Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

汝は人狼なりや? ~博麗神社村~5日目

2011/02/07 12:03:49
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 これは、なかなか、精神的にくるわね。

 目覚めたら敗北しているかもしれない。
 賞品ゲットの夢も、ここまでの苦労も水泡に帰すかもしれない。

 もしくは。

 目覚めたら噛まれているかもしれない。
 小悪魔に何と詫びればいいのか。結局、何の役にも立たなかったことになる。

 あるいは。

 目覚めたら村にたどり着いているかもしれない。
 また始まるのだ。あの人狼潜む疑心暗鬼の檻。その中での討論が。
 そして、恐らくは私が決めることになる。

 勝ちか、負けかを。




    ◇    ◇    ◇




 ああ、そして結果はこうなのね。

 私は朝を迎えると共に、村へと戻されていた。
 机の真ん中には死体人形が。恐らくは……。

 ……えっ?




博麗神社村 8日目昼






『咲夜さんは、無残な姿で発見されました』





 咲夜噛み……?

 共有者である私でもなく。
 確定◯の星でもなく。

 パチュリーの囲い候補である、咲夜噛み……?

 この光景には、他の村人たちも困惑を隠し切れていない。
 村人であれば、まさか咲夜が噛まれるとは予想も出来ないでしょう。
 そして、人狼はそれをひっそりと嘲っている……。



慧音   :「霊能COパチュリー●。ようやく一匹吊れた。人狼は残り2匹、引き続き後がない状態だ……」
アリス  :「咲夜が噛まれた……? パチュリーの囲い候補を噛むとは、意外ね……」
星    :「まぁ、早苗さんが噛まれてからの○でしたからね、咲夜さんは。スケープゴートには成り得なかったでしょうが。……それにしても、私も自分や共有が噛まれなかった事が不思議です」
鈴仙   :「……あくまでも私を人狼に仕立てあげたいって事かしら……?」
射命丸  :「咲夜さんは狩人って感じでもなかったですしねぇ。あえて、ここで確定◯を噛まないのは、怪しいと思いますが……」
霊夢   :「そうね、何か……理由が……」



 私は最後まで考えるのを放棄してはならない。
 だって小悪魔も言っていた。

『村人の武器は考える事です。村人が推理を放棄した時、それが人狼の勝ちといえます』

 そうだ。この「噛み」は人狼が零したヒントだと思うのよ。それを取っ掛かりにして、推理しなきゃ。
 まず、状況を整理しましょう。

 昨日の夜、パチュリーを吊って村人は7人だった。
 そこで人狼が村人を噛むと、村人は6人になる。
 慧音が真であるならば、ここに人狼が2匹いる事になる。
 慧音が偽でも、あるいは2匹いるかもしれないが……。

 昨晩の人狼の噛み候補は

 「共有者1人・私」
 「両占いからの◯1人・星」
 「真か狂の霊能者・慧音」
 「パチュリーの◯3人・アリス・咲夜・射命丸」
 「完全グレー1人・鈴仙」

 今日、そして明日の投票を考えれば、できるだけ村人と確定している人は残したくないはず。
 その中で私は共有者であり、護衛される可能性が万が一ある。だから噛まなかった、と考えることは出来る。
 では、あえてパチュリー◯の咲夜を噛んだ理由は?
 アリスや射命丸、もしくは鈴仙が人狼だとしたら、わざわざ隠れる場所を減らすような噛み。……咲夜の推理がそこまで怖かったという事?

 いや、違う。
 そうだ……。

 もっと単純な考え方が出来るじゃない。

 狼は噛まなかったのではなく……噛めなかったのよ。
 確定◯の星を。

 そう……二日目に両占いから◯をもらい、確定◯として扱われていた星。
 ここが7日目まで生きていることが、明らかに不自然。魔理沙や咲夜よりも先に噛まれるべき所。
 そこが生きているという事は、すなわち。



 星が、人狼だから……!?



慧音   :「共有を除いたアリス、鈴仙、射命丸、星。この4人の中に2人の人狼がいる。確率的には2分の1ではあるが……外したら負けだ。発言や投票を振り返って、よく考えてもらいたい」
星    :「早苗さんの◯である、私が候補に入っているんですか?」
アリス  :「……慧音視点だと占い両偽だから、星もグレーに戻るに決まってるじゃない」
射命丸  :「私は慧音さんを吊りたいですけどねぇ。やっぱり占い両偽で、狂人が噛まれた意味が分からないですよ」



 ……そうだ。慧音が偽だという理由。
 それは慧音が真であれば「占いが両偽」で「狂狼」という内訳にも関わらず、狂人が噛まれたのが不自然。という一点だけ……。
 人狼が狂人を噛むメリットが全くない、という理論……。それで村人は慧音を偽だと思っている。

 だが……狂人噛みが、人狼にとってメリットのある戦略だったとしたら?
 人狼騙りであるパチュリーを切り捨ててまで、なお勝利を確信できるような作戦だったとしたら?

 ……つながったわ。

 星が人狼。この結論と、慧音が真だという理論。
 つじつまが合う。
 確定◯である星が噛まれない理由、人狼であるという理由、狂人を噛んだ理由。

 星を村人に偽装する為だ。
 そして唯一の真役職である慧音を孤立させる為だ。

 それが人狼による狂人噛みのメリット。
 早苗が真の証拠というのは、噛まれたこと以外にはない。
 だから早苗が○を出した星も確定◯という扱いになる。

 それを見越しての狂人噛み。

 そう、人狼の狙い通りに、村は進行していたんだ。
 そして、この流れを変えられるのは、共有者である私しかいない!



霊夢   :「私は……星が人狼だと思う」



 私の言葉に、星の顔が凍りついた。



星    :「な、何を……!?」
霊夢   :「早苗とパチュリー、両方から○をもらった星が、何故ここまで生きているのか……。何故、今日は咲夜が噛まれたのか。それを考えれば、自ずと答えは出てくるのよ」
アリス  :「……確かに、ここまで噛まれていないのは……不自然よね」
慧音   :「……そうか! 狂人噛みには、人狼である星を確定◯に見せるという意味があったのか!」
霊夢   :「そうよ……! そして、唯一の真役職である慧音を孤立させる作戦……。それに私たちは、見事にハマってしまったのよ」



 私は、ここまでの村の経験。
 それを最大限に、出来る限り使って、この推理を導き出した。
 拙い理論かもしれないが、それだけの自信がある。

 ……だが、村はさきほどまで霊能吊り一択だったのだ。
 私がちょっと推理を口にしても、皆がみんな賛同してくれるワケではない。

 いや、ここで反対するものが、人狼……?
 そう考える事も出来るか?

 星が人狼だとしても、他に潜伏している人狼がもう一人いるのだ。
 今日の会話から、それを見抜かなければならない。



射命丸  :「星さんを噛まなかったのは確かに気になりますが、こうなることを見越しての噛みかもしれません。やはり、あの時点での占い噛みは真だからに決まっています」
星    :「……霊能を真に見せる為のスケープゴートにされてしまいましたか。これで確信しました。慧音さんは偽、そして恐らくは人狼。最終日を考えないこの作戦は、今日私を吊って勝利という段階まで来ているのでしょう」
鈴仙   :「……慧音真か。私も考えていたけれど……星の生存で、やっぱりって感じになったわね」
慧音   :「これで星が村人だったら、人狼にしてやられた、という形だが……。私も星に投票したい」
アリス  :「問題は、星と後もう一人の人狼がどこにいるのかって事ね。射命丸か鈴仙……」



 私の考えに反対しているのは、当人である星と、射命丸のみ。
 鈴仙はまだ迷っている感じがするが、星と射命丸が人狼ならば、数もピッタリと合う。
 ……彼女たちで決め打とうかしら……。

 って、そうだ! こんな時こそ「共有指定」をしなきゃいけないのよね。
 村の票がバラけてしまったら、人狼に票を集められてしまうかもしれないもの。



霊夢   :「今日は……星を吊りましょう。共有指定よ」
星    :「ぐっ!? 待ってください、霊夢さん! 私は6日目の投票で藍さんではなく慧音さんに投票している。私が人狼であれば、妖狐である藍さんを吊りにいかないワケがない!」
アリス  :「そりゃ真霊能である慧音を吊りにいくのは、あなたが人狼だったら当たり前じゃない。その後に藍を吊ればいいんだから」
射命丸  :「……星さん、その言い訳は苦しいですよねぇ。それに星さんは、藍さんが妖狐だったって言い切れる立場なんですか?」
慧音   :「5日目のグレランの日。霊能である私に投票しているのは、星と射命丸だけだな。……この二人か? 人狼は」



 星と射命丸が人狼。
 慧音の推理と私の目算が、合致したわ。

 ……なんて気持ちがいいのかしら。
 誰かと意見が合うっていう事は!
 私は小悪魔が噛まれて以来、ずっと孤独だった村で、久々に「共闘」している感覚を思い出した。

 射命丸は怪しい。
 最初は慧音を疑っておきながら、次に星を疑う。そんな射命丸の発言は、星が吊られてLWになった時の事を考えてのものに見える。
 すなわち、完全に星の味方をするのではなく、猶予をもたせた立ち位置だ。星が吊られた後の最終日も見据えた、そんな立ち回り……。

 星と、射命丸、で確定……?
 私は明日噛まれるかもしれないし、共有指定しといた方がいいのかしら。



射命丸  :「こう言っては何ですがね、6日目の投票で私は共有と一緒に、唯一パチュリーさんに投票しているんですよ? 慧音さん。あなた視点でパチュリーさんが人狼だというなら、私を人狼だと思う事はないんじゃないですか?」
アリス  :「身内投票じゃなくて? あの役職ローラー3日間の投票は参考にならないわよ。順番なんて関係ないし」
星    :「……6日目の朝、アリスさんは『……まぁ、とりあえずパチュリーと藍から吊っていいかしらね?』と言っていますね。何故パチュリーさんと藍さんからなんですか? 慧音さんを除外した理由は? そして投票も藍さん……。アリスさんと慧音さんが人狼なんじゃないですかね」
鈴仙   :「……そういえば、3日目の平和の日……。狐告発についてアリスさんと慧音さんが議論していたけど、あれが狂人への●出しの要求だとしたら……」



 ちょ、ちょっと、ちょっと!
 なんか、また「慧音偽」の論調になってきてない!?

 やっぱり皆も、大分迷っているみたいね……。



アリス  :「慧音は最初、早苗を真で見ていたわよね……。慧音が偽なら、人狼であるパチュリーに信頼を寄せると思うけど」
射命丸  :「それがワザとらしいんですよ。それでラインを違えて『意外だった』なんて言うんですから」
慧音   :「そこだよ。ラインを違えた私が、早苗噛みでわざわざ自分が疑われるようにするかね?」
霊夢   :「だからぁ、早苗噛みは星を確定◯に偽装する為なんだって!! ……って、アレ?」
鈴仙   :「共有の言い方だと『星と慧音』が人狼みたいになるじゃない」
星    :「……今日の私吊りは有り得ないですよ。霊能吊り一択です。おそらくは私か共有が噛まれて最終日でしょうね」
アリス  :「あら? 狩人のGJを想定してないの? いえ、この場合は願望がつい出ちゃったのかしらね」
鈴仙   :「……私は人外に票を合わせられるのは嫌よ。共有に従うわ」
星    :「私を指定するなら、私は慧音さんに入れるしかないですね」
射命丸  :「……という事は『星と慧音』説はないって事ですか。それを見越して最終日にどちらかが生き残ろうとする作戦なら素晴らしいですが……」
アリス  :「私は共有に従う……。というよりも、共有と推理が一致したのよね」
射命丸  :「今日になって、急に共有に擦り寄りますねぇ。私の中で人狼は『慧音とアリス』で決まりですかね」
霊夢   :「……射命丸の説だと、パチュリーが狂人って事?」
鈴仙   :「パチュリー狂人だったら、狐はどうしたのよ? 藍? それとも、どこかで吊れたのか……」
アリス  :「ふふ、案外と、まだ生きていたり……?」
射命丸  :「狐生存で人狼もLWだとしたら、告発出来ずにヤキモキしているかも知れませんねぇ」
星    :「……呑気ですね。追い詰められている村人とは思えません」



 マズイ。
 此処に来て、私は初日の状態に戻りつつある。

 アリスも慧音も射命丸も鈴仙も星も……
 皆が皆、嘘をついているように見えてくる。

 私は今、混乱している。

 軸になるべき私が、軸になる事が出来ていない。
 この一票で、間違いなく命運が決まるというプレッシャーは、私の思考を鈍らせる。

 星吊り……?
 慧音吊り……?

――こんな時は、一から考えましょう。この先の展開を一から想像するのよ。

 星が人狼で、もし吊りあげたとする。
 そうすると人狼の噛み選択肢は、真霊能の慧音噛みか共有の私噛み。

 慧音は最終日まで残っても、村人からLWではないかと疑われる立場にある。人狼からすれば、良い囮になってくれそうだ。噛まなくても別に良い。

 なら、私は?
 私は確定◯。絶対的に村の味方である共有者。
 その私が最終日の4人に残ることで、人狼はどうなる?

 私がいる場合。
 最終日の村人は、自分と共有者を除いた2人の中から選んで投票をする。
 私は3人の中から選んで投票をする。

 私がいない場合。
 村人は自分以外の3人から選んで投票をする。

 どちらが、人狼にとって逃げきり易いか。どちらがより、自分に票がくる可能性が低いか。
 言うまでもない。
 私を噛んでの最終日に決まっている。



霊夢   :「私は……」



 生き残らなければならない。

 慧音が真である限り。
 人狼が残り2匹である限り。
 私は生きて勝つ事が出来ない。

 ならば私の取るべき道は……。
 そうだ。慧音がLWという可能性に賭けるしかないのだ。



霊夢   :「慧音を吊るわ」



 小悪魔は言っていた。
 村人は自分が死ぬ事を時には利用して、村全体を勝利に導くのだと。

 だが、私はそんなセオリーなど知らない。
 だって私はドシロウト。ルールすら知らなかった新米。

 だから私は、自分にとっての最高のゴールしか見ない。
 間違っているだとか、定石じゃないとか、知ったこっちゃない。
 私にとっては、賞品を手に入れること。それが全て。

 だから、私は……



霊夢   :「今日の吊り指定は慧音……! これで決まりよ」
慧音   :「……っ! 馬鹿なっ! 今までの推理は……一体どうなる!?」
アリス  :「終戦ね。共有が指定したんじゃ、私一人逆らっても意味がないし」
射命丸  :「不安ではありますが、共有の決定に従うしかないでしょう。これで負けても、誰が誰を責めることも出来ません」
星    :「危なかった……。今日でお別れでしょうけど、ありがとう霊夢さん」
鈴仙   :「うーん。これで良かったのかなぁ」



 ああ。……これで、私の戦いは終わった。

 慧音がLWであったなら、これで勝利。
 慧音が真であったなら、夜になった瞬間に即噛みで負け。
 慧音がLWでなく他に潜伏がいるなら、私は噛まれてリタイア。

 どのパターンでも、私の「汝は人狼なりや?」は終わるのだ。
 あとは死後の世界で観戦するだけ……。

 ……あっ、狩人が生きていて私を護衛してくれたら、まだ希望はある……か。

 まぁ、どちらにせよ、もう十分よ。
 私は良くやった。後は小悪魔に色々と侘びたりして、のんびりとお茶でも呑みたいわ。
 そして紫を捕まえて、思いっきり文句を言ってやるのよ。



慧音   :「考え直す気はないのか、共有」
霊夢   :「あいにく……ないわね」
星    :「どうでしょうね。慧音さんが狂人という事も十分に考えられますし……。既にLWなのかも知れないです」
アリス  :「明日があるとすれば、慧音偽の早苗真で星は村人でしょうね。共有か星、確定◯が一人はいるから、人狼有利の4人最終日でも悲観することはないわ」
射命丸  :「……今日の夜は発言と投票の洗い出しですかねぇ」
アリス  :「……あら。明日の朝に自分が生きてるって確信があるの?」
射命丸  :「……あなたが言ったんじゃないですか。今日は共有か星さん噛みって」
鈴仙   :「うーん。慧音さんが偽なら、私の推理はここまで、ずっと外れてることになっちゃうなぁ」
霊夢   :「それでは……いきましょうか」
慧音   :「残念だ。私は自分の仕事をしっかりしたつもりだったが……」



 慧音の言葉を最後に、私たちは結界で隔離された。

 無音の個室で、投票画面を前にする。
 これで、良かったのだろうか。自信なんて最初から無かったけど、私はこれで……。

 いや、私は慧音を吊ると明言したのだ。
 それを翻すワケにはいかない。

 私は微かに震える指先を、慧音の写真へと押し当てた。




    ◇    ◇    ◇




博麗神社村 8日目投票結果



       
      
霊夢 (0票)→慧音慧音 (5票)→星アリス(0票)→慧音射命丸(0票)→慧音
鈴仙 (0票)→慧音星 (1票)→慧音



『慧音さんは村民協議の結果、処刑されました』





    ◇    ◇    ◇




 ……夜がきちゃった。

 という事は慧音はLWはなかったというコト……。
 つまり、私はここまで。

 終わりね……。

「はぁ、噛まれるのを待つ夜っていうのも退屈なもんねぇ」

 私は布団に寝っ転がると、今までに書き留めたメモや会話記録を眺め始めた。
 8日分の情報が詰まった紙は随分と分厚くなって、私の手にも収まりきらない。

「……私は良くやったわよ。うん」

 自己弁護的な労いの言葉をかけつつ、ぼんやりとメモに目を通す。

 あ……。そういえば、今日のメモを取ってなかったっけ。
 どうせ書いても意味はないけど、中途半端も気持ち悪いから書いておこうかしら。
 暇だしね。

―――――――――――――――――――――
霊夢のメモ 8日目

村人6>4>
偶数進行2吊り
【占い】
パチュリー:星◯→アリス◯→藍●→射命丸◯→咲夜◯→魔理沙◯→死亡
早苗   :星◯→小悪魔◯→妖夢●→魔理沙◯→死亡
【霊能】
慧音   :チルノ◯→お燐◯→妖夢◯→妹紅◯→藍◯→パチュリー●
【共有】
わたし
小悪魔
【吊り】
チルノ→お燐→妖夢→妹紅→藍→パチュリー
【噛み】
偏屈妖怪Y→平和→小悪魔→平和→早苗→魔理沙→咲夜
【グレー】
鈴仙(1人)
【狩人】
藍    :星→霊夢→早苗→霊夢

―――――――――――――――――――――

 慧音を吊って私が噛まれる。そして明日はアリス、星、射命丸、鈴仙の4人で最終日か。
 朝を迎えることが出来れば慧音の偽が確定だし、星は◯と見ても良くなる。
 そうすると、人狼っぽいのは誰かしらね……。

 私の星吊りに同調していたアリスか、いや、鈴仙もどっちつかずだったし……。
 射命丸はどうだろう? 慧音が偽だったら慧音吊りに積極的だった射命丸は村人に近いかしら。

 ……ああ。

 何を考えちゃってるんだか。
 私が推理したって、もう何の意味もないのよね。
 うん、まぁ、でも。狩人が護衛してくれるかもしれないし、一応は推理しておきましょうか?



 鈴仙。
 唯一の完全グレー。発言は周りに同調せず自分の考えを押し通すことが多い。投票も共有指示を無視したり、かなり自由。8日目はどっちつかず。
 潜伏人狼だったら、ここまで目立つ事はしないかしらね……。グレランで吊られなかったのも意外だけど、彼女は噛まれなくてもおかしくないわ。村人と決め打っていいのかしら。

 星。
 両占いからの◯もらい。明日の朝を迎えることが出来れば慧音偽確定なので、星も必然的に◯になる。最終日を迎えた時は、彼女を村人で見る。

 アリス。
 パチュリーから3日目に◯もらい。序盤はなりを潜めていたが昨日あたりから意見が強い。チルノ投票者。藍吊りに参加。8日目は星吊りに賛同。慧音真論者。
 ここは臭いわね。早期に囲いを受けていることも怪しいし。序盤の大人しい感じも潜伏っぽいかも。

 射命丸。
 パチュリーから5日目に◯もらい。内訳を気にしているのが印象的。私への同調が多いように感じる。グレランの5日目に星と共に慧音へ投票。8日目は断固慧音吊りを主張。
 村人っぽくは感じる。だけど、村人っぽく見せようとする人外にも見える。



 アリスか射命丸。どちらかね……。
 私の意見への同調、そして私が噛まれない意味。それを考えると……文の方が、怖いわね。
 いや、しかしアリスも怪しい。
 と見せかけて、案外と鈴仙が……?

「あー! もう! 考えたって無駄よ、無駄!」

 私は資料を床にバラ撒くと、髪の毛を掻き毟って大声を上げる。
 ヤケになった私は、そのまま推理もせずに仮眠をとる事にした。

 誰が責められよう?
 だって私は完全に巻き込まれただけの被害者だし。
 賞品に釣られて、ちょっとやる気にはなったけど、元々はこのゲームの事なんて知らなかった訳だし……。

 だからもー、勝とうが負けようが、関係ないのよ!




    ◇    ◇    ◇




 人狼はディスプレイの前で迷っていた。
 すなわち、誰を噛み殺すかという選択を。

 「噛み」は人数で圧倒的に劣る人狼に授けられた『武器』である。
 それは問答無用で村人を退場させる、強力無比な能力。
 指定すれば、相手が妖狐や護衛されている者でない限り、ゲームから排除できる無情な権利。

 では、人狼は誰を噛むのか?
 誰にその権利を行使するのか?

 ただ自分たちの人数以下にするため、勝利条件を満たす為に、事務的に噛むのだろうか?

 そんな訳はない。
 人狼は噛みによって、村を支配する事が出来る。
 村人たちを騙す舞台を、自在に創り上げる事が出来る。

 噛みは、人狼にとって嫌な村人を削除する行為なのだ。

 例えば、真占い。
 例えば、狩人。
 例えば、共有者。
 例えば、確定◯。

 これらは先天的な厄介ものだ。
 だが、中には能力も持たずして人狼の驚異になる者もいる。

 例えば、的確な推理を披露する村人。
 例えば、騙りのちょっとした矛盾を鋭く指摘する村人。
 例えば、人狼の描いたシナリオを疑って流されない村人。
 例えば、投票で人狼を付け狙ってくる村人。

 そういった有能な村人を削っていけば、人狼は有利になる。
 時として、先天的な能力を、個人の有能さが上回る事もあるのだ。

 例えば、

 意見がころころと変わり、明らかに周りに流されていて、なおかつ立場的に最終決定権を持った村人がいるとしよう。

 それは、人狼にとって驚異となるのか?
 邪魔だと思うのか?
 噛むのか?

 否。

「……よし!」

 人狼は、噛みを指定した。
 彼女にとっても、明日が最後の日になる。
 吊られて逝った仲間の為にも、そして自分の為にも、彼女は最終日を乗り切る為に。



――その為に、人狼は霊夢を残した。




    ◇    ◇    ◇




博麗神社村 9日目昼







村人は4人。人狼は1匹確定。あえて言おう、狩人は生存していない。





つまり今日が





最終日となる。






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キリが悪かったので今回はこれで。
次回、最終話です
yunta
http://
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
狼狂-真で、狐は藍で既に吊れてるとしてLWは誰か
星が狼にしか見えないけど、何かどんでん返しがありそうでwktk
2.如月日向削除
こんなに続きが気になったのは「時には昔の話を」以来かもしれません 。このSSで人狼を知った私には推理なんてとてもできませんが次回をとても楽しみに待っていますっ
3.名前が無い程度の能力削除
うおー!気になるー!
4.名前が無い程度の能力削除
LW見えてきましたね
紫だけじゃなくチルノも役持って逝ったみたいですね
5.名前が無い程度の能力削除
前々回、前回と
狼・パチュリー、星、射命丸
狂人・早苗
妖狐・藍
霊能・慧音
占い師・紫(役欠け)
狩人は、魔理沙?
で予想してたんですが、成立しなくなっちゃいましたねぇ。
初日役欠けで紫狼なら、狼の内訳変えるだけでまだ成り立つんですけど、それはルール上あり得ないみたいだしなぁ
この推理の元早苗だけを真だとするなら、
狂人・パチュリー
狼・妖夢、慧音、星
になるけど今更それはないと思うんだよなぁ

最初の投票で小悪魔が唯一射命丸に投票してるのが、物語の最終局面で霊夢に気付きを与える伏線とみて射命丸●前提で組み立ててった推理だったんですが・・・
前述の小悪魔の射命丸への投票か星○同時投票が最後の狼への伏線だと思うんですけど、今回作中で星○の伏線触れちゃいましたしねぇ・・・
でもやっぱり星○同時COは作中で重要な伏線だと見て、星●前提の元、思い切って紫と、初日ずっと黙っていたチルノ二人に役職が振り分けられてたと仮定すれば
狼・パチュリー・慧音・星
狂人・早苗
霊能・紫(役欠け)orチルノ
占い師・同上
妖狐・藍
狩人・魔理沙
狼は次点でパチュリー・射命丸・慧音かな
6.名前が無い程度の能力削除
ここにきて妖狐の一人勝ちって気もしてきたな
7.名前が無い程度の能力削除
私は知っているぞ。
これは俗に言う「レイニー止め」だ! まさかこんな所で追体験しようとは……。
次回は最終回かな?
楽しみにしています。
8.名前が無い程度の能力削除
チルノが役職持ちだった可能性が上がりましたね。
初日で静かなことをアリスに指摘されたとき「頑張って考えているんだ」と答えていましたが、COするかどうかとか色々考えていたのかも。アリスがLWかもなあ。
次回が最終回ということは、狼サイドから見たストーリーはやらないということですよね。いや、やる夫スレとかだと最後に狼サイドからの物語があってそれが楽しみだったもので。
9.名前が無い程度の能力削除
霊夢以外の視点での物語りは読んでみたいですね
10.名前が無い程度の能力削除
まともに推理もできないけど惹き込まれるわぁ 次が楽しみ
11.ゆう削除
うわぁ、慧音先生吊りで残り1Wですか……
これは本当に、ゆかりんとチルノちゃんで占霊持ってった可能性が高くなってきたなぁ。
狂狼-狼のパターン、村絶望的。霊夢の直感にかけるしかないとか。
2日目昼の言動から、ゆかりん占いで、チルノちゃんが持ってったのは霊能のほうかな?

もう上述のレアケースは考察のしようがないので、チルノちゃんが素村だと考えてもう一度考察。
慧音吊りで1Wの時点で、慧音先生真霊の可能性は0。
狂人なら早苗さんとのラインきりが早すぎる+狼見えのパチュとのラインをきらないので、
狂の可能性もほぼなしと見る。
慧音狼の場合、真狩も狼も可能性がないことから藍しゃま狐。
この場合パチュが偽占で、やはり早苗さんが真。
パチュ狼だと慧音先生吊りの時点で村勝利なので、パチュは狂。
……3日目昼の発言までで4日目に藍しゃま●出しができる可能性は低いけれど、
他のケースよりは若干可能性が高いくらいですね。
慧音狐の場合藍しゃま狼で、パチュ狂+早苗さん真+みょん●+LWか、
パチュ真+早苗さん狂+グレランかみょんで1W吊られ+鈴仙LW……
狐が偽霊能に出るのは玉砕覚悟必須(霊能2以上ならロラされる可能性高)なので、
まだ慧音狼のほうが可能性高いかなぁ?
真狩人は、5日目昼の会話内容と早苗さん噛みのタイミングを考えて、やっぱり妹紅のままで。
LWは……囲いのタイミングや発言・投票先を見直してみると、やはりあややが最有力かなぁ?
鈴仙とアリスは、どっちもどっちくらい。LW全然わかりませんわ。

以上より、現段階の最有力予想は以下の形。全然自信ありませんが。
 狼:妖夢、慧音、射命丸
 狂:パチュ
 狐:藍
 占:早苗
 霊:紫(初日)
 狩:妹紅

次回、どういう結果になるか、どういう内訳か、楽しみにしています。
他の方達と同じく、今までの狼側夜会話も気になります。
12.名前が無い程度の能力削除
初日のカンがアリスを疑っていたってことは……
13.名前が無い程度の能力削除
最後の噛み選択シーンを読む限り
魔理沙はアリスの発言に異を唱えてたことが多いし
咲夜はグレランでアリスに入れてるからたぶんアリスだろうなぁ