Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

そして彼女は春を告げにいく

2011/03/02 18:15:58
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※ヤマなし、オチなし、ほのぼの。





魔法の森の奥地にある、そこだけ木々をくり抜いたかのような隙間に佇む一軒の家。
その玄関から上品なノック音の代わりに届いたのは、扉をぶち破るかと思うほどの強音だった。
春を待って庭木の梢に巣を作っていた鳥たちが、敵襲かと慌てて宙を飛び舞った。

「アリス、ついにやったぜ!」

先ほどの音を上回る大声が家主の耳に届く時には、すでに侵入者はリビングの扉を越えていた。
純白のリボンをつけた黒い帽子を浅くかぶり、太陽のように微笑む少女。
片手には色褪せた箒。もう片方には金と白に包まれた大きな何かを抱えている。
アリスと呼ばれた少女は持っていた陶磁のカップをテーブルに置いて、椅子に座ったまま侵入者へと振り返った。

「魔理沙、騒々しいわよ。少しは落ち着きなさい」

「わりぃ。それよりほら――見つけてきたぞ」

反省しているのかしていないのか。
魔理沙と呼ばれた侵入者は笑顔を崩さずに、大事そうに抱えていたものをそっと絨毯に下ろした。
それは、幼子のような姿の、小さな妖精だった。
目を回しているようで、くたりと倒れ込むとそのまま動かなかった。

「どうだ。春にはまだ少し早いが、正真正銘の春告精だぜ」

「何かぐったりしてるけど、大丈夫かしら……」

「大丈夫、大丈夫。キノコの薬でちょっと眠っていらっしゃるだけだ」

「薬っていう時点で物騒よ。手荒なまねしてごめんなさいね、妖精さん」

アリスの心配交じりの言葉をあまり気にせず、魔理沙は身体を屈めて、倒れた妖精をよいしょと起こし、絨毯の上にしっかり座らせた。
肩をぽんぽん叩いて、妖精の意識を覚醒させる。
やがてゆっくりと瞼を開いた妖精は、ここが自分の知らない場所だと気づくと、怪訝そうにきょろきょろと部屋を見回した。
二人の魔法使いに目を止めた妖精は、しかし怯むことなく、その子供らしい顔に無邪気な笑みを浮かべた。

「まだ寝ぼけているのかしら?」

「いつもこんな感じじゃないか?それよりさ、早く始めようぜ」

こいつが逃げちまう前に、と魔理沙は妖精の頭を優しく撫でた。
すると妖精はくすぐったそうに、またにこにこと可愛らしく笑ってみせた。

「そうね。それじゃあ、石を持ってくるわ」

アリスは椅子から立ち上がり、人形を一体引き連れて、隣の部屋へと歩いていく。
扉が閉まるとともに魔理沙は椅子に座って、傍らのカップに自分用の紅茶を入れ始めた。

「おまえも飲むか?」

湯気の立つカップを立ち上がった妖精に差しだしたが、彼女はきょとんとカップの縁を見つめるだけだった。

「持ってきたわよ」

しばしの沈黙が流れた部屋に、アリスが大きな石を胸元に抱えて戻ってきた。
その石は人形よりも大きく、こがね虫のようなつやつやした翠の光を放っている。
アリスが石をテーブルに乗せると、興味を示したのか、妖精は近づいてテーブルの端から石を覗き見た。

「お、やはり気になるか。よおし、そのままそのまま……」

魔理沙とアリスは妖精の挙動をじっくりと眺めた。
まるで赤ん坊の這い這いを見守る親のようだ。
好奇心と誘惑に勝てず、その小さなを光る石に伸ばしていく春告精。
そしてようやく、細い指先が石に触れた途端――。
石の輝きが、水が沁み込んでいくかのようにじわりと変わった。

「桜色、ビンゴだな!」

「……綺麗な色ね」

それとともに、魔法使い二人の目の色も変わった。
魔理沙は子供っぽいきらきらとした瞳で、アリスは乙女のうっとりとした瞳で、石を見つめている。
そんな二人をよそに、妖精は興味深そうに煌めく石の感触を指の腹で確かめていた。

「春に触れると輝きを変える。本の記述どおりだな」

魔理沙がまた妖精の頭をくしゃくしゃ撫でながら、嬉しそうに笑った。

「これで魔鉱石の研究も捗るわ。魔理沙、本当にありがとう」

私のためにここまでしてくれて、とアリスも嬉しそうに顔を綻ばせた。
それを見て動揺したのか、思わず目線を逸らして頬をかく魔理沙。

「い、いや、私はただ面白そうだからつき合っただけさ、うん」

「それでも、ありがとう」

「まあ、そこまで言うなら……どういたしまして、だ」

「ふふっ、素直じゃないんだから」

「うるさい」

そう言って、互いに明るく微笑んだ。
そんな二人をしばらく観察していた春告精は、急に何かを思い立ったようで、二人に声を浴びせるように叫んだ。

「春ですよー!」

「うわ、何だ!?」

大声で何度も何度も春を告げながら、妖精は窓際へとばたばた駆けていく。
そして、少しだけ隙間が空いていた窓を全開にすると、妖精はへりに足を掛けることもなく、そのままの勢いで外へと飛び去った。
それは、梢に止まった鳥たちも呆気にとられるほどの一瞬の出来事だった。

「何、だったんだ……?」

「さ、さあ……」

もちろん、金色の魔法使いたちも、目を丸くして椅子に座り尽くしていた。
そんな中、テーブルに置かれた石だけが、先ほどと変わらない綺麗な桜色の輝きを放っていた。
そろそろ春っぽいので、ほのぼのマリアリとリリーホワイト。
リリーはどこから現れてどこに消えていくのでしょうかね。

ここまで読んでいただきありがとうございました。
いっちょうめ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
リリーかわいいよリリー。
2.奇声を発する程度の能力削除
春だぁー!
3.名前が無い程度の能力削除
お前らが春さ!