Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

カルマ駆魔

2011/02/21 00:30:59
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 雨はまだ降っているらしい。ふと顔を上げた魔理沙が天窓から見たのは、それを示唆するような暗闇だった。
「おお」
 耐魔炎ゴーグルを押し上げ、ため息とも呻きともつかぬ一言を零し、
「なんだったかな。何をしていたんだっけか。ああ、そう、そうだ、暫く外に出ていなかった」
 セントエルモ・ハロゲン灯は作業台を煌々と照らしているが、滲むような暗闇は高い天井に染み付いたまま薄れる気配はない。形作られたその時から住み着いた暗がりという魔物は時を経るに従ってその存在を定着させて、払われることもないまどろみに蟠ってうつらうつらと魔理沙を見下ろしている。
「雨の音だ」と魔理沙は魔物に語りかけた。
 ぱらぱらと天窓を叩く天からの精霊は音楽へとその身を移し変えて魔理沙の耳朶を震わせて、まどろんでいる暗がりはそれを子守唄にいっそう闇を強めている。
 魔理沙は目を閉じ、火蜥蜴の皮でできたグローブを外して瞼を揉んだ。目の奥で稼動していた炉がやる気という火を落とし、それによって隠されていた疲労という現実がゆるゆるとその首をもたげて少女の身体に広がっていく。だがそれは、心地の良いものだ。悦びの代償に相応しい。
 モノを作るというのは、と魔理沙は想う、これがあるから止められない。炎を前に鉄を打ち、鋼に魂を込めて刃を生み出すような、そんな必死さでは無かったが、なんであれ生み出すというのは独特の達成感がある。恍惚と言ってもいい。だが、その快楽を得られるのは、限られた人々だけなのだ。
 私は違うんだろう、と魔理沙は疲れた頭で思う。いや、実際のところどうなのだ、と言われれば応えに窮するだろう。今、目の前の作業台で輝かしい直接照明に浮かび上がる物から得た感覚は、充実感と言ってもいい。それはその物体を作り上げるために費やした時間と労力があればこそ生まれたもので、だが、そんなものはこれまでだって感じたことはあった。スペルカードの考案、弾幕戦術の構築、日々の雑事、そんな所にでもこの満足はある。ならば私は何を不足と感じているのだろうか。
不足と感じるべきだと問う意識は、頭上で魔理沙自身を見下ろしている。だが、身体はそうではなかった。満ち足りている。
この感覚、違和感の正体は何なのだろう。それを知りたいから、これを造ったのだ……それをようやく魔理沙は思い出した。
「ウーム。我ながら、変な思いつきだな。で、どうなんだい、魔理沙さんよ」
 答えは身体が知っている。
「違うもの、か」フムン、と少女は呻いた。
 それは霧雨魔理沙にとって初めての感覚であったのかもしれない。彼女が作ったのは結局ガラクタの寄せ集めでしかない。だが、それは彼女が思い立ち、彼女が設計し、彼女が作り上げ、彼女が完成させた、彼女だけの物、だった。霧雨魔理沙が創造したのだ。
 そういう事は初めてだった。好奇心が刺激されれば何でもしてきたが、創造する、ということはいまひとつ興味をそそられなかった。それが何で思い立ったかのように手を出したのかといえば、
「悔しかったからか。そうかな? そうか。そうだなぁ」
 偉大なる先達を模倣することは魔法使いにとって当然の道だ。これまでそうであったし、これからもそうするだろう。これこそ我が創造せし物也、などと嘯いて見たところで、そんなものは創造物などではない、と一蹴されてしまうだろう。創り出す事は難しい。思い至る事すら、そうだ。だが、人間とは創り出す者に違いなく、では何故自分はこれまでそうしてこなかったかと言うと、悔しかったから、と言うのが強いのだろう。大いなる業、アルス・マグナを指先一つで現出させる友が近くに溢れていては、それを模倣するだけで精一杯で、だから猿真似をしてみたくなる。驚かせてみたくなる。それが逃げだとかそんな風に思ったことは無いが、出来る者を前にしてその偉大さに二の足を踏むのは、当然の成り行きだろう。それが悔しい。
 健全じゃないなぁ、私の動機は、と魔理沙は心中で呟き、だが、とも続ける。それも、人の行いだ。模倣し、改良することは、人以外には出来ないだろう。創る事と真似る事が出来るから人なのだ。そうしてみると、私は今まで人ではなかったのかしらん、等と魔理沙は思考をよそに走らせて、いやいや、確かに私は魔法使いだが……等と頓珍漢な自問自答を繰り広げていく。
 いつの間にか、雨は止んでいた。シンと夜の闇が奏でる静寂は家屋に棲む暗がりをより強めて、安らぎを抱きながら漂っている。
 ああ夜だ、と出し抜けに魔理沙は目を開けた。
 同時に、古時計が重く鐘を鳴らした。
「あ?」と魔理沙の思考が閃く。「思い出した」
「あ、あ、あ、そうだ。今、何時だ? っていうか、何日だ。ええい、この際どうでもいいやい。急げ急げ」
 わたわたと椅子から滑り降り、エプロンをその場に投げ捨てて、作業部屋から出ていく。暫くして余所行きの一張羅……いつもの黒と白のエプロン・ドレスに帽子を被って、また忙しなく戻ってくると、作業台の上で煌々と照らされていたそれをドレスのポケットに突っ込み、慌しくねぐらから飛び出ていった。








「ブエノスディアス、霊夢!」
「うるさい。帰れ」
「おいおい、泣くぜ?」
「啼くな、喧しい。何時だと思ってるの。私は寝てるの。見て判るでしょ? 帰れ」
「まぁ、そう言うなよ。酒を持ってきたんだ。起きた?」
「起きた。よいよい、ちこうよれ」
「今日は特別な日だからな。お前さんが忘れても、この魔理沙さん忘れたことはなかったぞ」
「あ? 節分はもう過ぎたし、ひな祭りはまだ先だけど」
「お前、自分の誕生日ぐらい覚えとけよな。いやあ、思い出してよかった。完全に忘れてた」
「忘れてんじゃない」
「思い出したから良いんだよ。さあ、呑もう」
「うん」
「うん。で、だ。これをやろう。誕生日プレゼントと言うものだ」
「……?」
「おい、なんだその……私が何かモノを渡した時みたいな顔は」
「え、ああ、偽者? よく出来た変装で」
「違う! 本物だ。こんなにコケティッシュでビューティフルでリリカルなお人が私以外に居るものか」
「心臓止まるかと思った。びっくりした」
「ま、深くは考えなくて良いよ。私だって、こういう事をする時もある」
「なんかあったの?」
「お前の誕生日があったろ?」
「そういうものか」
「そういうものだ。呑もうぜ、今日は、お前の夜だ」
「うん。ありがと」
「ニャハハ」
TCGプレイヤーの友人が「俺は何かを創る事は苦手だけど、あるものを弄るのは好きなんだよ」って言ってたのを思い出しました
それだけ。
ルドルフとトラ猫
http://
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
うわ、凄い久しぶりの方だ!
2.名前が無い程度の能力削除
久し振りの投稿ですね。
お帰りなさい。
3.名前が無い程度の能力削除
ううん?
だから何?ってかんじで終わっちゃったよ、何を書いたのこれは
4.名前が無い程度の能力削除
こういう味わいのある文章は大好物です
ファンなので久々にお名前拝見出来て嬉しい限り
5.名前が無い程度の能力削除
不思議な文章で、頭じゃ全然理解してないと思うけど
なんだかとってもおもしろかったです。
6.名前が無い程度の能力削除
ああ、いい。
7.名前が無い程度の能力削除
yosi
8.けやっきー削除
ゼロから何かを創り出すより、ある程度出来たものを変えていく方が私も好きです。
そんなことを思いました。