はなうた。
いつのまにかうたっている。風の中にぼんやり流れてくるみたいな、イメージ広げて、知ってるうた、知らないうた、気持ちいうたをずうっと、鼻がうたいたいように、耳が聞きたいように、ふんふんふん、って、勝手にまかせて、足どりにあわせて、くるっとまわって、スキップして、うたってるフリして、うたってないフリして、しらんぷりで、でも楽しくて、うたっている。ふわふわして、風船みたいで、風船?
「ふうせん」
飛んでいる、ちがう、落ちている。ふわっと、ゆっくり、地面に、落ちた。どこから? 上。上には空。空には月、まるい月、あと、星。そのちょっと下には木。木から落ちてきた、風船、千代紙でできた風船、ちょっと風が吹いて、転がりそう。拾う、ふわふわした、風船、両手にぴったりおさまる。前に、おねえちゃんと遊んだみたいな、風船、遊んだの、いつだっけ? 地底にいったあとだったっけ? まえだったっけ? 忘れた。
うただ。
うたが、流れて、上から、ぽろぽろこんぺいとうが落ちてくるみたいな、耳がしーんとする感じの、うた、わたしのはなうた、また流れて、上のと一緒になって、うたの流れてくるほう、何かいる。うたってる。
「いい夜だねぇ」
うたってた妖怪が、ふわっと、落ちてきて、わたしとほとんどおんなじ背ぃの高さ、翼がふわふわって、手を伸ばして、わたし、風船、渡しちゃう。
「盲目、ならないんだね」
「盲目?」
「恋は盲目」
「こいしはモウモクじゃないよ?」
「小石? 恋し?」
「こいし」
「リリカルだわ」
うたう。
妖怪、鳥の妖怪だ、翼をひろげて、くち、大きく開けて、胸に当てた手、つめ、長い。赤い。血だ。ららら。風船、持ち上げて、ぽん、放り投げて、月みたいにまるくて、ゆっくり落ちてきて、わたしの手の中。
ららららら。
きれいなうた。
わたしも、はなうた、聞きたいように、うたいたいように、ふたり、混ざりあって、風で木がゆれて、葉擦れ、さやさや、うたう。風船、千代紙、あか、あお、きいろ、しろ、風でふるふる震える。
「ふうせん」
「いいでしょ」
「いいね」
「取ったの」
風、あまいにおい。あまい、血のにおい。お燐のもってくる屍肉よりあたらしい。ららら。妖怪、とっても嬉しそう。風船、まあるい。されこうべみたい。
「うふふ」
「楽しい?」
「楽しい」
「私も」
「歌はたのしいよ」
「うん」
うたいたいようにうたって、聞きたいように聞いて、うた、はなうた、胸のおくでそわそわする。うた、すてきだから、おねえちゃんもうえたえばいいのに、そうだ、おねえちゃんも地上に来ればいい、地上で、うた、うえたえば、楽しい。おねえちゃんのうた、最後に聞いたの、いつだっけ? 忘れた。たぶん、こもりうた。そうだ、ねむい、帰ろうかな。おなかはへったけれど、あまいにおいはするけれど、おうちまではがまんなのです。
「じゃあ、さようなら」
「さようなら、またね」
ららら、うたいたいようにうたう。
ふんふん、聞きたいように聞く。
歩きたいように歩いて、スキップ、ステップ、おうちはどっちかしら、向こう、知ってる。月のまあるさがへんになつかしくって、あまい風がすうっととおって。わたしは、おねえちゃんのひざまくらで、こもりうたをねだってみたいとおもうのです。
掴みどころのない、風船のようなこいしでした。