「そう、気分がよかったの。誰かと会話したくて。構ってほしかったのよ、ごめんなさい」
頭上に広がる、真っ青でとてつもなく広い空。
私の気分も最高潮で、こんな日は何かをしたくて堪らない。何でもいいから。
そんな天気なんだから、霊夢の神社を荒らしてしまったのは仕方のないこと。
今の私は、アドレナリンの塊。
「でね、境内に敷きつめてる石。多過ぎない? あれじゃあ荒らすのも一苦労よ」
「へぇ…」
数多く、整えられて綺麗な境内の石っころ達。
それは霊夢の努力の賜物なんだろうけど、整ったものを壊したいのが今の私。
縦横無尽に蹴り飛ばしてたら、足先がひどく痺れちゃって。
「なんなのその態度。あんたの犯行、許した覚えはないんだけど」
「え? 正直に私が荒らしたって言ったし、理由も正直に言ったじゃない」
「正直に言ったら許されるとか、本気で思ってんの?」
当然。
だって、かの白蓮さんが演説してたんだもの。
長年生きていた人の言葉っていうのは、嘘でも説得力のあるもので。
今月の私の座右の銘は、嘘を吐かない私は偉い。
偉いと思えるように努力してます。
「…まさか、許してくれてないのかしら。正直に白状したのに」
「そ。それがあんたの考えなら、私だって考えがあるわ」
袖から何かを取りだす霊夢。
私をすぐに許さなかったお詫びとして、金一封なら受け取ってあげないこともない。
そうして彼女の袖から出てきたのは。
え、何それ。スペルカー…
『…その昔、外の世界にはジョージ・ワシントンという人がいました』
変な名前。
私なら、もっといい名前つけてあげるのに。都会派なかっこいい名前。
『彼は幼い頃、桜の木を切ってしまいました。それを彼の父に言及された時、彼はどう答えたと思いますか? じゃ、そこの金色の髪した女の子』
…周りをよくよく見回してみても、金髪は私しかいない。
今語ってる白蓮さんの隣に虎柄の服を着た金髪の女の人がいるけど、どうにも白蓮さんの目は私を見つめている。
ここは、都会派な回答を見せつけてやろう。
『これも神の定めなのです、父上。あの木は今この時、朽ち果てる運命にあったのです。ですので、私自ら手を下した次第でございます…かしら』
『…じゃあ、隣のボク。分かりますか?』
『正直に言ったんでしょ?』
『そう、その通りです。彼は父に、自分が切ってしまいましたと、嘘偽りなく白状しました』
知らないわけないじゃん。と呟く隣の小さい男の子。
何よ、そのわざとらしい呟き。子供の僕でも知ってるのに、お姉ちゃん知らないの? とでも言いたそうなその顔。
自分から白状したってことは、私の答えと一緒じゃない。
むしろ、詳しく状況を説明した私の勝ちよ。ふふん。
『彼の父は怒るどころか、正直に白状した彼を誉め讃えたそうです』
ふーん…どこか別の理由もありそうだけど。
ほら、実はそのお父さん、花粉症だったとか。
…捻くれてるとか言わないで。
『この話は、嘘はよくないという教訓として、後の世に広く伝わるようになりました』
外の世界というのは、ここ幻想郷よりもはるかに進んだ世界だと聞く。
進んだ世界に住む人々の知恵は、やっぱり進んでいるのだろうから。
都会派に捻くれてる私でも、この教訓は受け入れるべきかもしれない。
『…今日はここまでです。ご清聴、誠に感謝致します』
桜の木の話から数十分ぐらい後、ようやく白蓮さんの話が終わった。
長い間話してたけど、私の頭に残ってるのは桜の木の話だけ。
今日から私は、どんな悪いことをしたってすぐに白状する。そして許してもらって。
結果として、アリス・マーガトロイドは何をしたって許されるような存在になってみせる。
幻想郷の良心とは、私のことよ。
『…どういうつもりかしら』
『そりゃ、読みたいのよ。本は読まれるためにあるんだから』
善は急げという格言が、外の世界にはあるらしい。
幻想郷の良心である私には、もたもたしている時間はなくて。
まずは、パチュリーを相手に実験してみる。
『ここで読めばいいじゃない。何で堂々と持ち帰ろうとするの』
『だって、ここ日が入らないし。こんな場所は都会派じゃないわ』
『じゃあ、無理に来なくても』
『本は読みたいのよ』
パチュリーの目の前を、適当な本を見繕って通り過ぎてみた。
手に持った本は、パチュリーに見せびらかすような形で。
もちろん、捕まった。ここまでは予定通り。
『あなたの好きにはいかないのよ。どっちか諦めなさい』
『どっちか…っていうのは?』
『本を持ち帰らないか、それともここに来ないか。何を聞いてたの』
『本を持ち帰らないのを諦めるってことは、本を持ち帰れってことよね?』
『そうよ…え?』
ここからが予定と違うところ。
正直に持ち帰ろうとしたことを白状したし、理由も正直に言った。
なのに、許してくれないし褒めてもくれない。
何が起こってるのだろうか。
『それなら、持ち帰らないのを諦めるわ。それじゃ』
『…好きにしなさい。屁理屈だけは認めましょう』
『どうも』
まぁ、結果としてはこの通り上手くいってるんだけど。
どうにも、私が正直に白状したから許してくれたっぽくない。
でも、都会派な私はこんなことでくじけたりはしない。
何事にも例外はあるもの。パチュリーって無愛想なところあるし。
次は…そう、霊夢を相手にしてみましょうか。
「…ぉい、おい。いいかげん起きろよ。暇で死にそうなんだ」
「……ふぁ」
「ふぁ、じゃない。とりあえずおはよう、アリス」
目を開けると、映るのは眩しい夕焼け。
あれから霊夢に制裁を受けた後、どうやら縁側に転がされてたみたいで。
もうちょっと、ねぇ。私だって女の子なんだから。
布団ぐらい用意してくれたっていいのに。
「お前、何したんだ?」
「なにが」
「何がって…ほら、どうして霊夢にやられたかを聞いてるんだ」
寝起きのせいで、上手く呂律が回らない。
そもそも、なんでここに魔理沙がいるんだ。
寝起きだから髪もぐしゃぐしゃ、顔も不機嫌な表情に違いない。
都会派じゃない私なんて、誰にも見られたくないのに。
「えっと…そう。神社を荒らしたのよ。具体的には敷きつめてる石を蹴飛ばしまわって」
「…何で?」
「天気が良かったから」
「ま、自業自得だな。それじゃ」
…魔理沙もダメ。
正直に全てを白状したら、何もかも許され尊敬され讃えられ、神として崇め奉られるって話は嘘だったのか。
今までの失敗を嘲笑うような夢まで見せてくれちゃって。
どうなのよ、白蓮さん。
「霊夢は?」
「私と行き違いにどっか出かけたよ。アリスが何かしでかさないよう見張ってて、だってさ」
その判断は正しかった。
目覚めて一人だったら、多分神社を荒らして帰るとこだったと思う。
だって、このやり場のない気持ちをどうすればいいのか、さっぱり分からないから。
幻想郷の良心として名を馳せる予定を裏切られた、この気持ち。
「な、帰ろうぜ。ここにいたってすることないし」
「そうね。今日は、素直に帰りましょう」
「…懲りないな。お前も」
正直に白状するんじゃあ、痛い目を見るだけってことを学んだ今日の私。
なら、明日は嘘だらけに生きてみよう。
「あ、今晩泊まっていい? なんか一人で過ごしたくなくて」
「お前の言う都会派な家じゃないけどな。好きにしろよ」
「昔からよね。知ってるわよ」
「まあな」
明日からなんて、そんな悠長なことはやっぱり言ってられない。
今晩から、嘘だらけに生きてみようと思う。
私の哲学研究は、まだまだこれからよ。
最初の実験台よろしく、魔理沙。
頭上に広がる、真っ青でとてつもなく広い空。
私の気分も最高潮で、こんな日は何かをしたくて堪らない。何でもいいから。
そんな天気なんだから、霊夢の神社を荒らしてしまったのは仕方のないこと。
今の私は、アドレナリンの塊。
「でね、境内に敷きつめてる石。多過ぎない? あれじゃあ荒らすのも一苦労よ」
「へぇ…」
数多く、整えられて綺麗な境内の石っころ達。
それは霊夢の努力の賜物なんだろうけど、整ったものを壊したいのが今の私。
縦横無尽に蹴り飛ばしてたら、足先がひどく痺れちゃって。
「なんなのその態度。あんたの犯行、許した覚えはないんだけど」
「え? 正直に私が荒らしたって言ったし、理由も正直に言ったじゃない」
「正直に言ったら許されるとか、本気で思ってんの?」
当然。
だって、かの白蓮さんが演説してたんだもの。
長年生きていた人の言葉っていうのは、嘘でも説得力のあるもので。
今月の私の座右の銘は、嘘を吐かない私は偉い。
偉いと思えるように努力してます。
「…まさか、許してくれてないのかしら。正直に白状したのに」
「そ。それがあんたの考えなら、私だって考えがあるわ」
袖から何かを取りだす霊夢。
私をすぐに許さなかったお詫びとして、金一封なら受け取ってあげないこともない。
そうして彼女の袖から出てきたのは。
え、何それ。スペルカー…
『…その昔、外の世界にはジョージ・ワシントンという人がいました』
変な名前。
私なら、もっといい名前つけてあげるのに。都会派なかっこいい名前。
『彼は幼い頃、桜の木を切ってしまいました。それを彼の父に言及された時、彼はどう答えたと思いますか? じゃ、そこの金色の髪した女の子』
…周りをよくよく見回してみても、金髪は私しかいない。
今語ってる白蓮さんの隣に虎柄の服を着た金髪の女の人がいるけど、どうにも白蓮さんの目は私を見つめている。
ここは、都会派な回答を見せつけてやろう。
『これも神の定めなのです、父上。あの木は今この時、朽ち果てる運命にあったのです。ですので、私自ら手を下した次第でございます…かしら』
『…じゃあ、隣のボク。分かりますか?』
『正直に言ったんでしょ?』
『そう、その通りです。彼は父に、自分が切ってしまいましたと、嘘偽りなく白状しました』
知らないわけないじゃん。と呟く隣の小さい男の子。
何よ、そのわざとらしい呟き。子供の僕でも知ってるのに、お姉ちゃん知らないの? とでも言いたそうなその顔。
自分から白状したってことは、私の答えと一緒じゃない。
むしろ、詳しく状況を説明した私の勝ちよ。ふふん。
『彼の父は怒るどころか、正直に白状した彼を誉め讃えたそうです』
ふーん…どこか別の理由もありそうだけど。
ほら、実はそのお父さん、花粉症だったとか。
…捻くれてるとか言わないで。
『この話は、嘘はよくないという教訓として、後の世に広く伝わるようになりました』
外の世界というのは、ここ幻想郷よりもはるかに進んだ世界だと聞く。
進んだ世界に住む人々の知恵は、やっぱり進んでいるのだろうから。
都会派に捻くれてる私でも、この教訓は受け入れるべきかもしれない。
『…今日はここまでです。ご清聴、誠に感謝致します』
桜の木の話から数十分ぐらい後、ようやく白蓮さんの話が終わった。
長い間話してたけど、私の頭に残ってるのは桜の木の話だけ。
今日から私は、どんな悪いことをしたってすぐに白状する。そして許してもらって。
結果として、アリス・マーガトロイドは何をしたって許されるような存在になってみせる。
幻想郷の良心とは、私のことよ。
『…どういうつもりかしら』
『そりゃ、読みたいのよ。本は読まれるためにあるんだから』
善は急げという格言が、外の世界にはあるらしい。
幻想郷の良心である私には、もたもたしている時間はなくて。
まずは、パチュリーを相手に実験してみる。
『ここで読めばいいじゃない。何で堂々と持ち帰ろうとするの』
『だって、ここ日が入らないし。こんな場所は都会派じゃないわ』
『じゃあ、無理に来なくても』
『本は読みたいのよ』
パチュリーの目の前を、適当な本を見繕って通り過ぎてみた。
手に持った本は、パチュリーに見せびらかすような形で。
もちろん、捕まった。ここまでは予定通り。
『あなたの好きにはいかないのよ。どっちか諦めなさい』
『どっちか…っていうのは?』
『本を持ち帰らないか、それともここに来ないか。何を聞いてたの』
『本を持ち帰らないのを諦めるってことは、本を持ち帰れってことよね?』
『そうよ…え?』
ここからが予定と違うところ。
正直に持ち帰ろうとしたことを白状したし、理由も正直に言った。
なのに、許してくれないし褒めてもくれない。
何が起こってるのだろうか。
『それなら、持ち帰らないのを諦めるわ。それじゃ』
『…好きにしなさい。屁理屈だけは認めましょう』
『どうも』
まぁ、結果としてはこの通り上手くいってるんだけど。
どうにも、私が正直に白状したから許してくれたっぽくない。
でも、都会派な私はこんなことでくじけたりはしない。
何事にも例外はあるもの。パチュリーって無愛想なところあるし。
次は…そう、霊夢を相手にしてみましょうか。
「…ぉい、おい。いいかげん起きろよ。暇で死にそうなんだ」
「……ふぁ」
「ふぁ、じゃない。とりあえずおはよう、アリス」
目を開けると、映るのは眩しい夕焼け。
あれから霊夢に制裁を受けた後、どうやら縁側に転がされてたみたいで。
もうちょっと、ねぇ。私だって女の子なんだから。
布団ぐらい用意してくれたっていいのに。
「お前、何したんだ?」
「なにが」
「何がって…ほら、どうして霊夢にやられたかを聞いてるんだ」
寝起きのせいで、上手く呂律が回らない。
そもそも、なんでここに魔理沙がいるんだ。
寝起きだから髪もぐしゃぐしゃ、顔も不機嫌な表情に違いない。
都会派じゃない私なんて、誰にも見られたくないのに。
「えっと…そう。神社を荒らしたのよ。具体的には敷きつめてる石を蹴飛ばしまわって」
「…何で?」
「天気が良かったから」
「ま、自業自得だな。それじゃ」
…魔理沙もダメ。
正直に全てを白状したら、何もかも許され尊敬され讃えられ、神として崇め奉られるって話は嘘だったのか。
今までの失敗を嘲笑うような夢まで見せてくれちゃって。
どうなのよ、白蓮さん。
「霊夢は?」
「私と行き違いにどっか出かけたよ。アリスが何かしでかさないよう見張ってて、だってさ」
その判断は正しかった。
目覚めて一人だったら、多分神社を荒らして帰るとこだったと思う。
だって、このやり場のない気持ちをどうすればいいのか、さっぱり分からないから。
幻想郷の良心として名を馳せる予定を裏切られた、この気持ち。
「な、帰ろうぜ。ここにいたってすることないし」
「そうね。今日は、素直に帰りましょう」
「…懲りないな。お前も」
正直に白状するんじゃあ、痛い目を見るだけってことを学んだ今日の私。
なら、明日は嘘だらけに生きてみよう。
「あ、今晩泊まっていい? なんか一人で過ごしたくなくて」
「お前の言う都会派な家じゃないけどな。好きにしろよ」
「昔からよね。知ってるわよ」
「まあな」
明日からなんて、そんな悠長なことはやっぱり言ってられない。
今晩から、嘘だらけに生きてみようと思う。
私の哲学研究は、まだまだこれからよ。
最初の実験台よろしく、魔理沙。
このアリスはダメな子だなぁ。だがそれが良いです。
次も楽しみにしてます
普通の文章のようで何処かしら気狂いの香りが…
これほんとすごいなw
内容は普通に面白かったけどねw