主人の部屋へと続く廊下を美鈴は歩いていた。メイド妖精を通じて呼び出されたのが先ほどの事。
まあ、大体用件は想像が付くし、美鈴自身もレミリアに用があったので丁度良い。
今日は二月の十四日。
聖ヴァレンタインとか言う人が処刑された悲しい日で、きっと二人で黙祷を捧げるつもりなのだろうと分かっていた。
慈悲深いお嬢様らしい、今日は厳粛に事に臨もう……なんて冗談を考えながら進む美鈴の目に主人の部屋のドアが写る。
「お嬢様、美鈴です」
数度こんこんとドアをノックするが返事は無い。
留守だろうか、否、呼び出しておいてそれは無いだろうと美鈴は眉をひそめる。
間違いなく何やら企んでいると美鈴は判断する。だが、部屋内からの返事は相変わらず返って来ない。
ならば居ないと判断して去る選択肢もあるが、それをやると後々厄介そうなので除外する。
「失礼します、入りますよ」
とりあえず声を掛けてから美鈴はドアを開けて部屋に入る。
見渡す限り部屋には人の気配ない。本当に居ないのだろうか、では呼び出した用件とは……。
そこまで考えて、美鈴はそれを発見した。
真っ赤な部屋の真っ赤なベッドの上。
丁度子供が一人分、入れるほどの大きさの真っ赤なプレゼントボックスが置いてあった。
よくよく観察すると赤い箱に巻かれた緑のリボンに何やらメッセージカードが挟まっている。
"愛しの美鈴へ"
その文字を見た途端、美鈴は眉根を寄せて溜息を漏らす。
なんというか、話には聞いた事があるがまさか本気でやる者がいるとは予想外だった。
「あー」
美鈴はわざとらしく声を上げる。
「お嬢様は居ないみたいなので、仕事に戻りますかー」
「待ちなさい!」
一瞬遅れてプレゼントボックスから声がした。
それからぐらぐらと箱が揺れた。何かうごめく音と共に、箱上部が何度か盛り上がる事しばし。
数分後にそれが収まって、静寂があたりを支配する。
「………あのね」
やがて、観察する美鈴に弱々しい声が向けられる。
「開けて欲しいの」
「はぁ……」
呆れた表情のまま美鈴が箱へと寄った。
近寄って初めて分かったが、完全密閉の魔術が掛けられている。
これではさしもののレミリアでも脱出は困難だろう。
なんでこんな仕様にしたのか分からないがともあれ放っておく訳にはいかない。
美鈴は仕方なしと言った様子でしゅるしゅるとリボンを外して箱の蓋を持ちあげる。
「お嬢様。大丈夫ですか?」
「ハッピーバレンタイン!」
一応、心配を込めて声をかける美鈴の前にレミリアが勢いよく立ち上がった。
美鈴は一瞬驚いたように目を開いて、それから平静な声で大丈夫の様ですねと呟く。
「かくして囚われの御姫様は開放されたのでした、めでたしめでたし」
「美鈴?」
「では、門番業務に戻りますね」
「いや待ちなさいよ」
背を向けようとした美鈴の肩をレミリアががしっと掴む。
「なんでしょうか?」
「あのね、この姿を見て何とも思わないのかしら?」
言葉に美鈴はレミリアを観察する。
紅いリボンだった。
素肌に赤いリボンを巻きつけただけのきわどい姿。
一応大事なところは隠してあるが色々とよろしくない。
名状しがたい表情で美鈴がそれを眺める。
何度か迷う様に口を開いて閉じて、ようやく絞り出す様に告げた。
「せ、セクシーですね」
「そう、ありがとう」
「じゃあ、門番業務に……」
「いやだから待って」
背を向けようとする美鈴をよそにレミリアが箱から這い出様ようとする。
途中、足が引っ掛かったのか箱が倒れてベッドに頭から落下するが何事も無かったかのように美鈴を見上げた。
「ええっと、今日はバレンタインなのよ」
「はい」
「好きな人にチョコレートを贈る日なのよね」
「そうでしたね」
「でも、チョコが用意できなかったから……代わりに……」
それから体をくねらせて美鈴に流し眼を送る。
「私を食べて(はぁと」
「人食はやめましたので」
「そういう食べてじゃないわよ」
レミリアは淡白な美鈴の反応に呆れたように溜息を吐いた。
「全く、裸リボンの美少女とか男の夢でしょうに」
「私、女ですし」
「まあ、美鈴が恥ずかしがりやなのは分かり切っていた事だし……」
「いえ、幼女趣味はございませんから」
「そんな美鈴が素直になれるサプライズを用意しました」
「人の話をお聞きください」
何も聞こえぬ様子でレミリアが倒した箱に上半身を突っ込んでごそごそと漁り始める。
それから取りだしたものを美鈴へと差し出した。
「おもちゃの銃ですか?」
「ええ、そうよ。わたしに使ってみなさい」
使ってみろと言われてもと、困惑を浮かべる美鈴にレミリアは期待を浮かべて視線を向けるだけだ。
美鈴はしばし悩んで、それからとりあえずといった具合にレミリアに向かって引き金を引いた。
「え?」
銃から白い何かが発射されてレミリアの顔へと掛かる。
「お嬢様、これは……」
ますます困惑を浮かべる美鈴に、顔を白い何かで汚されたレミリアはうっとりと呟いた。
「ああ……掛かっちゃった……」
顔に汚す粘着質の液体をを指ですくい恍惚とした表情で口へと運ぶ。
それからねちゃねちゃと音を立てて味わう。
「美鈴の、熱くて甘いのが沢山掛かっちゃったよう」
「門番業務に戻りますので」
「淡白!?」
背を向けようとする美鈴にレミリアが驚愕を浮かべる。
そのまま本当に去ろうとする様子の美鈴をレミリアが再び呼びとめた。
「まったく、美鈴は枯れているのかしら?
この私のホワイトチョコまみれのエロい姿を見て何も感じないなんて……」
「いえいえ、確かに少し引きましたけど……」
何処から取り出したかごしごしと濡れたハンカチで顔を拭くレミリア。
それから憤慨したように言葉を続けた。
「正常な紳士であれば前かがみになるか襲いかかってきてもおかしくないはずなのに……」
「いえ、だから私、女ですし。紳士にはなれません」
「あら……」
不意にレミリアの声色が艶を帯びる。
「紳士ではないという事は……野獣なのね」
そのまま体を仰向けに倒して、誘うように見上げた。
「ああ、どうしましょう、そんな野獣に襲われたらか弱い私はどうなるか……」
「か弱いとかありえません、逆に襲われそうです」
「あら、分かってるじゃない」
額に手をやって溜息を吐く美鈴にレミリアがにやりと笑う。
それから身を起して、美鈴に何かを放り投げた。
「っと、これは?」
小さな赤い箱に緑のリボン。
レミリアが入っていた箱の縮小版と言ったところだ。
「チョコが用意出来なかったと言ったな、あれは嘘だ」
「さいですか」
手のひらサイズのその箱を美鈴はまじまじと眺める。
何故かレミリアが照れたように顔を逸らした。
「小さいとか思ってるのか?」
「いえ」
「べ、別に張り切ってチョコをいっぱい用意したけど普段料理なんかしないから失敗して焦がしたりして
ほとんど駄目にして咲夜に手伝ってもらってようやく出来たのがそれだけとか、そういうんじゃないんだからね!」
美鈴がきょとんとして、そっぽを向くレミリアをしばし眺める。
「いえ、よく分かりませんがツンデレですか?」
「少し違うわよ、でもよくツンデレなんて言葉知ってたわね」
「お嬢様から借りた本に書いてありましたし」
「そう」
レミリアがこほんと咳払いをする。
「まあともかく、本当は私を食べてもらいたかったけれど」
「はぁ」
「美鈴がお固いのは分かっていたし、無理かもしれない事はは想定していたの。
だから、代わりにそれを私と思って食べてくれるだけで許してあげるわ」
「ありがとうございます」
美鈴はまるで腫れものでも扱うかのように大事に抱えた。
その様子を見てレミリアが満足したように目を細める。
「まあお礼は今夜、ベッドでじっくりねっぷり返してもらうけどね」
そう呟くレミリアの前に、美鈴がそれを置いた。
「あら……」
「まあ、それには応じられませんが」
美鈴がそう言葉を紡ぐ。
「これを私だと思って夜のベッドでじっくりねっぷり味わってください」
それは可愛らしい紅いリボンをあしらった緑の箱。
驚いた顔で見上げるレミリアに美鈴は背を向けるように踵を返す。
「では門番業務に戻りますので」
それから数歩。
一度だけ立ち止る。
「お嬢様」
「何かしら?」
「その格好、私以外には……」
「見せてないわよ」
「そうですか」
少しだけ安堵した様な響き。
再び歩を進める。
「美鈴」
「はい」
「チョコありがとう」
「いえ」
そのまま彼女は部屋を出ていく。
その姿を見おくって、レミリアは美鈴から貰ったチョコを抱きしめてベッドへと身を投げ出した。
箱を潰さない様にコロコロと転がる。
その拍子に、先ほど入っていた箱の角に頭をぶつけたが顔には笑顔。
だって、抑えられないのだから仕方ない。
思い出すのは先ほどの美鈴。
チョコを渡して、すぐに背を向けてしまった時。
去り際に一度だけ立ち止って見せた時。
耳まで真っ赤にした美鈴なんて珍しい物が見れて。
ご満悦な様子でレミリアは再びベッドをころころと転がるのだった。
-終-
あと乙女な魔理沙もかわいかった
がんばれおぜう。
そして魔理沙は超頑張れ(色んな意味で)
HENTAIな話かと思いきやきれいにまとまったなあ。面白いです。
顔真っ赤のめーりんかわいい!
そしてどんどん小悪魔がぶっとんでゆく
美鈴がお嬢様のホワイトチョコを舐めとるようになるまであと何回だろうねwktk
めーレミはやれ