指が鍵を押した。
コン、という音は鳴れどもピアノならではの音は鳴らない。
「壊れて、る…?」
フランドール・スカーレットは、地下の自室の物置と成り果てているところに、足を踏み入れていた。
床にはうっすらと埃が積もっており、小柄な彼女が歩みを進める度、小さな足跡ができ、低い空を塵が舞った。
そこで、彼女はピアノを見つけたのだった。
読んできた本の中で何度も出てきたが、実物を見るのは初めてで、彼女は僅かな興奮すら覚えながら埃を払いのけ、ピアノに触れた。
蓋を開けると、彼女は首を傾げた。
そのピアノは差別的だったのである。
本の挿絵で見たような、白を基調としたものではなく、黒を基調としたものだったのだ。
す、と伸ばした彼女の手は黒い鍵盤の上で、病的なまでに白く見えた。
だからそのピアノは差別的なのであった。
そうして、彼女は黒鍵を押したのである。
結果として、音は鳴らなかった。
何度もてんでバラバラな鍵を叩いたが、音は一向に鳴らない。
「弦が切れてるのかしら。」
そう彼女は一人呟くと、埃を被るのも気にせずにガタガタと内部を見るために蓋をこじ開けた。
すると中は、
「え…?」
滅茶苦茶に壊れていた。
「私、がやった…?」
その壊れ方は、彼女の能力独特のものだった。
途端に彼女の脳裏を、過去の、まだ地下に閉じ込められる前の記憶が濁流のごとく流れ始める。
『パチュリー、こうかしら?』
その記憶というのも、彼女の姉、レミリア・スカーレットがこのピアノを弾いているもの。
まだ咲夜もいない頃、姉はどこからか手に入れたピアノを、パチュリーから簡単な楽譜を借りて弾いていた。
記憶の中の姉は今の彼女より幼く、奏でる音も曲もそれ相応のものだ。
なら、何故彼女はピアノを壊したのか。
何度も何度も、彼女は思い出せないもどかしさを散らすようにして鍵を叩く。
コン、コン、コン、鍵が底につく音が不規則なものから規則的になってきた時、彼女はようやく答えにたどり着いた。
彼女、フランドール・スカーレットは、姉、レミリア・スカーレットが羨ましかったのである。
姉の指は鍵盤の上を滑るようにして鍵を叩く。
そうすると、拙くもちゃんとしたピアノの音が響いたものだ。
彼女は、姉が音を生み、繋げ曲にするという生産的な行動に憧れ、同時に嫉妬した。
姉はああだというのに自分は…、といったように。
「……。」
彼女は最後、と今一度鍵を叩いた。
ビーン、と弦が不恰好に伸びたような、なんとも情けない音が部屋の沈黙を揺らす。
やはり、そのピアノは差別的だった。
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コン、という音は鳴れどもピアノならではの音は鳴らない。
「壊れて、る…?」
フランドール・スカーレットは、地下の自室の物置と成り果てているところに、足を踏み入れていた。
床にはうっすらと埃が積もっており、小柄な彼女が歩みを進める度、小さな足跡ができ、低い空を塵が舞った。
そこで、彼女はピアノを見つけたのだった。
読んできた本の中で何度も出てきたが、実物を見るのは初めてで、彼女は僅かな興奮すら覚えながら埃を払いのけ、ピアノに触れた。
蓋を開けると、彼女は首を傾げた。
そのピアノは差別的だったのである。
本の挿絵で見たような、白を基調としたものではなく、黒を基調としたものだったのだ。
す、と伸ばした彼女の手は黒い鍵盤の上で、病的なまでに白く見えた。
だからそのピアノは差別的なのであった。
そうして、彼女は黒鍵を押したのである。
結果として、音は鳴らなかった。
何度もてんでバラバラな鍵を叩いたが、音は一向に鳴らない。
「弦が切れてるのかしら。」
そう彼女は一人呟くと、埃を被るのも気にせずにガタガタと内部を見るために蓋をこじ開けた。
すると中は、
「え…?」
滅茶苦茶に壊れていた。
「私、がやった…?」
その壊れ方は、彼女の能力独特のものだった。
途端に彼女の脳裏を、過去の、まだ地下に閉じ込められる前の記憶が濁流のごとく流れ始める。
『パチュリー、こうかしら?』
その記憶というのも、彼女の姉、レミリア・スカーレットがこのピアノを弾いているもの。
まだ咲夜もいない頃、姉はどこからか手に入れたピアノを、パチュリーから簡単な楽譜を借りて弾いていた。
記憶の中の姉は今の彼女より幼く、奏でる音も曲もそれ相応のものだ。
なら、何故彼女はピアノを壊したのか。
何度も何度も、彼女は思い出せないもどかしさを散らすようにして鍵を叩く。
コン、コン、コン、鍵が底につく音が不規則なものから規則的になってきた時、彼女はようやく答えにたどり着いた。
彼女、フランドール・スカーレットは、姉、レミリア・スカーレットが羨ましかったのである。
姉の指は鍵盤の上を滑るようにして鍵を叩く。
そうすると、拙くもちゃんとしたピアノの音が響いたものだ。
彼女は、姉が音を生み、繋げ曲にするという生産的な行動に憧れ、同時に嫉妬した。
姉はああだというのに自分は…、といったように。
「……。」
彼女は最後、と今一度鍵を叩いた。
ビーン、と弦が不恰好に伸びたような、なんとも情けない音が部屋の沈黙を揺らす。
やはり、そのピアノは差別的だった。
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短いと思ったけど寧ろそれがいい
>ほとんどが黒い鍵盤は、白人さんの白いおててがよく映えるようにっていう仕様です
へぇ…一つ勉強になりました。