら妹紅、その辺にしてやるんだ・・・!!くくっ」
慧音も堪え切れなかったように笑う。
「先生も笑ってんじゃないですか!師匠!酒!いっちばんきついやつください!!」
頭巾は屋台の店主、ミスティア・ローレライに注文する。
「はいはい、よく知らないけどあんたも災難ねぇ。」
注文を受けてミスティアは、酒瓶を一本取り出した。
「いやー!あんなにうまく行くとはねぇ!あー!酒がうまい!」
ここでようやく主犯、黒谷ヤマメが口を開いた。
「うぅ・・・ヤマメさんがそんなに人間愛に溢れた方だとは思ってませんでしたよ・・・!!」
ぶつぶつと文句をたれながら酒を飲む。
「いやいや、流石にそれだけじゃあないさ!あーやってあたしが今回の病の原因だって思わせりゃ人間はあたしを恐れるだろう?」
ヤマメは手を振り、説明を始める。
「それで、あたしを倒した、って思う事で病を克服するだろう?そうするとあたしに対する一種の信仰心のような物がうまれるのさ。」
「そうする事で妖力を強める、と。」
最後にさとりが補足した。
「でもおにーさんのあの顔、面白かったねー!お燐?」
こいしは隣に座る燐に話しかける。
「そうですねー、お空やパルスィ達にも見せてあげたかったですねぇ。」
燐もにやにやしながら言う。
「そこはこの私、射命丸文にお任せください!頭巾さんのあの表情はバッチリこのカメラに収めてますよ!」
突然後ろから現れたのは、天狗の新聞記者、射命丸文だった。
「いっそ死にたい・・・」
ついにその場に伏せてしまった。もはや突っ込む気力もないようだ。
「あらあら、こいつが潰れるなんて珍しいわねえ。はい、串焼きね。天狗さんはどうする?」
ミスティアはそう言って一人一人に皿を渡していく。
「うにゃぁぁぁああ!これがうわさの・・・」
燐はぞくぞくっと背筋を震わせながら匂いをかぐ。
「あややや、私はこれから編集の仕事があるのでご遠慮させていただきます!」
「後生です、勘弁してください・・・」
飛び去ろうとした文に向かって頭巾は言うが
「記事の完成、楽しみにしててくださいねー!」
そう言って文は飛び去ってしまった。
「ご愁傷様です、あら。本当に美味しいんですねえ。」
「本当に美味しい!あたい生きててよかったあ!」
「おー、本当だ、坊やのも大概美味しいけれど、これは格別だねぇ。」
それぞれ感想を述べる。
「おいしー!ほら!おにーさんも食べなよー!」
こいしは串焼きを頭巾の口元に持って行く。頭巾はそれに噛り付く。
「あはは!おにーさんかわいー!」
こいしはきゃっきゃと楽しそうにわらう。
「ほら、行儀が悪いぞ!きちんと自分で食べなさい!」
「慧音はいちいち細かいんだよー!ほれほれ。あーん。」
妹紅はそう言って慧音によりかかり、こいしと同じように口元に串焼きを持っていく。
「こ、こらっ妹紅・・・!!」
「ほーら、食べた。これで同罪だね!」
妹紅はにしし、と笑う。
「まあ・・・今回は・・・」
慧音は口をもぐもぐさせながら、言う。行儀が悪いのは大差ない。
「師匠、酒!次出して!」
頭巾は空の酒瓶をぶらぶらさせながら新しい酒を注文する。
「あんた、敬語がどっか行ってるわよ。」
そう言いながらミスティアは足元から一升瓶を取り出し蓋を開ける。
「あれ・・・さっきあけたばっかりじゃなかったっけ・・・?」
妹紅は頭巾の手に持った一升瓶を見ながら言う。
「凄い勢いだな、大丈夫か?」
慧音が少し心配そうな顔をする。
「大丈夫よ、これくらい。こいつ、鬼や天狗にも負けないくらい飲むんですから。」
そう言ってミスティアは新しい一升瓶を頭巾に手渡す。
「そうそう、こいつほど飲める人間そうはいないよ。霊夢も魔理沙もいいとこ行くけどねぇ。」
現れたのは鬼の2人組み、伊吹萃香と星熊勇儀だった。
「あら、勇儀さん。今日の用事って萃香さんだったんですか。」
ヤマメは勇儀に尋ねる。
「ああ、こいつに一杯誘われててね。しかし、面白い事があったみたいじゃないか。」
勇儀はにやにやしながら頭巾を見る。
「なんで貴方達まで・・・」
頭巾がほぼ涙目で尋ねると、
「あたしにわからない事なんてほとんどないのさっ」
と萃香は胸をどんっと叩く。
「もうやだ・・・」
頭巾は再び突っ伏してしまった。
「あっはっは!ほれ!飲もうじゃないか!」
勇儀はバシバシと頭巾の背中を叩く。
「飲むのはいいけれど、食べて行ってくださいね?貴方達どうせ、お酒は頼まないのでしょう?」
ミスティアはそう鬼達に言う。
「はいはい、わかってるよ。いつもの二つ!」
萃香は指を二本立てて注文してカウンターに座る。
「店主さん!あたいおかわり!」
「はいはい、串焼きですねー」
「あ、わたしもー!」
「じゃあ、私ももう一本いただこうかしら。」
「あらあら、忙しくなってきたわねぇ。まだ日が暮れたばっかりだって言うのに・・・」
ミスティアは少し、ため息をついた後、八つ目の串を焼き始めた。
「師匠~、酒なくなりましたー!」
頭巾はそう言って空の瓶をぶらぶらさせる。
「もう!?あんた少し自重しなさいよ!」
ミスティアは呆れたように言う。
「・・・女将さん、あれ、本当に酒なのかい?実は水とかなんじゃ・・・」
余りのペースに少し驚いた妹紅がミスティアに尋ねる。
「あら、気になりますか?じゃあこれ。」
そう言ってミスティアは先程頭巾が空にした一升瓶を妹紅に渡す。
「!?なにこれ!きっつい!?」
瓶の口に鼻を近づけた妹紅はびっくりして遠ざける。
「55度あるんですよ。それ」
「・・・はぁ!?これ・・・えぇぇ!?」
妹紅は信じられない、といった表情で手元の瓶と頭巾の持っている瓶を見比べる。
頭巾はさっきからがばがばと杯に酒を注ぎ、がぶがぶそれを飲んでいる。
「はい、串焼きおまちどおさま。」
さとり達に追加の串焼きを配っていく。
「うにゃー!おかわりだー!」
「こら、お燐。行儀が悪いですよ。」
「あはは!お燐おこられたー!」
「みすちー!来たよー!」
屋台の後ろの方から新しい声がした。
「・・・忙しくなりそうねぇ。あんた、酒はそれくらいにしてこっち手伝いなさいな。お連れさんたちの分は安くするから。」
ミスティアは頭巾にそう言うと、テーブルの準備を始めた。
「はーい・・・」
頭巾はまだ半分くらい残っている酒瓶を持って立ち上がる。まだふらつく様子はない。
「あんた、今日はありがとうね」
立ち上がった頭巾にヤマメは声を掛けた。
「え?なんですか?」
聞こえなかったのか、頭巾は聞き返す。
「・・・なんでもないよ!ほら!さっさと手伝ってきな!」
ヤマメはどんっと頭巾の背中を叩いた。
その後は、誰も彼もが食って飲んでの大騒ぎ、仕舞いには店主のミスティアも仕事を投げ出して歌いだし、一晩かけての大騒ぎであったそうな。
オリキャラが出てきます。苦手な方はブラウザのバックボタンをクリックしましょう。
二次設定なども多用しているのでご注意ください。
また、この話は、自分の書いている、ジェネリック81~屋台小話 という作品シリーズと話が繋がっています。もしよろしければ、そちらもご覧ください。読まなくても話はわかると・・・思います。
――――以下本文。
旧都、人間だけでなく地上の妖怪にすら嫌われた妖怪達の楽園である。
そんな旧都の住人、黒谷ヤマメは鼻歌交じりに地底に最近できた飲み屋台に向かって歩いていた。
―あの子は今頃ちゃんと寝てるかな?・・・そんなわけないか。
そんな事を思いながら歩いていたら屋台が見えてきた、中では屋台の店主。頭巾と名乗る人間はごそごそと中で何かしていた。
「やー頭巾の!今日は元気がないねー!何やってんの?」
「ああいえ、なんだか今日は体がだるくて・・・まだ仕込み中で開店はまだまだですよ?」
―軽くしすぎたかな・・・?
「ふむ・・・ありゃ、こりゃ熱があるね。あんた風邪だね、こりゃ」
額と額をくっつけてみる。うん、熱い。よく見れば顔も真っ赤だ・・・あれ?真っ赤だったっけ?
「あ・・・あうぅ・・・熱・・・ありますかね?咳がでないから大丈夫かと思ってたけど・・・」
真っ赤な顔でたずねてくる。よく見ると耳まで真っ赤で少し面白い
「結構あるね、今日は休みな!休みの知らせはパルスィにでも頼んでさ。」
「うぅ・・・しょうがない・・・今日はお休みにします。」
「ありゃ?てっきりあんたはだるいの押してでも店出すと思ったんだけどちょっと意外だねぇ」
予想外の反応だったので尋ねてみる。
「お客さん達に風邪をうつす訳にはいかないですからねぇ・・・うつらなくても。」
「ふーん、やっぱり真面目っ子は真面目っ子なのねぇ。・・・あんたいつもここで寝てるんだよね。」
そんな事はとうに知っているが尋ねる。
「えぇ、そうですけど・・・」
「こんな窓も扉もないような屋台で寝てたら治る風邪も治らないよ!ほら!あたしん家まで引っ張ってったげるからうちで寝な!!」
「え、ちょっ・・・」
文句を垂れそうだったので聞く前に屋台の前に上に飛び上がり糸で縛り持ち上げる。
「ほら行くよ、お店の事はパルスィにあたしから言っとくから。」
―さてと、どうなるかねぇ。
ヤマメは旧都の中心の方に少し飛んだあとに屋台をおろした。屋台の中で座っていた頭巾は屋台からのそのそと出てあたりを見回す。
―あれ、割と近い。
そこにヤマメが声をかける。
「ほら、こっちだよ」
「あ、はい」
とりあえず返事をしてついていく。すると割と大きな家々が見えた・・・どこも大きい家ばかりだが。
「ここがあたしの家さ――意外かい?」
そう言ってヤマメさんは大きな家のうち一軒を指してそう言った。
「ああいえ、そういう訳では。思ったより近くだったもので・・・大きいお家ですねぇ」
素直に感想を述べる。
「まあね、ほらあがりな。」
「お・・・お邪魔します。」
「邪魔するなら帰っとくれ」
「お邪魔しました・・・」
「おいおい冗談だよ。・・・ったくほんとに上げないよ?」
「あはは、すいません。あらためて・・・お邪魔します。」
中に入ると、外から見るよりは落ち着いた内装をしていた。部屋の真ん中には囲炉裏があり、奥の方に台所が見える。
「どーぞどーぞ!まあ何もないんだけれどもね!布団用意するから待ってな」
「あ、布団なら屋台に・・・」
そう言ってとりに戻ろうとしたが「いいからいいから。病人はそこに座ってな」と言われて囲炉裏の前に座らされた。すでに火はついているようだ。とても暖かい
―あったかい・・・けど座ったら一気に体が楽になった気がする。思ったよりしんどかったのかなあ。
「はい用意できたよ、今日はゆっくりお休みなさいな。」
ヤマメさんはそう言って足元に敷いた布団を指差した後、そのまま奥の方へ行ってしまった。
「はぁい・・・っと」
立ち上がって布団に入ろうとしたが、立ち上がろうとした時に少し眩暈がしたので赤ちゃん歩きで布団に入る。
―思ったより体調悪いのかな・・・そういえば頭もはっきりしたりぼーっとしたりで落ち着かないや。
気をつけてたつもりなんだけどなぁ・・・そういえば神社以外で女の人の家に入るの・・・入るの・・・初めてだ。
そう考えた途端、顔が熱くなる。さっきの事まで思い出して余計に・・・とりあえず布団の中に顔を隠してみる。
そんな事を知ってか知らずか。ヤマメさんが戻ってきて布団をめくった。
「ほら、おでこ出しな。」
そう言ってヤマメさんはぬらした布巾を持って来た。
「そんなにしんどいの?・・・ありゃ、また顔真っ赤だ?もしかして女の子の家で寝るの始めてかい?」
・・・布団に潜ることにしよう。
「あによー、なんでかくれんだい?ねーねー」
ヤマメさんはそういって布団を引っ張る。療養はどこへ行ったのだろうか
「うぅ・・・そういえば今日はキスメさんはご一緒じゃないんですね?割といつも一緒にいるイメージですが・・・」
だんだん布団を引っ張る力が強くなってきたので話を変える事にしてみる。
「むぅ・・・私がいるのに他の女の名前を出すなんて・・・めそめそ・・・」
とりあえず布団は引っ張られなくなった・・・このまま寝よう。
「めそめそ・・・」
「ぎゃうん!」
布団越しに攻撃を仕掛けてきた。そこそこ痛い。
「ヤマメさん・・・痛いです。」
「ふん!女の子を泣かして狸寝入りするような男にゃこれでもやさしいくらいさ!」
「泣いてな・・・ごめんなさい。」
言いかけたところで猛烈な殺気のようなものを感じたのでとりあえず謝る
「まあ許そう、キスメは買い物に行ってるよ。昼ごろには戻ると思うけれどね。飯時にゃ起こすから今は寝ときなさい、ほれ」
そう言って先ほどの布巾をおでこに乗せられた。冷たくて気持ちがいい。
「はい。」
寝かせなかったのは誰だ・・・という台詞は胸の奥にしまいこんで、目を閉じる事にした。
旧都の入り口、地上から降りて来る者や地上に上がっていく物が通る道のすぐ近くにかかる橋、その橋の番をする妖怪姫、水橋パルスィは橋の手すりで頬杖をついていた。
―風邪ねぇ、そういやあいつ人間だったのよねぇ。まあ、ずっとあんな屋台の中で生活してたら風邪の一つや二つひいてもしょうがないか。
先刻ヤマメに屋台の店主の事を聞かされたのである。
「まあ、何か用事があるわけでもないし。休みの知らせくらいいいんだけどね・・・」
―あ、晩御飯どうしようかしら。今日もあそこで食べるつもりだったからなぁ。
そんな事を考えていると後ろから声をかけられた。
「いよぅ!パルスィ、今日も暇そうだね。飲まないかい?」
現れたのは地底の実力者、星熊勇儀である。
「失礼ね、暇だけれども。そんな失礼な奴の酒は遠慮しとくわ。」
こんな真昼間から飲んでなどいられない。いつもどおり適当に返す。
「むう、まあいいさ。何見てたんだい?」
「あそこよ、あそこ。」
そう言っていつも屋台があった所を指差す。
「なんだい?何もないじゃないか・・・あれ?何もないじゃないか。」
「あんた今少し日本語おかしかったわよ。まあわかったけど、風邪らしいわよ。ヤマメの家で療養だってさ」
「へぇ、風邪ねぇ?あたしゃひいた事ないからわからないんだよねぇ。」
―あんたにゃ確かに無縁そうだわ。
「まあ最近少し冷えてきたし、毎日割と大変そうだったしね。丁度いいんじゃない?」
「それじゃ見舞いにでもいくか!酒でも持って!」
「ふむ、四分の三くらい賛成ね。あんた、その酒持って行って飲ませる気じゃないでしょうね。病人にそれはないわよ。」
まあ、持って行くのだろうしそのつもりなんだろう。
「う・・・じゃ、じゃあその辺で養命酒か何か買っていこう!」
図星だったようだ。
「まあそれならいいわ。そうだ、勇儀あんた看板か何かそれっぽいの作ってよ」
「ん?いいけどどうするんだい?」
「お店が休みなの知らせてくれって頼まれてるのよ。あの辺に看板立てとけばいいでしょ」
そこまでする義理はあんまりないが貸しは作っておいて損はないだろう。安くなるし。
「はいよ!ふむ。この辺のでいいかな。ちょっと道具とって来るわ。」
そこら辺に転がっていた木の枝と板を拾ってきて置いたあと来た方へ戻っていった。
―なんだかんだで勇儀にも気に入られてるのよねぇ・・・大した人気だこと・・・
「できたっこれでいいだろう?」
「はやっ!何取りに行ったのよ」
「ん?これ。」
そういって見せてきたのはペンである。
「あぁ、そういう・・・無駄に手際がいいところまで妬ましいのね、あんたは。んじゃ行くわよ」
屋台の休業を知らせる看板が立ったのを確認して都の商店街の方へ歩を進める。
―そう、こいつは何から何まで妬ましい。こいつは・・・
「ん?どうしたんだい?」
「ああいや、なんでもないわ。行きましょう見舞いは何がいいかしらねぇ。」
顔に出たのだろうか、色々面倒なので見舞いの品でも考える事にしよう。
「そりゃ酒だろ酒!養命酒ならいいんだろう?」
「あんたが飲みたいだけなんでしょう、どうせ」
「いやいや、誰かと飲みたいのさ。パルスィも付き合ってくれるかい?」
これから行くのが病人のところだとわかっているのだろうか・・・どうせあまり騒がないんだろうけど・・・
「まあ、どうせ大したことないでしょう。案外ご馳走にありつけるかもしれないしね。」
―面倒な事考えてるのなんて私くらいなんだろうか?馬鹿馬鹿しくなってくるわね、こいつを見てると。
「あれ?もしかして顔になんかついてるかい?」
「・・・」
そうだ、からかってやろう。何も言わず目をそらしてみる。
「なんだい?きになるじゃないか!」
引っかかった。こいつはこうだから面白い。
「なんでもないわよ!さあ、行きましょ。」
こんな日は飛んでいこう、いつもより少し高くを。
旧都の商店街の中心部あたりで、釣瓶落としのキスメは一人頭を抱えていた。
―うー、どうしよう。ヤマメちゃんにバナナとか買ってきてって言われたのに・・・いつものお店に売ってなかったよぅ。
―代わりのもの買って帰ってもいいんだろうけれど、どれにしようか迷うよー!
「あれ?キスメじゃない。一人でどうしたのよ?」
後ろからよく知った声が聞こえた。
「パルスィ!それに勇儀さん!どうしよー!」
「おおっと、どうしたんだい?」
とりあえず飛びついてみたら勇儀さんにキャッチされた。
「あのね、頭巾さんのバナナを買いに来たんだけど売ってなかったの!代わりに何を買えばいいかわからなかったの!」
一瞬パルスィが変な顔をした・・・気がする。
「あぁ、食料ね。食料の話ね。うん、果物ならりんごとかじゃない?あとは一緒に適当に見てまわりましょう。私達も似たような目的だし。」
―ちゃんとお見舞いするなんて心配してるんだねー・・・って言ったら帰っちゃうかな?パルスィは
「ふむ、元気が出る食い物ねぇ?やっぱ肉だよね」
さっきから勇儀さんはわたしを持ったままお肉屋さんの前でうろうろしている。お酒も買ってるみたいだし宴会でもする気なのかな?
「元気がない時にお肉は食べにくいんじゃないかなー?」
―わたしがそうだし頭巾さんもきっとそうだと思う。
「ふむ、じゃあキスメは疲れてる時何が食べたいんだい?」
「うーん、疲れてるときかぁ。甘いもの!」
「甘いものねぇ、っていうか疲れてるんじゃなくて風邪でしょう?体力の付くものなら肉ってのは間違ってないんじゃない?」
後ろのパルスィからそれっぽい意見が飛んできた。
「んじゃ食べやすいようにミンチにでもしてもらうかね。おーい!店主~!」
―あ、決まっちゃった。
「へいらっしゃい!っと勇儀さんにキスメちゃんじゃないですか。何がご入用で?」
パルスィは店の外で待ってるのかな?いつの間にか消えてるや。
「精のつきそうな肉を選んで食べやすいようにミンチにして頂戴な。」
「へい!かしこまりました!どっかで決闘かなんかでもするんですかい?」
はっそうがぶっそうだ!けど皆こんな感じだよね。店主さんはお肉をひと塊取り出して包丁で叩きはじめた。
「違う違う。ほら、最近やってきた人間がいるだろう?屋台やってる。あいつが風邪ひいたみたいでさ、その見舞い品さ」
「へぇ。そりゃ大変だ。ちょっと待ってください、じゃあこれ、おまけでさぁ!生姜は身体があったまりますからいいかもしれんですよ。」
店主さんは一旦手を止めて置くから何かを持って来た。
「おお、気が聞くねぇ。それじゃこれで足りるかい?」
「えぇと・・・はい!じゃあこれお釣りです。早く元気になってもらわんと宴会のつまみが寂しい事になりますねぇ」
そういえばお肉屋さんも屋台の常連さんだったなぁ。宴会にも毎回来てるっけ
「ははは!そうだねぇ。最近じゃ毎回毎回宴会の度にがんばってもらってるからねぇ。じゃ!今度は快気祝いの宴会だな!」
あらら?頭巾さんの次のお仕事が決まっちゃった。いいのかなぁ
「いいですねぇ!是非声掛けてくださいね!」
「んじゃ他も回ってみることにするよ。そんじゃあね!」
「はい!またいらしてください!」
「ん、終わったの?」
お店から出るとパルスィがそこで待っていた。
「うん!おまけで生姜もらっちゃった!」
「生姜ねぇ、確かにあったまるしよさそうだけど・・・」
「だけど、どうしたんだい?」
「なんに使うの?」
「「え?」」
――考えてなかったや。勇儀さんもおんなじみたい。あれ?
「そーいえばお肉もどうするの?ミンチにはしてもらったけどこのまま食べないよね。」
生姜なんてわたしは料理なんてあんまりできないからわからない。お肉も焼くだけだったりするし。生だったりも・・・
「「あ」」
勇儀さんとパルスィが同時に声をあげた。
―おかいもの、長くなりそうだなぁー
「ふぅ。」
ヤマメは台所で布巾を濡らす為の水を替えていた。
―キスメは・・・この様子だと時間がかかるね。さて・・・
「あんた、起きてるよね。」
部屋に戻り声を掛ける。
「ん?なんですか?ヤマメさん。」
「あんたに聞きたい事があってね、」
「なんでしょう?」
「人間の食べ方って知ってる?」
少しだけ、いつもよりトーンを落として、威圧する。
「ふむ、人間ですか。まず頭を落として手を腰辺りで縛って逆さ吊りにしてですねぇ。」
―こいつは
「あ、内臓やらは食べるにしろ食べないにしろ先にとっておいた方がいいんじゃないですかね。」
―殺されるのを覚悟してる・・・って感じじゃないよなぁ。
「あ、膀胱とかも取ってくださいね。それで・・・」
―かと言って、身の危険を感じてないわけじゃ・・・ない?
「もういい、どんな人間が美味しいんだと思う?」
隣に座り、顔を近づける。
「うーむ・・・それは・・・わからないですねぇ。ごめんなさい。」
しっかりと、目を見据えてくる。
「体、動かないでしょう?この子のおかげ。この子の毒はね。あんたらから体の自由だけを奪うの。脳ははっきりしているらしいけどね。」
手の平に乗せていた蜘蛛を見せつけ、顔の上に落とす。
「私の言いたいこと、わからないわけじゃないわよね。」
殺気を込めて言い放つ。
「む~・・・絶対不味いと思いますけどねぇ。特に内臓なんて業の塊で見れた物じゃないと思いま・・・」
まだ余裕のある返事が出来る事に、少しだけ、驚く。しかし、首を絞めて最後まで喋らせない。
―あれ?
「・・・抵抗、しないんだね。」
絞める手を、少しだけ緩める。
「して・・・も・・・意味は・・・ないでしょう?」
「それでも、普通は抵抗するものさ。あたしらだってするさ。」
そう言って、手を離す。そして―
「教えてあげよう。あたしが思う人間の一番の食べ方はね・・・」
変化を解く。服を裂き、蜘蛛の手足を出現させる。
「丸呑みさ」
口を開け、頭から――
「ふぅ、やっと終わった。ちと買いすぎたかね。」
大量の荷物を片手で抱えながら、鬼。星熊勇儀は言う。
「結局何作るか決まってないんだけれどね・・・」
横でパルスィがため息をついた。
「これだけあれば何かできるよー!」
キスメが楽しそうに言う。まあ食材ばかり買いこんで、自分の前には1メートル四方くらいの荷物がある。
「よっと、ヤマメん家ってそろそろだっけ?」
バランスを崩しそうになったので一端整えてからキスメに聞く。
「うん!もうそこだよ!ちょっと待っててね!先に戸、あけてくるから!行こう!パルスィ!」
「はいはい・・・それ前見えてる?」
「あぁ、ギリギリなんとかみえてるさ。」
荷物の上の方から顔を出し、足元は見えないが前はギリギリ見える。
「ふーん、じゃあ・・・」
パルスィの言葉が止まった。
「・・・?どうしたんだい?」
そういえばキスメの声も聞こえない。目の前にヤマメの家の入り口があるのは見える。戸も開いているのもギリギリ見える。
―?
荷物を置いて、ヤマメの家の中に見えたのは―――
「・・・」
「・・・」
目の前は、真っ暗だった。大きな蜘蛛の姿になったヤマメさんの口が迫ってきて、それが、目の前で止まった。
「・・・やっぱりあたしじゃ怖くないってかい?」
ヤマメさんが、尋ねてきた。口は動いていないが、声は聞こえてくる。
「・・・ごめんなさい。でもヤマメさんだからって訳じゃありません。」
それしか言えない。
「なんで謝るんだい?」
「妖怪は、人間に畏怖され、恐れられるべき存在で、幻想郷の人間は妖怪を恐れるためにあると、それが役目だと聞きました。」
視界が開けてきた。ヤマメさんの口が遠ざかる。
「・・・ふむ。」
ヤマメさんが、視界から消えた。
「そろそろ体も動くだろう?」
それを聞いて、体が動かなかった事を思い出した。今も軽く痺れている感じはするが全く動かない訳ではない。体を起こしヤマメさんの方を見る。
「どうだい?この姿、あんたから見て」
巨大な蜘蛛、自分の体の二倍から三倍はあるだろう。
「う~ん、かっこいい?」
「くっ、あはは!かっこいい?そりゃ始めての感想だね!」
―割と素直な感想なのになぁ。
「ほら、アレですよ。でっかいクワガタとか好きじゃないですか。男って」
ゆびを立てて例を挙げてみる
「あはははは!あたしゃクワガタと同列か!」
そう言った途端、ボフンッとヤマメさんは煙に包まれた。
「あーいやおかしい。いやさほら、前にこいしちゃんにね?あんたが全然驚いたり怖がったりしないって聞いてさ」
煙の中からいつもの明るい笑い声が聞こえる。
「それでおどかしてやろうと――」
煙が晴れてきてヤマメさんの姿が―
「どうしたんだい?固まって・・・あ。」
煙から出てきたヤマメさんは。いつもの人の姿をしていた・・・が。
その身体を隠すものは一切なかった。
「どわあああああああああ!?」
急いで目を自分の手で覆う
「あっはっは!そういや変化解いたのなんて久しぶりだから服とか破けちゃうの忘れてたよ!」
ヤマメさんは手で後ろ頭をかきながらのんきな笑い声をあげる。
「笑ってる場合じゃないですよ!早く服とか着てください!」
「はいはい・・・ってあれ?あんたそれ、手のスキマから見えてるんじゃないの?」
「・・・」
「・・・」
無言。
「っぎゃああああああ!ごめんなさぃぃぃぃ」
思わず今度は全速力で布団に隠れる。穴があったら迷わず飛び込んでいるところだがそうも言っていられない。
「あははは!驚いちゃってる!ほらほら!見たかったら見てもいいんだよー?減るもんじゃないんだから!」
今度は一瞬で掛け布団を引っぺがされた。さっきとは比べ物にならない力で。
「わわわ!ごめんなさい!お願いだから服を着てください!」
「おお?顔が真っ赤なんてもんじゃないよ!あっはっははは!なにこれ!面白い!」
ヤマメさんが顔を近づけてきた。もう駄目かもしれない。色々と
「うぅ・・・」
顔をそらす。
「ほらほら!蜘蛛の時はかっこいいんだろう?こっちはどうなんだい?」
「うわわわわ!ヤマメさん!ストップ!この状況色々とアレですから!」
ヤマメさんは四つん這いで自分の上にかぶさるように乗っている。目の前で手をばたばたと交差させる。
―こんな状況他の誰かに
ガラッと玄関の戸が景気の良い音を立てて開いた。
「ヤマメちゃーん!遅くなってごめ―」
「おーい、見舞いにき・・・た・・・わよ・・・」
「キスメ?パルスィ?どうしたんだい?固まって。・・・なにしてんだい?あんたら。そんな格好で」
「ああ、勇儀さん。いらっしゃい。」
自分とパルスィさんとキスメさんはしばらく固まって動かなかった。
「あっはっは!驚かそうとして変化したら服が破けたねぇ!そりゃラッキーだったね頭巾の!」
事情を聞いて勇儀は豪快に笑う。
「まったく、何事かと思ったわよ。入ってみたらヤマメが襲われてるんだもの。」
パルスィは腕を組んで鼻を少しふんっと鳴らした。
「逆ですからね!?あれでどうして俺が襲ってるんですか!?」
台所から頭巾が抗議の声をあげる。
「あぁ・・・酷い・・・あんな事をしておいて・・・めそめそ。」
ヤマメはおよよとその場に崩れ落ちる。
「ヤマメさん!?なんですかその誤解しか生もうとしない感じの言い方!?・・・あれ?キスメさんは?なんか一切声が聞こえないけど・・・って後ろにいる!?」
火の番をしているため居間に顔は出せないようだ。まだ若干落ち着きがない。
「あっはっは!言い訳は後で聞こうじゃないか!」
「しかし元気そうね。風邪なんて嘘だったの?」
台所の頭巾の様子を見ながらパルスィは言う。台所では、キスメがじーっと料理をしている頭巾の方を見ている。
「あいや、風邪はほんとさ。まあ風邪じゃなくて病気なんだけれど。」
「あら?って事はあんたなんかしたの?」
それを聞いてパルスィは尋ねる。
「うん、こないだ地上の人里に仕入れの手伝い行った時にさ。まああたしは中までは入ってないんだけどね。ちょっと良くないのが流行りそうだったんだ。」
「それで?」
勇儀が続きを促す。
「その病気は一回罹っておくとあとから同じのにはならないんだ。だから軽くこじらせれば予防できるって訳さ。」
「へぇ、あんたの能力も意外と便利なのねぇ。」
「まあ、こんな使い方めったにしないんだけどね。それに軽くても結構しんどいはずだし。死にやしないけど」
ヤマメは両手を広げやれやれといった感じのポーズをとった。
「にしちゃ元気そうだったじゃないか。色々と」
勇儀がにやにやしながら頭巾の方を見る。丁度準備ができたようだ。
「簡便してください・・・はい、準備できましたよ。」
少し大きな鍋を持って頭巾は台所から出てきた。
「あら、鍋?いいわね。外も雪だしすごく丁度いい感じ」
頭巾は囲炉裏に鍋をかける。そして後ろからキスメが小皿を持って来てひとりひとり配っていく。
「はい、大体こんな感じです。皆さん何作るか考えずに買い物してきでしょう。」
「あら、ばれた?あんたいるし色々買って何が出来るか聞こうって事にしてたのよ。」
「だってほら、まだまだあんなに色々残ってますよ。どうするんですか、あれ。」
頭巾は台所に山積みにされた食材達を指差す。
「なぁに!あれくらいなら消費できるって!近いうちあんたの快気祝いの宴会するしさ!そん時に使えばいいさ」
「俺のためにそんな・・・いいんですか?」
「はっはっは!宴会を開く理由がほしいだけさ!なくても開きまくってるがねぇ」
勇儀はそう言って豪快に笑う。
「ああ、その宴会は確かに楽しみねぇ。」
「あら、パルスィが宴会が楽しみだなんて珍しいわねぇ」
「ほんと、めずらしー」
ヤマメとキスメが少し驚いたような顔をする。それに対してパルスィは、にたぁ、と笑い頭巾の方を見ながら
「ほら、さっきの。あれをネタに男共の嫉妬心を煽りまくるのよ。」
「それはっ・・・勘弁してください・・・」
頭巾の顔が赤くなる。
「あっ顔あかーい!」
「あら、何思い出してるんだいこの助平」
そう言われて頭巾はわたわたと手をばたつかせるが特に返す言葉もないのか、何も言わなかった。
「まぁその辺にしてそろそろ鍋をつつこうじゃないか!頭巾の坊やはあんまり飲みすぎるんじゃないよ!」
「それじゃあほら、みんなで。」
パルスィを初めに5人が手を合わせる。
「「「「「いただきます」」」」」
旧都の中心、現在では旧灼熱地獄などの蓋のような役割を果たす地霊殿。旧都の妖怪達もあまり近づかないこの建物にノックの音が響いた。
―誰だろう。
「おーい!誰かいないかーい」
「あら、あなたでしたか。」
やって来たのは黒谷ヤマメであった。どうやら予想外だったらしい。
「あら、さとりかい?あんたがなんで出てくるんだい。」
「いらっしゃい、あら。私の住処なんだから私が出てきてもおかしくはないでしょう?・・・主がそんなぽんぽん出てきてどうするんだ、ですか?そこでペット達と遊んでいたのですよ。」
「まぁあんたなら手っ取り早くていいや。頭巾の坊やから伝言だよ。」
そう言ってヤマメは頭の中で私達への伝言を思い浮かべる。いいように使われているようで少しくやしい。
「ふむ、店主さんの仕入れの手伝いですか。それでその後噂の地上の屋台に行く、と。」
「そうそう、お燐は特に行きたがっていたみたいじゃないか。声かけたげなよ。それじゃあ後でね!来る奴は・・・」
そうそう、といい始めたあたりから集合場所を頭に浮かべている。器用な事で、そこまでしなくてもわかるのに。
「はいはい、入り口の洞窟ですね。わかりました、お燐達には声を掛けておきますよ。」
「なるべく早くにね!」
そう言い残してヤマメは去っていった。
「さてと、それじゃあお燐に声を掛けて来て頂戴。はいはい、貴方達には人間に変化できるようになってからね。今回はちゃんとお土産買って来るから。」
近くにいたペットに声を掛ける。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
二回から声がかかった、こいしのようだ。どうやらつい先程目覚めたらしい。
「頭巾さんから私達にデートのお誘いだそうよ。一緒に地上にいかないか?って」
「行くー!おねえちゃんも一緒に行こう!」
即答だった、無意識という訳ではないので読めない訳ではないがほぼ反射的に答えが返ってきた。
「はいはい、一緒に行きましょうか。お燐も来たようだし。」
どたばたと走る音が聞こえてきたのでその方向を見る。
「さとり様!私も行っていいんですか!?」
「えぇ、貴方にはいつもがんばってもらっていますからね。こんな時くらい羽目を外してもいいと思いますよ。」
そう言うとお燐の頭の中は私への感謝とウナギの事でいっぱいになる。・・・感謝をされる事はしていないのに。
「やったー!早く行きましょう!」
そう言えばお空の姿が見えない。どうしたのだろう。まさか、声を掛けられていないのだろうか。
「あはは!お燐うれしそー!」
「お燐、お空はどうしたの?」
「お空はもう神社に遊びに行ってます!」
そういえばたまに一人で紅白やら白黒に挑戦しに行っていた。
「じゃあしょうがないね!早く行こう!おねえちゃん!」
「はいはい、それじゃあ行きましょうか、旧都の入り口のいつもパルスィさんがいる所で待っているようですよ。」
「「はーい!」」
―楽しそうね、こいしもお燐も・・・なんだか私も楽しくなってきたわ。外に出るのが楽しいだなんて・・・久しぶりな気がする。
待ち合わせの場所に着くと、ヤマメとキスメ。それに店主にパルスィが橋の上でのんびり談話していた。
「あら、あんたも行くの?」
パルスィが心の底から以外だと聞いてくる。
「私だってたまには外出くらいしますよ?そういうパルスィさんは行かれないみたいですね。」
心を読んでの会話、パルスィは読まれた事を大して嫌がる様子はない。ここにいる連中は余り気にしない。さとり妖怪としてはどうなのだろう。私としては気が楽でいいのだが。
「私はあんまり地上は好きじゃないの。まあ、行ってみたくなったら今度誰かに案内してもらう事にするわ。」
「そうですか」
言われて自分もあまり地上が好きでなかった事を思い出した。回りを見回すと、こいしが店主に声を掛けた所だった
「やっほー!おにーさん!風邪は治った?」
「・・・あれ?なんでこいしさんが知ってるんですか?」
―あら、動揺してるわね・・・?・・・あらあら。
読んでみるととても面白い事があったようだ。こちらの視線に気づいてさらに動揺している。
「だってほら!看板に書いてあったじゃない!」
「ああ、そういう事でしたか、折角来ていただいていたのに・・・」
「それにあの日ヤマメの家で寝てたしね!」
―あ、思考が吹っ飛んだわ。
「ぶっ・・・なんでそこまで!?」
「・・・?どーしたの?ヤマメの家に行ったけど寝てたから帰っただけだよ?」
「ああいや、なんでも・・・」
「・・・?変なおにーさん」
笑いをこらえるのが限界だった、くすくすと笑ってしまう。店主は涙目、といった感じだ。
「おーい、準備は出来たかい?」
涙目になっている原因が声を掛ける。
「あ、えぇ。それじゃあ行く人は行きましょうか。」
「あれ?キスメも行かないのかい?」
お燐がキスメに声をかける。
「うん!今日はパルスィとお留守番するんだー」
どうやらパルスィを一人にして寂しい思いをさせたくないようだ。
「ふーん、それじゃああたいを入れて5人か。屋台ってそんなに大人数で押しかけて大丈夫なの?」
確かに、たまに店主の屋台も大変な事になっていた気がする。
「まあ、待つ時間は長いだろうけれど問題ないですよ。お店が忙しくなるのは間違いないだろうけど。」
「ねえねえ!上の屋台って前に言ってたおにーさんのししょーのお店だよね?」
こいしがたずねる。
「えぇ、以前お燐さんが行きたがっていたのを思い出して、仕入れのついでに顔を出そうかなぁ、と思いまして。」
「うにゃあ!あたいのために!ありがとー!!」
お燐は心の底から嬉しそうだ。
「えぇ、それじゃあ行きましょうか。行ってきますね、パルスィさん、キスメさん。」
店主が留守番の2人に声を掛け、歩き始める。
「うん?歩いていくの?」
それを見て。お燐が尋ねる。
「えぇ、自分は飛べないので・・・少し時間はかかりますが・・・」
「あたしが糸で吊って行ってやるって言ったのにどうしてもって嫌がるんだ。」
ヤマメがやれやれ、とため息をつく。どうやら以前店主は、それでパルスィに笑われたらしい。
「それじゃああたいにお任せだ!」
お燐が胸をどんっと叩く。
「お任せって・・・?」
店主が嫌な予感しかしない、とばかりに若干顔を引きつらせる。ああ、どうやらその予感は、当たっているようだ。
「そーれ!これなら早いよ!」
お燐が自前の手押し車に店主を放り込んだ。
「ああ、いいねそれ!」
ヤマメがなるほど、と手を打つ。
「なるほど、それもいいわね。」
パルスィは後ろですでに若干笑いをこらえている。
「ちょっお燐さんすと・・・おわわわわ!」
言い終わる前にお燐が走り始めた。
「あはは!待ってよおりーん!」
「それじゃあ、行ってきますね。」
残る2人に声を掛けそれを全員で飛んで追いかける。
「行ってらっしゃい」
「お土産よろしくねー!」
―不思議、地上に行くのが楽しいだなんて。今でもあまり好きじゃないのに。どうしてだろう?
こうして、少し賑やかな一行が、地底から地上へと進み出た。
地上への道を走る、走る、走る。火焔猫燐は、地上へ続く道を全力で走っていた。
―おつかいを手伝って!手伝った後にアレが食べられるならおつかいに時間なんて掛けていられない!
「お燐さん!ちょっ速い!がたがた揺れて色々痛いです!どなたか存じませんがこのお骨がガンガン当たって痛いです!」
荷車のお客さんが何か言っているようだが特に気にしない。
「ふふふ、お燐。楽しそうねえ」
さとり様も楽しそうだ。
「おにーさんってもっとクールというか落ち着いた人間だと思ってたよ!以外とテンション高いよね!」
こいし様も楽しそう、みんな楽しそうなんだ。楽しくない方がおかしいのだろう。
「なんだかそれは喜んでいいのか微妙ですね、こいしさん・・・」
「あはははは!折角作ってたキャラが台無しだねえ!」
「作ってたわけじゃ・・・むしろ皆さんが俺に対してあだだだだ!」
ちょっと道がでこぼこしてきた。流石に落としたら大変そうなので気をつけて走る。洞窟の出口も見えてきた。
「ひゃっほー!」
そう言って飛び出す。妖怪の山のふもとに飛び出す。っと、店主も一緒に空中へ飛び出してしまった。あとから出てきたさとり様が空中で捕まえてくれた。
「お燐、もう少しだけ気をつけてあげなさい?私達よりはずっと脆い生き物なんだから。」
怒る、というよりは諭す感じで言われる。やっぱりさとり様はやさしい。さとり様は近くにおにーさんを下ろした。
「もう・・・いいです。走ります。」
そう言っておにーさんはため息をついた。
「あれ?あんた運動なんてできるの?」
ヤマメが聞く。そういえばそんなイメージはない。むしろおにーさんは体力がないように見える。
「まあ、ここからなら大した距離じゃないし、たまには運動もしないと・・・」
「それじゃー競争しようよ!競争!」
こいし様が楽しそうに提案する。
「あら、いいね。それ」
「ふふ、私達は当然飛んでいきますからね?」
「お燐も飛んでいいよー!」
皆ノリノリだ。
「え、流石にそれはちょ・・・」
頭巾のおにーさんは首を横に振ろうとしたが・・・
「よーい、どーん!」
スタートの合図は出てしまった。私も飛んで行く事にしよう。
「ちきしょー!」
下の方ではおにーさんが全力疾走している。見ていて少し面白い。
「さて、他の妖怪に襲われたりしないように見ながら行きましょうか」
と、さとり様。凄く楽しそうな顔をしている。確かに必死に走るおにーさんを見ていて楽しくなってきた。
「おにーさんがんばれー!」
前の方ではこいしさまがそこそこ速めに飛んでいる。一番は取りたいらしい。
「あははは!こけないようにねー!」
ヤマメなんかは腹を抱えて笑っている。さとり様もつられて
―あーあ、お空も来ればよかったのに。こんなに笑ってるさとり様とこいし様、久しぶりに見れるのに。
結果、人間の里に一番についたのは無意識を操る少女、古明地こいしであった。
「いっちばーん!」
最後は飛んでいた皆も競争になったけど、結局私が一番だった。
「はぁ・・・はぁ・・・やっぱり貴方は、体力あるわね・・・。」
お姉ちゃんは4番目、やっぱり出不精だからかな?
「ふぅー、久しぶりに全力で飛んだよ。弾幕ごっこもいいけどたまにはかけっこも楽しいもんだ。」
3番目はヤマメ、結構速かった。
「負けたかー!流石こいし様です。」
2番目のお燐は少し悔しそうだ。それを見ると一番を取ったのが嬉しくなった。
「ひぃ・・・ひぃ・・・よ・・・よけい・・・な事言うんじゃ・・・なかった・・・」
最後はおにーさん。お姉ちゃんより結構遅れてごーる!
「ふふふ、じゃあビリのおにーさんは皆に何かおごってね!」
そのためのかけっこだ。罰ゲームはやっぱり必要だろう。
「あら、いいわね。私は何か飲み物がいいわ・・・」
「じゃああたしも飲み物がいいね!」
「あたいものど渇いたからそうしようかな。」
皆賛成してくれた、わたしも飲み物にしよう。
「えぇー、大体下走るのと上飛ぶのじゃ障害物とかいろいろ・・・」
あ、ちょっと不服そう
「あら、なんか愚痴ってるよ。大の男が。」
「あらあら、男らしくないですねえ?」
おねえちゃんとヤマメが一気に攻め立てる。これはひどい!
「おにーさん、どんまい!」
肩をポンと叩いて励ましてみる。
「はぁ、しょがない。・・・って誰のせいでこうなったと・・・」
そういえばわたしが提案したんだった。
「あれー?どうだったかなー?」
「もういいです・・・それじゃ、行きましょうか。」
おにーさんが先導して人間の里に入っていく。地上は色々回ったけど人里は始めてだ。
「ん~・・・今日は、なんだか静かだなあ。」
おにーさんがあたりを見回しながらぼそり、と呟いた。
「あら?もしかして私達のせいかしら?」
おねえちゃんも周りを見ながら言う。言われて見れば凄く静かだ。道を歩いているのは私達だけ。割と広い道なのになー
「まあ、とりあえず何か飲みましょう。自分も喉が渇きました。」
おにいさんが近くにあった大きなお家を指差して、そちらに歩いて行った。みんなで付いて行く。
「こんにちはー!」
おにいさんが中に入ってお店の人を呼んだ。
「はいはい、あら。頭巾の坊やじゃない。今日はそんなに美人さんをたくさん連れて、デートかい?」
中からはおばさんが出てきた。美人さんって私達の事かな?少し照れるかも。
「あはは、そんなんじゃないですよ。今飲み物ってどんなもの置いてますか?」
おにいさんは笑って返す。
「そうだねえ、りんごかみかんのジュースならあるね。どうだい?」
「じゃあわたしはりんご!」
「私は、みかんにしようかな?」
「あたいはりんご。」
「それじゃあ私は・・・みかんにします。」
みんなそれぞれ注文する。
「・・・だそうです。自分はみかんをお願いします。・・・これで丁度です。」
最後におにーさんが注文して5人分のお金を渡す。
「はいよ、確かに。」
おばさんはお金を数えると腰につけていた袋に入れた。
「今日はやけに静かですねえ?何かあったんですか?」
「ああ、ちょっと病が流行っててねぇ。空気で伝染るってんで皆あんまり出かけないようにしてるんだよ。」
「へえ、大丈夫なんですか?」
「うーん、どうなんだろうねえ。病自体は竹林のお医者様のお薬でなんとか治るんだけれども、ほら、八百屋のおばあちゃんいるでしょ?今回の病で亡くなっちゃってねえ。」
「ああ、結構なお年でしたからねえ。」
私達はよくわからなかったから、皆おにーさんとおばさんの会話を黙って聞くだけだった。
「それが、他の若い人も数人なくなっちゃってねえ、そのせいで皆気が滅入っちゃって。」
「ふーむ、それは大変だ・・・ぷはぁ。ご馳走様でした。」
おにいさんはそう言うけれど、あんまり表情は変わっていなかった。
「貴方も気をつけてね?皆さんは・・・大丈夫なのでしょうね。」
そう言うおばさんは少し難しい顔をした。
「ごちそう様でした。ここでの買い物はないのでしょう?次、行きましょう?」
そう言ってお姉ちゃんは外へ出るよう促す。
「ごちそーさま!おいしかったよー!」
ジュースの入っていたビンを置いておばさんに手を振る。おばさんも手を振りかえしてくれた。
「さて、それじゃあ買い物ですが、皆さんはどうします?」
おにーさんが聞いてきた。
「わたしは付いてくー!」
「あたいも行こうかなさっさと終わらせてしまおう。」
私にお燐も続く。
「あたしはちょっと外で待ってようかしらねえ。今のここにあたしは縁起が悪そうだ」
と、ヤマメ。そういえばそういう能力だったなあ?
「・・・それじゃあ私も外で待っているわ。こいし、お燐。店主さんのいう事を聞くのですよ?」
「はーい!」
「わかりました!」
2人で元気に返事をする。・・・おねえちゃんも一緒に来ればいいのにー
「それじゃあ、行きましょうか。まずは酒屋さんです。」
「わーい!お酒お酒ー!じゃあ後でね!お姉ちゃん!」
「行ってらっしゃい。」
そう言っておねえちゃんは笑顔で手を振ってくれた。
「・・・ふぅ、大体こんなものかな。」
大体の買い物を終え、頭巾は一息ついた。両手には結構な量の荷物を抱えている。
「結構色々買ったねー!おにーさん!私もっと持てるよ?」
こいしが両手に買い物袋を持ってぱたぱたと走り回る。
「そうだよ?無理しなくてもあたい達を頼ればいいのに。」
お燐は自分の荷車の中の荷物を見ながら言う。
「・・・それじゃあよろしくお願いします。っと、」
結構しんどかったのだろう。その場にかがんで荷物を一端置く頭巾。
「じゃああたしこれと・・・これもつねー!」
「あたいはまあこれ使ってるからねえ。よいしょっと。」
2人は頭巾の持っていた荷物をそれぞれ取っていく。
「あれ・・・これじゃあ俺の持つのこれだけ・・・」
頭巾の前に残ったのは酒のビンが入った袋一つだけだった。
「いいじゃないか、それで。」
お燐は不思議そうに言う。
「いや、男としてこれは・・・!?」
頭巾がそう言おうとした時、突然大きな爆発音のような物がした。空気の振動が、里を包み込んだ。
「おんや?何事?」
「あっちで何かやってるよー!」
こいしが指をさした方向は里の入り口であった。
「あっちは・・・さとり様!?」
お燐が慌てた表情をする。
「お姉ちゃんなら大丈夫だよ、お燐。落ち着いて。」
こいしがやさしく燐を諭す。
「そうですね、大丈夫でしょうが、気になりますね。行きましょう。」
頭巾がそう言うと、3人は走り始めた。
「わあ!人間がいっぱい出てきた!」
こいしが周りを見ながら言う。民家から人々が出てきて、何事かとばかりに様子を伺っている。
「結構な音でしたからね・・・襲い掛かっちゃ駄目ですよ?あ、見えてきた。」
里の入り口には、随分と大きな人だかりが出来ていた。それを見て、頭巾は
「結構な人ですね、お燐さん、こいしさん、はぐれないよう・・・に・・・」
そう言って後ろを振り向いたが、2人はすでに、いなくなっていた。
―まあ、あの2人は大丈夫だろうけれど・・・
「すいません!何事ですか?」
人だかりの最後尾の人間に何があったかを尋ねる。
「ああ、妖怪が出たらしいよ。慧音先生と妹紅さんがなんとかしてるって。」
―妖怪・・・入り口にいたのって・・・まさか!?
「通してください!すいません!」
慌てて人ごみを掻き分けて入り口の方へと進んでいく。そして、最前列へ出た。
「おや、お前は確か・・・」
最前列に出た頭巾に声を掛けたのは、人里の守護者。半獣人、上白沢 慧音であった。
「慧音先生、妖怪が出たって・・・ヤマメさん!?」
頭巾が見たのは、大蜘蛛に変化したヤマメと、それと交戦する竹林の案内者、不死人藤原 妹紅であった。
「ちょ!止めてください!あれは・・・」
そう言って飛び出す頭巾を慧音は慌てて止めた。
「やめんか馬鹿者!あれは土蜘蛛、病や感染症などを操るとされる妖怪だ・・・近づくとどうなるかわからないぞ。」
頭巾を羽交い絞めにしながら言う。
「知ってます!でも彼女は里の病とは無関係です!」
「いいから黙ってみていろ!」
慧音はそのままもがく頭巾を押さえ、口をふさぐ。
「久しぶりだな!こんな普通に妖怪退治だなんて!」
妹紅が大声で叫ぶ。
「ハッハァ!そんな簡単に退治なんてされてやんないよォォ!!」
大蜘蛛もそれに答えるようにそう叫ぶ。
―ヤマメさん・・・どうして・・・。妹紅さんだって話のわからない人じゃないのに・・・
慧音の腕の中でもがきながら思考を巡らせる。その間も事態は進展している。
「それじゃあこれでとどめだっ」
妹紅がそう言うと、彼女の背中に炎の翼が生え、次の瞬間には大蜘蛛を炎が包み込む。
「ぎぃやぁぁぁぁ!!」
炎の中から叫び声が響く。その後大蜘蛛はその場に倒れ伏せた。
「ヤマメさん・・・!!」
慧音の腕を振りほどき、炎の中へと飛び込む。それを見送った後慧音は
「もう病を振りまく妖怪は倒された!さあ!皆安心して家に帰るんだ!あとの処理は私達で行う・・・」
と大きな声で里の人間の方を見て言う。
「もう、大丈夫なんですか?」
里人の一人が問いかけた。
「えぇ、もう大丈夫ですよ。どうか、他の皆様にもそうお伝えください。」
それに慧音はやさしく返し、人々を村の中へと返した。
「ヤマメさん・・・!!」
大蜘蛛に駆け寄り、頭巾は問いかける。しかし、返事はない。
「お前は・・・前夜雀の屋台にいた・・・」
妹紅が頭巾に声を掛ける。
「・・・この方は・・・病を里にばら撒くような方じゃなかった・・・」
頭巾はぽつぽつと、言葉を紡ぐ。
「そうかい。」
妹紅はそう、一言だけ答えて、頭巾の方から顔をそらした。
「でも・・・」
頭巾が、何か言おうとした時、ぼふん、と煙をあげて大蜘蛛は、姿を変えた。
「・・・」
頭巾は黙って上の着物を脱ぎ、大蜘蛛、もとい黒谷ヤマメにかける。
「・・・変化まで解けて・・・こんな・・・」
しばらくその場に、沈黙だけが残った。
「こんな・・・」
―あれ?そういえば・・・
「ぷっ・・・」
頭巾の手元で声がした、頭巾は、その表情を最高に歪めに歪めた・・・
「そういえば・・・ヤマメさんて・・・蜘蛛の方が本当の姿でしたよね・・・」
「くっくっくっ・・・」
手元からする声を無視して頭巾は続ける。
「変化が解けて・・・人間に戻るって・・・おかしいですよね・・・」
「あっはっはっはっは!!」
手元からだんだん大きな声がしてきたがさらに無視して頭巾は続ける。
「お燐さんもこいしさんもどこかに消えるし・・・なんで・・・」
「ひーっひっひっ・・・あー!苦しい!」
いつの間にかあたり一帯から笑い声がする。
「もう・・・やだ・・・」
そう言って頭巾は、顔を両手で覆った。
夕暮れ、地上の屋台、夜雀ミスティア・ローレライが営むこの店に、一番初めの客が一組、訪れていた。
「つまり、慧音先生にヤマメさんをやっつければ里の人たちが病に怯える事がなくなるから、と持ちかけて一芝居打った、と。」
その客の一人、かつてこの店で働いていたという頭巾は、杯を煽りながら言う。
「それで、ヤマメさんへの報酬は自分をからかう事だった、と。」
もう一杯、ぐいっと手元の杯を煽る。
「お燐達には私がこっそり声をかけました。ふふ、意外とばれないように声を掛けるのもドキドキして楽しかったですよ。」
さとりはくすくすと笑いながらその横で愚痴を聞く。
「いやー!私も堪えるの大変だったよ!色々と」
妹紅もけらけらと笑う。
「こら妹紅、その辺にしてやるんだ・・・!!くくっ」
慧音も堪え切れなかったように笑う。
「先生も笑ってんじゃないですか!師匠!酒!いっちばんきついやつください!!」
頭巾は屋台の店主、ミスティア・ローレライに注文する。
「はいはい、よく知らないけどあんたも災難ねぇ。」
注文を受けてミスティアは、酒瓶を一本取り出した。
「いやー!あんなにうまく行くとはねぇ!あー!酒がうまい!」
ここでようやく主犯、黒谷ヤマメが口を開いた。
「うぅ・・・ヤマメさんがそんなに人間愛に溢れた方だとは思ってませんでしたよ・・・!!」
ぶつぶつと文句をたれながら酒を飲む。
「いやいや、流石にそれだけじゃあないさ!あーやってあたしが今回の病の原因だって思わせりゃ人間はあたしを恐れるだろう?」
ヤマメは手を振り、説明を始める。
「それで、あたしを倒した、って思う事で病を克服するだろう?そうするとあたしに対する一種の信仰心のような物がうまれるのさ。」
「そうする事で妖力を強める、と。」
最後にさとりが補足した。
「でもおにーさんのあの顔、面白かったねー!お燐?」
こいしは隣に座る燐に話しかける。
「そうですねー、お空やパルスィ達にも見せてあげたかったですねぇ。」
燐もにやにやしながら言う。
「そこはこの私、射命丸文にお任せください!頭巾さんのあの表情はバッチリこのカメラに収めてますよ!」
突然後ろから現れたのは、天狗の新聞記者、射命丸文だった。
「いっそ死にたい・・・」
ついにその場に伏せてしまった。もはや突っ込む気力もないようだ。
「あらあら、こいつが潰れるなんて珍しいわねえ。はい、串焼きね。天狗さんはどうする?」
ミスティアはそう言って一人一人に皿を渡していく。
「うにゃぁぁぁああ!これがうわさの・・・」
燐はぞくぞくっと背筋を震わせながら匂いをかぐ。
「あややや、私はこれから編集の仕事があるのでご遠慮させていただきます!」
「後生です、勘弁してください・・・」
飛び去ろうとした文に向かって頭巾は言うが
「記事の完成、楽しみにしててくださいねー!」
そう言って文は飛び去ってしまった。
「ご愁傷様です、あら。本当に美味しいんですねえ。」
「本当に美味しい!あたい生きててよかったあ!」
「おー、本当だ、坊やのも大概美味しいけれど、これは格別だねぇ。」
それぞれ感想を述べる。
「おいしー!ほら!おにーさんも食べなよー!」
こいしは串焼きを頭巾の口元に持って行く。頭巾はそれに噛り付く。
「あはは!おにーさんかわいー!」
こいしはきゃっきゃと楽しそうにわらう。
「ほら、行儀が悪いぞ!きちんと自分で食べなさい!」
「慧音はいちいち細かいんだよー!ほれほれ。あーん。」
妹紅はそう言って慧音によりかかり、こいしと同じように口元に串焼きを持っていく。
「こ、こらっ妹紅・・・!!」
「ほーら、食べた。これで同罪だね!」
妹紅はにしし、と笑う。
「まあ・・・今回は・・・」
慧音は口をもぐもぐさせながら、言う。行儀が悪いのは大差ない。
「師匠、酒!次出して!」
頭巾は空の酒瓶をぶらぶらさせながら新しい酒を注文する。
「あんた、敬語がどっか行ってるわよ。」
そう言いながらミスティアは足元から一升瓶を取り出し蓋を開ける。
「あれ・・・さっきあけたばっかりじゃなかったっけ・・・?」
妹紅は頭巾の手に持った一升瓶を見ながら言う。
「凄い勢いだな、大丈夫か?」
慧音が少し心配そうな顔をする。
「大丈夫よ、これくらい。こいつ、鬼や天狗にも負けないくらい飲むんですから。」
そう言ってミスティアは新しい一升瓶を頭巾に手渡す。
「そうそう、こいつほど飲める人間そうはいないよ。霊夢も魔理沙もいいとこ行くけどねぇ。」
現れたのは鬼の2人組み、伊吹萃香と星熊勇儀だった。
「あら、勇儀さん。今日の用事って萃香さんだったんですか。」
ヤマメは勇儀に尋ねる。
「ああ、こいつに一杯誘われててね。しかし、面白い事があったみたいじゃないか。」
勇儀はにやにやしながら頭巾を見る。
「なんで貴方達まで・・・」
頭巾がほぼ涙目で尋ねると、
「あたしにわからない事なんてほとんどないのさっ」
と萃香は胸をどんっと叩く。
「もうやだ・・・」
頭巾は再び突っ伏してしまった。
「あっはっは!ほれ!飲もうじゃないか!」
勇儀はバシバシと頭巾の背中を叩く。
「飲むのはいいけれど、食べて行ってくださいね?貴方達どうせ、お酒は頼まないのでしょう?」
ミスティアはそう鬼達に言う。
「はいはい、わかってるよ。いつもの二つ!」
萃香は指を二本立てて注文してカウンターに座る。
「店主さん!あたいおかわり!」
「はいはい、串焼きですねー」
「あ、わたしもー!」
「じゃあ、私ももう一本いただこうかしら。」
「あらあら、忙しくなってきたわねぇ。まだ日が暮れたばっかりだって言うのに・・・」
ミスティアは少し、ため息をついた後、八つ目の串を焼き始めた。
「師匠~、酒なくなりましたー!」
頭巾はそう言って空の瓶をぶらぶらさせる。
「もう!?あんた少し自重しなさいよ!」
ミスティアは呆れたように言う。
「・・・女将さん、あれ、本当に酒なのかい?実は水とかなんじゃ・・・」
余りのペースに少し驚いた妹紅がミスティアに尋ねる。
「あら、気になりますか?じゃあこれ。」
そう言ってミスティアは先程頭巾が空にした一升瓶を妹紅に渡す。
「!?なにこれ!きっつい!?」
瓶の口に鼻を近づけた妹紅はびっくりして遠ざける。
「55度あるんですよ。それ」
「・・・はぁ!?これ・・・えぇぇ!?」
妹紅は信じられない、といった表情で手元の瓶と頭巾の持っている瓶を見比べる。
頭巾はさっきからがばがばと杯に酒を注ぎ、がぶがぶそれを飲んでいる。
「はい、串焼きおまちどおさま。」
さとり達に追加の串焼きを配っていく。
「うにゃー!おかわりだー!」
「こら、お燐。行儀が悪いですよ。」
「あはは!お燐おこられたー!」
「みすちー!来たよー!」
屋台の後ろの方から新しい声がした。
「・・・忙しくなりそうねぇ。あんた、酒はそれくらいにしてこっち手伝いなさいな。お連れさんたちの分は安くするから。」
ミスティアは頭巾にそう言うと、テーブルの準備を始めた。
「はーい・・・」
頭巾はまだ半分くらい残っている酒瓶を持って立ち上がる。まだふらつく様子はない。
「あんた、今日はありがとうね」
立ち上がった頭巾にヤマメは声を掛けた。
「え?なんですか?」
聞こえなかったのか、頭巾は聞き返す。
「・・・なんでもないよ!ほら!さっさと手伝ってきな!」
ヤマメはどんっと頭巾の背中を叩いた。
その後は、誰も彼もが食って飲んでの大騒ぎ、仕舞いには店主のミスティアも仕事を投げ出して歌いだし、一晩かけての大騒ぎであったそうな。
しかし、私は嫌いじゃないです。むしろ、彼女たちが妖怪だと再認識も出来ますよね。
みんな仲良しで素敵です。そして、お色気シーンも素敵です。
やっぱり頭巾さん良いキャラすぎるwwww
ヤマメ・・・頭巾・・・ヤマズキ!
ほっこりするお話、ごちそうさまでした。