Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

膝上小話

2011/02/10 01:23:26
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――――もう、冬か。
私は冬仕様にチェンジした咲夜のメイド服を見てふと思った。
長いことこの館にいると、季節の感覚も曖昧になってくる。
春も夏も、秋も冬も。
時間の流れを感じさせないこの館は、絵本の中の世界のようだ。
いつまでも色褪せなくて、ただ居るだけで温もりを感じられるような。
だから私は、この館が何よりも好きだった。

「どうかなさいましたか?」

感慨に耽る私の顔を咲夜が覗き込む。

「いや、冬だなーってさ」
「あら、わかりますか?」

そりゃあわかる。
半袖だったメイド服は長袖に、首には紅いマフラーが巻かれ、
先日まで惜しげもなくさらされていた生足がニーソ(ちなみに黒である)に包まれれば、嫌でも分かるというものだ。
私はそれに一抹の名残惜しさを覚えながらも、ニーソと生足とが織り成す絶妙なコントラスト(またの名を桃源郷)に舐めるような視線を送った。眼福。

「でも、あれだね、咲夜」
「はい?」
「冬なのに、相変わらずミニスカなんだね。大丈夫なの?」
「あら、心配していただけるんですか?」
「もちろん」

もっとも、私が心配しているのは寒さではなく、よからぬ気を起こした輩共に咲夜が襲われないかだが。
例えば、現在門でシエスタ中の門番とかに。

「ふふ、ありがとうございます」

そんな門番の劣情を知ってか知らずか、ふわり、花のように笑う咲夜だった。
ああ、だからその無防備な表情が心配なんだってば。
まあ、言ってもきかないだろう。咲夜はそのへんのことにはとんと鈍いのだ。それはもう、絶望的なまでに。












◆

「今日は何をいたしましょうか」
「ふむ」

しばし黙考。てぃんときた。

「咲夜」
「はい」
「今は冬だね」
「ええ。まだ春告精が来るには早い時期ですね」
「故に私は、寒い」
「はい」
「あっためて」

両手を広げ、来いやとばかりに待ち受ける。カマン。
咲夜は一瞬の後「はい」と微笑んで、


ぽふっ


「…………」

私の両手に、なんかあったかい紙くずが握らされた。

「……ねえ、咲夜」
「はい」
「なにこれ」
「最近パチュリー様が発明しました。ぽっかいろです」
「いやそうじゃなくてさ」

なんか、握手しようと手を差し出したらするっとM字に回避されたときの気分だ。
いや、されたことないけど。

「あ、紅茶ですか?」
「違う違う」
「では、美鈴ですか?」
「違うちが……待って、どういう意味それ」
「美鈴を対象に一方的な弾幕ごっこでもおやりになりますか?」
「ああそういう……いやしないってば」

危うく納得しかけたけど、一方的って。おやりになるっていうか、お殺り?

「ふむ……では、」

顎に手を当てて黙考。
咲夜はしばし考えた後、照れたような、困ったような笑顔で、

「…………私、ですか?」

――――ああもう、全部わかってるんじゃないのさ。
私は空を仰ぎ、必死で込みあがる愛情を抑えながら、ぽふり、と、返事代わりに抱きついた。





◆

咲夜はよく、私の部屋に遊びに来てくれる。
最初はそれが憐憫によってもたらされた行為なのだろうと思って、きつくあたったりもした。
でも咲夜は一度も嫌な顔をしなかったし、いつも笑顔だった。
むかむかした。私を恐れないやつなんて、美鈴と、パチェと、アイツぐらいだったから。
いくら衝動的になって弾幕をぶつけたって、咲夜は平然とかわしてみせたし、
私のわかりづらい言葉遊びにも、咲夜は正確にその言葉の意味を汲み取って会話を成立させてしまった。
壊してしまおう、と思った。
目障りな障害ならば。アイツの大切な人形ならば。
迷わず壊してしまえばいい。そう、思った。

その日、懲りずに私の前に現れた咲夜を、私は平手をもって迎えた。咲夜は、避けなかった。
そのまま壁に叩きつけ、その首を掻っ切ろうと振りかぶったとき、

「――なん、で……」

咲夜は、ぶたれた頬も気にならないといった様子で、尚、笑っていた。
そのあと私の背中にまわされるあたたかい手を、私はなんの不快もなく受け入れていた。

――――ああ、このひとは最初から、少しの打算も無く。
私のことなんて、とっくに受け入れてくれていたのだ、と。
久しく流していなかった熱い雫を頬に感じながら、そう思った。
その後、どこからか騒ぎを聞きつけたかお姉さまが飛んできて、
私と咲夜の姿を交互に見やり何を勘違いしたのか「うがー!」と吼えながら掴みかかってきたりとひと悶着あったけど、私は元気です。

「あの……妹様」
「なに?」
「もう、よろしいですか?」
「だめ。あと5分」
「それ、5分前にも聞きました」

半眼で呆れたような視線を送ってくる咲夜。
かまわず笑いかけると、咲夜も笑った。

「あ……そういえば」
「ん?」
「パチュリー様から絵本を借りてきました。読みますか?」
「読みます」

寺子屋の生徒さながらに挙手すると(見たことないけど)、咲夜は「ふふ」と微笑ましそうに笑って、私の
ベッドの縁に腰掛けた。私はすかさずその膝の上に乗る。ここは、私の特等席だった。
アイツことお姉さまは咲夜の膝を枕にするらしい。つまり私はお姉さまの枕を踏んでいることになる。悪いわねお姉さま。

静かに、咲夜の朗読が始まった。私も静かに耳を傾ける。
こうしていると、咲夜の体温が背中越しに伝わってくる。耳もとで、鈴のように綺麗な声が囁く。
このこそばゆさが、どうしようもなく好きだった。

「おじいさんは山へ狩りに出かけ、おばあさんはおゆはんの準備をしながら
お風呂の掃除と部屋の整理を行い、空いた時間で川で洗濯をしながらその日のメニューを考えていました」
「あばあさん万能すぎる」
「高性能おばあちゃんですね」

お話の内容は、よくある勧善懲悪モノのようだった。
悪者を倒して、ハッピーエンド。めでたしめでたしで締めくくられるような、ありがちなお話。
私はこのありがちが好きだった。みんなが幸せになってめでたし。大団円。
昔話の中には、それらがいっぱい転がっている。私は本の中で、そんな昔話がいっとう好きだった。
お話の中の主人公(桃小僧というらしいが、なんて愛嬌の無い名前だろう)はキビダンゴを条件に、多種多様な獣たちを仲間にしていく。
その強欲で覇者然としたイメージにアイツの姿を重ねてしまい、ひとり笑った。

「この主人公、お姉さまに似てる」
「そうですね。皆を引っ張っていく頼もしさがお嬢様らしいです」
「このキジは、パチュリーだね。頭良さそう」
「ではこのイヌは私ですね。忠実そうです」
「じゃあサルはめーりんだ。万年盛ってそう」
「こぉら、妹様」

うふふふ、とふたり笑いあう。否定しないあたり、咲夜も何気にひどい。
聖母のように見えて、実はちょっぴり小悪魔。それが咲夜クオリティー。
再び朗読に戻った咲夜の顔を仰ぎ見る。両手をバンザイの形にして、ほっぺたを両挟みしてみる。
ぷにぷに。心地よい弾力が返ってきた。

「もう、何なんですかさっきから」
「えっへへ」

調理中に背後から悪戯をしたくなるというアイツの気持ちも今なら分かる。やっぱ姉妹だねえ、私たち。
……アイツは、ずるい。いつも、私に無いものばかり持っていて。
咲夜を独り占めにできるって、どんな気分なんだろう。
咲夜と一日中遊べるし、咲夜で一日中遊べる。悪くない。

「――――、」
「妹様?」

でも私は、今のままでも、十二分にしあわせだった。
たまに私の部屋に咲夜が来て、遊んでくれるだけで十分うれしい。
To much of a good thing.ほどほどが一番。

私がなんでもないと言うと咲夜はそうですかと言ってまた続きを読み始めた。
途中少し聞き流していたからどういう経緯を経たのかは分からないが、敵である鬼を仲間に引き入れた主人公が世界征服を目論んでいるところからだった。
あまりの超展開に私がついていけずにいる間にも話はトントン拍子に進み、
なんか仲間同士で内乱が勃発したり、魔術やら錬金術やら並行世界やらの話になったり、動物たちが擬人化したりなど、やりたい放題支離滅裂だった。
こんな滅茶苦茶な物語が書けるのはアレしかいないだろうと引き篭もりの魔女の姿を思い浮かべながら終わる気配の無いお話を聞いているうちに、なんだか眠くなってきた。

……まあ、ぶっちゃけ。
私は本の内容など、どうでもいいのだった。
こうして咲夜が私のそばで本を読んでくれる。それだけで十分に満たされるほど幸せだった。
だから咲夜が古典を読もうがラノベを読もうが官能小説を読もうが――――
うん、読ませよう。今度読ませよう絶対読ませよう。

「――――こうして、桃小僧の旅は終わりを告げました」
「あ、終わったんだ」
「かに見えましたが、そこに初老の老人が現れて言いました。『この物語はもうちっとだけ続くんじゃ』」
「もうええわ」

いいだろう。まだ終わらないというのなら、こっちだって耐えてみせようじゃないか。
咲夜の膝が悲鳴をあげるのが先か、私が昔話に飽きて眠るのが先か。
……たぶん、両者だろうな、と苦笑しつつ。
それもいいかな、と思うのであった。

めでたし、めでたし。
「それで、私の紅茶はまだな訳?」
「すみません。離れるわけにもいかなくなくなってしまいまして」
「そう。私よりもフランを優先するのね」
「そういうわけではありませんが、足が痺れてしまいまして。立とうにも立てないのです」
「ほーう……ちょんっ」
「ひゃぁっ!?」
「仕方ないからフランが起きるまで咲夜をつついて遊ぶことにするわ。ちょんちょんっ」
「足だけは、足だけはあああぁ」

■
初投稿です、しゃくなげといいます。
咲夜さんと妹様の話が書きたかったので、慣れない筆を執って書きました。
ほのぼのとした雰囲気が伝わればいいなと思います。
不慣れですが、よろしくお願いします。
しゃくなげ
http://
コメント



1.奇声を発する程度の能力削除
ニヤニヤしまくりでした!
咲夜さんが可愛い過ぎる…後、ニーソ
2.名前が無い程度の能力削除
和みました。いいですね。黒ニーソ…
3.名前が無い程度の能力削除
おお、なんともほのぼのとしていて、微笑ましい。

それにしても、咲夜さんのニーソ……
4.名前が無い程度の能力削除
咲夜さんとフランの絡みが好きなんでニヤニヤしてしまった…!!

しかも黒ニーソ…
5.名前が無い程度の能力削除
素晴らしい
6.名前が無い程度の能力削除
ああ、いいな。理想的な咲夜さんだ