「……チルノ?」
「ん?なにー?」
「……あんた氷の妖精よね?」
「さいきょーの、氷の妖精よ?」
「……なんでこたつに入ってくるのよ」
「だって寒いんだもん」
冬、真っ盛り。
幻想郷の天気は雪、雪、雪。
そんなだから、この氷精などはさぞかし外で元気に遊び回っているんだろうと思っていたら。
彼女は今、博麗神社のこたつのなかにいる。
「……もう一度聞くわ。あんたって氷の妖精?」
「あたいったらさいきょーよ?」
「なんでこたつにいて、しかもあったかいお茶飲んでるのよ」
「だって寒いんだもん。冬は好きだけど、寒いの嫌い」
なんと、氷精が寒さに弱い!?
まぁチルノらしいといえばそれで終わりだが、果たしてそれでよいのか!?
「あんたいつも氷ばらまいてるじゃない。なのに、寒さが苦手なの?」
「苦手じゃないもん!嫌いなだけ!」
この場合は同じことだ。
「あと、霊夢は一つ勘違いをしてる!」
「なによ?」
「あたいはね、氷の冷たさは平気なの!冬は空気が冷たいのよ空気が!空気と氷は違う!」
それもまたおかしな話だ。
氷は冷たくないけど空気は冷たい?
「もう、空気が全部氷になればいいのに」
「それはやめといた方が良いと思うわ」
「むう」
膨れっ面を見せるチルノ。
窒息とかいっても分からないのだろう、この氷精は。
「……」
「……」
その後は特に会話もせず、もぐもぐ蜜柑を食べていると、すっ、と障子が空いた。
「あや、チルノさんも来てたんですか」
「あら、文。冬眠してなかったの?」
「烏は冬眠しません!」
「そうだっけ?」
こたつ族が一人増えた。
「文、冷たい」
「あやや、チルノさんに冷たいと言われるとは思いませんでした。ていうかチルノさんは外に行かないんですか?」
「だって寒いもん」
「寒いの嫌いなんだって」
「ええ!?そうだったんですか!?」
「……何よう、悪い?」
「いえ、悪いということはありませんが……いやでも、ねぇ?」
こっちに同意を求められても。
確かに違和感はあるのだが。
「もう、霊夢も文もあたいのこと全然わかってないのね!」
「まぁ、分かろうと努力した覚えもないしね」
「何よ!」
「じゃあ、あなたのことをもっと知るためにも、寒さについて語ってくれません?」
明日か明後日かの一面はこれか。
どれだけ脚色されるか、ある意味楽しみだ。
「うーん、そうね、空気の寒さはあたいの天敵だけど、氷の寒さはあたいの味方?」
「ふむ、つまり氷は大丈夫だと」
「そうそう。氷で手とか覆ったらあったかくなってくるの」
それはちょっとまずいことになってないか?
「なるほど、では水の冷たさは?」
「水は氷にすればあったかいから味方ね!」
「へぇ。協力ありがとうございましたっと。さーて、どう書こうかなー」
文は鼻歌(なぜか少女綺想曲)を歌いながら、文花帖に文字を付け足し始めた。
さて、どうなることやら。
「……ところでチルノ、他のメンバーはどうしたのよ?」
「あ、ミスティアさんとレティさんは、萃香さんと一緒に外でかまくら作ってましたよ」
萃香め。雪降ろしサボってるな?
「リグルはなんかヤマメに用があるって言ってた」
「冬眠関係の何かですかね?あとで行ってみますか……」
明日か明後日かの二面はこれか。
「ルーミアは……そういえば最近見当たらないわね、どこいったんだろ?」
「……あの緑髪の子は?」
そう問うと、チルノの顔色が変わった。
「……っ、だ、大ちゃんはいいのっ」
「いいって何よ?」
「まぁ、あまり詮索しない方がいいんじゃないですか?」
「……文まで。何かあったの?」
「何もないよ!」
そこまで問答したときに、再び障子が開いた。
「れーいむ、かまくらできたよー」
「……萃香。私はあんたになにしろって言ったっけ?」
「えーと……雪だるま?」
「雪降ろしよ!さっさとしないと追い出すわよ!」
「へーいへい。……あれ?天狗じゃん」
「!!」
萃香が入ってきた瞬間全力で空気になろうと試みた文。
やっぱり無理でした。
こたつのなかに潜ろうとしたとき蹴飛ばしたのは私だけど。
「ちょーどいいところに。雪降ろし手伝ってくんない?」
「はぁ……分かりました、やりますよ」
「にしし、じゃ、よろしく!」
かわいそうに。
蹴飛ばしたのは私だけど。
文がやろうが萃香がやろうが、雪さえ降ろせれば何も問題はないので、特に助けてもやらないが。
「さ、チルノ。こたつ運ぶわよ。ついでに座布団も」
「かまくら行くの?」
「そうそう。空気もここよりはあったかいから」
障子だけではあまり温度は保てない。
この部屋も結構寒かった。
「じゃ、せーの!」
「うう、寒い……」
「ちょっとぐらい我慢しなさいよ」
「……むう」
障子を開けて、外に出る。
なかなか立派なかまくらができていた。
しかし屋根の雪はほとんどそのままだった。
何をしてたんだ萃香は。
「へぇ、やるじゃないの」
「あ、やっぱりこたつ持ってきたわね~」
「うう、手がちべたい……」
「よくこんな大きいのつくれたわね」
「冬妖怪をなめないで~、と言いたいところだけど、ほとんど萃香さんのおかげね~」
「やっぱり鬼は違うわ~♪」
「あいつはまったく……」
せめて屋根の雪をかまくらに使ってくれ。
いや、参道の雪かきも後で押しつけるつもりではいたけれど。
「よい……しょっ、と」
かまくらのなかにこたつと座布団を置く。
すぐに中に入るチルノ。
「あー、あったまるー」
「チルノはほんとに寒いの苦手ね~♪」
「ちょっと甘やかしすぎたかしら~」
「もうダメ。レティが寒いの逃がしてくれないと冬は生きていけない」
「大袈裟ね~」
首を伸ばして、かまくらの入り口から外を見てみる。
文はため息をはきつづけながら雪降ろしを続けている。
あとで何かあたたまるものつくってあげようか……
「……そういえばかまくらって白いのね」
「……霊夢、何言ってんの?」
「ついにボケたのかしら~?」
「いや、そうじゃなくて、外だから萃香を見張りながら……って思ってたんだけど、これじゃ外がよく見えないなって」
「じゃあ、あたいが何とかしてあげる!」
「……どうするのよ?」
「こうするの!」
とたんに、かまくらがみるみる透明になっていき、外も見えるようになった。
かまくらをひとつの氷にしたようだ。
氷を操る能力は伊達ではないらしい。
「おお、すごいわね、チルノ」
「へへん!あたいに感謝しなさい!」
「ありがと。はい、蜜柑いっこ」
「やった!いただきまーす!」
「チルノ、さっきから普通に蜜柑食べてなかった~?」
「何のことよ?」
「いいのいいの。変に知覚させなくて」
「やっぱり巫女はいろいろひどいわね~♪」
「何の話よう」
首をかしげるチルノにもういっこ蜜柑をあげる。
やった♪と嬉しそうにむきだすチルノ。
ひとつめにあげた蜜柑が半分余っていたので、ひょいと食べる。
幻想郷は今日も寒い。
大きく透明なかまくらは、しばらく神社に残っていそうだ。
少女綺想曲?
平和な感じがして良かったです
あれ?違ったっけ?