※本作品は地味に前作とリンクしているかもです。
作品集79「巫女の悩みと店主と」(リンクの張り方わからなかったので場所だけ…)
読んでなくても支障はありませんが、興味がある方はそちらもどうぞ。
「むむ…?この道具は見たことがないな…、”名称:ドンジャラ”…?麻雀牌の一種であろうか、持ち帰って調査するとしよう。」
無縁塚―ここは幻想郷と現界を繋ぐ境目であり、外からあらゆるモノが流れ着く場である。
結界を抜けてしまう危険性もあるため、里の人間はおろか妖怪も好んでは来ない場所なはずだが、一人収集作業に明け暮れる者がいた。
名を森近霖之助といい、幻想郷でも珍しい妖怪と人間のハーフである。
彼は人里と魔法の森の間に『香霖堂』という店を構えており、人妖が共に利用できるような店を目標としている。今日はモノに紛れてやってくる無縁仏の供養、もとい商品の入荷にやってきたのだった。
「大体こんなものか、それにしてもここ最近は此処に流れ着くモノも増えてきている…、それだけ外の世界ではモノが作り続けられているということだろうか。」
―
僕の”道具の名前と用途がわかる程度の能力”で鑑定しても、中には全く同じ用途に使う道具が何度も出てくることがある。『パーソナルコンピューター』なる式神を用いる道具等がいい例で、大小様々に流れ着いてくる。
始めは物珍しさから収集をしていたが電力を使う道具のようで、そのままでは全く使い方がわからなかったため、現在でも倉庫に眠ってしまっている道具となっている。95やMeなど、式神の種類だろうか?沢山あるようだが…。
―
「まぁこんなところだろう。それにしても今日は大分寒いな…、雲行きも怪しいし、これは今夜あたりから積もるかもしれないな…。やはり来てよかった。」
幻想郷の冬は早い。本格的な時期になれば雪は家屋を覆い尽くすほど降ることもある。商品入荷をリアカーで行う霖之助にとって、冬前の入荷作業は長い冬に備えた大事な業務となっている。
けれども、人里から離れた森の中に立地している香霖堂に、雪道をかき分けて訪れるような客があるような事はほとんどないのだが。せいぜい自称“お客様”を名乗る強盗まがいの少女二人くらいだろうか。
ともあれ、満載となったリアカーを引いて無縁塚を去る霖之助であった。
「ふぅ…、今回は持ち帰り過ぎたな…、帰ってくるのも一苦労だ。」
「あら、お帰りなさい。お邪魔していますわ。」
リアカーを引いて数時間、少し詰め込みすぎたな、と半ば後悔しながら香霖堂へと帰ってきた霖之助だが、何故か店内には煌びやかな髪を束ね怪しい微笑を浮かべる少女がいた。霖之助は気付くと、別段驚いた様子もなく、ただただ深いため息をつくのであった。
「…確か僕は店を出るときに鍵をかけておいたはずなんだが…?店にはスキマからじゃなくて玄関から入ってもらいたいものだがね。」
「ふふ…、それは失礼いたしましたわ。ですが寒空の中少女を軒下に待たせておくよりは紳士的だと思いませんこと?」
「君がその程度でどうにかなるとは到底思えないよ…。勝手に忍び込むなんていうのは淑女のすることではないだろう?」
「あら、そんなことないですわ。霖之助さんにとっては大切なお客様ですわよ?それもお得意様の♪」
「やれやれ…、わかっているのだから余計にタチが悪いよ。それで、今日はどういったご用件でしょうか?」
霖之助の皮肉にも全く動じる様子のない紫に諦めもついたところで、要件を済ませてしまおうと商談モードに入ることにした。
霖之助はこの(自称少女と言い張る)八雲紫が苦手である。どうにも胡散臭い微笑みからは、まるで自らを見透かされてしまっているかと思えてしまう。霊夢や魔理沙の話では、幻想郷と外の世界を遮る大結界の管理者であるというが、霖之助からすれば厄介な顧客の一人であることに変わりはないのであった。
「いえ、今年も大分寒くなってきたでしょう?私もそろそろ冬眠しようかと思ったのですがそろそろのストーブの燃料が尽きる頃かと思いまして、御裾分けに。」
「ふむ…、確かにあとはタンク内に残っている分で尽きてしまうところだったよ。今年は火鉢とこたつで過ごすかと考えていたところだ。」
「ふふふ、それは危ないところでしたね…。今年は大雪ですわよ?ウチの藍はアメダスよりも正確ですからね。では失礼しまして…。」
紫がそう言いながら、空中を切るような仕草を見せると、次の瞬間には赤い容器らしきものが3つほど置かれているのであった。どうやら「ポリ容器」という外の世界の道具のようだ。
「これだけあれば今年の冬も越せると思いますわ。ストーブのタンクも満タンにしておきましたので、これはサービスですわ♪」
「そうか、いつも助かるよ。でも今回の代償は何なんだい?少しは手加減してもらえるとありがたいがね。」
「あら?私は対価としては十分過ぎるモノしか頂いていませんわ?ちょっと店内を見させてもらえるかしら?」
「そうかな、どうも君は僕が非売品にしている商品に限って持っていく癖があるようだが?ああ、商品は店内のものは見てもらって構わないよ。」
そもそも、このストーブも幻想郷で作られた道具ではなく、外の世界から流れ着いたモノだった。霖之助もこれを店内に持ち込んだときおおよその使い方は分かったものの、肝心の燃料が手に入らず生成方法も全く分からない状態であった。これはもう店内のオブジェとして活用せざるを得ないと思っていたところに、外の世界に詳しいという八雲紫が燃料の取引を持ちかけてきたのが事の発端だった。
当然、交渉の主導権は霖之助に在る筈もなく、ただ紫が望む商品を“対価”として持ち帰られてしまうのが悩みの種となっている。
「あら、第2世代型なんて珍しい。ドットも味があって素敵なのに…。まだ充電すれば使えるみたいですし今回はこれにしましょう♪」
「残念ながらそれは非売品なんだ、…と言いたいところなんだが、君相手では仕方あるまい。今回はそれで満足いただけたかな?」
「ええ、とっても。またいい取引ができるといいですわね、霖之助さん。」
「なるべくなら君との取引は遠慮願いたいんだがね…、貴重品の在庫がなくなってしまうよ。」
「あら?何も使われずにただ展示されているだけよりは道具も使ってもらえるほうがありがたいはずですわ。それは貴方自身がよくわかることでしょう?」
「まったく…、僕が大半を使えないことをわかっていてこの店に来るんだから貴女も人が悪い。できれば燃料の調達場所を教えてもらいたいものだ。」
「ふふ…、企業秘密ですわ。」
―
僕の能力は、あくまでも道具の名前と用途がわかる程度である。その使い方がわからず、いまだに倉庫に眠ってしまっている商品も数多く存在する。守矢の神達が来てからは幻想郷のエネルギー革命―早苗君が言っていたーにより、電気の試験供給が始まったため、簡易的ではあるが商品の起動実験ができるようになった。冷蔵庫は少ない成功例であるが、暑い夏に冷たいものが保存できるようになると人里では好評で僕のところにもたまに修理依頼が来るくらいだ。
とはいえ、燃料が必要なストーブでは僕も対処しようがなく、早苗君もここでは精製できないと残念な顔をしていた。魔理沙が『燃料?要は火をおこせればいいんだろう?そんなの、私の専売特許だぜ。まあみてなw』と言っていたが、貴重品をむざむざ壊させるわけもない。きつく、そのようなことはしないように念を押しておいた。
ー
紫は外の世界を行き来できるというので、恐らく容易に入手できるのだろう。それならば対価もある程度は遠慮してもらいたいところであると思いながらも、こうして律儀にストーブの燃料を補充してくれているのだから、悪い気はしない霖之助であった。
「ははは、まぁ今後ともご贔屓に頼むよ。僕に燃料を渡しに来たということは…そろそろかい?」
「ええ…、結界の修復や細かいことなんかは藍に任せておきましたし…。今年は冬も長くなりそうですから…、しばらくは引きこもっていようかしら。」
「僕としては店の貴重品がなくならないから気が楽になるな。」
「ひどいわ。私はこんなにも霖之助さんの事を思っているのに…」
わざとらしく顔を伏せながら霖之助にしな垂れかかってくる紫。というかいつのまに近くに来たのだろうか。またスキマを使ったな、そう思う霖之助である。
「何故か君に言われると寒気を覚えてしまうのは僕の気のせいだろうか…。」
「気のせいですわ。それにそんなに寒いのならばストーブなんかよりももっと温まる方法があるのですが…?」
そういうと、紫はゆっくりと顔を近づけてくる。端正な唇には紫の紅が塗られていた。ああ、これも外の世界の品なのだろうか?そう思う霖之助であったが、さて今回はどういう赴きなのだろう、と真意をつかみかねていた。
「うー、寒い!というか雪が降ってくるなんて聞いてないわよ。頭にまで積もっちゃってるし…。霖之助さん、ちょっと拭くものちょうだ…」
ガランガラン…、と戸が開く音と共に雪まみれになった霊夢がやってきた。入口でさっそく雪を叩いていたが、霖之助と紫を見つけるとその動きを止めてしまう。
「あら、霊夢いらっしゃい。」
「…紫?…ちょっと聞きたいんだけど何をしてるのかしら。」
「見てわからないかしら?霖之助さんと暖を取ろうとしていたところよ。」
「僕はストーブをつけてもらった方が都合がよいのだがね。というか雪を払うなら外でやってくれといつも言っているはずだが…。」
「ふうん…、でもあんたが寒さ程度で死ぬような妖怪だとは思えないけどね。何にせよ霖之助さん嫌がってるじゃない。早くどいてあげなさいよ。」
「あら、どうかしら、私だって可憐な少女ですもの。それに寒ければ暖をとりたくなるものですわ。」
霖之助の言葉は耳に入っていなかったのか、やけに冷めた口調で紫に詰め寄る霊夢であったが、当の紫は何事もなかったかのように霖之助から離れた。
「霊夢ったら私が冬のお別れに来たっていうのに冷たいのね…、私も保護者としてつらいですわ…。」
「何が保護者よ、むしろあんたが起こした厄介事を処理させられてる私の身にもなってよね。…で、結局何をしにきたのかしら?」
「ええ、もう用は済んだわ。それでは、邪魔者となった私はこの辺で失礼しようかしら。また春にお会いしましょう、それじゃあね、霊夢、霖之助さん。」
そういいながら紫はスキマを広げると、そのまま消えてしまった。後には何か言いかけようとしていた霊夢と、やれやれと番台に座る霖之助だけが残されるのであった。
怒る対象がいなくなってしまったことでやり場がなかった霊夢であったが、落ち着きを取り戻してくると、さてどうしようかと考えてしまう。何か言えばいいのだろうが、どうにも先ほどの現場が目に焼き付いてしまって普段の調子が出ない。夏の一件以降、どうにも霖之助の事を意識してしまう。
『博麗の巫女たるもの、何人にも平等たるべき』
そう小さなころから教わってきたのに霖之助に紫が抱きついているのをみるといてもたってもいられなくなってしまった。やはり自分は霖之助のことを意識してしまっているのだろうか。そう考えると先ほどの行為が嫉妬しているのがまるわかりではないか!そう思い、恥ずかしさから次の行動がとれないでいた。
「ほら、霊夢。何時までもそんなところに立ってないで、早く中に入るといい。ああ、入る前にはその布でよく服を拭いてから入ってくれよ。博麗の巫女でも風邪だって引くんだからね。」
「…あ、…ええ。それもそうね、ありがとう霖之助さん。」
霊夢に拭布を渡しながらストーブの火を入れると、そのまま居間に引っ込んでしまう霖之助だったが、すぐに手元にお茶請けを用意して戻ってきた。
「ほら、飲むといい。君には先出ししておかないと隠しておいた茶葉がなくなってしまうからね。」
「何よそれ。霖之助さん一言余計だわ。」
「何、本当の事を言ったまでさ。さて、どうしたんだい?さっきは。まるで君らしくなかったが。」
こちらを不満な顔を浮かばせながら抗議するのだが、お茶はしっかりと受け取っている霊夢だった。
「…霖之助さんはずるいわ。」
「…なんで僕がそんなことを言われなければならないんだ?」
「だって本当の事ですもの。なんで私ばっかりこんなこと考えなければならないのかしら。ほんとずるいわ。」
お茶をすすりながら霖之助をジト目でにらむ霊夢。霖之助はというと、何が何やらわからない具合である。
ー
霊夢が思いつきで行動をするのは今に始まったことではないが、今回は何故か原因が自分にあると言っているようだ。考えられるのはお茶受けだろうか、確かに茶葉は里で割引されていた古いものだったが…。まさかこれではないだろう。とするとやはり紫の事だろうか、確かに彼女は妖怪のトップに近い存在だろう。彼女はやっかいな相手ではあるが、燃料の件も含めていい取引をさせてもらっているのも事実だ。安易に取引をしては幻想郷のバランスが乱れてしまうということなのだろうか?特に彼女とは外の世界の品をやり取りすることが大半だ。彼女は境界の管理者なのだから、これらが合わさると予期しえない事態が発生するということなのだろうか。僕も一時はその力によって外の世界に転移させられかけたこともあった。あの時は紫に助けてもらったが、それだけの危険性があるということを霊夢は伝えたいのだろうか。
ー
なにやら熟考モードに入ってしまった霖之助を見て霊夢は、またか…、と思いしばらくお茶でも飲んで待とうとしたところ、突然霖之助は霊夢に話しかけた。
「霊夢。君が怒っているのは紫の件かい?」
「…どうしてそう思うの?」
「いや、仮にも君の前で紫とあのように親しくするのは不遠慮だったと思うよ。すまないね、霊夢。これからは紫には毅然とした態度がとれるように気を付けるとしよう。」
霖之助が女性の気持ちに疎いというのは、これまで長く付き合ってきた中で身に染みていた霊夢であったが、まさか気が付いてくれるとは思わなかった。そして、その上で別に悪いわけでもないのに謝ってくれたのだ。詫びを入れてほしいわけではなかったが、霊夢にとってはそれがとてもうれしかった。ちゃんと見ていてもらえているんだなあと思うと胸が熱くなってくる。そう思うと、先ほどの紫の悪戯も何だか気にならなくなってしまった。
「…別に私が勝手に怒っていただけだから謝らなくてもいいわよ。…けどそうね。ありがとうね、霖之助さん。あ、服借りていいかしら、さっきの雪のせいで濡れちゃって。」
「ああ、かまわないよ。奥で着替えておいてくれ。ちょうどいいから君の巫女服はそのまま調整させてもらうとしよう。」
そういうと、霊夢は笑顔を浮かべながら奥の居間へと入っていった。
霊夢も博麗の巫女としての自覚がでてきたんだなぁと感心するとともに、機嫌も治ったようで何よりだと思う霖之助だったが、二人の考えには決定的な違いがあることに両者気づかないのであった…。
「ちょっと霖之助さん!せっかくなんだから居間でお酒でも飲みましょうよ。どうせ雪も降ってきたし誰も来やしないわ。あー、元からだったわね。」
「…君は僕の店をなんだと思っているんだい…。」
やれやれ…、と思いながらも、今日は彼女の我儘に付き合ってあげるとしよう。
そう思いながら、営業札をしまいに行く霖之助であった。
作品集79「巫女の悩みと店主と」(リンクの張り方わからなかったので場所だけ…)
読んでなくても支障はありませんが、興味がある方はそちらもどうぞ。
「むむ…?この道具は見たことがないな…、”名称:ドンジャラ”…?麻雀牌の一種であろうか、持ち帰って調査するとしよう。」
無縁塚―ここは幻想郷と現界を繋ぐ境目であり、外からあらゆるモノが流れ着く場である。
結界を抜けてしまう危険性もあるため、里の人間はおろか妖怪も好んでは来ない場所なはずだが、一人収集作業に明け暮れる者がいた。
名を森近霖之助といい、幻想郷でも珍しい妖怪と人間のハーフである。
彼は人里と魔法の森の間に『香霖堂』という店を構えており、人妖が共に利用できるような店を目標としている。今日はモノに紛れてやってくる無縁仏の供養、もとい商品の入荷にやってきたのだった。
「大体こんなものか、それにしてもここ最近は此処に流れ着くモノも増えてきている…、それだけ外の世界ではモノが作り続けられているということだろうか。」
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僕の”道具の名前と用途がわかる程度の能力”で鑑定しても、中には全く同じ用途に使う道具が何度も出てくることがある。『パーソナルコンピューター』なる式神を用いる道具等がいい例で、大小様々に流れ着いてくる。
始めは物珍しさから収集をしていたが電力を使う道具のようで、そのままでは全く使い方がわからなかったため、現在でも倉庫に眠ってしまっている道具となっている。95やMeなど、式神の種類だろうか?沢山あるようだが…。
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「まぁこんなところだろう。それにしても今日は大分寒いな…、雲行きも怪しいし、これは今夜あたりから積もるかもしれないな…。やはり来てよかった。」
幻想郷の冬は早い。本格的な時期になれば雪は家屋を覆い尽くすほど降ることもある。商品入荷をリアカーで行う霖之助にとって、冬前の入荷作業は長い冬に備えた大事な業務となっている。
けれども、人里から離れた森の中に立地している香霖堂に、雪道をかき分けて訪れるような客があるような事はほとんどないのだが。せいぜい自称“お客様”を名乗る強盗まがいの少女二人くらいだろうか。
ともあれ、満載となったリアカーを引いて無縁塚を去る霖之助であった。
「ふぅ…、今回は持ち帰り過ぎたな…、帰ってくるのも一苦労だ。」
「あら、お帰りなさい。お邪魔していますわ。」
リアカーを引いて数時間、少し詰め込みすぎたな、と半ば後悔しながら香霖堂へと帰ってきた霖之助だが、何故か店内には煌びやかな髪を束ね怪しい微笑を浮かべる少女がいた。霖之助は気付くと、別段驚いた様子もなく、ただただ深いため息をつくのであった。
「…確か僕は店を出るときに鍵をかけておいたはずなんだが…?店にはスキマからじゃなくて玄関から入ってもらいたいものだがね。」
「ふふ…、それは失礼いたしましたわ。ですが寒空の中少女を軒下に待たせておくよりは紳士的だと思いませんこと?」
「君がその程度でどうにかなるとは到底思えないよ…。勝手に忍び込むなんていうのは淑女のすることではないだろう?」
「あら、そんなことないですわ。霖之助さんにとっては大切なお客様ですわよ?それもお得意様の♪」
「やれやれ…、わかっているのだから余計にタチが悪いよ。それで、今日はどういったご用件でしょうか?」
霖之助の皮肉にも全く動じる様子のない紫に諦めもついたところで、要件を済ませてしまおうと商談モードに入ることにした。
霖之助はこの(自称少女と言い張る)八雲紫が苦手である。どうにも胡散臭い微笑みからは、まるで自らを見透かされてしまっているかと思えてしまう。霊夢や魔理沙の話では、幻想郷と外の世界を遮る大結界の管理者であるというが、霖之助からすれば厄介な顧客の一人であることに変わりはないのであった。
「いえ、今年も大分寒くなってきたでしょう?私もそろそろ冬眠しようかと思ったのですがそろそろのストーブの燃料が尽きる頃かと思いまして、御裾分けに。」
「ふむ…、確かにあとはタンク内に残っている分で尽きてしまうところだったよ。今年は火鉢とこたつで過ごすかと考えていたところだ。」
「ふふふ、それは危ないところでしたね…。今年は大雪ですわよ?ウチの藍はアメダスよりも正確ですからね。では失礼しまして…。」
紫がそう言いながら、空中を切るような仕草を見せると、次の瞬間には赤い容器らしきものが3つほど置かれているのであった。どうやら「ポリ容器」という外の世界の道具のようだ。
「これだけあれば今年の冬も越せると思いますわ。ストーブのタンクも満タンにしておきましたので、これはサービスですわ♪」
「そうか、いつも助かるよ。でも今回の代償は何なんだい?少しは手加減してもらえるとありがたいがね。」
「あら?私は対価としては十分過ぎるモノしか頂いていませんわ?ちょっと店内を見させてもらえるかしら?」
「そうかな、どうも君は僕が非売品にしている商品に限って持っていく癖があるようだが?ああ、商品は店内のものは見てもらって構わないよ。」
そもそも、このストーブも幻想郷で作られた道具ではなく、外の世界から流れ着いたモノだった。霖之助もこれを店内に持ち込んだときおおよその使い方は分かったものの、肝心の燃料が手に入らず生成方法も全く分からない状態であった。これはもう店内のオブジェとして活用せざるを得ないと思っていたところに、外の世界に詳しいという八雲紫が燃料の取引を持ちかけてきたのが事の発端だった。
当然、交渉の主導権は霖之助に在る筈もなく、ただ紫が望む商品を“対価”として持ち帰られてしまうのが悩みの種となっている。
「あら、第2世代型なんて珍しい。ドットも味があって素敵なのに…。まだ充電すれば使えるみたいですし今回はこれにしましょう♪」
「残念ながらそれは非売品なんだ、…と言いたいところなんだが、君相手では仕方あるまい。今回はそれで満足いただけたかな?」
「ええ、とっても。またいい取引ができるといいですわね、霖之助さん。」
「なるべくなら君との取引は遠慮願いたいんだがね…、貴重品の在庫がなくなってしまうよ。」
「あら?何も使われずにただ展示されているだけよりは道具も使ってもらえるほうがありがたいはずですわ。それは貴方自身がよくわかることでしょう?」
「まったく…、僕が大半を使えないことをわかっていてこの店に来るんだから貴女も人が悪い。できれば燃料の調達場所を教えてもらいたいものだ。」
「ふふ…、企業秘密ですわ。」
―
僕の能力は、あくまでも道具の名前と用途がわかる程度である。その使い方がわからず、いまだに倉庫に眠ってしまっている商品も数多く存在する。守矢の神達が来てからは幻想郷のエネルギー革命―早苗君が言っていたーにより、電気の試験供給が始まったため、簡易的ではあるが商品の起動実験ができるようになった。冷蔵庫は少ない成功例であるが、暑い夏に冷たいものが保存できるようになると人里では好評で僕のところにもたまに修理依頼が来るくらいだ。
とはいえ、燃料が必要なストーブでは僕も対処しようがなく、早苗君もここでは精製できないと残念な顔をしていた。魔理沙が『燃料?要は火をおこせればいいんだろう?そんなの、私の専売特許だぜ。まあみてなw』と言っていたが、貴重品をむざむざ壊させるわけもない。きつく、そのようなことはしないように念を押しておいた。
ー
紫は外の世界を行き来できるというので、恐らく容易に入手できるのだろう。それならば対価もある程度は遠慮してもらいたいところであると思いながらも、こうして律儀にストーブの燃料を補充してくれているのだから、悪い気はしない霖之助であった。
「ははは、まぁ今後ともご贔屓に頼むよ。僕に燃料を渡しに来たということは…そろそろかい?」
「ええ…、結界の修復や細かいことなんかは藍に任せておきましたし…。今年は冬も長くなりそうですから…、しばらくは引きこもっていようかしら。」
「僕としては店の貴重品がなくならないから気が楽になるな。」
「ひどいわ。私はこんなにも霖之助さんの事を思っているのに…」
わざとらしく顔を伏せながら霖之助にしな垂れかかってくる紫。というかいつのまに近くに来たのだろうか。またスキマを使ったな、そう思う霖之助である。
「何故か君に言われると寒気を覚えてしまうのは僕の気のせいだろうか…。」
「気のせいですわ。それにそんなに寒いのならばストーブなんかよりももっと温まる方法があるのですが…?」
そういうと、紫はゆっくりと顔を近づけてくる。端正な唇には紫の紅が塗られていた。ああ、これも外の世界の品なのだろうか?そう思う霖之助であったが、さて今回はどういう赴きなのだろう、と真意をつかみかねていた。
「うー、寒い!というか雪が降ってくるなんて聞いてないわよ。頭にまで積もっちゃってるし…。霖之助さん、ちょっと拭くものちょうだ…」
ガランガラン…、と戸が開く音と共に雪まみれになった霊夢がやってきた。入口でさっそく雪を叩いていたが、霖之助と紫を見つけるとその動きを止めてしまう。
「あら、霊夢いらっしゃい。」
「…紫?…ちょっと聞きたいんだけど何をしてるのかしら。」
「見てわからないかしら?霖之助さんと暖を取ろうとしていたところよ。」
「僕はストーブをつけてもらった方が都合がよいのだがね。というか雪を払うなら外でやってくれといつも言っているはずだが…。」
「ふうん…、でもあんたが寒さ程度で死ぬような妖怪だとは思えないけどね。何にせよ霖之助さん嫌がってるじゃない。早くどいてあげなさいよ。」
「あら、どうかしら、私だって可憐な少女ですもの。それに寒ければ暖をとりたくなるものですわ。」
霖之助の言葉は耳に入っていなかったのか、やけに冷めた口調で紫に詰め寄る霊夢であったが、当の紫は何事もなかったかのように霖之助から離れた。
「霊夢ったら私が冬のお別れに来たっていうのに冷たいのね…、私も保護者としてつらいですわ…。」
「何が保護者よ、むしろあんたが起こした厄介事を処理させられてる私の身にもなってよね。…で、結局何をしにきたのかしら?」
「ええ、もう用は済んだわ。それでは、邪魔者となった私はこの辺で失礼しようかしら。また春にお会いしましょう、それじゃあね、霊夢、霖之助さん。」
そういいながら紫はスキマを広げると、そのまま消えてしまった。後には何か言いかけようとしていた霊夢と、やれやれと番台に座る霖之助だけが残されるのであった。
怒る対象がいなくなってしまったことでやり場がなかった霊夢であったが、落ち着きを取り戻してくると、さてどうしようかと考えてしまう。何か言えばいいのだろうが、どうにも先ほどの現場が目に焼き付いてしまって普段の調子が出ない。夏の一件以降、どうにも霖之助の事を意識してしまう。
『博麗の巫女たるもの、何人にも平等たるべき』
そう小さなころから教わってきたのに霖之助に紫が抱きついているのをみるといてもたってもいられなくなってしまった。やはり自分は霖之助のことを意識してしまっているのだろうか。そう考えると先ほどの行為が嫉妬しているのがまるわかりではないか!そう思い、恥ずかしさから次の行動がとれないでいた。
「ほら、霊夢。何時までもそんなところに立ってないで、早く中に入るといい。ああ、入る前にはその布でよく服を拭いてから入ってくれよ。博麗の巫女でも風邪だって引くんだからね。」
「…あ、…ええ。それもそうね、ありがとう霖之助さん。」
霊夢に拭布を渡しながらストーブの火を入れると、そのまま居間に引っ込んでしまう霖之助だったが、すぐに手元にお茶請けを用意して戻ってきた。
「ほら、飲むといい。君には先出ししておかないと隠しておいた茶葉がなくなってしまうからね。」
「何よそれ。霖之助さん一言余計だわ。」
「何、本当の事を言ったまでさ。さて、どうしたんだい?さっきは。まるで君らしくなかったが。」
こちらを不満な顔を浮かばせながら抗議するのだが、お茶はしっかりと受け取っている霊夢だった。
「…霖之助さんはずるいわ。」
「…なんで僕がそんなことを言われなければならないんだ?」
「だって本当の事ですもの。なんで私ばっかりこんなこと考えなければならないのかしら。ほんとずるいわ。」
お茶をすすりながら霖之助をジト目でにらむ霊夢。霖之助はというと、何が何やらわからない具合である。
ー
霊夢が思いつきで行動をするのは今に始まったことではないが、今回は何故か原因が自分にあると言っているようだ。考えられるのはお茶受けだろうか、確かに茶葉は里で割引されていた古いものだったが…。まさかこれではないだろう。とするとやはり紫の事だろうか、確かに彼女は妖怪のトップに近い存在だろう。彼女はやっかいな相手ではあるが、燃料の件も含めていい取引をさせてもらっているのも事実だ。安易に取引をしては幻想郷のバランスが乱れてしまうということなのだろうか?特に彼女とは外の世界の品をやり取りすることが大半だ。彼女は境界の管理者なのだから、これらが合わさると予期しえない事態が発生するということなのだろうか。僕も一時はその力によって外の世界に転移させられかけたこともあった。あの時は紫に助けてもらったが、それだけの危険性があるということを霊夢は伝えたいのだろうか。
ー
なにやら熟考モードに入ってしまった霖之助を見て霊夢は、またか…、と思いしばらくお茶でも飲んで待とうとしたところ、突然霖之助は霊夢に話しかけた。
「霊夢。君が怒っているのは紫の件かい?」
「…どうしてそう思うの?」
「いや、仮にも君の前で紫とあのように親しくするのは不遠慮だったと思うよ。すまないね、霊夢。これからは紫には毅然とした態度がとれるように気を付けるとしよう。」
霖之助が女性の気持ちに疎いというのは、これまで長く付き合ってきた中で身に染みていた霊夢であったが、まさか気が付いてくれるとは思わなかった。そして、その上で別に悪いわけでもないのに謝ってくれたのだ。詫びを入れてほしいわけではなかったが、霊夢にとってはそれがとてもうれしかった。ちゃんと見ていてもらえているんだなあと思うと胸が熱くなってくる。そう思うと、先ほどの紫の悪戯も何だか気にならなくなってしまった。
「…別に私が勝手に怒っていただけだから謝らなくてもいいわよ。…けどそうね。ありがとうね、霖之助さん。あ、服借りていいかしら、さっきの雪のせいで濡れちゃって。」
「ああ、かまわないよ。奥で着替えておいてくれ。ちょうどいいから君の巫女服はそのまま調整させてもらうとしよう。」
そういうと、霊夢は笑顔を浮かべながら奥の居間へと入っていった。
霊夢も博麗の巫女としての自覚がでてきたんだなぁと感心するとともに、機嫌も治ったようで何よりだと思う霖之助だったが、二人の考えには決定的な違いがあることに両者気づかないのであった…。
「ちょっと霖之助さん!せっかくなんだから居間でお酒でも飲みましょうよ。どうせ雪も降ってきたし誰も来やしないわ。あー、元からだったわね。」
「…君は僕の店をなんだと思っているんだい…。」
やれやれ…、と思いながらも、今日は彼女の我儘に付き合ってあげるとしよう。
そう思いながら、営業札をしまいに行く霖之助であった。
あと、「」の最後に「。」はいらないと思いますー。
頑張って下さい、応援してます。
面白い話ではあったけどイマイチでした。
これからの作品を期待しています。
しかし霊霖ならそれだけでいいというわけではない。
なにが言いたいかというと、もう少し物語として完成させてほしかった。