屋台、『みすちぃ』。ミスティアが経営している八目鰻の屋台であり、
今回ルーミア達がフードファイトに参加することによって経営を助けようとしている店でもある。
その店主、ミスティアは今日も屋台を開いていた。
彼女の胸中にあるのは、常連客でもあり親友でもあるルーミア、チルノ、リグルの3人。
(最近、あまり来てくれないな~。)
彼女のためにフードファイトで得た賞金を匿名で寄付している3人。
余計な気を遣わせないために、ミスティアには自分達が寄付していることを隠そうとしているが、
なにぶん根が素直なルーミア達。うっかりと口をすべらせてしまう可能性もあるので、
この件がひと段落つくまでは、ミスティアとは積極的には会わないことにしていた。
が、そんな事情は露知らず。ただミスティアは寂しさを覚えるのみであった。
「あの~、ここが『みすちぃ』ですか?」
「あ、はい!いらっしゃい!」
物思いにふけっていて来客に気付くのが遅れ、慌ててあいさつをするミスティア。
店にやってきたのは…
「始めまして、喫茶『フルーツ』で働いている、東風谷早苗と言います。」
「き、喫茶『フルーツ』…!」
以前、美鈴がこの店に来たときにチラリと話を聞いた。
この店から常連客が消えた要因でもある、人里に出来た人気店だと。
偵察に来たのだろうか?とミスティアは警戒を強める。
「あ、そんな警戒しないでください!今日は謝りに来たんです。」
「…え?」
「このたびはウチのお店が迷惑をかけることになってしまい、申し訳ありませんでした。」
ペコリ、と頭を下げる早苗。
てっきり挑発の一つや二つ飛んでくると思っていたので、ミスティアはついていけずぽかんとしている。
「時間はかかりましたが、ようやくウチの店から『八目鰻』のメニューが消えました!
更に!ウチのお店の中にそちらの屋台の広告もつけさせて頂きましたので、
これからは今までどおり、そちら側にもお客さんが回ってくることに…」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ペラペラと話を続ける早苗についていけず、ミスティアはいったんストップをかける。
「それはとてもありがたいです。でも…どうしてそこまで?」
確かに喫茶『フルーツ』にお客は奪われた。だけどもそれは商売をしている者からすればある意味当然のことだ。
お客が戻ってこないのは自分のお店の魅力が足りないからでもある。だから仕方ない。
そうミスティアは考えていた。なので、ライバル店からここまでされると逆に戸惑いを隠せない。
「それはもちろん!あなた達の友人さんの行動に感激したからです!」
「親友って…ルーミア達のこと?」
「ええ!フードファイトで得たお金を寄付してミスティアさんのお店を救おうとするその精神!
実際に私もルーミアさんと戦いました!彼女は強いです!勝てる相手なんていませんよ!」
戦う…?
寄付…?
フードファイト…?
全てがミスティアにとって初耳であった。
しかしそれが本当だとすると、どこからか分からない匿名の寄付にも説明がつく。
「あ、あれ?もしかしてこの話、言ったらマズかったですかね…?」
「早苗さん!」
ミスティアの様子を見てしどろもどろになる早苗に、ミスティアは強く攻め寄った。
「その話、詳しく教えてください!」
同時刻、ルーミア達は試合会場に着いていた。
八雲紫が待ち構えているいつもの光景は変わらなかったが、
その口から出た第一声はいつもとは違うものであった。
「フードファイトは、今回で最後ですわ。」
突然の打ち切り宣言。当然ルーミア達は驚く。
「ど、どうしてなのだ?」
「あなたが強すぎるからよ、チャンプ。おかげで対戦者が来なくなってしまった。
当然よね、負けると分かっている勝負に無理して来るチャレンジャーなんてそうそういない。
以前もまったく同じことがあったわ。」
「以前って?」
リグルが尋ねると、紫は遠い目をしながら思い出すように話を続ける。
「今あなた達が参加しているのは、言わば第二期。
フードファイトは、一回終わっているの。
…いえ、終わらされたと言ったほうが正しいかしら。一人の無敵のチャンプによってね。」
「それって…」
「…はい、昔話はここまで。というわけであなたの最後の挑戦者、それは…この私。」
紫は自分自身を指差した。当然それに驚きの表情を見せるルーミア達。
彼女達の様子を意に介せず、紫は胡散臭い笑みでルーミア達を挑発した。
「今までのような遊びじゃない、本気のフードファイトを見せてあげるわ、お嬢さん達。」
~~ フードファイタールーミア ~~
Stage 6 空腹の満腹の境界
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャンプであるルーミア、そしてこのフードファイトのオーナーであり、
今回の挑戦者でもある八雲紫が席についた。
『はあ~い、二人とも準備はいいかしら~?』
競技場にいつもよりも間延びしたアナウンスが響いた。
今日は紫に変わって、紫の友人である西行寺幽々子が進行をつとめている。
『メニューは、まあ机の上を見てもらえれば分かると思うけど、お饅頭よ~。
小さいから、急いで食べ過ぎて喉に詰まらせないように気をつけてね。
それじゃあ、スタートー!』
――カーン!
合図と共にいっせいに饅頭を食べ始めた二人。
今までの中で一番小さなメニュー。カウントの進むペースが速い。
開始5分ですでに
ルーミア:17 八雲紫:8
これだけの数になってしまった。
出だしは、ルーミアの優勢である。
観客席でも、チルノの喜びの声が聞こえる
「いいぞいいぞ!ルーミア調子いいね!」
「序盤にリードしてるのって、思えば魔理沙の時以来だね。でも…」
はしゃぐチルノとは対照的に、リグルは不安げな表情を浮かべる。
「ルーミアの体調はまだ万全じゃない。表情も苦しそうに見えるし、まだ痛みはあるんだ。
それに、八雲紫…あの余裕の表情は…?」
リグルの言う通り、ルーミアは痛みをこらえながら必死で食べている。
その一方で、八雲紫は差がつけられているにもかかわらず、余裕の表情だ。
まるで『味わって』たべているかのように。
「…さて!お饅頭のおいしさは十分に堪能したことですし。」
紫は必死で食べているルーミアの方を向き、怪しく笑った。
「そろそろ本気で…行かせて頂きますわね。」
その言葉を皮切りに、紫は饅頭を手に取り、自分の口の中へ次々と放り込むようにし始めた。
まるでボール遊びをしているかのように、次々と饅頭を消化している。
「うそ…なのかー…?」
これにはルーミアも驚き、饅頭を食べる手が一瞬止まってしまう。
慌てて目の前の饅頭に戻り、ペースを速めようとするが…
「ううっ…!」
第5戦の時と同じように、再び胃の痛みがルーミアを襲い、思うようにペースは進まない。
開始5分で稼いだリードはあっという間に消え…
――カーン!
ルーミア:28 八雲紫:50
前半終了時には、あまりに絶望的な差が広がっていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
休憩時間。ルーミア達の空気は、重苦しいものになっていた。
「ちくしょー!なんであいつあんなに強いんだ!」
チルノが憤慨する。正直、八雲紫がここまでの大食いキャラだとは全員予想外であった。
しかし、ルーミアは八雲紫に対して違和感を感じていた。
「おかしいのだー……今までの相手とは、何か違うのかー。」
「違うって、何が?」
リグルが尋ねる。しかしルーミアはそれ以上はわからないらしく、首をかしげることしかできない。
と、そこに一人の訪問者が現れた。
「あら、もう違和感に気付いているとは、流石チャンプね~。」
アナウンスと同じ間延びした声。ルーミア達とは初対面である。
「だれ?」
「あなた達とは始めまして、かしらね~?
西行寺幽々子。紫の友達で、今日は紫の代わりに進行をつとめているわ。」
「えっと、幽々子…さん。何か知っているんですか?」
「そうねぇ、そこの廊下を出てまっすぐ進むと、物置があるわ。
アシスタントのお二人さん、そこへ行ってごらんなさい。彼女の強さの秘密が分かるわ。」
「え?強さの…秘密?」
「行こう!リグル!」
戸惑うリグルの手を引っ張って、チルノは幽々子の言われた場所へ向かって駆け出した。
「あらあら、慌てんぼうさんだこと。
…あら、そろそろ後半戦が始まる時間だわ。頑張ってきてね?」
「う、うん。」
それだけ言い残すと、幽々子はふわふわと控え室を後にした。
一人残されたルーミアは、不思議に思いつつも再び競技場へと足を進めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――カーン!
後半戦のゴングが鳴り、再び食べ始める二人。
紫の圧倒的なペースは変わらず、差は更に広がり続ける
その一方で、リグルとチルノは幽々子に言われた部屋へとやってきた。
そこはまさに物置で薄暗く乱雑に物が散らばっている。
「あ、あれ!」
チルノが何かを発見した。
指差す先にあったのは…大量の饅頭。そしてその少し上には…スキマが開いている。
「そうか、そうだったんだ!」
リグルは、紫の圧倒的なペースのカラクリを理解した。
「八雲紫は饅頭を食べてなんかいなかった!ただ口の中にスキマを作って、
そこに饅頭を放り込んでただけなんだ!
ルーミアも違和感を感じるはずさ!だって今までの挑戦者と違って、食べてすらいないんだから!」
「えっと…つまりどういうこと?」
リグルの説明がよくわからず混乱するチルノ。
リグルはわかりやすく、紫の行動を一言で表してやる。
「八雲紫は、インチキをしてるってことだよ!」
「なっ!なんだってー!」
そうこうしてる間にも、スキマからどんどん饅頭が落ちてくる。
今頃ルーミアは苦しい戦いを強いられているはずだ。
「う~!あたいは怒ったぞ!こうしてやる!」
チルノはスキマの中に氷の弾幕を投げつけた。
「よ、よし!私も邪魔するぞ!」
更にリグルは、落ちてきた饅頭を逆にスキマの中にどんどんと投げ込む。
「チルノ!氷で壁を作れる!?」
「もっちろん!さいきょーのあたいに任せなさい!」
チルノが力を込めると、スキマの傍に大きな氷の塊が出来た
スキマに蓋を閉めるような形となり、これ以上饅頭が落ちてこないようにする。
「…よし、やれることはやった!戻ろう!」
「うん!あとはルーミアの逆転を信じるだけだ!」
二人は大急ぎで、ルーミアの戦いを見守るために観客席へと向かった。
そしてその頃、競技場で八雲紫は…
「モゴッ!モゴッ!モガモガ!」
ひどいことになっていた。
口につながったスキマにあれだけのことをされれば、当然こうなる。
氷などのダメージもあり、しばらくは物を食べるなどということは出来ないであろう。
ルーミアはよくわからないが、これはチルノとリグルがくれたチャンスだと理解した。
現在のスコアは…
ルーミア:40 八雲紫:73
そして残り時間は、5分。
「…よし!」
ルーミアは勢いよく饅頭を手に取り始めた。
胃の痛みはある、食べるのも正直苦しい。\
しかし二人が作ってくれたチャンス、絶対に無駄には出来ないという想いから、
必死に、必死に饅頭を口の中に入れ続ける。
「がんばれー!ルーミアー!」
残り時間、3分
観客席に戻ってきたリグルが必死で声援を送る。
「食べろ!ルーミアー!!」
残り時間、2分
チルノが声を張り上げルーミアを励まし続ける。
「…っ!」
残り時間、1分。
もはや相手の様子やカウントなど見ていない。
ただ見えるのは目の前の饅頭、ただ聞こえるのは親友達の声援。
そして…
――カーン!
ゴングが鳴り響いた。
カウントは…
ルーミア:74 八雲紫:73
最後の最後で八雲紫に追いつき、そして抜き去った。
ルーミアの勝利である。
「やった!」
「勝ったあーー!!」
観客席ではチルノとリグルが抱き合って喜んでいる
そして…
「うう…いたた…まだ痛いわ…」
紫がようやくダメージから復帰した。
結局、スキマを封じられた後は一つも饅頭を食べることが出来なかった。
そんな紫に、ルーミアはただ一言、こう告げた。
「私の胃袋は宇宙なのかー。宇宙はスキマをも飲み込むのだ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ルーミアー!」
「おめでとー!!」
チルノとリグルが観客席から降りてきた。
祝福の言葉をルーミアにかける。
「二人とも…ありがとうなのだー。
きっと、二人が何かしてくれたんでしょ?」
「うん、でもまあいいじゃん!」
「最後に追いついたのは、紛れも無くルーミアの力だもん!」
喜び合う3人。紫は一人悔しげにその様子を眺めている。
その競技場に…
「あら、楽しそうね。私も混ぜてもらってもいいかしら?」
今日の試合進行をつとめた幽々子がふわふわとやってきた。
それを見るなり、紫が幽々子に詰め寄る
「ちょっと幽々子!あの子達に入れ知恵をしたのはあなたでしょう!
あなたしかいないわ!あのまま行けば私が勝っていたのに!」
幽々子を責める紫。しかし幽々子は…
「黙りなさい。」
底冷えするほど冷たい声で紫の叱責を跳ね除ける。
喜んでいた3人も、思わず幽々子と紫に注目した。
「あなたはこのフードファイトを汚したのよ。
経緯はどうあれ、どの挑戦者も食べることへの執念は変わらなかった。
あなたみたいに食べること自体を放棄するなんてインチキは、
今までこのフードファイトに関わってきた者全てへの侮辱よ。」
「お、怒ってるのね幽々子、ゆ、許して…?」
「そうね、うふふ、じゃあこうしたら許してあげる。」
幽々子は声のトーンをふわふわとした調子に戻し、ルーミアに向き合った。
「最後にもう一回、フードファイトを開催してちょうだい?
チャンプはもちろんルーミアちゃん、そして挑戦者は…この私。」
「だ、ダメよ幽々子!あなたが参加したら、この競技自体が成立しないわ!」
「いいじゃない、最後なんだし。私も彼女と戦いたいのよー。」
ぽかんとするルーミアに、幽々子は優しく笑いかけた。
「あなたの最後の相手は、この私西行寺幽々子がつとめるわ。
このフードファイトの『元』チャンプよ。
もっとも今は……ただの挑戦者だけどね♪」
Go To 『Extra』 Stage…
今回ルーミア達がフードファイトに参加することによって経営を助けようとしている店でもある。
その店主、ミスティアは今日も屋台を開いていた。
彼女の胸中にあるのは、常連客でもあり親友でもあるルーミア、チルノ、リグルの3人。
(最近、あまり来てくれないな~。)
彼女のためにフードファイトで得た賞金を匿名で寄付している3人。
余計な気を遣わせないために、ミスティアには自分達が寄付していることを隠そうとしているが、
なにぶん根が素直なルーミア達。うっかりと口をすべらせてしまう可能性もあるので、
この件がひと段落つくまでは、ミスティアとは積極的には会わないことにしていた。
が、そんな事情は露知らず。ただミスティアは寂しさを覚えるのみであった。
「あの~、ここが『みすちぃ』ですか?」
「あ、はい!いらっしゃい!」
物思いにふけっていて来客に気付くのが遅れ、慌ててあいさつをするミスティア。
店にやってきたのは…
「始めまして、喫茶『フルーツ』で働いている、東風谷早苗と言います。」
「き、喫茶『フルーツ』…!」
以前、美鈴がこの店に来たときにチラリと話を聞いた。
この店から常連客が消えた要因でもある、人里に出来た人気店だと。
偵察に来たのだろうか?とミスティアは警戒を強める。
「あ、そんな警戒しないでください!今日は謝りに来たんです。」
「…え?」
「このたびはウチのお店が迷惑をかけることになってしまい、申し訳ありませんでした。」
ペコリ、と頭を下げる早苗。
てっきり挑発の一つや二つ飛んでくると思っていたので、ミスティアはついていけずぽかんとしている。
「時間はかかりましたが、ようやくウチの店から『八目鰻』のメニューが消えました!
更に!ウチのお店の中にそちらの屋台の広告もつけさせて頂きましたので、
これからは今までどおり、そちら側にもお客さんが回ってくることに…」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ペラペラと話を続ける早苗についていけず、ミスティアはいったんストップをかける。
「それはとてもありがたいです。でも…どうしてそこまで?」
確かに喫茶『フルーツ』にお客は奪われた。だけどもそれは商売をしている者からすればある意味当然のことだ。
お客が戻ってこないのは自分のお店の魅力が足りないからでもある。だから仕方ない。
そうミスティアは考えていた。なので、ライバル店からここまでされると逆に戸惑いを隠せない。
「それはもちろん!あなた達の友人さんの行動に感激したからです!」
「親友って…ルーミア達のこと?」
「ええ!フードファイトで得たお金を寄付してミスティアさんのお店を救おうとするその精神!
実際に私もルーミアさんと戦いました!彼女は強いです!勝てる相手なんていませんよ!」
戦う…?
寄付…?
フードファイト…?
全てがミスティアにとって初耳であった。
しかしそれが本当だとすると、どこからか分からない匿名の寄付にも説明がつく。
「あ、あれ?もしかしてこの話、言ったらマズかったですかね…?」
「早苗さん!」
ミスティアの様子を見てしどろもどろになる早苗に、ミスティアは強く攻め寄った。
「その話、詳しく教えてください!」
同時刻、ルーミア達は試合会場に着いていた。
八雲紫が待ち構えているいつもの光景は変わらなかったが、
その口から出た第一声はいつもとは違うものであった。
「フードファイトは、今回で最後ですわ。」
突然の打ち切り宣言。当然ルーミア達は驚く。
「ど、どうしてなのだ?」
「あなたが強すぎるからよ、チャンプ。おかげで対戦者が来なくなってしまった。
当然よね、負けると分かっている勝負に無理して来るチャレンジャーなんてそうそういない。
以前もまったく同じことがあったわ。」
「以前って?」
リグルが尋ねると、紫は遠い目をしながら思い出すように話を続ける。
「今あなた達が参加しているのは、言わば第二期。
フードファイトは、一回終わっているの。
…いえ、終わらされたと言ったほうが正しいかしら。一人の無敵のチャンプによってね。」
「それって…」
「…はい、昔話はここまで。というわけであなたの最後の挑戦者、それは…この私。」
紫は自分自身を指差した。当然それに驚きの表情を見せるルーミア達。
彼女達の様子を意に介せず、紫は胡散臭い笑みでルーミア達を挑発した。
「今までのような遊びじゃない、本気のフードファイトを見せてあげるわ、お嬢さん達。」
~~ フードファイタールーミア ~~
Stage 6 空腹の満腹の境界
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
チャンプであるルーミア、そしてこのフードファイトのオーナーであり、
今回の挑戦者でもある八雲紫が席についた。
『はあ~い、二人とも準備はいいかしら~?』
競技場にいつもよりも間延びしたアナウンスが響いた。
今日は紫に変わって、紫の友人である西行寺幽々子が進行をつとめている。
『メニューは、まあ机の上を見てもらえれば分かると思うけど、お饅頭よ~。
小さいから、急いで食べ過ぎて喉に詰まらせないように気をつけてね。
それじゃあ、スタートー!』
――カーン!
合図と共にいっせいに饅頭を食べ始めた二人。
今までの中で一番小さなメニュー。カウントの進むペースが速い。
開始5分ですでに
ルーミア:17 八雲紫:8
これだけの数になってしまった。
出だしは、ルーミアの優勢である。
観客席でも、チルノの喜びの声が聞こえる
「いいぞいいぞ!ルーミア調子いいね!」
「序盤にリードしてるのって、思えば魔理沙の時以来だね。でも…」
はしゃぐチルノとは対照的に、リグルは不安げな表情を浮かべる。
「ルーミアの体調はまだ万全じゃない。表情も苦しそうに見えるし、まだ痛みはあるんだ。
それに、八雲紫…あの余裕の表情は…?」
リグルの言う通り、ルーミアは痛みをこらえながら必死で食べている。
その一方で、八雲紫は差がつけられているにもかかわらず、余裕の表情だ。
まるで『味わって』たべているかのように。
「…さて!お饅頭のおいしさは十分に堪能したことですし。」
紫は必死で食べているルーミアの方を向き、怪しく笑った。
「そろそろ本気で…行かせて頂きますわね。」
その言葉を皮切りに、紫は饅頭を手に取り、自分の口の中へ次々と放り込むようにし始めた。
まるでボール遊びをしているかのように、次々と饅頭を消化している。
「うそ…なのかー…?」
これにはルーミアも驚き、饅頭を食べる手が一瞬止まってしまう。
慌てて目の前の饅頭に戻り、ペースを速めようとするが…
「ううっ…!」
第5戦の時と同じように、再び胃の痛みがルーミアを襲い、思うようにペースは進まない。
開始5分で稼いだリードはあっという間に消え…
――カーン!
ルーミア:28 八雲紫:50
前半終了時には、あまりに絶望的な差が広がっていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
休憩時間。ルーミア達の空気は、重苦しいものになっていた。
「ちくしょー!なんであいつあんなに強いんだ!」
チルノが憤慨する。正直、八雲紫がここまでの大食いキャラだとは全員予想外であった。
しかし、ルーミアは八雲紫に対して違和感を感じていた。
「おかしいのだー……今までの相手とは、何か違うのかー。」
「違うって、何が?」
リグルが尋ねる。しかしルーミアはそれ以上はわからないらしく、首をかしげることしかできない。
と、そこに一人の訪問者が現れた。
「あら、もう違和感に気付いているとは、流石チャンプね~。」
アナウンスと同じ間延びした声。ルーミア達とは初対面である。
「だれ?」
「あなた達とは始めまして、かしらね~?
西行寺幽々子。紫の友達で、今日は紫の代わりに進行をつとめているわ。」
「えっと、幽々子…さん。何か知っているんですか?」
「そうねぇ、そこの廊下を出てまっすぐ進むと、物置があるわ。
アシスタントのお二人さん、そこへ行ってごらんなさい。彼女の強さの秘密が分かるわ。」
「え?強さの…秘密?」
「行こう!リグル!」
戸惑うリグルの手を引っ張って、チルノは幽々子の言われた場所へ向かって駆け出した。
「あらあら、慌てんぼうさんだこと。
…あら、そろそろ後半戦が始まる時間だわ。頑張ってきてね?」
「う、うん。」
それだけ言い残すと、幽々子はふわふわと控え室を後にした。
一人残されたルーミアは、不思議に思いつつも再び競技場へと足を進めた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
――カーン!
後半戦のゴングが鳴り、再び食べ始める二人。
紫の圧倒的なペースは変わらず、差は更に広がり続ける
その一方で、リグルとチルノは幽々子に言われた部屋へとやってきた。
そこはまさに物置で薄暗く乱雑に物が散らばっている。
「あ、あれ!」
チルノが何かを発見した。
指差す先にあったのは…大量の饅頭。そしてその少し上には…スキマが開いている。
「そうか、そうだったんだ!」
リグルは、紫の圧倒的なペースのカラクリを理解した。
「八雲紫は饅頭を食べてなんかいなかった!ただ口の中にスキマを作って、
そこに饅頭を放り込んでただけなんだ!
ルーミアも違和感を感じるはずさ!だって今までの挑戦者と違って、食べてすらいないんだから!」
「えっと…つまりどういうこと?」
リグルの説明がよくわからず混乱するチルノ。
リグルはわかりやすく、紫の行動を一言で表してやる。
「八雲紫は、インチキをしてるってことだよ!」
「なっ!なんだってー!」
そうこうしてる間にも、スキマからどんどん饅頭が落ちてくる。
今頃ルーミアは苦しい戦いを強いられているはずだ。
「う~!あたいは怒ったぞ!こうしてやる!」
チルノはスキマの中に氷の弾幕を投げつけた。
「よ、よし!私も邪魔するぞ!」
更にリグルは、落ちてきた饅頭を逆にスキマの中にどんどんと投げ込む。
「チルノ!氷で壁を作れる!?」
「もっちろん!さいきょーのあたいに任せなさい!」
チルノが力を込めると、スキマの傍に大きな氷の塊が出来た
スキマに蓋を閉めるような形となり、これ以上饅頭が落ちてこないようにする。
「…よし、やれることはやった!戻ろう!」
「うん!あとはルーミアの逆転を信じるだけだ!」
二人は大急ぎで、ルーミアの戦いを見守るために観客席へと向かった。
そしてその頃、競技場で八雲紫は…
「モゴッ!モゴッ!モガモガ!」
ひどいことになっていた。
口につながったスキマにあれだけのことをされれば、当然こうなる。
氷などのダメージもあり、しばらくは物を食べるなどということは出来ないであろう。
ルーミアはよくわからないが、これはチルノとリグルがくれたチャンスだと理解した。
現在のスコアは…
ルーミア:40 八雲紫:73
そして残り時間は、5分。
「…よし!」
ルーミアは勢いよく饅頭を手に取り始めた。
胃の痛みはある、食べるのも正直苦しい。\
しかし二人が作ってくれたチャンス、絶対に無駄には出来ないという想いから、
必死に、必死に饅頭を口の中に入れ続ける。
「がんばれー!ルーミアー!」
残り時間、3分
観客席に戻ってきたリグルが必死で声援を送る。
「食べろ!ルーミアー!!」
残り時間、2分
チルノが声を張り上げルーミアを励まし続ける。
「…っ!」
残り時間、1分。
もはや相手の様子やカウントなど見ていない。
ただ見えるのは目の前の饅頭、ただ聞こえるのは親友達の声援。
そして…
――カーン!
ゴングが鳴り響いた。
カウントは…
ルーミア:74 八雲紫:73
最後の最後で八雲紫に追いつき、そして抜き去った。
ルーミアの勝利である。
「やった!」
「勝ったあーー!!」
観客席ではチルノとリグルが抱き合って喜んでいる
そして…
「うう…いたた…まだ痛いわ…」
紫がようやくダメージから復帰した。
結局、スキマを封じられた後は一つも饅頭を食べることが出来なかった。
そんな紫に、ルーミアはただ一言、こう告げた。
「私の胃袋は宇宙なのかー。宇宙はスキマをも飲み込むのだ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ルーミアー!」
「おめでとー!!」
チルノとリグルが観客席から降りてきた。
祝福の言葉をルーミアにかける。
「二人とも…ありがとうなのだー。
きっと、二人が何かしてくれたんでしょ?」
「うん、でもまあいいじゃん!」
「最後に追いついたのは、紛れも無くルーミアの力だもん!」
喜び合う3人。紫は一人悔しげにその様子を眺めている。
その競技場に…
「あら、楽しそうね。私も混ぜてもらってもいいかしら?」
今日の試合進行をつとめた幽々子がふわふわとやってきた。
それを見るなり、紫が幽々子に詰め寄る
「ちょっと幽々子!あの子達に入れ知恵をしたのはあなたでしょう!
あなたしかいないわ!あのまま行けば私が勝っていたのに!」
幽々子を責める紫。しかし幽々子は…
「黙りなさい。」
底冷えするほど冷たい声で紫の叱責を跳ね除ける。
喜んでいた3人も、思わず幽々子と紫に注目した。
「あなたはこのフードファイトを汚したのよ。
経緯はどうあれ、どの挑戦者も食べることへの執念は変わらなかった。
あなたみたいに食べること自体を放棄するなんてインチキは、
今までこのフードファイトに関わってきた者全てへの侮辱よ。」
「お、怒ってるのね幽々子、ゆ、許して…?」
「そうね、うふふ、じゃあこうしたら許してあげる。」
幽々子は声のトーンをふわふわとした調子に戻し、ルーミアに向き合った。
「最後にもう一回、フードファイトを開催してちょうだい?
チャンプはもちろんルーミアちゃん、そして挑戦者は…この私。」
「だ、ダメよ幽々子!あなたが参加したら、この競技自体が成立しないわ!」
「いいじゃない、最後なんだし。私も彼女と戦いたいのよー。」
ぽかんとするルーミアに、幽々子は優しく笑いかけた。
「あなたの最後の相手は、この私西行寺幽々子がつとめるわ。
このフードファイトの『元』チャンプよ。
もっとも今は……ただの挑戦者だけどね♪」
Go To 『Extra』 Stage…
騙されたがEXステージもあって然るべきだもんね
最終回楽しみにして待ってます
出ないわけ無いと思ってました。次も期待しています。
ハングリータイガーな星ちゃんが出なかったのは心残りではあるけども……Extraを楽しみに待つとしましょう。
こういうの大好きなんだ、最終話も期待してるのぜ
ああ、それでも次が最終回…
名残惜しゅうございます
懐かしいし