Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

闇の中で光の花は咲く。

2011/02/27 21:45:27
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このお話はジェネリック作品集82「闇の中の光の花。」の続編となっています。
設定を受け継いでいるのですが、この話だけでも読めるかと思います。
それでは、どうぞ宜しくお願い致します。
※2/28若干の修正&追加しました。

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私は、何も見える事のない牢獄に放り込まれた。

しかし、怖いとは思わなかった。

私の両目は閉ざされた。
たったそれだけの事。

これが自然の理なのだとしたら、私は首を縦に振り、受け入れる。
それが、私の生き方。

今までこの目で見てきた物全てを脳裏に焼き付けてあるから、
思い起こせばいつでも『観る』事は出来る。

見る事が出来なくなった分、それ以外の聴覚、嗅覚、嗅覚、触覚
に携わるあらゆる器官が性能の良さを増した。

問題は無い。

耳を澄まし、周囲の気配や音を感じ取る。
静かに過ぎてゆくありとあらゆる物が自然の流れに乗って、
現れては消え、
消えては現れる。


何ら問題は無い。
これでいいと思っていた。


…ただ一点を除いては。


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「幽香ー、お昼出来たわよ」

私の中で、ひたすらに大きな存在であるアリス・マーガトロイドの声が少し
離れた所から聞こえてきた。

カチャカチャと食器の当たる世話しない音と共に、良い匂いが漂ってくる。

今日はナスとベーコンのペペロンチーノと、オニオンとトマトのサラダと、
ミネストローネスープにしたから。

張り切って作ったのだろう、軽やかなステップを踏んだ明るい声で話すアリス。
その声を聞いて、彼女も昔と比べて随分変わったように思う。


他人に感心を全く示さず、彼女自身がまるで冷たい人形のよう。
それがアリスだった。


久しぶりに再会してからというものの、私のこの状態を知るやいなや、
アリスは私の面倒をみると言い出した。

全く、どういう風の吹き回しか知らないけれど、
今は、私の家に二人で住んでいる。

私が呼んだ花のサインをアリスが受け取ってくれて。
本当は諦めていたのだけれど、アリスは私だと分かって来てくれた。

不思議な事もあるものね。
私とアリスは相容れない、仲良くはなれない。

そう思っていたのだけれど、私の脳裏に浮かぶ最初の『誰か』は、
紛れもなく彼女だった。

何故彼女に惹かれたのか、私には分からない。


「ねえ、アリス」
「何?」

「貴女、食べなくても平気な体質なのよね」
「ええ、そうだけど」
「量はどれくらいか分からないけど、今日は随分と品数を作ったのね」


メニューを聞く限り人間で言う所の普通の量なのかもしれないが、
アリスと私は人間ではないため、1品もあれば充分だ。

「だめだったかしら。雰囲気よ、雰囲気。
里のレストランでランチを頼むと、大体このようなセットで出てくるのよ」

「そう。駄目な事はないわ」
「ふふ、良かった。さあ、冷めない内に食べましょ」

ランチ…誰と食べに行ったのかしら。
そんな事をぼんやり思いながら、私は美味しそうなパスタの匂いに身を委ねていた。


食事の時は、アリスの気配が私のすぐ後ろにくる。
首元に布の擦れる感触が現れ、アリスがナフキンをつけてくれたのが分かる。
あと、ひざ掛けも。

出来る限り自分の事は自分でしたいので、食事も自分で食べるようにしている。
ちゃんと食べているつもりなのだが、ポロポロ零しているらしく、
服が汚れるから、とアリスが気を使っていつも付けてくれるのだった。


そして、その食べる様をアリスは見守ってくれていた。
先に食べなさいと言うのだけれど、アリスは良いからと言って聞かない。



「では、頂きます」

合わせた手を開放し、そろそろと下げていくと硬いテーブルらしきものに当たり、
そのテーブルにゆっくり這わすとコツっと何かに当たった。
その当たった所に慎重に指を伸ばすと、その物質は冷たくて細長いようなものだと分かった。
コップや皿ではない形なので、手に取ってみる。


「これは…スプーンね」
「ええ、そうよ」
「フォークは…」
「今持ってるスプーンのあった所の、すぐ右側に置いてあるわ」


私はスプーンを元の場所(多分)に置き、すぐ横に手を伸ばす。

あった。

私は『フォーク』を握り締め、
自分の前に置かれているであろうパスタに、その『フォーク』を刺すのだった。

このような感じで、食事をするという事だけでも
眠たくなるような程の時間が掛かった。

それでも、私は一心にフォークやスプーンで掬って、口に運ぶ。
アリスの作るご飯は、美味しかった。



アリスも私も、食事はさほど食べなくてもいいので、大体1日に1回である。


その後は一緒に花畑へ行き、ひまわりの様子を1本1本歩いて感じとる。
元気の無いひまわりには私のエネルギーを送り、元気にする。
目が見えなくても、しゅるしゅると元気に背伸びをするひまわりの事だけは、手に取るように分かる。

アリスは水遣りを担当してくれていて、人形を操ってまんべんなく水を散布してくれているようだ。
他人の花畑なのに、惜しみなく己の能力を使ってくれるアリスに対しては、
余り言わない事だけれど、感謝してもしきれないくらいだった。


今の私にできる唯一の事は、
テキパキと動いてくれるアリスに対して、
マッサージをする事くらいだ。

人形を操る彼女は指先から腕、肩、背中にかけてかなり凝っている。
お風呂から上がり、寝る前にアリスをうつぶせにさせて
一日の疲れが取れるように労わる。


「んー、気持ちいい」
「…、アリス」
「ん?」


「ごめんなさい」


「えっ、突然どうしたの?何かやらかしたのかしら?」


「貴女に何もかもしてもらってばかりで、私は貴女に何も返す事が出来ないわ」

「何よ、幽香ともあろう者が…今マッサージしてくれてるじゃない。気にしてたの?」

「…そうね。」
「珍しい、でも大丈夫よ。気にしないで」

「そう…。それと、もうひとつ」
「うん」
「こんな事言うのは駄目だって分かってるのだけれど…」
「うん」


「今の貴女の姿を、もう一度見たいわ」


「…だったら、永遠亭に行きましょう、治るかもしれないわ」
「嫌よ」
「前もそうだったけど…、どうして?」

「医療を施される所なんて一度も行った事ないから、怖いのよ」
「…あのねぇ、良い年こいて子供みたいな事言わないの」

「…」
「…」

「まあ、冗談は置いておくとして。
今までだと、千切れてもどんなに大怪我しても、持ち前の生命力と自然治癒力で元通り治ってたの」

「ええ」

「今回はどうやっても治らないから、永遠亭に行っても、治らないわ」

「…心因的なもので目が見えなくなる事もあると聞いた事があるわ」
「でも、心当たりは無いわね全く」
「…そう」

「何より、視力の関係かどうかは分からないけど、
ここ最近力も余り入らなくなってきてるの」

「…」

「逆に力が入りにくいから、こうしてアリスの凝りを解せる訳だけれど」
「貴女、力だけはやたら強いものね」

「そうね」

つまりは、そういう事よ。
分かるでしょう、アリス。

「……でも…まだ治らないと決まった訳ではないでしょう?」

諦める事をしないと言いたげな、アリスの声。

「……そうね」


はい、おしまい。
ポンポンと彼女の背中をたたく。

力加減の出来ない、私の手。
こうして叩いてもアリスが痛いと言う事はなくなった。


「有難う、体が軽くなったわ。あと、私からも一ついいかしら」
「…何かしら」

「何故、私が貴女と一緒に居るかわかる?」
「…幽アリだから?」

「違っ!!そうかもしれないけどそれ言ったら駄目よ色々」
「あらそう」

「…、あのね。ちょっと聞いて」

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幽香の所へ住みだしてすぐの頃に
里へ買い物に行ったの。
そこでは、私と幽香が一緒に住んでる事を
知ってる人が居て、

『アリスちゃんも大変だねえ』
なんて言われたの。

どうして?

目が見えない妖怪を支えるんだから、大変だよ。
あなた、自分の人生も棒に振ってるわけでしょ。

そんな事を言われたの。

私、頭に来て、

『棒に振ってる訳じゃない、好きな人と一緒に生きるのだから』

気づいたら、そう言い返していたの。

その人、私が血相変えて言い返すとは思ってなかったみたいで、
びっくりした顔して、
すまないね、悪いこと言っちまった。すまないね。

逃げるようにして店の中へすっとんでったわ。

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「どう思う?」
「…」

「最初は、何とも思ってなかったのにね。幽香の事がほおっておけなくなったの」
住むと決めて、本当に良いのかどうか自分の気持ちを振り返った時に…

ああ、やっぱり好きだから。

「それだけで、充分だと思ったの」

いつから好きになったのか分からないけど、
これからも貴女の傍にいて、見守るから。

だから、謝らなくていいのよ。


「…アリス」
「…ん?」
「もっと傍に来て」
「…うん」

目の感覚はもう何もかもなくなったのに、熱くて、
頬に一筋の何かが伝って、ぽたりと手に落ちた。



私は色々と考えた末、アリスに促されて共に
永遠亭に足を運んだけれど、

やはり、私の盲目は治らず
この世に余り居られないという事実を表していた。

泣きじゃくり、謝りながら縋るアリスの声を聞きながら、
私は言った。



有難う。何故貴女が謝るの。
良かったのよ、これで。
おかげで腹を括れたわ。

…自然に、逆らうから。貴女の為に。
「私の目が見えたままだったら、
こんな風にアリスと出会えてなかったかもしれないわね」
KTKT。
http://
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
シリアスでメタ発言とはいい度胸だ。個人的には無い方が良かったけど。
寿命に逆らう、のか…? 続くなら楽しみにしてます。
2.いっちょうめ削除
おお、続編。
今回も切ないけれど救いがありそうでよかったです。
3.名前が無い程度の能力削除
最後、ゆうかりんの心の声に口角がつり上がりました
大事なヒトを前にしてこれで終わる風見幽香ではない!ってね
4.KTKT。削除
コメントどうも有難うございます。

>>1さん
読んで頂いて、どうも有難うございます。
頭の中にさらっと出てきてしまったのでそのままさらっと出しましたが、不味かったでしょうか。
次回ちょっと気をつけます。>メタ発言
今回このような形になりましたが、続きすごく悩んでいます。また宜しくお願いします。

>>2 いっちょうめさん
読んで頂いてどうも有難うございます。
どうしようか迷いましたが、ひとまずバッドでは無い方で一息いれました。
余りメッタギリにすると、こちらもキツイので;
どう持っていくか、とても悩みますね。

>>3さん
読んで頂いて、どうも有難うございます。
そうですね、最初は自然に全て任せる、と決めていたゆうかりんですが、
アリスの気持ちや存在に心動いた、という内容にしました。
これで良いのかどうかは分かりませんが、この形でいきたいと思います。
5.名前が無い程度の能力削除
このふたりの出会った頃の話とか興味あるね、いずれ書いてくれると嬉しいです。
6.KTKT。削除
5>>さん
読んで頂き、どうも有難うございます。
了解です、出会った頃の話、ちょっと考えてみますね。

色々な案やご要望、ご意見頂けて当方も嬉しいです。
また目を通して頂ける機会ございましたら、宜しくお願いします。
7.名前が無い程度の能力削除
これはまさか涙腺を刺激されるような流れなのか。
続きも期待してます。
8.KTKT。削除
>>7さん
涙腺を刺激できるような作品…になれたら良いなと思っていますが、どうなるか分かりません。
読んで頂きどうも有難うございます。