Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

闇の中の光の花。

2011/02/20 05:21:52
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初投稿のKTKT。と申します。
拙い文章ですが、読んで頂けたら幸いです。
※2/24文章追加&修正しました。



<プロローグ>

その日、アリスは嫌な予感がした。


ちゅぃんちゅぃんと鳴く雀の声に気づき窓を見やると、
カーテンの隙間から、不自然な程に神々しい光が差し込んでいた。


はて、太陽光というものはこんなにも明るかったかしら。


普段なら気にも止めないような事だが、
何故か今日は、その何気ない光の差し方に違和感を感じる。

さほど気にする事でもないだろうとも思ったのだが、
その違和感は消えるどころか、もやもやと心の奥に居座り続けた。

ちょっとやそっとでは、どうにも動きそうにない。

「…ふう」

アリスは大きなため息を一つつくと、
喉に引っ掛かった魚の小骨を取るが如く玄関のドアを開け、
一歩外に出た。


研究に集中する為に家に引きこもる生活が長かったために、
眩い外の景色に目が慣れるのには、少しばかりの時間が掛かった。

次第に視界がはっきりしてくる。
外は、雲一つない晴天だった。

「痛い位に眩しい天気ね」

家の周りを散歩しつつ、んー、と背伸びをする。
弾幕勝負も久しくしていないため、相当体が鈍っているようだ。

「…あら?」

突然、何かに呼ばれた気がした。
ふと地面に目を見やると、この辺りでは咲くはずの無い青紫色の花が咲いていた。


「……、何かあったのかしら」

違和感が、不安に変わる瞬間。

アリスは、心当たりのある者に会いに行く準備を始めた。



<プロローグ終>
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「……」


柔らかい風を感じながら、『彼女』はご自慢の花畑のど真ん中に居た。

いつも持ち歩いているトレードマークの日笠は、
どこを見渡しても私の目に入る事はなかった。

『彼女』は目を瞑り、心地良い太陽の光を浴び、
風に乗って運ばれるひまわりの香りに身を委ねているようだった。


風見幽香。それが『彼女』の名前である。
『彼女』と言っても、付き合っているとか、そういう意味の彼女ではない。うん。


そんなこんなで空を飛んでやってきた私が地面に足を着くより早く、
幽香の懐かしい声が飛んだ。

「…アリス?」

「…ご無沙汰ね、幽香」


私は久しくこの太陽の花畑に来ていなかった。

魔法の研究が立て込んでいた事もあり、全くと言っていい程家から出ていなかった為、
ここ最近の幻想郷の様子すら、私は知らない。


そして、住人の誰とも会っていなかった。


私の家に尋ねてきた人や妖怪も居るかもしれなかったけれど、
それすらわからないくらいに、私は今回の研究に没頭していた。

そんな研究への集中力を遮る程の妙な不安感。
それを払拭するためにここにやってきたのだが、
その不安の発信源は、十中八九幽香で間違いないと確信した。


「珍しい事もあるものね。貴女が私に会いに来るなんて」

「ええ、本当に。どういう風の吹き回しか知らないけど、ね」



会って早々減らず口を叩き合いながら、私は幽香の様子を観察する。

以前見た時と、少し、…いや、随分と様子が違っている事に
内心動揺していたが、幽香には悟られないようにしようと努めて平静を保った。


「…幽香。」

「何かしら」

「…、私を呼んだ?」

「貴女なんて呼んでないわよ?」


真顔でしれっと酷い事を言う割には、幽香の声のトーンは随分と楽しそうに聞こえる。


「…私の家の前に、青紫色の花が咲いていたの。
貴女も知ってると思うけど、あれだけ光の当たらない
鬱蒼とした魔法の森では、花は咲く事が出来ないの」


貴女の能力を使わない限りね。


そこまで言い切ると、幽香は少し首を傾け何か考えているような仕草をした。

ずっと目を瞑ったままで。



「…そう。でも、私には分からないわ」

「ふーん…」


私は、一歩、また一歩、幽香に近づいていく。

その間幽香はじっとして動かない。

嬉しそうな微笑を浮かべながら。



昔の幽香を知っている私にとって、
今の笑みは全く想像出来ない顔だ。

笑みは笑みでも以前なら、邪悪な笑み…薔薇のようにトゲがあって、
悪巧みしてそうなすごい顔をしていたのに。


いつもこんな風に笑っていたら、かわいいのに。

そんな、柄にもない事を考えてしまうくらいに、
今日の幽香は少し眩しかった。

まるで、…太陽の花?なんてね。

そんな事を考えている間に、
目と鼻の先に幽香の顔がある所まで近づいていた。


私は意を決して、恐る恐る手を伸ばした。

両手でそっと包み込むようにして、薄汚れた頬に触れた。

そして鼻先に付いた泥をそっと落としてあげると、
幽香はくすぐったいわ、と嬉しそうに言った。


彼女は、本当に風見幽香なのだろうか?
と、疑問に思う。
それほどまでに、以前の幽香からは想像つかない状態だ。

私がこんな事をしたら、というか近づく前に
その腕っ節の強いご自慢の鉄拳を飛ばして来るだろうに。

その変わり様を目の当たりにし、私は躊躇いがちに呟いた。





「…目、見えなくなったの?」






「よく分かったわね」



幽香は笑顔のまま、目を開けた。

透き通った紅の目は、光のボケた濁った赤褐色に変わっていた。

私の方から聞いた事とはいえ、現実を突き付けられてショックを受けた。


目が見えない…。

幽香曰く、ある日突然見えなくなったらしい。

そのお陰で身の回りの事が出来なくなり、
若草色のあの綺麗な髪はボサボサ、まっ赤なチェックと白シャツの艶やかな服は

ほつれが酷くボロボロで、汚れていた。

唇の間から見える整った歯だけは、真っ白だった。



「余り信じたくないのだけれど、私も年を取ったという事かしらね」

「永遠亭で診てもらわないと…」

「いいのよ」

「でも…」

「自然に身を委ねて最期を迎えるのが、私の生き方」


最期と言う言葉に、私はズキッと胸が締め付けられる思いがした。

幽香の口からは、今の今までそのような言葉は聞いた事がなかったからだ。

「…何故、私を呼んだの」

「分からないわ、何故かしらね」

「皆は?誰もここに来ていないの?」

「何人か来たけど、こんな姿を晒すのは私の性に合わないじゃない?
追っ払って悟られないようにしたわ。ま、バレちゃった人が目の前に居るけどね」



幽香はカラカラ笑った。

自分の生死に関わるような大変な目に遭っているにも関わらず、嬉しそうにする幽香。

私は懐から上海人形を取り出し、思わず

「…バカジャネーノ」

「あら、上海に言わせるなんて。貴女も随分卑怯になったものね」

「…。とにかく、貴女の家に行くわよ。ゆっくり手を引くから、足元に気をつけて」

「ええ、助かるわ」

幽香の手に私の手を添えると、幽香はきゅっと握り返した。

思っていた以上にその手は暖かく、びっくりして
そっと顔を見ると、幽香は本当に嬉しそうな顔をしていた。

私の手はこんなにも冷たいのに。
聞こえないように呟くと、

手の冷たい者は心が温かいって言うらしいじゃない。
と聞こえないように返された。

そうかな。
私は、温かくなんかない。



家の中に入るや否や、私は人形を総動員させて掃除と片付けを開始した。

目が見えなくなってから家に戻る事が出来なかったようだ。
何年も空き家になっていたのと同じような状態で、
どこもかしこも埃の塊と蜘蛛の巣だらけになっていた。

人形達に片付けさせている間に私は幽香を椅子に座らせて、棚を開けては
お茶や食材が無いか調べさせてもらった。

「…しけってるわね。これは…、、ん~腐ってるわ」

「アリス~、確かキッチンの下段の扉開けると粉類が色々入ってたと思うから、
見て頂戴。使えると思うわ」

「了解ー…。うん、いけそうね。小麦粉、砂糖、塩…他にも缶詰めがあるじゃない」

日も沈み、夜になった頃には、幽香の家は見違えるように綺麗になった。

人形を総動員させて動かしていたのでかなりの疲労感があるが、
汚かった所が綺麗になっていくのを見るのは気持ちの良いものだ。


お風呂も用意したので、ご飯の前に泥だらけになっている幽香の手を取り、
私達は脱衣場に向かった。




「貴女には、知って欲しかったからかしらね」

ポツリと幽香が喋り出したのはボロボロの赤チェックのベストを取り、
Yシャツのボタンに手を伸ばしている時だった。

「ん、何の事?」

「何故、貴女を呼んだのかって質問の答えよ」

「…ああ。ずっと考えてたの?」

そっけない態度で答えたけれども、
内心気になっていた。

何故、他の人間や妖怪ではなく、私なのか。


「ええ。その…目は見えなくなっても、アリスの姿は脳裏に映るというか…鮮明に見えるのよ。」

「えっ、そうなの?」

「ええ。鮮明過ぎて恋しくなったのかしらね。本当のアリスに会いたくなったの。」


今気づいた事だけれど、幽香の顔が近い。

ボタンを外し終わるとスルスルと布の擦れる音がして、素肌が露になった。

今は泥だらけだけど綺麗な体付きをしているので…
ほんの少しだけ、少しだけだけど私は見惚れた。


「それで、私の家の前に花を咲かせたの?あの森まで結構離れてるのによく届いたわね」

「それだけ思いが強かったのかもしれないわ」

「…そ、そう(どういうこと?)」

「…貴女の気配と匂いを感じる事が出来て嬉しいわ」

「…っ!?」

首元に吐息が掛かってくすぐったい。
顔を私の肩に乗せて耳元で呟かれるとか聞いてません。

つーかこんな場面で恥ずかしい台詞言うなっつーのっ!!

私は心の中で叫び倒していた。

あー、もう恥ずかしい。
はずかしい…、ハズカシイ…、…?

ん?何故、私は恥ずかしいのかしら。
今までそんな事なかったのに。
んー…

「なんてね。…少し、気が滅入っていたのかもしれないわ。花の世話が上手く出来ないから」

「あっそう。自分の身の回りの事も出来てないじゃない」

遊ばれたのかと思ってイラっと来た私はピシャッと勢いよく風呂のドアを開け、
湯気の立ち込める中をくぐって幽香を椅子に座らせた。

湯船のお湯を桶で汲み、ゆっくりと幽香の肩に掛ける。

「それはどうにでもなるけど、花畑は守りたいの」

「…貴女の生きがいだものね」

「…ええ」


幽香の生きがい…か。
私は一つため息をつき、石鹸を手に取り泡立てると、
背中に当てて汚れを優しく落とす。

「こんなに汚れちゃって…、泥んこになって遊んだ子供みたいね」

「ふふ、子供って言える年齢ではないけどね」

「…あと、良い意味で素直になったわね。性格が丸くなったというか」

「…そうかしら」



貴女の前でだけよ、きっと。



「何か言った?」

「何でもないわ」

クスクス、と笑う声が浴槽内に響いた。




「アリス」


お風呂から上がり、幽香に着せた新しい服のボタンを留めている時だった。

正面に幽香の手が伸びてきて、おぼつかない様子で私の頬に触れた。


「…気づいてくれて、有り難う」

アタタカイ・・・
思った以上に温かい、幽香の手。

その温かさに、ふと昔の記憶を思い出す。

この花畑に遊びに来たときに見た、
幽香が、自分の花たちに愛しむように声をかけ、葉に触れていた時の事を。

私の顔の形を確かめるように、そっと触れる幽香の手を取り。
あの時と同じ手なんだな、と思うと私は心が温かくなった。


「…こちらこそ、呼んでくれて有難う」



その日、私は一つの決め事を胸にそのまま幽香の家に泊まる。






「幽香、一緒に花のお世話をしてもいいかしら。貴女の隣で。」
読んでくださってどうも有難うございました。
幽香が送った花のメッセージ。

ギリア…ここに来て。きまぐれな恋。
物忘草…私を忘れないで。真実の友情。誠の愛。
ローズマリー…思い出。記憶。追憶。私を思って。静かな力強さ。
幽アリ…好きです。流行ってください。
KTKT。
http://
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
なにこれ泣ける。幽アリ流行れよぉおおおお!
2.いっちょうめ削除
最後の台詞にぐっときました。
幽アリ流行ってくれ…!
3.名前が無い程度の能力削除
涙しょっぺぇ…。
幽アリ最高!
4.奇声を発する程度の能力削除
切なかったです…幽アリ流行れ
5.名前が無い程度の能力削除
始めのちゅぃんちゅぃんでギャグかと思ったらそんなことなかったぜ
受け入れがたいことなのに、受け入れられるゆうかりんマジかっこいい
6.名前が無い程度の能力削除
幽香3位の歓喜落ち着かない内にこの作品……、ありがとぉう!
7.KTKT。削除
読んで頂き、どうも有難うございます。
沢山のコメント…とても嬉しいです。
幽アリ好きさんがもっと増える事を願って。


>>1さん
読んで頂き、有難うございます。
強い幽香を支えるお話を書きたかったので…。
幽アリ流行れよおおお!!(切実)

>>2いっちょうめさん
どうも有難うございます。
知ってるお名前でしたので、とても緊張しました。
いっちょうめさんの作品、いつも楽しく読ませて頂いております。
幽アリもっと流行ると良いですね!

>>3さん
涙して頂いて、有難うございます。
つハンケチどうぞ
最高ですね、一番好きなカプです>幽アリ

>>4奇声を発する程度の能力さん
どうも有難うございます。
個人的にそういうお話が好きなので、今後も書くかもしれません。
幽アリ流行れ!

>>5さん
読んで頂きどうも有難うございます。
ギャグは入れないつもりでしたが、気づかない内に入ってる事があります。>ちゅぃんちゅぃん
ゆうかりんは芯の強い妖怪だけれど不器用な面もあるので、
アリスが寄り添う、そんな形がいいなあと思っています。

>>6さん
なっ、何ですと…!嬉しいです、こちらこそどうも有難う!!
8.名前が無い程度の能力削除
こういう物悲しくも綺麗な話し好きですね、日本人でよかったー
9.名前が無い程度の能力削除
う、うわああああ…!
泣いた…っ!
10.名前が無い程度の能力削除
面白かったです
11.名前が無い程度の能力削除
良かったんだが、これで終わってしまうのは悲しい。いつか続編願います。
12.sirokuma削除
面白かったです。
13.KTKT。削除
コメントどうも有難うございます。

>>8さん
泣ける話が好きな人、多いのでしょうか。>日本人
私自身もそういうお話は好きです。
読んで頂いてどうも有難うございます!

>>9さん
読んで頂いて、どうも有難うございます。
つタオル←これ、良かったら使ってくださいね。

>>10さん
読んで頂いて、さらにコメント残してくださって、
どうも有難うございます!

>>11さん
この設定で、色々書けたらと思っていましたので、
そのようにコメント頂けて大変嬉しいです。
続編、いつか形に出来ればと思います。
どうも有難うございます。

>>12 sirokumaさん
コメントどうも有難うございます。
sirokumaさんの作品、読ませて頂いた事が何回もあります。
いつも楽しませて頂いてます、また投稿されるのを楽しみにしています。
14.名前が無い程度の能力削除
いいなー、いいなー。こういう話だいすきだ!
この設定使った話、楽しみにしてますぜ!
15.名前が無い程度の能力削除
今まで見た幽アリを題材にした話しの中でこれが一番良かった。
幽香の性格の変わり方も自然でアリスの口調がぶれていない、最後まで雰囲気が一貫してると、
この三つが非常に好印象でした。

こういう切なくも決してバッドエンドには向かっていない話し大好きです。
センチメンタル超流行れマジ流行れ。
16.KTKT。削除
>>14さん
読んで頂き、どうも有難うございます。だいすきと書いて頂けて、とても嬉しいです。
先ほど続編投稿致しました、また読んで頂けると幸いです。

>>15さん
読んで頂き、どうも有難うございます。お褒め頂き、身に余る思いです。
バッドエンドにするか、グッドエンド(ハッピーはまた違うような気がしたので)にするかで悩みましたが、
今回はグッドの方を選択しました。個人的に好きなので…。センチメンタル流行波ができたら良いですね。
17.名前が無い程度の能力削除
雰囲気いいね、続きも読ませて頂きます
18.KTKT。削除
17>>さん
読んで頂いて、どうも有難うございます。
雰囲気良いと言って頂けて嬉しいです。
また、宜しくお願いします、有難うございます。