前回の大会から6日後、ルーミア達は久々にミスティアの屋台に集まった。
「それで、最近はどうなの?」
「あのねー、ここ二週間ぐらいどこからかわからないけど寄付があってね、
おかげでようやく店を畳まないで済むぐらいには回復したよ。」
その言葉を聞いて笑顔になるルーミア達。
魔理沙、霊夢と死闘を繰り広げた甲斐があったというものだ。
「でもね…相変わらずお客さんは増えないんだよねぇ。」
「う~ん、やっぱり場所が悪いんじゃない?」
「でも前はこの場所でもいっぱいお客さん来てたし、
何より常連さんがここ一ヶ月ぐらいでごっそり減ったってのは…」
「そいつはね、人里に出来た新しい店のせいだね。」
のれんを潜りながら言葉を挟んできたのは、
紅魔館の門番でもあり、ここ『みすちぃ』の常連客でもある、紅美鈴であった。
「美鈴さん!いらっしゃい!」
「お、めーりんだ!」
美鈴の登場に喜びの顔を浮かべるチルノ。
紅魔館の門前は、湖、この屋台、博麗神社と並ぶルーミア達の遊びスポット。
その門を守っている美鈴はルーミア達の人気者で、美鈴も喜んで遊び相手をしている。
あまりはしゃぎすぎて怒ったメイド長が現れるのはお約束である。
「それで、新しいお店って?」
リグルは先ほどの美鈴の言葉の意味を聞き返す。
「『喫茶・フルーツ』。妖怪の山と守谷神社が協力して出店したお店でね、
なんでも食べられるってことで大人気!長蛇の列だよ。
そのメニューの中にね…ああ、持ってきたんだった。これを見て頂戴。」
美鈴が持ってきた紙を広げた。どうやらその喫茶のメニューのようだ。
美鈴はそのメニューの一箇所を指差す。そこには…
「八目鰻!?」
「そう。しかもそれは妖怪の山の川から取り寄せたってんで人気メニューになってる。
みんなそっちに行ってるから、ここのお客が減ってるわけよ。」
「そう…なんだ…」
しょぼくれるミスティア。相手が守谷神社で、更にバックに妖怪の山もついているのでは、
所詮一妖怪が経営してるに過ぎないミスティアの屋台では勝ち目もない。
ましてや立地条件もそちらの方が上となると…
「でもね!」
そんなミスティアを元気付けるかのように、美鈴が明るい声を出す。
「私は、こっちの屋台の八目鰻の方が好きだよ。」
「私もなのだー!」
「私も!」
「あたいもだよ!」
美鈴の言葉にルーミア達が続く。
「みんな…ありがとう。絶対お店を続けられるように、頑張るから!」
ミスティアは美鈴達の奨励を受け、笑顔で力強く宣言するのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌日、試合の日。
ルーミア達はいつもの試合会場に向けてスキマの中を歩いていた。
「経営は安定したっていうけど、客が戻ってこない理由は…」
「妖怪の山の、ライバル店!」
「その環境がなんとかなるまで、寄付は続けないといけないね。
ルーミアばかりに負担がいっちゃうことになるけど…大丈夫?」
リグルの心配の言葉に、ルーミアは
「任せておけなのかー!」
胸を叩いて、力強く答えた。
そしてスキマを抜け、ルーミア達を待っていたのは
「来たわね、チャンプとかわいい仲間達。」
いつものように胡散臭い笑みを浮かべている八雲紫、そして…
「やっぱり、あなた達だったのね。チャンプってのは。」
昨日、屋台でミスティアを励ましあったばかりの、紅魔館の門番、紅美鈴であった。
~~ フードファイタールーミア ~~
Stage3 那就開始吃了!
「め、めーりん!?」
「この中でチャンプってのは…まあルーミアでしょうね。
よろしくね、ルーミア。いい試合をしましょう。」
「あ、うん…」
握手を求められて、思わず握り返すルーミア。まだ若干戸惑っている様子である。
リグルが美鈴におずおずと尋ねる。
「あの、美鈴さんが、今回の…?」
「ええ、挑戦者よ。これでも大食いには自信あるから、いい勝負が出来ると思うわ。」
そして競技場へと歩み始める美鈴、歩きながらルーミアへと近づき、小声で話しかける。
「あなた達が、屋台に寄付をしてたのね?」
「あ、そ、その…」
「大丈夫、本人には言うつもりはないわ。でもね…」
美鈴はそれまでのにこやかな顔から一転して、真剣な表情になりささやく。
「あなた達も背負っているものはあるでしょうけど、私にもあるのよ。
悪いけど、負けてあげるわけにはいかないわ。」
美鈴はそれだけ言うとペースをあげ、足早に競技場へと向かっていった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
競技場へついた挑戦者・美鈴とチャンプ・ルーミア。
お互いに机へと座る。待ち受けていた料理は…
「ラーメンなのかー。」
「ラーメンかぁ。」
『その通り、今回のメニューは出来たてアツアツのラーメンですわ。
準備はよろしいかしら?では…初め!』
――カーン!
試合開始のゴングが鳴り響き、両者一斉にラーメンに啜り付く。
今までと同じようにルーミアが圧倒的なペースを見せ付けると思われたが…
「あ、あつっ!」
ルーミアの箸が止まる。
そう、出来立てアツアツのラーメン、スープの熱さも相当なものだ。
更にルーミアは…
「そうだ!思い出した!」
「どうしたの、チルノ!」
「ルーミア、猫舌だったんだ!」
「あっ!!」
そう、猫舌だったのである。
いつも屋台でもアツアツの鰻をフーフーしながら食べていた。
『あ、もちろんスープまで飲み干して初めて1カウントですからね~』
追い討ちをかけるかのように紫の楽しそうなアナウンスが響く。
一方の美鈴は熱さなどおかまいなし。早いペースでラーメンを食べまくる。
「ハムッ!ハフハフ!」
どんどんとカウントが進んでいく美鈴、一方のルーミアは頑張って食しているものの猫舌が邪魔をして、
思うように箸が進まない状況。
――カーン!
ルーミア:3 美鈴:7
終わってみれば、かなりの差をつけられての前半終了となってしまった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
美鈴は自分の控え室へと戻った。そこで待っていたのは…
「いい感じね、美鈴。」
紅魔館のメイド長であり美鈴の相棒でもある、十六夜咲夜であった。
「咲夜さん、来てくれてたんですか。」
「ええ。行き方は知っていたからね。」
「ありがとうございます。心強いです。」
「でもあなた、確かにたくさん食べるけれど、あのルーミアほどではないでしょう?
どうやって対等に渡り合うつもりでいたの?」
「私の気を操る能力で、満腹感を感じなくしているんですよ。
一時的にですが、私も宇宙の胃袋を持つことが出来るというワケです。」
「なるほど、でも美鈴。それなら逆に、相手のルーミアの満腹感を増やすことも出来るんじゃない?」
「出来ますよ?でも…それはフェアじゃないですから。」
「相変わらずバカ正直ね。でも、ここの主催者はそうじゃないみたいよ?」
咲夜の指摘に、美鈴も珍しく不快感を露にする。
「恐らくルーミアが猫舌なことを知ってた上でアツアツのラーメンをメニューにしましたね。
純粋に勝負がしたかったのに、横槍を入れられたようで不愉快です。
でも…」
「でも?」
美鈴は、今は見えない相手側の控え室の方向を向きながら言った。
「私はルーミアがこれぐらいであっさり負ける相手ではないと信じていますよ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして休憩時間が終わり、
――カーン!
後半戦のゴングが鳴り響く。
美鈴は変わらずにハイペースでラーメンに啜り付く。一方のルーミアは…
(ペースが、戻っている…!)
持ち前のハイペースが復活していた。ラーメンを食べるスピードは緩めずに、
熱さを克服した要因を考える。
(一体この休憩時間で何を…?)
美鈴は横目でチラチラとルーミアの様子を伺う。
すると、一箇所だけ休憩前とは違う部分を発見できた。
(舌が…青い…?)
一方の観客席。リグルはひたすらチルノを褒め称えていた。
「すごい!ペースが戻ってる!!」
「ま、あたいにかかればこれぐらいらくしょーね!」
「さすがだよ、チルノ!」
「へっへーん!」
休憩時間、チルノはルーミアの舌をごく薄い氷の膜で包んだのだ。
これでルーミアは常に口の中に氷を入れたような状態で食べることが出来る。
アツアツのラーメンと中和されて、ほどよい温度になるのだ。
ルーミア:4 美鈴:8
ルーミア:6 美鈴:9
ルーミア:8 美鈴:10
こうなるとルーミアに敵はいない。魔理沙、霊夢を倒してきたペースが復活し、
どんどんと美鈴を追い詰める。
一方の美鈴は気を操る能力で満腹感を抑えているものの、
基本的な大食いのスペックではルーミアに劣る。
徐々にペースが落ち始め、そして…
――カーン!
後半戦終了、結果は…
ルーミア:13 美鈴:11
「やったあ!」
喜ぶチルノ達。ルーミアの逆転勝利である。
「あらら、負けちゃいましたね…やっぱ誤魔化しはきかないか。
中国四千年の歴史から生まれた早食い技法、自信あったんですけどねー。」
美鈴のつぶやきに、ルーミアは力強く返した。
「私の胃袋は宇宙なのかー。宇宙の歴史は四千年どころじゃないよ。」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
試合も終わり、ルーミア達は帰路についた。
そして一人、美鈴だけが残された。
(あーあ、負けちゃった。お嬢様に怒られるんだろうなあ…)
「こら、何をしょぼくれた顔をしているの、あなたらしくもない。」
競技場に現れたのは、応援に来ていた咲夜であった。
「すみません、紅魔館の経営がかかっていたというのに…」
申し訳なさそうに美鈴が謝る。
しかし咲夜はそんな美鈴のオデコをコツンと叩いた。
「大丈夫よ。こんな一攫千金のようなバクチに全てを賭けるほど、
愚かな運営はしてないわ。ちゃんと次の手も考えてる。
だからあなたは難しいことは考えないで、門の前で明るく笑っててちょうだい。」
いつもは厳しい咲夜から思わぬ慰めの言葉、思わずキョトンとしてしまう美鈴。
「…何よその顔は。」
「いえ、咲夜さんからそんな優しい言葉が来るとは予想外でして。」
「ナイフが欲しいの?」
「遠慮しときます。」
軽口を叩いて笑いあう二人。おかげで、しょぼくれていた気持ちもだいぶ持ち直してきた。
気持ちにゆとりが出て、ルーミア達の心配もする余裕が出てきた。
(今回、八雲紫は明らかに私に有利な条件を作ってきた。
勝ち続けるのが面白くない紫は、これからも同じようなことを続けるはず。
…恐らく次は、あそこが直々に…)
美鈴は今後のルーミア達の前に立ちふさがる暗雲を感じ取っていた。
願わくば、その不安が的中しないことを祈って…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しかし、事態は急展開を迎える。
「…へぇ~、それでルーミアさん達が頑張っているんですねぇ。
屋台のため、かぁ。けなげなことですねぇ、涙が出ますよ。」
「そうよ、これ以上勝たれるのはこちらとしても望ましくない。それに…」
「あれ以上あの屋台に続けられるのも、私達天狗にとって望ましくないんですよ。
ふふ、面白いように利害は一致しますね。」
「分かってくれたかしら。それじゃあ、頼むわね?」
「ええ、お任せください。情報操作と事前交渉は、この私、射命丸文の十八番ですから。」
……美鈴の不安は、現実のものとなろうとしていた。
Go To Next Stage…