試合を翌日に控えたルーミアは、一人でふよふよと飛んでいた。
これからチルノ達と会う約束をしている。集合場所の湖へと向かっているのだ。
(…あれ?)
ルーミアは何か違和感を感じた。胸のあたりに、鈍い痛みを覚えたのだ。
不思議がるルーミア。しかしその直後…
「あやややや!どうもこんにちはルーミアさん!」
ハイテンションな天狗がルーミアの前に降り立った。
射命丸文。幻想郷では有名なブン屋である。
「いや、こう言った方がいいですかね?…チャンプさん。」
「…!!」
警戒心を高めるルーミア。そのことを知っている人妖は数少ないはず。
ということは、八雲紫となんらかのつながりがある。もしくは、次の対戦者…
「ご心配なく、私に大食いのスキルはありません。
今回は、ウチの妖怪の山のアイドルである早苗さんが挑戦致します。
それでですね?物は相談なんですが…」
それまで記者スタイルで明るく話していた文の声のトーンが、急に下がった。
「次の試合、ルーミアさんには負けて頂きたいんですよ。」
それには流石のルーミアも驚いて、反論する。
「そ、そんなことできるわけないのだ!」
「そうですよねぇ、お友達の屋台のために必死で食って勝って寄付して…
いやぁ健気ですね!素晴らしい友情です。」
「なんでそれを…」
「ですがもし、もしですよ?例えば私の新聞で、『みすちぃ』の評判を落とすようなことを書いたら…?
そうですねぇ、『みすちぃの鰻はニセモノだ!』とか『みすちぃの品質管理に問題あり!』とか、
女将さん自身のあることないことを書いてしまうってのも面白いですよね。」
「や、やめるのかー!」
「ええ分かってますよ、私もあまりそういうことしたくないんですよ~。閻魔様に怒られちゃいます。
だ、か、ら。ルーミアさんが空気を読んで敗北して頂ければ、それで全て丸く収まるのです!
それじゃあ、頼みましたよ~♪」
言いたいことだけマシンガンのように伝えた後、文は遠くへ飛び立ってしまった。
残されたのは茫然自失となったルーミアだけであった…
「…そんなことがあったんだ。」
「ちくしょ~!あの天狗、ふざけやがって~!」
約束通り湖でチルノ、リグルと落ち合ったルーミアは、
先ほど文に言われた言葉をそのままチルノ達に報告した。
リグルはショックを受け、チルノは怒り狂っている。
「…それで、どうするの?」
リグルがルーミアに尋ねる。しかしルーミアは…
「…わかんない。わかんないよ。」
と、首を振ることしか出来なかった。
明日の勝負、負けなければミスティアの屋台は潰されてしまう。
かと言ってここで勝負を投げれば、またミスティアの屋台は資金難に陥ってしまう。
板ばさみの状態。結局この日は解決案も出ないまま、解散となった。
「…ねぇ、チルノ。」
「何?リグル。」
「ごめん、明日は応援に行けないや。ルーミアのこと、頼んだよ。」
「え?それってどういう…」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日、ルーミアとチルノはフードファイトの会場へとやってきた。
スキマを抜けると、いつものように紫が出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃい。あら?今日は虫の娘さんはいないのね。」
「ああ、うん。なんか体調が悪いらしくてさ。」
チルノはとっさに嘘をついた。ルーミアにも同じ嘘をついている。
リグルがなんらかの考えを持って行動していると信じているが、
今は任されたルーミアの支えとなるのが自分の仕事。余計な心配はルーミアにはかけない…
というのが、チルノなりに出した答えだった。
「…………」
一方のルーミアは沈んだ表情のままだ。
昨日から考えてはいるが、結局どうすればよいかの答えは出ていない。
「うふふ、では今回の挑戦者に入ってきてもらいましょうか。いらっしゃい?」
紫が合図をすると、奥の扉から挑戦者とサポーターが入ってきた。
一人は昨日ルーミアを脅した張本人、射命丸文。
「あややや!これはこれはルーミアさん。『正々堂々』と勝負をしましょうね?」
ぬけぬけと言う文に対して、チルノは怒りのオーラを隠そうとせず睨み付ける。
「アンタ…!」
「おお、こわいこわい。戦うのは私達ではないのですから、ヒートアップしてもしょうがないですよ?」
そしてもう一人、ルーミアと戦う挑戦者、東風谷早苗。
「あなたが大食いチャンプですか!私も外の世界では大食いキャラでしたからね!
今日は負けませんよ!」
「………」
元気よくあいさつをする早苗。しかしルーミアは、返事をすることが出来なかった…
~~ フードファイタールーミア ~~
Stage 4 仕組まれた戦い
競技場に入り、ルーミアと早苗は席に着く。
机の上に置いてあったものは…
「こ…これは!!パフェ!」
『ええ、今回のメニューは早苗さんの大好物、パフェですわ。』
早苗が喜びの声をあげる。外の世界ではスイーツ大好きっ子だった早苗。
デカデカと盛られたそのパフェを見て、黄色い歓声を上げ続けている。
――カーン!
「いただきま~す♪」
試合開始のゴングが鳴ると同時に、早苗はパフェを食し始める。
そのペースは普段のルーミアに負けじとも劣らないハイペースだ。
一方のルーミアは…
「……」
ゴングが鳴っても、パフェに手をつけようとしない。
「ルーミア…!」
観客席ではチルノが心配そうな声をあげる。
分かっていたこととは言え、この決断はルーミアにとってとても苦しいものであっただろう。
「あややや、どうしたんでしょうねぇ。ルーミアさん。体調でも悪いのでしょうか?」
チルノの隣では文が得意げな顔をしてチルノを挑発している。
「アンタが変なことを言うからだよ!」
「ふふ、それを抜きにしてもウチの早苗さんは強いですよ?
胃袋自体は普通の女子高生レベルですが、スイーツになると話は別。
よく言うじゃないですか、『甘いものは別腹』ってね。」
「じゃあ、こんな卑怯なことする必要ないじゃない!」
「念には念を。どんな手を使ってでも勝利を手にする、それが妖怪の山の理です。」
――カーン!
前半終了のゴングが鳴った。
現在のスコアは…
ルーミア:0 早苗:13
着実に数を伸ばしてきた早苗。
一方のルーミアは結局一個もパフェを口にすることは出来なかった。
「ルーミアさん。確かあなたの胃袋は宇宙だったそうですね。
なら私はこう言い返します。」
早苗は得意げな顔でルーミアに言い放った。
「私の別腹は宇宙です!このフードファイトでは常識にとらわれてはいけないのですね!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
休憩時間。ルーミアサイド。
「ごめん…チルノ。」
一個もパフェも口にすることが出来なかったルーミア。
チルノに謝るが、誰がルーミアを責めることが出来ようか。
チルノも言葉を返すことは出来ず、暗い雰囲気になってしまう。
「二人とも!遅れてごめん!」
と、そこにリグルが現れた。ボロボロの格好をして、ケガもしている。
「リ、リグル!どうしたのだ!?」
「へへ、ちょっと妖怪の山にハイキングにね…でも大丈夫!」
心配するチルノとルーミアをよそに、リグルは力強く宣言した。
「もう大丈夫なんだ!!」
一方の早苗サイド。早苗は文を問い詰めていた。
「どういうことですか…!ルーミアちゃんを脅したって!」
「念には念を、ですよ。ここの賞金で更にお店を大きく出来る、ライバルも潰せる。
あなたにとってはいい事しかないでしょう?」
早苗に言い寄られても動じることなくヘラヘラと笑う文。
早苗の怒りは限界に達する。
「ふざけないでください!私は、そんなインチキの勝利なんていりません!!」
「よく言った、早苗。」
二人の背後から声がした。文と早苗が振り返るとそこに居たのは…
「あ、あややや…」
「神奈子様!」
守矢神社の神であり早苗の保護者でもある、八坂神奈子であった。
「おい文、アンタずいぶんとつまらない真似をしているようだねぇ。」
「こ、これはですね?早苗さんに確実に勝利していただくための…」
「問答無用!いいかい、もしあの屋台を潰したりしてみろ、私が許さないからな!」
「は、はひ…」
神の一喝。さすがの文も、あまりの迫力に腰が抜けてしまう。
「神奈子様、どうしてここが?」
「あのリグルって子が私の所に来て事情を説明してくれたのさ。
山には哨戒天狗たちも居ただろうに、あんな小さな身体でよくやるよ。
さ、これで余計な横槍を入れる奴はいなくなった。
あとは…」
早苗を見つめる神奈子。早苗はそれに答えるように、ニコリと笑った。
「はい!後は私にお任せください!私の思うようにやらせて頂きます!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
後半戦。机に着く早苗とルーミア。
ルーミアに早苗が話しかける。
「ルーミアさん。知らなかったとは言え、卑怯な形で差をつけてしまい申し訳ありませんでした。」
「え?早苗…」
「私はここで待ってます。私に追いついてきてください。」
早苗の言うことが一瞬理解できず、ぽかんとしてしまうルーミア。しかし…
「…うん!分かったのかー!」
早苗の言葉を理解したルーミアは、
今までの鬱憤を晴らすかのように、凄い勢いでパフェを食べ始める。
ルーミア:3 早苗:13
ルーミア:7 早苗:13
ルーミア:10 早苗:13
そして…
ルーミア:13 早苗:13
13個のパフェを食べ終えたルーミア。ついに早苗に並んだ。
早苗はその間一個もパフェを食べることなく、ただじっとルーミアが食べるのを待っていた。
「お待たせ!」
「ふふ、それじゃあここからが本当の勝負です。いいですか?」
「うん!いくよ!」
ゴングは鳴ってはいない。だがこの瞬間こそが本当の意味での試合開始の瞬間である。
早苗は前半戦以上のペースを見せれば、ルーミアも持ち前のペース完全復活。
スピードは完全に互角、残り時間3分!
「頑張れー!ルーミアー!」
「早苗!負けるんじゃないよ!」
両サイドの観客席から声援が飛び交う。
そして…
――カーン!
試合終了のゴングが鳴り響いた。スコアは…
ルーミア:20 早苗:19
わずかな差で、ルーミアの勝利!
「ふふ、負けてしまいました。でも楽しかったです。
願わくば、最初から本気で戦いたかったですね。」
「今度は一緒に、パフェを食べに行くのかー。」
「それは楽しみですね。しかし私も別腹には自信があったのですが…
まだまだ常識にとらわれていたんですかね?」
晴れやかな顔、それでもわずかに悔しそうな顔を覗かせる早苗。
そしてルーミアは立ち上がった。
「私の胃袋は宇宙なのかー。常識なんて最初から存在しないよ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
試合後、早苗達とルーミア達は一緒にスキマを出た。
スキマの中で、神奈子と早苗が口を開く。
「文はちゃんとお仕置きしておいたから。ミスティアの店の評判を落とすような真似はしないよ。
これからも私がさせない。だから安心してくれ。」
「あ、ありがとうございます!」
「これからはそちらの屋台も存続出来るようなやり方を見つけ出して行きます。
少し時間はかかるでしょうけど、待っていてくださいね。」
「ホント!?やったー!」
二人の言葉に喜びの声をあげるチルノとリグル。
苦しい戦いではあったが、今回の勝負では、賞金以上に収穫があったと言えよう。
和やかな雰囲気。しかし…
(あれ…?)
その4人の少し後ろを飛んでいるルーミアに、異変が起きていた。
(胸が…痛い…?)
文と会う前にも感じた胸の痛みがまた出てきた。
昨日よりも更に痛みが増している。
「ルーミア?どうしたの?」
「う、ううん!なんでもないよ!」
その様子に気付いたチルノが心配そうに声をかける。
ルーミアは笑って誤魔化すものの、胸の痛みはまだ消えることは無かった。
スキマの向こうでは、紫がその様子を見ていた。
ルーミアの異変を、紫の目は見逃さなかったようだ。
「あらあら…どうやらやっとチャンプ交代の時期が来たようね。」
紫は次の策を練るべく、ある人物にアプローチをかけることに決めた…
Go To Next Stage…
だが今回のMVPはリグル、よくやった
正々堂々でなくては面白くも何ともないぜ。
早苗さんの漢気に惚れたぜ。
あと2話か、相手は誰だろうね
楽しみに待ってます