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---以下本文---
幻想郷の地底、旧地獄とも呼ばれるその場所は現在は地獄として使われることはもうないが、灼熱地獄跡などは残っており、それらの管理を行う地霊殿という建物がある。
そして、その地霊殿を中心にすえたのが、人間や、地上の妖怪に嫌われた者たちの楽園、旧都である。
旧都の入り口で、今日も屋台提灯に火が灯った。
「あら珍しい、今日は静かね」
提灯に火が灯って四半刻、はじめに暖簾をくぐったのは入り口にかかる橋の姫、水橋パルスィであった。
「いらっしゃいませ、パルスィさん。開店したての頃に比べると落ち着いてきましたねぇ。あの宴会のおかげで忙しくお仕事ができてましたからねぇ。」
屋台の店主、頭巾はそう返事をしながらお通しを出す。
「儲かってそうねぇ、あぁ妬ましい・・・今日はやけにお通しが豪華ねぇ。」
キュウリと白菜の漬け物に枝豆、さらには小さいが冷奴まである。もはやお通しで済ませていいかどうかはなはだ疑問である。
「えぇ、昨日来たお客様から代金の代わりにいただきまして、少々多いのでお通しにも出そうと思いまして。」
「ふぅん・・・そんなんで商売成り立ってるの?そういえば結構野菜とか持ってきてる奴いたわね。」
パルスィは不思議そうに訊ねる。
「今のところ実はまだ黒字なんですよねぇ。まあたくさんの方がいらしてくれてましたし、食材を持って来てくれる方は結構な量を持ってきてくださることが多いんですよ。あ、何にします?」
「いつもの頂戴。結構な量ねぇ、例えば?」
もはや常連なのだろう。いつもの、といわれた頭巾はせっせと酒とつまみの準備を始める。
「そうですねぇ、一番ありがたかったのは豚を丸々一匹持ってきていただいた時ですかねぇ。他にも山菜やら持って来る方もいますねぇ。」
「あー、前の巫女と魔法使いの襲撃の後くらいから割と地上に出てる奴も結構いるわねぇ。山の連中からは嫌がられてるけど」
一日のほとんどを橋の上で過ごすのだから、地上に出て行く妖怪達の事も詳しいのだろう。そう言ってパルスィは地上に続く道の方を見た。
「おかげ様で仕入れにあんまり困らないんでとてもありがたいですねぇ。ここから人里までは結構あるんで・・・はいこれ」
頭巾も同じく地上へ続く道を見ながらお猪口と徳利を渡し言う。
「そいやたまに休んでヤマメとかと地上に行ってたわねぇ。」
「えぇ、あそこはやっぱり色々便利なんで。ヤマメさんは意外と力持ちで助かりましたねぇ。」
「ヤマメに吊るされて帰ってきたの見た時は笑ったわねぇ」
思い出すように言いながらパルスィはにやりと顔を歪めた。
「あ、あれはこの方が早いからってヤマメさんが無理やり・・・」
頭巾は恥ずかしそうに頭に被っている頭巾を少しずらして顔を隠す。
「あはははは!やっぱり恥ずかしかったんじゃない!」
パルスィはバンバンとカウンターを叩いて笑う。よっぽどおかしかったようで、お猪口の酒が少しこぼれるほどの威力だ。
「ぬぅ・・・はいこれ、いつものチャーシュー丼です。」
なんとも微妙な表情で丼をパルスィに渡す頭巾であった。
少しの間、パルスィ以外の客もなく、静かに時間が過ぎていた。それを打ち破るように
「おにーさん来ったよー!」
外から元気な声がかかった、その声に続くように古明地こいしが暖簾を首に巻くように顔だけを出した。
「あ、パルスィもいる!」
「あら、こいしちゃんこんばんわ。」
「こんばんはー!あら、座れるかなぁ?」
パルスィに元気に挨拶を返したあとカウンターの様子を見てこいしは言った。
「今日は何人でお越しですか?」
こいしの様子を見て頭巾が訊ねる。
「えっとね、私を入れて4人ね!2人はペットだから2人と2匹かしら?」
「それならギリギリカウンターにも座れますし、それが嫌ならテーブルを出しますが・・・」
「うーん、パルスィがいいならカウンターがいい!」
そう言ってこいしはパルスィの方を見る。
「うー・・・まぁ、かまわないわよ、私がゆっくり飲めれば。そんな事より他はどうしたの?一緒に来たんじゃないの?」
「ありがとう!パルスィ!あれ?ほんとだ!どこー?おねえちゃーん!お空ー!おりーん!」
こいしはそういって暖簾から首を引っ込め声をあげる。すると旧都の中心の方からいくつか声が返ってきた。
「あ、いた!さとり様!こっちです!」
「こいし!あなたしか屋台の場所知らないんだから一人でそんな先に行ったらどうしようもないじゃない!」
「うにゅ?何ここ、いいにおい~」
外が少し騒がしくなってきたのを感じて、パルスィはため息をついた。
「みんな来たよ~!あ、椅子が用意してある!ありがとうおにいさん!」
こいしが今度はきちんと屋台の中に入り、それに続くように3人中に入ってきた。
「いらっしゃいませ、どうぞおかけください。」
そういって頭巾はパルスィの時と同じお通しを出し、4人に座るよう促した。
「あれ?何も頼んでないのに出てくるんだ?」
席についた猫耳の少女が不思議そうにした。
「あぁ、これはですねぇ・・・」「お通しという物らしいですよ、お酒や料理が出てくるまでのサービス品みたいな物みたいですね。」
頭巾が説明しようとしたのを遮って、ピンクの髪の、胸に目玉をつけた少女が答える。
「そういう事です、えぇとこいしさんのお姉さんですね?初めまして、頭巾と申します。それでそちらの2人がペットの?」
特に気にする事もなく頭巾はさとりに挨拶をし、残りの2人の方に顔を向けた。
「あたいは火焔猫燐、お燐って呼んでくれるとうれしいな!」
「霊烏路空だよ、私はお空って呼ばれてるよ」
頭巾の視線を受けて、2人は軽く会釈をしながら自己紹介をする。
「古明地さとりです。以前こいしがお世話になったようで、頂いたケーキ、とても美味しかったです。」
「それはよかった、美味しく食べていただけたならそれで十分です。」
最後にさとりが軽く挨拶をした。
「それで、何にします?」
「あたいはウナギがいいねぇ、串焼きをちょうだい!」
「私もそれにしようかなぁ?どうしようお燐?」
「自分で決めなさいよ・・・串焼きにしなさい」
「ふふふ、お燐?お空は残さないと思いますよ?それじゃあ私は・・・そうね、チャーシュー丼をいただこうかしら。あとは皆にお酒を適当にお願い。」
さとりはパルスィの方をちらりと見たあと、パルスィがはじめに頼んだものと同じものを頼んだ。
もっともパルスィはもう食べ終わっており、今は山菜の天ぷらとチャーシューの盛り合わせを食べているのだが。
「読んでないで普通に聞きなさいよ・・・」
パルスィがため息混じりに言う
「それじゃあ私のアイデンティティが保てないじゃないですか。ねぇ?店主さん?」
そう言って、普通のウナギを串にさしていた頭巾の方にいきなり話を振った、振られた頭巾はというと
「よくわからないけどそういう事なら仕方ないんじゃないですか?」
割と適当な返事を返すだけだったが、顔はパルスィとさとりの方を向いていた。
「ふふふ、あまりそういうのは表に出さないんですね?店主さんは」
さとりが「店主」というあたりを若干強調した上で妖艶な微笑みを浮かべた。
「あら?なになに、どういう事?」
その様子を見てパルスィがさとりに訊ねる。
「いえ、店主さん。もとい頭巾さん?はですねぇ、実は最近、「店主さん」って呼ばれたいみたいですよ?今私が店主って呼んだのに結構反応してましたもの。」
「あっつぁぁ!!」
さとりが言い切った時に、頭巾の手の平に網状の焦げ目が付いた。
「ぶふっ!何?あんたそんな風に呼ばれたかったの?だったら頭巾なんて名乗らなきゃいいのにねぇ?店主さん?」
パルスィが笑いながら頭巾に言う、頭巾はというと少し涙目になりながら焦げ目の付いた手を濡らしたお手拭で冷やしていたところだった。
「なんでそんな事わかるんですか、ですか?ふふ、私はさとり妖怪のさとり、人や妖怪、動物の心もこの目で見通すことができるんですよ。」
何か言おうとした頭巾に代わってさとりは自分の胸の目を指差し答える。
「ねえおにーさん?」
なんとか手の平の無事を確保した頭巾に今度はこいしが声をかける。
「なんですか?こいしさん」
「私このあいだのケーキがいい!」
こいしが元気に注文をする
「そういえばまだ全員の注文伺ってませんでしたね・・・こいしさん、ケーキは普段作らないんですよ。美味しいと言ってはいただけましたが、まだ練習中なのでお金などを頂くわけにはいかないんですよ。」
切り替えたのだろう、頭巾は一度頭巾の後ろをキュッと絞め直し、調理に戻りながら答える。
「えー!食べたい!美味しかったもん!あれなら全然お金取れるよ!ねぇお姉ちゃん?」
そう言って姉、さとりの方を見るこいし。それを受けてさとりは
「えぇ、実際凄く美味しかったですよ?こいしに進められてお酒と一緒に頂きましたが、辛めのお酒によくあってましたし。」
そういって頭巾の方を見る。
「うーむ・・・そうですねぇ。それなら作りますが、今からとなると結構時間がかかるのでのんびり食べて行っていただけるなら食後のデザートとして出しましょう。」
そう頭巾は提案する。
「やったー!あ、でも私それまで何食べてよう・・・あ、これ美味しい。これ頂戴。」
そういってこいしはチャーシューを一枚手にとって食べながら言う
「それ私のじゃ・・・」
パルスィがこいしの口元と、自分の手元を交互に見ながら言う。頭巾はというと、パルスィの様子には気づいたが特に何をするでもなく
「はい、串焼きお待ちどうさまです。チャーシュー丼も盛り合わせもすぐできますよ~。」
と串焼きの皿を燐と空の前に置きながらさとり達に声をかける。。
「うにゃー!いいにおい!おにーさんすごいよ!あたいこんな美味しそうなの見るのも嗅ぐのも始めてだよ!」
「ほんとおいしそうだね、でもさとり様たちのが来るまで待とうよお燐~」
出てきた串焼きの香りにとびあがった燐を空がなだめている。
「あらあら、いつもと逆ねぇ」
その様子を見ながらさとりは頬杖を付きながら笑う
「はい、大変お待たせしました。チャーシュー丼とチャーシューとその他適当な盛り合わせです。」
そういってこいしとさとりの前にも置いていく。パルスィからは
「やっぱりそろそろその名前なんとかしなさいよ」
という言葉が飛んできた。
「あとこれサービスの枝豆です。バターとしょうゆで少し炒めた物です苦手でなければどうぞ。手がベトベトするかもしれませんが美味しいと思いますよ。」
そう言って枝豆と新しいお手拭を全員の前においていく。
「あらあら、本当においしそう。枝豆は試供品って事は感想を述べたほうがいいみたいですね?」
「さとりさま!もう食べてもいいですよね!いいですよね!」
燐が待ちきれないとばかりにさとりにすりよる。
「はいはい、頂きましょうか。」
「いっただっきまーす!」
最後にこいしが元気に食前の挨拶をして、それを期に燐が串焼きにかぶりついた。
「あ、まらはふふぃ!はふぅ・・・!何これ、やっぱりおいしい!あたいこれなら毎日来てもいいよぉ!」
「熱いかなぁ?でもほんとおいしーね!」
熱かったのだろう、何かよくわからない音を発していた燐の発言を空が翻訳した。
「あはは!お燐はやっぱり猫舌なのねぇ、ん~!おいしい!みんな連れてきて正解ね!」
「ほんとうねぇ、でも毎日来ると他の子達に申し訳ないわねぇ」
こいしの言葉に頷きながらもさとりは他のペットの事を考えているようだ。
「じゃあ今度はペット全員連れてこようよ!おねえちゃん!」
「それは普通に営業妨害でしょう、あんたらのとこ半分動物園なんだから。人型に変化できないペットも多いでしょうに」
冗談とも取れるその発言に割と普通に返事を返す。こいしが言うと本気に聞こえるのだろう。
「えー・・・だめ?」
どうやら本気だったらしい。
「ダメですよ、こいし。あんまり大勢で来ると店主さんも大変でしょうし。」
「むぅ、まあ一人で来ればいっか!あ、おにーさん!この枝豆美味しいよ!」
大して残念そうにする様子もなく、こいしは枝豆の感想を述べた。
「あ、ほんとだ。おいしいわねこれ。でもやっぱり手がちょっとアレねぇ」
その感想を聞いてパルスィも手に取り、感想を述べる。
「そのためのお手拭でしょう?・・・でも女の子はちょっとこういうの気になるわねぇ」
さとりからはちょっとした意見も出た。
「ありがとうございます。もうちょっと色々試してみてからお品書きに追加かな。」
少々考えるそぶりを見せながら頭巾は言った。
「ねぇねぇ、お兄さん。」
少し興奮が冷めてきた頃、燐が頭巾に話しかける。
「ん?なんですか?お燐さん?」
「お兄さん普通の人間だよね。見てわかってるんだけども。」
「ここで商売してる以外は割と普通の人間のはずですけど、それがどうかしました?」
「あいや、怨霊とかは平気なのかなぁ?って、あたいが管理してるんだけど流石に地底のを全部管理できるわけじゃないからねぇ」
燐が不思議そうに訊ねる。
「そういえばそうねぇ、私たちはまぁそこそこ耐性あるから平気だけど、今までずっと運よく憑かれなかったってのはないだろうしねぇ」
パルスィも思い出したように相槌を打つ。
「あの紅白の巫女と知り合いみたいだし。きっとそんな感じのお守りもらってるんでしょ!」
こいしがどうだっとばかりに声をあげる。
「それが、八雲の賢者様曰く、俺はその辺は何もしなくても大丈夫みたいですよ。よくわかりませんが。」
頭巾は思い出すように言う。手元では、ケーキが大分できてきているようだ
「ふむ・・・怨霊は、人間や妖怪に取り付いて恐怖や憎悪、狂気、憎しみ等を増幅させますが・・・あなたの心にはそれらが見当たりませんからその辺の所為かもしれませんねぇ」
さとりは3つの目で頭巾を見つめながら言う。
「ふむ・・・紫さんもそんな感じの事を言ってたような・・・よっし、できましたよ。ケーキ、前と同じ物ですが」
そういって頭巾はカウンターの上にケーキを置く。
「わぁぁ!これこれ!きれーな黄色!やっぱり美味しそう!おにーさん早く切り分けて!」
今度はこいしが若干興奮気味になっている。よっぽど楽しみだったのだろう。
「あら、こんなのも作れるのねぇ、本当に美味しそうじゃない・・・ちょっと妬ましいわ」
パルスィもそこそこの興味を示した。
「あたいは前食べれなかったから楽しみだねぇ!」
「私も始めて食べる!」
「空は少し食べたじゃないこないだの。お姉ちゃんの分少し分けてもらってたでしょ」
と、こいしが突っ込む。しかし
「あれ?そうでしたっけ?」
と空、とぼけているわけではなく素で忘れているようだ。燐から空に若干冷たい視線が飛んでいる事には誰も気づかなかった。
「はい、どうぞー。今日の感想次第では今度から食後のデザートを用意するのもいいですかねぇ。」
そう言って、頭巾は等分に切り分けた物をカウンターにおいていく。
「うん!やっぱりおいしー!」「えぇ、前より色もきれいですしねぇ。」
「ふーん・・・美味しいわ。非常に妬ましい・・・」「おいしー、こんなの始めて食べた!」「だからお空は前食ったじゃないあたいの分まで!」
などなど各々感想を述べる。一部感想ではないが。
「うにゅ?私の顔に何かついてる?」
ここで頭巾の視線を感じ、口の周りを少しぬぐう動作をしながら空が訊ねる。
「あぁ、すいません。空さんを見ているとどうもうちの師匠を思い出して・・・」
頭巾は慌てて顔を少し手元に向ける。皿の片付けをしているようだ
「ふむ、あなたの師匠は妖怪なのですね。なるほど、夜雀ですか。」
さとりが頭巾の方を見ながら言う。何かに納得した様子だ。
「えぇ、料理の腕は確かですよ。串焼きとかに関してはうちより全然美味しいですからねぇ。」
「なんですと!?」
その言葉に燐の耳がピンッと立った。とても興味津々の様子だ。
「あら、私も聞きたいわねぇ、その話。少し興味あるわ。」
パルスィも興味を示した様子、おそらく燐とは目的が異なるが。
「うーん、あんまり面白い話ではないかもしれませんが・・・聞きたいなら話しましょうかねぇ」
この後は、ケーキと頭巾の昔話を肴に、地底の屋台の夜は少しずつ更けていった。地底には、太陽が昇るわけでもない。いつが夜明けかもわからない。
しかし、それでも夜は更けていった。ゆっくりと
ただやっぱり冒頭の注意書きはいらないんじゃないかと、こんな魅力的なお話なのに冒頭があれじゃ台無しですよ。
しかしこれからもこのシリーズ続けて下さい、お願いします。
今回もとても面白かったです。
あと、パルスィの呼び方に関してはこれでいいと思います。