「さとりさまー」
ある日、おくうの制御棒が綿棒になっていた。
さとりは頭を抱えた。
引きこもりのさとりをして、地上の神々共に殴りこみを掛けるべきか真剣に悩んだが、おくうが豪快に勘違いしている可能性も否定できない。念のため、聞き取り調査を開始する。
「……おくう。貴方が右腕に嵌めているのは、一体」
「え、やだなぁ、前にも説明したじゃないですかー。これ、制御棒っていうんですよ。綿棒みたいですけど」
いや綿棒だろそれ。綿がふわふわ漂ってるし。
一瞬、さとりは自分の視力を疑ったが、どこからともなく現れたこいしが「あれ綿棒だよね?」と言ってすぐさま居なくなったことから、その可能性は薄い。お燐の意見も聞きたいところだったが、いつ帰ってくるかは皆目見当も付かなかった。
こいしも助けてくれればいいものを、彼女の姿は今や誰にも知覚できない。
「いえ、その……私が知る制御棒は、もっと角ばっていて、硬質なものだったのだけど」
「うーん、確かに、今日はいつもよりちょっと柔らかいですけど……ほら、ビームだって撃てますし」
しびびびび、と核融合によって発せられる高熱の光線を、壁に向けて惜しげもなく放出する。壁には不器用な線が深々と刻まれ、おくうが何も考えずに地霊殿を傷付けたことが、彼女のやっちまったと言わんばかりの表情を見ても容易に知れた。
さとりは頭を抱えた。
「さとりさま……頭が痛いんですか?」
「そうですね……頭が痛いことは否定しませんが……」
この状況で、地霊殿の綿棒が制御棒になっていたらもう笑うしかない。
一応、こいしが先んじて地霊殿の綿棒を掻き集めて見せびらかしていたから、その点は問題ないようだが。
あとこいしは綿棒を片付けてからいなくなれば完璧だった。
「……まあ、いいです。まさか、それで耳掻きしようなんて考える者もいないでしょうから」
「あはは、さとりさまもたまには面白いこと言うんだね」
悪気はない。
悪気はないし、事実ではあるが、かといってダメージを受けずにいられるわけでもない。
面倒なものだ。
「やれやれ、ですね……」
「うおおぉぉ!? おくうのアレが綿棒だッ!?」
お燐が現れた。
面倒がまたひとつ増えた。
まあ、一通り説明をすれば一応は納得してくれるだろうから、彼女に関しては問題というほどの厄介事でもないのだが。
「もう! お燐も変だよ、これは制御棒って言ってー」
「いやそれ綿棒だろ。耳くそ付いてるし」
それはたぶんビームを照射して焦げた跡だと思われる。
「制御棒≒綿棒だねお姉ちゃん」
したり顔で言われても困る。
ともあれ、混乱しているお燐を救うべく、助け舟を出さなければなるまい。こいしはもう当てにならないというか既にどっか行った。
何しに来たのだ。
「うおー……どういうことなのこれ……」
「お燐、これはですね」
振り返ると、お燐の尻尾がUSBケーブルになっていた。
さとりは頭を抱えた。
というか全体的にかわいい!
この絶妙な間がたまらんです。みんなダメかわいい!