Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

あるホワイトバレンタインの夜の約束

2011/02/15 01:24:45
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「バレンタインデー?」
「そそ。外の世界にいた頃のイベントみたいなものだね。早苗が前に広めてからここでも恒例になってるみたいだけど」
「ふぅん……」

朝、早苗が見当たらないから諏訪子に聞いてみるとこんな答が帰ってきた。
それは、好きな人にその思いを伝えるためにチョコを渡す日、だそうだ。
友達同士で渡す「友チョコ」、というのもあるらしい。
まぁつまり、親しい人にチョコを渡す日、ということ。

「んで、早苗は」
「仕事までほっぽいてずっと苦戦してるみたいだね」
「何してんのよ……全く……」
「ま、そういうわけだから暫くは会わないほうがいいと思うよ。無理矢理行っても追い出されるし」
「そのようね……はぁ」
「まぁだからさ、ぬえも暫くは命蓮寺に戻ったら?」
「……ま、そうするわ」
「はいはーい。早苗に聞かれたらそう言っとくね」
「ん、お願いね」

というわけで、命蓮寺に戻ることにした。

それにしても

「バレンタイン、ね……」

親しい人に、チョコを渡す。
それで早苗は頑張っている。

「……」

ま、私にはあまり関係ないだろう。
ガラじゃないし。












「……あれ?」

命蓮寺に戻るはずだった。
のに、気付いたら里に降りてる。

「まぁ、このまま歩いて戻ろっか」

たまには散歩もいい、そんな気分なのだろう。多分。

それにしても、

「うぉぉ寒……」

まだまだ寒さはきつい。
ていうかこれ前よりも寒くなってない?
空、は。

「……ちょっと雨とか降りそうね」

今はまだ曇りだけど、なんかそんな予感が、した。
ま、降るとしたら夜とかかな。



里にある店という店は、みんないつもと雰囲気が違う。
どこもこれもみんなバレンタインとやらのセール中だ。
昔はこんなの全く無かったけど。
さすが早苗の力。すごい。

「……ま、私は作らないし」
「おっ、ぬえじゃないか」
「……確か、魔理沙だっけ?」
「おぅ、魔理沙様だ」
「そうそう、そんな名前だったわね」

確か、前に会った人間。

「んで、その魔理沙様がどうしたの?」
「ん?いや珍しく一人でいたからな」
「鵺は普通、一人でいるものだけど」
「そう細かいことは気にすんな」
全然細かくない気もする。
実際、鵺という妖怪は一人でいるものだ。正体不明だし。誰かといたらバレるし。
……ま、もう早苗にいろいろ明かされてる、かもね。

「それにしても、今年もこのイベントがきたか」
「早苗が広めたんだって?」
「そうそう。ここは珍しいものが好きだからな。あっという間に広がったさ」
「ふぅん……。それで貴女も作りに?」
「おぅ、そういうことだ。ま、私は自分で作って自分で食べるがな」
「作る意味あるの?」
「意外と楽しいものだぜ、作るのも。お前は作らないのか?」
「私は……どうかしらね」
「ふぅん……作ったほうがあいつも喜ぶと思うが」
「え?」
「いや、なんでもない。お前の勝手だしな。そんじゃ、またな」

そして白黒は里の中を飛んでいった。
さすがに速度は落としてる。そりゃああの速度で人にぶつかったら一たまりもないだろう。

いやそれより、

「喜ぶ、ね……」

恐らく、早苗は私に渡してくるだろう。早苗のことだし。
でも、

「私は、ガラじゃないし」

うん、そうだ。似合わない。第一そういうの恥ずかしいし。
そう思いきかせながら足を運んだ場所は、

「いらっしゃい、ぬえちゃん」
「な、なんかチョコとかそういうのない?」

近くの店だった。












「ただいまー」
「あらぬえ、おかえりなさい」
「ん、一輪」
「その袋はなんなの?」
「な、なんでもないけど」
「ふぅん……」
「ほ、ほんとうになんでもないから!」
「あ、ぬえっ!」

ニヤニヤして見てくる一輪を避けて寺に入る。
ちなみに袋の中はいくつかのチョコ。
それと、気前のいい店の人がいろいろつけてくれた料理本やチョコの型などなど。
とりあえずまずは台所の許可をとらいと始まらないから、

「聖、ただいま」
「あらぬえ、戻ってきたのね」
「うん、まぁいろいろあってね。ところでさ、台所使わせてもらえない?」
「台所を……?」
「う、うん。ちょっと使いたくてね」
「……ふふ、わかったわ、好きに使ってね」
「ん、ありがと」
「頑張ってね、ぬえ」
「は、はぁ?なにを?」
「いいえ。……ただ、そういうものに敏感な一輪のおかげでこの命蓮寺にもあのイベントが行き渡ってるので、頑張ってね」
「わ、私は知らないからどんなイベントか!!」
「あと、ナズーリンはダウジング、ムラサもどこかに出掛けて星は買い物に行ってるので安心してね」
「う、うるさい!!」

主に私のなにかが危なさそうだから離脱。
ちくしょう、一輪め。
命蓮寺なら安心かと思ったのに。
……まぁ、台所使用許可は下りたし、よしとしよう。あとみんな出掛けてることもわかったし。









「ぐぬぬ……!!」

ちくしょう!
中々うまくできない。どうしても失敗してしまう。
食べれなくはないけど、ちょっと不格好で早苗には渡しにくい。
こんなに難しいとは。確かにこれは悪戦苦闘する
「どう?ガンバってる?」
「おわぁっ!?」
「っと……そんなにビックリしなくていいじゃない。こっちがビックリするわ」
「ななななら急に後ろから首に手を回して声をかけるな!!」

早苗かあんたは!!
あいつもよくこんなことするけどさ!!
命蓮寺ならこないだろうと油断してた!!

「……はぁ、何の用?」
「別に?ガンバってるか見に来ただけよ?」
「ふーん……?まぁ、見てのとおりだけど?」

と、ちらりと目を向けると、そこには失敗作のチョコが二個ほど。

「あれ失敗作?」
「う、うん……。食べれなくは、ないけど……」

でも、ちょっとあれは成功とは言えない。
せっかく早苗に渡すんだし。

「ふーん……ぬえはやっぱり……」
「なによ」
「いえ、なんでもないわ。ちょっと私も手伝おうか?」
「いや、いいわ。私一人でやりたいし」

確かに一輪に任せたらすぐに出来そう。
明らかにそういうの得意そうだし。
でも、やっぱりこういうのは自分だけでやりたいからね。

「ま、それならいいけどね……、じゃあ一つだけ」
「?」
「どんなに不格好なものでも気持ちをこめたものなら貰った側は嬉しいものよ?」
「……そういう、ものなの?」
「そういうものよ。……愛があればね?」
「あ、愛って……!!」
「そうよ。愛しの早苗にはたっぷり愛を詰めれるでしょ?」
「い、一輪!?」

一輪のほうを見ればニヤニヤ顔が。
あぁ、これはからかわれてる。ちょっと悔しい。

「ま、気持ちをこめてガンバって作ったのを貰うのが嬉しいっていうのは本当のことよ?」
「……」

愛、ね……。
確かに私も、そういうのは嬉しいかもしれない。
ガンバって作ったのなら、不格好でも。

「ありがと、一輪。次ので最後にしてみるわ」
「ん、どういたしまして」
「それでさ、一個持ってってもいいよ?失敗作だけど」
「それって私に『失敗したから食え』ってこと?」
「いらないならいいけど」
「冗談よ。ありがたく貰っておくわ」
「それともう一個、聖に渡しといて」
「はいはい、了解」
「ん、お願いね」

そうして一輪はチョコを二個持って出てった。
一応、聖にもお礼しないとね。
台所使用許可を出してくれたんだし。

「……よし」

本気で、ガンバろう、うん。
どんなものでも、次で最後。

「……愛を、こめる」












「……出来た!!」

やっとのことでチョコ完成。
相変わらず不格好だけど、これなら大丈夫だろう。

「さて、と」

これを店からついでに貰った袋に包んで、と。

「これで終わり、と」

ピンッと指で弾いて。
やっとのことで完成した、早苗に渡すチョコ。
これで後は渡すだけ。まぁ、それは夜、守矢神社へ戻るときでいっか。

「ふわぁ……」

と、安心した途端、あくびが。
これは少し寝ようかな。うん、そうしよう。

「あら、出来たのね」
「うん、おかげさまでね。ほんと、ありがとね」
「どういたしまして」
「それと少し寝るからさ、夕ご飯出来たら起こして」
「はいはい、わかったわよ」
「ん、ありがと」

さて、これでゆっくり寝れ……

「そういえば私の部屋はどうなったの?」
「物置よ」
「ひどくない!?」

私は実家を出てった娘か!?
自分の部屋を物置にするなんてそんなひどい!!

「まぁまぁ、ぬえのものは大して無かったんだし。しかもあっても今は守矢神社じゃないの」
「そうだけどさぁ……私、どこで寝ればいいの?」
「……私の部屋、使う?」
「……借りるわ」












「ぬえ、ぬえ、ご飯出来たわよ」
「ん、ぅ……?」
「ほら、起きなさい」
「さな……ぇ……?」
「残念ながら愛しの早苗じゃないわ」
「ん……?……!?」

やばい。恥ずかしい。
いくら寝ぼけてたからって、無意識に早苗を呼ぶとは。
しかも、違う人に。

「ん、おはようぬえ。ご飯よ」
「……今の、忘れて」
「残念。ちょっと私は記憶力がよくてさ」
「じゃあ今すぐ証拠隠滅を……!!」
「ご飯食べたくないの?」
「くっ……食べる」

ちくしょう。
絶対そのうちぶっ飛ばしてやる。この一輪。












「さて」

ご飯も食べ終わって、大分暗くなってきたころ。
そろそろ早苗のほうも準備が終わった頃だろう。
というわけで私も……

「あれ?」

ない。
チョコが、ない。
私がガンバって、
気持ちをこめて作った、
早苗にあげる大事なチョコが。

「えっ!?」

どこだ。どこだ。
どこに行った、私のチョコ。

「あ、ぬえ」

と、探していたら、急に声をかけられた。
ちょうどいいや、ちょっと聞いてみよう。

「あ、ムラサ、チョコだけどさ」
「あ、うん、おいしかったよ」




……………は?




「……今、なんて?」
「うん、だから、おいし」

ムラサの言葉を全部聞く前に殴り飛ばす。
聞き返したけど、気のせいじゃなかった。

「ムラサ……!!あんたねぇ!私がどんだけガンバったと思ってるのよ!!あのチョコは!早苗に!あげるものだったの!!」
「……」

ムラサに、捲し立てる。
一方的に。怒声で。

「そのためにどれだけ時間をかけたと思ってるの!?気持ちをこめたと思ってるの!?それをさぁ!!なに!?あんたは邪魔したいわけ!?ねぇ!?」
「……」
「―――もういい!!」

ムラサの顔を見ずに、私は命蓮寺を出てった。
他のメンバーは、突然の怒声に何か何かと集まってきた。
私はそんな集団をはねのけて、外にでる。
あのままあそこにいたら、怒りでムラサにとことん攻撃しそうだし。
さすがに親友を攻撃したくはない。
疑いたくもない。
ムラサはわざとじゃない。
そう、信じたい。から。












「……うっ……」

気付けば人気のない人里のはずれ。
私は、声を押し殺して泣いていた。
何に対して泣いているのだろう。
親友の行動に対してか。
いや、早苗へのプレゼントを失ったことだろう。
あんなにガンバったプレゼント。

「……ゆき」

少し寒くなった。
そう思って、顔をあげると、フワフワと、雪が降っていた。

「あれ……?」

ふと、奥に誰かいるような気がした。
涙を拭いて、よく目を懲らして見ると、

「さなえ……?」

いつもの青と白の巫女服を着ている、私の大事な人がそこないた。

「ぬえ……」
「早苗……なんで……?」

なんで、ここがわかったのか。
こんな、人気のないところ。

「乙女のカン、です」
「……はぁ?」
「それより、ぬえに渡したいものがあるのですが」
「……?」

すると、私に小さな袋を渡してきた。

「……チョコ?」
「はい、もちろん、です」
「……食べて、いい?」
「どうぞ」

袋を開いて、そこに出てきたのは小さな何個かのトリュフ。
つまんで食べてみると、

「……おいしい」
「ふふ、気に入っていただけましたか?」
「……うん」

早苗は、いつものように笑って問い掛ける。
それに俯いて答える、私。

「……あのさ、早苗」
「はい?」
「私もさ、チョコ作ろうと思ったんだけどさ、」
「……」
「ごめんね。早苗には渡せれなかった」

あんなにガンバったのだけれど。
今、手元に無ければそれはどうしようもない。

「ほんとに、……ごめんね」
「ぬえ……」

ふと、暖かい温もりがする。
気付けば、早苗に抱きしめられていた。
優しい、壊れ物を扱うかのように。
背中を、ポンポン、と撫でながら。

「大丈夫ですよ、ぬえ」
「早苗……?」
「形は無くとも、気持ちが伝われば、私は満足です」
「気持ち……?」
「はい」

ふと、一輪の言葉を思い出す。
―――気持ちがあれば、貰う側は嬉しいもの。

「それにぬえ、」
「?」
「バレンタインデーには、対のホワイトデー、というものがあるのです」
「ホワイトデー?」
「はい。バレンタインに貰った相手に、お返しをする日です」
「お返し、する日……」

私、早苗から貰った。
だから、今度は私が、お返しする。

「じゃあ……!」
「えぇ、どうしても渡したいのなら、その日に期待しますね」
「……うん、任せて!」
「その意気ですよ、ぬえ」

元気が出てきた。
さっきまでの泣きたい気分は、すっかり消え去って、今は普通に笑える。

「約束、ですね」
「うん!その日にはアッと言わせてあげるんだから!」
「楽しみにしてます」

二人で、笑い会う。





ホワイトデー。
その日は、今日のもの以上に、たっぷり気持ちをこめるんだから。
期待して待っててよね、早苗。

雪の降る、ホワイトバレンタインの日の夜。
二人で並んで、楽しく談笑しながら、神社に戻った。
微妙に遅れてしまった!
しかし、1時間半ぐらいはまだ形容範囲内!大丈夫さ大丈夫!(ぁ

というわけで相変わらずのさなぬえ!サキです。
早苗さんがあまり出てきてないけど気にしない(
外では雪が降っててホワイトバレンタイン!
防寒具を忘れて自転車で走るとまぢ地獄です。気をつけましょう(

このままこの話はホワイトデーネタに続こうかと!
そして船長のほうについてもいろいろ考えてるのでホワイドデー終わったら書こうかと。
いろいろ綺麗な話ではないですが……


では~
自由人サキ
http://twitter.jp/sananuelove
コメント



1.ケトゥアン削除
わぁい!ひと月時間をすっ飛ばして入試も終わらせてしまえー!
何てことはせずに待ちます。待ちます。
あーほんとにさなぬえはいい。
こういうイベント系によく合うよ……。
糖分をありがとうでした!
2.名前が無い程度の能力削除
ガラじゃないとか思いつつ里に行ったりお店に入って材料一式買っちゃうぬえちゃん可愛いです!
そしてムラサ空気嫁www
雪の中でぎゅっぎゅしてる二人を想像して和みました♪
ホワイトデーと船長のお話に期待!
3.奇声を発する程度の能力削除
ぬえが可愛かったです
4.名前が無い程度の能力削除
ムラサァ…