「見つけたわよ、てゐ」
「うぇ…鈴仙」
鈴仙は縁側に寝そべっていたてゐのもとへ駆け寄ると小さな体を両腕で抱え上げた。
「なにさー。せっかく日なたぼっこしてたのに」
「なにさじゃないわよ。玄関掃除の当番あんたでしょ。
なんだかんだで後で師匠に怒られるの私なんだからね」
「忘れてたの。わかったわかった、後でやるから放して」
ホントは知っててサボったくせに、と鈴仙は内心ため息をつく。
「どうせ逃げる気なんでしょ。とりあえずこのまま玄関まで運びますっと」
「ちぇーっ」
てゐは鈴仙に抱えられて手足と耳をぶらぶら揺らしながら運ばれていく。
情けない姿だが永遠亭ではわりとよく見る光景である。
「…それにしてもあんた軽いわね。ちゃんと食べてるの?」
「健康オタクに失礼な。
お師匠様に変な薬飲まされてる鈴仙なんかよりずっとまともな食生活してるよ」
「私だって医者見習いよ。三食きっちりだわ」
「うんうん、見りゃわかるよ。おかげで最近はお肉がグエッ」
てゐの一言に鈴仙の両腕に思わず力が入る。
「なんか言った?」
「んもー図星だからって怒んないでよ」
まったく悪びれた風もなくにやにやするてゐ。
この兎にはムキになるだけ無駄だと鈴仙は思った。
「…はぁ。
最近は運動もせずに研究室にこもりっぱなしだったのよ」
「でもさ、鈴仙なんかまだぜーんぜんマシなほうだよね。
ウチには真打がいるからさ」
「さ、さぁなんのこと?」
「しらばっくれちゃって。姫様でしょ姫様」
永遠亭の主、輝夜はひきごもりがちな生活とも相まって近頃体重が増加している傾向である。
兎たちも含めて永遠亭でそれに気づいていない者はいないが、それを輝夜に言う者もいない。
「ここ最近まったく外にでてないもんなぁ姫様」
「アレに比べれば鈴仙なんか全然太った内に入らないよ」
「…そうかな?」
「そうそう」
「だ、だよね。私の場合は生活のリズムを元に戻せば自然に体重落ちそうだけど
姫様のアレは修正利かなそうだもんね」
「うんうん」
「生活っていうより性格の問題よねアレは」
「だ、そうですよ姫様」
「あらあら、おっきいほうのイナバはペットのくせにずいぶん生意気ね」
背後から声が聞こえた瞬間鈴仙の背筋を寒波の波が駆け抜け、体から力が抜け去った。
腕から抜け落ちたてゐはぐえっという声と共に床に尻もちをつく。
「ひっひっひっひっ姫様、いいいいいいいみゃのはあのなんというか」
「何をそんなに焦っているのよイナバったら」
鈴仙の狼狽っぷりをよそに輝夜は別段機嫌を損ねた風もなくいつも通り笑っている。
「だって鈴仙は姫様のこと太ってるなんて言ってたんですよ。ひどいなー」
床に腰を下ろしたまま何食わぬ顔でてゐが言う。
「てっててててててててゐ!!」
「それはイナバが言うなら事実なんじゃない?
まぁ私も最近はちょっとだらけすぎだと思っていたしね」
「お、怒ってないんですか?」
恐る恐る鈴仙が聞くが輝夜の表情はあっけらかんとしている。
「本当のことを言われたって怒らないわよ」
それに、と輝夜は続ける。
「私には長い時間をかけて編み出したダイエット法があるからね。
本気をだせば体重なんかいつだって全部元通りよ」
ダイエット法という言葉に思わず鈴仙の目が輝いた。
「姫様、そのダイエット法をぜひ、ぜひ教えてください!」
「だーめ、これは私だけの秘密。それにイナバなんかじゃ成功しないわ」
「え、えー…」
鈴仙の表情からは今にも、教えてくれるくらいはいいじゃないですかという声が聞こえてきそうである。
「まぁそいうことだから私はなにを言われても平気というわけね。それじゃ」
手をひらひらさせ笑顔のまま去っていく輝夜。
「なにを言われても平気、ね」
小さくつぶやいたてゐに鈴仙は嫌な予感がしたが、遅かった。
「でぶ」
てゐの一言に鈴仙の心臓は一瞬働くのをやめたが、輝夜はオホホと笑うだけであった。
「お出かけなさるのですか?」
玄関掃除をしていたてゐとその見張りの鈴仙もとへ輝夜が現れた。
「めずらしいって顔してるわね。まぁあれよ、例のダイエットよ」
結構気にしてるんじゃないの、とてゐは思ったが後で鈴仙がうるさいので口に出すのはやめておいた。
「…姫様はいったわね」
輝夜を見送り、竹林の中へ入っていったのを確認して鈴仙がてゐに言う。
「私は姫様の秘密を突き止めてくるわ。掃除、サボらないでね」
辺りをきょろきょろと見回すと鈴仙も輝夜の後を追ってせわしなく竹林の中へ消えていった。
あんなに必死になるくらいなら普段の生活に気をつければいいじゃないかとてゐは思う。
「まぁ、あれだ。昼寝でもするか」
「あら、もういってしまわれたのね」
ほうきを放り投げて引き上げようとしているところに永琳があらわれた。
「お師匠様、掃除終わりましたー。鈴仙はサボってどこかいきましたー」
「あらあら、あの子には後でお仕置きしておかなきゃね」
てゐは永琳の手に輝夜の服が抱えられていることに気づいた。
「それ姫様の着替え?ダイエットってやつも大変だね」
「着替えには違いないけど、ダイエット?
何言っているの貴女は。姫様が出かけるっていったら一つしかないじゃない」
うん?っとてゐは首をかしげる。
だってさっき本人がダイエットって…
「姫様が出かけるいつもの理由っていえば…
妹紅との殺し合…」
あぁ、とてゐは納得したようにぽんと手を鳴らした。
「なーるほどね。
体重が元通りになるのには変わりないけど鈴仙には無理な訳だ」
鈴仙だけではない。この世の中で、ある三人を除いて不可能だ。
「ま、姫様の『ダイエット』を見たらしばらくは肉を食べる気も失せそうだし、
結果的にはいいんじゃないかな」
蓬莱山輝夜のダイエット。
それは汗の変わりに血が流れる、リセットの方式のダイエットである。
「うぇ…鈴仙」
鈴仙は縁側に寝そべっていたてゐのもとへ駆け寄ると小さな体を両腕で抱え上げた。
「なにさー。せっかく日なたぼっこしてたのに」
「なにさじゃないわよ。玄関掃除の当番あんたでしょ。
なんだかんだで後で師匠に怒られるの私なんだからね」
「忘れてたの。わかったわかった、後でやるから放して」
ホントは知っててサボったくせに、と鈴仙は内心ため息をつく。
「どうせ逃げる気なんでしょ。とりあえずこのまま玄関まで運びますっと」
「ちぇーっ」
てゐは鈴仙に抱えられて手足と耳をぶらぶら揺らしながら運ばれていく。
情けない姿だが永遠亭ではわりとよく見る光景である。
「…それにしてもあんた軽いわね。ちゃんと食べてるの?」
「健康オタクに失礼な。
お師匠様に変な薬飲まされてる鈴仙なんかよりずっとまともな食生活してるよ」
「私だって医者見習いよ。三食きっちりだわ」
「うんうん、見りゃわかるよ。おかげで最近はお肉がグエッ」
てゐの一言に鈴仙の両腕に思わず力が入る。
「なんか言った?」
「んもー図星だからって怒んないでよ」
まったく悪びれた風もなくにやにやするてゐ。
この兎にはムキになるだけ無駄だと鈴仙は思った。
「…はぁ。
最近は運動もせずに研究室にこもりっぱなしだったのよ」
「でもさ、鈴仙なんかまだぜーんぜんマシなほうだよね。
ウチには真打がいるからさ」
「さ、さぁなんのこと?」
「しらばっくれちゃって。姫様でしょ姫様」
永遠亭の主、輝夜はひきごもりがちな生活とも相まって近頃体重が増加している傾向である。
兎たちも含めて永遠亭でそれに気づいていない者はいないが、それを輝夜に言う者もいない。
「ここ最近まったく外にでてないもんなぁ姫様」
「アレに比べれば鈴仙なんか全然太った内に入らないよ」
「…そうかな?」
「そうそう」
「だ、だよね。私の場合は生活のリズムを元に戻せば自然に体重落ちそうだけど
姫様のアレは修正利かなそうだもんね」
「うんうん」
「生活っていうより性格の問題よねアレは」
「だ、そうですよ姫様」
「あらあら、おっきいほうのイナバはペットのくせにずいぶん生意気ね」
背後から声が聞こえた瞬間鈴仙の背筋を寒波の波が駆け抜け、体から力が抜け去った。
腕から抜け落ちたてゐはぐえっという声と共に床に尻もちをつく。
「ひっひっひっひっ姫様、いいいいいいいみゃのはあのなんというか」
「何をそんなに焦っているのよイナバったら」
鈴仙の狼狽っぷりをよそに輝夜は別段機嫌を損ねた風もなくいつも通り笑っている。
「だって鈴仙は姫様のこと太ってるなんて言ってたんですよ。ひどいなー」
床に腰を下ろしたまま何食わぬ顔でてゐが言う。
「てっててててててててゐ!!」
「それはイナバが言うなら事実なんじゃない?
まぁ私も最近はちょっとだらけすぎだと思っていたしね」
「お、怒ってないんですか?」
恐る恐る鈴仙が聞くが輝夜の表情はあっけらかんとしている。
「本当のことを言われたって怒らないわよ」
それに、と輝夜は続ける。
「私には長い時間をかけて編み出したダイエット法があるからね。
本気をだせば体重なんかいつだって全部元通りよ」
ダイエット法という言葉に思わず鈴仙の目が輝いた。
「姫様、そのダイエット法をぜひ、ぜひ教えてください!」
「だーめ、これは私だけの秘密。それにイナバなんかじゃ成功しないわ」
「え、えー…」
鈴仙の表情からは今にも、教えてくれるくらいはいいじゃないですかという声が聞こえてきそうである。
「まぁそいうことだから私はなにを言われても平気というわけね。それじゃ」
手をひらひらさせ笑顔のまま去っていく輝夜。
「なにを言われても平気、ね」
小さくつぶやいたてゐに鈴仙は嫌な予感がしたが、遅かった。
「でぶ」
てゐの一言に鈴仙の心臓は一瞬働くのをやめたが、輝夜はオホホと笑うだけであった。
「お出かけなさるのですか?」
玄関掃除をしていたてゐとその見張りの鈴仙もとへ輝夜が現れた。
「めずらしいって顔してるわね。まぁあれよ、例のダイエットよ」
結構気にしてるんじゃないの、とてゐは思ったが後で鈴仙がうるさいので口に出すのはやめておいた。
「…姫様はいったわね」
輝夜を見送り、竹林の中へ入っていったのを確認して鈴仙がてゐに言う。
「私は姫様の秘密を突き止めてくるわ。掃除、サボらないでね」
辺りをきょろきょろと見回すと鈴仙も輝夜の後を追ってせわしなく竹林の中へ消えていった。
あんなに必死になるくらいなら普段の生活に気をつければいいじゃないかとてゐは思う。
「まぁ、あれだ。昼寝でもするか」
「あら、もういってしまわれたのね」
ほうきを放り投げて引き上げようとしているところに永琳があらわれた。
「お師匠様、掃除終わりましたー。鈴仙はサボってどこかいきましたー」
「あらあら、あの子には後でお仕置きしておかなきゃね」
てゐは永琳の手に輝夜の服が抱えられていることに気づいた。
「それ姫様の着替え?ダイエットってやつも大変だね」
「着替えには違いないけど、ダイエット?
何言っているの貴女は。姫様が出かけるっていったら一つしかないじゃない」
うん?っとてゐは首をかしげる。
だってさっき本人がダイエットって…
「姫様が出かけるいつもの理由っていえば…
妹紅との殺し合…」
あぁ、とてゐは納得したようにぽんと手を鳴らした。
「なーるほどね。
体重が元通りになるのには変わりないけど鈴仙には無理な訳だ」
鈴仙だけではない。この世の中で、ある三人を除いて不可能だ。
「ま、姫様の『ダイエット』を見たらしばらくは肉を食べる気も失せそうだし、
結果的にはいいんじゃないかな」
蓬莱山輝夜のダイエット。
それは汗の変わりに血が流れる、リセットの方式のダイエットである。
三年ほどコンゴの密林で暮らしたら馴れました。(^q^)